説明

フルオレン化合物およびそれを用いた有機EL素子

【課題】 有機EL素子の正孔輸送層として利用できる新規なフルオレン化合物およびその製造法を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で示されるフルオレン化合物を用いる。
【化1】


(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン化合物並びにその製造法、およびそれを用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機薄膜を1対の電極で狭持した面発光型素子であり、薄型軽量、高視野角、高速応答などの特徴を有し、各種表示素子への応用が期待されている。有機EL素子とは、電圧を印加することにより陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子とが発光層で再結合する際に発する光を利用した素子であり、その素子構造は1987年にC.W.Tangらによって報告された正孔輸送層と発光層を積層した二層型素子が基本となっている(例えば、非特許文献1参照)。その後、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の三層から構成される素子が提案され(例えば、非特許文献2参照)、現在では多層積層型素子が主流になっている。正孔輸送層や電子輸送層のような電荷輸送層は、発光層への電荷注入を容易にし、また、発光層に電荷を閉じ込める役割を果たしており、C.W.Tangらの報告以来、有機EL素子の低駆動電圧化および発光効率向上を目的として様々な正孔輸送材料、電子輸送材料の開発が行われてきた。
【0003】
しかし実用化に際しては、さらなる低電圧駆動、発光効率の向上が必要とされ、特に素子の信頼性、即ち駆動時の有機材料劣化および有機薄膜の結晶化等に伴う素子の保存安定性の改善が課題とされている。中でも、正孔輸送材料として一般的に使用されている4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル]ビフェニル(α−NPD)はガラス転移温度が低く、α−NPDの薄膜は高温条件下で容易に結晶化してしまうため、素子の耐久性が低いという問題がある。このような背景から、ガラス転移温度の向上を目的としてフルオレン骨格を導入した正孔輸送材料、2,7−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチルフルオレンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、本材料においてもガラス転移温度の高さは十分でなく、また、結晶性が高いために、期待される程の耐久性は得られていない。一方、縮合環基の導入によるフルオレン化合物の高ガラス転移温度化も開示されているが(例えば、特許文献2,3参照)、縮合基の導入により分子の電子親和性が高くなるため、正孔輸送層として用いた場合には電子ブロック効果が小さくなり、発光効率が低下するという問題があった。
【0004】
他にも、フルオレン骨格を有するアリールアミン誘導体が検討されているが、まだ十分とは言えなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−25473号公報)
【特許文献2】特開2000−191606公報
【特許文献3】特開2001−196177公報
【特許文献4】特開2004−315495公報
【特許文献5】特開2005−35919公報
【特許文献6】特開2005−162660公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.51.913(1987)
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.27.L269(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、有機EL素子の正孔輸送材料に適した新規なフルオレン化合物並びにその製造法、さらには発光効率が高く、耐久性に優れた有機EL素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記一般式(1)で示されるフルオレン化合物は、電荷輸送性および薄膜安定性に優れ、さらに高いガラス転移温度を有しており、該化合物を正孔輸送層に用いた有機EL素子が、高性能かつ安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表す。)
で示されるフルオレン化合物並びにその製造法、およびそれを用いた有機EL素子に関するものである。
【0009】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0010】
前記一般式(1)で示されるフルオレン化合物において、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。
【0011】
Rで示されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる。
【0012】
Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜18の直鎖,分岐もしくは環状のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等を例示することができる。
【0013】
Rで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜18の直鎖,分岐もしくは環状のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ステアリルオキシ基等を例示することができる。
【0014】
前記一般式(1)で示されるフルオレン化合物において、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表す。
【0015】
Ar,Arで示される置換もしくは無置換のフェニル基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−シクロペンチルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基、4−sec−ブトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−フルオロフェニル基等を例示することができる。
【0016】
Ar,Arで示される置換もしくは無置換の1−ナフチル基としては、1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、2−エチル−1−ナフチル基、2−ブチル−1−ナフチル基、4−メチル−1−ナフチル基、4−エチル−1−ナフチル基、4−ブチル−1−ナフチル基等を例示することができる。
【0017】
Ar,Arで示される置換もしくは無置換の2−ナフチル基としては、2−ナフチル基、6−メトキシ−2−ナフチル基、6−エトキシ−2−ナフチル基、6−n−ブトキシ−2−ナフチル基、6−n−ヘキシルオキシ−2−ナフチル基、7−メトキシ−2−ナフチル基、7−n−ブトキシ−2−ナフチル基等を例示することができる。
【0018】
Ar,Arで示される置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基としては、4−ビフェニリル基、4−メチルビフェニリル基、4−エチルビフェニリル基、4−ブチルビフェニリル基、4−メトキシビフェニリル基、4−エトキシビフェニリル基、4−ブトキシビフェニリル基等を例示することができる(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニル基であることはない)。
【0019】
Ar,Arは、ガラス転移温度の点から置換もしくは無置換の1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−ビフェニリル基であることが好ましく、以下で記述する製造時の反応選択性の点から、Ar,Arの少なくとも一つは置換もしくは無置換のフェニル基であることが特に好ましい。従って、Ar,Arは互いに異なり、少なくとも一つが置換もしくは無置換のフェニル基である場合がより好ましい。
【0020】
次に、本発明のフルオレン化合物の製造法を説明する。
【0021】
前記一般式(1)で示されるフルオレン化合物は、下式中の一般式(2)で示される2,7−ジハロフルオレノンと一般式(3)で示される有機金属化合物とを反応させ、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体へと誘導し、酸触媒存在下、一般式(5)で示される芳香族化合物と反応させて、一般式(6)で示される9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレンを得た後、一般式(7)で示されるアミンを用いて、塩基および触媒の存在下にアミノ化することで製造することができる。
【0022】
【化2】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表し、Xはハロゲン原子を表し、MはLi、MgX、ZnX
(Xはハロゲン原子を表す。)
を表す。)
一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体は、一般式(2)で示される2,7−ジハロフルオレノンと一般式(3)で示される有機金属化合物との反応により、公知の手法で製造することができ、例えば、溶媒に溶解した2,7−ジハロフルオレノンに有機金属化合物の溶液を滴下する方法、または有機金属化合物の溶液に2,7−ジハロフルオレノンの溶液を滴下する方法が挙げられる。
【0023】
本反応に使用される溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素類(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等)などが挙げられ、これらの溶媒は、混合して使用してもよい。
【0024】
一般式(6)で示される9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレンは、酸触媒存在下、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体と一般式(5)で示される芳香族化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0025】
本反応の方法としては、例えば、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体、一般式(5)で示される芳香族化合物、酸触媒および反応溶媒を一括で反応器に仕込む方法、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体、一般式(5)で示される芳香族化合物および反応溶媒の混合物に酸触媒を滴下する方法、一般式(5)で示される芳香族化合物、酸触媒および反応溶媒の混合物に一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体を固体のまま分割して添加、もしくは溶媒に溶解させて滴下する方法が挙げられる。
【0026】
上記方法において、一般式(5)で示される芳香族化合物が反応温度で液体である場合には、一般式(5)で示される芳香族化合物を反応溶媒として使用することができ、この場合、反応選択率が高く、副生成物の量も少ない。
【0027】
本反応で使用される酸触媒としては、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸等の鉱酸類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸類、ベンゼンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類が挙げられる。これらのうち、反応性、経済性を考慮すると硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸の使用が特に好ましい。当該触媒の使用量としては、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体1モルに対して0.001〜100モル、好ましくは0.01〜10モルである。
【0028】
本反応において、一般式(5)で示される芳香族化合物の使用量は、一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体に対して等モル以上、反応選択性の点から、2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体1モルに対して3モル以上であることが好ましい。
【0029】
本反応で反応溶媒を使用する場合、その反応溶媒は、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、中でもカルボン酸類が好ましい。
【0030】
一般式(1)で示されるフルオレン化合物は、塩基および触媒存在下、一般式(6)で示される9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレンと一般式(7)で示されるアミンとの反応により、公知の手法で製造することができる。
【0031】
本反応で使用する触媒は特に制限はないが、パラジウム触媒が好ましく、パラジウム触媒としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウム(II)トリフルオロアセテート等の2価のパラジウム化合物、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等の0価のパラジウム化合物が挙げられる。また、ファイバー担持パラジウム触媒、パラジウム炭素等の固定化パラジウム触媒も挙げられる。これらに、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等の単座アリールホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン等の単座アルキルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等の二座ホスフィンを共存させて反応させてもよい。
【0032】
パラジウム触媒の使用量は特に限定するものではないが、一般式(6)で示される9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレン 1モルに対し、0.000001〜20モル%の範囲であり、好ましくは0.0001〜5モル%の範囲である。
【0033】
本反応において使用される塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸ナトリウム等、ナトリウム−メトキシド、ナトリウム−エトキシド、カリウム−メトキシド、カリウム−エトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等のようなアルカリ金属アルコキシド、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンが挙げられる。
【0034】
使用される塩基の量は、一般式(6)で示される9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレン 1モルに対し2〜10倍モルであり、好ましくは2〜3倍モルである。
【0035】
本反応における反応溶媒は、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系有機溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等を挙げることができ、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒である。
【0036】
次に、本発明のフルオレン化合物を用いた有機EL素子について説明する。
【0037】
上記一般式(1)で示されるフルオレン化合物は、正孔輸送性能に優れ、有機EL素子において正孔輸送層、正孔注入層として用いることができる。正孔輸送層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は1nm〜1μmであり、好ましくは1〜100nmである。
【0038】
本発明における有機EL素子は特に限定するものではないが、基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層および陰極から構成され、正孔輸送層は前記一般式(1)で示されるフルオレン化合物からなる層である。また、必要に応じて新たな層を設けたり、何れかの層を省くこともでき、電子輸送層と電子注入層、発光層と電子注入輸送層を一つの層で兼ねることもできる。
【0039】
本発明における基板は、透明で表面が平滑なものであれば使用でき、ガラス、プラスチック等を用いることができる。また、基板の厚さは素子の支持が可能な範囲で任意に選択することができる。
【0040】
本発明における陽極には、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)や酸化錫、金、銀、銅、クロム等を使用することができる。陽極の形成方法としては、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は10nm〜1μmであり、好ましくは10〜500nmである。
【0041】
本発明における正孔注入層には、前記一般式(1)で示されるフルオレン化合物よりイオン化ポテンシャルが小さく、陽極から正孔を注入する機能を有した公知の材料を用いることができ、例えば、フタロシアニン誘導体、トリアリールアミン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。正孔注入層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は1nm〜1μmであり、好ましくは1〜100nmである。
【0042】
本発明における発光層には、有機EL素子で従来から使用されている公知の発光材料を使用することができ、電子および正孔の注入が可能で、かつ蛍光および/またはりん光を有する物質であれば特に制限はない。発光材料の例としては、オキサジアゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチリルベンゼン誘導体、クマリン誘導体、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、オキサゾン誘導体、ピラン誘導体、縮合芳香族化合物およびその誘導体、8−キノリノール誘導体のアルミニウム錯体、配位子として塩素、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、フェナントロリン、アセチルアセトン等を有するレニウム錯体、イリジウム錯体、白金錯体、ユーロピウム錯体等が挙げられる。発光層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法等の公知の方法を適用することができ、発光層は発光材料のみで形成されていてもよく、ホスト材料中に発光材料がドープされていてもよい。
【0043】
本発明における電子輸送層には、陰極から注入された電子を受け取り、発光層に輸送する機能を有した公知の材料を用いることができ、例えば、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、8−キノリノール誘導体のアルミニウム錯体、有機シラン誘導体等が挙げられる。電子輸送層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は1nm〜1μmであり、好ましくは1〜100nmである。また、電子輸送層に、例えば、アルカリ金属、アルカリ土金属等の還元性ドーパントを含有していてもよい。
【0044】
本発明における電子注入層としては、電流のリーク防止および電子注入性を向上させる機能を有した公知の材料を用いることができ、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属のハロゲン化物が挙げられる。電子注入層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は0.01〜100nmであり、好ましくは0.1〜50nmである。
【0045】
本発明における陰極には、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土金属等を使用することができ、これらを他の金属と組み合わせて用いることもできる。陰極の形成方法としては、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の公知の方法を適用することができ、膜厚は特に制限はないが、通常は10nm〜1μmであり、好ましくは10〜500nmである
【発明の効果】
【0046】
本発明のフルオレン化合物は、正孔輸送能力に優れ、さらにガラス転移温度が高いことから、高温条件下での薄膜安定性も高く、高効率かつ安定性の高い有機EL素子を提供することが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0048】
H−NMRおよび13C−NMR測定は、バリアン社製 Gemini200を用いて行った。
【0049】
FD−MS測定は、日立製作所製 M−80Bを用いて行った。
【0050】
ガラス転移温度の測定は、セイコー電子工業製 SSC−5000を用い、10℃/分の昇温条件下にて行った。
【0051】
電子親和性の評価は、サイクリックボルタンメトリー(北斗電工製 HA−501、HB−104)を用いて、還元方向に0〜−3.4V vs.Fc/Fcの範囲で行った。通常、電子親和性は還元電位の絶対値が小さいほど高く、サイクリックボルタンメトリーにより材料の電子親和性を判定することができる。
【0052】
有機EL素子の駆動電圧および発光輝度測定は、TOPCON社製 輝度計LUMINANCE METER(BM−9)を用いて行った。
【0053】
合成例1 (2,7−ジブロモ−9−ヒドロキシ−9−フェニルフルオレンの合成)
窒素気流下、2,7−ジブロモフルオレノン 20g(59mmol)をTHF270mlに加え、そこへ2mol/lのフェニルマグネシウムクロリドのTHF溶液を35ml(70.8mmol)滴下した。室温で12時間反応後、10%塩化アンモニウム水溶液を100g加えて反応を停止した。有機相を分離した後、有機相を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮、ベンゼンから再結晶することにより、2,7−ジブロモ−9−ヒドロキシ−9−フェニルフルオレン 13g(32.4mmol)を単離した(収率55%)。
融点;161−163℃
H−NMR(CDCl);7.24−7.48(m,11H),2.50(s,1H)
13C−NMR(CDCl);151.9,141.5,137.4,132.4,128.4,128.2,127.7,125.2,122.5,121.5,83.3
合成例2 (2,7−ジブロモ−9,9−ジフェニルフルオレンの合成)
ベンゼン7.5g(96mmol)、濃硫酸3.7g(38mmol)の混合溶液に合成例1で得られた2,7−ジブロモ−9−ヒドロキシ−9−フェニルフルオレン 4g(9.6mmol)のベンゼン溶液20mlを室温で滴下した。室温で12時間反応後、水20mlを加え、有機相を分離した後、有機相を水、飽和食塩水で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮、エタノールとクロロホルムの混合溶媒から再結晶することにより、2,7−ジブロモ−9,9−ジフェニルフルオレン 3.2g(6.7mmol)を単離した(収率69%)。
融点;264−267℃
H−NMR(CDCl);7.58(d,2H,J=8.0Hz),7.49(s,2H),7.47(d,2H,J=8.0Hz),7.20−7.27(m,6H),7.11−7.16(m,4H)
13C−NMR(CDCl);152.8,144.3,138.0,130.9,129.3,128.5,127.9,127.1,121.8,121.5,65.6
実施例1 (2,7−ビス[N,N−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)アミノ]−9,9−ジフェニルフルオレンの合成)
合成例2で得られた2,7−ジブロモ−9,9−ジフェニルフルオレン 2.5g(5.2mmol)、N,N−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)アミン 3.6g(11.4mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 1.4g(14.5mmol)、o−キシレン 20mlのスラリー溶液に、酢酸パラジウム0.21g(0.052mmol)、トリ(tert−ブチル)ホスフィン 0.037g(0.182mmol)を加えて120℃で5時間反応させ、室温まで冷却後、水20mlを加えた。有機相を分離した後、有機相を水、飽和食塩水で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)および再結晶(トルエンとヘキサンの混合溶媒)により精製し、2,7−ビス[N,N−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)アミノ]−9,9−ジフェニルフルオレン 3.7g(3.9mmol)を単離した(収率75%)。
FD−MS;956
H−NMR(THF−d8);7.07−7.69(m,52H)
13C−NMR(THF−d8);153.4,147.7,147.4,146.6,141.3,136.3,136.0,129.4,128.9,128.8,128.3,127.5,127.2,124.9,124.4,123.0,121.2,66.3
真空蒸着法によってガラス板上に形成した薄膜は、室温下1ヶ月間放置しても白濁(凝集および結晶化)は見られなかった。また、ガラス転移温度は156℃であり、ガラス板上の薄膜を120℃に加熱しても白濁化しなかった。
【0054】
サイクリックボルタンメトリーで電子親和性を評価したところ、測定可能な電圧範囲内に還元波は現れず、電子親和性は低いという結果であった。
【0055】
比較例1
2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレンとN−フェニル−N−(1−ナフチル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で2,7−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチルフルオレンを合成した。
【0056】
サイクリックボルタンメトリーで電子親和性を評価したところ、電子親和性は低い結果であったが、真空蒸着法によってガラス板上に形成した薄膜は、室温下1ヶ月間放置後、白濁が見られた。また、ガラス転移温度は120℃以下であり、ガラス板上の薄膜を120℃に加熱すると白濁化した。
【0057】
比較例2
2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレンとN,N−ジフェニルアミンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で2,7−ビス[N−フェニル−N−(1−ナフチル)アミノ]−9,9−ジメチルフルオレンを合成した。
【0058】
サイクリックボルタンメトリーで電子親和性を評価したところ、−2.98V vs.Fc/Fcに還元波が観測され、電子親和性が高い結果であった。真空蒸着によってガラス板上に形成した薄膜は、室温下1ヶ月間放置後も白濁は見られなかったが、ガラス転移温度は120℃以下であり、ガラス板上の薄膜を120℃に加熱すると白濁化した。
【0059】
実施例2
厚さ200nmのITO透明電極(陽極)を積層したガラス基板をアセトンおよび純水により超音波洗浄した後、イソプロピルアルコールによる沸騰洗浄を行なった。さらに紫外線オゾン洗浄を行ない、真空蒸着装置へ設置後、1×10−4Paになるまで、真空ポンプにて排気した。まず、ITO透明電極上に銅フタロシアニンを蒸着速度0.05nm/秒で蒸着し、25nmの正孔注入層とした。引き続き、2,7−ビス[N,N−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)アミノ]−9,9−ジフェニルフルオレンを蒸着速度0.08nm/秒で45nm蒸着し、正孔輸送層とした。引き続いてトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを蒸着速度0.1nm/秒で60nm蒸着して発光層とした後、電子注入層として沸化リチウムを蒸着速度0.01nm/秒で0.5nm蒸着、さらに陰極としてアルミニウムを蒸着速度0.25nm/秒で100nm蒸着して有機EL素子を作製した。
【0060】
作製した素子に7.5mA/cmの電流を印加した場合の駆動電圧、発光輝度を測定したところ、駆動電圧は5.0V、発光輝度は350cd/mであった。また、窒素雰囲気下20mA/cmで連続駆動したところ、500時間での輝度減少率は10%以内であった。
【0061】
比較例3
正孔輸送材料に2,7−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチルフルオレンを用いた以外は、実施例2と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0062】
作製した素子に7.5mA/cmの電流を印加した場合の駆動電圧、発光輝度を測定したところ、駆動電圧は5.2V、発光輝度は300cd/mであった。また、窒素雰囲気下20mA/cmで連続駆動したところ、500時間での輝度減少率は50%以上であった。
【0063】
比較例4
正孔輸送材料に2,7−ビス[N−フェニル−N−(1−ナフチル)アミノ]−9,9−ジメチルフルオレンを用いた以外は、実施例2と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0064】
作製した素子に7.5mA/cmの電流を印加した場合の駆動電圧、発光輝度を測定したところ、駆動電圧は5.2V、発光輝度は250cd/mであった。また、窒素雰囲気下20mA/cmで連続駆動したところ、500時間での輝度減少率は20%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表す。)
で示されるフルオレン化合物。
【請求項2】
Ar,Arが互いに異なり、少なくとも一つが置換もしくは無置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載のフルオレン化合物。
【請求項3】
下記a)〜c)の工程から成ることを特徴とする請求項1または2に記載のフルオレン化合物の製造法。
a)一般式(2)
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で示される2,7−ジハロフルオレノンと一般式(3)
【化3】

(式中、Arは置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基を表し、MはLi、MgX、ZnX
(Xはハロゲン原子を表す。)
を表す。)
で示される有機金属化合物とを反応させ、一般式(4)
【化4】

(式中、Arは置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体を製造する工程。
b)前記一般式(4)で示される2,7−ジハロ−9−ヒドロキシフルオレン誘導体を酸触媒存在下、一般式(5)
【化5】

(式中、Arは置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基を表す。)
で示される芳香族化合物と反応させ、一般式(6)
【化6】

(式中、Ar,Arは各々独立して置換もしくは無置換のフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、または4−ビフェニリル基
(但し、Ar,Arが共に置換もしくは無置換の4−ビフェニリル基の場合は除く)
を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
で示されるフルオレンの9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレン誘導体を製造する工程。
c)前記一般式(6)で示されるフルオレンの9位がAr,Arで置換された2,7−ジハロフルオレン誘導体と一般式(7)
【化7】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。)
で示されるアミンを用いて、塩基および触媒の存在下にアミノ化する工程。
【請求項4】
一般式(1)で示されるフルオレン化合物を正孔輸送層に用いることを特徴とする有機EL素子。

【公開番号】特開2007−137795(P2007−137795A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331326(P2005−331326)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】