説明

フルオレンポリエステルオリゴマー及びその製造方法

【課題】フルオレンポリエステルオリゴマー及びその高収率かつ簡便な製造方法に関する。
【解決手段】フルオレン骨格(例えば、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有するジオールとジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分を他方の成分に対して過剰モル仕込んだ反応系に、塩基を加えて、両成分を縮合反応させることで、フルオレンポリエステルオリゴマーを製造することができる。この方法で製造されたフルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて、ポリスチレン換算で、5000未満であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(例えば、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有するポリエステルオリゴマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのフルオレン骨格を有する化合物は、高屈折率及び低複屈折率の特性を有し、光学材料などへの用途展開が期待されている。このようなフルオレン骨格を有する化合物は、具体的には、重合成分(ジオール成分など)として用いることにより樹脂(ポリエステルなど)の骨格に直接導入したり、樹脂に添加剤として添加するなどの形態での使用が検討されている。しかし、このような使用形態においては、例えば、フルオレン骨格を有する化合物については樹脂に対する相溶性、フルオレン骨格を有する化合物を重合成分とする樹脂についてはその剛直な骨格による取扱性の低さなどの点で、改良すべき課題があった。
【0003】
そこで、フルオレン骨格を有する化合物をオリゴマー化し、用途展開することも期待される。しかし、フルオレン骨格を有するオリゴマーを樹脂材料などとして利用することは未だ試みられておらず、その製造方法さえ確立されていない。
【0004】
なお、特開2005−187661号公報(特許文献1)には、フルオレン骨格を有する化合物で構成された樹脂成分と硫黄含有化合物とで構成された樹脂が開示されている。この文献には、フルオレン骨格を有する化合物で構成された樹脂成分として、重量平均分子量(ポリスチレン換算)が100〜50×10の飽和又は不飽和ポリエステル樹脂が開示されている。このように、この文献では、不飽和ポリエステル樹脂の分子量を含む非常に広い範囲でポリエステル樹脂の分子量が記載されている。しかし、実施例において、重量平均分子量51000のフルオレンポリエステルが使用されていることなどからも明らかなように、この文献では、オリゴマー領域の飽和ポリエステルの使用を想定しておらず、このような低分子量の飽和ポリエステルを製造する方法についても何ら記載されていない。
【0005】
また、特開2009−173844号公報(特許文献2)には、フルオレン含有ポリエステルを解重合剤で解重合し、より低分子量化したポリマーを得る方法が開示されている。そして、この文献では、このような解重合により得られるポリマーについて、フルオレン系ポリエステルオリゴマーと称している。しかし、この解重合後のポリマーの重量平均分子量は、最も低分子量化したものでもせいぜい6000であり、この文献でも、オリゴマーと称するほど低分子量化したポリマーを得ることを想定していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−187661号公報(特許請求の範囲、段落番号[0078][0079]、実施例)
【特許文献2】特開2009−173844号公報(特許請求の範囲、段落番号[0047]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、新規なフルオレンポリエステルオリゴマー及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、フルオレンポリエステルオリゴマーを効率よく確実に製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、フルオレンポリエステルオリゴマーを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂を製造する方法のうち、特に酸ハライド法を選択するとともに、この酸ハライド法において、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドを用い、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分が他方の成分に対して過剰モル存在する反応系に塩基を加えて、両成分を縮合させることにより、フルオレンポリエステルオリゴマーを効率よく製造できることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のフルオレンポリエステルオリゴマーの製造方法では、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分が他方の成分に対して過剰モル存在する反応系に塩基を加え、両成分を縮合させる。
【0012】
本発明の方法で製造されるフルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、5000未満であってもよい。
【0013】
前記反応系において、一方の成分(例えば、フルオレン骨格を有するジオール)の割合が、他方の成分(例えば、ジカルボン酸ジハライド)1モルに対して、1.2〜3モル程度であってもよい。
【0014】
また、本発明の製造方法では、反応系に塩基を連続的又は間欠的に添加して縮合させてもよい。そして、加える塩基の総量は、他方の成分(例えば、ジカルボン酸ジハライド)1モルに対して2モル当量以上(例えば、2〜20モル当量程度)であってもよい。さらに、塩基は第三級アミンであってもよい。
【0015】
本発明では、特に、ジカルボン酸ジハライド(例えば、芳香族ジカルボン酸ジハライド及び脂環族ジカルボン酸ジハライドから選択された少なくとも一種のジカルボン酸ジハライド)1モルに対して、下記式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、n及びpは0以上の整数である。)
で表される化合物を1.2〜3モルの割合で含む反応系に第三級アミンを滴下し、両成分を縮合させて、下記式(2)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Aは前記ジカルボン酸ジハライドの残基(例えば、芳香族炭化水素環などの芳香環、脂環族炭化水素環など)を示し、mは1以上(例えば、1〜10)の整数を示し、Z、R、R、R、k、n及びpは前記と同じ。)
で表されるオリゴマーを製造してもよい。
【0020】
本発明には、フルオレン骨格を有するジオールとジカルボン酸ジハライドとが縮合したフルオレンポリエステルオリゴマーも含まれる。フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて、ポリスチレン換算で、5000未満(例えば、800〜3000程度)であってもよい。フルオレンポリエステルオリゴマーの多分散度は5以下{例えば1.15〜5(例えば1.2〜2程度)}程度であってもよい。このようなフルオレンポリエステルオリゴマーの製造方法は、特に限定されないが、効率よく簡便に製造する点から、前記方法が好ましい。
【0021】
なお、本明細書において、フルオレンポリエステルオリゴマーとは、前記ジオールとジカルボン酸ジハライドとの縮合により得られるオリゴマー(エステルオリゴマー、ポリエステルオリゴマー)を意味する。また、本明細書において、「重合度」とは、フルオレン骨格を有するジオール成分及びジカルボン酸ジハライド成分が縮合して生成したエステル結合の総数、すなわち、単量体(フルオレンポリエステルオリゴマーを形成するジカルボン酸単位及びジオール単位)の総数から1を引いた数を意味する。例えば、前記式(2)の場合、重合度は2mとなる。さらに、本明細書において、「ジカルボン酸ジハライドの残基」とは、ジカルボン酸ジハライドからハロカルボニル基を除いた基を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法により、フルオレンポリエステルオリゴマーを製造することができる。特に、本発明では、フルオレンポリエステルオリゴマーを効率よく確実に製造できる。また、本発明の方法では、ジオールとジカルボン酸ジハライドとを含む反応系に塩基を混合するだけで、フルオレンポリエステルオリゴマーを簡便に製造できる。さらに、フルオレンポリエステルオリゴマーは、例えば、新規な樹脂原料や樹脂用添加剤として用いることができ、光学材料などへの適用が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の製造方法は、フルオレン骨格を有するジオールとジカルボン酸ジハライドとを原料成分として、両成分を縮合させる方法である。
【0024】
[フルオレン骨格を有するジオール]
フルオレン骨格を有するジオールはフルオレン骨格を有する限り、その構造は特に限定されないが、代表的には前記式(1)で表される化合物などが挙げられる。このような化合物は、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有しているため、耐熱性や優れた光学特性(高屈折率、低複屈折率など)を付与する点で有用である。
【0025】
前記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。好ましい環Zは、ベンゼン環及びナフタレン環(特にベンゼン環)を含む。
【0026】
前記式(1)において、基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に置換する基Rの結合位置(置換位置)は特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていても良い。
【0027】
また、前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。なお、2つの芳香族炭化水素環において、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0028】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)nは、例えば、0〜15(例えば、0〜10)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、0〜6)、好ましくは0〜4、さらに好ましくは0〜2、特に0又は1であってもよい。
【0029】
また、前記式(1)において、ヒドロキシル基含有基の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な位置に置換していればよい。例えば、ヒドロキシル基含有基は、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位、(例えば、フェニル基の3位、4位など)に置換していればよく、好ましくは少なくとも4位に置換していてもよい。また、ヒドロキシル基含有基は、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
【0030】
環Zに置換する置換基Rとしては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基);アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロヘキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0031】
なお、同一の環Zにおいて、pが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数pは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば1〜3)、さらに好ましくは0〜2、特に0〜1(例えば、0)であってもよい。なお、複数の環Zにおいて、置換数pは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0032】
具体的な前記式(1)で表される化合物には、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類などが含まれる。
【0033】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類(前記式(1)において、nが0である化合物)としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(環Zがベンゼン環である化合物){例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−モノ又はジC1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−モノ又はジC6−10アリールフェニル)フルオレンなど]などの9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類など};9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類(環Zがナフタレン環である化合物){9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]などの9,9−ビス(モノヒドロキシナフチル)フルオレン類など}などが含まれる。
【0034】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類(前記式(1)において、nが1以上である化合物)としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類に対応し、nが1以上である化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−又は3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC1−6アルキルフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC6−8アリールフェニル)フルオレンなど}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)においてnが1である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなど}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類(前記式(1)においてnが1である化合物);およびこれらの化合物に対応し、前記式(1)においてnが2以上である9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)−フルオレン類{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}−フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシフェニル]−フルオレン(n=2の化合物)など}などが含まれる。
【0035】
これらのフルオレン骨格を有するジオールは、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。原料成分として、9,9−ビス[ジ又はトリヒドロキシフェニル]フルオレンなどのフルオレン骨格を有する3価以上のアルコールが含まれてもよい。
【0036】
フルオレン骨格を有するジオールは、市販品を利用してもよい。また、フルオレン骨格を有するジオールは、文献[J.Appl.Polym.Sci.,27(9),3289,1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報、特開2000−26349号公報、特開2002−47227号公報、特開2003−221352号公報に記載の方法で製造してもよい。
【0037】
[ジカルボン酸ジハライド]
ジカルボン酸ジハライドに対応するジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸(アレーンジカルボン酸など)などが挙げられる。
【0038】
前記脂肪族カルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸などの飽和C3−20脂肪族ジカルボン酸など;マレイン酸、フマル酸などの不飽和C4−20脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
前記脂環族ジカルボン酸としては、飽和脂環族ジカルボン酸[単環式アルカンジカルボン酸(シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC3−10シクロアルカン−ジカルボン酸など)、多環式アルカンジカルボン酸(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸など)]、不飽和脂環族ジカルボン酸[単環式アルケンジカルボン酸(シクロヘキセンジカルボン酸などのC3−10シクロアルケン−ジカルボン酸など)、多環式アルケンジカルボン酸(ボルネンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸など)]などが挙げられる。
【0040】
前記芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(2、6−ナフタレンジカルボン酸など)、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などの芳香族C8−16ジカルボン酸などが挙げられる。
【0041】
ジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸(特に、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などベンゼン環あるいはナフタレン環を有する芳香族ジカルボン酸)、脂環族ジカルボン酸などが好ましい。
【0042】
ジカルボン酸ジハライドのハロゲン原子は、例えば、塩素原子、臭素原子(特に塩素原子)などである。
【0043】
これらのジカルボン酸ジハライドは、単独又は二種以上組み合わせても使用できる。原料成分として、トリカルボン酸トリハライド、テトラカルボン酸テトラハライドなどの3価以上のカルボン酸ハライドが含まれてもよい。
【0044】
ジカルボン酸ジハライドは、市販品を利用してもよく、通常の合成法[例えば、カルボン酸とハロゲン化剤(例えば、塩化チオニルなど)との反応]から容易に合成できる。
【0045】
[反応系]
通常のポリエステルの製造方法では、重合度を大きくするため、ジオールとジカルボン酸ジハライドとをほぼ等モル混合する。これに対して、本発明の製造方法の反応系では、オリゴマーを製造するため、フルオレン骨格を有するジオールとジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分が他方の成分に対して過剰モル存在させる。
【0046】
具体的には、反応系において、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分が他方の成分に対して過剰モル(例えば、一方の成分の割合が、他方の成分1モルに対して、1.2〜5モル、好ましくは1.2〜3モル、さらに好ましくは1.2〜2.5モル程度)存在していればよい。なお、オリゴマーの末端は、いずれの成分を過剰にするかに応じて容易に調整でき、例えば、末端(特に、両末端)がヒドロキシル基であるフルオレンポリエステルオリゴマーは、フルオレン骨格を有するジオールを過剰モル使用することにより簡便に得ることができる。このような末端(特に、両末端)がヒドロキシル基であるオリゴマーは、酸濃度が低いため、樹脂原料の他、用途にもよるが、添加剤としても有利に使用できる。
【0047】
縮合反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。すなわち、前記反応系には溶媒が存在してもよい。溶媒は、反応に不活性であれば特に制限されない。代表的な溶媒としては、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、ニトリル類(アセトニトリルなど)などが挙げられる。これらのうち、環状エーテル類、特にテトラヒドロフランが汎用される。
【0048】
これらの溶媒は単独で又は2種以上組合せてもよい。また、これらの溶媒は、必要に応じて、脱水処理した後、使用してもよい。
【0049】
前記溶媒の使用量は、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドの総量100重量部に対して10〜2000重量部、好ましくは50〜1500重量部、さらに好ましくは100〜1000重量部程度であってもよい。
【0050】
[反応工程]
本発明では、前記のように、ジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分を他方の成分に対して過剰モル使用することに加えて、これらの成分を含む反応系に、塩基を混合(又は添加)することによりオリゴマーを製造する。
【0051】
なお、通常、酸ハライドを使用してポリエステルを製造する場合、酸ハライドを加えた時点で重合が開始されるように反応系を構築するため、ジオール及び塩基の存在する反応系にジカルボン酸ジハライドを添加する。
【0052】
このような本発明の方法ではオリゴマーを比較的高収率で効率よく製造できる。しかも、このような方法は、塩基の混合方法を厳密に調整しなくても、比較的狭い分子量分布を有するオリゴマーを再現性よく確実に製造でき、オリゴマーを製造する方法として、簡便かつ確実な製造プロセスである。このようなオリゴマーを効率よく製造できる理由は定かではないが、一つの理由としては、ジオール及びジカルボン酸ジハライドが予め存在する反応系では、原料成分が均一に存在し、重合度が均一なオリゴマーが生成しやすく、塩基の添加にしたがって、重合度の均一性を保ったままオリゴマー鎖が伸長することが考えられる。
【0053】
塩基の総量は、前記他方の成分(すなわち、フルオレン骨格を有するジオールとジカルボン酸ジハライドのうちモル量の少ない成分)に対して2モル当量以上(例えば、2〜20モル当量、好ましくは3〜15モル当量、さらに好ましくは4〜10モル当量程度)であればよい。
【0054】
添加の混合(添加)は、連続的であっても、間欠的であってもよいが、間欠的、特に滴下が好ましい。滴下は慣用の手段で行ってもよい。なお、塩基は撹拌下で混合してもよい。
【0055】
塩基の総量を添加するための時間は、特に制限されず、1〜300分、好ましくは10〜100分、さらに好ましくは20〜60分程度の範囲であってもよい。
【0056】
塩基は、ジカルボン酸ジハライド及びフルオレン骨格を有するジオールの反応に不活性であれば、特に制限されず、塩基性無機化合物[例えば、金属水酸化物(アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物など)、金属炭酸塩(アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩など)、金属炭酸水素塩(アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸水素塩など)など]であってもよいが、通常、少なくとも塩基性有機化合物で構成してもよい。
【0057】
塩基性有機化合物としては、アミン類などが挙げられる。アミン類は、モノアミン類であってもよく、ポリアミン類(ジアミン類、トリアミン類など)であってもよい。また、アミン類は、鎖状(又は鎖式)アミン類又は環状(又は環式)アミン類であってもよく、脂肪族アミン類又は芳香族アミン類であってもよい。さらに、アミン類は、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子など)を分子内に有するアミン類(例えば、ヘテロ環式アミン類)、窒素含有ヘテロ環化合物であってもよい。特に、活性水素原子を有しない第3級アミン類が好ましい。
【0058】
代表的な第3級アミン類として、例えば、脂肪族アミン類[例えば、トリアルキルアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1−6アルキルアミンなど)、N,N,N’,N’−テトラアルキルアルカンジアミン(例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミンなどのN,N,N’,N’−テトラC1−3アルキルC1−3アルカンジアミンなど)など]、脂環族アミン類[例えば、トリシクロアルキルアミン(例えば、トリシクロヘキシルアミンなど)、ジシクロヘキシルエチルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミンなど]、芳香族アミン類[例えば、N,N−ジアルキルアニリン(N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリンなど)、N−フェニルピロリジン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなど]、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子など)を分子内に有するアミン類[例えば、4−アルキルモルホリン(4−メチルモルホリン、4−エチルモルホリン)など]、窒素含有ヘテロ環化合物[例えば、1−アルキルピペリジン(1−メチルピペリジン、1−エチルピペリジンなど)、1−アルキルピロリジン(1−メチルピロリジン、1−エチルピロリジンなど)、1,4−ジメチルピペラジンなど]などが挙げられる。これらのうち、脂肪族アミン類、特に、トリアルキルアミンが好ましい。
【0059】
これらの塩基は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて、脱水処理した後、使用してもよい。
【0060】
[反応条件]
反応時間は特に制限されず、例えば、1分〜60時間、好ましくは5分〜48時間、さらに好ましくは10分〜24時間程度であってもよい。なお、反応は、塩基の混合により進行するが、塩基を混合した後、完全に反応させる(熟成させる)ため、反応系を放置し、反応を完結させてもよい。反応時間には、このような時間も反応時間に含めるものとする。
【0061】
反応温度は、例えば、−20〜50℃、好ましくは−10〜40℃、さらに好ましくは−10〜30℃、特に20℃以下(例えば、0〜20℃程度)の範囲であってもよい。なお、塩基の混合により反応系の温度が上昇する場合があるため、反応系の温度をこのような反応温度で保持するため、反応系を冷却してもよい。
【0062】
反応は、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧、加圧下又は減圧下で行ってもよい。また、反応は、撹拌下で行ってもよい。
【0063】
[反応生成物の精製]
反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により反応混合物から分離精製してもよい。例えば、塩基を大過剰に使用した場合には、適当な酸で中和した後、反応生成物から分離除去してもよく、反応副生成物であるハロゲン化水素と塩基との塩は、水などの反応生成物に対する貧溶媒で洗浄することにより分離除去してもよい。
【0064】
[フルオレンポリエステルオリゴマー]
このようにして、フルオレンポリエステルオリゴマーが得られる。本発明の方法では、比較的高収率でフルオレンポリエステルオリゴマーを得ることができ、その収率は、例えば、60%以上(例えば、60〜99%、好ましくは65〜95%、さらに好ましくは70〜90%程度)であってもよい。
【0065】
本発明の方法で製造されるフルオレンポリエステルオリゴマーの末端は、特に限定されず、両末端にカルボキシル基(又は酸ハライド基)を有するものであっても、両末端にヒドロキシル基を有するものであっても、ヒドロキシル基及びカルボキシル基(又は酸ハライド基)を末端に有するものであってもよい。通常、反応生成物には、両末端にヒドロキシル基又はカルボキシル基(又は酸ハライド基)を有するオリゴマーが多量含まれている。なお、酸ハライド基は、水又はメタノールなどの存在下では、容易にカルボキシル基に変換される。
【0066】
また、フルオレンポリエステルオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、300〜5000程度の範囲から選択でき、例えば、400〜4000(例えば、500〜3500)、好ましくは600〜3200(例えば、700〜3000)、さらに好ましくは800〜2800(例えば、900〜2600)、特に1000〜2500程度であってもよい。さらに、フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、例えば、5000未満(例えば、800〜4800、好ましくは1000〜4500、さらに好ましくは1200〜4200、特に1500〜4000程度)であってもよく、通常800〜3000(例えば、900〜2500、好ましくは1000〜2000)程度であってもよい。なお、MnおよびMwは、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて、ポリスチレン換算の値として測定できる。
【0067】
本発明の方法によれば、フルオレンポリエステルオリゴマーの多分散度(又は分子量分布、又はMw/Mn)は、例えば、1.1〜10、好ましくは1.15〜5、さらに好ましくは2以下{例えば、1.2〜2(特に、1.2〜1.8)}程度の範囲にすることができる。また、フルオレンポリエステルオリゴマーの重合度は、例えば、1〜40(好ましくは1〜30、特に1〜20)程度の範囲にすることができる。本発明の方法では、通常、フルオレンポリエステルオリゴマーの重合度が偶数であるものが多量に得られる。さらに、フルオレンポリエステルオリゴマーの平均重合度は、例えば、1〜20(例えば、2〜18)、好ましくは2〜16(例えば、3〜15)、さらに好ましくは4〜14(例えば、4〜10)程度であってもよい。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
なお、実施例において、各種測定は以下のようにして行った。
【0070】
(1)数平均分子量、重量平均分子量及び多分散度の測定
オリゴマーの数平均分子量、重量平均分子量及び多分散度は、溶出液としてテトラヒドロフランを用い、1mL/分の条件で、2本のカラム(Shodex KF−804L)を備えたJASCO 880−PUにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(基準樹脂:ポリスチレン)によって測定した。
【0071】
(2)組成比の測定
オリゴマーの組成比は、溶出液として65%テトラヒドロフラン(溶媒はHO)を用い、1mL/分の条件で、カラム(関東化学(株)製 Mightysil RP−18 GP 150−4.6mm 5m Lot.204058)を備えたHITACHI L−71シリーズ(日立ハイテク製)により、HPLCによって測定した。具体的には、組成比は、末端にヒドロキシル基を有するオリゴマーとして想定されるピークの総面積に対する各ピークの面積によって算出される。
【0072】
(3)H−NMR
H−NMRスペクトルは、内標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてCDClを用いて、JNM GSX−270(日本電子(株)製)によって室温で測定した。
【0073】
実施例1
【0074】
【化3】

【0075】
200mLの三ツ口フラスコに温度計及び滴下ロートをセットし、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)(7.00g、20.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、テレフタル酸ジクロライド(2.03g、10mmol、ナカライテスク(株)製)および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、20℃以下で滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー5.17g(収率:68.2%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は1830で、重量平均分子量は2647で、多分散度は1.477であった。
【0076】
以下に、得られたオリゴマーのH−NMRスペクトルデータを示す。
【0077】
【化4】

【0078】
H−NMR(270MHz,CDCl,δ)ppm:4.61(s、6)、6.69(d、3)、7.09(m、3’、4)、7.30(m、2)、7.78(t、1)、8.27(s、5)。
【0079】
表1に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例2
200mLの三ツ口フラスコに温度計及び滴下ロートをセットし、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)(5.25g、15.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、テレフタル酸ジクロライド(2.03g、10mmol、ナカライテスク(株)製)および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、20℃以下で滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー5.51g(収率:86.0%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は2472で、重量平均分子量は4155で、多分散度は1.681であった。
【0082】
表2に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例3
【0085】
【化5】

【0086】
200mLの三ツ口フラスコに温度計及び滴下ロートをセットし、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(8.76g、20.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、テレフタル酸ジクロライド(2.03g、10mmol、ナカライテスク(株)製)および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、20℃以下で滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー8.68g(収率:86.3%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は1540で、重量平均分子量は1980で、多分散度は1.286であった。
【0087】
以下に、得られたオリゴマーのH−NMRスペクトルデータを示す。
【0088】
【化6】

【0089】
H−NMR(270MHz,CDCl,δ)ppm:1.58(s、8)、3.91(br、7)、4.01(br、6)、4.24(br、6’)、4.64(br、7’)、6.71(br、3)、7.11(m、4)、7.30(m、2)、7.74(d、1)、8.06(s、5)。
【0090】
表3に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0091】
【表3】

【0092】
実施例4
200mLの三ツ口フラスコに温度計及び滴下ロートをセットし、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(6.57g、15.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、テレフタル酸ジクロライド(2.03g、10mmol、ナカライテスク(株)製)および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、20℃以下で滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー6.51g(収率:82.7%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は1833で、重量平均分子量は2650で、多分散度は1.446であった。
【0093】
表4に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0094】
【表4】

【0095】
実施例5
200mLの三ツ口フラスコに温度計及び滴下ロートをセットし、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(5.48g、12.5mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、テレフタル酸ジクロライド(2.03g、10mmol、ナカライテスク(株)製)および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、20℃以下で滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー6.67g(収率:98.4%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は2151で、重量平均分子量は3596で、多分散度は1.672であった。
【0096】
表5に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0097】
【表5】

【0098】
実施例6
【0099】
【化7】

【0100】
200mLのフラスコに冷却管をセットし、2,6−ナフタレンジカルボン酸(2.16g、10.0mmmol、和光純薬工業(株)製)、DMF(0.2g、ナカライテスク(株)製)及びチオニルクロライド(15mL,ナカライテスク(株)製)を入れ24時間加熱還流させた。反応終了後、過剰のチオニルクロライドを除くことで、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドを得た。得られた化合物は精製せずにそのまま用いた。ここに、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(8.76g、20.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、ゆっくり滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー8.44g(収率:79.9%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は1667で、重量平均分子量は2217で、多分散度は1.330であった。
【0101】
以下に、得られたオリゴマーのH−NMRスペクトルデータを示す。
【0102】
【化8】

【0103】
H−NMR(270MHz,CDCl,δ)ppm:3.90(br、9)、4.00(br、8)、4.29(br、9’)、4.86(br、8’)、6.78(m、3)、7.31(m、2)、7.70(m、1)、7.91(m、7)、8.05(d、5)、8.60(br、6)。
【0104】
表6に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0105】
【表6】

【0106】
実施例7
200mLのフラスコに冷却管をセットし、2,6−ナフタレンジカルボン酸(2.16g、10.0mmmol、和光純薬工業(株)製)、DMF(0.2g、ナカライテスク(株)製)及びチオニルクロライド(15mL,ナカライテスク(株)製)を入れ24時間加熱還流させた。反応終了後、過剰のチオニルクロライドを除くことで、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドを得た。得られた化合物は精製せずにそのまま用いた。ここに、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(6.57g、15.0mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、ゆっくり滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー5.53g(収率:66.1%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は1798で、重量平均分子量は2541で、多分散度は1.413であった。
【0107】
表7に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0108】
【表7】

【0109】
実施例8
200mLのフラスコに冷却管をセットし、2,6−ナフタレンジカルボン酸(2.16g、10.0mmmol、和光純薬工業(株)製)、DMF(0.2g、ナカライテスク(株)製)及びチオニルクロライド(15mL,ナカライテスク(株)製)を入れ24時間加熱還流させた。反応終了後、過剰のチオニルクロライドを除くことで、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドを得た。得られた化合物は精製せずにそのまま用いた。ここに、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)(5.48g、12.5mmol、大阪ガスケミカル(株)製)、および脱水テトラヒドロフラン(100mL、ナカライテスク(株)製)を入れ氷水バスで冷却した。滴下ロートに脱水トリエチルアミン(15g、ナカライテスク(株)製)を入れ、ゆっくり滴下した。滴下終了後室温に戻し、さらに24時間撹拌した。反応終了後、氷水1000mLの中に反応液を投入し、塩酸を加えて系内を酸性にして撹拌した。生じた沈殿を濾過、水洗、乾燥後、メタノールで洗浄、乾燥することにより目的のオリゴマー6.57g(収率:90.3%)を得た。得られたオリゴマーの数平均分子量は2145で、重量平均分子量は3517で、多分散度は1.640であった。
【0110】
表8に得られたオリゴマーの組成比を示す。
【0111】
【表8】

【0112】
実施例1〜8の結果を表9,表10に示す。
【0113】
【表9】

【0114】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明では、フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち、一方の成分に対して他方の成分を過剰モル仕込んだ反応系に塩基を加えて、両成分を縮合反応させることで、フルオレンポリエステルオリゴマーを高収率かつ簡便に再現よく製造することができる。この方法で製造されたフルオレンポリエステルオリゴマーは、ポリマー(フルオレン骨格を有するポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートなど)の諸物性(高屈折率、低複屈折率、高透過率、耐水性、耐衝撃性など)を改善するための添加剤又は新規樹脂の中間体として利用できることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン骨格を有するジオール及びジカルボン酸ジハライドのうち一方の成分が他方の成分に対して過剰モル存在する反応系に塩基を加え、両成分を縮合させてフルオレンポリエステルオリゴマーを製造する方法。
【請求項2】
フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が5000未満である請求項1記載の方法。
【請求項3】
一方の成分の割合が、他方の成分1モルに対して、1.2〜3モルである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
反応系に塩基を連続的又は間欠的に添加して縮合させる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
加える塩基の総量が、他方の成分に対して2モル当量以上である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
塩基が第三級アミンである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ジカルボン酸ジハライド1モルに対して、下記式(1)
【化1】

(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、n及びpは0以上の整数である。)
で表される化合物を1.2〜3モルの割合で含む反応系に第三級アミンを滴下し、両成分を縮合させて、下記式(2)
【化2】

(式中、Aは前記ジカルボン酸ジハライドの残基を示し、mは1〜10の整数を示し、Z、R、R、R、k、n及びpは前記と同じ。)
で表されるオリゴマーを製造する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
フルオレン骨格を有するジオールとジカルボン酸ジハライドとが縮合したフルオレンポリエステルオリゴマーであって、重量平均分子量が5000未満であるオリゴマー。
【請求項9】
多分散度が1.15〜5である請求項8記載のオリゴマー。
【請求項10】
重量平均分子量が800〜3000であり、かつ多分散度が1.2〜2である請求項8記載のオリゴマー。

【公開番号】特開2011−105887(P2011−105887A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264325(P2009−264325)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】