説明

フルオロポリマー水性分散液

【課題】機械的安定性及び貯蔵安定性に優れ、高温でも粘度の上昇が抑制できるとともに、乾燥及び焼成時にも臭気が発生しにくいフルオロポリマー水性分散液を提供する。
【解決手段】(A)フルオロポリマー、(B)水性媒体、及び、(C)安定剤を含み、上記安定剤(C)は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液。
O−(AO)−H (1)
(式中、AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20であり、かつ、第3級炭素原子又は第4級炭素原子のいずれかを少なくとも1つ含むアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマー水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーの水性分散液は含浸・塗装などの用途に使用される。機械的安定性や貯蔵安定性の向上と粘度の調整などを目的として、水性分散液には非イオン性の界面活性剤が添加される。
【0003】
従来からこの非イオン性界面活性剤に関する検討がなされてきた。例えば、特許文献1には、疎水基として2級アルキル基または側鎖を有する1級アルキル基を有し、疎水基の途中に親水性基鎖が結合したT字構造をしている界面活性剤が記載されている。また、引用文献2には、少なくとも3本の枝を有するイソトリデシルからなり、抑泡性界面活性剤として使用するオキシプロピレン基を有するイソトリデシルエーテル系界面活性剤が記載されている。
【0004】
特許文献3では、50%分解温度が250℃以上である脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル分散剤を配合した含フッ素樹脂水性分散体組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−152385号公報
【特許文献2】特表2000−511578号公報
【特許文献3】国際公開第03/106556号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非イオン性界面活性剤は、水性分散液に機械的安定性や貯蔵安定性を付与したり、水性分散液の粘度の調整を可能にしたり、顔料、フィラーなどの添加剤の混合性を改良するものであるが、一方で塗膜を形成させるために水性分散液を塗装し、乾燥や焼成を行うと、臭気を発生させる問題がある。
【0007】
これに対し、例えば疎水基がブテン3量体である非イオン性界面活性剤を選択すると、臭気面では改善されるが、水性分散液の機械的安定性が低下してしまう。
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、機械的安定性及び貯蔵安定性に優れ、高温でも粘度の上昇が抑制できるとともに、乾燥及び焼成時にも臭気が発生しにくいフルオロポリマー水性分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)フルオロポリマー、(B)水性媒体、及び、(C)安定剤を含み、前記安定剤(C)は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液である。
O−(AO)−H (1)
(式中、AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20であり、かつ、第3級炭素原子又は第4級炭素原子のいずれかを少なくとも1つ含むアルキル基を表す。)
【0010】
は、第3級炭素原子及び第4級炭素原子のいずれか一方又は両方を含み、かつ、第3級炭素原子及び第4級炭素原子の合計が3つ以上であるアルキル基であることが好ましい。
【0011】
は、炭素数が16〜18のアルキル基であることが好ましい。
【0012】
は、下記式(2)
【0013】
【化1】

【0014】
で表されるアルキル基であることが好ましい。
【0015】
安定剤(C)は、曇点が40〜85℃であることが好ましい。
【0016】
フルオロポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、および、エチレン/クロロテトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーであることが好ましい。
【0017】
フルオロポリマー(A)の固形分濃度が30〜75質量%であることが好ましい。
【0018】
フルオロポリマー(A)100質量部に対して0.05〜5.0質量部の安定剤(C)を含むことが好ましい。
【0019】
更に、(D)非イオン性界面活性剤(但し、安定剤(C)を除く)を含むことが好ましい。
【0020】
非イオン性界面活性剤(D)は、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
O−(AO)−H (4)
(式中、AOは炭素数が2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20の直鎖アルキル基又は炭素数8〜13の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。)
【0021】
フルオロポリマー(A)100質量部に対して1〜20質量部の非イオン性界面活性剤(D)を含むことが好ましい。
【0022】
本発明は、上述のフルオロポリマー水性分散液からなる塗料でもある。
【0023】
本発明は、上述のフルオロポリマー水性分散液の塗料としての使用にも関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、上述の構成よりなるものであるので、機械的安定性及び貯蔵安定性に優れ、高温でも粘度の上昇が抑制できるとともに、乾燥及び焼成時にも臭気が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、(A)フルオロポリマー、(B)水性媒体、及び、(C)安定剤を含む。安定剤(C)は特定の分子構造により特徴づけられる。
【0027】
安定剤(C)は、下記一般式(1)
O−(AO)−H (1)
で表される化合物である。
【0028】
式(1)中、Rは、炭素数が14〜20であり、かつ、第3級炭素原子又は第4級炭素原子のいずれかを少なくとも1つ含むアルキル基を表す。分子中の第3級炭素原子又は第4級炭素原子の存在と比較的長い疎水基の存在が、水性分散液の機械的安定性及び貯蔵安定性の向上に大きく関係することが本発明者らによって見出された。本発明の水性分散液の優れた特性は、安定剤(C)の分子構造のうち、Rで表されるアルキル基の特徴的な構造に起因するようである。特に、本発明で使用する安定剤(C)が比較的長い疎水基を有するにも関わらず機械的安定性及び貯蔵安定性の向上をもたらしたことは大変驚くべきことであった。
【0029】
式(1)におけるRの炭素数が多すぎると、安定剤(C)自身の粘度が上昇しすぎて取り扱い性に劣ったり、水性媒体に添加したときに混和性に劣ったりすることがあり、Rの炭素数が少なすぎると、機械的安定性や貯蔵安定性に劣る。Rは、非フッ素化アルキル基であることが好ましい。Rの好ましい炭素数は16〜18であり、より好ましくは18である。
【0030】
式(1)におけるRは、第3級炭素原子及び第4級炭素原子のいずれか一方又は両方を含み、かつ、第3級炭素原子及び第4級炭素原子の合計が3つ以上であるアルキル基であることが好ましい。上限は特に限定されないが、7以下であってよい。
【0031】
としては、下記式(2)
【0032】
【化2】

【0033】
で表されるアルキル基、及び、下記式(3)
【0034】
【化3】

【0035】
で表されるアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種のアルキル基であることが好ましく、式(2)で表されるアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
式(1)中、AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。式(1)におけるAOは、オキシエチレンユニットを3〜25個及びオキシプロピレンユニットを0〜5個有するオキシアルキレン基であることがより好ましい。式(1)におけるmは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。式(1)におけるmは、1〜50の整数であり、より好ましくは5〜20の整数である。AOは非フッ素化オキシアルキレン基であることが好ましい。
【0037】
オキシアルキレン基の種類、ユニット数、及び、平均付加モル数は、後述する安定剤(C)の曇点と密接に関連し、本発明では後述する曇点範囲となるようにこれらを選択することが好ましい。
【0038】
安定剤(C)は、40〜85℃の曇点を有するものであることが好ましい。曇点とは、安定剤(C)を含む水溶液の温度を上げていったとき、上記水溶液が白濁し始める温度のことである。曇点は、通常行われているように、安定剤(C)を水に濃度が1%になるように溶解させて測定することができるし、あるいは安定剤(C)を25%ブチルカルビトール水溶液に濃度が10%になるように溶解させて測定することができるし、あるいは安定剤(C)を5%硫酸カリウム水溶液に濃度が1%になるように溶解させて測定することができる。
【0039】
安定剤(C)は、安定剤(C)を水に濃度が1%になるように溶解させて測定される曇点、安定剤(C)を25%ブチルカルビトール水溶液に濃度が10%になるように溶解させて測定される曇点、及び、安定剤(C)を5%硫酸カリウム水溶液に濃度が1%になるように溶解させて測定される曇点のうち、少なくとも1つの曇点が50〜85℃の範囲にあることがより好ましい。
【0040】
安定剤(C)は、安定剤(C)を水に濃度が1%になるように溶解させて測定される曇点、及び、安定剤(C)を25%ブチルカルビトール水溶液に濃度が10%になるように溶解させて測定される曇点のうち、少なくとも一方の曇点が40〜85℃の範囲にあることが更に好ましい。この範囲であれば、少量の添加で、機械的安定性が改良され、さらに貯蔵安定性も良好である。さらに、安定剤自体の流動可能温度が低いため、取り扱い面で有利である。
【0041】
さらに、上記安定剤(C)はHLBが10〜15であることが好ましい。HLBが10より低いと、本発明の目的である機械的安定性改良効果が充分でない。またHLBが15を超えると、貯蔵安定性を低下させる傾向がある。さらに好ましいHLB範囲は、12〜14であり、この範囲にあれば、機械的安定性、貯蔵安定性、さらに広い温度範囲での粘度安定性に優れた水性分散液が得られる。
【0042】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)100質量部に対して0.05〜5.0質量部の安定剤(C)を含むことが好ましい。添加量が少ないと本願の目的である機械的安定性の改良効果が充分でない。また添加量がこの範囲を超えると、貯蔵安定性が損なわれる傾向があり、さらに、温度を上げた場合に、水性分散液の粘度が上昇する傾向がある。さらに、好ましい範囲は0.1〜1.0質量部である。この範囲にあれば機械的安定性、貯蔵安定性、さらに広い温度範囲での粘度安定性に優れた水性分散液が得られる。
【0043】
フルオロポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、および、エチレン/クロロテトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーであることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンであることがより好ましい。
【0044】
フルオロポリマー(A)は、平均粒子径が0.05〜0.50μmの粒子であることが好ましい。平均粒子径が0.05μm未満であると、水性分散液の機械的安定性及び貯蔵安定性が劣るおそれがある、また系の粘度が非常に上がり取り扱い性がわるくなるおそれがある。平均粒子径が0.50μmを超えると、水性分散液の安定性が極端に低下するおそれがある。また水性分散液から塗膜を形成した場合に塗膜外観の平滑性が低下したり、密着性が低下したりするおそれがある。より好ましい上限は0.35μmであり、より好ましい下限は0.10μmである。0.25μm以上であれば、水性分散液から塗料を調製した場合、塗装時の膜厚調整が容易であり、特に厚塗り性に優れたコーティングを調製できる。
【0045】
上記平均粒子径は、樹脂固形分濃度を0.22質量%に調整したフルオロポリマー水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定したものである。
【0046】
上記機械的安定性は、送液や再分散の際、ポンプ、攪拌翼などにより振動や剪断力を与えても、再分散不可能な凝集体を生成しにくい性質のことである。
【0047】
フルオロポリマー(A)の製造方法としては特に限定されないが、生産効率が高く、安定した生産が可能である点で、含フッ素アニオン性界面活性剤(E)の存在下に乳化重合して得られたものであることが好ましい。
【0048】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)の固形分濃度が30〜75質量%であることが好ましく、40〜65質量%であることがより好ましく、50〜65質量%であることが更に好ましい。
【0049】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、更に、(D)非イオン性界面活性剤(但し、安定剤(C)を除く)を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、非フッ素化非イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0050】
非イオン性界面活性剤(D)は、下記一般式(4)
O−(AO)−H (4)
(式中、AOは炭素数が2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20の直鎖アルキル基又は炭素数8〜13の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。)
さらに、上記Rとしては、水性分散液の安定性を向上させる点で、分岐構造を有する炭素数13の炭化水素基が好ましく、さらに焼成加工時に刺激性の臭気を低減できるという点でブテン3量体からなるものが好ましい。
【0051】
式(4)におけるAOは、炭素数が2〜4のオキシアルキレン基であることが好ましく、オキシエチレンユニットを3〜25個及びオキシプロピレンユニットを0〜5個有するオキシアルキレン基であることがより好ましい。
【0052】
非イオン性界面活性剤(D)としては、ポリオキシエチレンアルキルフェノール系界面活性剤(例えばユニオンカーバイド社製のトライトンX(商品名)等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が好ましい。
【0053】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等があげられる。
【0054】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤は、ディスパノールTOC(日油社製)、レオコールTD−90(ライオン社製)、ゲナポールX080(クラリアント社製)、ノニオンC−13(日油社製)、ノニオンEH205.5(日油社製)、エマルゲン109P(花王社製)、レオックスWC−145(ライオン社製)、ルテンゾールTO−8(BASF社製)、ノイゲンTDS−80(第一工業製薬社製)、ノニオンEAD−13(日油社製)、ノニオンEAD−15(日油社製)(いずれも商品名)として入手可能である。
【0055】
非イオン性界面活性剤(D)は後述する水性分散液を相分離濃縮する際に使用することができるものである。本発明の水性分散液は、相分離濃縮において使用した非イオン性界面活性剤(D)を含むものであってもよい。一方で、本発明における安定剤(C)のみを使用し相分離濃縮をできるかどうかは、かならずしも重要ではないが、相分離が不可能である化合物でも安定化効果は発現し、このような特性上の相違がある場合には、安定剤(C)と非イオン性界面活性剤(D)とを対比した場合の相違点の一つとして挙げることができる。
【0056】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)100質量部に対して1〜20質量部の非イオン性界面活性剤(D)を含むことが好ましい。
【0057】
非イオン性界面活性剤(D)の含有量(N)は、試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/Z]×100(%)から算出するものである。
【0058】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、各工程:
(i)フルオロモノマー、水性媒体(B)及び含フッ素アニオン性界面活性剤(E)を反応容器に投入し、
(ii)重合開始剤を反応容器に添加することにより重合を開始し、
(iii)モノマーを反応容器に追加添加することにより重合を継続させ、
(iv)反応容器の圧力を開放することにより重合を終了させ、
(v−1)フルオロポリマー(A)、水性媒体(B)及び含フッ素アニオン性界面活性剤(E)を含む水性分散液を回収し、
(vi)安定剤(C)を水性分散液に投入して本発明の水性分散液を得る
を含む製造方法により好適に製造できる。
【0059】
水性分散液を回収した後、すなわち工程(v−1)の後、(v−2)非イオン性界面活性剤(D)を添加して含フッ素アニオン性界面活性剤(E)を除去したり、(v−3)非イオン性界面活性剤(D)を添加して濃縮したりすることも好ましい。特に経済面、環境面から、含フッ素アニオン性界面活性剤(E)を除去、回収、再利用することが好ましい。除去及び濃縮は、イオン交換樹脂法、相分離濃縮法、限外ろ過法、電気濃縮法等の公知の方法で行い得る。
除去又は濃縮することにより得られるフルオロポリマー水性分散液は、含フッ素アニオン性界面活性剤(E)の含有量が、フルオロポリマー(A)の固形分質量に対して500ppm未満であることが好ましく、さらに200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。下限は特に限定されないが、0.1ppm以上であってよい。
【0060】
上記モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、及び、エチレンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを使用することが好ましく、こられのモノマー以外にも目的とするフルオロポリマーの組成に合わせて選択することができる。
【0061】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエチレングリコール等の多価アルコールを含むものであってもよい。多価アルコールを含むことで造膜性が向上する。
【0062】
本明細書において、含フッ素アニオン性界面活性剤(E)の含有量は、フルオロポリマー水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を以下の条件にて行うことにより求めることができる。なお、含フッ素アニオン性界面活性剤の含有量算出にあたり、含有量既知の含フッ素アニオン性界面活性剤水溶液について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いる。
【0063】
(測定条件)
カラム;ODS−120T(4.6φ×250mm、東ソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0064】
含フッ素アニオン性界面活性剤(E)は、フッ素原子を有し、界面活性を示す化合物である。含フッ素アニオン性界面活性剤(E)としては、パーフルオロカルボン酸又はその塩、パーフルオロスルホン酸又はその塩、フルオロエーテル化合物等が挙げられる。上記フルオロカルボン酸としては、例えばパーフルオロオクタン酸等のパーフルオロアルキルカルボン酸が挙げられる。
【0065】
含フッ素アニオン性界面活性剤(E)としては、一般式(5)
Rf−Y (5)
(式中、Rfは2価の酸素原子が挿入されていてもよい炭素数2〜12の直鎖又は分岐のフルオロアルキル基を表し、Yは、−COOM、−SO、−SONM又は−POを表す。上記M、M、M、M、M及びMは、同一又は異なって、H又は一価カチオンを表す。)
で表される含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましい。
上記一価カチオンとしては、例えば、−Na、−K、−NH等が挙げられる。上記Rfは、2価の酸素原子が挿入されていてもよい炭素数2〜6の直鎖又は分岐のフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0066】
としては、−COOH、−COONa、−COOK又は−COONHが好ましく、−COONHがより好ましい。
【0067】
含フッ素アニオン性界面活性剤(E)としては、一般式(6)
CF−(CFn1−Y (6)
(式中、n1は1〜5の整数を表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式(7)
RfO−RfO−Rf−Y (7)
(式中、Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立に直鎖又は分岐の炭素数1〜3のフルオロアルキレン基を表し、Rf、Rf及びRfは炭素数が合計で6以下である。Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0068】
一般式(6)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤としては、例えば、CF(CFCOONH、CF(CFCOONH、CF(CFCOONH、CF(CFSONa、CF(CFSONH等が挙げられる。
【0069】
一般式(7)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤としては、例えば、一般式
CFO−CF(CF)CFO−CX(CF)−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式
CFO−CFCFCFO−CFXCF−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式
CFCFO−CFCFO−CFX−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
含フッ素アニオン性界面活性剤(E)は、1種使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、水性分散液の粘度調整の目的で、あるいは顔料、フィラーなどの混和性改良の目的で、アニオン性界面活性剤を好ましく含むことができる。アニオン性界面活性剤は、経済面、環境面で問題のない範囲で適宜添加することができる。
【0071】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、上述した含フッ素アニオン性界面活性剤(E)、及び、非フッ素化アニオン性界面活性剤(F)からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含むものであってもよい。これらの界面活性剤は、工程(vi)において安定剤(C)と共に水性分散液に投入することができる。
【0072】
含フッ素アニオン性界面活性剤(E)、及び、非フッ素化アニオン性界面活性剤(F)の含有量は、合計で、フルオロポリマー(A)の固形分質量に対して0〜0.5質量%であり、より好ましくは、0.01〜0.1質量%である。これより多いと、粘度調整効果がなくなり、また、水性分散液の機械的安定性、貯蔵安定性が損なわれることがある。
【0073】
上記非フッ素化アニオン性界面活性剤(F)としては、スルホコハク酸アルキルエステル、スルホコハク酸アルキルエステル塩、スルホコハク酸フルオロアルキルエステル、スルホコハク酸フルオロアルキルエステル塩、及び、酸基を有しpKaが4未満である非フッ素化アニオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤であることが好ましい。
【0074】
スルホコハク酸アルキルエステル及びスルホコハク酸アルキルエステル塩としては、例えば、下記一般式(I)
11−OCOCH(SO)CHCOO−R12 (I)
(式中、R11及びR12は、同一又は異なって、炭素数4〜12のアルキル基を表し、Zは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はNHを表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
スルホコハク酸フルオロアルキルエステル及びスルホコハク酸フルオロアルキルエステル塩としては、下記一般式(II)
Rf11−R13−OCOCH(SO)CHCOO−R14−Rf12(II)
(式中、Rf11及びRf12は、同一又は異なって、末端に水素原子を有していてもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、R13及びR14は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、Zは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はNHを表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0076】
上記一般式(I)におけるR11及びR12としては、例えば、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、tert−ヘキシル、n−ヘプチル、iso−ヘプチル、tert−ヘプチル、n−オクチル、iso−オクチル、tert−オクチル、n−ノニル、iso−ノニル、tert−ノニル、n−デシニル、2−エチルヘキチル等の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。上記R11及びR12としては、それぞれ炭素数8〜12のアルキル基であることが好ましい。上記一般式(II)において、Rf11及びRf12はそれぞれ炭素数3〜5であることが好ましく、R13及びR14はそれぞれ炭素数1〜2であることが好ましい。上記一般式(I)及び(II)におけるZとしては、例えば、Na、NH等が好ましい。
【0077】
上記非フッ素化アニオン性界面活性剤(F)は、上記一般式(I)で表されるスルホコハク酸アルキルエステル又はその塩であることが好ましく、更に、上記一般式(I)において、上記R11及びR12は、同一又は異なって、炭素数8〜12のアルキル基であることが好ましい。上記スルホコハク酸アルキルエステルとしては、例えば、ジ−n−オクチルスルホコハク酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステル等が挙げられる。
【0078】
上記非フッ素化アニオン性界面活性剤(F)は、酸基を有しpKaが4未満である非フッ素化アニオン性界面活性剤であってもよい。上記酸基は、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、カルボキシル基及びスルホニル基並びにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記酸基に加え、更に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基、アミノ基等、その他の基を有するものであってもよい。上記アミノ基はプロトン化していないものである。
【0079】
上記pKaは3以下であることが好ましい。なお、上記pKaは、アニオン性界面活性剤が多段階解離をするものである場合、各値のうち最も低い値が本範囲内にあればよい。
【0080】
酸基を有しpKaが4未満である非フッ素化アニオン性界面活性剤としては、炭化水素を主鎖として有する化合物であることが好ましく、例えば、炭素数6〜40、好ましくは炭素数8〜20、より好ましくは炭素数9〜13の飽和又は不飽和の脂肪族鎖を有するものが挙げられる。上記飽和又は不飽和の脂肪族鎖は、直鎖又は分岐鎖の何れであってもよく、環状構造を有するものであってもよい。上記炭化水素は、芳香族性であってもよいし、芳香族基を有するものであってもよい。上記炭化水素は、酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子を有するものであってもよい。
【0081】
酸基を有しpKaが4未満である非フッ素化アニオン性界面活性剤としては、アルキルスルホネート、アルキルサルフェート、アルキルアリールサルフェート及びそれらの塩;脂肪族(カルボン)酸及びその塩;リン酸アルキルエステル、リン酸アルキルアリールエステル又はそれらの塩;等が挙げられるが、中でも、スルホン酸及びカルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選択されるものが好ましく、脂肪族カルボン酸又はその塩が好ましい。上記脂肪族カルボン酸又はその塩としては、例えば、末端Hを−OHで置換したものであってもよい炭素数9〜13の飽和若しくは不飽和脂肪族カルボン酸又はその塩が好ましく、該脂肪族カルボン酸としては、モノカルボン酸が好ましく、モノカルボン酸としては、デカン酸、ウンデカン酸、ウンデセン酸、ラウリン酸、ハイドロドデカン酸が好ましい。
【0082】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、水性媒体を含むものである。上記水性媒体としては、水を単独で使用してもよいし、水とアルコール等の水溶性化合物と併用した水性混合溶媒としてもよい。
【0083】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、必要に応じ、本発明の特徴を損なわない範囲でその他の樹脂を含有するものであってもよい。
上記その他の樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキサイド(分散安定剤)、ポリエチレングリコール(分散安定剤)、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、塗装性、得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に一般的なフルオロポリマー水性分散液に用いられる添加剤を含むものであってもよい。
【0084】
上記添加剤としては特に限定されず、得られる被覆物品の用途に応じて選択することができ、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、木粉、石英砂、カーボンブラック、ダイヤモンド、トルマリン、ゲルマニウム、アルミナ、窒化珪素、蛍石、クレー、タルク、体質顔料、各種増量材、導電性フィラー、光輝材、顔料、充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、消泡剤、乾燥剤、ハジキ防止剤が挙げられる。
【0085】
上記光輝材としては、例えば、マイカ、金属粉末、ガラスビーズ、ガラスバブル、ガラスフレーク、ガラス繊維等が挙げられる。本発明のフルオロポリマー水性分散液は、このような光輝材を含有する場合、優れた外観を有する塗膜を形成することができる。上記光輝材の含有量は、上記フルオロポリマー水性分散液の固形分に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
【0086】
上記金属粉末としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、すず、亜鉛、金、銀、銅等の金属単体の粉末;アルミニウム合金、ステンレス等の合金の粉末等が挙げられる。上記金属粉末の形状としては特に限定されず、粒子状、フレーク状等が挙げられる。本発明のフルオロポリマー水性分散液は、これらの着色成分を含まないクリヤー塗料であってもよい。
【0087】
上記粘度調節剤としては、例えば、メチルセルロース、アルミナゾル、ポリビニルアルコール、カルボキシル化ビニルポリマー等が挙げられる。
【0088】
上記消泡剤としては、例えば、トルエン、キシレン、炭素数9〜11の炭化水素系等の非極性溶剤、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0089】
上記乾燥剤として、例えば、酸化コバルト等が挙げられる。
【0090】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、塗料として好適に使用でき、上塗り塗料として使用できるし、中塗り塗料としても使用できる。また、ライニング用の塗料としても使用できる。
【0091】
塗装方法としては従来と同様な各種の塗装方法が採用でき、例えば、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンフローコート法、カーテンフローコート法等が挙げられる。
【0092】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は基材に直接塗装してもよいが、密着性を向上させるために、プライマー層を設けてその上に塗装することが望ましい。基材としては特に限定されないが、たとえば各種金属、ホーロー、ガラス、各種セラミックスが採用でき、また密着性を高めるために表面をサンドブラスト法などで粗面化することが好ましい。
【0093】
基材に塗布されたフルオロポリマー水性分散液は次いで乾燥される。本発明のフルオロポリマー水性分散液はこの乾燥の段階でマッドクラックを生じない点に特徴がある。乾燥は通常の条件でよく、用いる多価アルコール(c)の沸点によって異なるが、好ましくは室温〜150℃、より好ましくは80〜150℃にて5〜20分間実施すれば、指触乾燥に達する。
【0094】
乾燥した塗膜は焼成(加工)される。焼成(加工)温度及び時間はフッ素樹脂の種類や溶融温度などによって異なるが、例えば、フッ素樹脂の溶融温度以上、通常360〜415℃にて5〜30分間行う。
【0095】
プライマー層を設ける場合は、プライマーを塗布、乾燥、焼成した後に本発明のフルオロポリマー水性分散液を塗布、乾燥、焼成する方法(2コート2ベーク法)でもよいし、プライマーを塗布、乾燥した後に本発明のフルオロポリマー水性分散液を塗布、乾燥し、両者を同時に焼成する方法(2コート1ベーク法)でもよいし、プライマーを塗布、乾燥した後に本発明のフルオロポリマー水性分散液である光輝材を含む中塗り塗料を塗布、乾燥して、更にその上に本発明のフルオロポリマー水性分散液以外のクリヤー塗料である上塗り塗料を塗布、乾燥して、これらを同時に焼成する方法(3コート1ベーク法)であってもよい。また、プライマー塗布後にいずれも本発明のフルオロポリマー水性分散液である、光輝材を含む中塗り塗料、クリヤー塗料である上塗り塗料による塗装を順次行うものであってもよい。
【0096】
本発明のフルオロポリマー水性分散液を塗装することにより以下に例示する被覆物品を製造することができる。上記被覆物品としては、例えば、フライパン、グリル鍋、圧力鍋、その他の各種鍋、炊飯器、餅つき器、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー等の飲食用容器;練りロール、圧延ロール、コンベア、ホッパー等の食品工業用部品;オフィスオートメーション機器〔OA〕用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、鋳型、合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;レンジフード等の厨房用品;コンベアーベルト等の冷凍食品製造装置;のこぎり、やすり、ダイス、きり等の工具;アイロン、鋏、包丁等の家庭用品;金属箔、電線;食品加工機、包装機、紡繊機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;パイプ、バルブ、ベアリング等の自動車部品、雪かきシャベル、すき、シュート、船底、ボイラー、工業用コンテナ(特に半導体工業用)が挙げられる。
【0097】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の用途しては、また、不織布、樹脂成形品等の多孔性支持体を含浸させ乾燥した後、好ましくは焼成することよりなる含浸;ガラス等の基材上に塗布し乾燥した後、必要に応じて水中に浸漬し、基材を剥離して薄膜を得ることよりなるキャスト製膜等が挙げられ、これら適用例としては、水性分散型塗料、電極用結着剤、電極用撥水剤等が挙げられる。
【0098】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、加工助剤として使用することも好ましい。加工助剤として使用する場合、本発明のフルオロポリマー水性分散液をホストポリマー等に混合することにより、ホストポリマー溶融加工時の溶融強度向上や、得られたポリマーの機械的強度、電気特性、難燃性、滴下防止性、摺動性を向上することができる。
【0099】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)がポリテトラフルオロエチレンである場合、熱溶融加工性フッ素樹脂と複合させてから加工助剤として使用することも好ましい。本発明のフルオロポリマー水性分散液は、例えば、特開平11−49912号公報、特開2003−24693号公報、米国特許第5804654号明細書、特開平11−29679号公報、特開2003−2980号公報に記載されたPTFEの原料として好適である。本発明のフルオロポリマー水性分散液は、上記各刊行物に記載された加工助剤に比べてもなんら劣るものではない。
【0100】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)がポリテトラフルオロエチレンである場合、熱溶融加工性フッ素樹脂の水性分散液と混合して凝析させることにより、共凝析粉末とすることも好ましい。上記共凝析粉末は、加工助剤として好適である。上記熱溶融加工性フッ素樹脂としては、例えば、FEP、PFA、ETFE、EFEP等が挙げられるが、中でもFEPが好ましい。
【0101】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)がポリテトラフルオロエチレンである場合、塵埃抑制処理剤として使用することも好ましい。上記塵埃抑制処理剤は、発塵性物質と混合し、該混合物に20〜200℃の温度で圧縮−せん断作用を施すことによりポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する方法、例えば特許第2827152号公報、特許第2538783号公報等に開示された方法において、用いることができる。上記塵埃抑制処理剤は、建材分野、土壌安定材分野、固化材分野、肥料分野、焼却灰及び有害物質の埋立処分分野、防爆分野、化粧品分野等の塵埃抑制処理に好適に用いられる。
【0102】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、例えば、国際公開第2007/004250号パンフレットに記載の塵埃抑制処理剤組成物に好適に用いることができ、国際公開第2007/000812号パンフレットに記載の塵埃抑制処理方法にも好適に用いることができる。
【0103】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー(A)がポリテトラフルオロエチレンである場合、分散紡糸法(Dispersion Spinning method)によりポリテトラフルオロエチレン繊維を得る原料として使用することも好ましい。上記分散紡糸法とは、上記ポリテトラフルオロエチレン水性分散体とマトリックス高分子の水性分散体とを混合し、当該混合物を押出加工して中間体繊維構造物を形成し、該中間体繊維構造物を焼成することによって上記マトリックス高分子を分解及びポリテトラフルオロエチレン粒子の焼結を行ってポリテトラフルオロエチレン繊維を得る方法である。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下、「%」「部」はそれぞれ質量%、質量部を表す。
【0105】
測定方法
(1)平均粒子径
樹脂固形分濃度を0.22質量%に調整したフルオロポリマー水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定した。
【0106】
(2)フルオロポリマー濃度(P)
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、更に300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
【0107】
(3)含フッ素界面活性剤濃度
得られた水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を以下の条件にて行うことにより求めた。なお、含フッ素界面活性剤濃度算出にあたり、既知の濃度の含フッ素界面活性剤濃度について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
(測定条件)
カラム:ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0108】
(4)非イオン性界面活性剤の含有量(N)
試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/X]×100(%)から算出した量より安定剤を差し引いた量を非イオン性界面活性剤の含有量とした。
安定剤は調製時に添加した量に基づき算出した。
【0109】
(5)粘度
B型回転粘度計(東京計器社製)を用い、JIS K 6893に準拠して、25℃又は35℃における粘度を測定した。
【0110】
(6)機械的安定性
35℃に保持した100mlのフルオロポリマー水性分散液を、内径8mm、外径11mmの塩化ビニルチューブを備えたダイヤフラムポンプで1500ml/分の条件で20分循環後、200メッシュSUS網を用いてろ過した際のメッシュアップ量を、用いたフルオロポリマー水性分散液に含まれるフルオロポリマー量に占める割合(質量%)として測定した。
【0111】
(7)貯蔵安定性
フルオロポリマー水性分散液500mlをポリ容器に入れ、25℃で3ヶ月又は40℃の恒温室で1ヶ月間静置した。静置後、緩く攪拌した後にステンレス製400メッシュでろ過を行い、メッシュ上に残った凝集分を300℃で1時間乾燥し、該凝集分の樹脂固形分に対する割合を(元のフルオロポリマー水性分散液中のフルオロポリマーを基準とし)100分率で表した。貯蔵安定性の悪いものは、多量の凝集分が発生する。
【0112】
製造例1
特開2005−036002号公報の実施例8で得られたPTFE水性分散液1(平均粒子径274nm、PTFE濃度:22%、含フッ素アニオン界面活性剤量:PTFEの4280ppm)に非イオン性界面活性剤(C1327−(OE)−OH、疎水基はブテン3量体、製品名TDS80、第一工業製薬社製)を加え、非イオン性界面活性剤濃度をPTFE100質量部に対し10質量部とした分散液を調整した。引き続き、OH型の陰イオン交換樹脂アンバージェットAMJ4002(商品名、ローム・アンド・ハース社製)を250ml充填し、40℃に温調した直径20mmのカラムに、上記PTFE水性分散液1をSV=1で通液した。更に、通液し得られた水性分散液に、非イオン性界面活性剤を濃度が20%になるように追加し63℃にて3時間保持し、上清相1と濃縮相1とに分離した。濃縮相1を回収し、PTFE水性分散液2とした。
PTFE水性分散液2は、フルオロポリマー濃度(PC)が69.3%、非イオン性界面活性剤濃度(NC)がPTFE100質量部に対し2.8質量部、含フッ素アニオン界面活性剤量は、PTFEに対して1ppmであった。
【0113】
実施例1
製造例1で得られたPTFE水性分散液2 650gに、TDS80を14.4g加え、さらに、表1に示す安定剤S−1を1.4g加え、さらに水を82g加えてPCが60%であるPTFE水性分散液を調製し、粘度、機械的安定性、及び貯蔵安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
実施例2〜6
実施例1において、表1に示す安定剤を加える以外は実施例1と同様にしてPTFE水性分散液を調製し、粘度、機械的安定性、及び貯蔵安定性を評価した。
【0115】
比較例1
実施例1で、安定剤を入れなかった以外は、実施例1と同様にしてPTFE水性分散液を調製し、粘度、機械的安定性、及び貯蔵安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、塗装、含浸、キャストフィルムの製造、紡糸、共析メッキ等に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フルオロポリマー、(B)水性媒体、及び、(C)安定剤を含み、前記安定剤(C)は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液。
O−(AO)−H (1)
(式中、AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20であり、かつ、第3級炭素原子又は第4級炭素原子のいずれかを少なくとも1つ含むアルキル基を表す。)
【請求項2】
は、第3級炭素原子及び第4級炭素原子のいずれか一方又は両方を含み、かつ、第3級炭素原子及び第4級炭素原子の合計が3つ以上であるアルキル基である請求項1記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項3】
は、炭素数が16〜18のアルキル基である請求項1又は2記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項4】
は、下記式(2)
【化1】

で表されるアルキル基である請求項1、2又は3記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項5】
安定剤(C)は、曇点が40〜85℃である請求項1、2、3又は4記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項6】
フルオロポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、および、エチレン/クロロテトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーである請求項1、2、3、4又は5記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項7】
フルオロポリマー(A)の固形分濃度が30〜75質量%である請求項1、2、3、4、5又は6記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項8】
フルオロポリマー(A)100質量部に対して0.05〜5.0質量部の安定剤(C)を含む請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項9】
更に、(D)非イオン性界面活性剤(但し、安定剤(C)を除く)を含む請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項10】
非イオン性界面活性剤(D)は、下記一般式(4)で表される化合物である請求項9記載のフルオロポリマー水性分散液。
O−(AO)−H (4)
(式中、AOは炭素数が2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の整数である。Rは、炭素数が14〜20の直鎖アルキル基又は炭素数8〜13の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。)
【請求項11】
フルオロポリマー(A)100質量部に対して1〜20質量部の非イオン性界面活性剤(D)を含む請求項9又は10記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のフルオロポリマー水性分散液からなる塗料。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のフルオロポリマー水性分散液の塗料としての使用。

【公開番号】特開2011−213895(P2011−213895A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84074(P2010−84074)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】