説明

フルオロポリマー組成物

【課題】表面欠陥が効果的に低減または防止された成形品を与えることが可能なフルオロポリマー組成物の提供。
【解決手段】フルオロポリマーおよび架橋剤を含むフルオロポリマー組成物であって、該フルオロポリマーが、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマーであり、そして該架橋剤が、1種以上のアミジン化合物および1種以上のビスアミノフェノール化合物を含む2種以上の化合物の組合せである、フルオロポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組合せの架橋剤を含むフルオロポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロエラストマーは、耐熱性、耐化学物質性、耐ラジカル性、低いアウトガス放出性等の優れた特性により、たとえば半導体市場におけるシーリングとして用いられてきた。近年、半導体市場は、より高温でクリーンなプロセスにシフトする傾向がある。
【0003】
特許文献1には、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)および特定構造のシアノ基含有(パーフルオロビニルエーテル)の3元共重合体に、特定構造のビス(アミノフェニル)化合物を硬化剤として配合してなる含フッ素エラストマー組成物が記載されている。また特許文献2には、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)および特定構造のパーフルオロ(ω−シアノアルキルビニルエーテル)の3元共重合体に、特定構造のビスアミノフェニル化合物を硬化剤として配合してなる含フッ素エラストマー組成物が記載されている。
【0004】
特許文献3には、架橋性基としてカルボキシル基および/またはアルコキシカルボニル基を主鎖の末端および/または分岐鎖に有する含フッ素エラストマーを含むフッ素ゴム架橋用組成物が記載されている。
【0005】
特許文献4には、(a)窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むフルオロポリマー;および(b)アミジン含有硬化剤;を含み、場合によっては、前記フルオロポリマーがペルフルオロ化されている、組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−263952号公報
【特許文献2】特開平8−120146号公報
【特許文献3】国際公開第WO00/29479号パンフレット
【特許文献4】特開2006−502283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら本発明者らは、従来のフルオロポリマー組成物を用いて得られる成形品(たとえばシート)が、クレーター様の表面欠陥を有する場合があることを見出した。本発明者らは更に、該表面欠陥の要因の1つとしてフルオロポリマーの硬化不足が挙げられることも見出した。
【0008】
本発明の課題は、表面欠陥が効果的に低減または防止された成形品を与えることが可能なフルオロポリマー組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
フルオロポリマーおよび架橋剤を含むフルオロポリマー組成物であって、
該フルオロポリマーが、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマーであり、そして
該架橋剤が、1種以上のアミジン化合物および1種以上のビスアミノフェノール化合物を含む2種以上の化合物の組合せである、フルオロポリマー組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面欠陥が少ない成形品の形成を可能にするフルオロポリマー組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施態様について、その詳細を以下に示す。本発明についての、その他の特徴、目的、利点等は、以下の記述および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0012】
本発明の一態様は、
フルオロポリマーおよび架橋剤を含むフルオロポリマー組成物であって、
該フルオロポリマーが、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマーであり、そして
該架橋剤が、1種以上のアミジン化合物および1種以上のビスアミノフェノール化合物を含む2種以上の化合物の組合せである、フルオロポリマー組成物を提供する。
【0013】
本発明に係るフルオロポリマー組成物は、高架橋密度の硬化生成物を形成できる。このような高架橋密度の硬化生成物を用いて、表面欠陥が少ない成形品を形成できる。
【0014】
特に、本発明に係るフルオロポリマー組成物によれば、目視で視認できるサイズの陥没部が成形品の表面に殆どまたは全く観察されない成形品を形成できる。
【0015】
いくつかの態様において、フルオロポリマー組成物は、その高い架橋密度に起因して、低い圧縮永久歪みを有することができる。
【0016】
いくつかの態様に係るフルオロポリマー組成物において、アミジン化合物とビスアミノフェノール化合物との組合せを架橋剤として用いることは、たとえばアミジン化合物およびビスアミノフェノール化合物をそれぞれ単独で用いる場合と比べて、同等の架橋剤使用量でより高い架橋密度を与える。
【0017】
いくつかの態様において、フルオロポリマー組成物は、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマーを用いることによる利点(たとえば優れた耐熱性および優れた耐化学物質性)を維持しつつ、良好な表面特性の実現を可能にする。
【0018】
本開示において、「アルキル」という用語は、直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を意味する。「分岐状」という用語は、直鎖状のアルキル鎖に、1個または複数のアルキル基、たとえばメチル、エチルまたはプロピルなどが付いているものを意味する。アルキル基は、非置換でもよく、また、1個または複数の、ハロ原子、シクロアルキル、またはシクロアルケニル基などによって置換されていてもよい。
【0019】
「アルケニル」という用語は、炭素−炭素二重結合を有する脂肪族炭化水素基を意味していて、直鎖状または分枝状のものであってよい。アルケニル基は、非置換でもよく、また、1個または複数の、ハロ原子、シクロアルキル、またはシクロアルケニル基などによって置換されていてもよい。
【0020】
「シクロアルキル」という用語は、非芳香族の単環式または多環式の環状システムを意味し、たとえば約3〜約12個の炭素原子を含む。シクロアルキル環の例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。このシクロアルキル基は、1個または複数の、ハロ原子、メチレン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、アリールまたはヘテロアリールなどで置換されていてもよい。「ヘテロ」という用語は、1個または複数の炭素原子と置換した酸素、窒素、または硫黄のことを意味する。
【0021】
「シクロアルケニル」という用語は、炭素−炭素二重結合を有する、非芳香族の単環式または多環式の環状システムを意味し、たとえば約3〜約10個の炭素原子を含む。このシクロアルケニル基は、非置換でもよく、また、1個または複数の、ハロ原子、メチレン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、アリール、またはヘテロアリール基などで置換されていてもよい。
【0022】
「アリール」という用語は、芳香族炭素環式ラジカルを意味する。アリール基の例を挙げれば、場合によっては同一であっても異なっていてもよいが1個または複数のアリール基置換基によって置換された、フェニルまたはナフチルがある。ここで「アリール基置換基」としては、水素、アルキル、シクロアルキル、場合によっては置換されたアリール、場合によっては置換されたヘテロアリール、アラルキル、アラルケニル、アラルキニル、ヘテロアラルキル、ヘテロアラルケニル、ヘテロアラルキニル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アラルコキシ、カルボキシ、アシル、アロイル、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アラルコキシカルボニル、アシルアミノ、アロイルアミノ、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、その他公知の基などが挙げられる。
【0023】
「アルカリル」という用語は、アリール−アルキル基を意味するが、ここでアリールおよびアルキルは、先に記述したものである。「アルケニルアリール」という用語は、アリール−アルケニル基を意味するが、ここでアリールおよびアルケニルは、先に記述したものである。
【0024】
上に挙げた化学基の説明は当分野では公知のものであって、これらの記述は、一般に認められている意味を変更しようとするものではない。
【0025】
以下、フルオロポリマー組成物の各成分について更に説明する。
【0026】
<フルオロポリマー>
本発明において用いるフルオロポリマーは、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマー(以下、硬化性エラストマーともいう)である。硬化性エラストマーとしては、たとえばフルオロエラストマーゴムなどが挙げられる。窒素含有硬化部位モノマーとは、窒素含有硬化部位(すなわち窒素を含有し、そして硬化反応に寄与する構造部分)を含むモノマーである。従って窒素含有硬化部位は硬化性エラストマーに硬化性を付与する。窒素含有硬化部位としては、ニトリル、イミデート、アミジン、アミド、イミド、およびアミン−オキシド基などが挙げられる。好ましい態様において、窒素含有硬化部位モノマーは、部分的または完全にフルオロ化されている。
【0027】
有用な窒素含有硬化部位モノマーの例は、ニトリル含有フルオロ化オレフィンおよびニトリル含有フルオロ化ビニルエーテルから選択される1種以上である。これらは、ペルフルオロ化されていることがより好ましい。たとえば、ニトリル含有フルオロ化ビニルエーテルの例としては、たとえば、CF2=CFO(CF2LCN;CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]q(CF2O)yCF(CF3)CN;CF2=CF[OCF2CF(CF3)]rO(CF2tCN;およびCF2=CFO(CF2uOCF(CF3)CNなどが挙げられる。式中、L=2〜12;q=0〜4;r=1〜2;y=0〜6;t=1〜4;そしてu=2〜6である。
【0028】
有用な窒素含有硬化部位モノマーの代表例としては、CF2=CFO(CF23OCF(CF3)CN、ペルフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)、およびCF2=CFO(CF25CNが挙げられる。
【0029】
窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位は、硬化性エラストマーにおける全重合単位の、約0.1〜約5モル%、または約0.3〜約2モル%を占めることが好ましい。これらの範囲は、本発明のフルオロポリマー組成物から得られる成形品に良好な表面特性を付与する観点で有利である。
【0030】
好適な硬化性エラストマーとしては、窒素含有硬化単位モノマーと主モノマー(好ましくは少なくとも2種の主モノマー)とから誘導される共重合単位を含むエラストマーが挙げられる。主モノマーとして用いるのに適した候補化合物の例としては、ペルフルオロオレフィン(たとえば、テトラフルオロエチレン(TFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP))、他のペルハロゲン化オレフィン(たとえばクロロトリフルオロエチレン(CTFE))、およびペルフルオロビニルエーテル(たとえば、ペルフルオロアルキルビニルエーテルおよびペルフルオロアルコキシビニルエーテル)が挙げられる。場合によっては、水素含有モノマー、たとえばオレフィン(たとえば、エチレン、プロピレンなど)、および部分フルオロ化モノマー(たとえばフッ化ビニリデン(VDF))も使用できる。
【0031】
硬化性エラストマーがペルハロゲン化されている場合、硬化性エラストマーは、1種または複数種のペルハロゲン化オレフィン(たとえばTFEおよび/またはCTFE、場合によっては更にHFP)から誘導された共重合単位を少なくとも約50モル%含むことが好ましい。硬化性エラストマーの共重合単位の残り(たとえば約10〜約50モル%)は、1種または複数種のペルフルオロビニルエーテルおよび1種または複数種の窒素含有硬化部位モノマー(たとえば、ニトリル含有ビニルエーテルまたはイミデート含有ビニルエーテル)で構成できる。より好ましい態様において、硬化性エラストマーは、ペルフルオロ化されている。
【0032】
一方、硬化性エラストマーがペルハロゲン化されていない態様において、該硬化性エラストマーは、たとえば、約5〜約90モル%の、ペルハロゲン化オレフィンから誘導された共重合単位、約5〜約90モル%の、水素含有モノマーから誘導された共重合単位、約40モル%以下の、ビニルエーテルから誘導された共重合単位、ならびに約0.1〜約5モル%(より好ましくは約0.3〜約2モル%)の、窒素含有硬化部位モノマーから誘導された共重合単位を含むことができる。
【0033】
また、硬化性エラストマーがペルフルオロ化されていない態様において、該硬化性エラストマーは、たとえば、約5〜約90モル%の、TFE、CTFE、および/またはHFPから誘導された共重合単位、約5〜約90モル%の、VDF、エチレン、および/またはプロピレンから誘導された共重合単位、約40モル%以下の、ビニルエーテルから誘導された共重合単位、ならびに約0.1〜約5モル%(より好ましくは約0.3〜約2モル%)の、窒素含有硬化部位モノマーから誘導された共重合単位を含むことができる。
【0034】
ペルハロゲン化オレフィンの好適例は、ペルフルオロ化オレフィンであり、特に好適な例は、式CF2=CF−Rf(式中、Rfはフッ素またはC1〜C8ペルフルオロアルキルを表す)で表されるペルフルオロ化オレフィンである。
【0035】
水素含有オレフィンの好適例は、分子中の水素原子の1/2未満、もしくは1/4未満がフッ素で置換された、またはフルオロ化されていない、水素含有C2〜C9オレフィンである。しかしいくつかの実施態様においては、フルオロ化されていないオレフィンから誘導される共重合単位は硬化性エラストマー中に含まれない。
【0036】
水素含有オレフィンの好適例は、式CX2=CX−R(式中、Xはそれぞれ独立して水素またはフッ素または塩素であり、Rは水素、フッ素、またはC1〜C12アルキルもしくはC1〜C3アルキルである)で表されるオレフィンである。これらのオレフィンのうち好適例は、部分フルオロ化モノマー(たとえばフッ化ビニリデン)、および水素含有モノマー(たとえばα−オレフィン(たとえばエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなど)など)である。
【0037】
上述の原料はそれぞれ2種以上の組合せでもよい。
【0038】
ペルフルオロビニルエーテルとしては、たとえばCF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF2OCF3、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF3、CF2=CFOCF2CF2CF3、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3、およびCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3が挙げられる。
【0039】
好ましい態様において、硬化性エラストマーは、ペルフルオロオレフィン、ペルフルオロビニルエーテルおよび窒素含有硬化部位モノマーの共重合体である。該共重合体において、窒素含有硬化部位モノマーの好適例はニトリル含有フルオロ化オレフィンおよびニトリル含有フルオロ化ビニルエーテルから選択される1種以上である。
【0040】
より好ましい態様において、硬化性エラストマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、少なくとも1種のペルフルオロアルキルビニルエーテルおよび窒素含有硬化部位モノマー(好ましくはニトリル含有フルオロ化オレフィンおよびニトリル含有フルオロ化ビニルエーテルから選択される1種以上)の共重合体である。
【0041】
特に好ましい態様において、硬化性エラストマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、およびCF2=CFO(CF25CN(MV5CN)の3元共重合体である。
【0042】
これらの共重合体において、共重合させたペルフルオロビニルエーテル単位(好ましくはペルフルオロアルキルビニルエーテル単位、より好ましくはPMVE単位)は、硬化性エラストマーの全共重合単位の、好ましくは約1〜約60モル%、より好ましくは約10〜約40モル%を占める。
【0043】
硬化性エラストマーは、1種でも2種以上のブレンド物であってもよい。ブレンド物の場合、各エラストマーは、上述したような窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含む。たとえば、用いる架橋剤との組合せが好適になるような反応性部位を含む2種以上のエラストマーをブレンドすることができる。
【0044】
(追加のフルオロポリマー)
フルオロポリマー組成物は、上述の硬化性エラストマーに加えて、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含まない追加のフルオロポリマーを1種または複数種含んでもよい。追加のフルオロポリマーは、単独重合体または共重合体であることができる。追加のフルオロポリマーは、硬化性エラストマーとブレンドすることができる。
【0045】
追加のフルオロポリマーの重合単位としては、硬化性エラストマーが含むことができる共重合単位として上述したもののうち、窒素含有硬化部位モノマー以外のもの全般が挙げられる。たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびテトラフルオロエチレン−ペルフルオロビニルエーテル(PFA)が有用である。
【0046】
たとえば、追加のフルオロポリマーを、本発明において用いる架橋剤としてのアミジン化合物およびビスアミノフェノール化合物以外に任意に使用できる追加の硬化剤と組合せることによって、フルオロポリマー組成物に所望の性質を与えることができる。たとえば、ペルオキシド硬化に適した追加のフルオロポリマーとペルオキシド硬化剤とを組合せることによって、フルオロポリマー組成物の化学的な安定性を改良することができる。そのような追加のフルオロポリマーおよび追加の硬化剤の使用により、得られるブレンド物の熱安定性と化学的安定性とのバランスがとれると共に、経済的な効果も得ることが可能である。
【0047】
追加のフルオロポリマーを用いる場合、フルオロポリマー組成物が含有する硬化性エラストマーおよび追加のフルオロポリマーの合計(以下、フルオロポリマー成分ともいう)のうち、硬化性エラストマーの質量割合は、好ましくは約25質量%以上、または約50質量%以上である。この場合、優れた表面特性を有する成形品を与えるフルオロポリマー組成物が得られる。いくつかの態様において、フルオロポリマー組成物が含有するフルオロポリマー成分は硬化性エラストマーのみである。
【0048】
硬化性エラストマーおよび任意の追加のフルオロポリマーは、公知の方法を用いて調製することができる。たとえば重合プロセスは、水性エマルション重合または有機溶媒中での溶液重合によって、モノマーをフリーラジカル重合させて実施することができる。2種以上のフルオロポリマーのブレンド物を調製する場合には、たとえば2種以上のフルオロポリマーラテックスを選択した比率でブレンドし、それを凝集させ、次いで乾燥させる。
【0049】
硬化性エラストマーおよび任意の追加のフルオロポリマーにおいて、末端基の種類および量は、決定的なものではない。たとえば、ポリマーに、APS/亜硫酸塩系によって生成するSO3-末端基が含まれていてもよい。または、ポリマーに、APS重合開始剤系により生成するCOO-末端基が含まれていてもよい。または、ポリマーに、「中性の」末端基、たとえば、フルオロスルフィネート重合開始剤系または有機過酸化物を使用することにより発生するもの、が含まれていてもよい。任意の連鎖移動剤を使用することで、末端基の数を顕著に減らすことができる。所望により、たとえば加工性の改良の目的で、強い極性末端基、たとえばSO3-の存在を最小限に抑えることができる。また、所望により、COO-またはその他の不安定な末端基の量を公知の後処理(たとえば、脱カルボキシル化、後フルオロ化など)によって低減してもよい。
【0050】
硬化性エラストマーおよび/または任意の追加のフルオロポリマーは、窒素含有硬化部位以外の硬化部位を含むことができる。これらはたとえば、ペルオキシド硬化反応に関与することができるように、ハロゲンを含むことができる。ハロゲンは、フルオロポリマー鎖の中および/または末端の位置に存在させることができる。ハロゲンは典型的には、臭素またはヨウ素である。
【0051】
フルオロポリマー成分におけるポリマー鎖の中の位置にハロゲンを導入する方法としては、共重合が好ましい。この方法を使用する場合には、適切なフルオロ化硬化部位モノマー,たとえばブロモ−もしくはヨード−フルオロオレフィン、またはブロモ−もしくはヨード−フルオロビニルエーテルを共重合成分として用いる。ブロモ−またはヨード−フルオロオレフィンの例としては、ブロモジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン、および4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1、などが挙げられる。また、ブロモ−またはヨード−フルオロビニルエーテルとしては、BrCF2OCF=CF2、BrCF2CF2OCF=CF2、BrCF2CF2CF2OCF=CF2、CF3CF(Br)CF2OCF=CF2、などが挙げられる。更に、フルオロ化されていないブロモ−またはヨード−オレフィン、たとえば、ビニルブロミドおよび4−ブロモ−1−ブテンなどを使用することもできる。
【0052】
フルオロポリマー成分におけるポリマーの側鎖位置に存在させる硬化部位の量は一般に、全重合単位の、好ましくは約0.05〜約5モル%、より好ましくは約0.1〜約2モル%である。
【0053】
硬化部位は、フルオロポリマー成分のポリマー鎖の末端の位置にあってもよい。たとえば、連鎖移動剤または重合開始剤を使用して、末端位置にハロゲンを導入できる。一般に、ポリマー調製時に、適切な連鎖移動剤を反応媒体中に導入するか、または適切な重合開始剤から誘導することによって、末端位置に硬化部位を導入する。
【0054】
有用な連鎖移動剤の例は、式Rfx(式中、Rfは、ペルフルオロ化されていてもよい、置換または非置換のC1〜C12フルオロアルキルラジカルであり、ZはBrまたはIであり、そしてxは1または2である)で表される化合物である。臭素を含む具体的な例は、CF2Br2、Br(CF22Br、Br(CF24Br、CF2(Cl)Br、CF3CF(Br)CF2Br、などである。
【0055】
有用な重合開始剤の例は、NaO2S(CF2nX(式中、XはBrまたはIであり、そしてnは1〜10である)で表される化合物である。
【0056】
フルオロポリマー成分のポリマーの末端位置に存在させる硬化部位の量は一般に、全重合単位の約0.05〜約5モル%、より好ましくは約0.1〜約2モル%である。
【0057】
2種以上の硬化部位の組合せも本発明において有用である。たとえば、ペルオキシド硬化反応に関与することが可能なハロゲンを、窒素含有硬化部位、たとえばニトリル基含有硬化部位とともに含むフルオロポリマーが有用である。一般に、硬化部位の合計量は全重合単位の約0.1〜約5モル%、より好ましくは約0.3〜約2モル%とする。
【0058】
本発明において用いる架橋剤および任意の追加の硬化剤の有効量を、硬化剤として使用して、硬化性エラストマーおよび任意の追加のフルオロポリマーを架橋することができる。硬化剤の量が少なすぎる場合には、フルオロポリマー成分の架橋が充分に進行せず、所望の物理的性質が得られなかったり、および/または架橋速度が期待より低くなってしまったりする。硬化剤の量が多すぎる場合には、フルオロポリマー成分は期待していた通りのものに架橋されなかったり、および/または、期待していた製造条件よりも早過ぎる架橋をしたりする。組成の具体的な成分の選択によっては、必要とする硬化剤の量に影響が出る可能性がある。たとえば、選択した充填剤の種類および/または量によっては、同様ではあるが充填剤を加えていない組成物に比較して、硬化を促進または抑制する可能性があるので、硬化剤の量を適切に調節する必要があるが、そのようなことは当業者には公知である。
【0059】
用いる硬化剤の種類および量は、フルオロポリマー成分の組成によっても左右される。たとえば、ニトリル基含有フルオロポリマーと、ニトリル硬化部位を含まない追加のフルオロポリマーとのブレンド物を使用する場合、第1の選択した硬化剤の有効量を使用して、ニトリル基含有モノマーから誘導された共重合単位を有するフルオロポリマーを架橋させ、併せて、第2の選択した硬化剤の有効量を使用して、追加のフルオロポリマーを架橋させる。第1および第2の選択した硬化剤は、それぞれ1種または2種以上の組合せの硬化性化合物であることができる。また第1および第2の選択した硬化剤は、同じ組成であっても、異なった組成であってもよい。すなわち、複数種の硬化剤のうち少なくとも1種が、少なくとも1種のポリマーを架橋させる効果を有していればよい。
【0060】
<アミジン化合物>
本発明において用いられるアミジン化合物は、架橋剤として機能できる。アミジン化合物は、典型的には、モノ−アミジン、ビス−アミジン、トリス−アミジン、テトラ−アミジンおよびそれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上の組合せであることができる。アミジン化合物の1つの好ましい態様は、入手容易性および実用性の観点から、モノ−アミジン、ビス−アミジンおよびそれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上の組合せである。但し、モノ−アミジンを用いる場合には、架橋剤として機能できる構造を有する化合物,例えばモノ−アミジン塩を選択する。
【0061】
好ましい態様において、アミジン化合物は、少なくとも1つのC−O−C結合を有する。少なくとも1つのC−O−C結合を有するアミジン化合物は、成形品に特に良好な表面特性を与え、いくつかの態様においては良好な圧縮永久歪を更に与える観点から有利である。
【0062】
アミジン化合物は、ヘテロ原子、たとえば酸素、硫黄、リン、またはアミジン基以外に存在する窒素などを含んでいてもよい。
【0063】
特に好ましい態様において、アミジン化合物は、少なくとも1つのC−O−C結合を有するモノ−アミジンである。好ましい態様において、モノ−アミジンは、炭素原子1〜約15個を有する、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルカリル基を有することができる。これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。またこれらは非置換であるか、または置換(例えばフルオロ化、特にペルフルオロ化)されていることができる。
【0064】
好ましい態様において、好ましいアミジン化合物は、下記一般式(2):
【化1】

(式中、
1は、水素原子;または、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルカリル基もしくはアルケニルアリール基;であり、
2は、水素原子;または、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルカリル基もしくはアルケニルアリール基;であり、または(R22がH3(+) (-)Aで表される基を形成しており、ここで(-)Aはアニオンであり、
Yは、単結合または1〜4価の基であり、
nは、1〜4の整数であり、但しnが1の場合(R22がH3(+) (-)Aで表される基を形成しており、そして
分子中に複数存在する場合のR1およびR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
で表される。
【0065】
上記アルキル基は、1〜約15個、または1〜約10個、または1〜約8個の炭素原子を有することができる。また上記アルケニル基は、約2〜約15個、または約2〜約10個、または約2〜約6個の炭素原子を有することができる。また上記アリール基は、約6〜約15個、または約6〜約12個の炭素原子を有することができる。
【0066】
好ましい態様において、R1は水素であり、かつ(R22はH3(+) (-)Aである。
【0067】
(-)Aで表されるアニオンは、無機アニオンであっても有機アニオンであってもよい。好ましい態様において、(-)Aは、Clアニオン、Brアニオン、Iアニオン、またはCOOアニオンを含む。(-)Aの好ましい例は、COO、SO3、SO2、SO2NH、PO3、CH2OPO3、(CH2O)2PO2、C64O、OSO3、N(SO2)R’、N(SO2)SO2R’、およびC(SO2)RSO2R’(式中、RおよびR’はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルカリル基、またはアルケニルアリール基であり、これらは非置換であっても一部または全部がフルオロ化されていてもよい)からなる群から選択されるアニオンである。
【0068】
好ましい態様において、(-)Aは、1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を有する。
好ましい態様において、(-)Aは、エーテル結合を有する。
好ましい態様において、(-)Aは、ハロゲン化カルボン酸アニオン、特にフルオロカルボン酸アニオン、特にペルフルオロカルボン酸アニオンである。
好ましい態様において、(-)Aは、CF3O(CF2kCOO(-)(式中、kは1〜約10である)で表される。
【0069】
別の好ましい態様において、(-)Aは、CF3(CF2jCOO(-)(式中、jは1〜約15、または1〜約8、または1〜約3である)で表される。
【0070】
好ましい態様において、(-)Aは、酢酸アニオン、またはフルオロ化酢酸アニオン、またはトリフルオロ酢酸アニオンである。
【0071】
Yに関し、上記nが1(すなわちモノ−アミジン)である場合、Yはたとえば1価の有機基である。nが2(すなわちジ−アミジン)である場合、Yはたとえば単結合、−O−、−S−、または2価の有機基である。nが3(すなわちトリ−アミジン)である場合、YはたとえばNまたは3価の有機基である。nが4(すなわちテトラ−アミジン)である場合、YはたとえばN(+)または4価の有機基である。これらの1〜4価の有機基は、それぞれ、たとえば、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含むことができる。炭化水素基は、非置換または置換(例えばハロゲン化、特にフルオロ化、更にペルフルオロ化)されていることができ、直鎖状または分岐状であることができる。Yは、好ましくはC−O−C結合を少なくとも1つ有する。
【0072】
好ましい例は、nが1であり、Yが、R3OR4−で表される基(式中、R3は1〜約3個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、そしてR4は1〜約3個の炭素原子を有するペルフルオロアルキレン基である)であるモノ−アミジン化合物である。これらのアミジン化合物は、入手が非常に容易であるという観点、および良好な架橋反応性を有すると考えられるという観点で有利である。
【0073】
別の好ましい例は、nが2であり、Yが、−(R5OR6m−で表される基(式中、R5およびR6は各々独立に1〜約3個の炭素原子を有するペルフルオロアルキレン基であり、そしてmは1〜3の整数である)であるジ−アミジン化合物である。これらのアミジン化合物は、入手が非常に容易であるという観点、および良好な架橋反応性を有すると考えられるという観点で有利である。
【0074】
一般式(2)中のR1、R2、Y、nおよび(-)Aのそれぞれについて上記した好ましい態様の任意の2つ以上を組合せた態様もまた本開示に包含される。
【0075】
中でも好ましい例は、R1が水素原子であり、(R22がH3(+) (-)Aであり、(-)Aがトリフルオロ酢酸アニオンであり、YがCF3OCF2CF2−基であるモノ−アミジン化合物である。このアミジン化合物は下記式(3):
【化2】

で表される。
【0076】
別の好ましい例は、R1が水素原子であり、(R22がH3(+) (-)Aであり、(-)Aが酢酸アニオンであり、Yが−(CF2OCF23−基であるジ−アミジン化合物である。このアミジン化合物は、下記式(4):
【化3】

で表される。
【0077】
フルオロポリマー組成物には、アミジン化合物自体を含有させてもよいし、アミジン化合物の原料または前駆体を、典型的には混合物として含有させることによって、使用時にアミジン化合物が生成するようにしてもよい。アミジン化合物の原料または前駆体の例としては、例えば上記式(3)で表されるアミジン化合物を用いる場合における、下記式(5):
【化4】

で表される化合物と、CF3COOH(トリフルオロ酢酸)との混合物が挙げられる。
【0078】
フルオロポリマー組成物において、硬化性エラストマー100質量部に対するアミジン化合物の使用量は、特に良好な架橋密度を得るという観点から、好ましくは約0.5質量部以上であり、また、成形品中の未反応架橋剤の残留の回避、および経済的な優位性の観点から、好ましくは約1.5質量部以下である。
【0079】
<ビスアミノフェノール化合物>
ビスアミノフェノール化合物は、本発明のフルオロポリマー組成物において架橋剤として機能できる。架橋剤として、前述したようなアミジン化合物との組合せにおいてビスアミノフェノール化合物を用いることにより、たとえばアミジン化合物およびビスアミノフェノール化合物のそれぞれを単独で用いる場合と比べて、より高い架橋密度を与えることができる。
【0080】
好ましい態様において、ビスアミノフェノール化合物は、下記一般式(1):
【化5】

(式中、
1、Z2、Z3およびZ4は、各々独立に−NH2基または−OH基であり、但しZ1およびZ2のうち一方が−NH2基で他方が−OH基であり、Z3およびZ4のうち一方が−NH2基で他方が−OH基であり、そして、
5は、単結合、または、−O−、−CO−、−SO2−、および炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基からなる群から選択される2価基である。)
で表される。
【0081】
好ましい態様において、Z5は、得られる成形品に特に良好な表面特性を与えるという観点から、炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基である。
【0082】
好ましい態様において、ビスフェノール化合物は、入手が非常に容易であるという観点、および良好な架橋反応性を有すると考えられるという観点から、2,2’−ジアミノ−4,4’−(ペルフルオロプロパン−2,2−ジイル)ジフェノールである。
【0083】
別の好ましい態様において、ビスアミノフェノール化合物は、入手が非常に容易であるという観点、および良好な架橋反応性を有すると考えられるという観点から、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホンである。
【0084】
フルオロポリマー組成物において、硬化性エラストマー100質量部に対するビスアミノフェノール化合物の使用量は、特に良好な架橋密度を得るという観点から、好ましくは約0.1質量部以上であり、また、成形品中の未反応架橋剤の残留の回避、および経済的な優位性の観点から、好ましくは約1.0質量部以下である。
【0085】
特に好ましい態様において、フルオロポリマー組成物は、硬化性エラストマー100質量部に対し、アミジン化合物約0.5〜約1.5質量部、およびビスアミノフェノール化合物約0.1〜約1.0質量部を含有する。このような配合は、良好な架橋密度を実現することによって表面欠陥の少ない成形品を提供する観点から特に有利である。
【0086】
<その他の成分>
フルオロポリマー組成物は、上記に加えて、任意に、たとえば以下の成分の1種以上を含むことができる。
【0087】
(追加の硬化剤)
上述した架橋剤に加えて、追加の硬化剤を使用することによって、フルオロポリマー組成物の特性を変化させてもよい。追加の硬化剤としては、ビス−アミドオキシム、アンモニウム塩、有機金属化合物(例えばヒ素、アンチモンまたはスズを含有するもの)、アンモニア発生化合物、ペルオキシド硬化剤などを例示できる。追加の硬化剤の例は、一般式CH2=CHRfCH=CH2(式中、Rfは、C1〜C8の、直鎖状または分岐状で、少なくとも部分的にフルオロ化された、アルキレン、シクロアルキレン、またはオキシアルキレンである)で表される化合物である。なお上記式中、1個または複数のH原子がハロゲン原子、たとえばフッ素で置換されていてもよい。同様に、CH2=CHRf−(式中、Rfは上記定義の通りである)の側基を含むポリマー、および上記式中、1個または複数のH原子がハロゲン原子、たとえばフッ素で置換されているポリマーもまた、本発明における追加の硬化剤として有用である。
【0088】
フルオロポリマー組成物には、硬化可能なフルオロポリマー配合に一般的に採用されている任意の補助剤を組み込むことが可能である。たとえば、硬化剤システムの一部としてフルオロポリマー組成物にブレンドすることが多い物質は、ポリ不飽和化合物からなる架橋助剤(時には、共硬化剤と呼ばれることもある)であって、これは、ペルオキシド硬化剤と共に働いて、有効な硬化を与えることができる。従って、それらの架橋助剤は、ペルオキシド硬化剤と組合せると、特に有用である。一般に、架橋助剤を、硬化性エラストマーおよび任意の追加のフルオロポリマーの合計100質量部あたり、約0.1〜約10質量部(phr)、または約1〜約5質量部(phr)の間の量で使用することが好ましい。
【0089】
たとえば、充填剤(たとえばカーボンブラック、フルオロポリマー充填剤など)、安定剤、可塑剤、潤滑剤、およびフルオロポリマー組成物のコンパウンドの際に通常使用される加工助剤などの添加剤を、フルオロポリマー組成物の中に組み込むことができる。ただし、それらは目的とする使用条件下で充分に安定であることが望ましい。
【0090】
たとえば、ペルフルオロポリエーテルを組み込むことによって、低温性能を向上させることが可能である。
【0091】
また、カーボンブラックを、フルオロポリマー組成物の性能、たとえばモジュラス、引張強さ、伸び、硬度、耐摩耗性、導電率、および加工性などのバランスをとるために使用することができる。好適な例としては、N−991、N−990、N−908、およびN−907の品番のMTブラック類(ミディアムサーマルブラック);FEFN−550;および大粒径のファーネスブラックなどが挙げられる。カーボンブラックを使用する場合、その使用量は、硬化性エラストマーおよび追加のフルオロポリマーの合計100質量部あたり、好ましくは約1〜約70質量部(phr)である。上記範囲は大粒径のファーネスブラックを使用する場合に特に好適である。
【0092】
1種または複数の酸受容体をフルオロポリマー組成物に組み込んでもよい。しかしながら、抽出可能な金属化合物の存在が望ましくないような場合(たとえば、半導体用途)には、無機の酸受容体の使用は最小限とするべきであり、好ましくは全く使用しない。一般的に使用される酸受容体としては、たとえば酸化亜鉛、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素(シリカ)などが挙げられる。これらの化合物は一般に、HFまたはその他の酸と結合させるために使用される。これらの酸は、フルオロポリマー組成物を用いた成形品の形成時に硬化工程で遭遇する可能性のある高温、またはフルオロポリマーの機能を発揮させる場合の温度などで発生する可能性がある。
【0093】
<フルオロポリマー組成物の硬化>
本発明に係るフルオロポリマー組成物は、たとえばOリング、ガスケット、チューブ、シート、フィルムおよびシール材などの成形品の製造において有用である。そのような成形品は、従来公知の方法で製造できる。典型的には、フルオロポリマー組成物の配合成分をコンパウンドして得た配合物を加圧下で成形し、得られた物品を硬化させ、次いで、硬化後の物品を更に後硬化サイクルにかけることによって、製造することができる。たとえば、無機の酸受容体を使用しない配合の硬化可能な組成物は、半導体素子を製造するためのシール材およびガスケット、ならびに自動車用途における高温部分のためのシール材のような用途には特に適している。
【0094】
フルオロポリマー組成物は、配合成分、すなわち、硬化性エラストマー、任意の追加のフルオロポリマー、架橋剤、および各種任意成分(たとえば1種または複数種の追加の硬化剤、通常のゴム加工装置で使用される任意の1種または複数種の補助剤、その他の各種添加剤など)をコンパウンドすることにより調製することができる。より具体的には、フルオロポリマー成分に対し、所望量の架橋剤および任意のその他の通常使用される添加剤を添加し、任意の一般的なゴム混合装置を使用することによって、フルオロポリマー組成物の配合成分を十分に混合、すなわちコンパウンドすることができる。そのような装置としてはたとえば、密閉式ミキサー(たとえば、バンバリーミキサー)、ロールミル、またはその他任意の簡便な混合装置が挙げられる。混合時の混合温度は、典型的には、約120℃を超えないようにすることが望ましい。混合の間に、フルオロポリマー中に、他の成分を均質に分散させるのが好ましい。
【0095】
次いでその混合物を、押出し(たとえば、フィルム、チューブ、またはホースの形状にする場合)またはモールド(たとえば、シートまたはOリングの形状にする場合)により、加工、成形する。
【0096】
コンパウンドした混合物の成形または加圧硬化は通常、適切な圧力下で、所望の時間をかけて、その混合物を硬化させるに充分な温度で実施する。一般にその温度は、約95℃〜約230℃、好ましくは約150℃〜約205℃であり、その時間は約1分〜約15時間、典型的には約5分〜約30分である。通常約700kPa〜約21,000kPaの圧力を、型に入れた混合物にかける。型には最初に離型剤をコーティングして、焼き付けておいてもよい。
【0097】
次いで通常は、この成形した混合物または加圧硬化した物品を、たとえば、加熱炉の中で、硬化を完了させるのに充分な温度と時間をかけて後硬化させるが、通常その温度は約150℃〜約300℃、典型的には約230℃で、その時間は約2時間〜50時間またはそれ以上であるが、一般にその物品の断面厚みが増すほど長くする。厚みのあるものに対しては、後硬化の際の温度は通常、下限温度から目的とする最高温度まで、徐々に上げていく。用いる最高温度は、好ましくは約300℃で、この温度に約4時間またはそれ以上保つ。この後硬化工程によって通常、架橋が完結し、また硬化させた組成物から、残存していた揮発成分を放出させることができる。好適な後硬化サイクルの一例を挙げれば、窒素雰囲気下で物品を熱に曝露するのに、6段の工程条件を用いる。最初に、6時間かけて25℃から200℃まで昇温し、次いでその物品を200℃で16時間保ち、その後、2時間かけて200℃から250℃まで昇温する。次いで物品を250℃で8時間保ち、その後、2時間かけて250℃から300℃まで昇温する。次いで物品を300℃で16時間保つ。最後に、たとえば炉の加熱を停止して、物品を周囲温度にまで戻す。
【実施例】
【0098】
本発明の実施例について、以下に更に説明する。
【0099】
特に断らない限り、表示する結果は、以下の試験方法を用いて得たものである。試験結果については、後記の表に示す。
【0100】
<ムーニースコーチ(T5およびT35)>
JIS K6300−1 2001に準拠して評価した。
【0101】
<硬化レオロジー特性(モンサントODR)>
架橋特性の指標として、硬化レオロジー特性、具体的にはML、MH、Ts2、Tc10、Tc50およびTc90を測定した。
【0102】
未硬化の組成物サンプルについて、モンサント・レオメーター R−100型を使用し、JIS K6300−2 2001に準拠して試験した。所定の時間の間に得られる、最小トルク(ML)と、平坦部または最大トルクが得られない場合には最高トルク(MH)との両方を測定した。更に、MLより2単位高いトルクに達するまでの時間(「Ts2」)、トルクがML+0.1(MH−ML)に等しい値に達するまでの時間(「Tc10」)、トルクがML+0.5(MH−ML)に等しい値に達するまでの時間(「Tc50」)と、トルクがML+0.9(MH−ML)に等しい値に達するまでの時間(「Tc90」)とを、測定した。
【0103】
同様に、未硬化の組成物サンプルをそれぞれ7日間および30日間、室温(25℃程度)で保存した後、上記と同様の方法でML、MH、Ts2、Tc10、Tc50およびTc90を測定した(表中、「7日経過後」および「30日経過後」)。
【0104】
<硬化条件>
加圧硬化:特に断らない限り、圧力約20メガパスカル(MPa)、温度165℃で30分間加圧することにより、物理的性質を測定するための150×150×2.0mmの大きさのサンプルシートを調製した。
【0105】
後硬化:加圧硬化させたサンプルシートを、窒素雰囲気下で更に熱に暴露した。具体的には、1)室温から150℃まで1時間かけて昇温、2)150℃で7時間保持、3)150℃から300℃まで2時間かけて昇温、4)300℃で4時間保持、5)300℃から室温まで2時間かけて降温、をこの順に行うステップ硬化である。これにより、これらのサンプルは、周囲温度にまで戻してから試験に供した。
【0106】
<DuroA硬度>
JIS K6253 2006に準拠し、タイプA−2ショアーデュロメーターを用いてDuroA硬度を測定した。
【0107】
<破断時引張強さ、破断時伸び、および100%伸び時のモジュラス>
前述の条件で加圧硬化および後硬化されたシートから、ASTMダイDを用いて切り出したサンプルについて、破断時引張強さ、破断時伸び、および100%伸び時のモジュラスを、ASTM D412 2006に準拠して測定した。結果の報告に用いた単位は、パーセントおよびMPaである。
【0108】
<圧縮永久歪み>
JIS K6262 2006に準拠し、前述の条件で加圧硬化および後硬化されたOリングサンプル(#2140−リングの半分)について、表中に示す温度および時間にて測定した。結果は、元の圧縮変形(25%とした)に対する百分率として報告する。
【0109】
<表面外観>
前述の条件で加圧硬化および後硬化されたシートを目視で観察し、表面に凹凸のないものを「良好」、凹凸の見られるものを「悪い」と評価した。
【0110】
[実施例1〜13、比較例1〜3]
実施例1〜3および比較例1では、ビスアミノフェノール化合物であるBOAPの含有量をそれぞれ0phr、0.2phr、0.3phrまたは0.4phrとしたペルフルオロエラストマー組成物の特性評価を行った。実施例4〜13ならびに比較例2および3では、種々の配合成分によるペルフルオロエラストマー組成物の特性評価を行った。
【0111】
表中に示す配合成分を、直径6インチのロールミルを用いて混合し、未硬化の組成物サンプルを得た。組成物サンプル、ならびに組成物サンプルを前述の条件で加圧硬化および後硬化させたサンプルにつき、各種試験を行った。試験結果を表1〜3に示す。
【0112】
[配合成分]
フルオロポリマー
フルオロポリマーA
乳化重合によって、65.7モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)、33.0モル%のペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、および1.3モル%のニトリル基含有硬化部位モノマー(CF2=CFO(CF25CN)を共重合させて得た3元共重合体。
【0113】
フルオロポリマーB
乳化重合によって、64.8モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)、33.0モル%のペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、および2.2モル%のニトリル基含有硬化部位モノマー(CF2=CFO(CF25CN)を共重合させて得た3元共重合体。
【0114】
アミジン化合物
アミジン化合物A
[1,1,2,2,−テトラフルオロ−2−(トリフルオロメトキシ)エチル]アミジニウムトリフルオロアセテート(3M社から入手可能)である。
【0115】
アミジン化合物B
ペルフルオロアジポニトリルビスアミジンのジペルフルオロメトキシプロピオン酸塩(CF3OCF2CF2COO-NH3+(NH=)C(CF24C(=NH)NH3+-OOCCF2CF2OCF3)であり、後述の方法で合成した。
【0116】
アミジン化合物C
ペルフルオロテトラエチレンオキシドジニトリルビスアミジンの二酢酸塩(CH3COO-NH3+(NH=)C(CF2OCF23C(=NH)NH3+-OOCCH3)であり、後述の方法で合成した。
【0117】
ビスアミノフェノール化合物
ビスアミノフェノール化合物A
BOAP(2,2’−ジアミノ−4,4’−(ペルフルオロプロパン−2,2−ジイル)ジフェノール)であり、アルドリッチ(Aldrich)社から入手可能である。
【0118】
ビスアミノフェノール化合物B
ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホンであり、アルドリッチ(Aldrich)社から入手可能である。
【0119】
充填剤
MT Carbonであり、カンカルブ(CanCarb)社から入手可能である。
【0120】
アミジン化合物B−ペルフルオロアジポニトリルビスアミジンのジペルフルオロメトキシプロピオン酸塩−の合成
(A)まず、ペルフルオロアジポニトリルビスアミジン(NH2(NH=)C(CF24C(=NH)NH2)を合成した。
マグネチックスターラーを入れた4Lのプラスチックフラスコにメタノール(188g、5.9モル)を仕込み、それにペルフルオロアジポイルフルオリド(454g、1.5モル)(3Mカンパニー(3MCompany)から入手可能)を、1時間かけて添加した。苛性スクラバーを用いてフッ化水素酸副産物を処理した。水を添加し、次いで低級フルオロケミカル生成物相を蒸留することによって、ペルフルオロアジペート(446g、1.4モル)を単離した。機械的撹拌器を備えた2Lのフラスコに仕込んだ、メタノールに溶解させたペルフルオロアジペート(446g、1.4モル)を過剰のアンモニア(54g、3.2モル)と反応させると、ペルフルオロアジポイルアミド(385g、1.3モル、真空乾燥後)が得られた。機械的撹拌器を備えた3Lのフラスコに仕込んだ、ペルフルオロアジポイルアミド(385g、1.3モル)のジメチルホルムアミド溶液に、−10℃でまずピリジン(508g、6.4モル)、それに続けて無水トリフルオロ酢酸(674g、3.2モル)(アルドリッチ(Aldrich)から入手可能)を反応させた。水を添加し、次いで低級フルオロケミカル生成物相を蒸留することによって、沸点64℃のペルフルオロアジポニトリル(235g、0.9モル)を単離した。機械的撹拌器を備えた1Lのフラスコに、ジエチルエーテル中に溶解させたペルフルオロアジポニトリル(108g、0.4モル)を仕込み、−10℃でアンモニア(17g、1.0モル)と反応させると、ペルフルオロアジポニトリルビスアミジン(112g、0.9モル)が得られるが、真空乾燥させた後のその融点は132℃であり、その構造についてはフッ素およびプロトンNMRにより確認した。
【0121】
(B)次に、マグネチックスターラーを入れた100mLのフラスコに、上記記載に従って調製し、メタノールに溶解させたペルフルオロアジポニトリルビスアミジン(26g、0.1モル)を仕込み、国際公開第01/46116号パンフレットの記載に倣って、ペルフルオロメトキシプロピオニルフルオリドを加水分解して調製したペルフルオロメトキシプロピオン酸(46g、0.2モル)を滴下した。真空乾燥して、ペルフルオロアジポニトリルビスアミジンのジ−ペルフルオロメトキシプロピオン酸塩(59g、0.8モル)を単離した。その構造は、フッ素およびプロトンNMRにより確認した。
【0122】
アミジン化合物C−ペルフルオロテトラエチレンオキシドジニトリルビスアミジンの二酢酸塩−の合成
(C)米国特許第5,488,142号明細書の記載に倣って、テトラエチレングリコールジアセテートを直接フルオロ化し、ペルフルオロテトラエチレンオキシドジメチルエステルを単離した。次いで、上記(A)で記載したような合成手順に従って、まずアンモニアと反応させてビスアミドを合成し、脱水によりビスニトリルとし、次いでアンモニアと反応させて、フルオロケミカルビスアミジンを得た。
【0123】
(D)次に、上記(B)で記載したようにして、このフルオロケミカルビスアミジンに酢酸を滴下すると、ペルフルオロテトラエチレンオキシドジニトリルビスアミジンの二酢酸塩が得られた。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係るフルオロポリマー組成物は、例えばシート、フィルム、ホース、ガスケット、Oリングなどの各種成形品の形成に好適に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマーおよび架橋剤を含むフルオロポリマー組成物であって、
該フルオロポリマーが、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位を含むエラストマーであり、そして
該架橋剤が、1種以上のアミジン化合物および1種以上のビスアミノフェノール化合物を含む2種以上の化合物の組合せである、フルオロポリマー組成物。
【請求項2】
該窒素含有硬化部位モノマーが、ニトリル含有フルオロ化オレフィンおよびニトリル含有フルオロ化ビニルエーテルから選択される1種以上であり、かつ
該フルオロポリマーが、ペルフルオロオレフィン、ペルフルオロビニルエーテルおよび該窒素含有硬化部位モノマーの共重合体である、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項3】
該アミジン化合物が、モノ−アミジン、ビス−アミジンおよびそれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上の組合せである、請求項1または2に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項4】
該ビスアミノフェノール化合物が、下記一般式(1):
【化1】

(式中、
1、Z2、Z3およびZ4は、各々独立に−NH2基または−OH基であり、但しZ1およびZ2のうち一方が−NH2基で他方が−OH基であり、Z3およびZ4のうち一方が−NH2基で他方が−OH基であり、そして、
5は、単結合、または、−O−、−CO−、−SO2−、および炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基からなる群から選択される2価基である。)
で表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項5】
該フルオロポリマー100質量部に対し、該アミジン化合物0.5〜1.5質量部、および該ビスアミノフェノール化合物0.1〜1.0質量部を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルオロポリマー組成物。

【公開番号】特開2013−107924(P2013−107924A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251425(P2011−251425)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】