説明

フルオロオレフィンの製造方法

【課題】フルオロオレフィン類の製造方法の提供。
【解決手段】相間移動触媒の存在下で、式:CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d){式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、水素原子または、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであり、ただしR1、R2、R3及びR4の少なくとも一つはハロゲンであり、且つ隣接する炭素原子には少なくとも一つの水素と一つのハロゲンとがあり;aとbは独立して0、1または2であり、且つ(a+b)=2であり;及びcとdは独立して0、1、2または3であり、且つ(c+d)=3である}の化合物と、少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物とを接触させることにより、式:CF3CY=CXnHpのフルオロオレフィン類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、工業的スケールでよい収率で工業薬品を製造し、且つ商業的且つ容易に利用可能な出発物質を使用するための中間体として有用なフルオロオレフィンまたはフルオロハロオレフィン若しくはフッ素含有オレフィン(以後、簡便のためにフルオロオレフィンまたはフッ素含有オレフィンということがある)の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、ハロフルオロカーボン、たとえば1-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235faとも呼ばれる)の脱ハロゲン化水素による、フルオロオレフィン、たとえば1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFC-1225zcとも示される)の製造方法に関し、このハロフルオロカーボンは、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245faとも呼ばれる)の光塩素化によって製造することができる。
【0002】
種々の飽和及び不飽和ハロゲン含有C3化合物の触媒気相フッ素化により、CF3CH=CH2などのフルオロオレフィンを製造することは、米国特許第2,889,379号;同第4,798,818号及び同第4,465,786号に記載されている。
【0003】
米国特許第5,532,419号は、クロロ-またはブロモ-ハロフルオロカーボンとHFとを使用する、フッ素化オレフィンの製造に関する気相触媒方法について開示する。
欧州特許第EP974571号は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)と、KOH、NaOH、Ca(OH)2若しくはMg(OH)2の水性またはアルコール性溶液とを接触させるか、あるいは気相のHFC-245faとクロム系の触媒とを高温で接触させることによる、1,1,1,3-テトラフルオロプロペンの製造を開示する。
【0004】
A.L.HenneらのJ.Am.Chem.Soc.(1946年)68巻、496〜497頁では、アルコール性KOH等を使用する、CF3CH2CF3からの種々のフルオロオレフィンの合成について記載しているが、成功の程度は様々である。いくつかの場合には脱塩化水素がうまくいかなかったり、また、長い反応時間(3日)が必要であったり、あるいは比較的生成物の収率が低い(40%、65%)ことがあると記載している。
【0005】
P.Tarrantら、J.Am.Chem.Soc.(1955年)、77巻、2783〜2786頁は、(1)3-ブロモ-1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンで出発し、これを水中の水酸化カリウム熱溶液と反応させる;及び(2)3-ブロモ-1,1,3,3-テトラフルオロプロペンで出発し、これを150℃でHFと反応させ、次いでこの反応生成物を水酸化カリウム溶液で中和する、CF3CH=CF2の合成について記載する。
【0006】
Y.Kimuraら、J.Org.Chem.(1983年)、48巻、195〜198頁は、水酸化ナトリウムと、ポリエチレングリコールとポリエチレングリコールグラフト化コポリマーとをベースとする相間移動触媒とを使用する、臭素化化合物の多相脱塩化水素について記載する。この著者は、この脱塩化水素の場合には結果がよくないと記載しており(197頁)、末端ヒドロキシル基をもつC8〜C10ポリグリコールは、テトラアルキルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド及びクラウンエーテルなどの他の相間移動触媒と比較して特に有効であったと言及している。この著者は、特定の反応における種々の相間移動触媒の選択的活性についても記載している。
【0007】
M.Halpernら、J.Org.Chem.(1985年)、50巻、5088〜5092頁は、水酸化物イオン(水酸化ナトリウム水溶液)が、四級アンモニウム塩相間移動触媒を使用するハロ芳香族化合物からのHCl及びHBrの除去を開始したことを記載している。
【0008】
利用可能な方法が限られているため、フルオロオレフィンの効率的且つ工業的に許容可能な方法を開発することが望ましい。
発明の概要
式:CF3CY=CXnHp{式中、Yは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;Xは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;n及びpは独立して0、1または2に等しい整数であり、ただし、(n+p)=2である}のフルオロオレフィンの製造方法であって、相間移動触媒の存在下で、
(A)式:CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d){式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、水素原子または、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであり、ただしR1、R2、R3及びR4の少なくとも一つはハロゲンであり、且つ互いに隣接する炭素原子には少なくとも一つの水素と一つのハロゲンとがあり;aとbは独立して0、1または2であり、且つ(a+b)=2であり;及びcとdは独立して0、1、2または3であり、且つ(c+d)=3である}の化合物と、
(B)少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物とを接触させることを含む、前記方法。段階(A)の化合物は、CF3CH2CF2H(HFC-245aとしても公知の市販の化合物)や、CF3CH2CF2Cl、HFC-245faの製造からの副生成物であってもよい。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、一般に、式:CF3CY=CXnHp{式中、Yは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;Xは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;n及びpは独立して0、1または2に等しい整数であり、ただし、(n+p)=2である}のフルオロオレフィンの製造方法であって、相間移動触媒の存在下で、
(A)式:CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d){式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、水素原子または、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであり、ただしR1、R2、R3及びR4の少なくとも一つはハロゲンであり;aとbは独立して0、1または2であり、且つ(a+b)=2であり;及びcとdは独立して0、1、2または3であり、且つ(c+d)=3である}の化合物と、
(B)少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物とを接触させることを含む、前記方法として説明することができる。
【0010】
フルオロオレフィンは、相間移動触媒の存在下で、式(I)の化合物と少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物とを接触させることを含む、式(I)の化合物の脱ハロゲン化水素による本発明の方法によって製造する。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して水素原子または、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであり、ただしR1、R2、R3及びR4の少なくとも一つはハロゲンであり、且つ互いに隣接する炭素原子には少なくとも一つの水素と一つのハロゲンとがあり;aとbは独立して0、1または2であり、且つ(a+b)=2であり;及びcとdは独立して0、1、2または3であり、且つ(c+d)=3である。本発明で使用し得る式(I)の化合物の中には、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンまたはHFC-245faが挙げられる。この物質を製造する種々の方法は、米国特許第5,710,352号、同第5,969,198号、及び同第6,023,004号に記載されている。米国特許第5,728,904号に記載されているもう一つの方法は、経済的でラージスケールへの適用が容易であり、すぐに利用可能な原材料が使用できるという。この特許の方法では、以下のような3段階を使用している:(1)CCl4と塩化ビニリデンとの反応によるCCl3CH2CCl3の形成;(2)TiCl4、SnCl4またはこれらの混合物から選択されるフッ素化触媒の存在下、HFとの反応によるCCl3CH2CCl3のCF3CH2CF2Clへの転換;及び(3)CF3CH2CF2ClのCF3CH2CF2Hへの還元。CF3CH2CF2HとCF3CH2CF2Clのいずれもフルオロオレフィンの製造に関し、本発明で有用であるので、この記載の方法を使用して代替の出発物質を得ることができる。さらに本明細書に開示の方法に従って脱フッ化水素によりオレフィンCF3CH=CFHへ直接転化する本方法の出発物質として使用するための、商業的な量のCF3CH2CF2H(HFC-245faとしても公知)は、ニュージャージー州モリスタウンのHoneywell International Inc.より入手できる。フルオロオレフィン及び/またはフルオロハロオレフィンの製造用の他の有用な出発物質としては、以下のもの:CF3CH2CF2Br;CF3CH2CF2I;CF3CHFCF2Br;CF3CH2CH2Cl;CF3CH2CH2Br;CF3CH2CH2I;CF3CHBrCF2Br;CF3CHClCF2Cl;CF3CH2CFHCl;CF3CH2CFHBr;CF3CHClCF2H;CF3CH2CCl3;CF3CH2CF3などが挙げられる。
【0013】
本発明の脱ハロゲン化水素方法の工程を実施するために、少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物を使用する。このアルカリ金属は、HawleyのCondensed Chemical Dictionary、第13版、1997年に示されているように、元素周期表の第1族の金属からなる群から選択される。この表で「族」とは、「新表記法」に従ったものである。好ましくは、このアルカリ金属は、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択され;ナトリウム及びカリウムがより好ましく、カリウムがもっとも好ましい。水酸化物の有用な濃度は、約1〜約50重量%であり、好ましくは約5〜約30重量%であり、最も好ましくは約10〜約30重量%である。アルカリ金属の水酸化物以外の水酸化物も使用可能であるが、これらは、特に水系で溶解性が低い傾向があるので、あまり望ましくない。たとえば、第2群の金属(たとえばCa、Mg及びBa)の水酸化物、たとえば水酸化マグネシウムがこのタイプのものである。この方法を実施する際、水酸化物、好ましくはアルカリ金属の水酸化物対CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d)の量のモル比は、約1〜約20であり、好ましくは約1〜約15であり、より好ましくは約1〜約12であり、たとえば約1〜約10である。
【0014】
この脱ハロゲン化水素反応は、水性塩基またはアルカリ金属の水酸化物を使用した結果として存在する水以外に、追加の溶媒または希釈剤の必要なく、少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物の水溶液を使用して実施することができる。しかし、所望により便宜上、本方法の実施に溶媒または希釈剤を使用して、系の粘度を調整したり、反応副生成物用の好ましい相として作用させたり、またはサーマルマス(thermal mass)を増加させたりすることができる。有用な溶媒または希釈剤としては、反応もせず、方法の平衡や反応速度論に負の影響も与えないようなものが挙げられ、アルコール、たとえばメタノール及びエタノール;エーテル、たとえばジエチルエーテル、ジブチルエーテル;エステル、たとえば酢酸メチル、酢酸エチルなど;線状、分岐及び環式アルカン、たとえばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン;フッ素化希釈剤、たとえばパーフルオロイソプロパノール、パーフルオロテトラヒドロフラン;クロロフルオロカーボン、たとえばCFCl2CF2Clなどがある。
【0015】
この脱ハロゲン化水素反応は、好都合に且つ好ましくは相間移動触媒の存在下で実施する。本発明の目的に関しては、相間移動触媒は、イオン化合物(たとえば反応体または成分)を、たとえば水相から有機相に移動させ易くする物質である。本発明において、水性相または無機相はアルカリ金属の水酸化物の結果として存在し、有機相はフルオロカーボンの結果として存在する。この相間移動触媒は、これらの異なる、非混和性成分の反応を容易にする。種々の相間移動触媒が様々な方法で機能できようが、この相間移動触媒が特定された反応体に基づく脱ハロゲン化水素反応を促進するならば、その作用機序は本発明におけるその有用性の決定因ではない。この相間移動触媒はイオン性または中性であってもよく、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプテート、及びポリアルキレングリコール及びその誘導体からなる群から選択される。この相間移動触媒の有効量は、所望の反応を実施するのに使用すべきであり;一度、反応体、プロセス条件及び相間移動触媒を選択したら、そのような量は小規模実験で決定することができる。通常、使用する触媒量対CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d)の量は、約0.001〜約10 モル%、たとえば約0.01〜約5モル%、あるいはたとえば約0.05〜約5モル%である。
【0016】
クラウンエーテルは、エーテル基はジメチレン連結により接続している環式分子であり;この化合物は、水酸化物のアルカリ金属イオンを「受容」または保持して、反応を促進することができると考えられている。特に有用なクラウンエーテルとしては、特に水酸化カリウムと組み合わせた18-クラウン-6;水酸化ナトリウムと組み合わせた15-クラウン-5;水酸化リチウムと組み合わせた12-クラウン-4がある。上記クラウンエーテルの誘導体も有用であり、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6、及びジベンゾ-24-クラウン-8並びに12-クラウン-4がある。アルカリ金属化合物、特にリチウムのために特に有用な他のポリエーテルは、本明細書中、参照として含まれる米国特許第4,560,759号に記載されている。同じ目的のために有用で且つクラウンエーテルに似た他の化合物は、別の種類の供与体原子、特にNまたはSによって一つ以上の酸素原子が置き換っている点が異なる化合物、たとえばヘキサメチル-[14]-4,11-ジエンN4がある。
【0017】
オニウム塩としては、本発明の方法で相間移動触媒として使用し得る四級ホスホニウム塩及び四級アンモニウム塩が挙げられる;そのような化合物は、以下の式II及びIII:
【0018】
【化2】

【0019】
{式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基またはアルアルキル基であり、及びX'はハロゲン原子である}により表すことができる。これらの化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(商標Aliquat 336及びAdogen 464のもとで商業的に入手できる)、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、テトラ-n-ブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニルメチルホスホニウムブロミド及びトリフェニルメチルホスホニウムクロリドが挙げられる。中でも、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが、強塩基条件下での使用に好ましい。この種の化合物の中で他に有用な化合物としては、高温(たとえば約200℃以下)安定性を示すものが挙げられ、4-ジアルキルアミノピリジニウム塩、たとえばテトラフェニルアルソニウムクロリド、ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン]イミニウムクロリド及びテトラトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムクロリドがあり;後の二つの化合物は、熱、濃水酸化ナトリウムの存在下で安定であるので、特に有用であると報告されている。
【0020】
相間移動触媒として有用なポリアルキレングリコール化合物は、式:
【0021】
【化3】

【0022】
{式中、R5はアルキレン基であり、R6及びR7はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基またはアルアルキル基であり、及びtは少なくとも2の整数である}によって表すことができる。そのような化合物としては、グリコール、たとえばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジイソプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びテトラメチレングリコール、並びにそのようなグリコールのアルキルエーテル、たとえばモノメチル、モノエチル、モノプロピル及びモノブチルエーテル、ジアルキルエーテル、たとえばテトラエチレングリコールジメチルエーテル及びペンタエチレングリコールジメチルエーテル、フェニルエーテル、ベンジルエーテル、並びにポリアルキレングリコール、たとえばポリエチレングリコール(平均分子量約300)ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール(平均分子量約300)ジブチルエーテル、及びポリエチレングリコール(平均分子量約400)ジメチルエーテルが挙げられる。中でも、R6及びR7のいずれもがアルキル基、アリール基またはアルアルキル基である化合物が好ましい。
【0023】
クリプテートは、相間移動触媒として本発明で有用なもう一種の化合物である。これらは適当に間隔をおいた供与体原子を含有する鎖と橋頭構造とを結合させることによって形成した三次元の多環式大環状キレート化剤である。たとえば、2.2.2-クリプテート[4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ-(8.8.8)ヘキサコサン;商標名ryptand 222及びKryptofix 222のもとで市販されている]のように、橋頭窒素と(-OCH2CH2-)の鎖とを結合させることによって得られる二環式分子がある。この橋架の供与体原子は全てO、N若しくはSであってもよいか、この化合物は橋架ストランドがそのような供与体原子の組み合わせを含む混合供与体大環状化合物(mixed donor macrocycle)であってもよい。
【0024】
上記群の一つからの相間移動触媒の組み合わせも、二つ以上の群からの組み合わせ若しくは混合物、たとえばクラウンエーテルとオニウム、または三つ以上の群からの組み合わせ若しくは混合物、たとえば四級ホスホニウム塩及び四級アンモニウム塩、並びにクラウンエーテル及びポリアルキレングリコールと同様に有用であろう。
【0025】
本発明は、0℃若しくはやや上回る〜約80℃、好ましくは約0℃若しくはやや上回る〜約60℃、より好ましくは約0℃若しくはやや上回る〜約40℃;たとえば約0℃〜約25℃の範囲の温度で実施する。「やや上回る」とは、約1〜約5℃の範囲と、その間の温度を意味するものとする。希釈剤が凍結する方法条件下では、溶媒または反応体は要因ではなく、0℃未満の温度、たとえば約−20℃〜約80℃、好ましくは約−10℃〜約60℃、より好ましくは約−5℃〜約40℃を使用することができる。
【0026】
反応圧力に関しては特別な限定はないが、言い換えれば、本反応は周囲圧力でも高圧下でも実施することができ、フルオロカーボン出発物質とフルオロオレフィンとを少なくとも反応の間、液体状態に保持するのが望ましい場合は、高温で操作することが必要であろう。本反応を高圧下で実施するとき、有用な圧力は約1〜約5気圧(約100kPa〜約500kPa)である。本反応時間は、出発化合物CF3C(R1aR2b)C(R3cR4d)、並びに選択した反応温度及び所望の収率または転換率に従って変動することができる。たとえば約0℃〜約65℃、好ましくは約0℃〜約25℃で実施する反応に関する通常の反応時間は、約0.1〜約20時間を変動することができ、好ましくは約0.1〜約2.0時間である。
【0027】
本明細書で記載する方法は、以下の式:
【0028】
【化4】

【0029】
{式中、Yは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;Xは水素原子または、フッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;n及びpは独立して0、1または2の整数であり、ただし(n+p)=2である}をもつフルオロオレフィン及び/またはフルオロハロオレフィンの製造に有用である。そのような化合物としては、CF3CH=CF2、CF3CH=CFH、CF3CBr=CF2、CF3CH=CH2、CF3CF=CF2、CF3CCl=CF2、CF3CH=CHCl、CF3CCl=CHF、CF3CH=CCl2、CF3CF=CCl2などが挙げられる。本発明の方法により製造したフッ素含有オレフィンは、相分離により反応混合物及び/または溶媒または希釈剤から容易に除去される。出発物質の転換率の程度に依存して、本生成物を直接使用するかまたは、標準的な蒸留法によりさらに精製することができる。
【0030】
本発明の方法により得られたフルオロオレフィンは、フッ素含有オリゴマー、ホモポリマー及びコポリマー並びに、他のフッ素を含有する工業薬品用の中間体として有用である。
【0031】
特定の族に属する元素または金属に対する本明細書の全ての参照文献は、Hawley's Condensed Chemical Dictionary、第13版に見られるように元素の周期表を参考としている。単数または複数の族に対する全ての言及は、番号を付けた族に関して「新表記法」を使用する元素の周期表で反映された単数または複数の族に対するものとすべきである。
【0032】
以下の実施例は、本発明を具体的に説明するものである。しかしながら、本発明は、この実施例に記載された具体例に限定されるものではない。実施例並びに明細書の残りの部分の全ての部及びパーセントは、他に記載しない限り重量である。
【0033】
さらに、本発明の種々の側面について記載または請求する以後の明細書または段落で参照する全ての数字の範囲、たとえば特性の特定のセット、測定単位、条件、物理的状態または割合を示すものは、参照により本明細書中にはっきりと示されたもの、または範囲、たとえばそのように引用された全ての範囲内に包括される範囲若しくは数字の全てのサブセットを含む、そのような範囲の全ての数字を包含するものとする。変数に関する修飾語句として、または変数と組み合わせて使用するときの「約」という用語は、本明細書中に開示された数字及び範囲に柔軟性があって、且つ当該範囲外や単一の値とは異なる温度、濃度、量、含有量、炭素数及び特性を使用して当業者によって本発明を実施すると、所望の結果、すなわちフルオロオレフィンの製造方法及びかかる方法で使用する反応体が得られるだろうことを示すものとする。
【0034】
実施例1
CF3CH2CF2H(HFC-245fa)の脱フッ化水素
オートクレーブ/加圧ボトル中、約0℃でクラウンエーテル、18-クラウン-6(0.050g、0.2mモル)を含むKOH(20重量%)の水溶液100mLに、CF3CH2CF2H(5.93g、44mモル)を添加した。この撹拌反応混合物を徐々に室温(約20〜25℃)にして、さらに約2時間撹拌した。この反応により形成した揮発性生成物、CF3CH=CFH(3.76g、33mモル、収率75%)を約−78℃でコールドトラップに集めた。
【0035】
実施例2
CF3CH2CF2H(HFC-245fa)の脱フッ化水素
(A)クラウンエーテルの非存在下
オートクレーブ/加圧ボトル中、約0℃でKOH(50重量%)の水溶液20mLに、CF3CH2CF2H(6.0g、44mモル)を添加した。封止した反応容器/加圧ボトル中のこの撹拌反応混合物を室温にして、約24時間撹拌した。この反応容器からの揮発性物質のガスクロマトグラフィー分析から、未反応の出発物質だけが示された。
【0036】
(B)クラウンエーテルの存在下
クラウンエーテル、18-クラウン-6(0.025g、0.1mモル)を反応混合物に添加した以外には、(A)での実験を繰り返した。これらの条件下で、CF3CH=CFH(収率67%)(転換率85%)が得られた。
【0037】
実施例3
CF3CH2CF2Cl(HCFC-235fa)の脱塩化水素
オートクレーブ/加圧ボトル中、約0℃でクラウンエーテル、18-クラウン-6(0.084g、0.31mモル)を含むKOH(20重量%)の水溶液100mLに、CF3CH2CF2Cl(6.4g、38.7mモル)を添加した。封止したオートクレーブ/加圧ボトル中のこの撹拌反応混合物を徐々に室温にして、さらに約1時間撹拌した。ガスクロマトグラフィー分析(CF3CH=CF2に関して保持時間1.9分)から、93%の転換率であることが判明した。この反応の間に形成した揮発性生成物、CF3CH=CF2(3.47g、26mモル、収率67%)を約−78℃でコールドトラップに集めた。
【0038】
実施例4
クラウンエーテルの非存在下におけるCF3CH2CF2Cl(HCFC-235fa)の脱塩化水素
クラウンエーテル、18-クラウン-6を含めなかった以外には、実施例3の反応を繰り返した。これらの条件下において、ガスクロマトグラフィー分析では、未反応の出発物質(CF3CH2CF2Cl)だけが示された。
【0039】
脱塩化水素反応を促進させようとして、より過酷な条件を使用した。オートクレーブ/加圧ボトル中、約0℃でKOH(20重量%)の水溶液100mLに、CF3CH2CF2Cl(8.37g、50mモル)を添加した。この撹拌反応混合物を65℃で2時間保持した。ガスクロマトグラフィー分析から生成物へは52%の転換率であることが判明した。60〜65℃でさらに8時間加熱すると、反応物へは93%の転換率となった。このことは、この反応を本発明の範囲外で実施したときに、脱ハロゲン化水素がたとえ起こったとしても、本発明の方法と比較して、生成物を得るためにはかなりの高温と長い反応時間とが必要であることを示している。
【0040】
実施例5
(A)CF3CHBrCF2Brの製造
ドライアイスコンデンサとスターラーとを備えた、冷却(−78℃)した三つ首丸底フラスコに、窒素下で、109g(0.83モル)のCF3CH=CF2を添加した。撹拌しながら、臭素132g(0.83モル)を約4時間で滴下添加した。臭素を添加する間の温度は−66〜−46℃であった。添加完了後、この反応混合物をさらに20分間撹拌し、亜硫酸水素ナトリウム水溶液(10重量%)で有機相が無色になるまで洗浄した。この無色の有機相を分離し、MgSO4で乾燥し、濾過すると、無色液体状のCF3CHBrCF2Br 199g(収率82%)が得られた。この構造は、核磁気共鳴(NMR)分光法により確認した。
【0041】
(B)CF3CHBrCF2Brの脱臭化水素
ウォーターコンデンサ(約15〜20℃)、スターラーを備え、ドライアイストラップ(約−78℃)を装着した、窒素パージ下で操作する250mL三つ首丸底フラスコに、水酸化カリウム水溶液(23重量%)100mLとクラウンエーテル、18-クラウン-6(0.1g、0.37mモル)とを添加した。約20℃でこの溶液に、CF3CHBrCF2Br(24.6g、84mモル)を約35分かけて添加漏斗により滴下添加した。形成したままの脱臭化水素生成物、CF3CBr=CF2(ガスクロマトグラフィー保持時間、2.0分)をドライアイストラップに連続して集めた。CF3CHBrCF2Brの添加完了後、この反応混合物をさらに60分間撹拌した。全部で17.1g(81mモル)のCF3CBr=CF2がドライアイストラップに集められた。この構造は、NMR分光法により確認した。
【0042】
本発明の操作の原則、好ましい態様及び形態について、上記明細書にて記載してきた。本明細書において保護すべきものである本発明は、限定するものではなく、説明するものとして見なすべきであるので、開示された特定の形態に限定されるものとして解釈すべきではない。当業者は、本発明の主旨から逸脱することなく修正及び変更が可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法であって、相間移動触媒の存在下で、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む原料と少なくとも一種のアルカリ金属の水酸化物とを接触させて1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む生成物を生成することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記相間移動触媒が、クラウンエーテル、クリプテート、ポリアルキレングリコールまたはその誘導体;及びオニウム塩から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クラウンエーテルが18−クラウン−6及び15−クラウン−5から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記オニウム塩が、アンモニウム及びホスホニウム塩から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記オニウム塩が、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン]イミニウムクロリド及びテトラトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムクロリドからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水、アルコール、エーテル、エステル、アルカン並びにフッ素化希釈剤及びクロロフルオロカーボンからなる群から選択される少なくとも一種の希釈剤の存在下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属がナトリウムであり、前記相間移動触媒が15−クラウン−5エーテルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記相間移動触媒がベンジルトリエチルアンモニウムクロリドである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記方法を−50℃〜100℃で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ金属の水酸化物対1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンのモル比が1〜10である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
相間移動触媒対1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンのモル比が0.001モル%〜10モル%である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
連続法で実施する、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2012−233001(P2012−233001A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168476(P2012−168476)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2003−530643(P2003−530643)の分割
【原出願日】平成14年9月25日(2002.9.25)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】