説明

フラーレン類の分析方法

【課題】液体クロマトグラフ質量分析装置によりフラーレン類を高感度に分析する分析方法を提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフ質量分析装置において液体クロマトグラフ部からのカラム溶出物をイオン化する方法として、大気圧下で霧化された溶出物に紫外光を照射することによってこれをイオン化する大気圧光イオン化法を用いる。この分析方法により、0.005ngのフラーレン類を定量に十分な大きさのピークとして検出することが可能であり、従来方法に比べて約100倍の検出感度が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ質量分析装置(以下、LC/MSと記す)によるフラーレン類の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレン(Fullerene)は、60個以上の炭素原子が強く結合して球状またはチューブ状に閉じたネットワーク構造を形成する分子であって、分子を構成する炭素原子数によりC60、C70、C78、C84等の種類がある。代表的なフラーレンであるC60は直径およそ0.7nmの球状分子である。
【0003】
フラーレン類の分析にはMALDI−TOF型質量分析装置やLC/MSが用いられる。LC/MSによるフラーレン類の従来の分析方法としては、大気圧化学イオン化法を用いた分析例があり(例えば、非特許文献1参照)、フラーレン類の分離に適した液体クロマトグラフ用カラムも開発されている。
【0004】
図2に従来の一般的なLC/MSの構成例を示す。
同図において、1は液体クロマトグラフ部、2はイオン化インターフェイス部、3は質量分析部である。液体クロマトグラフ部1は、移動相を送液する送液ポンプ11、移動相の流れの中に試料を導入する試料導入部12、導入された試料を各成分に分離するカラム13等で構成される。カラム13から流出する分離された試料(以下、カラム溶出物と記す)は、イオン化インターフェイス部2においてイオン化されて質量分析部3に導入され、質量分析が行われる。イオン化法としては、エレクトロスプレー法や大気圧化学イオン化法が広く用いられる。
【0005】
【非特許文献1】「島津アプリケーションニュースC23」株式会社島津製作所、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LC/MSによるフラーレン類の従来の分析方法では、例えば代表的なフラーレンC60の場合、検出下限は0.1ng程度であった。近年、生体に対するフラーレン類の毒性が問題にされるようになり、生体あるいは環境中のフラーレン類を測定する必要性が高まって来たため、より感度の高い分析法が求められているのが現状である。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、LC/MSによりフラーレン類を高感度に分析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明になる分析法では、上記課題を解決するために、LC/MSにおいて液体クロマトグラフ部のカラムからの溶出物をイオン化する方法として、大気圧下で霧化された溶出物に紫外光を照射することによってこれをイオン化する大気圧光イオン化法を用いる。
【発明の効果】
【0008】
本発明になるフラーレン類の分析方法は、上記のようにLC/MSにおけるイオン化法として大気圧光イオン化法を採用しているので、従来のエレクトロスプレー法や大気圧化学イオン化法を用いる分析方法と比較して高感度の分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供するフラーレン類の分析方法の特徴は、LC/MSにおけるイオン化法として大気圧光イオン化法を採用した点にある。従って、最良の形態の基本的な構成は、カラム溶出物に紫外光を照射することによってイオン化する工程を含むLC/MSによるフラーレン類の分析法である。
【実施例1】
【0010】
本発明方法を適用するLC/MSの全体構成は、基本的に図2に示す従来例と同様であるが、イオン化インターフェイス部2におけるイオン化法として大気圧光イオン化法を用いる点が従来の分析方法と相異する。
【0011】
図3に、公知の大気圧光イオン化インターフェイスの概略構成を示す。
同図において、21はカラム溶出物を大気圧のイオン化室25内に向けて噴霧するノズル、22は霧化されたカラム溶出物を気化するヒータ、23はカラム溶出物に紫外光を照射する紫外光源、24は紫外光によりイオン化された試料成分イオンを真空室に取り込むイオン導入部である。
大気圧光イオン化法は、このような構成を用いて液体クロマトグラフ部1から送られてくるカラム溶出物をイオン化して質量分析部3に導入する方法である。
【0012】
本発明方法は、例えば図2に示すように構成されたLC/MSに、イオン化インターフェイス部2として図3に示すような大気圧光イオン化インターフェイスを適用したLC/MSを用いて次のように行われる。
まず、送液ポンプ11によって移動相を送液し、フラーレン類を含有する試料を試料導入部12からマイクロシリンジなどを用いて導入し、カラム13へと導く。カラム13によって分離されたフラーレン類は、大気圧光イオン化インターフェイスを備えた質量分析部3に送られて検出される。
液体クロマトグラフ分析に用いられる移動相は、例えば、トルエン/メタノール混液、トルエン/2−プロパノール混液などが用いられる。
カラム13には、例えば、GeminiC18(商品名)の内径2.0mm、長さ150mmのサイズのものが用いられる。
大気圧光イオン化インターフェイスは、図3に示すような基本構成で、大気圧下で紫外光によりイオン化が可能なものである限り特に制約はなく、例えば、米国SYAGEN社製PhotoMate(商品名)などが用いられる。質量分析部3も、上記大気圧光イオン化インターフェイスが装着できるものであれば特に制約はない。
【0013】
次に、本実施例における具体的な分析条件を示す。
(1)液体クロマトグラフィ分析条件
カラム:Phenomenex社製GeminiC18、内径2.0mm、長さ150mm、粒子径5μm
分析移動相:トルエン/メタノール:60/40
移動相流量:0.2mL/min
(2)質量分析検出条件
イオン化法:大気圧光イオン化法(ネガティブイオン検出)
SIMモニターイオン:m/z720(C60)、m/z840(C70)
【0014】
本実施例方法による分析結果の一例を図1に示す。これは上記分析条件で実際に分析して得られたフラーレン類のSIMクロマトグラムである。試料は、C60およびC70の標準溶液(各5ng/mL)を1μL導入した。この結果から、0.005ngのフラーレン類が定量に十分な大きさのピークとして検出できることがわかる。検出下限は、ノイズの大きさを勘案してこの数分の1と見られるから、前述した従来方法による検出下限0.1ngと比べて約100倍の感度が得られる。
【0015】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものでなく、例えば、カラム13は上記のものに限らず、分析すべきフラーレン類を分離することができるカラム13であれば、どのようなものであってもよい。また、移動相についても、分析すべきフラーレン類がカラム13で分離されるものであれば、移動相の種類や混合比率などに制約はない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明はフラーレン類の分析に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例による分析例を示す図である。
【図2】従来の装置構成、および本発明を適用する装置構成を示す図である。
【図3】本発明を適用する装置構成の一部分を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 液体クロマトグラフ部
2 イオン化インターフェイス部
3 質量分析部
11 送液ポンプ
12 試料導入部
13 カラム
21 ノズル
22 ヒータ
23 紫外光源
24 イオン導入部
25 イオン化室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ質量分析装置を用いて行うフラーレン類の分析方法であって、大気圧下で霧化されたフラーレン類を含むカラム溶出物に紫外光を照射することによってイオン化する大気圧光イオン化法を用いることを特徴とするフラーレン類の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−14787(P2008−14787A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186049(P2006−186049)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】