説明

フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート

【課題】高屈折率、高耐熱性に優れ、硬化物の応力を緩和できるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートを提供する。
【解決手段】式(1)で表されるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。


(式中、環Zはベンゼン環又は縮合多環式芳香族炭化水素環、Rはハロゲン原子、アルキル基又はシアノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭化水素基などを示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは0又は1以上の整数、pは1以上の整数である。但し、環Zがベンゼン環であるとき、nは1以上の整数であり、少なくとも1つのRはアリール基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する新規な(メタ)アクリレートに関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有するフルオレン化合物は、屈折率、耐熱性などに優れ、各種材料、例えば、インキ材料、発光材料、有機半導体、コート剤、レンズ、液晶ディスプレイなどに幅広く使用されている。
【0003】
このようなフルオレン化合物のうち、(メタ)アクリロイル基を有するフルオレン化合物として、例えば、特開2009−173648号公報(特許文献1)には、9,9−ビス[6−(2−アクリロイルエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンが開示されている。しかし、このフルオレン化合物は、硬化物の応力を十分に緩和できない。また、前記フルオレン化合物は、反応性基を有していないうえ、反応性基を導入することも困難であり、幅広い化合物に対して機能性を付与できない。
【0004】
特開2001−070437号公報(特許文献2)には、9,9−ビス[3−メチル−4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]フルオレンを含む医療用硬化性組成物が開示されている。しかし、このフルオレン化合物は、屈折率、耐熱性が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173648号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開2001−070437号公報(特許請求の範囲、段落[0016])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高屈折率、高耐熱性に優れ、硬化物の応力を緩和できるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、ヒドロキシル基に対する反応性基を有する種々の化合物に対して、機能性を容易に付与できるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビス(多環式アリール)フルオレン骨格と、重合性基((メタ)アクリロイル基)と、反応性基(ヒドロキシル基)とを有する化合物が、高屈折率、高耐熱性に優れ、硬化物の応力を緩和できると共に、幅広い化合物に対して機能性を容易に付与できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートは、下記式(1)で表される。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、環Zはベンゼン環又は縮合多環式芳香族炭化水素環、Rはハロゲン原子、アルキル基又はシアノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはハロゲン原子、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは0又は1以上の整数、pは1以上の整数である)
なお、前記式(1)において、環Zがベンゼン環であるとき、通常、nは1以上の整数であり、少なくとも1つのRはアリール基である。
【0012】
前記式(1)で表される化合物は、環Zがナフタレン環であり、RがC2−4アルキレン基であり、mが1〜4の整数である化合物であってもよく、環Zがナフタレン環であり、mが0である化合物であってもよい。前記式(1)において、pは1であってもよい。
【0013】
代表的な式(1)の化合物は、下記式(1A)で表される化合物であってもよい。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、n1およびn2はそれぞれ0〜3の整数を示し、n1+n2=nであり、R、R、R、R、k、m、n及びpは前記と同じ)
本発明には、9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)C2−4アルコキシナフチル]フルオレンなどが含まれる。
【0016】
さらに、本発明には、前記化合物と光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、9,9−ビス(多環式アリール)フルオレン骨格と(メタ)アクリロイル基とヒドロキシル基とを有するため、高屈折率、高耐熱性などに優れ、硬化性を有し硬化物を形成できると共に、硬化物の応力を緩和できる。また、本発明では、ヒドロキシル基に対する反応性基を有する種々の化合物に対して、高屈折率、高耐熱性、硬化性などの機能性を容易に付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記式(1)において、環Zで表される縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環など)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などが例示できる。好ましい環Zは、屈折率、耐熱性などの点から、ナフタレン環などの縮合二乃至四環式炭化水素環である。なお、フルオレンの9−位に置換する2つの環Zの種類は、異なっていてもよいが、通常、同一である。また、フルオレンの9−位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9−位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよく、特に2−ナフチル基であるのが好ましい。
【0019】
基Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子などが例示できる。また、基Rで表される炭化水素基としては、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル基などのC1−6アルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基など)などが例示できる。好ましい基Rは、メチル基などのC1−4アルキル基である。なお、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの置換位置は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。
【0020】
基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン(又は1,2−プロパンジイル)、トリメチレン、1,2−ブタンジイル、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基などが例示できる。基Rはエチレン、プロピレン基などのC2−4アルキレン基が好ましく、粘度低減効果を高める観点からは、分岐C3−4アルキレン基が好ましい。なお、mが2以上であるとき、基Rの種類は異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0021】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、0〜15(例えば、0〜12)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、0〜6)、好ましくは0〜4(例えば、1〜4)、さらに好ましくは0〜3(例えば、1〜3)、特に0又は1〜2であってもよい。
【0022】
基Rを含む基[(メタ)アクリロイル基含有基]の置換数pは、1以上であればよく、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。また、(メタ)アクリロイル基含有基の置換位置は、特に限定されないが、例えば、環Zが縮合多環式芳香族炭化水素環であるとき、フルオレンの9−位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環に少なくとも置換している場合が多い。
【0023】
基Rで表される炭化水素基としては、アルキル基(例えば、基Rと同様のアルキル基(C1−6アルキル基など)など)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル、アルキルフェニル(メチルフェニル(トリル)、ジメチルフェニル(キシリル)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(例えば、ベンジル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示できる。
【0024】
基Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基などが例示でき、シクロアルコキシ基としては、シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基などが例示でき、アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基などが例示でき、アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基などが例示できる。
【0025】
基Rで表されるアルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基としては、それぞれ、前記アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基に対応する基が例示できる。
【0026】
基Rで表されるアシル基としては、アセチル基などのC1−6アシル基などが例示でき、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基などが例示でき、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子などが例示でき、置換アミノ基としては、ジアルキルアミノ基などが例示できる。
【0027】
基Rは、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基が好ましく、特に、ハロゲン原子、アルキル基(C1−6アルキル基など)、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)が好ましい。なお、環Zがベンゼン環であるとき、環Zとフルオレンの結合位置(1−位)を基準にして、3−位に置換するRはアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)ではない。また、環Zがベンゼン環であるとき、通常、少なくとも1つのRはアリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)である。
【0028】
基Rの置換数nは、環Zの種類にもよるが、例えば、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。なお、環Zがベンゼン環であるとき、置換数nは1〜2(特に1)であるのが好ましい。基Rの置換位置は、特に限定されない。
【0029】
なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、基Rの種類、係数kの値は、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。また、2つの環Zにおいて、基R〜Rの種類、係数n、m、pの値は、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。さらに、同一の環に置換する置換基の数(k、p、n)が2以上であるとき、基R〜Rの種類、係数mの値は、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。
【0030】
前記式(1)で表される代表的な化合物には、環Zがナフタレン環である化合物、例えば、前記式(1A)で表される化合物などが含まれる。
【0031】
前記式(1A)において、n1及びn2は、合計値(n1+n2)がnであればよく、それぞれ、0〜3、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0である。p及び(p+n1)は、それぞれ、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1である。なお、2つのナフタレン環において、n1及びn2は、それぞれ、同一又は異なる数であってもよい。
【0032】
なお、(メタ)アクリロイル基含有基の置換位置は、特に制限されず、フルオレンに置換するナフチル基の置換位置などに応じて、5−,6−,7−,8−位のいずれかであればよい。例えば、(メタ)アクリロイル基含有基の置換位置は、フルオレンに1−ナフチル基(α−ナフチル基)が置換しているとき、ナフチル基の少なくとも5−又は8−位(特に、少なくとも5−位)であってもよく、フルオレンに2−ナフチル基(β−ナフチル基)が置換しているとき、ナフチル基の少なくとも6−位であってもよい。
【0033】
前記式(1)で表される具体的な化合物としては、下記(a)(b)で表される化合物などが挙げられる。
【0034】
(a)環Zがナフタレン環であり、k=0であり、n=0であり、p=1である化合物
(a1)9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ナフチル]フルオレン類(m=0である化合物)
例えば、9,9−ビス[5−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−1−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ナフチル]フルオレンなど。
【0035】
(a2)9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類(mが1以上である化合物)
例えば、9,9−ビス[5−{2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ}−1−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−{2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ}−2−ナフチル]フルオレン、これらの化合物に対応し、基Rがプロポキシ基である化合物などの9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)C2−4アルコキシナフチル]フルオレン類;
9,9−ビス[5−{2−(2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ)エトキシ}−1−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−{2−(2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ)エトキシ}−2−ナフチル]フルオレン、これらの化合物に対応し、基Rがプロポキシ基である化合物などの9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ポリC2−4アルコキシナフチル]フルオレン類など。
【0036】
(b)環Zがナフタレン環であり、k=0であり、n=0であり、pが2以上(例えば、2〜4程度)である化合物
(b1)9,9−ビス[ポリ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ナフチル]フルオレン類(m=0である化合物)
例えば、9,9−ビス[ジ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ジ又はトリ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ナフチル]フルオレンなど。
【0037】
(b2)9,9−ビス[ポリ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類(mが1以上である化合物)
例えば、9,9−ビス[ジ{2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ}−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ジ又はトリ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)C2−4アルコキシナフチル]フルオレン類;
9,9−ビス[ジ{2−(2−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エトキシ)エトキシ}−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ジ又はトリ(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ポリC2−4アルコキシナフチル]フルオレン類など。
【0038】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物は、慣用の方法により製造でき、例えば、下記式(2)
【0039】
【化3】

【0040】
(式中、環Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ)
で表されるエポキシ化合物(特開2009−155256号公報などを参照)と(メタ)アクリル酸又はその塩(ナトリウムなどのアルカリ金属塩など)とを、塩基触媒(第3級アミンなど)の存在下、反応させて得てもよい。
【0041】
式(1)で表される化合物は、通常、下記式(3)
【0042】
【化4】

【0043】
(式中、環Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ)
で表される化合物とグリシジル(メタ)アクリレートとを反応させて得る場合が多い。
【0044】
式(3)で表される化合物としては、例えば、特開2007−99741号公報、特開2009−256342号公報などを参照でき、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン;9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)ナフチル]フルオレンなどであってもよい。
【0045】
グリシジル(メタ)アクリレートは、式(3)で表される化合物1モルに対して、2モル当量以上(例えば、2〜3モル当量)程度で使用してもよい。
【0046】
反応は、無溶媒中で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類(ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素など)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなどのジアルキルケトン類など)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0047】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、塩基触媒、例えば、無機塩基(水酸化ナトリウムなどの金属塩など)、有機塩基[例えば、第3級アミン(トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミンなど)]などが例示できる。これらの触媒は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。触媒の使用量は、特に制限されず、例えば、式(3)で表される化合物1重量部に対して、0.001〜1重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部程度である。
【0048】
反応は、必要に応じて、重合禁止剤の存在下で行ってもよい。重合禁止剤としては、ヒドロキノン類(例えば、ヒドロキノン;ヒドロキノンモノメチルエーテルなどのヒドロキノンモノアルキルエーテルなど)、カテコール類(例えば、t−ブチルカテコールなどのアルキルカテコールなど)などが例示できる。これらの重合禁止剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0049】
反応は、例えば、50〜150℃、好ましくは70〜120℃、さらに好ましくは90〜100℃程度で行ってもよく、還流温度以下の温度であってもよい。反応時間は、特に制限されず、例えば、30分〜100時間、好ましくは1〜50時間程度であってもよい。また、反応は、通常、空気中、常圧又は加圧下で行う場合が多い。
【0050】
反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析などの分離手段により分離精製してもよい。
【0051】
[式(1)で表される化合物の用途]
本発明の化合物は、フルオレン骨格[例えば、9,9−ビス(多環式アリール)フルオレン骨格]を有しており、高耐熱性、高屈折率などの特性に優れているため、種々の樹脂のモノマー、改質剤(又は添加剤)などとして好適に利用できる。例えば、複数の(メタ)アクリロイル基を有する本発明の化合物を利用すれば、熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂及びこの樹脂を形成するための硬化性組成物、並びに前記樹脂を含む樹脂組成物などを形成できる。
【0052】
熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂は、本発明の化合物のみで形成してもよく、他の(メタ)アクリレートと組み合わせて形成してもよい。他の(メタ)アクリレートとしては、単官能(メタ)アクリレート[例えば、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、窒素原子に置換基(アルキル基など)を有していてもよい(メタ)アクリルアミド、アミノアルキル(メタ)アクリレートなど]、2官能(メタ)アクリレート[例えば、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリC2−4アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(又はそのC2−4アルキレンオキシド付加体)のジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアリール)フルオレン、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレンなど]、3官能以上の多官能(メタ)アクリレート[例えば、アルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレートなど]、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー[例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。これらの(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0053】
硬化性組成物(又は樹脂組成物)は、他の成分、例えば、開始剤[熱重合開始剤(ジアルキルパーオキサイド類などの有機過酸化物など)、光重合開始剤(ベンゾイン類など)など]、反応性希釈剤[例えば、前記例示の単官能(メタ)アクリレートなど]、非反応性希釈剤(又は溶媒)[式(1)で表される化合物の製造方法の項で例示した溶媒など]、添加剤(安定剤、充填剤、難燃剤、レベリング剤、カップリング剤、重合禁止剤など)などを含んでいてもよい。
【0054】
なお、熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂用途の詳細は、例えば、特開2009−173648号公報などを参照できる。
【0055】
本発明の化合物は、(メタ)アクリロイル基以外に、反応性基(ヒドロキシル基)も有しているため、従来のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートよりも幅広い用途に利用できる。例えば、本発明の化合物を樹脂のモノマーとして利用すると、反応性基を有する共重合性モノマーを使用することなく、樹脂骨格の側鎖にヒドロキシル基を導入でき、応力を緩和できる。
【0056】
また、本発明の化合物[又は本発明の化合物を用いて得られる硬化物、熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂]は、ヒドロキシル基に対する反応性基[例えば、カルボキシル基又はその誘導基(酸無水物基、酸ハライド基など)、イソシアネート基、エポキシ基など]を有する化合物と結合し、これらの化合物に対して高い機能性(高屈折率、高耐熱性、硬化性など)を付与できる。
【0057】
本発明の化合物は、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレートなどを反応させることにより、さらに(メタ)アクリロイル基を導入できる。そのため、本発明では、硬化物の架橋密度や柔軟性の調整などを目的として、(メタ)アクリロイル基当量を容易に調整することもできる。
【0058】
また、本発明の化合物は、エポキシ樹脂又はその原料として利用するため、エピハロヒドリンなどを反応させることにより、エポキシ基を導入することもできる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
なお、合成例及び実施例において、各種測定は以下のようにして行った。
【0061】
(HPLC)
日立製、逆相カラム(ODS−EP)を使用し、254nmにて、アセトニトリル/水(重量比)=85/15、流速:1mL/分で10分測定した。
【0062】
(NMR)
H−NMRスペクトルは、内標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてCDClを用いて記録した。
【0063】
合成例1(9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンの合成)
特開2007−99741号公報に記載の実施例1の方法に準じて、フルオレノンとβ−ナフトールとを反応させて、目的の9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(以下、BNFと称する場合がある)を得た。
【0064】
合成例2(グリシジルアクリレートの合成)
反応は、500mLの三口フラスコに、アクリル酸ナトリウム(47.1g、0.50mol、アルドリッチ社製)、エピクロロヒドリン(209g、2.26mol、ナカライテスク社製)、テトラメメチルアンモニウムクロリド(0.58g、5.31mmol、ナカライテスク社製)、及びヒドロキノン(0.303g、2.75mmol、ナカライテスク社製)を入れ、90℃で3時間撹拌した。反応後、反応液を室温まで冷却し、純水(70mL)を添加してトルエン(50mL×3回)で抽出した。この抽出液から溶媒を除去し、褐色液体(26.4g、crude収率41%)を得た。この褐色液体を減圧蒸留(35〜40℃/4mmHg)することにより、下記式で表されるグリシジルアクリレート(無色透明溶液、17.3g、収率27%、純度100%)を得た。
【0065】
【化5】

【0066】
H−NMR(CDCl,δ):2.7〜3.4ppm(m,3H)、3.9〜4.6ppm(m,2H)、5.8〜6.5ppm(m,3H)。
【0067】
実施例1(BNFとグリシジルアクリレートの反応)
反応は、50mLのビーカーに、合成例1で得られたBNF(1.80g、4.00mmol)、合成例2で得られたグリシジルアクリレート(1.12g、8.76mmol)、ヒドロキノン(7.1mg、0.064mmol、ナカライテスク社製)、及びトリブチルアミン(31.6mg、0.170mmol)を入れ、90〜100℃で2時間撹拌して行い、下記式で表される化合物を得た。
【0068】
【化6】

【0069】
H−NMR(CDCl,δ):2.5〜3.3ppm(m,3H)、4.1〜4.5ppm(m,10H)、5.9〜6.5ppm(m,6H)、6.9〜7.9ppm(m,20H)。
【0070】
実施例2(BNFとグリシジルメタクリレートの反応)
反応は、100mLのビーカーに、合成例1で得られたBNF(3.60g、8.00mmol)、グリシジルメタクリレート(2.50g、17.6mmol、東京化成工業社製)、ヒドロキノン(14.2mg、0.134mmol、ナカライテスク社製)、DMSO(10mL、ナカライテスク社製)、及び24%水酸化ナトリウム水溶液(2.94g、NaOH;17.6mmol、ナカライテスク社製)を入れ、室温で50時間撹拌して行い、下記式で表される化合物を得た。
【0071】
【化7】

【0072】
H−NMR(CDCl,δ):4.0〜4.5ppm(m,10H)、5.5〜6.2ppm(m,2H)、6.9〜7.9ppm(m,20H)。
【0073】
実施例3
BNFとエチレンカーボネートとを、特開2009−155253号公報の実施例1に準じた方法で反応させて、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン(BNF−EO)を得た。得られたBNF−EOとエピクロロヒドリンとを、慣用の方法(特開2009−155256号公報の実施例1に準じた方法など)で反応させて、9,9−ビス[6−(2−グリシジルオキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン(BNF−EOG)を得た。得られたBNF−EOG1モルとアクリル酸2.2モルとを、重合禁止剤としてのヒドロキノン1000ppm及び触媒としてのトリエチルアミン0.2モルの存在下、トルエン溶媒中、70℃で3時間反応させることにより、下記式で表される化合物を得た。
【0074】
【化8】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の化合物は、高耐熱性、高屈折率などの優れた特性を有しており、種々の熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂用途などとして使用できる。
【0076】
具体的には、本発明の化合物(又は本発明の化合物を用いて得られる硬化物)は、インキ材料、発光材料(例えば、有機EL用発光材料など)、有機半導体、黒鉛化前駆体、ガス分離膜(例えば、COガス分離膜など)、コート剤(例えば、LED(発光ダイオード)用素子のコート剤などの光学用オーバーコート剤又はハードコート剤など)、レンズ[ピックアップレンズ(例えば、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)用ピックアップレンズなど)、マイクロレンズ(例えば、液晶プロジェクター用マイクロレンズなど)、眼鏡レンズなど]、偏光膜(例えば、液晶ディスプレイ用偏光膜など)、反射防止膜(例えば、表示デバイス用反射防止フィルムなど)、タッチパネル用材料、フレキシブル基板用材料、ディスプレイ用材料[例えば、PDP(プラズマディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)、VFD(真空蛍光ディスプレイ)、SED(表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)、FED(電界放出ディスプレイ)、NED(ナノ・エミッシブ・ディスプレイ)、ブラウン管、電子ペーパーなどのディスプレイ(特に薄型ディスプレイ)用フィルム(フィルタ、保護フィルムなど)など]、燃料電池用膜、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどに好適に使用できる。特に、本発明の化合物は、光学材料用途に好適に利用でき、このような光学材料の形状としては、例えば、カラーフィルタ用レジスト添加材、フィルム又はシート状、板状、レンズ状、管状などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、環Zはベンゼン環又は縮合多環式芳香族炭化水素環、Rはハロゲン原子、アルキル基又はシアノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはハロゲン原子、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは0又は1以上の整数、pは1以上の整数である。但し、環Zがベンゼン環であるとき、nは1以上の整数であり、少なくとも1つのRはアリール基である。)
で表されるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。
【請求項2】
式(1)において、環Zがナフタレン環であり、RがC2−4アルキレン基であり、mが1〜4の整数である請求項1記載のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。
【請求項3】
式(1)において、環Zがナフタレン環であり、mが0である請求項1記載のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。
【請求項4】
式(1)において、pが1である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。
【請求項5】
下記式(1A)
【化2】

(式中、n1およびn2はそれぞれ0〜3の整数を示し、n1+n2=nであり、R、R、R、R、k、m、n及びpは前記と同じ)
で表される請求項1〜4のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート。
【請求項6】
9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ナフチル]フルオレン、又は9,9−ビス[(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)C2−4アルコキシナフチル]フルオレンである請求項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物と光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−206968(P2012−206968A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72839(P2011−72839)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】