説明

フリーピストン型スターリングエンジン

【課題】ディスプレーサピストンとパワーピストンの位相差を90度に調整して安定作動させることができるフリーピストン型スターリングエンジンを提供する。
【解決手段】ディスプレーサピストン4と、パワーシリンダ5内を往復動されるパワーピストン6と、該パワーピストン6から前記ディスプレーサピストン4に往復動をその位相を反転させて伝える位相反転機構7と、ディスプレーサピストン4の位相が前記パワーピストン6の位相よりも90度遅れるように調整する位相調整バネ8とを備え、前記位相反転機構7は、枠9に支点10,11を介して揺動可能に設けられた一対の単振動振り子12,13からなり、一方の単振動振り子12がパワーピストン6に連結され、他方の単振動振り子13がディスプレーサピストン4に連結され、両単振動振り子12,13が前記位相調整バネ8を介して連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーピストン型スターリングエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、車両の廃熱を外燃機関である蒸気エンジン又はスターリングエンジンを用いて回生利用するための研究が行われている。中でも、スターリングエンジンは、キネマティック型と、フリーピストン型とがあり、それぞれの得失の確認が行われている。
【0003】
図3に概略的に示すように外燃機関の一つであるキネマティック型スターリングエンジンは、一端に加熱部1を有し、且つ他端に冷却部2を有するディスプレーサシリンダ3内に往復動可能に収容され、加熱部側又は冷却部側に移動されることによりディスプレーサシリンダ3内のガスを加熱又は冷却して膨張又は収縮させるディスプレーサピストン4と、前記膨張又は収縮されたガスによりパワーシリンダ5内を往復動されるパワーピストン6とを備えている。
【0004】
そして、前記パワーピストン6の往復動を回転運動に変換すると共にパワーピストン6からディスプレーサピストン4に所定の位相差で動力の一部をフィードバックするために、パワーピストン6の下方にはクランク軸30が図示しない支持部材を介して水平に且つ軸回りに回転自在に配置されている。このクランク軸30の一方のクランクピン部30aにはパワーピストン6のコンロッド(コネクティングロッドともいう。)6aが接続され、且つ他方のクランクピン部30bにはディスプレーサピストン4のコンロッド4aが接続されている。また、クランク軸30の一端にはフライホイル31が取付けられている。前記パワーピストン6とディスプレーサピストン4の間の位相差αは90度に設定され、これによって、駆動軸であるクランク軸30の回転方向が決まっており、クランク軸30が一定の方向に回転することができる。
【0005】
一方、図4に概略的に示すようにフリーピストン型スターリングエンジンは、共通のシリンダ40内の上下にディスプレーサピストン41とパワーピストン42が往復動可能に収容され、パワーピストン42に設けられた中心孔43にディスプレーサピストン41のロッド部41aの先端部が摺動可能に嵌合されている。前記シリンダ40内において、ディスプレーサピストン41で仕切られた上部空間が膨張空間44とされ、ディスプレーサピストン41とパワーピストン42の間が圧縮空間45とされ、パワーピストン42で仕切られた下部空間がバウンズ空間46とされている。
【0006】
前記膨張空間44と圧縮空間45は、ヒータ47、再生器48及びクーラ49を介して連通されている。前記パワーピストン42のロッド部42aを介して動力が取り出される。バウンズ空間46の空気バネによって位相差が90度に保たれている。
【0007】
しかしながら、前記フリーピストン型スターリングエンジンにおいては、前記バウンズ空間46の空気バネだけでは、ディスプレーサピストン41とパワーピストン42の間の位相差を調整して安定作動させることは難しい。なお、前記位相差の調整を行うために、ディスプレーサピストン及びパワーピストンの双方に位相調整用のバネを取付けている例もある(例えば、特許文献1参照。)が、構造上、安定作動させることは難しい。また、フリーピストン型スターリングエンジンの場合、一度作ってしまうと、作動周波数の調整も難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3786959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、ディスプレーサピストンとパワーピストンの位相差を90度に調整して安定作動させることができるフリーピストン型スターリングエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、一端に加熱部を有し、且つ他端に冷却部を有するディスプレーサシリンダの内部に移動可能に収容され、加熱部側又は冷却部側に移動されることによりディスプレーサシリンダ内のガスを加熱又は冷却して膨張又は収縮させるディスプレーサピストンと、前記膨張又は収縮されたガスによりパワーシリンダ内を往復動されるパワーピストンと、該パワーピストンから前記ディスプレーサピストンに往復動をその位相を反転させて伝える位相反転機構と、ディスプレーサピストンの位相が前記パワーピストンの位相よりも90度遅れるように調整する位相調整バネとを備え、前記位相反転機構は、枠に支点を介して揺動可能に設けられた一対の単振動振り子からなり、一方の単振動振り子がパワーピストンに連結され、他方の単振動振り子がディスプレーサピストンに連結され、両単振動振り子が前記位相調整バネを介して連結されていることを特徴とする。
【0011】
前記単振動振り子は、支点から両側に延出された第1腕部及び第2腕部と、支点から下方に延出された第3腕部とを有し、前記第1腕部に前記パワーピントン又は前記ディスプレーサピストンが連結され、第2腕部にバランスウエイトが設けられ、第3腕部に重りが設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フリーピストン型スターリングエンジンにおけるディスプレーサピストンとパワーピストンの位相差を90度に調整して安定作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るフリーピストン型スターリングエンジンの一実施形態を示す図である。
【図2】パワーピストンとディスプレーサピストンの位相差を示す図である。
【図3】従来のキネマティック型スターリングエンジンを示す図である。
【図4】従来のフリーピストン型スターリングエンジンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態であるフリーピストン型スターリングエンジンは、一端に加熱部(例えば電気ヒータ)1を有し、且つ他端に冷却部(例えば水冷ジャケット)2を有するディスプレーサシリンダ3の内部に移動可能に収容され、加熱部1側又は冷却部2側に移動されることによりディスプレーサシリンダ3内のガス(例えば空気)を加熱又は冷却して膨張又は収縮させるディスプレーサピストン4と、前記膨張又は収縮されたガスによりパワーシリンダ5内を往復動されるパワーピストン6と、該パワーピストン6から前記ディスプレーサピストン4に往復動ないし力の一部をその位相を反転させてフィードバックないし伝える位相反転機構7と、ディスプレーサピストン4の位相が前記パワーピストン6の位相よりも90度遅れるように調整する位相調整バネ8とを備えている。
【0016】
前記位相反転機構7は、枠であるケース9内に支点(例えば支軸)10,11を介して揺動可能に設けられた一対の単振動振り子12,13からなっている。ケース9の上部には、前記ディスプレーサシリンダ3とパワーシリンダ5とが左右に離間してそれぞれ縦向きに設置されている。この場合、ディスプレーサシリンダ3とパワーシリンダ5のそれぞれの先端部である下端部がケース9の上部を貫通した状態で取付けられている。
【0017】
ディスプレーサシリンダ3の内周面とディスプレーサピストン4の外周面との間にはガス(例えば空気)が上下方向に流通可能な隙間14が形成され、ディスプレーサシリンダ3内の下部とパワーシリンダ5内の上部とが連通路15を介して連通されている。
【0018】
ディスプレーサピストン4はその中心から下方に突出したロッド4aを有し、このロッド4aがディスプレーサシリンダ3の下端部中央の貫通孔16を通って下方のケース9内に垂直に延出されている。前記貫通孔16には、ガスの漏出を防止するために、ロッド4aとの間を封止するブッシュ17が取付けられている。パワーピストン6はパワーシリンダ5の先端部から下方に突出したロッド6aを有し、このロッド6aの先端部が前記ケース9内に垂直(鉛直)に延出されている。
【0019】
前記単振動振り子12,13は、ケース9内に間隔を置いて立設された一対の支柱18,19に支点10,11を介してそれぞれ揺動可能に支持されている。単振動振り子12,13は、支点10,11から両側に水平に延出された第1腕部12a,13a及び第2腕部12b,13bと、支点10,11から下方に延出された第3腕部12c,13cとを有し、前記第1腕部12a,13aに前記パワーピントン6又は前記ディスプレーサピストン4が連結され、第2腕部12b,13bにバランスウエイト12d,13dが設けられ、第3腕部12c,13cに重り12e,13eが設けられている。
【0020】
図示例では、右側の単振動振り子12の右側の第1腕部12aにパワーピストン6のロッド6aの先端部が支軸12fを介して回動可能に連結され、左側の単振動振り子13の第1腕部13aにディスプレーサピストン4のロッド4aの先端部が支軸13f及び長穴13gを介して連結されている。そして、両単振動振り子12,13の第3腕部12c,13cの長手方向中間部間に前記位相調整バネ8が掛け渡されて設けられている。位相調整バネ8は、例えばコイルバネからなっている。
【0021】
前記位相調整バネ8は、パワーピストン6の単振動を維持すると共に、力の一部をディスプレーサピストン4にフィードバックする働きを持つ。パワーピストン6の単振動の周期は、主に前記単振動振り子12の第3腕部12cの長さと重り12eで決定される。ディスプレーサピストン4の単振動の周期は、主に前記単振動振り子13の第3腕部13cの長さと重り13eで決定される。
【0022】
パワーピストン6側の単振動振り子12のバランスウエイト12dは、パワーピストン6の重さと釣り合うように設定され、ディスプレーサピストン4側の単振動振り子13のバランスウエイト13dは、ディスプレーサピストン4の重さと釣り合うように設定されている。パワーピストン6は、パワーピストン6側の単振動振り子12により決定される振動周期で単振動が維持され、ディスプレーサピストン4は、ディスプレーサピストン4側の単振動振り子13により決定される振動周期で単振動が維持される。なお、前記フリーピストン型スターリングエンジンにおいては、パワーピストン6から動力が取出され、各種の動力源として利用される。
【0023】
次に、前記フリーピストン型スターリングエンジンの作用を述べる。加熱工程において、ディスプレーサシリンダ3内の上部のガスが加熱部1により加熱されると、そのガスが膨張してディスプレーサシリンダ3とディスプレーサピストン4との間の隙間14を通って下方へ移動し、連通路15を介してパワーシリンダ5内に導入され、パワーピストン6が下方に移動される。
【0024】
このパワーピストン6の力の一部がロッド6aを介してパワーピストン側の単振動振り子12に伝達され、更にこの単振動振り子12から位相調整バネ8を介して90度の位相を遅らせた状態でディスプレーサピストン4側の単振動振り子13に伝達され、このディスプレーサピストン4側の単振動振り子13からロッド4aを介してディスプレーサピストン4にフィードバックされ、ディスプレーサピストン4が上方に移動される。
【0025】
一方、冷却工程において、ディスプレーサシリンダ3内の下部のガスが冷却部2により冷却されると、そのガスが収縮し、連通路15を介してパワーシリンダ5内が負圧になり、パワーピストン6が上方に移動される。このパワーピストン6の力の一部がロッド6aを介してパワーピストン6側の単振動振り子12に伝達され、更にこの単振動振り子12から位相調整バネ8を介して90度の位相を遅らせた状態でディスプレーサピストン4側の単振動振り子13に伝達され、このディスプレーサピストン4側の単振動振り子13からロッド4aを介してディスプレーサピストン4にフィードバックされ、ディスプレーサピストン4が下方に移動される。
【0026】
この場合、図2に示すように、先ずパワーピストン6から振動系に力が入力され(w)、位相反転機構7の単振動振り子12,13により位相が180度進み(x)、位相調整バネ8の変位により位相が90度遅れる(y)ため、結果としてディスプレーサピストン4がパワーピントン6に対して90度の進み位相となる(z)。これにより、フリーピストン型スターリングエンジンでありながら、ディスプレーサピストン4とパワーピストン6の位相差を90度に調整(ディスプレーサピストン4をパワーピストン6よりも90度だけ進み位相とする)して容易に安定作動させることができる。
【0027】
振り子にした場合の利点をクランクの場合と比較すると次の通りである。クランクの場合、ピストンストロークと同じ分だけ横方向の変位が生じるため、(1)横方向の振動の発生と、(2)ピストン・シリンダ間の摩擦の増加を生じる。また、クランク軸1回転当たり、クランクピン部も1回転するため、クランクピン部の摺動速度が速い。
【0028】
これに対し、振り子にした場合、横方向の変位が小さくなるため、上記(1)及び(2)の問題が低減される。また、1往復当たりの支軸12f,13fの摺動速度が遅くなる。
【0029】
同一エンジンでも、重りの位置を変更すれば、作動周波数を変更できる。また、加熱温度に合わせたエンジンに容易に調整可能である。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 加熱部
2 冷却部
3 ディスプレーサシリンダ
4 ディスプレーサピストン
4a ロッド
5 パワーシリンダ
6 パワーピストン
6a ロッド
7 位相反転機構
8 位相調整バネ
9 ケース(枠)
10,11 支点
12,13 単振動振り子
14 隙間
15 連通路
16 貫通孔
17 ブッシュ
18,19 支柱
12a,13a 第1腕部
12b,13b 第2腕部
12c,13c 第3腕部
12d,13d バランスウエイト
12e,13e 重り
12f,13f 支軸
13g 長穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に加熱部を有し、且つ他端に冷却部を有するディスプレーサシリンダの内部に移動可能に収容され、加熱部側又は冷却部側に移動されることによりディスプレーサシリンダ内のガスを加熱又は冷却して膨張又は収縮させるディスプレーサピストンと、前記膨張又は収縮されたガスによりパワーシリンダ内を往復動されるパワーピストンと、該パワーピストンから前記ディスプレーサピストンに往復動をその位相を反転させて伝える位相反転機構と、ディスプレーサピストンの位相が前記パワーピストンの位相よりも90度遅れるように調整する位相調整バネとを備え、前記位相反転機構は、枠に支点を介して揺動可能に設けられた一対の単振動振り子からなり、一方の単振動振り子がパワーピストンに連結され、他方の単振動振り子がディスプレーサピストンに連結され、両単振動振り子が前記位相調整バネを介して連結されていることを特徴とするフリーピストン型スターリングエンジン。
【請求項2】
前記単振動振り子は、支点から両側に延出された第1腕部及び第2腕部と、支点から下方に延出された第3腕部とを有し、前記第1腕部に前記パワーピントン又は前記ディスプレーサピストンが連結され、第2腕部にバランスウエイトが設けられ、第3腕部に重りが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフリーピストン型スターリングエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1874(P2011−1874A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145293(P2009−145293)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)