説明

フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂及びその製造方法

【課題】優れた光学特性を有するとともに、成形性などの特性が改良された新規なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される単位を含むポリエステル樹脂。


(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、環Zは芳香族又は脂肪族炭化水素環を示し、Aはアルキレン基を示し、Rは同一又は異なって、炭化水素基などを示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Xはエーテル基を示し、Rはアルキル基を示し、mは0以上の整数、nは0以上の整数、kは0〜4の整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(詳細には、9,9−ビスアリールフルオレン骨格)を有し、成形性や溶剤溶解性などの特性が改質された新規なポリエステル樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物を用いた樹脂は、高いガラス転移温度を有し、耐熱性に優れ、かつ高屈折率であり、光学特性にも優れているため、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などをモノマーとして用いた樹脂が開発されている。しかし、フルオレン骨格を有する樹脂(フルオレン含有樹脂)は、ガラス転移温度が高く、成形性や溶剤に対する溶解性において改良の余地を残している。
【0003】
このようなフルオレン含有樹脂を、アルカリ現像処理によりパターン形成可能とするために、側鎖にカルボキシル基を導入する方法も提案されている。例えば、特開平9−304929号公報(特許文献1)には、9,9−ビス(ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンなどのフルオレン骨格を有するジオール成分とポリカルボン酸成分とを反応させることにより得られるアルカリ可溶性樹脂が開示されている。この文献の実施例では、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテルとビフェニルテトラカルボン酸などとを反応させて、側鎖にカルボキシル基が導入されたポリエステルが製造されている。
【0004】
しかし、このポリエステル樹脂は側鎖にカルボキシル基を有しているため、親水性に優れる反面、溶剤溶解性が低く、成形性も充分でない。
【0005】
一方、特開平9−309946号公報(特許文献2)には、主鎖が全芳香族ポリエステル構造を有し、主鎖中の少なくとも一部の芳香環に分岐構造を有する脂肪族側鎖が結合されている芳香族ポリエステルが提案されている。この文献では、ネオペンチルアルコールやイソプロピルアルコールなどのアルコールと無水ピロメリット酸とは反応させて得られたパラ体ジカルボン酸モノマーと、4,4−ビフェノールとを反応させて、溶剤溶解性及び/又は熱溶融性を有する芳香族ポリエステルを製造している。
【0006】
しかし、この芳香族ポリエステルは、フルオレン含有ポリエステルに比べて、成形加工性、屈折率が低く、光学特性が充分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−304929号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開平9−309946号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、優れた光学特性を有するとともに、成形性などの特性が改良された新規なポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、フルオレン骨格を有するにも拘わらず、溶剤溶解性にも優れる新規なポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、耐熱性に優れる新規なポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、主鎖にフルオレン骨格を有し、側鎖にカルボキシル基を有する線状ポリエステル樹脂に対して、グリシジル化合物(グリシジル基を有する化合物)を反応させることにより、優れた光学特性を有するとともに、成形性などの特性が改良された新規なポリエステル樹脂を見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される単位を含む。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Aはアルキレン基を示し、Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、環Zは芳香族又は脂肪族炭化水素環を示し、Xは連結基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、mは0以上の整数、nは0以上の整数、kは0〜4の整数である)。
【0015】
前記式(1)において、Rは炭素数6以上のアルキル基(特に分岐鎖状C6−12アルキル基)であってもよい。Xはエーテル基であってもよい。環Zは芳香族炭化水素環(特にビフェニル環)であってもよい。本発明のポリエステル樹脂は、ケトン類、セロソルブ類、カルビトール類、及びグリコールエーテルエステル類から選択された少なくとも一種の有機溶媒に可溶であってもよい。本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が80〜140℃であってもよい。
【0016】
本発明には、少なくとも下記式(2)で表される化合物を含むジオール成分と、少なくとも下記式(3)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させた後、さらに下記式(4)で表されるグリシジル化合物を反応させて前記ポリエステル樹脂を製造する方法も含まれる。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、環Z及びZ、A、R〜R、X、m、n、kは前記に同じ)
なお、本明細書中、「9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン」とは、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン及び9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)フルオレンの両者を含む意味で用い、「ポリアルコキシ」とはジアルコキシ、トリアルコキシ、テトラアルコキシなどを含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、側鎖にカルボキシル基を有する線状ポリエステル樹脂に、グリシジル化合物(グリシジル基を有する化合物)を反応させてアルキル基などの炭化水素基が導入されているため、優れた光学特性を有するとともに、成形性などの特性が改良されている。また、反応性化合物としてアルキル基を有するグリシジル化合物(例えば、アルキルグリシジルエーテルなど)を用いることにより、疎水基が導入され、溶剤溶解性などを向上できる。さらに、テトラカルボン酸二無水物単位も芳香環(特にビフェニル骨格)で構成されているため、耐熱性や屈折性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される単位(又はユニット)を含んでいる。
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Aはアルキレン基を示し、R及びRは置換基を示し、環Zは芳香族又は脂肪族炭化水素環を示し、Xは連結基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、mは0以上の整数、nは0以上の整数、kは0〜4の整数である)。
【0023】
前記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、アントラセン環、フェナントレン環など)、縮合四環式炭化水素環(例えば、ピレン環、ナフタセン環など)の縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0024】
好ましい環Zには、ベンゼン環及びナフタレン環が含まれる。なお、環Zが、縮合多環式芳香族炭化水素環である場合、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0025】
基Aはアルキレン基である。アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、プロピリデン基、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルキレン基が挙げられる。これらのうち、エチレン基、プロピレン基などのC2−4アルキレン基(特にC2−3アルキレン基)が好ましい。なお、mが2以上であるとき、アルキレン基は異なるアルキレン基で構成されていてもよく、通常、同一のアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環Zにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0026】
オキシアルキレン基(OA)の繰り返し数(付加モル数)mは、0以上(例えば、0〜12)であればよく、例えば、0〜10(例えば、1〜8)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、繰り返し数mは、異なる環Zに対して、同一であっても、異なっていてもよい。
【0027】
(ポリ)オキシアルキレン基(又は直接結合)[−(OA)−]の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、(ポリ)オキシアルキレン基は、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位、(例えば、フェニル基の3位、4位など)に置換していればよく、好ましくは4位に置換していてもよい。また、(ポリ)オキシアルキレン基は、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に置換している場合が多い。
【0028】
環Zに置換する置換基Rとしては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基;アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−12アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基;アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0029】
これらのうち、基Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基であるのが好ましく、特に、好ましい基Rは、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)などである。特に、環Zがベンゼン環である場合、基Rは、C1−4アルキル基であってもよい。
【0030】
なお、同一の環Zにおいて、nが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位の適当な位置(例えば、3位、3,5位など)に置換していてもよい。
【0031】
また、好ましい置換数nは、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。特に、環Zがベンゼン環である場合、好ましい置換数nは、0〜4、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、2つの環Zにおいて、置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0032】
基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(特に、メチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0033】
環Zは芳香族又は脂肪族炭化水素環であり、芳香族炭化水素環は、前記環Zと同様のベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環の他、下記式(1a)で表される芳香環であってもよい。
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Xは、直接結合、−O−、−CO−、−S−、−SO−又は炭化水素基である)。
【0036】
における炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基などのC1−10アルキリデン基などが挙げられる。
【0037】
芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、ジフェニルエーテル環、ジフェニルチオエーテル環、ジフェニルスルホン環、ベンゾフェノン環、ジフェニルメタン環やジフェニルプロパン環などのジフェニルC1−10アルカン環などが挙げられる。
【0038】
なお、前記式(1a)で表される芳香族炭化水素環の場合、通常、2つの芳香族炭化水素環は、いずれもポリマー骨格を形成し、芳香族炭化水素環に置換する2つの基(Rを含む置換基)は、それぞれ、異なる芳香族炭化水素環に置換している。
【0039】
脂肪族炭化水素環としては、前記芳香族炭化水素環に水素添加された環などが使用できる。
【0040】
これらの芳香族又は脂肪族炭化水素環のうち、ベンゼン環やナフタレン環などの単環式又は縮合多環式芳香族炭化水素環、ビフェニル環などの前記式(1a)で表される芳香環などが好ましい。
【0041】
なお、環Zは式(1)におけるRで例示の置換基を有していてもよい。
【0042】
Xで表される連結基は、直接結合、−CO−O−(エステル基)、−S−、−NR−(式中、Rは、水素原子又はRで例示の炭化水素基である)などであってもよいが、樹脂の生産性(基Rの導入性)などの点から、−O−(エーテル基)が好ましい。
【0043】
基Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、炭化水素基としては、基Rとして例示されたアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基の他、長鎖アルキル基、アルケニル基、アルキルニル基などが挙げられる。置換基としても、基Rとして例示されたアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。
【0044】
これらの炭化水素基のうち、剛直なポリマー骨格を有するポリエステル樹脂を改質する点から、アルキル基が好ましく、用途に応じて、炭素数は1〜24程度の範囲から選択できるが、ポリエステル樹脂の成形性や溶剤溶解性を向上できる点から、炭素数5以上(特に炭素数6以上)のアルキル基、例えば、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−メチルオクチル基、デシル基、ラウリル基などの直鎖又は分岐鎖状C5−18アルキル基、好ましくはC6−12アルキル基、さらに好ましくはC7−11アルキル基(特にC8−10アルキル基)が好ましい。さらに、炭化水素基は、高い水接触角及び低い表面自由エネルギーを樹脂に付与する点などから、2−エチルヘキシル基などの分岐鎖状C6−12アルキル基であってもよい。
【0045】
[ポリエステル樹脂の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法により製造できるが、生産性などの点から、少なくとも下記式(2)で表される化合物(ジオール成分(2))を含むジオール成分と、少なくとも下記式(3)で表される化合物((テトラカルボン酸二無水物(3)))を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させた後、さらに下記式(4)で表されるグリシジル化合物(グリシジル化合物(4))を反応させて得るのが好ましい。
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、環Z及びZ、A、R〜R、X、m、n、kは前記に同じ)。
【0048】
(ジオール成分)
ジオール成分(2)としては、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン骨格を有する化合物]などが含まれる。
【0049】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類(前記式(2)において、mが0である化合物)には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類[9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類[9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]などが含まれる。
【0050】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(2)において、mが1である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(2)において、mが2以上である化合物)などが含まれる。
【0051】
また、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類;9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{6−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−2−ナフチル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0052】
これらのフルオレン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらのフルオレン化合物のうち、特に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシアリール)フルオレンが好ましい。さらに光学特性を要求される用途に使用する場合など、9,9−ビス(ヒドロキシエトキシナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−トリルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−C6−10アリールフェニル)フルオレン、特に、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなどであってもよい。
【0053】
ジオール成分として、前記ジオール成分(2)に加えて、他のジオール成分を含んでいてもよい。
【0054】
他のジオール成分としては、脂肪族ジオール成分、脂環族ジオール成分、フルオレン骨格を有しない芳香族ジオール成分などが挙げられる。
【0055】
脂肪族ジオール成分としては、例えば、鎖状脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールなど)など]などが挙げられる。
【0056】
脂環族ジオール成分としては、例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5−8シクロアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−8シクロアルカンなど)などが挙げられる。
【0057】
芳香族ジオール{ジヒドロキシアレーン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、芳香脂肪族ジオール[例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーンなど]、ビフェノール、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカンなど]など}などが挙げられる。
【0058】
他のジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの他のジオール成分のうち、脂肪族ジオール成分[特に、耐熱性や屈折率の点から、アルカンジオール(例えば、エチレングリコールなどのC2−4アルカンジオール)などの低分子量の脂肪族ジオール成分]を併用する場合が多い。
【0059】
ジオール成分(2)と、他のジオール成分(例えば、脂肪族ジオール成分)との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜70/30程度であってもよい。
【0060】
ジオール成分において、フルオレン骨格を有するジオールであるジオール成分(2)の割合は、ジオール成分全体に対して、30モル%以上(例えば、40〜100モル%)の範囲から選択できる。特に、ポリエステル樹脂中に高濃度でフルオレン骨格を導入しつつ、効率よく高分子量化するという観点からは、例えば、50モル%以上(例えば、55〜100モル%程度)、好ましくは60モル%以上(例えば、65〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、75〜95モル%程度)であってもよく、通常60〜90モル%程度であってもよい。
【0061】
なお、必要に応じて、ジオール成分に加えて、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール成分[アルカンポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなど)など]を少量[例えば、ジオール成分とポリオール成分との総量に対して10モル%以下(例えば、0.1〜8モル%、好ましくは0.2〜5モル%程度)]使用してもよい。
【0062】
(テトラカルボン酸二無水物)
テトラカルボン酸二無水物(3)には、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環族テトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0063】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、アレーンテトラカルボン酸(例えば、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸などのC6−20アレーン−テトラカルボン酸、ジアリールテトラカルボン酸[例えば、ビフェニルテトラカルボン酸類(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸など)などのジC6−10アリールテトラカルボン酸など]、ビス(ジカルボキシアリール)アルカン[例えば、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルメタン、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンなどのビス(ジカルボキシC6−10アリール)C1−10アルカンなど]、ビス(ジカルボキシアリール)エーテル[例えば、4,4’−オキシジフタル酸などのビス(ジカルボキシC6−10アリール)エーテルなど]、ビス(ジカルボキシアリール)ケトン[例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸)などのビス(ジカルボキシC6−10アリール)ケトンなど]、ビス(ジカルボキシアリール)スルホン[例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸)などのビス(ジカルボキシC6−10アリール)スルホンなど]などの芳香族テトラカルボン酸の二無水物が挙げられる。脂環族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、前記芳香族テトラカルボン酸の二無水物の水添物などが挙げられる。
【0064】
これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのテトラカルボン酸二無水物のうち、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが好ましい。
【0065】
テトラカルボン酸二無水物には、鎖状脂肪族テトラカルボン酸(ブタンテトラカルボン酸などのアルカンカルボン酸など)などの他のテトラカルボン酸二無水物が含まれていてもよい。テトラカルボン酸二無水物(3)と他のテトラカルボン酸二無水物との割合は、100/0〜50/50、好ましくは99.9/0.1〜70/30、さらに好ましくは99/1〜90/10程度であってもよい。
【0066】
なお、必要に応じて、テトラカルボン酸成分二無水物(3)に加えて、ジカルボン酸成分やトリカルボン酸成分(例えば、分子中に酸無水物基及び酸ハライド基を有する芳香族化合物)を少量[例えば、テトラカルボン酸成分二無水物とジカルボン酸成分及び/又はトリカルボン酸成分との総量に対して10モル%以下(例えば、0.1〜8モル%、好ましくは0.2〜5モル%程度)]使用してもよい。
【0067】
重合反応において、ジオール成分及びテトラカルボン酸成分二無水物の使用量(使用割合)は、前記式(1)で表される単位を生成できる限り、特に限定されず、例えば、前者/後者(モル比)=2/1〜1/2、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2程度であってもよい。
【0068】
重合反応は、使用するテトラカルボン酸成分二無水物の種類などに応じて適宜選択でき、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などを利用して製造できる。好ましい方法は、溶液重合法である。なお、溶液重合法では、各成分を比較的低い温度で反応させることができ、樹脂の分解を有効に防止できる。
【0069】
(溶媒)
ジオール成分とテトラカルボン酸二無水物との反応は溶媒存在下で行ってもよい。溶媒としては、ジオール成分とテトラカルボン酸二無水物との反応を阻害しない限り、特に限定されず、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状エーテル類)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなど)、グリコールエーテルエステル類[エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(メチルセロソルブアセテート)、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのモノ又はジC2−4アルキレングリコールエーテルエステルなど]などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0070】
これらの溶媒のうち、ケトン類、セロソルブ類、カルビトール類、グリコールエーテルエステル類などが汎用され、分散性又は溶解性に優れ、かつ比較的高い沸点を有する点から、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのグリコールエーテルエステル類などが好ましい。
【0071】
溶媒の使用量は、例えば、ジオール成分(2)100重量部に対して、例えば、10〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは100〜300重量部程度である。
【0072】
(触媒)
ジオール成分(2)とテトラカルボン酸二無水物(3)との反応は触媒の存在下で行ってもよく、触媒としては、慣用の酸触媒(p−トルエンスルホン酸など)であってもよいが、慣用の塩基性触媒を好ましく使用できる。
【0073】
塩基性触媒としては、例えば、脂肪族アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン類など)、脂環族アミン類(シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなど)、芳香族アミン類(アニリン、ジエチルアニリンなど)、複素環式アミン類(4−ジメチルアミノピリジン、モルホリン、ピペリジンなど)、第4級アンモニウム塩(塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなど)、金属アルコキシド(例えば、カリウムt−ブトキシドなど)などが挙げられる。
【0074】
これらの塩基性触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの塩基性触媒のうち、4−ジメチルアミノピリジンなどの複素環式アミン類、臭化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが汎用される。
【0075】
塩基性触媒の割合は、ジオール成分(2)100重量部に対して、例えば、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜1重量部(特に0.1〜0.5重量部)程度である。
【0076】
ジオール成分(2)とテトラカルボン酸二無水物(3)との反応温度は、重合方法に応じて適宜選択されるが、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃程度であってもよい。
【0077】
ジオール成分(2)とテトラカルボン酸二無水物(3)との反応時間は、例えば、0.5〜30時間、好ましくは1〜20時間、さらに好ましくは3〜10時間程度であってもよい。
【0078】
前記ジオール成分と前記テトラカルボン酸二無水物とのエステル化反応により、酸無水物が開環し、有機カルボキシル基を有するポリエステルが生成する。
【0079】
この有機カルボキシル基を有するポリエステルの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、例えば、3000〜50000、好ましくは4000〜30000、さらに好ましくは5000〜20000(特に6000〜10000)程度であってもよい。
【0080】
(グリシジル化合物)
グリシジル化合物(4)は、前記エステル化反応により生成したポリエステル樹脂の遊離カルボキシル基と反応させる。グリシジル化合物(4)としては、バーサティック酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル化合物やα−オレフィンオキサイドなどであってもよいが、前述の反応で得られたポリエステル樹脂に対して導入し易い点などから、グリシジルエーテル化合物が好ましい。
【0081】
グリシジルエーテル化合物としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキルエーテル、シクロアルキルエーテル、アリールエーテル、アラルキルエーテルなどが挙げられるが、ポリエステル樹脂に柔軟性を付与できる点から、アルキルエーテルが好ましい。
【0082】
グリシジルアルキルエーテルとしては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテルなどの直鎖又は分岐鎖状C1−18アルキルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0083】
これらのグリシジルアルキルエーテルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのグリシジルアルキルエーテルのうち、柔軟性及び疎水性を付与できる点から、ヘキシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテルなどの直鎖又は分岐鎖状C6−12アルキルグリシジルエーテル(特に、分岐鎖状C6−12アルキルグリシジルエーテル)などが好ましい。
【0084】
グリシジル化合物(4)の使用量(使用割合)は、前記テトラカルボン酸成分二無水物1モルに対して、例えば、0.1モル以上(例えば、0.1〜10モル)、好ましくは0.15〜3モル、さらに好ましくは0.2〜2モル(特に0.25〜1モル)程度である。
【0085】
前記工程で得られたポリエステル樹脂とグリシジル化合物(4)との反応は溶媒存在下で行ってもよい。溶媒としては、前記溶媒を使用でき、溶媒を置換することなく、連続的にグリシジル化合物(4)を添加してもよい。
【0086】
前記ポリエステル樹脂とグリシジル化合物(4)との反応は触媒の存在下で行ってもよい。触媒としても、同様の塩基性触媒を使用でき、新たに触媒を添加することなく、前述の反応における塩基性触媒を利用してもよい。
【0087】
前記ポリエステル樹脂とグリシジル化合物(4)との反応温度は、重合方法に応じて適宜選択されるが、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃程度であってもよい。
【0088】
前記ポリエステル樹脂とグリシジル化合物(4)との反応時間は、例えば、0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは2〜8時間程度であってもよい。
【0089】
[ポリエステル樹脂の特性]
本発明のポリエステル樹脂は、前記式(1)で表される単位を含むが、式(1)で表される単位は、ポリエステル樹脂全体に対して、少なくとも50重量%以上であればよく、例えば、50〜100重量%、好ましくは60〜99.9重量%、さらに好ましくは70〜99重量%(特に80〜95重量%)程度である。
【0090】
本発明のポリエステル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、例えば、5000〜100000、好ましくは8000〜50000、さらに好ましくは10000〜30000(特に12000〜20000)程度であってもよい。
【0091】
本発明のポリエステル樹脂は、耐熱性にも優れており、ガラス転移温度は、例えば、60℃以上であってもよく、例えば、80〜140℃、好ましくは85〜130℃、さらに好ましくは90〜120℃(特に95〜110℃)程度である。本発明のポリエステル樹脂は、このような適度なガラス転移温度を有するため、耐熱性が高い上に、適度な成形性又は加工性も有している。
【0092】
本発明のポリエステル樹脂の酸価は、安定性(例えば、水に対する分散安定性や耐アルカリ性など)の点から、例えば、200mgKOH/g以下(例えば、10〜200mgKOH/g)程度の範囲から選択でき、例えば、30〜150mgKOH/g、好ましくは50〜130mgKOH/g(例えば、60〜120mgKOH/g)、さらに好ましくは70〜110mgKOH(特に80〜100mgKOH/g)程度である。
【0093】
本発明のポリエステル樹脂は、遊離のカルボキシル基にグリシジルアルキルエーテルなどのグリシジル化合物が導入されているためか、塗膜用途に使用した場合に、塗膜強度を向上できる。
【0094】
本発明のポリエステル樹脂は、カルボキシル基に導入するグリシジル化合物の種類を選択することにより、有機溶媒に対する溶剤溶解性も向上できる。本発明のポリエステル樹脂を溶解可能な有機溶媒としては、導入するグリシジル化合物の種類に応じて、例えば、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルムなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状エーテル類)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトール、ジグライム、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなど)、グリコールエーテルエステル類(メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなど)などが挙げられる。これらの溶媒のうち、グリシジル化合物として、炭素数6以上のグリシジルアルキルエーテルを導入したポリエステル樹脂は、ケトン類、セロソルブ類、カルビトール類及びグリコールエーテルエステル類から選択された少なくとも一種の有機溶媒などに可溶化できる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」は特にことわりのない限り、重量基準である。
【0096】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製、「DSC6220」)を用い、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し10℃/分の昇温速度で測定した。
【0097】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は、溶出液として10体積%酢酸テトラヒドロフラン溶液を用い、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)により、ゲル浸透クロマトグラフィー(基準樹脂:ポリスチレン)によって測定した。
【0098】
[溶剤溶解性]
溶剤溶解性は、溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、シクロヘキサノン、トルエン、シクロペンタノンを用いて測定試料を固形分濃度10重量%に希釈し撹拌することにより、以下の基準で評価した。
【0099】
○:完全に溶解
△:完全には溶解しないがサンプル管の向こう側が透けて見える程度の濁り
×:液が濁ってサンプル管の向こう側が見えない、若しくは完全に不溶。
【0100】
実施例1
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応した。このポリマーの重量平均分子量は7093であった。この反応系に2−エチルヘキシルグリシジルエーテル34.0部を仕込み、100℃で4時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0101】
得られたポリエステルの重量平均分子量は14756であった。メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノンによりポリエステルをそれぞれ固形分濃度10重量%に希釈し攪拌することで溶解した。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定をした結果、98.0℃であった。酸価は82mgKOH/gであった。
【0102】
実施例2
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応した。このポリマーの重量平均分子量は6917であった。この反応系にn−ブチルグリシジルエーテル23.8部を仕込み、100℃で4時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0103】
得られたポリエステルの重量平均分子量は19332であった。メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによりポリエステルをそれぞれ固形分濃度10重量%に希釈し攪拌したが溶解しなかった。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定した結果、95.6℃であった。酸価は69mgKOH/gであった。
【0104】
実施例3
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応した。このポリマーの重量平均分子量は7572であった。この反応系に2−エチルヘキシルグリシジルエーテル17.0部を仕込み、100℃で4時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0105】
得られたポリエステルの重量平均分子量は11441であった。メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンによりポリエステルをそれぞれ固形分濃度10重量%に希釈し攪拌することで溶解した。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定をした結果、102.6℃であった。酸価は96mgKOH/gであった。
【0106】
実施例4
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応した。このポリマーの重量平均分子量は7574であった。この反応系にn−ブチルグリシジルエーテル11.9部を仕込み、100℃で4時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0107】
得られたポリエステルの重量平均分子量は18543であった。メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによりポリエステルをそれぞれ固形分濃度10重量%に希釈し攪拌したが溶解しなかった。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定をした結果、117.0℃であった。酸価は95mgKOH/gであった。
【0108】
実施例5
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応した。このポリマーの重量平均分子量は7173であった。この反応系にn−ブチルグリシジルエーテル5.9部を仕込み、100℃で4時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0109】
得られたポリエステルの重量平均分子量は14268であった。メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによりポリエステルをそれぞれ固形分濃度10重量%に希釈し攪拌したが溶解しなかった。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定をした結果、124.1℃であった。酸価は110mgKOH/gであった。
【0110】
比較例1
撹拌器、温度計を装備した反応缶内に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80.0部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物53.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部、4−ジメチルアミノピリジン0.2部を仕込み、100℃で6時間反応し、目的のポリエステルを得た。
【0111】
得られたポリエステルの重量平均分子量は10809であった。メチルエチルケトンによりポリエステルを固形分濃度10重量%に希釈し攪拌することで溶解したが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに対しては溶解しなかった。このポリエステルをヘプタンで再沈殿後にガラス転移温度を測定した結果、153.9℃であった。酸価は124mgKOH/gであった。
【0112】
結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1から明らかなように、比較例1に比べ、実施例1〜5の樹脂は、ガラス転移温度が低い。さらに、実施例1及び3の樹脂では広範な溶剤(詳細には、MEK、PGMEA、シクロヘキサノンなど)に対して溶解性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のポリエステル樹脂は、各種の材料、例えば、インク材料、発光材料(例えば、有機EL用発光材料など)、有機半導体、黒鉛化前駆体、ガス分離膜(例えば、COガス分離膜など)、コート剤(例えば、LED(発光ダイオード)用素子のコート剤などの光学用オーバーコート剤又はハードコート剤など)、レンズ[ピックアップレンズ(例えば、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)用ピックアップレンズなど)、マイクロレンズ(例えば、液晶プロジェクター用マイクロレンズなど)、眼鏡レンズなど]、偏光膜(例えば、液晶ディスプレイ用偏光膜など)、反射防止フィルム(又は反射防止膜、例えば、表示デバイス用反射防止フィルムなど)、タッチパネル用フィルム、フレキシブル基板用フィルム、ディスプレイ用フィルム[例えば、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)、VFD(真空蛍光ディスプレイ)、SED(表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)、FED(電界放出ディスプレイ)、NED(ナノ・エミッシブ・ディスプレイ)、ブラウン管、電子ペーパーなどのディスプレイ(特に薄型ディスプレイ)用フィルム(フィルタ、保護フィルムなど)など]、燃料電池用膜、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどに好適に使用できる。特に、本発明のポリエステル樹脂は、高い屈折率を有するため、光学材料用途に好適に利用できる。このような光学材料の形状としては、例えば、フィルム又はシート状、板状、レンズ状、管状などが挙げられる。さらに、本発明のポリエステル樹脂は、他の樹脂との混和性もよく、相溶化剤としても利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される単位を含むポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Aはアルキレン基を示し、Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、環Zは芳香族又は脂肪族炭化水素環を示し、Xは連結基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、mは0以上の整数、nは0以上の整数、kは0〜4の整数である)
【請求項2】
式(1)において、Rが炭素数6以上のアルキル基である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
炭素数6以上のアルキル基が分岐鎖状C6−12アルキル基である請求項2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
式(1)において、Xがエーテル基である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
式(1)において、環Zが芳香族炭化水素環である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
芳香族炭化水素環がビフェニル環である請求項5記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
ケトン類、セロソルブ類、カルビトール類、及びグリコールエーテルエステル類から選択された少なくとも一種の有機溶媒に可溶である請求項2〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
ガラス転移温度が80〜140℃である請求項2〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項9】
少なくとも下記式(2)で表される化合物を含むジオール成分と、少なくとも下記式(3)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させた後、さらに下記式(4)で表されるグリシジル化合物を反応させて請求項1記載のポリエステル樹脂を製造する方法。
【化2】

(式中、環Z及びZ、A、R〜R、X、m、n、kは前記に同じ)

【公開番号】特開2011−219661(P2011−219661A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91783(P2010−91783)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】