説明

フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂

【課題】高屈折率、高耐熱性、低複屈折性などの特性を有する新規なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分を多環式芳香族ジカルボン酸成分(例えば、ナフタレンジカルボン酸成分など)で構成するとともに、前記ジオール成分を、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物で構成する。前記ジカルボン酸成分は、多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸成分など)とで構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(詳細には、9,9−ビスアリールフルオレン骨格)を有する新規なポリエステル樹脂およびこのポリエステル樹脂で形成された成形体(例えば、光学フィルムなどの光学用成形体)に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物は、高屈折率、高耐熱性などの優れた機能を有することが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現し、成形可能とする方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。このようなフルオレン骨格を有する樹脂の中でも、ポリエステル樹脂は、一般的に、高屈折率などの特性を有する。
【0003】
例えば、特公平4−22931号公報(特許文献1)には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのジオール成分と、フタル酸および脂肪酸を含む混合酸成分とを重合成分とすると、加工性に優れた耐熱性ポリエステルが得られることが開示されている。
【0004】
しかし、この文献のポリエステル樹脂は、成形性に乏しく、また、ジオール成分として、反応性が低い9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのようなフェノール成分を用いるので、酸クロライドを用いるなど、特殊な条件でなければ重合できず、実用的ではない。なお、この文献には、屈折率についての開示はあるものの、ポリエステルの構造と複屈折性との関係については何ら記載されていない。
【0005】
また、特開平7−198901号公報(特許文献2)には、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、10mol%以上の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシ化合物と、炭素原子数が2から4の脂肪族グリコールからなる実質的に線状のポリエステル重合体であって、屈折率が1.60以上であるプラスチックレンズ用ポリエステル樹脂が開示されている。
【0006】
この文献には、本発明のポリエステル重合体に供する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸が光学特性の面から好適に用いられることが記載されており、前記芳香族ジカルボン酸の一例として、ナフタレンジカルボン酸についても記載されているものの、具体的な使用例は何ら開示されていない。また、この文献の実施例では、ジヒドロキシ化合物としての9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンと、テレフタル酸単独か、又はテレフタル酸およびごく少量のイソフタル酸を併用したジカルボン酸とを組み合わせてポリエステル樹脂を得ており、テレフタル酸を単独で用いた場合と、イソフタル酸を併用した場合とでは、ガラス転移温度に若干の差が見られるものの、成形性、屈折率および複屈折率においては差がなかったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−22931号公報(特許請求の範囲、第2頁左欄19〜26行、第3頁左欄4〜14行)
【特許文献2】特開平7−198901号公報(特許請求の範囲、段落番号[0013]、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格を有する特定のジオール成分と、多環式芳香族ジカルボン酸(例えば、ナフタレンジカルボン酸)成分とを重合成分とする新規なポリエステル樹脂およびこのポリエステル樹脂で形成された成形体(例えば、光学フィルムなどの光学用成形体)を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高い耐熱性および高い屈折率を有するポリエステル樹脂、およびこのポリエステル樹脂で形成された成形体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、高屈折率と低複屈折性とを両立できるポリエステル樹脂およびこのポリエステル樹脂で形成された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(1)フルオレン骨格を有する特定のジオールと、芳香族ジカルボン酸成分の中でも特に多環式芳香族ジカルボン酸成分(ナフタレンジカルボン酸など)とを組み合わせると、高耐熱性、高屈折率などの特性を有する新規なポリエステル樹脂が得られること、(2)また、前記特定のジオールと多環式芳香族ジカルボン酸成分との重合では、テレフタル酸などとは異なり、高分子量化しにくいものの、多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸など)成分とを組み合わせることにより、高耐熱性および高屈折率を維持しながら、十分に高分子量化されたポリエステル樹脂が得られること、(3)さらに、このような非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分を併用したポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸成分で構成されているにもかかわらず、複屈折性を低減でき、高屈折率(および高耐熱性)と低複屈折性とをバランスよく有するポリエステル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂であって、前記ジカルボン酸成分が、多環式芳香族ジカルボン酸成分(例えば、ナフタレンジカルボン酸成分などの縮合多環式芳香族ジカルボン酸成分)を含み、かつ前記ジオール成分が9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物を含む。
【0013】
前記ジカルボン酸成分は、さらに、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸成分およびフタル酸成分から選択された少なくとも1種など)を含んでいてもよく、多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=99/1〜30/70程度であってもよい。多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを組み合わせると、屈折率および耐熱性が高いポリマーが効率よく得られるだけでなく、複屈折率が比較的低いポリエステル樹脂を得ることができる。
【0014】
前記ポリエステル樹脂において、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物は、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールアリール)フルオレン骨格を有する化合物、および9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン骨格を有する化合物から選択された少なくとも1種であってもよい。このようなジオール成分を用いると、前記多環式芳香族ジカルボン酸成分との組み合わせにより、非常に高い屈折率および耐熱性を有するポリエステル樹脂を得ることができる。
【0015】
前記ジオール成分は、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物と、脂肪族ジオール成分とで構成してもよい。また、前記9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物と、前記脂肪族ジオール成分との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=99/1〜50/50程度であってもよい。このようなフルオレンジオール化合物と、脂肪族ジオール成分とを組み合わせることにより、効率よくポリエステル樹脂を実用的なレベルに高分子量化できる。
【0016】
代表的な前記ポリエステル樹脂には、(i)前記ジカルボン酸成分が、縮合多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを、前者/後者(モル比)=90/10〜40/60程度の割合で含み、かつ(ii)前記ジオール成分が、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンから選択された1種と、脂肪族ジオール成分とを、前者/後者(モル比)=95/5〜60/40程度の割合で含むポリエステル樹脂などが含まれる。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂は、光学的特性や耐熱性などの各種特性に優れており、例えば、波長589nmにおける屈折率は1.65以上であってもよく、ガラス転移温度は150℃以上であってもよい。また、本発明では、低複屈折性のポリエステル樹脂を得ることもでき、このようなポリエステル樹脂の複屈折率(波長600nm)は、延伸倍率1.7倍の一軸延伸フィルムにおいて、10×10−4以下程度であってもよい。
【0018】
本発明には、前記ポリエステル樹脂で形成された成形体(例えば、光学フィルム)なども含まれる。このような成形体は、延伸フィルムであってもよい。
【0019】
なお、本明細書において、「ジカルボン酸成分」とは、特に断りのない限り、ジカルボン酸のみならず、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体(例えば、低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物など)を含む意味に用いる。また、本明細書において、「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン」とは、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレンおよび9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)フルオレンを含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、フルオレン骨格を有する特定のジオール成分と、多環式芳香族ジカルボン酸(例えば、ナフタレンジカルボン酸)成分とを重合成分とする新規なポリエステル樹脂が得られる。このようなポリエステル樹脂は、高い耐熱性および高い屈折率を有しており、このような傾向は、ジオール成分の中でも、特に、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールアリール)フルオレンや9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレンのような化合物を用いた場合に顕著である。
【0021】
また、本発明では、ジカルボン酸成分として、多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを組み合わせることにより、効率よく前記ジオール成分をジオール成分とするポリエステル樹脂を得ることができる。そして、このようなポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分で構成されているにもかかわらず、複屈折性を低減でき、高屈折率(および高耐熱性)を維持できるため、通常、両立しがたい高屈折率(および高耐熱性)と低複屈折性とを備えている。
【0022】
このような本発明のポリエステル樹脂は、上記のように、高耐熱性、高屈折率などの特性を有し、フィルム(特に光学フィルム)材料などとして有用である。特に、高屈折率などの特性を有しているにもかかわらず、延伸処理(又は配向処理)に供しても、低複屈折性を維持できるため、フィルム(特に、光学フィルム)などの成形体を形成するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、特定のジカルボン酸成分と特定のジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂である。
【0024】
(ジカルボン酸成分)
ジカルボン酸成分は、多環式芳香族ジカルボン酸成分を少なくとも含む。ジカルボン酸成分を、芳香族ジカルボン酸成分の中でも、特に、多環式芳香族ジカルボン酸成分で構成すると、ポリエステル樹脂の屈折率などを大きくでき、ポリエステル樹脂の光学的特性を向上できる。
【0025】
多環式芳香族ジカルボン酸成分としては、多環式芳香族ジカルボン酸、そのエステル形成性誘導体が挙げられる。多環式芳香族ジカルボン酸としては、縮合多環式芳香族ジカルボン酸{例えば、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸などの同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸)、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10−24アレーン−ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10−16アレーン−ジカルボン酸、さらに好ましくは縮合多環式C10−14アレーン−ジカルボン酸;ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシフルオレン);9,9−ジアルキル−ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジメチルフルオレンなどの9,9−ジC1−10アルキル−ジカルボキシフルオレン)など}、アリールアレーンジカルボン酸[例えば、ビフェニルジカルボン酸(2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸など)などのC6−10アリールC6−10アレーンジカルボン酸]、ジアリールアルカンジカルボン酸[例えば、ジフェニルアルカンジカルボン酸(例えば、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸などのジフェニルC1−4アルカン−ジカルボン酸など)などのジC6−10アリールC1−6アルカン−ジカルボン酸]、ジアリールケトンジカルボン酸[例えば、ジフェニルケトンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸など)などのジC6−10アリールケトン−ジカルボン酸]、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(カルボキシメチル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC1−4アルキル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC6−10アリール)フルオレン]などが挙げられる。
【0026】
また、エステル形成性誘導体としては、例えば、エステル{例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1−4アルキルエステル、特にC1−2アルキルエステル)など]、酸ハライド(酸クロライドなど)、酸無水物などが挙げられる。なお、エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)又はジエステルであってもよい。なお、多環式芳香族ジカルボン酸成分は、ポリエステル樹脂の製造方法に応じて選択できるが、溶融重合法では、多環式芳香族ジカルボン酸、多環式芳香族ジカルボン酸エステルなどを使用する場合が多い。
【0027】
これらの多環式芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
好ましい多環式芳香族ジカルボン酸成分は、縮合多環式芳香族ジカルボン酸(例えば、縮合多環式C10−16アレーン−ジカルボン酸)成分であり、特にナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0029】
ジカルボン酸成分は、多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とで構成してもよい。後述のジオール成分と、ジカルボン酸成分として多環式芳香族ジカルボン酸成分とを組み合わせて重合させると、理由は定かではないが、高分子量化できない(又はさせにくい)場合があるが、多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを組み合わせて使用することにより、高屈折率、高耐熱性などの特性を維持しつつ、ポリエステル樹脂を効率よく高分子量化できる。しかも、得られるポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分を用いているにもかかわらず、意外にも、低複屈折性を示し、高屈折率、高耐熱性、および低複屈折性をバランスよく有している。また、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分を使用すると、ポリエステル樹脂の吸水性(又は吸湿性)を抑えることができる。
【0030】
非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、アルキルイソフタル酸(4−メチルイソフタル酸などのC1−4アルキルイソフタル酸)、これらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらの非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0031】
好ましい非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分には、イソフタル酸成分、フタル酸成分などが挙げられ、特にイソフタル酸成分が好ましい。
【0032】
多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを組み合わせる場合、これらの成分の割合は、前者/後者(モル比)=99/1〜10/90(例えば、98/2〜15/85)の範囲から選択でき、例えば、97/3〜20/80(例えば、96/4〜25/75)、好ましくは95/5〜30/70(例えば、93/7〜35/65)、さらに好ましくは90/10〜40/60(例えば、85/15〜45/55)、特に80/20〜45/55(例えば、75/25〜50/50)程度であってもよく、通常99/1〜30/70(例えば、95/5〜40/60)程度であってもよい。なお、上記割合は、ポリエステル樹脂のポリマー骨格における割合に対応している(以下、特に断りのない限り、割合の記載において同じ)。すなわち、上記割合は、ポリエステル樹脂において、多環式芳香族ジカルボン酸成分由来の骨格(エステル骨格)と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分由来の骨格(エステル骨格)との割合を表す。
【0033】
多環式芳香族ジカルボン酸成分(および非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分)は、他の芳香族ジカルボン酸成分と組み合わせてもよい。他の芳香族ジカルボン酸成分としては、対称型の単環式芳香族ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸、4−メチルイソフタル酸などのC1−4アルキルテレフタル酸、これらのエステル形成性誘導体など)などが挙げられる。他の芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0034】
なお、他の芳香族ジカルボン成分を使用する場合、他の芳香族ジカルボン酸成分の割合は、多環式芳香族ジカルボン酸成分(および非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分の総量)100モルに対して、50モル%以下(例えば、1〜40モル%)、好ましくは30モル%以下(例えば、2〜25モル%)、さらに好ましくは20モル%以下(例えば、3〜15モル%程度)であってもよい。
【0035】
なお、ジカルボン酸成分は、屈折率、耐熱性などの観点から、芳香族ジカルボン酸成分を主成分とする(例えば、芳香族ジカルボン酸成分のみで構成する)のが好ましいが、本発明の効果を害しない範囲であれば、非芳香族ジカルボン酸成分{例えば、脂肪族ジカルボン酸成分[例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのアルカンジカルボン酸成分(例えば、C2−12アルカンジカルボン酸成分など)など]、脂環族ジカルボン酸成分[例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸など)、これらのエステル形成性誘導体など]など}と組み合わせてもよい。通常、ジカルボン酸成分は、脂肪族ジカルボン酸成分を含まない場合が多い。非芳香族ジカルボン酸成分の割合は、芳香族ジカルボン酸成分100モルに対して、30モル%以下(例えば、0.1〜25モル%)、好ましくは20モル%以下(例えば、0.3〜15モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(例えば、0.5〜5モル%)程度であってもよい。
【0036】
多環式芳香族ジカルボン酸成分の割合は、ジカルボン酸成分全体に対して、例えば、10モル%以上(例えば、15〜100モル%程度)、好ましくは20モル%以上(例えば、25〜90モル%程度)、さらに好ましくは30モル%以上(例えば、35〜80モル%程度)、特に40〜80モル%(例えば、45〜70モル%)程度であってもよく、通常40〜90モル%程度であってもよい。
【0037】
また、多環式芳香族ジカルボン酸成分および非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分の総量の割合は、ジカルボン酸成分全体に対して、例えば、50モル%以上(例えば、60〜100モル%程度)、好ましくは70モル%以上(例えば、75〜100モル%程度)、さらに好ましくは80モル%以上(例えば、85〜100モル%程度)、特に90モル%以上(例えば、95〜100モル%)程度であってもよい。
【0038】
さらに、芳香族ジカルボン酸成分の割合は、ジカルボン酸成分全体に対して、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に90モル%以上であってもよい。
【0039】
ジカルボン酸成分は、本発明の効果を害しない範囲であれば、他の酸成分(カルボン酸成分)と組み合わせてもよい。このような酸成分としては、例えば、不飽和カルボン酸成分{例えば、不飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2−10アルケン−ジカルボン酸)、不飽和脂環族ジカルボン酸[シクロアルカンジカルボン酸(例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5−10シクロアルケン−ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルケンジカルボン酸(例えば、ノルボルネンジカルボン酸など)など]、これらのエステル形成性誘導体など}、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸など)などが挙げられる。これらの他の酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0040】
なお、他の酸成分を使用する場合、他の酸成分の割合は、ジカルボン酸成分および他の酸成分の総量に対して10モル%以下(例えば、0.1〜8モル%、好ましくは0.2〜5モル%程度)であってもよい。
【0041】
(ジオール成分)
ジオール成分は、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物(単に、フルオレン骨格を有するジオールなどということがある)を少なくとも含んでいる。このようなフルオレン骨格を有するジオールは、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有している限り、フルオレンや、フルオレンの9位に置換したアリール基に、置換基(後述の置換基など)を有していてもよい。
【0042】
このようなフルオレン骨格を有するジオールは、代表的には、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0043】
【化1】

【0044】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数である。)
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(特に、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0045】
好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環が含まれる。
【0046】
基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基(例えば、C1−8アルキル基、特にメチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0047】
また、前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。なお、mが2以上であるとき、アルキレン基は異なるアルキレン基で構成されていてもよく、通常、同一のアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環Zにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0048】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、1以上であればよく、例えば、1〜12(例えば、1〜8)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、置換数mは、異なる環Zに対して、同一であっても、異なっていてもよい。
【0049】
また、前記式(3)において、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基[すなわち、−O−(RO)−H]の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、ヒドロキシル基含有基は、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位、(例えば、フェニル基の3位、4位など)に置換していればよく、好ましくは4位に置換していてもよい。また、ヒドロキシル基含有基は、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
【0050】
環Zに置換する置換基Rとしては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基などのC1−12アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0051】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基であってもよい。
【0052】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。さらに好ましい基Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などであり、特に、アリール基であるのが好ましい。
【0053】
なお、同一の環Zにおいて、nが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数nは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0054】
具体的なフルオレン骨格を有するジオール(又は前記式(1)で表される化合物)には、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン骨格を有する化合物]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン骨格を有する化合物]などが含まれる。
【0055】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、mが1である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、mが2以上である化合物)などが含まれる。
【0056】
また、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類;9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{6−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−2−ナフチル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0057】
これらのフルオレン骨格を有するジオールのうち、特に、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールフェニル)フルオレン骨格を有する化合物[例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン骨格を有する化合物[例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン]が好ましい。
【0058】
このようなフルオレン骨格を有するジオールと、前記ジカルボン酸成分とを組み合わせると、非常に高い耐熱性および屈折率を有するポリエステル樹脂を得ることができ、特に、多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分との併用系と組み合わせると、このような耐熱性および屈折率が非常に高いにもかかわらず、複屈折性においても低いポリエステル樹脂とすることができる。
【0059】
フルオレン骨格を有するジオールは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0060】
前記ジオール成分は、前記フルオレン骨格を有するジオール(ジオール成分(A1)ということがある)のみで構成してもよいが、通常、フルオレン骨格を有するジオールと、脂肪族ジオール成分とを含んでいてもよい。なお、ジオール成分を、前記フルオレン骨格を有するジオールのみで構成すると、理由は定かではないが、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基を有しているにもかかわらず、前記多環式芳香族ジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分との重合が進行しにくく、実用的な範囲で高分子量化できなくなる場合がある。
【0061】
このような脂肪族ジオール成分(ジオール成分(A2)ということがある)としては、例えば、鎖状脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールなど)など]、脂環族ジオール[例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5−8シクロアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−8シクロアルカンなど)など]などが挙げられる。これらの脂肪族ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0062】
これらのうち、耐熱性や屈折率の点から、脂肪族ジオール成分として、特に、アルカンジオール(例えば、エチレングリコールなどのC2−4アルカンジオール)などの低分子量の脂肪族ジオール成分を好適に使用してもよい。
【0063】
ジオール成分(A1)と、ジオール成分(A2)(脂肪族ジオール成分)との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40(例えば、93/7〜65/35)、さらに好ましくは90/10〜70/30(例えば、88/12〜75/25)程度であってもよい。
【0064】
なお、ジオール成分は、本発明の効果を害しない範囲であれば、他のジオール成分と組み合わせてもよい。このようなジオール成分としては、例えば、芳香族ジオール{ジヒドロキシアレーン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、芳香脂肪族ジオール[例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーンなど]、ビフェノール、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカンなど]など}などが挙げられる。他のジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0065】
ジオール成分において、フルオレン骨格を有するジオール(ジオール成分(A1))の割合は、ジオール成分全体に対して、30モル%以上(例えば、40〜100モル%)の範囲から選択できる。特に、ポリエステル樹脂中に高濃度でフルオレン骨格を導入しつつ、効率よく高分子量化するという観点からは、例えば、50モル%以上(例えば、55〜100モル%程度)、好ましくは60モル%以上(例えば、65〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、75〜95モル%程度)であってもよく、通常60〜90モル%程度であってもよい。
【0066】
なお、必要に応じて、ジオール成分に加えて、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール成分[アルカンポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなど)など]を少量[例えば、ジオール成分とポリオール成分との総量に対して10モル%以下(例えば、0.1〜8モル%、好ましくは0.2〜5モル%程度)]使用してもよい。
【0067】
(樹脂特性および製造方法)
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合成分とする(又はジカルボン酸成分とジオール成分とが重合した)樹脂であり、種々の特性(特に光学的特性)において優れている。例えば、本発明のポリエステル樹脂は、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アリール)フルオレン骨格および多環式芳香族ジカルボン酸由来の骨格を有しているため、非常に高い屈折率および高い耐熱性を有している。また、本発明のポリエステル樹脂は、使用するジカルボン酸成分の種類にもよるが、光学的異方性が少なく、後述するように、延伸処理(配向処理)しても優れた低複屈折性を有している。さらに、本発明のポリエステル樹脂は、着色が少なく、透明性にも優れている。
【0068】
本発明のポリエステル樹脂の屈折率は、例えば、波長589nmにおいて、1.63以上(例えば、1.635〜1.85程度)、好ましくは1.64以上(例えば、1.645〜1.8程度)、さらに好ましくは1.65以上(例えば、1.655〜1.75程度)であってもよく、通常1.65〜1.8(例えば、1.655〜1.75程度)であってもよい。
【0069】
また、本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、130℃以上(例えば、135〜250℃)、好ましくは140℃以上(例えば、145〜230℃)、さらに好ましくは150℃以上(例えば、155〜220℃)程度であってもよく、通常145〜210℃程度であってもよい。
【0070】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、例えば、5000〜500000程度の範囲から選択でき、例えば、7000〜300000、好ましくは8000〜200000、さらに好ましくは10000〜150000程度であってもよく、通常12000〜100000(例えば、13000〜70000)程度であってもよい。本発明では、多環式芳香族ジカルボン酸成分と9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有するジオールとを組み合わせても、上記のようにポリマーとして十分な分子量のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0071】
なお、本発明のポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、使用するジカルボン酸成分の種類などに応じて適宜選択でき、慣用の方法、例えば、溶融重合法(ジカルボン酸成分とジオール成分とを溶融混合下で重合させる方法)、溶液重合法、界面重合法などが例示できる。好ましい方法は、溶融重合法である。本発明では、溶融重合法であっても、効率よくポリマー化できる。
【0072】
また、反応において、ジカルボン酸成分における9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有するジオールや、ジカルボン酸成分における芳香族ジカルボン酸成分などの使用量(使用割合)は、前記と同様の範囲から選択できるが、必要に応じて各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、ジオール成分において、脂肪族ジオール成分をポリエステル樹脂における脂肪族ジオール成分由来の骨格の所望の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、重合方法に応じて、適宜溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
【0073】
反応は、樹脂が着色するのを防ぎ、より穏和な条件で所定の重合度の樹脂を得るためには、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、ポリエステル樹脂の製造に利用される種々の触媒、例えば、金属触媒などが使用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、バリウムなど)、遷移金属(亜鉛、カドミウム、鉛、コバルトなど)などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分1モルに対して、0.01×10−4〜100×10−4モル、好ましくは0.1×10−4〜10×10−4モル程度であってもよい。
【0074】
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、減圧下(例えば、1×10〜1×10Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150〜300℃、好ましくは180〜290℃、さらに好ましくは200〜280℃程度であってもよい。
【0075】
[成形体]
本発明のポリエステル樹脂は、前記のように、高耐熱性、優れた光学的特性(高屈折率、低複屈折性、高透明性など)を有している。そのため、本発明には、前記ポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物、以下、樹脂組成物を含めてポリエステル樹脂ということがある)で構成された成形体も含まれる。成形体の形状は、特に限定されず、例えば、二次元的構造(フィルム状、シート状、板状など)、三次元的構造(管状、棒状、チューブ状、中空状など)などが挙げられる。
【0076】
このような成形体は、前記ポリエステル樹脂で構成されていればよく、前記ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物で構成してもよい。このような樹脂組成物は、各種添加剤[例えば、充填剤又は補強剤、着色剤(染顔料)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤(シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)、耐熱性改良剤(硫黄化合物やポリシランなど)、炭素材など]を含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0077】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
【0078】
特に、本発明のポリエステル樹脂は、種々の光学的特性に優れているため、フィルム(特に光学フィルム)を形成するのに有用である。そのため、本発明には、前記ポリエステル樹脂で形成されたフィルム(光学フィルム)も含まれる。
【0079】
このようなフィルムの厚みは、1〜1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば、1〜200μm、好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜120μm程度であってもよい。
【0080】
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記ポリエステル樹脂を、慣用の成膜方法、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(又は成形)することにより製造できる。
【0081】
フィルムは、延伸フィルムであってもよい。本発明のフィルムは、延伸フィルムであっても、低複屈折性を高いレベルで維持できる。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0082】
延伸倍率は、一軸延伸又は二軸延伸において各方向にそれぞれ1.1〜10倍(好ましくは1.2〜8倍、さらに好ましくは1.5〜6倍)程度であってもよく、通常1.1〜2.5倍(好ましくは1.2〜2.3倍、さらに好ましくは1.5〜2.2倍)程度であってもよい。なお、二軸延伸の場合、等延伸(例えば、縦横両方向に1.5〜5倍延伸)であっても偏延伸(例えば、縦方向に1.1〜4倍、横方向に2〜6倍延伸)であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸(例えば、縦方向に2.5〜8倍延伸)であっても横延伸(例えば、横方向に1.2〜5倍延伸)であってもよい。
【0083】
なお、延伸フィルムの厚みは、例えば、1〜150μm、好ましくは3〜120μm、さらに好ましくは5〜100μm程度であってもよい。
【0084】
本発明のフィルムは、このような延伸フィルムであっても、比較的、低い複屈折性を有している。例えば、前記フィルム(又は前記ポリエステル樹脂)の波長600nmにおける複屈折率(又は複屈折)は、使用するジカルボン酸成分の種類にもよるが、延伸倍率1.7倍(例えば、Tg+30℃条件での延伸倍率1.7倍)の一軸延伸フィルムにおいて、30×10−4以下(例えば、0〜25×10−4)、好ましくは20×10−4以下(例えば、0.3×10−4〜15×10−4)、さらに好ましくは10×10−4以下(例えば、0.5×10−4〜7×10−4)、通常1×10−4〜15×10−4程度であってもよい。複屈折率は、フィルム面内において、ある方向(例えば、延伸方向)における屈折率と、この方向に垂直な方向(延伸方向に垂直な方向)における屈折率との差の絶対値として表すことができる。
【0085】
なお、複屈折率は、ジカルボン酸成分として、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分を併用することにより、効率よく低減できるが、本発明では、このような成分を用いても、高屈折率や高耐熱性を有するポリエステル樹脂を得ることができる。
【0086】
また、前記フィルム(又は前記ポリエステル樹脂)の波長600nmにおけるリタデーション値(Re値)は、延伸倍率1.7倍の一軸延伸フィルム(例えば、Tg+30℃条件での延伸倍率1.7倍)において、例えば、0〜300nm(例えば、1〜250nm)、好ましくは200nm以下(例えば、3〜170nm)、さらに好ましくは150nm以下(例えば、10〜120nm)程度であってもよい。なお、リタデーション値は、複屈折率×フィルム厚みとして算出できる。
【0087】
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(又は未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は、特に制限がなく、一軸延伸の場合、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法ともいわれる)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
【実施例】
【0088】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0089】
なお、樹脂又はフィルムの特性の測定や評価は以下の方法によって行った。
【0090】
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製、DSC 6220)を用い、アルミパンに試料を入れ、30℃から200℃の範囲でTgを測定した。
【0091】
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィ(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、分子量を測定した。
【0092】
(屈折率)
多波長アッベ屈折計「DR−M2/1550」(株式会社アタゴ製)を用い、光源波長589nm、測定温度20℃で測定した。
【0093】
(複屈折性)
「RETS-100」(大塚電子株式会社製)を用い、測定方式は平行ニコル回転法にて、波長600nmでリタデーションを測定し、このリタデーション値を測定部位の厚みで除することで算出した。
【0094】
(色差)
分光測色計「SPECTROPHOTOMETER CM−3500」(コニカミノルタ製)を用い、室温、反射条件、測定径30mmでLab色差系のb*値を測定した。
【0095】
(合成例1)
10Lのセパラブルフラスコに、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(BNF、大阪ガスケミカル(株)製)450g(1.0mol)、エチレンカーボネート881g(10mol)および溶媒としてのジエチレングリコール1500g(17mol)を入れ、触媒として1−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)10gを添加した後に、100℃に加熱して5時間反応させた。反応終了後、イソプロピルアルコール5000mlを加えて10℃まで冷却することにより、白色粉末61gを得た。得られた白色粉末を分析した結果、HPLCによる純度95.7%で原料として用いたBNF1モルに対して2モルのオキシエチレン基(エトキシ基)が付加した目的化合物{9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン}が得られた。
【0096】
(実施例1)
反応器に、合成例1で合成した9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン0.8モル、エチレングリコール2.2モル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル1.0モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った後、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、318℃、1トル(Torr)以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。この後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0097】
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%が9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン由来、20モル%がエチレングリコール由来であった。
【0098】
また、得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは35500、ガラス転移温度Tgは194℃、屈折率は1.689、色差b*は19.39であった。
【0099】
なお、得られたポリエステル樹脂のペレットのプレス成形を試みたが、ペレットは脆くてプレス成形が困難であった。
【0100】
(実施例2)
反応器に、合成例1で合成した9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン0.8モル、エチレングリコール2.2モル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル0.5モル、およびイソフタル酸ジメチル0.5モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った後、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、318℃、1トル以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。この後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0101】
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%が9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン由来、20モル%がエチレングリコール由来であり、また、ジカルボン酸成分の50モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(すなわち、2,6−ナフタレンジカルボン酸)由来、50モル%がイソフタル酸ジメチル(すなわち、イソフタル酸)由来のポリエステル樹脂であることがわかった。
【0102】
また、得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは48000、ガラス転移温度Tgは174.1℃、屈折率は1.681、色差b*は21.46であった。
【0103】
そして、得られたポリエステル樹脂のペレットを224℃でプレス成形し、厚み500μmのフィルム(未延伸フィルム)を得た。そして、得られた未延伸フィルムを、延伸倍率1.7倍、延伸温度204℃で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このフィルムの複屈折率を測定したところ、13.1×10−4であった。
【0104】
(合成例2)
1Lのセパラブルフラスコに、9−フルオレノン18g(0.1モル、大阪ガスケミカル(株)製)、o−フェニルフェノール(2−ヒドロキシエチル)エーテル[又は2−ビフェニリル−(2−ヒドロキシエチル)エーテル]64.3g(0.3モル、明成化学(株)製)、3−メルカプトプロピオン酸0.9gおよび溶媒としてのキシレン52gを投入した後に、60℃まで加温して完全に溶解させた。その後、徐々に硫酸を20g投入して、60℃で維持して5時間攪拌させたところ、HPLCにて9−フルオレノンの転化率が99%以上であることを確認できた。得られた反応液に48%苛性ソーダ水を投入して中和した後に、蒸留水にて数回洗浄し、冷却することで結晶を析出させた。さらにろ過して乾燥させたところ、52g(収率87%)の結晶として、目的とする9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンを得た。得られた結晶のHPLC純度を測定したところ、純度は97%であった。また、得られた結晶をアセトンに10重量%の割合で溶解させて、日本電色製「COH−400」を用いて色相(APHA)を測定したところ、4と極めて着色が少なかった。
【0105】
(実施例3)
反応器に、合成例2で得た9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン0.8モル、エチレングリコール2.2モル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル0.5モル、およびイソフタル酸ジメチル0.5モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った後、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、290℃、1トル以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。この後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0106】
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%が9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン由来、20モル%がエチレングリコール由来であり、また、ジカルボン酸成分の50モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(すなわち、2,6−ナフタレンジカルボン酸)由来、50モル%がイソフタル酸ジメチル(すなわち、イソフタル酸)由来のポリエステル樹脂であることがわかった。
【0107】
また、得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは31800、ガラス転移温度Tgは152℃、屈折率は1.661、色差b*は1.87であった。
【0108】
そして、得られたポリエステル樹脂のペレットを202℃でプレス成形し、厚み500μmのフィルム(未延伸フィルム)を得た。そして、得られた未延伸フィルムを、延伸倍率1.7倍、延伸温度182℃で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このフィルムの複屈折率を測定したところ、3.12×10−4であった。
【0109】
(実施例4)
反応器に、合成例2で得た9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン0.8モル、エチレングリコール2.2モル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル0.7モル、およびイソフタル酸ジメチル0.3モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った後、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、290℃、1トル以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。この後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0110】
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%が9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン由来、20モル%がエチレングリコール由来であり、また、ジカルボン酸成分の70モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(すなわち、2,6−ナフタレンジカルボン酸)由来、30モル%がイソフタル酸ジメチル(すなわち、イソフタル酸)由来のポリエステル樹脂であることがわかった。
【0111】
また、得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは46500、ガラス転移温度Tgは157.8℃、屈折率は1.66、色差b*は5.37であった。
【0112】
そして、得られたポリエステル樹脂のペレットを208℃でプレス成形し、厚み500μmのフィルム(未延伸フィルム)を得た。そして、得られた未延伸フィルムを、延伸倍率1.7倍、延伸温度188℃で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このフィルムの複屈折率を測定したところ、8.07×10−4であった。
【0113】
(参考例1)
反応器に、合成例2で得た9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン0.8モル、エチレングリコール2.2モル、テレフタル酸ジメチル1.0モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、エステル交換反応を行った後、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、290℃、1トル以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。この後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0114】
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%が9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン由来、20モル%がエチレングリコール由来のポリエステル樹脂であることがわかった。
【0115】
また、得られたポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは35000、ガラス転移温度Tgは153℃、屈折率は1.649、色差b*は6.84であった。
【0116】
そして、得られたポリエステル樹脂のペレットを203℃でプレス成形し、厚み500μmのフィルム(未延伸フィルム)を得た。そして、得られた未延伸フィルムを、延伸倍率1.7倍、延伸温度183℃で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このフィルムの複屈折性を測定したところ、2.08×10−4であった。
【0117】
得られた結果をまとめた表を以下の表1に示す。なお、表1において、「BNF−EO」は「9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン」を、「BOPPF−EO」は9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンを、「EG」は「エチレングリコール」を、「DMN」は「2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル」を、「DMI」は「イソフタル酸ジメチル」を、「DMT」は「テレフタル酸ジメチル」をそれぞれ示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1から明らかなように、フルオレン骨格を有するジオールとDMNとを組み合わせることにより、高いTgおよび高い屈折率のポリエステル樹脂が得られた。特に、フルオレン骨格を有するジオールとして、BNF−EOやBOPPF−EOを用いると、Tgおよび屈折率の向上効果は顕著であった。
【0120】
また、ナフタレンジカルボン酸とイソフタル酸とを組み合わせることにより、Tgおよび屈折率を高く維持しつつ、成形容易なポリエステル樹脂を得ることができた。さらに、このような組合せでは、複屈折も小さくすることができ、高いTg、高い屈折率、および低複屈折性をバランスよく有するポリエステル樹脂を得ることができた。一方、同じくジカルボン酸として、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸を単独で用いると、ポリエステル樹脂のTgは同様に比較的高くできたものの、屈折率は1.65程度にとどまった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の新規なポリエステル樹脂は、高屈折率、高耐熱性、低複屈折性、高透明性などの優れた光学的特性を有しており、また、耐熱性などの各種特性にも優れている。そのため、本発明のポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物)は、光学レンズ、光学フィルム、光学シート、ピックアップレンズ、ホログラム、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどに好適に利用できる。また、本発明のポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物)は、塗料、帯電防止剤、インキ、接着剤、粘着剤、樹脂充填材、帯電トレイ、導電シート、保護膜(電子機器、液晶部材などの保護膜など)、電気・電子材料(キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、ホログラム記録材料)、電気・電子部品又は機器(光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、EMIシールドフィルム、フォトクロミック材料、有機EL素子、カラーフィルタなど)用樹脂、機械部品又は機器(自動車、航空・宇宙材料、センサ、摺動部材など)用の樹脂などに好適に利用できる。
【0122】
特に、本発明のポリエステル樹脂は、光学的特性に優れているため、光学用途の成形体(光学用成形体)を構成(又は形成)するのに有用である。このような前記ポリエステル樹脂で形成(構成)された光学用成形体としては、例えば、光学フィルムなどが挙げられる。
【0123】
光学フィルムとしては、偏光フィルム(及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム)、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。とりわけ、本発明のフィルムは、機器のディスプレイに用いる光学フィルムとして有用である。このような本発明の光学フィルムを備えたディスプレイ用部材(又はディスプレイ)としては、具体的には、パーソナル・コンピュータのモニタ、テレビジョン、携帯電話、カー・ナビゲーションシステム、タッチパネルなどのFPD装置(例えば、LCD、PDPなど)などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂であって、前記ジカルボン酸成分が、多環式芳香族ジカルボン酸成分を含み、かつ前記ジオール成分が9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物を含むポリエステル樹脂。
【請求項2】
ジカルボン酸成分が、さらに、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分を含む請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
多環式芳香族ジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸成分であり、非対称(単環式)芳香族ジカルボン酸成分が、イソフタル酸成分およびフタル酸成分から選択された少なくとも1種である請求項2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
多環式芳香族ジカルボン酸成分と、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分との割合が、前者/後者(モル比)=99/1〜30/70である請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物が、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールアリール)フルオレン骨格を有する化合物、および9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン骨格を有する化合物から選択された少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
ジオール成分が、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物と、脂肪族ジオール成分とを、前者/後者(モル比)=99/1〜50/50の割合で含む請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
(i)ジカルボン酸成分が、縮合多環式芳香族ジカルボン酸成分と非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分とを、前者/後者(モル比)=90/10〜40/60の割合で含み、かつ
(ii)ジオール成分が、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンから選択された1種と、脂肪族ジオール成分とを、前者/後者(モル比)=95/5〜60/40の割合で含む請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
波長589nmにおける屈折率が1.65以上であり、かつガラス転移温度が150℃以上である請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項9】
延伸倍率1.7倍の一軸延伸フィルムにおいて複屈折率(波長600nm)が10×10−4以下である請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステル樹脂で形成された成形体。
【請求項11】
光学フィルムである請求項10記載の成形体。

【公開番号】特開2011−168722(P2011−168722A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35263(P2010−35263)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】