説明

フルオレニルが基になった「拘束幾何」配位子を伴うIIIB族金属錯体

【課題】フルオレニル−ヘテロ原子配位子が基になりかつ周期律表のIIIb族の金属が基になった橋状半サンドイッチ型メタロセン(metallocene)成分を良好な収率で生じさせること、およびスチレンの制御重合に有効な触媒成分、ポリメタアクリル酸メチルを生じさせる能力を有する触媒成分の提供。
【解決手段】周期律表のIIIb族の金属と橋状ヘテロ原子−フルオレニル配位子が基になったメタロセン触媒成分を含む重合触媒により、スチレン、メタアクリル酸メチル等を重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周期律表のIIIb族の金属が基になった「拘束幾何触媒(constrained geometry catalyst)」系の分野に関する。本発明はまたそれらの合成およびそれらをオレフィン重合で用いることにも関する。
【背景技術】
【0002】
「拘束幾何触媒」(CGC)は、ヘテロ−二官能シクロペンタジエニル−アミド配位子を持つ半サンドイッチ型(half-sandwich)錯体である。それらは下記のいくつかの理由で多大な注目を集めている:
(1)連結しているビス(シクロペンタジエニル)配位子の中のシクロペンタジエニル部分が電子供与性がより低いアミド基に置き換わる結果としてルイス酸性度がより高いアンサ(ansa)−メタロセン様錯体が生じ、従って、ルイス塩基性基質に対して向上した触媒活性を示す可能性があること、
(2)シクロペンタジエニル環上の置換基、橋渡し原子上の置換基および側鎖が有するヘテロ原子上の置換基を適切に選択することで新規な触媒幾何形態を設計する可能性がずっと高いこと。
【0003】
III族の金属(Sc、Y、Yb、Lu)のシクロペンタジエニル−アミド錯体の合成および重合能力が、例えば非特許文献1、2、3、4または5に記述されている。
【0004】
しかしながら、そのような出版物は全部がシクロペンタジエニル−アミド配位子と組み合わせたランタニド化合物に限定されている。いずれもフルオレニル−アミド配位子の分野を取り扱っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shapiro他(P.J.Shapiro、W.D.Cotter、W.P.Schaefer、J.A.Labinger、J.E.Bercaw)、J.Am.Chem.Soc.、1994、116、4623
【非特許文献2】Hultzsch他(K.C.Hultzsch、P.Voth、K.Beckerle、T.P.Spaniol、J.Okuda)、Organometallics、2000、19、228
【非特許文献3】Tian他(S.Tian、V.M.Arredondo、C.L.Stem、T.J.Marks)、Organometallics、1999、18、2568
【非特許文献4】Mu他(Y.Mu、W.Piers、M.-A.MacDonald、M.J.Zaworotko)、Can.J.Chem.、1995、73、2233
【非特許文献5】ArndtおよびOkuda(S.Arndt、J.Okuda)、Chem.Rev.、2002、102、1953
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、フルオレニル−ヘテロ原子配位子が基になりかつ周期律表のIIIb族の金属が基になった橋状半サンドイッチ型メタロセン(metallocene)成分を良好な収率で生じさせることにある。
【0007】
本発明の別の目的は、スチレンの制御重合(controlled polymerisation)に有効な触媒成分を生じさせることにある。
本発明のさらなる目的は、ポリメタアクリル酸メチルを生じさせる能力を有する触媒成分を生じさせることにある。
【0008】
より一般的には、本発明の目的は、極性もしくは非極性単量体の制御重合に有効な触媒系を生じさせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、フルオレニルが基になった橋状拘束幾何配位子と周期律表のIIIb族の金属が基になったメタロセン触媒成分を開示するものである。
【0010】
本発明は、1番目の態様において、一般式:
[(Flu−SiR2−N−R')M(R")(L)nm (I)
[式中、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIIIb族の金属であり、SiR2はNとFlu(9位)の間に位置していてこの成分に立体剛性を与える構造ブリッジであり、ここで、各Rは、同一もしくは異なり、炭素原子数が1から20のアルキルであり、R'は水素であるか或は形態ZR$3(ここで、ZはCまたはSiでありそしてR$は炭素数が1から20のヒドロカルビルである)で表され、R"は水素または炭素原子数が1から20のヒドロカルビル(ここで、このヒドロカルビルはSi原子を1個以上含有していてもよい)またはハロゲンであり、Lは配位する溶媒であり、nは0、1または2であり、そしてmは1または2である]
で表されるメタロセン触媒成分を開示する。
【0011】
フルオレニル上の置換基には特に制限はなく、それらは同じもしくは異なってもよく、この上で定義した如き形態ZR$3で表され、それらには、特に、炭素原子数が1から20のヒドロカルビルが含まれる。それらは、好適には3位と6位にか、4位と5位にか、或は2位と7位に位置し、より好適には、それらは同じである。
【0012】
Mは、好適には、イットリウム、ランタンまたはランタニド系列の一員である。本説明の全体に渡って、用語「ランタニド系列」は、原子番号が58から71の希土類系列の元素を意味する。ランタニド系列の中のMは好適にはネオジム、サマリウムである。より好適には、Mはイットリウムである。
Nは、好適には置換されており、より好適には、その置換基はt−ブチルである。
【0013】
R"は、好適には水素またはアルキルまたはアリールまたはアリルまたはハロゲンであり、R"がアルキルまたはアリールまたはアリルの時にはmは1であり、R"が水素またはハロゲンの時にはmは2である。R"がハロゲンの時、それは好適にはCl、IまたはBrである。
【0014】
前記配位する溶媒は、典型的にはエーテル、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエーテル(DME)またはジエチルオキサイド(Et2O)などである。
【0015】
R"がハロゲンであるタイプ(I)の化合物が重合で活性を示すようにするには、それに最初に適切な反応体によるアルキル置換を受けさせておく必要がある。典型的な反応体はLiR*、R*MgX、MgR*2、AlR*3、AlR*n3-n、[Li]+[AlR*n3-n-およびメチルアルモキサン(methylalumoxane)(MAO)から選択可能であり、ここで、R*は、炭素原子数が1から20のアルキル、アリールまたはアリルであり、そしてXはハロゲン、好適にはClである。このリストは限定として見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】分子[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)の結晶構造を示す図。
【図2】錯体[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)が25℃のC66中で示した1H NMRスペクトルを示す図。
【図3】錯体[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)が25℃のC66中で示した13C NMRスペクトルを示す図。
【図4】錯体[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)が−70℃のC66中で示した1H NMRスペクトルを示す図。
【図5】錯体[{(tBu2−C136)−SiMe2−NtBu}2Y]-[Li(THF)4+(2)が25℃のTHF−d8中で示した1H NMRスペクトルを示す図。
【図6】錯体[{(tBu2−C136)−SiMe2−NtBu}2Y]-[Li(THF)4+(2)が25℃のTHF−d8中で示した13C NMRスペクトルを示す図。
【図7】分子[{3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu}2La]-[Li(OEt22+(4)の結晶構造を示す図。
【図8】分子[(3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu)Nd(μ−Cl)(THF)]2(5)の結晶構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、2番目の態様において、一般式:
[(Flu−SiR2−N−R')2M]-[Q(L)p+ (II)
[式中、記号は全部式(I)で定義した通りであり、Qはアルカリ、アルカリ土類または周期律表のIIIa族の金属であり、そしてpは2から4である]
で表されるメタロセン触媒成分を開示する。
【0018】
Qは、好適にはLi、Na、MgまたはAlである。
【0019】
錯体IIの中のイオン対が完全に解離している場合のpは4であり、そしてイオン対がある程度会合している場合のpは2または3である。
【0020】
本発明は、触媒成分(I)または(II)を生じさせるに適した塩複分解反応方法が基になった1番目の方法を開示し、この方法は、
a)MX3(THF)nをエーテルに入れて懸濁させ、
b)脱プロトン化ジリチウム塩[Flu−SiR2−N−R']Li2を同じまたは別のエーテルに入れて懸濁させ、
c)懸濁液a)とb)の塩複分解反応を−80℃から60℃の温度で実施し、
d)c)で得た粗生成物から揮発物を蒸発させた後にエーテルまたはエーテルと炭化水素の混合物を用いて再結晶化を−60から−0℃の温度で行い、
e)式(I)または(II)の結晶性粉末を回収する、
段階を含んで成る。
【0021】
本発明の別の態様では、錯体(I)のR"がハロゲンの場合、アルキル化剤によるアルキル置換を受けさせる追加的段階を含めて、R"がこの上で定義した如きヒドロカルビルである錯体(I)を生じさせてもよい。
【0022】
適切なアルキル化剤は、LiR+、R+MgX、MgR+2、AlR+3、AlR+n3-nおよび[Li]+[AlR+n3-n-から選択可能であり、ここで、R+は、炭素原子数が1から20のアルキル、アリールまたはアリルであり、そしてXはハロゲン、好適にはClである。
【0023】
本発明は、特に触媒成分:
[(Flu−SiR2−N−R')M(R")(L)nm (I)
[式中、R"は、特に、炭素原子数が1から20のヒドロカルビル(ここで、このヒドロカルビルはSi原子を1個以上含有していてもよい)である]
を生じさせるに適したアルカン除去反応が基になった2番目の方法を開示し、この方法は、トリスカルビル錯体M(R")3(L)n(前以て合成しておくか或はインサイチュ(in situ)で生じさせる)を1当量のジプロテオ(diproteo)配位子(FluH−SiR2−NH−R')と反応させる段階を含んで成る。
【0024】
前記トリスカルビル錯体M(R")3(L)nを、好適には、MCl3(THF)nと3当量のLiR"の反応生成物としてインサイチュで生じさせる。錯体(I)を生じさせるに適した反応温度は0℃から75℃以下、好適には40から50℃である。本明細書の上に記述した2番目の調製方法において、Mは好適にはイットリウムであり、そしてブリッジSiR2は好適にはジアルキルシリルである。
【0025】
前記2方法に、錯体:
[(Flu−SiR2−N−R')M(H)(L)nm (I')
を生じさせる目的でカルビル錯体(I)に水素添加分解(hydrogenolising)を受けさせる追加的段階を含めてもよい。
【0026】
適切な水素添加分解剤は、二水素(dihydrogen)またはヒドロシラン、例えばフェニルシランなどから選択可能である。この反応を好適には大気圧下で約25℃の室温の炭化水素溶媒、例えばベンゼンまたはトルエンなど中で実施する。その反応生成物は極性溶媒(エーテル)にも非極性(炭化水素)溶媒にも不溶である。
【0027】
本発明は、更に、式(I)および/または(II)で表される触媒成分のいずれか1種以上と適切な活性化剤および/または移動剤(transfer agent)が基になった触媒系も開示する。
【0028】
本発明は、
a)式(I)および/または(II)で表される触媒成分のいずれか1種以上が基になった触媒系を反応槽に導入し、
b)場合により、活性化剤または移動剤を反応槽に導入してもよく、
c)単量体および任意の共重合用単量体を供給し、
d)系を重合条件下に維持し、
e)所望重合体を回収する、
段階を含んで成る重合方法を開示する。
【0029】
任意の活性化剤には、イオン化作用を有しかつ配位能力が低いか或は配位能力を持たないルイス酸が含まれる。典型的には、周期律表のIV族の金属が用いられている活性化剤の全部を本発明で用いることができる。アルミニウムを含有する適切な活性化剤にはアルモキサンまたはアルキルアルミニウムまたはアルキルアルミネート[Li]+[AlR*n3-n-が含まれる。
【0030】
本発明で使用可能なアルモキサンは良く知られており、それには、好適には、オリゴマー状の線状アルモキサンの場合には式(III):
【0031】
【化1】

【0032】
で表されそしてオリゴマー状の環状アルモキサンの場合には式(IV):
【0033】
【化2】

【0034】
で表されるオリゴマー状の線状および/または環状アルキルアルモキサンが含まれ、ここで、nは1−40、好適には10−20であり、mは3−40、好適には3−20であり、そしてRはC1−C8アルキル基、好適にはメチルである。アルモキサンを例えばトリメチルアルミニウムと水から生じさせた時に得られるのは、一般に、線状化合物と環状化合物の混合物である。
【0035】
適切なホウ素含有活性化剤には、ホウ素酸トリフェニルカルベニウム、例えばヨーロッパ特許出願公開第0427696号に記述されている如きテトラキス−ペンタフルオロフェニル−ボラト−トリフェニルカルベニウム:
【0036】
【化3】

【0037】
またはヨーロッパ特許出願公開第0277004号(6頁の30行から7頁の7行)に記述されている如き下記の一般式:
【0038】
【化4】

【0039】
で表されるそれらなどが含まれ得る。
【0040】
他の好適な活性化剤には、ヒドロキシイソブチルアルミニウムおよび金属アルミノキシネート(aluminoxinate)が含まれる。
【0041】
また、タイプMgR=2(ここで、各R=は、同一もしくは異なり、炭素原子数が1から20のヒドロカルビルであり、これは場合によりSi原子を1個含有していてもよい)のアルキル化剤を活性化剤として用いることも可能である。
【0042】
前記移動剤には、例えばH2および式HSiR・・・・・・・3(ここで、各R・・・・・・・は、同一もしくは異なり、H原子、または炭素原子数が1から20のヒドロカルビルのいずれかである)で表されるヒドロシランが含まれる。それらを重合させるべき単量体に応じて選択する。
【0043】
本発明で使用可能な単量体には、非極性単量体、例えばエチレン、アルファ−オレフィン、スチレンなど、および極性単量体、例えば(メタ)アクリレートまたはジエンなどが含まれる。好適には、スチレンおよびメタアクリル酸メチルを用いた。
【0044】
本発明の触媒系は如何なる種類の単独重合方法にも共重合方法にも使用可能であるが、但し必要な触媒活性が悪化しないことを条件とする。本発明の好適な態様では、本触媒系を塊状重合方法または溶液重合方法(これは均一である)またはスラリー方法(これは不均一である)で用いる。溶液方法の場合の典型的な溶媒には、THF、または炭素原子数が4から7の炭化水素、例えばヘプタン、トルエンまたはシクロヘキサンなどが含まれる。スラリー方法の場合には触媒系を不活性な支持体、特に多孔質固体状支持体、例えばタルク、無機酸化物など、および樹脂状支持体材料、例えばポリオレフィンなどに固定しておく必要がある。そのような支持体材料は好適には微細形態の無機酸化物である。
【0045】
本発明に従って望ましく用いる適切な無機酸化物材料には、IIA、IIIA、IVAまたはIVB族の金属の酸化物、例えばシリカ、アルミナおよびこれらの混合物などが含まれる。単独でか或はシリカまたはアルミナとの組み合わせのいずれかで使用可能な他の無機酸化物はマグネシア、チタニア、ジルコニアなどである。しかしながら、他の適切な支持体材料、例えば微細な官能化ポリオレフィン、例えば微細なポリエチレンなどを用いることも可能である。
【0046】
そのような支持体は、好適には、表面積が200−700m2/gで細孔容積が0.5−3ml/gのシリカである支持体である。
【0047】
重合温度は−20℃から100℃の範囲である。
【0048】
本発明は、また、本明細書の上に記述した触媒成分の存在下の重合で入手可能な重合体も包含する。
【実施例】
【0049】
[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)の合成
(a)NMR規模の反応:テフロン(登録商標)製弁を取り付けておいたNMR管にY[CH2SiMe3)]3(THF)2(32.4mg、0.065ミリモル)および3,6−ジ−tBu−C136H−SiMe2−NHtBu(26.7mg、0.065ミリモル)を仕込みベンゼン−d6(〜0.6mL)を−196℃で凝縮させた。この管を弁でふさいで(stopped)室温になるまで加熱した。反応の進行を定期的に1H NMR分光測定で監視した。
(b)製造規模の反応:無水YCl3(338mg、1.73ミリモル)をTHF(15mL)に入れてスラリー状にして80℃で1時間撹拌した。溶媒を真空下で除去した後、固体状残留物をペンタン(20mL)に入れて懸濁させた。その懸濁液を−78℃に冷却し、LiCH2SiMe3の溶液(ペンタン中1Mの溶液を5.2mL、5.2ミリモル)を加えた後の懸濁液を0℃で2時間撹拌した。この懸濁液を濾過した後、白色固体にペンタン(2x10mL)を用いた抽出を受けさせた。LiClを濾別した後、3,6−ジ−tBu−C136H−SiMe2−NHtBu(578mg、1.42ミリモル)のペンタン(30mL)溶液を0℃で加えた。この反応混合物を室温になるまで温めて30時間撹拌した。この溶液を濾過した後、真空下で濃縮した。その粗生成物は[C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)(0.63g、68%)であった。錯体(1)の1H NMRスペクトルを図2に示し、これは下記の結果を与えた:
(ベンゼン−d6、200MHz、25℃):δ 8.34(d、2H、4HH=2.0Hz、4,5−H)、7.97(d、2H、3HH=8.3Hz、1,8−H)、7.57(dd、2H、JHH=2.0、8.3Hz、2,7−H)、3.0(m、8H、α−CH2、THF)、1.61(s、9H、NCCH3)、1.50(s、18H、CCH3(Flu))、1.17(m、8H、β−CH2、THF)、0.78(s、6H、SiCH3)、0.00(s、9H、CH2SiCH3)、−0.89(d、JYH=3.3Hz、2H、YCH2)。
錯体(1)の13C NMRを図3に示し、これは下記の結果を与えた:(ベンゼン−d6、75MHz、25℃):
δ 140.7、139.4、130.3、123.9、117.8、116.7、115.5(C−1、−2、−3、−4、−5、−6、−7、−8)、82.2(C−9)、69.7(α−THF)、54.3(NCCH3)、36.4(NCCH3)、34.7(Flu−CCH3)、32.3(Flu−CCH3)、30.2(d、1J(Y,C)=45.2Hz、YCH2)、25.1(β−THF)、6.2(SiCH3)、4.6(CH2SiCH3)。
錯体(1)の1H NMRスペクトル(ベンゼン−d6、200MHz、−70℃)を図3に示す。このように、NMR分光測定により、NMRの時間的尺度で錯体(1)は25℃のベンゼン中では対称的であるが、温度が−30℃未満の時には非対称的であると思われることが分かる。
【0050】
錯体(1)の単結晶にX線回折研究の結果、フルオレニル部分が通常ではない環外η3様式[これには中心環(C(9A))のブリッジ頭炭素原子と1個の6員環が有する隣接する2個の炭素原子(C(9)、C(1))が関与している]で結合していることが分かったが、ここでは、炭素原子に図1[これに分子(1)の構造を示す]に示す如き番号を付ける。分子(1)の場合には、Hultzsch他(K.C.Hultzsch、 P.Voth、 K.Beckerle、 T.P.Spaniol、 J.Okuda; Organometallics、 2000、 19、 228)に記述されている溶媒が1分子配位している14電子[η5:η1−C5Me4−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)錯体と比べた時に、金属原子1個当たりに2個のTHF分子が配位している。また、分子(1)は形式的には14電子錯体であると見なすこともでき、イットリウム原子の配位数は6である。配位している両方のTHF配位子はX線データによれば等価ではなく、2つのY−O距離の間の差は0.05Åであり、このことは、解離過程に関与しているのは一方のTHF分子である可能性があることを示唆している。
【0051】
[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Li2とYCl3(THF)nの間の塩複分解反応。[{(tBu2−C136)−SiMe2−NtBu}2Y]-[Li(THF)4+(2)の調製
tBu2−C136H−SiMe2−NHtBu(108mg、0.265ミリモル)の−10℃のジエチルエーテル(20mL)溶液を激しく撹拌しながらこれに2当量のnBuLi(ヘキサン中1.6M溶液を0.33mL、0.530ミリモル)を加えた。この反応混合物を周囲温度になるまで温めて8時間撹拌した。その結果として生じたジリチウム塩がエーテルに入っているオレンジ色の溶液を−20℃に冷却して、これに、YCl3とTHFの付加体(YCl3を52.0mg、即ち0.265ミリモル用いて調製)をエーテル(30mL)に入れることで生じさせた懸濁液を加えた。この混合物を激しく撹拌しながら室温になるまで温めると、30−40分後に色が黄色に変わった。この黄色溶液を沈澱物から傾斜法で取り出し、揮発物を真空下で除去した後、その結果として得た残留物をペンタン(2x20mL)で洗浄することで黄色の粉末(101.2mg)を得た。粗錯体(2)の1H NMRスペクトルは溶液中に2種類の生成物が存在することを示しており、下記の結果を与えた:(THF−d8、200MHz、25℃):
1番目の生成物:δ 7.90(d、2H、4HH=2.1Hz、4,5−H)、7.69(d、2H、3HH=8.6Hz、1,8−H)、6.90(dd、2H、JHH=2.1、8.6Hz、2,7−H)、1.36(s、18H、CCH3(Flu))、1.20(s、9H、NCCH3)、0.38(s、6H、SiCH3);
2番目の生成物:δ 7.83(d、2H、4HH=2.1Hz、4,5−H)、7.54(d、2H、3HH=8.6Hz、1,8−H)、6.84(dd、2H、JHH=2.1、8.6Hz、2,7−H)、1.35(s、18H、CCH3(Flu))、1.11(s、9H、NCCH3)、0.40(s、6H、SiCH3)。
この粗生成物をEt2O:THF:ペンタン(〜0.5:1:3)から再結晶化させることで黄色結晶(88.2mg、55%)を得た。再結晶化させた錯体(2)の1H NMRを図5に示し、これは単一種の存在を示す下記の結果を与えた:(THF−d8、300MHz、25℃):
δ 7.94(d、2H、4HH=1.8Hz、4,5−H)、7.72(d、2H、3HH=8.3Hz、1,8−H)、7.13(dd、2H、JHH=1.8、8.3Hz、2,7−H)、1.43(s、9H、NCCH3)、1.36(s、18H、CCH3(Flu))、0.27(s、6H、SiCH3)。
錯体(2)の13C NMRスペクトルを図6に示し、これは下記の結果を与えた:(THF−d8、75MHz、25℃):
δ 144.6、137.8、133.7、121.1(C−1、−8)、120.0(C−2、−7)、115.5(C−4、−5)、79.0(C−9)、54.7(NCCH3)、36.9(NCCH3)、35.4(Flu−CCH3)、33.2(Flu−CCH3)、6.2(SiCH3)。
【0052】
[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Li2とLaCl3(THF)nの間の塩複分解反応。[{(tBu2−C136)−SiMe2−NtBu}2La]-[Li(THF)4+(3)の調製
LaCl3とTHFの付加体(LaCl3を186mg、即ち0.758ミリモル用いて調製)およびtBu2−C136H−SiMe2−NHtBu(310mg、0.760ミリモル)を用いてこの上に記述した手順と同じ手順で黄色微結晶性固体(440mg)を得た。粗錯体のNMRは溶液中に2種類の生成物が存在することを示しており、下記の結果を与えた。1H NMR(THF−d8、200MHz、25℃):
1番目の生成物:δ 7.93(d、2H、4HH=2.0Hz、4,5−H)、7.73(dd、2H、JHH=0.5、8.6Hz、1,8−H)、6.94(dd、2H、JHH=2.1、8.6Hz、2,7−H)、1.41(s、18H、CCH3(Flu))、1.25(s、9H、NCCH3)、0.43(s、6H、SiCH3);2番目の生成物:δ 7.83(m、2H、4HH=2.1Hz、4,5−H)、7.54(d、2H、JHH=8.6Hz、1,8−H)、6.84(dd、2H、JHH=2.1、8.6Hz、2,7−H)、1.35(s、18H、CCH3(Flu))、1.16(s、9H、NCCH3)、0.45(s、6H、SiCH3)。
この粗生成物をTHF−ペンタン(〜1:4)混合物から再結晶化させることで淡オレンジ色結晶(0.38g、77%)を得た。再結晶化させた錯体のNMRは溶液の中に単一種が存在することを示し、これは下記の結果を与えた。1H NMR(図5)(THF−d8、300MHz、25℃):
δ 7.82(d、2H、4HH=1.8Hz、4,5−H)、7.53(d、2H、3HH=8.2Hz、1,8−H)、6.84(dd、2H、JHH=1.8、8.2Hz、2,7−H)、1.35(s、18H、CCH3(Flu))、1.19(s、18H、NCCH3))、0.39(s、6H、SiCH3)。13C NMR(THF−d8、75MHz、25℃):δ 144.4、131.4、127.7、119.5(C−1、−8)、118.5(C−2、−7)、114.9(C−4、−5)、84.4(C−9)、50.7(NCCH3)、35.5(Flu−CCH3)、35.4(NCCH3)、34.1(Flu−CCH3)、6.9(SiCH3)。
分析:C7011024LiSi2Laに関して計算した値:C、67.49;H、8.90;N、2.25。
測定値:C、67.31;H、8.37;N、2.40。
【0053】
[{tBu2−C136−SiMe2−NtBu}2La]-[Li(Et2O)2
+(4)の合成
tBu2−C136H−SiMe2−NHtBu(340mg、0.834ミリモル)の−10℃のをジエチルエーテル(30mL)溶液を激しく撹拌しながらこれに2当量のnBuLi(ヘキサン中1.6Mの溶液を1.0mL、1.66ミリモル)を加えた。この反応混合物を周囲温度になるまで温めて8時間撹拌した。その結果として生じたジリチウム塩がエーテルに入っているオレンジ色の溶液をグローブボックス内で−35℃に冷却して、これにLaCl3(THF)1.5粉末(295mg、0.834ミリモル)を加えた。この混合物を激しく撹拌しながら室温になるまで温めると、20分後に色がオレンジ−黄色に変わった。この黄色溶液を沈澱物から傾斜法で取り出した後、真空下で濃縮した。そのエーテル溶液にヘキサン(約2−3mL)を加えるとオレンジ−黄色結晶が成長し始めて、次の10時間で分子(4)の微結晶を得た(0.30g、33%)。
1H NMR(THF−d8、200MHz、60℃):δ 7.79(d、4H、4HH=2.0Hz、4,5−H)、7.25(d、4H、JHH=8.4Hz、1,8−H)、7.00(dd、4H、JHH=2.0、8.4Hz、2,7−H)、3.36(q、8H、CH2OCH3)、1.51(s、18H、NCCH3)、1.36(s、36H、CCH3(Flu))、1.08(t、12H、CH2OCH3)、0.17(s、12H、SiCH3)。
【0054】
[{tBu2−C136−SiMe2−NtBu}Nd(μ−Cl)(THF)]2(5)の合成
NdCl3とTHFの付加体(NdCl3を156mg、即ち0.623ミリモル用いて調製)およびtBu2−C136H−SiMe2−NHtBu(255mg、0.623ミリモル)を用いてこの上に記述した手順と同様な手順を実施することで分子(5)を黄色微結晶性固体(0.45g、77%)として得た。反応混合物をEt2O−ヘキサン混合物から結晶化させることでX線回折に適した分子(5)の緑色結晶を得た(0.15g、26%)。
【0055】
Y水素化物(6)を生じさせるための[3,6−ジ−tBu−C136−SiMe2−NtBu]Y(CH2SiMe3)(THF)2(1)とPhSiH3またはH2との反応
方法A
[C138−SiMe2−NtBu]Y(CH2TMS)(THF)2(0.100g、0.137ミリモル)の25℃のベンゼン(5mL)溶液にフェニルシラン(85μL、0.688ミリモル)を加えた。この温度で前記混合物を1時間撹拌した。生じた黄色沈澱物を濾過し、ベンゼン(2mL)で洗浄した後、真空下で乾燥させることで、THFおよび炭化水素に不溶な淡黄色の微結晶性生成物を0.070g得た。
方法B
[C138−SiMe2−NtBu]Y(CH2TMS)(THF)2(0.125g、0.172ミリモル)のベンゼン(5mL)溶液を水素雰囲気(1気圧、25℃)に12時間さらした後、同様な処理を行うことで、不溶な淡黄色生成物を30mg得た。
重合
錯体(1)、(2)および(6)を用いてメタアクリル酸メチル(MMA)の重合およびスチレンの重合を実施した。錯体(1)および(2)は本明細書の上に開示した如く調製した錯体であった。錯体(6)はY水素化物錯体である。錯体(2)は多量のMMAと室温および50℃で滑らかに反応して狭い分子量分布(MWD)を示すアタクティックPMMAをもたらした。分子量分布は数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比率Mw/Mnである多分散指数Dで定義される。アルキル錯体(1)がMMAの重合およびスチレンの重合を開始させる速度は遅い。重合の結果を表Iに示す。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレニルが基になった橋状拘束幾何配位子と周期律表のIIIb族の金属が基になったメタロセン触媒成分。
【請求項2】
一般式すなわち、
[(Flu−SiR2−N−R')M(R")(L)nm (I)
[式中、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIIIb族の金属であり、SiR2はNとFlu(9位)の間に位置していて該成分に立体剛性を与える構造ブリッジであり、ここで、各Rは、同一もしくは異なり、炭素原子数が1から20のアルキルであり、R'は水素であるか或は形態ZR$3(ここで、ZはCまたはSiでありそしてR$は炭素数が1から20のヒドロカルビルである)で表され、R"は水素または炭素原子数が1から20のヒドロカルビル(ここで、このヒドロカルビルはSi原子を1個以上含有していてもよい)またはハロゲンであり、Lは配位する溶媒であり、nは0、1または2であり、そしてmは1または2である]
で表される請求項1記載のメタロセン触媒成分。
【請求項3】
R"が水素またはアルキルまたはアリールまたはアリルから選択される請求項2記載のメタロセン触媒成分。
【請求項4】
R"がハロゲンである請求項2記載のメタロセン触媒成分。
【請求項5】
一般式:
[(Flu−SiR2−N−R')2M]-[Q(L)p+ (II)
[式中、Fluは置換もしくは未置換のフルオレニルであり、Mは周期律表のIIIb族の金属であり、SiR2はNとFlu(9位)の間に位置していて該成分に立体剛性を与える構造ブリッジであり、ここで、各Rは、同一もしくは異なり、炭素原子数が1から20のアルキルであり、R'は水素であるか或は形態ZR$3(ここで、ZはCまたはSiでありそしてR$は炭素数が1から20のヒドロカルビルである)で表され、Lは配位する溶媒であり、Qはアルカリ、アルカリ土類または周期律表のIIIa族の金属であり、そしてpは2から4である]
で表される請求項1記載のメタロセン触媒成分。
【請求項6】
Mがイットリウム、ランタンまたはランタニド系列(原子番号が58から71の元素)の一員である請求項2から5のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分。
【請求項7】
Mがイットリウム、ランタンまたはネオジムである請求項6記載のメタロセン触媒成分。
【請求項8】
フルオレニル上の置換基が同じで炭素原子数が1から20のヒドロカルビルである請求項2から7のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分。
【請求項9】
Nが置換されていて置換基がt−ブチルである請求項2から8のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分。
【請求項10】
QがLi、Na、MgまたはAlから選択される請求項5から9のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分を生じさせる方法であって、塩複分解反応が基になった方法。
【請求項12】
a)MX3(THF)nをエーテルに入れて懸濁させ、
b)脱プロトン化ジリチウム塩[Flu−SiR2−N−R']Li2を同じまたは別のエーテルに入れて懸濁させ、
c)懸濁液a)とb)の塩複分解反応を−80℃から60℃の温度で実施し、
d)c)で得た粗生成物から揮発物を蒸発させた後にエーテルまたはエーテルと炭化水素の混合物を用いて再結晶化を−60から−0℃の温度で行い、
e)式(I)または(II)の結晶性粉末を回収する、
段階を含んで成る請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項2記載のメタロセン触媒成分を生じさせる方法であって、アルカン除去反応が基になった方法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか1項記載のメタロセン触媒成分と活性化剤および/または移動剤から作られたメタロセン触媒系。
【請求項15】
重合方法であって、
a)式(I)および/または(II)で表される触媒成分のいずれか1種以上が基になった触媒系を反応槽に導入し、
b)場合により、活性化剤および/または移動剤を反応槽に導入してもよく、
c)単量体および任意の共重合用単量体を供給し、
d)系を重合条件下に維持し、
e)所望重合体を回収する、
段階を含んで成る方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法で入手可能な重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−252165(P2011−252165A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178891(P2011−178891)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【分割の表示】特願2006−504593(P2006−504593)の分割
【原出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】