説明

フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂およびその製造方法

【課題】耐熱性、透明性などに優れたフルオレン骨格を有する新規なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)(例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)(例えば、アルキル基に置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C1−4アルキル)フルオレン、フルオレンの9位に置換基を有していてもよいジカルボキシフルオレン、これらの誘導体(ジカルボン酸ハライドなど)など)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを重縮合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有する新規なポリエステル樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有することが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現し、成形可能とする方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスアミノフェニルフルオレン(BAFL)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。例えば、このようなフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂として、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂で構成された成形材料が開示されている。
【0003】
このようなフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂は、光学用途にも利用されており、例えば、特開平7−198901号公報(特許文献2)には、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、10モル%以上の置換基(アルキル基、アリール基、アラルキル基など)を有していてもよい9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンおよび炭素数2から4の脂肪族グリコールで構成されるジヒドロキシ化合物とからなる実質的に線状のポリエステル重合体であって、屈折率が1.60以上のプラスチックレンズ用ポリエステル樹脂が開示されている。特開2000−119379号公報(特許文献3)には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸を含み、ジヒドロキシ化合物が置換基(アルキル基、アリール基、アラルキル基など)を有していてもよい9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンを含むポリエステル重合体で成形された光学素子が開示されている。特開平11−60706号公報(特許文献4)には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸と、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのジヒドロキシ化合物とで形成されたポリエステル重合体が開示されている。特開2000−119379号公報(特許文献5)には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸を含み、ジヒドロキシ化合物が置換基(アルキル基、アリール基、アラルキル基など)を有していてもよい9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フルオレンを含むポリエステル重合体で成形された光学素子が開示されている。
【0004】
これらの文献に記載されているように、従来知られているフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂は、ビスフェールフルオレンのアルキレンオキシド付加体などのフルオレン骨格を有するジオールをジオール成分とするポリエステル樹脂である。このような従来のフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂は、耐熱性などにおいて優れているものの、さらなる樹脂特性の向上が望まれている。
【特許文献1】特開2002−284864号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−198901号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−119379号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−60706号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2000−119379号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格を有する新規なポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、耐熱性および屈折率において著しく向上したポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、耐熱性、光学的特性、溶媒溶解性などの各種特性に優れた新規なポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ジオール成分およびジカルボン酸成分の双方をフルオレン骨格を有する化合物で構成して両成分を重合(縮合重合)させると、フルオレン骨格を主鎖に有する新規なポリエステル樹脂が得られること、このような新規なポリエステル樹脂は、従来のフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂に比べて、より一層、高い耐熱性や高い屈折率を有していること、さらには、溶媒溶解性、耐熱性、透明性などにおいて優れた特性を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂は、フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを重合成分とするポリエステル樹脂である。このようなポリエステル樹脂において、代表的には、ジオール成分(A1)は下記式(1)で表されるジオールであり、ジカルボン酸成分(B1)は下記式(2)又は(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体であってもよい。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、環ZおよびZは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3aおよびR3bは同一又は異なってアルキレン基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数、n1およびn2は0又は1以上の整数である。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R4aおよびR4bは、同一又は異なって置換基を示し、R5aおよびR5bは置換基を有していてもよい二価の炭化水素基を示す。p1およびp2は、同一又は異なって、0〜4の整数である。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R6a、R6bおよびRは、同一又は異なって置換基を示す。q1およびq2は、同一又は異なって0〜3の整数であり、rは0〜2の整数である。)
前記式(1)において、環ZおよびZはベンゼン環又はナフタレン環であってもよく、基R3aおよびR3bはC2−4アルキレン基であってもよい。また、前記式(2)において基R5aおよびR5bは、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレン−シクロアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又は置換基を有していてもよいアルキレン−アリーレン基であってもよい。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂において、ジオール成分に対するフルオレン骨格を有するジオールの割合およびジカルボン酸成分に対するフルオレン骨格を有するジカルボン酸の割合は、ポリエステル樹脂に多くのフルオレン骨格を導入するという観点からは、できるだけ高いのが好ましく、例えば、ジオール成分(A1)の割合はジオール成分(A)全体に対して70モル%以上であってもよく、ジカルボン酸成分(B1)の割合はジカルボン酸成分(B)全体に対して70モル%以上であってもよい。
【0017】
代表的な本発明のポリエステル樹脂には、(1)ジオール成分(A1)が、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンから選択された少なくとも1種であり、(2)ジカルボン酸(B1)が、アルキル基に置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C1−4アルキル)フルオレン、フルオレンの9位に置換基を有していてもよいジカルボキシフルオレンおよびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種であり、(3)ジオール成分(A1)の割合がジオール成分(A)全体に対して90モル%以上であり、かつ(4)ジカルボン酸成分(B1)の割合がジカルボン酸成分(B)全体に対して90モル%以上であるポリエステル樹脂などが含まれる。
【0018】
特に、前記ジオール成分(A1)は、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン(特に、9,9−ビス(ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン)で構成してもよい。
【0019】
本発明の新規なポリエステル樹脂は、高耐熱性や高屈折率などの優れた特性を有しており、例えば、ガラス転移温度は105〜250℃程度であってもよく、屈折率は波長589nmにおいて1.63以上であってもよい。
【0020】
本発明の新規なポリエステル樹脂は、フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを反応(重縮合反応)させることにより製造できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、フルオレン骨格を有するジオール成分とフルオレン骨格を有するジカルボン酸成分とを組み合わせることにより、新規なポリエステル樹脂が得られる。このような新規なポリエステル樹脂は、従来のフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂に比べて、耐熱性および屈折率において著しく向上したポリエステル樹脂である。また、本発明の新規なポリエステル樹脂は、耐熱性、光学的特性、溶媒溶解性などの各種特性に優れており、優れた樹脂特性をバランスよく有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は、フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを重合成分とする新規なポリエステル樹脂である。
【0023】
[ジオール成分(A)]
(フルオレン骨格を有するジオール成分(A1))
ジオール成分(A)を構成するジオール成分(A1)は、フルオレン骨格を有する限り特に限定されないが、通常、下記式(1)で表されるジオールであってもよい。
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、環ZおよびZは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3aおよびR3bは同一又は異なってアルキレン基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数を示し、n1およびn2は0又は1以上の整数を示す。)
上記式(1)において、環Zおよび環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式炭化水素環に対応する縮合多環式炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合2乃至4環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式炭化水素としては、縮合多環式芳香族炭化水素(ナフタレン、アントラセンなど)が挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、環ZおよびZはそれぞれ同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0026】
好ましい環ZおよびZには、ベンゼン環およびナフタレン環が含まれ、特にベンゼン環が好ましい。
【0027】
また、基R1aおよびR1bで表される置換基としては、特に限定されず、通常、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基を含む基)又はカルボキシル基(又はカルボキシル基を含む基)以外の置換基、例えば、シアノ基、炭化水素基(例えば、アルキル基など)などであってもよく、特に、アルキル基である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。基R1aおよびR1bは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、k1(又はk2)が2以上である場合、基R1a(又はR1b)は、同一のベンゼン環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。なお、フルオレン骨格を構成するベンゼン環に対する基R1a(又はR1b)の結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数k1およびk2は、0又は1、特に0である。なお、置換数k1及びk2は、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0028】
環Z及び環Z(以下、これらをまとめて環Zということがある)に置換する置換基R2aおよびR2bとしては、通常、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基を含む基)又はカルボキシル基(又はカルボキシル基を含む基)以外の置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−4アルコキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など);ニトロ基;シアノ基;カルボキシル基;アミノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0029】
好ましい置換基R2aおよびR2bは、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)などの炭化水素基であり、特に、C1−4アルキル基(特にメチル基)、C1−4アルコキシ基、C6−8アリール基などが好ましい。置換基R2aおよびR2bは、同一の環(環Z又は環Z)において、単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい。また、異なる環ZおよびZに置換する置換基R2aおよびR2bは互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。
【0030】
置換基R2aおよびR2bの置換数m1およびm2は、それぞれ、環Zおよび環Zの種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4程度であってもよい。特に、環Zおよび環Zが、ベンゼン環である場合には、置換数m1およびm2は、それぞれ、0〜3、好ましくは1〜2、特に1である。なお、置換数m1およびm2は、それぞれの環ZおよびZにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。なお、置換基R2aおよびR2bの置換位置は、特に限定されず、例えば、環Zがフェニル基である場合、フェニル基の2〜6位(例えば、2位、5位、2,5−位など)の適当な位置に置換できる。
【0031】
3aおよびR3bで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−4アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基など)などが例示でき、特に、C2−3アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基)が好ましい。なお、R3aおよびR3bは互いに同一の又は異なるアルキレン基であってもよいが、通常、同一のアルキレン基である。
【0032】
オキシアルキレン基の置換数(付加数)n1およびn2は、同一又は異なって、0〜15程度の範囲から選択でき、例えば、0〜12(例えば、1〜12)、好ましくは0〜8(例えば、1〜8)、さらに好ましくは0〜6(例えば、1〜6)、特に0〜4(例えば、1〜4)程度であってもよい。また、n1とn2の和(n1+n2)は、0〜30程度の範囲から選択でき、例えば、0〜24(例えば、2〜24)、好ましくは0〜16(例えば、2〜12)、さらに好ましくは0〜12(例えば、2〜12)、特に0〜8(例えば、2〜8)程度であってもよい。なお、n1(又はn2)が2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、異種のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)が混在して構成されていてもよいが、通常、同一のオキシアルキレン基で構成されている場合が多い。
【0033】
代表的なフルオレン骨格を有するジオール(A1)としては、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0034】
9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン)など]、置換基を有する9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(シクロアルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC5−8シクロアルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−8アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アラルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ベンジルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリールC1−2アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]など}などが挙げられる。
【0035】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC1−6アルキルフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−シクロアルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC5−8シクロアルキルフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC6−8アリールフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アラルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジ(C6−8アリールC1−4アルキル)フェニル]フルオレン}およびこれらの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、前記式(1)においてn1およびn2が2以上である9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシフェニル]フルオレン(n1=n2=2の化合物)など}などが挙げられる。
【0036】
9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン(又は6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール))、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フルオレン(又は5,5−(9-フルオレニリデン)−ジ(1−ナフトール))などの置換基を有していてもよい9,9−ビス(モノヒドロキシナフチル)フルオレン}などが挙げられる。
【0037】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシエトキシナフチル)]フルオレンなどの置換基を有していてもよい9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなど}などが挙げられる。
【0038】
なお、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、種々の合成方法、例えば、(a)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(b)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(c)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(d)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させてビスフェノールフルオレンを製造する方法(特開2003−221352号公報)などを利用して製造できる。また、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類は、前記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、ヒドロキシナフタレン類(例えば、ナフトールなどのナフトール類、ジヒドロキシナフタレンなどのポリヒドロキシナフタレン類)を使用することにより製造できる。
【0039】
さらに、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類は、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又は9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類と、基R3aOおよびR3bOに対応する化合物(アルキレンオキサイド、ハロアルカノールなど)とを反応させることにより得られる。例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンにエチレンオキサイドを付加することにより得てもよく、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンは、例えば、9,9−ビス[4−ヒドロキシフェニル]フルオレンと3−クロロプロパノールとをアルカリ条件下にて反応させることにより得てもよい。
【0040】
これらのフルオレン骨格を有するジオール成分(A1)は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0041】
好ましいフルオレン骨格を有するジオール成分(A1)には、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど]などが含まれる。特に、ジオール成分(A1)は、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン)などの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンで構成されているのが好ましい。
【0042】
なお、ジオール成分(A)は、フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で構成されている限り、他のジオール成分(ジオール成分(A1)以外のジオール成分)を含んでいてもよい。このような他のジオール成分(ジオール成分(A2))としては、例えば、脂肪族ジオール{例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールなど)、脂環族ジオール[例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5−8シクロアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロペンタンジメタノール、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−8シクロアルカンなど)など]など}、芳香族ジオール{ジヒドロキシアレーン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、芳香脂肪族ジオール[例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーンなど]、ビフェノール、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカンなど]などが挙げられる。他のジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0043】
ジオール成分(A)において、フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)の割合は、ジオール成分(A)全体に対して、例えば、30モル%以上(例えば、40〜100モル%程度)、好ましくは50モル%以上(例えば、60〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、80〜95モル%程度)であってもよく、通常90モル%以上(例えば、95モル%以上)であってもよい。
【0044】
なお、必要に応じて、ジオール成分に加えて、ポリオール成分(グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのアルカンポリオール、フルオレン骨格を有するポリオール(ビスカテコールフルオレンなど)など)を少量使用してもよい。
【0045】
[ジカルボン酸成分(B)]
ジカルボン酸成分(B)を構成するフルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)は、フルオレン骨格を有する限り特に制限されないが、通常、下記式(2)又は(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体であってもよい。
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、R4aおよびR4bは、同一又は異なって置換基を示し、R5aおよびR5bは置換基を有していてもよい二価の炭化水素基を示す。p1およびp2は、同一又は異なって、0〜4の整数である。)
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、R6a、R6bおよびRは、同一又は異なって置換基を示す。q1およびq2は、同一又は異なって0〜3の整数であり、rは0〜2の整数である。)
上記式(2)において、基R4aおよびR4bで表される置換基としては、前記式(1)における置換基R1aおよびR1bで例示した置換基と同様の基(例えば、アルキル基など)が挙げられる。基R4aおよびR4bもまた、通常、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基を含む基)又はカルボキシル基(又はカルボキシル基を含む基)以外の置換基である場合が多い。基R4aおよびR4bは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、p1(又はp2)が2以上である場合、基R4a(又はR4b)は、同一のベンゼン環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。なお、フルオレン骨格を構成するベンゼン環に対する基R4a(又はR4b)の結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数p1およびp2は、0又は1、特に0である。なお、置換数p1及びp2は、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0050】
また、前記式(2)において、基R5aおよびR5bで表される二価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基{例えば、アルキレン基(又はアルキリデン基、例えば、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン−2−イリデン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン−2,3−ジイル基などのC1−8アルキレン基、好ましくはC1−4アルキレン基)、シクロアルキレン基(例えば、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基などのC5−10シクロアルキレン基(好ましくはC5−8シクロアルキレン基)、アルキレン(又はアルキリデン)−シクロアルキレン基[又はシクロアルキレン−アルキレン基、例えば、メチレン−シクロへキシレン基、エチレン−シクロへキシレン基、エチレン−メチルシクロへキシレン基、エチリデン−シクロへキシレン基などのC1−6アルキレン−C5−10シクロアルキレン基(好ましくはC1−4アルキレン−C5−8シクロアルキレン基)などの脂環式炭化水素基、ビ又はトリシクロアルキレン基(ノルボルナン−ジイル基など)などの橋架環式炭化水素基など]など}、芳香族炭化水素基{例えば、アリーレン基(フェニレン基、ナフタレンジイル基などのC6−10アリーレン基)、アルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基[又はアリーレン−アルキレン基、例えば、メチレン−フェニレン基、エチレン−フェニレン基、エチレン−メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基などのC1−6アルキレン−C6−20アリーレン基(好ましくはC1−4アルキレン−C6−10アリーレン基、好ましくはC1−2アルキレン−フェニレン基)などの芳香脂肪族炭化水素基など]など}が例示できる。なお、アルキレン−シクロアルキレン基およびアルキレン−アリーレン基とは、−R−R−(式中、Rはアルキレン基、Rはシクロアルキレン基又はアリーレン基を示す)で表される基を示す。また、基R5aおよびR5bで表される二価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記式(1)における置換基R2aおよびR2bで例示した置換基と同様の基(例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの炭化水素基)が挙げられる。
【0051】
前記式(3)において、基R6aおよびR6bで表される置換基としては、前記式(1)における置換基R1aおよびR1bで例示した置換基と同様の基(例えば、シアノ基、アルキル基など)が挙げられる。基R6aおよびR6bもまた、通常、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基を含む基)又はカルボキシル基(又はカルボキシル基を含む基)以外の置換基である場合が多い。基R6aおよびR6bは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、q1(又はq2)が2以上である場合、基R6a(又はR6b)は、同一のベンゼン環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。なお、フルオレン骨格を構成するベンゼン環に対する基R6a(又はR6b)の結合位置(置換位置)は、カルボキシル基の置換位置に応じて適宜選択できる。好ましい置換数q1およびq2は、0又は1、特に0である。なお、置換数q1及びq2は、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0052】
また、前記式(3)において、基Rで表される置換基としては、前記式(1)における置換基R2aおよびR2bで例示した置換基と同様の基(例えば、アルキル基などの炭化水素基)が挙げられる。置換基Rもまた、通常、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基を含む基)又はカルボキシル基(又はカルボキシル基を含む基)以外の置換基である場合が多い。好ましい置換基Rには、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基)などが挙げられる。なお、rが2以上である場合、複数の基Rは、同一又は異なっていてもよい。
【0053】
代表的なフルオレン骨格を有するジカルボン酸成分としては、例えば、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−シクロヘキシルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−フェニルエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−カルボキシプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシブチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルブチル)フルオレン、9,9−ビス(5−カルボキシペンチル)フルオレンなどのアルキル基に置換基(C1−4アルキル基、C5−8シクロアルキル基、C6−10アリール基など)を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C1−6アルキル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシシクロアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(1−カルボキシシクロヘキシル)フルオレンなどの置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C5−8シクロアルキル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレンなどの置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C6−10アリール)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシアリール−アルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシベンジル)フルオレンなどの置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシC6−10アリール−C1−4アルキル)フルオレンなど]、ジカルボキシフルオレン類[例えば、ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシフルオレン(又はフルオレン−2,7−ジカルボン酸)など)、9,9−ジアルキル−ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジメチルフルオレン(又は9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸)、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジヘキシルフルオレン、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジオクチルフルオレンなどの9,9−ジC1−20アルキル−ジカルボキシフルオレン、好ましくは9,9−ジC1−16アルキル−ジカルボキシフルオレン、さらに好ましくは9,9−ジC1−12アルキル−ジカルボキシフルオレンなど)などのフルオレンの9位に置換基を有するジカルボキシフルオレンなど]、これらの化合物にさらに置換基(アルコキシ基、アシル基など)が置換した化合物などが例示できる。
【0054】
また、ジカルボン酸成分(B1)には、フルオレン骨格を有するジカルボン酸(前記式(2)又は(3)で表されるジカルボン酸)の誘導体も含まれる。誘導体としては、エステル結合を形成することが可能なジカルボン酸誘導体(エステル形成性ジカルボン酸誘導体)であれば特に限定されず、例えば、ジカルボン酸ハライド(例えば、ジカルボン酸クロリド)、ジカルボン酸エステル[例えば、C1−4アルキルエステル(メチルエステルなど)などのジカルボン酸低級アルキルエステルなど]、ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0055】
これらのフルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0056】
好ましいフルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)には、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン類(例えば、アルキル基に置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C1−4アルキル)フルオレンなど)、ジカルボキシフルオレン類[フルオレンの9位に置換基(アルキル基など)を有していてもよいジカルボキシフルオレンなど]、これらの誘導体などが含まれる。
【0057】
なお、ジカルボン酸成分(B)は、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で構成されている限り、他のジカルボン酸成分(ジカルボン酸成分(B1)以外のジオール成分)を含んでいてもよい。このような他のジカルボン酸成分(ジカルボン酸成分(B2))としては、例えば、アルカンジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸などのC2−20アルカン−ジカルボン酸、好ましくはC2−14アルカン−ジカルボン酸など)などの脂肪族ジカルボン酸;シクロアルカンジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸など)などの脂環族ジカルボン酸;アレーンジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸など)、ビフェニルジカルボン酸(2,2’−ビフェニルジカルボン酸など)、ジフェニルアルカンジカルボン酸(4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸など)、ジフェニルケトンジカルボン酸(4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸など)などの芳香族ジカルボン酸、これらの誘導体(ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物など)などが挙げられる。他のジカルボン酸成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0058】
ジカルボン酸成分(B)において、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)の割合は、ジカルボン酸成分(B)全体に対して、例えば、30モル%以上(例えば、40〜100モル%程度)、好ましくは50モル%以上(例えば、60〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、80〜95モル%程度)であってもよく、通常90モル%以上(例えば、95モル%以上)であってもよい。
【0059】
なお、必要に応じて、ジカルボン酸成分に加えて、ポリカルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、フルオレン骨格を有するポリカルボン酸(例えば、特開2006−151833号公報に記載のフルオレンポリカルボン酸エステルに対応するポリカルボン酸など)など)を少量使用してもよい。
【0060】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、例えば、3000〜500000程度の範囲から選択でき、例えば、5000〜300000、好ましくは8000〜200000、さらに好ましくは10000〜150000程度であってもよく、通常7000〜100000(例えば、11000〜70000)程度であってもよい。なお、前記ポリエステル樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、例えば、1〜4、好ましくは1.3〜3.5、さらに好ましくは1.5〜3程度であってもよく、通常1.7〜2.7(例えば、1.8〜2.5)程度であってもよい。
【0061】
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分およびジカルボン酸成分の双方をフルオレン骨格を有する化合物で構成しており、ポリマーの構造にフルオレン骨格が多く導入されているため、熱的特性(耐熱性など)、光学的特性などの各種特性に優れている。例えば、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、100〜300℃、好ましくは105〜250℃、さらに好ましくは110〜230℃程度であってもよく、通常115〜250℃(例えば、120〜240℃)程度であってもよい。
【0062】
また、前記ポリエステル樹脂の屈折率は、波長589nmにおいて、例えば、1.6以上(例えば、1.61〜1.8程度)、好ましくは1.62以上(例えば、1.625〜1.75程度)、さらに好ましくは1.63以上(例えば、1.635〜1.7程度)であり、通常1.63〜1.66(例えば、1.635〜1.65程度)であってもよい。
【0063】
[製造方法]
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジオール成分(A)と前記ジカルボン酸成分(B)とを反応(縮合反応)させることにより得ることができる。縮合反応(重縮合反応)は、一般的なポリエステル樹脂の合成に用いられる方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などを利用して製造できる。
【0064】
反応において、ジオール成分(A)と、ジカルボン酸成分(B)との割合は、これら成分の当量比をベースに適宜選択できる。例えば、ジオール成分(A)の割合は、ジカルボン酸成分1モルに対して、0.7〜1.5モル、好ましくは0.9〜1.1モル、さらに好ましくは0.95〜1.05モル程度であってもよく、通常約1モル程度である。
【0065】
反応(縮合反応、重合反応)は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒の存在下で行ってもよい。なお、溶媒は、反応温度において液体である成分であればよい。例えば、常温において固体であっても、反応温度において液状となる成分であってもよい。代表的な溶媒(有機溶媒)としては、エーテル系溶媒[ジフェニルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など]、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、トリクロロビフェニルなどのハロゲン化芳香族炭化水素類)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、複素環化合物(N−メチル−2−ピロリドンなど)、スルホン系溶媒(スルホラン、ジメチルスルホンなどの脂肪族スルホン、ジフェニルスルホンなどの芳香族スルホンなど)などが挙げられる。これらの溶媒のうち、ジフェニルエーテル、トリクロロビフェニルなどの高沸点溶媒[例えば、沸点が180℃以上(例えば、200〜500℃、好ましくは210〜450℃、さらに好ましくは220〜400℃程度)の溶媒など]が好ましい。前記溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0066】
反応(縮合反応、重合反応)は、触媒の存在下で行ってもよい。前記触媒としては、特に限定されず、例えば、金属水酸化物(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属酸化物など)、金属炭酸塩(炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩など)、アミン類(例えば、イミダゾール類、ベンゾトリアゾール類など)、ホスフィン類(トリフェニスホスフィンなど)、第4級アンモニウム塩(塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのハロゲン化テトラアルキルアンモニウム;塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムなどの塩化ベンジルトリアルキルアンモニウムなど)、第四級ホスホニウム塩(塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムなど)、アルミニウム化合物(トリアルキルアルミニウムなど)、ゲルマニウム化合物、スズ化合物(塩化スズ、スズカルボキシレート類など)、チタン化合物(チタンアルコキシドなど)などが例示できる。特に、第4級アンモニウム塩などを触媒として使用すると、前記ジオール成分及び前記ジカルボン酸の双方を効率よく活性化できる。触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0067】
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて調整でき、ジオール成分(A)及びジカルボン酸成分(B)の総量1モルに対して、0〜1モルの範囲から選択でき、例えば、0.0001〜0.5モル、通常、0.001〜0.3モル、好ましくは0.003〜0.2モル、さらに好ましくは0.005〜0.1モル程度であってもよい。
【0068】
重合反応は、通常、加熱下で行ってもよく、例えば、120〜350℃、好ましくは140〜330℃、さらに好ましくは160〜300℃(例えば、170〜250℃)程度で行う場合が多い。加熱は、昇温及び/又は降温操作などを適宜利用してもよく、略一定の温度にて一段階で行ってもよく、異なる温度で複数段階の加熱を行ってもよい。なお、反応時間は、例えば、20分〜24時間、好ましくは30分〜18時間、さらに好ましくは1〜12時間(例えば、1〜6時間)程度であってもよい。
【0069】
分子量分布幅が狭く、均一でポリマーを得る場合には、複数の工程で加熱して重合を行ってもよい。複数の加熱工程では、順次加熱温度を高くする場合が多い。例えば、二段階加熱において、一段階目の加熱温度は、例えば、100〜160℃、好ましくは110〜150℃であってもよい。また、二段階目の加熱温度は、例えば、165〜350℃、好ましくは170〜300℃、さらに好ましくは180〜250℃程度であってもよい。なお、複数段階の加熱により重合を行う場合、後続の加熱温度への移行は連続的に行ってもよく、時間的間隔を置いて行ってもよい。なお、二段階加熱による重合反応では、一段階目及び二段階目の加熱時間は、それぞれ、例えば、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは1.5〜6時間程度の範囲から適宜選択できる。なお、反応は、攪拌しながら行ってもよい。
【0070】
反応は、空気中で行ってもよいが、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で行ってもよい。また、反応は、常圧下、加圧下、又は減圧下でおこなってもよい。例えば、反応は、加熱後、縮合反応により生成する成分(水、塩化水素など)を反応系外に除去しながら行うため減圧下で行ってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)などにより確認(又は追跡)できる。
【0071】
なお、反応終了後、生成物であるポリエステル樹脂は、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の新規なポリエステル樹脂は、透明性、耐熱性などの各種特性に優れている。特に、ポリマー主鎖の大部分がフルオレン骨格で構成されているため、高い屈折率、低複屈折などの優れた光学的特性も有している。また、添加剤分散性にも優れ、各種添加剤[例えば、充填剤又は補強剤、着色剤(染顔料)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤(天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸やその金属塩、酸アミド類、エステル類、パラフィン類など)、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤(シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)、耐熱性改良剤(硫黄化合物やポリシランなど)、炭素材など]を含む成形材料としても好適である。さらに、主鎖の大部分がフルオレン骨格で形成されているにもかかわらず、溶媒溶解性に優れており、成形加工性においても優れている。
【0073】
そのため、本発明の新規なポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物)は、光学レンズ、光学フィルム、光学シート、ピックアップレンズ、ホログラム、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどに好適に利用できる。また、本発明の樹脂組成物又はその成形体(例えば、機能発現剤(色素など)を含有する樹脂組成物およびその成形体)は、塗料、帯電防止材、帯電トレイ、導電シート、保護膜(電子機器、液晶部材などの保護膜など)、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザー、感熱記録材料、ホログラム記録材料、色素増感型太陽電池、EMIシールドフィルム、フォトクロミック材料、有機EL素子、有機感光体、カラーフィルタ、摺動部材、自動車部品材料、航空・宇宙材料、キャリア輸送剤、インキ、接着剤、粘着剤、建材、内装材、樹脂充填材、着色ガラス、発光体、センサーなどに好適に利用できる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
ポリエステル樹脂の特性は以下の方法により測定又は評価した。
【0076】
(1)数平均分子量測定
ポリエステル樹脂の分子量(数平均分子量Mn)及びその分布(Mw/Mn)は、溶出液としてクロロホルムを用い、30℃(流速0.085mL/分)の条件で、2本の連続した線状ポリスチレンゲルカラム(Tosoh TSKgel G5000HXL、G4000HXL)を備えたJASCO Gulliverにより、ポリスチレン標準で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
【0077】
(2)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量計(島津製作所(株)製、「DSC−60」)を用い、50mL/分の窒素流下、10℃/分の昇温条件で測定した。
【0078】
(3)熱重量分析(TGA)
熱重量分析(TGA)は、島津製作所(株)製、「TGA−50」装置を用いて、窒素雰囲気下及び空気雰囲気(流量50ml/分)中、加熱速度10℃/分で行い、熱分解温度を測定した。
【0079】
(4)FT−IRスペクトル
FT−IRスペクトルは、JASCO製、FT−IR−230分光光度計によって記録した。
【0080】
(5)H−NMRスペクトル
H−NMRスペクトルは、内標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてCDClを用いて、JEOL GTX−400分光計によって記録した。
【0081】
(6)溶媒溶解性
ポリエステル樹脂3mgを表に示す溶媒3mLに混合し、溶媒溶解性を以下の基準で評価した。
【0082】
◎…瞬時に溶解した
○…溶解した
△…加熱により溶解した
−…溶解しなかった。
【0083】
(7)光線透過率
「UV−3600」(島津製作所(株)製)を用い、厚み0.1mmのサンプルについて、表4に示す特定波長での光線透過率を測定した。なお、サンプルは、得られたポリエステル樹脂を2%の濃度でジオキサン(実施例1〜4)又はテトラヒドロフラン(実施例5)に溶解した溶液をガラスシャーレに塗布し、ゆっくりと乾燥させ、乾固後に90℃で一晩乾燥して作成したものを用いた。
【0084】
(8)屈折率:多波長アッベ屈折計「DR−M2/1550」(アタゴ(株)製)を用い、表3に示した各波長での屈折率を測定した。なお、サンプルは、得られたポリエステル樹脂を2重量%の濃度でジオキサンに溶解した溶液をガラスシャーレに塗布し、自然乾燥後、一晩100℃で減圧乾燥して作成したものを用いた。
【0085】
(9)熱延伸性:幅5mmに切り出したシート状サンプルを、150〜190℃に加熱したホットプレートに微接触させた状態で延伸した。なお、延伸倍率は、シート状サンプルの長さ方向に5mm間隔でスポットを付し、延伸後のスポット間の距離Xmmから算出した(すなわち、延伸倍率=X/5)。
【0086】
(10)位相差特性
測定装置として、偏光顕微鏡「OPTIPHOT−POL」(ニコン製)を用いて、波長546nmにおけるレタデーション値Reを測定した。なお、測定時のサンプル厚みは、実施例1では0.0633mm、実施例2では0.0853mm、実施例3では0.1147mm、実施例4では0.1440mm、実施例5では0.0503mmであった。
【0087】
(11)成膜性(フィルム特性)
ポリエステル樹脂をクロロホルムに溶解し、3%溶液を得た。この溶液をフィルター(ポアサイズ0.45μm)で濾過し、テフロン(登録商標)プレートの上に展延した。その後、室温で24時間放置した。さらに、乾燥オーブンにより60℃で24時間乾燥し、得られたフィルムの成膜性を評価した。
【0088】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、マグネチックスターラーおよび乾燥管を備えた二口丸底フラスコ(100mL)中で、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン1.75g(4mmol)、9,9−ビス(2−クロロカルボニルエチル)フルオレン1.39g(4mmol)、およびベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.0800mmolを15mLのジフェニルエーテルに溶解した混合物を、185℃で2時間攪拌しつつ加熱することにより重合反応を行った。得られた反応混合物を40mLのメタノールに注ぎ、生成したポリマーの白色沈殿物を濾過により集めたのち、ジフェニルエーテルを除去するため、メタノールおよび水で数回洗浄した。得られたポリマーを30mLのクロロホルムに溶解し、350mLのメタノール中で再沈殿させた。再沈殿させたポリマーを濾過およびメタノールで洗浄し、80℃で24時間乾燥し、下記式で表されるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を得た(収率95%)。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは22000、分子量分布Mw/Mnは2.1であった。
【0089】
【化7】

【0090】
以下に、得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルデータおよびH−NMRスペクトルデータを示す。
【0091】
FT−IR(KBr):1740cm−1(C=O),1240cm−1(C−O),1600−1400cm−1(C=C).
H−NMR(400MHz,CDCl,d):7.72ppm(8H),7.63ppm(8H),7.31−7.20ppm(16H),4.13ppm(8H),3.90ppm(8H),2.37ppm(8H)。
【0092】
また、得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートおよびH−NMRスペクトルチャートをそれぞれ図1および図2に示す。
【0093】
(実施例2)
アルゴン雰囲気下、マグネチックスターラーおよび乾燥管を備えた二口丸底フラスコ(100mL)中で、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン1.75g(4mmol)、および2,7−ジ(クロロカルボニル)−9,9−ジメチルフルオレン1.27g(4mmol)を15mLのジフェニルエーテルに溶解した混合物を、185℃で2時間攪拌しつつ加熱することにより重合反応を行った。得られた反応混合物を40mLのメタノールに注ぎ、生成したポリマーの白色沈殿物を濾過により集めたのち、ジフェニルエーテルを除去するため、メタノールおよび水で数回洗浄した。得られたポリマーを30mLのクロロホルムに溶解し、350mLのメタノール中で再沈殿させた。再沈殿させたポリマーを濾過およびメタノールで洗浄し、80℃で24時間乾燥し、下記式で表されるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を得た(収率95%)。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは53000、分子量分布Mw/Mnは2.4であった。
【0094】
【化8】

【0095】
得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートおよびH−NMRスペクトルチャートをそれぞれ図3および図4に示す。
【0096】
(実施例3)
アルゴン雰囲気下、マグネチックスターラーおよび乾燥管を備えた二口丸底フラスコ(100mL)中で、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン1.87g(4mmol)、9,9−ビス(2−クロロカルボニルエチル)フルオレン1.39g(4mmol)、およびベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.0800mmolを15mLのジフェニルエーテルに溶解した混合物を、185℃で2時間攪拌しつつ加熱することにより重合反応を行った。得られた反応混合物を40mLのメタノールに注ぎ、生成したポリマーの白色沈殿物を濾過により集めたのち、ジフェニルエーテルを除去するため、メタノールおよび水で数回洗浄した。得られたポリマーを30mLのクロロホルムに溶解し、350mLのメタノール中で再沈殿させた。再沈殿させたポリマーを濾過およびメタノールで洗浄し、80℃で24時間乾燥し、下記式で表されるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を得た(収率95%)。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは24000、分子量分布Mw/Mnは3であった。
【0097】
【化9】

【0098】
得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートおよびH−NMRスペクトルチャートをそれぞれ図5および図6に示す。
【0099】
(実施例4)
アルゴン雰囲気下、マグネチックスターラーおよび乾燥管を備えた二口丸底フラスコ(100mL)中で、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン1.87g(4mmol)、および2,7−ジ(クロロカルボニル)−9,9−ジメチルフルオレン1.27g(4mmol)を15mLのジフェニルエーテルに溶解した混合物を、185℃で2時間攪拌しつつ加熱することにより重合反応を行った。得られた反応混合物を40mLのメタノールに注ぎ、生成したポリマーの白色沈殿物を濾過により集めたのち、ジフェニルエーテルを除去するため、メタノールおよび水で数回洗浄した。得られたポリマーを30mLのクロロホルムに溶解し、350mLのメタノール中で再沈殿させた。再沈殿させたポリマーを濾過およびメタノールで洗浄し、80℃で24時間乾燥し、下記式で表されるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を得た(収率95%)。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは34000、分子量分布Mw/Mnは3であった。
【0100】
【化10】

【0101】
得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートおよびH−NMRスペクトルチャートをそれぞれ図7および図8に示す。
【0102】
(実施例5)
アルゴン雰囲気下、マグネチックスターラーおよび乾燥管を備えた二口丸底フラスコ(100mL)中で、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン1.40g(4mmol)、および2,7−ジ(クロロカルボニル)−9,9−ジメチルフルオレン1.27g(4mmol)を15mLのジフェニルエーテルに溶解した混合物を、185℃で2時間攪拌しつつ加熱することにより重合反応を行った。得られた反応混合物を40mLのメタノールに注ぎ、生成したポリマーの白色沈殿物を濾過により集めたのち、ジフェニルエーテルを除去するため、メタノールおよび水で数回洗浄した。得られたポリマーを30mLのクロロホルムに溶解し、350mLのメタノール中で再沈殿させた。再沈殿させたポリマーを濾過およびメタノールで洗浄し、80℃で24時間乾燥し、下記式で表されるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を得た(収率95%)。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは25000、分子量分布Mw/Mnは2.1であった。
【0103】
【化11】

【0104】
得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートおよびH−NMRスペクトルチャートをそれぞれ図9および図10に示す。
【0105】
実施例で得られたポリエステル樹脂について、熱的特性を測定した結果を表1に示す。なお、表1において、「Tg」とはガラス転移温度を示し、「Td」とは、熱分解温度を示し、「N」は窒素雰囲気下、「Air」とは空気雰囲気下での測定値であることを示し、「5%」などの値は、ポリマー重量が5%減少する温度を示す。例えば、T(5%,N2)とは、窒素雰囲気下において、ポリマー全体の5重量%が減少する温度を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
また、実施例で得られたポリエステル樹脂について、溶媒溶解性を評価した結果を表2に示す。なお、表2において、「NMP」はN−メチルピロリドン、「DMSO」はジメチルスルホキシド、「THF」はテトラヒドロフラン、「DMF」はジメチルホルムアミド、「DMAc」はジメチルアセトアミドを示す。
【0108】
【表2】

【0109】
また、実施例で得られたポリエステル樹脂の特定波長における光線透過率を表3に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
さらに、実施例で得られたポリエステル樹脂について、屈折率、熱延伸性、位相差特性を評価した結果を表4に示す。
【0112】
【表4】

【0113】
また、実施例で得られたポリエステル樹脂について、成膜性を評価した結果を表5に示す。
【0114】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、実施例1で得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートである。
【図2】図2は、実施例1で得られたポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルチャートである。
【図3】図3は、実施例2で得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートである。
【図4】図4は、実施例2で得られたポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルチャートである。
【図5】図5は、実施例3で得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートである。
【図6】図6は、実施例3で得られたポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルチャートである。
【図7】図7は、実施例4で得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートである。
【図8】図8は、実施例4で得られたポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルチャートである。
【図9】図9は、実施例5で得られたポリエステル樹脂のIRスペクトルチャートである。
【図10】図10は、実施例5で得られたポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを重合成分とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
ジオール成分(A1)が下記式(1)で表されるジオールであり、ジカルボン酸成分(B1)が下記式(2)又は(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【化1】


(式中、環ZおよびZは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3aおよびR3bは同一又は異なってアルキレン基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数、n1およびn2は0又は1以上の整数である。)
【化2】


(式中、R4aおよびR4bは、同一又は異なって置換基を示し、R5aおよびR5bは置換基を有していてもよい二価の炭化水素基を示す。p1およびp2は、同一又は異なって、0〜4の整数である。)
【化3】


(式中、R6a、R6bおよびRは、同一又は異なって置換基を示す。q1およびq2は、同一又は異なって0〜3の整数であり、rは0〜2の整数である。)
【請求項3】
式(1)において、環ZおよびZがベンゼン環又はナフタレン環であり、基R3aおよびR3bがC2−4アルキレン基であり、式(2)において基R5aおよびR5bが、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキレン−シクロアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又は置換基を有していてもよいアルキレン−アリーレン基である請求項2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
ジオール成分(A1)の割合がジオール成分(A)全体に対して70モル%以上であり、かつジカルボン酸成分(B1)の割合がジカルボン酸成分(B)全体に対して70モル%以上である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
(1)ジオール成分(A1)が、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンから選択された少なくとも1種であり、(2)ジカルボン酸(B1)が、アルキル基に置換基を有していてもよい9,9−ビス(カルボキシ−C1−4アルキル)フルオレン、フルオレンの9位に置換基を有していてもよいジカルボキシフルオレンおよびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種であり、(3)ジオール成分(A1)の割合がジオール成分(A)全体に対して90モル%以上であり、かつ(4)ジカルボン酸成分(B1)の割合がジカルボン酸成分(B)全体に対して90モル%以上である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
ジオール成分(A1)が、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンで構成されている請求項5記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
ガラス転移温度が105〜250℃であり、屈折率が波長589nmにおいて1.63以上である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
フルオレン骨格を有するジオール成分(A1)で少なくとも構成されたジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)で少なくとも構成されたジカルボン酸成分(B)とを反応させる請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−69224(P2008−69224A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247927(P2006−247927)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】