説明

フルオロホスホノ桂皮酸化合物、その合成及び利用

本発明は、一般構造式(II)又は(II’)のホスホノ桂皮酸化合物のリン原子を特異的にフッ化するための方法に関するものであり、式中、Xは酸素原子又は硫黄原子から選択され、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、H、アルキル基、アリール基、OH、O−アルキル、S−アルキル、NH2、NH−アルキル、N−(アルキル)2の中から選択され、R7は、H、アルキル基、アリール基、シリル基の中から選択され、R8は、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、TBDPSはt−ブチルジフェニルシリル基を表しており、前記方法において、第三アミンとフッ化水素との間で形成された錯体を含むフッ化剤と前記化合物とを反応させる。本発明は、かくして調製された新規なフッ化化合物、ならびにかかるフッ化化合物を含む治療用組成物にまで及ぶ。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フルオロリン酸化合物の調製方法に関する。本発明は、より厳密には、有機リン酸化合物のフッ化の新規な方法ならびにフルオロホスホノ桂皮酸化合物の合成に関する。それ自体新規のものであるこれらのフルオロホスホノ桂皮酸化合物は、特にその抗酸化活性により、特に医療及び/又は美容の分野で際立った産業的利点を有する。
【0002】
現在、R1及びR2がアルキル、アリール、アルキル(alcoyle)、アミド、アニリドなどといったきわめて多様なラジカルを表し得る、
【化1】

という構造式により一般化することができる、数多くの有機フルオロ(チオ)リン酸エステルが知られている。
【0003】
これらのエステルは、アセチルコリンエステラーゼに対し特に有効である、酵素的なアシル化反応の阻害物質として一般に記載されている。さらに、その殺菌力及び抗真菌力から、これらのエステルは、殺虫及び/又は消毒用組成物の開発において従来用いられている。
【0004】
Chworos et al., 1999(Tetrahedron Letters, 40:9337−9340)は、R1及びR2がフェニル、メトキシ、エトキシ及び/又はテルブチルメトキシ型のラジカルを表している特定の有機フルオロリン酸エステルの調製を記載している。
【0005】
これらの化合物の調製は、ホスフィノ(チオ)セレノアート型化合物、ホスフィノ(チオ)クロリド型化合物又はそのホスホノ類似体もしくはホスホロ類似体とフッ化銀(AgF)との間の反応から成る。その反応は溶液中(好ましくはトリクロロメタン又はメチルニトリル中)で実施され、常温で行うことができる。目的の生成物は、暗灰色の不溶性沈殿物の形で得られる。これは、ジクロロメタン中で混合物を希釈し、続いてブラインで洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥した後、回収される。
【0006】
Chworos et al., 1999により記載されたフッ化方法は、実施が容易かつ迅速であるものの、二つの主要な欠点を有する。第一の欠点は、用いれる試薬、つまり特に高価な試薬であるフッ化銀にある。もう一つの欠点は、この方法によると、唯一フルオロリン酸型の化合物が得られるが、フルオロチオリン酸型の化合物の獲得が不可能であるという点にある。実際、チオホスホン酸型の化合物から出発する場合であっても、フッ化銀によるフッ化はチオホスホン酸基からホスホン酸基への変換も伴い、最終的にはフルオロリン酸化合物が形成されることになる。
【0007】
米国特許第2962517号明細書は、有機フルオロリン酸エステル及び有機フルオロチオリン酸エステル、特に、Rがアルキル型のラジカルを表す、
【化2】

という一般構造式を満たす化合物の、別の調製方法を記載している。
【0008】
このために、無水アルコール及びベンゼン、トルエン又はクロロベンゼン型の溶媒の存在下で、β−アルコキシメルカプトビニルホスホン酸ジクロリド又はβ−アルキル(alcoyl)メルカプトビニルホスホン酸ジクロリドとアルカリフッ化物との間で反応が実施される。アルカリフッ化物(特にフッ化ナトリウム)は、好ましくは無水物であり、かつ細かく分割された状態になくてはならない。反応温度は約60〜90℃である。
【0009】
問題の方法は、ベンゼン、トルエン又はクロロベンゼン、すなわちとりわけ揮発性が高く、引火性で発癌性を有し、かつ特に吸入及び皮膚接触によって有毒である溶媒の取扱いを必要とするばかりでなく、反応媒質を加熱すること、ひいてはその危険性が常温でも明確に指摘されているこれらの物質を加熱することが定められている。
【特許文献1】米国特許第2962517号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景において、方法を実施する通常の条件下で、健康に対する重大な危険性又は何らかの取扱い危険性のあるいかなる物質の使用もその実施に必要としない、有機チオリン酸化合物を含む有機リン酸化合物を対応するフルオロ(チオ)リン酸化合物へとフッ化するための方法を提案することを目的としている。
【0011】
特に、本発明は、実施が簡単かつ迅速である方法に従って、特定の有機(チオ)リン酸化合物、すなわちこの場合は現在までフッ化の試みがほとんどさらには全く考慮されてこなかった(チオ)ホスホノ桂皮酸化合物のフッ化を可能にすることを目的としている。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、きわめて有利な産業上の利用性を有し、かつフッ化されていない対応する又は類似の化合物に比べて著しく改善された潜在的能力をもつ、このように合成された新規の化合物を提案できるようにすることにある。
【0013】
以下の本文では、文脈に従って、「リン酸」、「ホスホリル」、「ホスホニル」などといった用語は、リン原子が二重結合で酸素原子に結合したリン酸基を表すための特定の形で用いられるか、又はより一般的な形で、前記リン原子が二重結合で酸素原子にではなく硫黄原子に結合できる可能性をも同様に含むように用いられる(換言すると、「リン酸」、「ホスホリル」、「ホスホニル」などは同様にかつ場合によってはそれぞれ「チオリン酸」、「チオホスホリル」、「チオホスホニル」としても理解され得る)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
【化3】

という一般構造式のフルオロホスホノ桂皮酸化合物に関するものであり、式中、
− Xは、酸素原子又は硫黄原子から選択され、
− R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、H、アルキル基、アリール基、OH、O−アルキル、S−アルキル、NH2、NH−アルキル、N−(アルキル)2の中から選択され、
− R7は、H、アルキル基、アリール基、シリル基の中から選択され、
− R8は、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、
前記アルキル基及びアリール基はおよそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有する。
【0015】
本発明に従うと、一般構造式(I)のこれらのフルオロホスホノ桂皮酸化合物は、
【化4】

という一般構造式のホスホノ桂皮酸化合物のフッ化により得ることができ、式中、
− Xは、酸素原子又は硫黄原子から選択され、
− R’は、S−アルキル基、S−アリール基、S−アミン基、S−アミド基、NH−アルキル基、NH−アリール基、NH−ベンジル基、N−(アルキル)2基、N−(アリール)2基の中から選択され、
− R7’は、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、
前記アルキル基及びアリール基は、およそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有する。
【0016】
同様に、本発明に従った一般構造式(I)のこれらのフルオロホスホノ桂皮酸化合物は
【化5】

という一般構造式を満たす、一般構造式(II)の化合物の類似体であるホスホノ桂皮酸化合物のフッ化によっても得ることができ、式中、TBDPSは、t−ブチルジフェニルシリル基を表す。
【0017】
本発明に従った方法において出発物質として使用可能である一般構造式(II)及び(II’)の(フッ化されていない)ホスホノ桂皮酸化合物は、技術現状で既知である。その調製の例は、特にKennedy et al. 1999(J. Enzyme Inhibition, 14:217−237)及びLapeyre et al., 2003(Tetrahedron Letters, 44:2445−2447)といったような刊行物で見ることができる。
【0018】
本発明に従うと、一般構造式(II)又は(II’)を満たすホスホノ桂皮酸化合物を特にリン原子上でフッ化させるためには、−20℃と85℃の間に含まれる温度、そして有利には常温で、R3Nと表される第三アミンとフッ化水素(HF)との間で形成された錯体を含むフッ化剤と、このホスホノ桂皮酸化合物とを反応させる。ここで前記第三アミン(R3N)は、およそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有するアルキル基によって置換されている。
【0019】
かくして、本発明は、第三アミンとフッ化水素との間で形成された錯体が、リン原子上で特異的にホスホノ桂皮酸化合物をフッ化するための優れた作用物質を構成するという事実に基づいている。
【0020】
第三アミンとの錯体の形でのフッ化水素は、適切な脱離基をフッ素原子で置換することを可能にするものとしてすでに知られている(McClinton, 1995, Aldrichimica Acta, 28(2):31−35)。なお、これらの錯体の反応性ひいてはフッ化力がそれらの求核性に依存することは充分に立証済みである。この求核性は主に、一般に約1:1、1:2又は1:3であり得る第三アミンとフッ化水素との間のモル比に依存する。このとき、それぞれ前述したモル比に対応するR3N・HF、R3N・2HF及びR3N・3HFと表される三つのタイプの錯体が区別される。これらの異なる錯体の求核性は、R3N・2HF>R3N・3HF>R3N・HFという順である。
【0021】
しかしながら、今日までは、かかる錯体が介在する置換は、必ず炭素原子により担持されていると考えられる脱離基のみに関するものであった。リン原子の部分で有機(チオ)リン酸化合物をフッ化するためには、結果として不都合をもたらす米国特許第2962517号明細書又はChworos et al., 1999(Tetrahedron Letters, 40: 9337−9340)により記載されたもののような方法が優先的にさらには排他的に用いられていた。
【0022】
本発明に従った方法は、一般構造式(II)又は(II’)の有機リン酸化合物のリン原子を特異的に、しかも単一の段階で、優れた収量でかつ完全な選択性を伴って、単純な方法でフッ化することを可能にする。このように合成されたフルオロホスホノ桂皮酸化合物を回収するためには、単純な従来の精製段階で充分である。
【0023】
その上、本発明に従った方法は、容易に入手でき(すなわち、すでに市販で入手可能でありしかも価格が適正であるか、又はそれらの合成方法が文献中ですでに記載されているため)、本発明に従った方法の通常の実施条件においてその危険性がわずかである出発物質及び試薬を用いて実施可能であるという利点を有する。特に、本発明に従ったフッ化反応は有利にも、常温又はそれよりはるかに低い温度で実施可能である。
【0024】
本発明に従った第三アミンとしては、一例として、トリメチルアミン(Me3N)、トリエチルアミン(Et3N)、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、さらにはトリペンチルアミンを挙げることができる。好ましくはトリエチルアミン(Et3N)を用いる。
【0025】
有利には、かつ本発明に従うと、フッ化剤として、R3N・HF、特にEt3N・HF型の錯体、すなわち約1:1の第三アミン/フッ化水素のモル比をもつ錯体を用いる。
【0026】
本発明者らは同様に、R3N・2HF又はR3N・3HF型の錯体に比べて著しく低い求核性をもつR3N・HF錯体(特に本発明に従った第三アミンがトリエチルアミンのもの)が、それでもなお顕著な反応性を示すということを確認した。
【0027】
好ましくは液相で反応が行なわれる。このとき、有機化合物を溶解させることのできる溶媒、例えばジクロロメタン、アセトニトリルさらにはテトラヒドロフランを用いることが可能である。
【0028】
有利には、かつ本発明に従うと、過剰なフッ化剤で反応が実施される。特に、構造式(II)の出発化合物とフッ化剤との間で約1.2〜20というモル比を用いる。好ましくは、このモル比は少なくともおよそ5である。
【0029】
有利には、かつ本発明に従うと、一般構造式(II)の出発化合物であるホスホノ桂皮酸化合物のR8基は、−SCH2CH2NHCOCH3、−NHCH2Ph(Phはフェニルラジカルを表す)という脱離基から選択される。
【0030】
有利には、かつ本発明に従うと、出発化合物の一般構造式(II)において、
− R7’は、−H又は−CH3から選択された基を表し、
− R1及びR4は、−H又は−OCH3から選択された基を表す。
【0031】
例えば、一般構造式(II)を満たす出発化合物であるホスホノ桂皮酸化合物として、刊行物Lapeyre et al., 2003(Tetrahedron Letters, 44: 2445−2447)においてその調製手順が記載されているホスホノ桂皮酸チオエステル又はその類似体化合物を用いて本発明を実施することができる。この実施例では、脱離基はS−アミン型のもの、特にN−アセチルシステアミン(−SCH2CH2NHCOCH3)である。
【0032】
非常に類似した要領で、一般構造式(II’)のホスホン酸クロリド化合物を用いて、特に前掲のLapeyre et al., 2003の方法でホスホノ桂皮酸チオエステルの合成反応の中間生成物として記載されているものに基づいて、本発明に従った一般構造式(I)のフルオロホスホノ桂皮酸化合物の合成を実施することもできる。
【0033】
一般構造式(II)を満たす他の出発化合物として、刊行物Kennedy et al., 1999(J. Enzyme Inhibition, 14: 217−237)において調製手順が記載されているエチル−2−N−ベンジル−2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテンホスホンアミド又は類似体化合物又は等価物を挙げることもできる。この実施例では、脱離基は第二アミン型のもの、特に−NHCH2Phである。
【0034】
本発明は同様に、新規な生成物としての一般構造式(I)のフルオロホスホノ桂皮酸化合物にも関する。
【0035】
桂皮酸型の多くの化合物、特に構造式(II)又は(II’)のフッ化していないホスホノ桂皮酸化合物に従って、本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物は、酸化的ストレスによって引き起こされる生理的障害の治療的又は美容的処置の枠内で特に有利な抗酸化活性を示す。実際、本発明者の研究作業により、LDLの酸化に対する本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物の保護効果が、有利にも、対応するフッ化していない化合物で見られるものにかなり匹敵するものであることを示すことができた。しかしながら、これらのフッ化していない化合物とは異なり、本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物は、驚くべきことに4−HNEに関連する毒性に対する保護効果も示し、しかもそれはそのフッ素原子によるものである可能性がきわめて高い。
【0036】
4−HNEの毒性に対するその細胞保護効果に加え、酸化に対するそのLDL保護効果により、本発明に従った化合物は、アテローム性動脈硬化症及びその心臓血管又は神経血管の合併症の治療において主たる応用利点を示す。
【0037】
アテローム性動脈硬化症は、その他の遺伝的又は栄養的因子と並んで脂質が重要な役割を果たしている多因子病変である。プラークの発生及び成長に関与する代謝因子の中で、(血中コレステロールを末梢組織に向かって輸送する)LDLは、血管壁内での酸化修飾の後アテローム形成性となる。LDLで誘発された酸化は、それ自体LDLを酸化することのできるアルデヒド(特に4−HNE)の形成をin situで引き起こす。酸化LDLは、脂肪線条に蓄積することがアテローム性動脈硬化症の初期病変の原因となる泡沫細胞の形成において主要な役割を果たす。これらの酸化LDLは、同様に、より進行した病期へのプラークの成長、さらには心臓血管の傷害の原因である破裂及び血栓症の現象の進行に関与している可能性のある、前炎症性、細胞増殖性、凝血促進性及びプロアポトーシスの特性も示す。
【0038】
従って、LDLの酸化過程を遮断する能力をもつ分子は、プラークの成長を阻害するためにきわめて有効である。この背景において、本発明はここで、新規なLDL酸化経路遮断剤を提供するのだが、その効力は、この経路の少なくとも二つの異なるレベル(LDLに対する直接的作用と4−HNEを介した作用)で働くというなおさら傑出したものである。
【0039】
従って、本発明は同様に、特にそのLDL酸化経路の遮断効果のため、本発明に従った少なくとも一つのフルオロホスホノ桂皮酸化合物を含むことを特徴とする美容用又は治療用組成物にも及んでいる。
【0040】
有利には、かつ本発明に従うと、酸化的ストレスによって引き起こされる生理的障害、特にアテローム性動脈硬化症及びその心臓血管又は神経血管の合併症の治療を目的とした治療用組成物を目的としている。本発明は同様に、アテローム性動脈硬化症の治療的処置を目的とした薬剤の調製のための、本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物の利用にも及んでいる。
【0041】
本発明は同様に、本発明に従った少なくとも一つのフルオロホスホノ桂皮酸化合物とLDLを接触させる、酸化に対するLDLのインビトロでの保護方法にも関する。
【0042】
有利には、かつ本発明に従うと、本発明に従った化合物として特に次のものを挙げることができる。
【化6】

という構造式の、(E)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル、
【化7】

という構造式の、(E)−2−(4−ヒドロキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル、
【化8】

という構造式の、(E)−2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル、
【化9】

という構造式の、(E)−2−(3,4−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル。
【0043】
本発明は同様に、以上又は以下に記されている特徴の全て又は一部を組み合わせて特徴とするフルオロホスホノ桂皮酸化合物の調製方法、フルオロホスホノ桂皮酸化合物、治療用組成物、ならびに酸化からLDLを保護するための方法にも関する。
【0044】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、一方では本発明に従った特定のフルオロホスホノ桂皮酸化合物(5〜8で表される構造式のもの)の合成、又他方ではこれらの化合物の生物学的なアテローム形成防止効果の研究について言及する、以下に詳述する説明を読むことにより明らかになる。実験結果は特に以下の添付の図面を参照している。
−図1A、図1B及び図2は、本発明に従った特定の化合物の全体的な抗酸化効果、ならびに酸化的ストレスに付された細胞の保護についてのその効果の統計的な棒グラフである。
−図3及び図4は、本発明に従った特定の化合物の培地内濃度に応じた、酸化LDL又は4−HNEの存在下での細胞の生存の推移を示す。
【実施例】
【0045】
化学合成と分析
・ 合成
1) 第一の実施様式によると、本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物の合成は、構造式(II)の出発化合物を用いて実施することができる。このとき、反応方程式の概要は以下である。
【化10】

【0046】
脱離基R’がN−アセチルシステアミン基である、1〜4で表されるホスホン酸チオエステルは、刊行物Lapeyre et al., 2003(Tetrahedron Letters, 44: 2445−2447)において記載されている方法に従って予め合成することができる。
【0047】
脱離基R’が第二アミンである4’で表されるホスホン酸アミドは、刊行物Kennedy et al., 1999(J. Enzyme Inhibition, 14: 217−237)において記載された方法に従って予め合成することができる。
【0048】
Avocado社のトリエチルアミン(純度99%)及びAldrich社のEt3N・3HF錯体(純度98%)を、Et3N・HF錯体の生成に用いる。
【0049】
無水テトラヒドロフラン(THF)(純度99.7%)及び分取HPLC用の酢酸エチル(純度99.8%)は、フランスのSDS社により提供される。
【0050】
2) 第2の実施様式によると、一般構造式(II’)のホスホン酸クロリドから本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物の合成を実施することができる。この場合、反応方程式の概要は以下である。
【化11】

【0051】
これらのホスホン酸クロリド化合物A〜Cは、Lapeyre et al., 2003ではホスホン酸チオエステル1〜4の合成の中間生成物であるものとして記載されている。本発明の枠内では、本発明に従った方法の実施における出発物質として用いられるこれらのホスホン酸クロリドA〜Cは、以下で記載される方法に従って、対応するホスホン酸ジエステルから予め量的に得ることができる。
【0052】
窒素気流下に置いた、9.7mLのジクロロメタン中に溶解したシリル化したホスホン酸ジエステル溶液(1.9mmol)に、常温で、蒸留したばかりの塩化オキサリル(8.6mmol)を添加する。反応混合物を20時間常温で攪拌する。減圧下で、ジクロロメタン及び過剰な塩化オキサリルを除去する。わずかに残った塩化オキサリルを取り除くため、数ミリリットルのジクロロメタンを添加し、これを次に蒸発させる。この作業を三回くり返す。反応の進捗は、31P−NMR(溶媒:D2O、81MHz、δppm)により追跡可能である。
【0053】
【化12】

【0054】
・ 精製:
適切な溶離剤系を用いて、シリカ15〜40μm(MERCK France)が充てんされた直径20又は40mmのカラムを有する軸方向圧縮式の装置JOBIN−YVONで、シリカゲル上での中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)により、生成物全体を精製する。
【0055】
・ 分析:
シリカプレートMERCK60−F254を用いて、薄層クロマトグラフィーを実施する。
【0056】
BUCHI装置で融点を測定した。
【0057】
IRスペクトルを、FT−IR分光光度計1725X型のフーリエ変換式のパーキン−エルマー社の分光光度計で記録する。
【0058】
四重極分光計NERMAG R10−10で、質量スペクトル(化学イオン化DCI又は電子衝撃EI)を実施する。
【0059】
紫外線スペクトルを、HEWLETT PACKARD 8453計器で記録する。
【0060】
NMRスペクトルを、次のBRUCKER装置で記録する。
1H核については250MHz、13C核については62.5MHzで作動するAC−250、
31P核については81MHz、19F核については188.5MHzで作動するAC−200。
【0061】
化学シフト(δ)は、1H核及び13C核についての基準としてテトラメチルシランのシグナルを、31P核の基準としてリン酸のシグナルを、19F核の基準としてフッ化水素酸のシグナルを用い、ppm単位で示す。結合定数Jはヘルツ単位で示され、シグナルの多重度は小文字で示される。すなわちs(一重項)、d(二重項)、t(三重項)、q(四重項)、m(多重項)。
【0062】
・ 出発物質としてホスホン酸チオエステルを用いる合成の実施例
【0063】
1) (E)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル
【0064】
a) 合成手順:
25mLの二口フラスコ内で、4mLのTHF中に、シリル化したホスホン酸チオエステル1(0.64mmol)を窒素下で溶解させる。2.1mmolのトリエチルアミン、そしてその後1.1mmolのEt3N・3HF錯体を、マイクロシリンジで添加する。かくして得られた溶液を2時間20℃で攪拌する。反応粗製物を減圧下で濃縮し、かくして得られた化合物5をMPLC(溶離剤AcOEt)によって精製する。
【0065】
b) 解析
外観:白色固体。
収率:64%。
f:0.67(AcOEt)。
f:92〜93℃。
IR:(KBr錠剤、CHCl3)ν(3242cm-1、O−H)、ν(3006cm-1、アルケンのC−H)、ν(1617cm-1、芳香環のC=C)、ν(1598、1516cm-1、芳香環のC=C)、ν(1271cm-1、P=O)、ν(1162cm-1、P−O−C)、δ(982cm-1、トランス型C=C)、δ(881、800cm-1、芳香環)、δ(756cm-1、P−O−R)。
質量:MS(CI NH3、MNH4+)278。
UV:(Na2HPO4/KH2PO4、100mM pH6.25)λ=313nm、ε=18400mol-1・L・cm-1
1H−NMR(溶媒:CDCl3、250MHz、δppm):
1.38(t、3H、3H-H=7.1Hz、C3CH2)、3.87(s、3H、CH3O)、4.27(qd、2H、3H-H3p-O-CH=7.1Hz、CH2O)、6.04(dd、1H、3H-H=17.5Hz、2P-CH=19.6Hz、C=C−P)、6.92(m、4H、OH+H6+H2+H5)、7.51(dd、1H、3H-H=17.5Hz、3P-CH=CH=24.7Hz、C=CH−P)。
13C−NMR(溶媒:CDCl3、62.5MHz、δppm)
17.38(d、1C、3C-P=6.0Hz、3CH2)、56.98(s、1C、CH3O)、64.58(d、1C、2C-P=6.0Hz、CH2O)、106.81(dd、1C、1C-P=207.3Hz、2C-F=32.4Hz、C=−P)、110.60(s、1C、C6)、116.09(s、1C、C5)、124.16(s、1C、C2)、127.45(d、1C、3C-P=26.2Hz、C1)、148.26(s、1C、C4)、150.08(s、1C、C3)、152.85(dd、1C、2C-P=7.9Hz、3C-F=3.9Hz、=C−P)。
31P−NMR(溶媒:CDCl3、81MHz、δppm):
19.79(d、3P-F=1023Hz、P−F)。
19F−NMR(溶媒:CDCl3、188.3MHz、δppm):
11.75(d、3F-P=1023Hz、F−P)。
元素分析(理論値/実験値):
炭素(50.78/50.93)
水素(5.42/5.36)
【0066】
2) (E)−2−(4−ヒドロキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル
【0067】
a) 合成手順:
25mLの二口フラスコ内で、4mLのTHFの中にホスホン酸チオエステル2(0.64mmol)を窒素下で溶解させる。2.1mmolのトリエチルアミン、そしてその後1.1mmolのEt3N・3HF錯体を、マイクロシリンジで添加する。かくして得られた溶液を3時間20℃で攪拌する。反応粗製物を減圧下で濃縮し、かくして得られた化合物6をMPLC(溶離剤AcOEt)によって精製する。
【0068】
b) 解析
外観:透明な油。
収率:66%。
f:0.64(AcOEt)。
IR:(KBr錠剤、CHCl3)ν(3233cm-1、O−H)、ν(3020cm-1、アルケンのC−H)、ν(1604cm-1、C=C)、ν(1585、1515cm-1、C=C)、ν(1230cm-1、P=O)、ν(1170cm-1、P−O−C)、δ(984cm-1、トランス型C=C)、δ(843cm-1、芳香環)、δ(757cm-1、P−O−C)。
質量:MS(CI NH3、MNH4+)248。
UV:(Na2HPO4/KH2PO4、100mM pH6.25)λ=285nm、ε=21200mol-1・L・cm-1
1H−NMR(溶媒:CDCl3、250MHz、δppm)
1.41(t、3H、3H-H=7.0Hz、C3CH2)、4.30(qd、2H、3H-H3P-O-CH=7.0Hz、CH2O)、6.03(dd、1H、3H-H=17.5Hz、2P-CH=20.4Hz、C=C−P)、6.92(d、2H、3H-H=8.7Hz、H2+H6)、7.37(d、2H、3H-H=8.7Hz、H3+H5)、7.54(dd、1H、3H-H=17.5Hz、3P-CH=CH=25.0Hz、C=CH−P)、8.54(s、1H、OH)。
13C−NMR(溶媒:CDCl3、62.5MHz、δppm)
17.41(d、1C、3C-P=6.0Hz、3CH2)、65.00(d、1C、2C-P=6.2Hz、CH2O)、105.50(dd、1C、1C-P=208.4Hz、2C-F=31.5Hz、C=−P)、117.29(s、2C、C2+C6)、126.88(d、1C、3C-P=25.7Hz、C1)、131.28(s、2C、C3+C5)、153.33(dd、1C、2C-P=7.8Hz、3C-F=4.7Hz、=C−P)、161.12(s、1C、C4)。
31P−NMR(溶媒:CDCl3、81MHz、δppm)
20.53(d、3P-F=1024Hz、P−F)。
19F−NMR(溶媒:CDCl3、188.3MHz、δppm)
11.17(d、3F-P=1024Hz、F−P)。
【0069】
3) (E)−2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル
【0070】
a) 合成手順:
25mLの二口フラスコ内で、4mLのTHF中にホスホン酸チオエステル3(0.64mmol)を窒素下で溶解させる。2.1mmolのトリエチルアミン、そしてその後1.1mmolのEt3N・3HF錯体を、マイクロシリンジで添加する。かくして得られた溶液を3時間20℃で攪拌する。反応粗製物を減圧下で濃縮し、かくして得られた化合物7をMPLC(溶離剤AcOEt)によって精製する。
【0071】
b) 解析
外観:白色固体。
収率:68%。
f:0.59(AcOEt)。
f:153〜155℃。
IR:(KBr錠剤、CHCl3)ν(3255cm-1、O−H)、ν(3019cm-1、アルケンのC−H)、ν(1618cm-1、芳香環のC=C)、ν(1597、1513cm-1、芳香環のC=C)、ν(1251cm-1、P=O)、ν(1158cm-1、P−O−C)、δ(975cm-1、トランス型C=C)、ν(752cm-1、P−O−R)。
質量:MS(CI NH3、MNH4+)308。
UV:(Na2HPO4/KH2PO4、100mM pH6.25)λ=310nm、ε=18000mol-1・L・cm-1
1H−NMR(溶媒:CDCl3、250MHz、δppm):
1.40(t、3H、3H-H=7.0Hz、C3CH2)、3.90(s、6H、CH3O)、4.29(qd、2H、3H-H3P-O-CH=7.0Hz、CH2O)、6.00(s、1H、OH)、6.08(dd、1H、3H-H=17.5Hz、2P-CH=19.2Hz、C=C−P)、6.73(d、2H、H2+H6)、7.50(dd、1H、3H-H=17.5Hz、3P-CH=CH=24.5Hz、C=CH−P)。
13C−NMR(溶媒:CDCl3、62.5MHz、δppm):
17.45(d、1C、3C-P=6.0Hz、3CH2)、57.44(s、2C、CH3O)、64.54(d、1C、2C-P=6.0Hz、CH2O)、106.12(s、2C、C2+C6)、107.81(dd、1C、1C-P=207.0Hz、2C-F=32.9Hz、C=−P)、126.60(d、1C、3C-P=26.2Hz、C1)、138.88(s、2C、C3+C5)、148.39(s、1C、C4)、152.82(dd、1C、2C-P=7.9Hz、3C-F=4.2Hz、C=C−P)。
31P−NMR(溶媒:CDCl3、81MHz、δppm):
19.43(d、3P-F=1023Hz、P−F)。
19F−NMR(溶媒:CDCl3、188.3MHz、δppm):
11.90(d、3F-P=1023Hz、F−P)。
元素分析(理論値/実験値):
炭素(49.66/49.60)
水素(5.53/5.37)
【0072】
4) (E)−2−(3,4−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチル
【0073】
a) 合成手順:
25mLの二口フラスコ内で、4mLのTHFの中にホスホン酸チオエステル4(0.64mmol)を窒素下で溶解させる。2.1mmolのトリエチルアミン、そしてその後1.1mmolのEt3N・3HF錯体を、マイクロシリンジで添加する。かくして得られた溶液を2時間20℃で攪拌する。反応粗製物を減圧下で濃縮し、かくして得られた化合物8をMPLC(溶離剤AcOEt)によって精製する。
【0074】
b) 解析
外観:透明な油。
収率:69%。
f:0.59(AcOEt)。
IR:(KBr錠剤、CHCl3)ν(3019cm-1、アルケンのC−H)、ν(2938cm-1、アルカンのC−H)、ν(1616cm-1、C=C)、ν(1583、1514cm-1、C=C)、ν(1270cm-1、P=O)、ν(1160cm-1、P−O−C)、δ(981cm-1、トランス型C=C)、δ(880、852cm-1、芳香環)、δ(757cm-1、P−O−R)。
質量:MS(CI、MH+)275
UV:(Na2HPO4/KH2PO4、100mM pH6.25)λ=312nm、ε=2500mol-1・L・cm-1
1H−NMR(溶媒:CDCl3、250MHz、δppm):
1.42(t、3H、3H-H=7.0Hz、C3CH2)、3.92(s、6H、CH3O)、4.30(qd、2H、3H-H3P-O-CH=7.0Hz、CH2O)、6.09(dd、1H、3H-H2P-CH=18.4Hz、C=C−P)、6.88(d、1H、2H-H=8.2Hz、H6)、7.03(s、1H、H2)、7.10(d、1H、2H-H=8.2Hz、H5)、7.56(dd、1H、3H-H=17.4Hz、3P-CH=CH=24.4Hz、C=CH−P)。
13C−NMR(溶媒:CDCl3、62.5MHz、δppm):
16.34(d、1C、3C-P=6.0Hz、3CH2)、55.94、56.02(s、2C、CH3O)、63.38(d、1C、2C-P=6.8Hz、CH2O)、106.85(dd、1C、1C-P=206.9Hz、2C-F=33.2Hz、C=−P)、109.51(s、1C、C6)、111.03(s、1C、C2)、122.75(s、1C、C5)、149.34(s、1C、C1)、151.32(dd、1C、2C-P=8.3Hz、3C-F=4.5Hz、=C−P)、151.73(s、2C、C4+C3)。
31P−NMR(溶媒:CDCl3、81MHz、δppm):
19.49(d、3P-F=1024Hz、P−F)。
19F−NMR(溶媒:CDCl3、188.3MHz、δppm):
11.92(d、3F-P=1024Hz、F−P)。
【0075】
c) 所見
出発化合物としての化合物8のもう一つの合成方法に従うと、(E)−エチル−2−N−ベンジル−2(3,4−ジメトキシフェニル)エテンホスホン酸アミドを用いることもできる。
【0076】
・ 出発物質としてホスホン酸クロリドCを用いる合成例:
ホスホン酸クロリドCが調製されたら、これ(0.42mmol:1当量)を、蒸留したばかりの4mLのTHF中に不活性雰囲気下で溶解させる。トリエチルアミン(197μL、139mmol、3.33当量)及びEt3N・3HF錯体(112μL、0.69mmol、1.67当量)を加える。反応媒質を30分間磁気攪拌しながら常温で放置する。反応の進捗は、31P−NMRで追跡する。AcOEtを添加して反応を停止させる。得られた沈殿物をBUCHNER上でろ過し、その後、ろ過物を加水分解させる。AcOEtで三回水相を抽出する。有機相を集め、無水Na2SO4上で乾燥させ、次に真空下で濃縮させる。
【0077】
b) 解析
外観:白色粉末。
収率:77%。
f:0.23(AcOEt/EP 4/6)。
f:69〜70℃。
IR:(KBr錠剤、CHCl3)ν(3233cm-1、O−H)、ν(3020cm-1、アルケンのC−H)、ν(1604cm-1、C=C)、ν(1585cm-1、C=C)、ν(1230cm-1、P=O)、ν(1170cm-1、P−O−C)、(985cm-1、トランス型C=C)、ν(843cm-1、芳香環のC=C)。
質量:MS(CI NH3、MNH4+)308。
UV:(Na2HPO4/KH2PO4、100mM pH6.25)λ=310nm、ε=18000mol-1・L・cm-1
1H−NMR(溶媒:CDCl3、250MHz、δppm):
1.38(t、3H、3H-H=7.0Hz、C3CH2)、3.88(s、6H、CH3O)、4.27(qd、2H、3H-H3H-H=7.0Hz、3H-P=7.0Hz、CH32O)、5.81(s、1H、OH)、6.07(dd、1H、3H-H=17.5Hz、2H-P=19.2Hz、CH=C−P)、6.72(s、2H、H2+H6)、7.49(dd、1H、3H-H=17.5Hz、3H-P=24.5Hz、C=CH−P)。
13C−NMR(溶媒:CDCl3、62.5MHz、δppm):
16.30(d、1C、3C-P=6.0Hz、3CH2O)、56.35(s、2C、CH3O)、63.41(d、1C、2C-P=6.0Hz、CH32O)、105.11(s、2C、C2+C6)、106.75(dd、1C、1C-P=207.0Hz、2C-F=33.0Hz、C=−P)、125.50(d、1C、3C-P=25.5Hz、C1)、137.86(s、1C、C4)、147.32(s、2C、C3+C5)、151.62(dd、1C、2C-P=7.5Hz、3C-F=3.8Hz、=C−P)。
31P−NMR(溶媒:CDCl3、81MHz、δppm):
19.50(d、1P-F=1023Hz、P−F)。
19F−NMR(溶媒:CDCl3、188.3MHz、δppm):
11.88(d、1F-P=1023Hz、F−P)。
MS(IC、NH3)m/z:248(MNH4+、100%)、291(MH+、38%)。元素分析(理論値/実験値):
炭素(70.13/70.00)
水素(7.65/7.71)
【0078】
合成した化合物のアテローム形成防止効果
【0079】
1) LDLの酸化についての合成化合物のインビトロでの効果の研究
【0080】
KBr勾配での分離用超遠心分離により、健康な被験者に由来する血清プールから未変性LDLを精製する。その後、KBrを除去するために等張NaCl緩衝液(9g/l、pH7.2)中でLDLを透析し、次に滅菌し(0.2nmのフィルター)、使用するまで窒素下で保存する(最大2週間)。
【0081】
培養状態のヒト内皮細胞(HMEC又はECV304系統)をマルチウェルプレートの中で培養し、10%ウシ胎児血清及び抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)を含有するRPMI1460培地の中でサブコンフルエントにする。
【0082】
1μMのCuSO4(酸化を開始させるため)及び100μg/mLの未変性LDL、ならびに様々な濃度の異なる試験対象化合物(5〜8で表される)を含有するRPMI1640(1mL/ウェル)で、標準培地を置き換える。6時間の接触後、培地の一部分を採取してLDL酸化のパラメータ(TBARS)を測定する。24時間の接触後、酸化したLDL(場合によってはCPSにより酸化から保護されているもの)と接触させた細胞の生残率を測定する(MTT試験)。
【0083】
LDLは、培養状態の血管細胞によって急速に酸化される。予備研究から、この酸化は重金属(例えば銅又は鉄)の存在ひいてはCuSO4の添加を必要とすることが示された。酸化反応速度は、当初、内因性の抗酸化剤(ビタミンE)により減速し、24時間以上続く(水平域)。LDLの酸化は6時間の接触の後に測定するが、それは、それがそのとき対数期にあり、場合によって抗酸化剤の保護的効果がさらに顕著であるためである。酸化は、酸化現象の包括的、定量的かつ高感度の評価を可能にするTBARS(チオバルビツール酸反応物質)の定量によって測定する。
【0084】
それぞれ5〜8で表される、予め合成された化合物をDMSO中に溶解させ、0.1〜100μMで変動する濃度(DMSO中での最終濃度は0.05%を超えない)で試験する。この研究で用いた濃度では、細胞においてこれらの化合物5〜8のいかなる自己中毒も見られなかった(結果は提示せず)。
【0085】
図1Aに示した結果は、化合物5〜8の各々についての抗酸化効果を示しているが、化合物5についての抗酸化効果ははるかに顕著であり、1μMからLDLの酸化の著しい保護がみられ、濃度がより高くなるにつれてより大きくなる。
【0086】
図1Aでは、結果は、対照(酸化LDLのみを用いる場合など、合成化合物を用いない試験)に対する百分率として表されている。6時間で細胞により酸化されたLDL中のTBARSの比率は、1mgのapoBあたり6〜10nmolのTBARSである。化合物5〜8は、0.1〜100μMで変動する濃度で添加される。示した結果は、二度ずつ実施した別個の三回の実験の平均に対応する。
【0087】
酸化されたLDLは、培養中の血管細胞にとって有毒である。この毒性効果は、細胞の生存能力を測定する比色試験MTTによって研究可能である。図1Bに示された結果は、酸化LDLのみ(化合物5〜8の不存在下)と24時間接触させた細胞について15〜20%の生残率を示している。TBARSに対する効果と相関して、化合物5は、用いる用量に応じて、細胞によって酸化されたLDLの毒性を予測するためにきわめて有効であることが判明している。その他の化合物の効果は、より限られたものである。
【0088】
化合物5は、血管細胞による酸化からLDLを保護するために非常に有効であり、続発するそれらの毒性は限られたものである。この効果は、カテキン又はケルセチンといったようなポリフェノールで見られるものに匹敵し、100μM以上の濃度での(細胞に対する)毒性の効果はより低いものである。
【0089】
2) 酸化されたLDLについての化合物5の細胞保護効果のインビトロでの研究
【0090】
他のすべての合成化合物(6〜8)又は抗酸化剤の不存在下での、すでに酸化されたLDLの毒性に対する化合物5の細胞保護効果について研究した。これらの酸化LDLは、内皮細胞にとって毒性である(MTT試験により評価された毒性)。ECV304細胞を、化合物5(濃度0.1〜100μM)の不存在下(0)又は存在下で24時間、UV照射(200μg/mL)により酸化されたLDLと共にインキュベートする。最後にMTT試験を実施する。結果は、(LDL及び化合物5の不存在下でインキュベートされた)ネガティブコントロールに対する百分率として表す。示した結果は、二度ずつ実施した別個の三回の実験の平均に対応する。
【0091】
図2に示した通り、この化合物5の増大する用量が、内皮細胞ECV304内の酸化されたLDLの毒性に対する効果的な保護をもたらし、このことはこの化合物5が抗酸化及び細胞保護の両方の効果を同時に有することを示唆している。
【0092】
3) 化合物5及び1(フッ化された基のない化合物5と同じ構造)の効果のインビトロでの比較研究
【0093】
カルボニルの抗酸化/不活性化効果は、フッ素原子により増大される可能性がある。この仮定を確認するため、フッ素原子がないという点を除いて化合物5の構造と同一の構造をもつ化合物1の抗酸化及び細胞保護効果を研究した。
【0094】
化合物1及び5のこの効果を、一方ではECV304によるLDLの酸化について、そして続発するそれらの毒性について研究した。
【0095】
このために、異なる濃度の化合物1又は化合物5及びCuSO4(1μM)の存在下で未変性LDL(100μg/mL)と共に6時間、ECV304をインキュベートする。その後培地を回収し、TBARSを定量するためにアリコートを採取し、残りの培地をその他のECV304と再インキュベートして毒性効果を研究する。対照(LDLのみ)中のTBARSの比率は、1mgのapoBにつき7.5nmolである。得られた結果は、以下の表1に示され、二度ずつ実施された別個の4回の実験の平均に対応する。
【0096】
得られた結果は、LDLの酸化に対する効果及び続発するそれらの毒性が化合物1と化合物5との間で似通ったものであることを示している。従って、この効果は主として二つの分子上のフェニル基の存在と関連する。
【0097】
【表1】

【0098】
他方で、化合物1及び5の効果を、酸化LDLと4−HNEについてのそれらの細胞保護効果のレベルでも比較した。
【0099】
このために、200μg/mLの酸化されたLDL又は25μMの4−HNE及び増大する濃度の化合物1又は5と共に、内皮細胞をインキュベートする。24時間後に、MTT試験により毒性を評価する。
【0100】
図3は、酸化されたLDLで実施された試験において得られた結果を示している。その結果は、刺激を受けていない対照に対する百分率で表されている。
【0101】
図4は、4−HNEで実施された試験において得られる結果を示している。合成された化合物の、4−HNEにより誘発される毒性に対する保護効果は、カルボニルの不活性化効果だけに関連する。結果について、化合物5のみが、非常に低い濃度(1μM)から有効であり、かつより高い濃度でも持続し、一方で化合物1は効果が無く、それどころかさらに高い用量では毒性を示すということがわかる。従ってこれらの結果は、化合物5が、フッ素基と関連するカルボニルの不活性化効果を有し、ひいてはアルデヒドにより誘発される毒性に対する有効な保護を可能にするということを示している。
【0102】
これらの結果全体は、酸化されたLDLの細胞毒性が単にカルボニル基の存在に関連するものではないこと、そして酸化的ストレスも関与していることを示している。このことが、フッ化されていない化合物1よりも化合物5でのはるかに有利な保護効果を説明している。
【0103】
4) 本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物のアテローム形成防止効果のインビボでの検証
【0104】
本発明に従ったフルオロホスホノ桂皮酸化合物、特に化合物7の潜在的なアテローム形成防止効果も同様に、apoE-/-マウスに代表されるアテローム性動脈硬化症の動物モデルで研究した。
【0105】
a) 動物モデル及び実験手順の説明
apoEノックアウトマウスは、アポタンパク質E(apoE)が欠損し、このことにより、LDL及びIDL(中間密度リポタンパク質)の比率の増加に付随する血漿コレステロールの蓄積及び血漿HDL率の減少が誘発される。これらのマウスは、アテローム性動脈硬化症のプラーク(初期病変を形成する脂肪線条の蓄積)の成長及びこれらの病変の形成を減速又は遮断することのできる分子についての研究の従来のモデルである。これらのマウスは、アテローム性動脈硬化症のプラークを(高脂肪飼料がない状態で)自発的に成長させる。
【0106】
4週齢の離乳したマウスを、標準飼料を給餌した13頭から成る2つの群に分割する。
【0107】
第1群(処理対象)には、飲料水中で10mg/kgの化合物7を与えるが、ここで、この化合物7は予めエタノール中に溶解し、その後水で希釈して、化合物7は30mg/L、エタノールは0.05%の最終濃度としたものである。
【0108】
第2群(対照)には、0.05%のエタノールを含有する飲料水を与える。化合物7の濃度は、6〜10mL/日の水の量に対して、また体重30gのマウス1頭あたりで計算した。
【0109】
化合物7は4日間、常温で安定している(安定性はHPLCで確認した)。給水瓶は一週間に2回交換する。
【0110】
処理の合計継続時間は4ヵ月である。
【0111】
4ヵ月後に動物を屠殺し、心臓をPBS緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水)中で洗浄し、凍結させ(Tissue TeK)、−80℃で保存する。アテローム性動脈硬化症の病変の分析を、大動脈洞の部分で、脂質に特異的な染料(オイルレッドO)で染色しヘマトキシリン/エオジンで対比染色した厚さ10μmの切片について実施し、その後、病変のサイズの形態学的評価により表面積を測定する(Biocom morphometry system, logiciel Cyberview 3.0)。μm2単位で表示される病変の平均表面積を用いて、各動物の病変のサイズを評価する。
【0112】
b) 結果
4週齢のapoE-/-マウスについて、化合物7の保護効果を試験する。この段階で、アテローム性動脈硬化症の病変の成長はわずかであり、従って、アテローム形成防止の潜在能力をもつ分子の添加がプラークの自発的な成長を抑制する。病変は、4ヵ月の処理(又は非処理)の後に大動脈洞の部分で分析するが、これは、この段階においては大動脈の上行部分のところの病変がまだほとんど成長していないからである。対応する得られた数値的結果を、以下の表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
研究は、化合物7を飲料水に補足することにより、大動脈洞の部分でのアテローム性動脈硬化症のプラークの表面積が著しく減少する(非処理の対照動物の表面積と比べ平均27%の減少であり、標準偏差は大きいが二つの群において似通ったものである)ということを示している。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1A】本発明に従った特定の化合物の全体的な抗酸化効果ならびに酸化的ストレスに付された細胞の保護についてのその効果の統計的棒グラフ表示である。
【図1B】本発明に従った特定の化合物の全体的な抗酸化効果ならびに酸化的ストレスに付された細胞の保護についてのその効果の統計的棒グラフ表示である。
【図2】本発明に従った特定の化合物の全体的な抗酸化効果ならびに酸化的ストレスに付された細胞の保護についてのその効果の統計的棒グラフ表示である。
【図3】本発明に従った特定の化合物の培地内濃度に応じた、酸化LDL又は4−HNEの存在下での細胞の生存の推移を示す。
【図4】本発明に従った特定の化合物の培地内濃度に応じた、酸化LDL又は4−HNEの存在下での細胞の生存の推移を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− Xが、酸素原子又は硫黄原子から選択され、
− R1、R2、R3、R4、R5及びR6が、H、アルキル基、アリール基、OH、O−アルキル、S−アルキル、NH2、NH−アルキル、N−(アルキル)2の中から選択され、
− R7が、H、アルキル基、アリール基、シリル基の中から選択され、
− R8が、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、
前記アルキル基及びアリール基がおよそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有している、
【化1】

という一般構造式のフルオロホスホノ桂皮酸化合物の合成方法であり、
この化合物は、
− Xが、酸素原子又は硫黄原子から選択され、
− R’が、S−アルキル基、S−アリール基、S−アミン基、S−アミド基、NH−アルキル基、NH−アリール基、N−(アルキル)2基、N−(アリール)2基の中から選択され、
− R7’が、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、
前記アルキル基及びアリール基が、およそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有している、
【化2】

という一般構造式のホスホノ桂皮酸化合物、又は、
TBDPSが、t−ブチルジフェニルシリル基を表す、
【化3】

という一般構造式のホスホノ桂皮酸化合物をフッ化したものであり、
当該フッ化が、−20℃〜85℃の間に含まれる温度でホスホノ桂皮酸化合物を、R3Nで表される第三アミンとフッ化水素との間で形成された錯体を含む少なくとも一つのフッ化剤と反応させることによって実施され、前記第三アミンがおよそ1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を含むアルキル基により置換されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第三アミンがトリエチルアミンEt3Nであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フッ化剤として、R3N・HFと表される約1:1の第三アミン/フッ化水素のモル比をもつ錯体を用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
構造式(II)のホスホノ桂皮酸化合物が溶解可能である溶媒の中で液相反応を実施することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフランの中から選択される溶媒を用いることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
およそ1.2〜20のモル比で、構造式(II)のホスホノ桂皮酸化合物とフッ化剤との間の反応を実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
一般構造式(II)のホスホノ桂皮酸化合物のR8基が、−SCH2CH2NHCOCH3、−NHCH2Phの脱離基から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
一般構造式(II)の出発化合物であるホスホノ桂皮酸化合物において、
− Rが、−H又は−CH3から選択される基を表し、
− R1及びR2が、−H又は−OCH3から選択される基を表すこと
を特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
− Xが、酸素原子又は硫黄原子から選択され、
− R1、R2、R3、R4、R5及びR6が、H、アルキル基、アリール基、OH、O−アルキル、S−アルキル、NH2、NH−アルキル、N−(アルキル)2の中から選択され、
− R7が、H、アルキル基、アリール基、シリル基の中から選択され、
− R8が、H、アルキル基、アリール基の中から選択され、
前記アルキル基及びアリール基が1〜6個の直鎖状に結合した炭素原子を有する、
【化4】

という一般構造式のフルオロホスホノ桂皮酸化合物。
【請求項10】
【化5】

という構造式の(E)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチルであることを特徴とする、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
【化6】

という構造式の(E)−2−(4−ヒドロキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチルであることを特徴とする、請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
【化7】

という構造式の(E)−2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチルであることを特徴とする、請求項9に記載の化合物。
【請求項13】
【化8】

という構造式の(E)−2−(3,4−ジメトキシフェニル)ビニル−ホスホン酸フルオリドエチルであることを特徴とする、請求項9に記載の化合物。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか一つに記載の化合物を少なくとも一つ含むことを特徴とする、治療用組成物。
【請求項15】
酸化的ストレスにより引き起こされる生理的障害の治療のための請求項14に記載の治療用組成物。
【請求項16】
アテローム性動脈硬化症の治療のための請求項14又は15に記載の治療用組成物。
【請求項17】
アテローム性動脈硬化症の治療的処置を目的とする薬剤の調製のための、請求項9〜13のいずれか一つに記載の化合物の利用方法。
【請求項18】
請求項9〜13のいずれか一つに記載の少なくとも一つの化合物とLDLを接触させる、インビトロでのLDLの酸化の保護方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−515788(P2008−515788A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534045(P2007−534045)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002376
【国際公開番号】WO2006/037869
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【出願人】(506002731)ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER TOULOUSE III
【Fターム(参考)】