説明

フルクトオリゴ糖のインシチュ製造及び蔗糖の減少

本発明は食品をフルクトシルトランスフェラーゼと接触することにより食品中の蔗糖をフルクトオリゴ糖に酵素的に転化するフルクトオリゴ糖のインシチュ製造方法に関する。食品中のフルクトオリゴ糖の増加は食物繊維量の増加をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品中における内因性蔗糖の濃度レベル低減と可溶性食物繊維の濃度レベル向上を同時に実現する食品のインシチュ(in situ)による製造方法に関する。更に詳しくは、天然蔗糖を含有する食品をフルクトシルトランスフェラーゼと接触することにより製造するフルクトオリゴ糖の酵素学的製造方法に関する。本発明は更に、本発明の製造方法により製造された高繊維質の食品に関する。当該食品はフルクトオリゴ糖を有する。
【背景技術】
【0002】
近年、数多くの研究により人間の食事における単糖の大量摂取は健康に悪影響を与える一方、可溶性食物繊維の摂取量の増加は健康に望ましい効果を及ぼすことが明らかになった。これらの研究結果及び血糖負荷の減少を強化する、ある特定の人気食品の影響を受け、消費者はシュガー含有量が少なく、可溶性食物繊維を多く含む血糖インデックスの低い食品を求める。この要求を満たすため、食品産業は伝統的な糖質を代替する多くの代用品に格別な注意を払ってきた。これらは、栄養のない甘味料、糖アルコール、イソマルトオリゴ糖、フルクトオリゴ糖などを含む。なかでも特にフルクトオリゴ糖(FOS)に対して注目が集められた。これらの化合物はマイルドな甘みを与えるが、特に、健康に有益な可溶性でダイエットに適する食物繊維でもある。FOSは天然に、例えばバナナ、トマト、及びほかの多くの植物に見られる成分である。商業上、FOSは蔗糖をフルクトシルトランスフェラーゼ酵素で処理することにより酵素的に製造される。FOSは米国食品医薬品局の認定を獲得した安全な食品(GRAS)で、栄養補助食品として市販されている。FOSを栄養補助食品として利用することに関する出版物が存在しているが、本発明は食品中に存在する内因性または天然蔗糖をフルクトシルトランスフェラーゼと接触することにより可溶性の食物繊維(例えばFOS)に転化する新規なインシチュ製造方法を開示する。
【発明の開示】
【0003】
本発明の第一の観点は、食品をフルクトシルトランスフェラーゼ(FT)と接触することにより食品中の蔗糖をフルクトオリゴ糖に酵素的に転化するフルクトオリゴ糖(FOS)のインシチュ製造方法に関する。食品中のFOSの増加は食物繊維量の増加をもたらす。
【0004】
本発明の第二の観点は、食品をフルクトシルトランスフェラーゼと接触することにより食品中の蔗糖をフルクトオリゴ糖に転化し、食品中の蔗糖量または血糖インデックスを減少すると同時に食品中の食物繊維を増加するインシチュ方法に関する。従って、食品中における蔗糖量または血糖インデックスは類似するほかの食品に比べて低い。
【0005】
第一の観点と第二の観点におけるある実施の形態において、フルクトシルトランスフェラーゼは固定された酵素として接触する。反応を完了に向けて促進させ、血糖インデックスの更なる減少を得るために、ブドウ糖酸化酵素のようなFT反応の副生成物を除去する付加酵素を添加することもできる。他の実施の形態においては、食品を低温殺菌する前に接触が行われる。更に別の実施形態において、食品は果汁のような飲料である。
【0006】
本発明の第三の観点は、本発明のインシチュ方法により製造される高繊維の飲料に関する。本観点における一実施形態において、高繊維飲料は果実飲料(例えばオレンジジュース飲料またはリンゴジュース飲料)である。
【発明の詳細な説明】
【0007】
ある観点では、本発明は工業酵素学分野に用いられる通常の技術及び方法を対象とする。Godfrey及びWest著のMacmillan社により出版された「工業酵素学」(Industrial Enzymology, 2nd Ed.1996)は本発明に有用な一般的な方法論を記述する。この参考書は当業者に知られている定義や方法を提供する。しかし、本発明は以下に記述する特定の方法、手順、試薬に限るものではなく、変更可能である。
【0008】
特に本明細書中で定義する以外は本明細書に用いられる全ての技術、科学用語は本発明が属する分野における当業者が一般的に理解するものと同様な意味を持つ。Singletonら著のDICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY, 2D ED., John Wiley and Sons, New York(1994) 及びHale&Markham著のTHE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY, Harper Perennial, NY(1991)は本発明に関連して使用される多くの専門用語を提供するものである。
【0009】
本明細書で記載する方法や材料と類似または同等な方法、材料は本発明の実施やテストに使用することができるが、本明細書では一部の好ましい方法と材料のみを記述する。
【0010】
本明細書に使用されている表題は引例全体にわたって引用されているが、本発明の種々の観点や実施例を限定するものではない。
【0011】
定義
用語「蔗糖」は1モルのD-ブドウ糖と1モルのD-果糖からなる二糖を示す。ブドウ糖のC-1炭素原子と果糖のC-2炭素原子はグリコシド結合に関与する。
【0012】
本明細書の蔗糖または繊維に関連して用いられる用語「内因性」は食品中に本来含まれる蔗糖または繊維を指す(天然の蔗糖はたは繊維)。
【0013】
本明細書に用いられる用語「二糖」は共有結合で結合された二つの単糖単位を含む任意の化合物を指す。この用語は蔗糖,乳糖、麦芽糖を含むがこれら化合物に限られるものではない。
【0014】
本明細書に用いられる用語「オリゴ糖」はグリコシド結合により結合された2個から10個の単糖単位を有する化合物を示す。
【0015】
本明細書に用いられるように「ブドウ糖(dextrose)」は用語「ブドウ糖(glucose)」と同じ意味で使われる。
【0016】
用語FOSはD-果糖単位とD-ブドウ糖単位を含む短鎖オリゴ糖を意味する。いくつの好ましいFOSは6個以下の果糖残基を有する短鎖分子である。例えば、ある好ましいFOSは以下の構造式を有する末端に1個のD-ブドウ糖単位と2〜4個のD-果糖単位を含む一つの分子からなる。ここで、nは2〜4個の果糖残基を示す。FOSにおける果糖間の結合はβ-(2-1)グリコシド結合である。
【化1】

【0017】
用語「フルクトシルトランスフェラーゼ(FT)」は蔗糖存在下でフルクトオリゴ糖を生成可能な果糖転移酵素活性を有する酵素を意味する。果糖転移酵素活性を有する酵素はE.C.2.4.99(蔗糖:蔗糖フルクトシルトランスフェラーゼ)及びE.C.3.2.1.26(β-D-フルクトフラノシダーゼまたはβ-フルクトシダーゼ)に分類する。
【0018】
用語「食品」は広く蔗糖を含む消費可能な食物または飲料と定義する。
【0019】
「対応食品」は本発明の製造方法に関連して、フルクトシルトランスフェラーゼと接触させないが、これ以外は対象の食品と実質的に全て同条件で処理された食品をいう。
【0020】
用語「インシチュ」(in situ)は製造プロセスにおいてフルクトシルトランスフェラーゼが直接食品と接触する方法を示す。
【0021】
用語「接触」は食品を直接フルクトシルトランスフェラーゼに晒すことを指す。
【0022】
用語「実質的に全部転化した」とは食品中に低濃度の蔗糖が依然として存在することを示す。
【0023】
語句「低濃度蔗糖」あるいは「蔗糖濃度の低減」は食品中における蔗糖濃度が本発明の方法によるFTと接触していない対応食品中の蔗糖に比べて低いことを示す。ある実施の形態における低濃度蔗糖という用語は本質的に食品中の蔗糖を完全に除去した状態を意味する。
【0024】
用語「酵素的変換」は炭素基質を中間体に変換しあるいは基質または中間体を酵素と接触することにより中間体を最終産物に変換することを示す。
【0025】
語句「FOS生成反応」は蔗糖をFOSに酵素的に変換するために食品をフルクトシルトランスフェラーゼと接触させるプロセスを意味する。
【0026】
語句「高繊維食品」は本発明のインシチュ方法により得られ、食品中のFOS濃度が対応する食品中における内因性のFOSに比べて高い食品をいう。
【0027】
「ブドウ糖異性化酵素」(例えばEC 5.3.1)はブドウ糖を果糖(例えばEC 5.3.1.9)に異性化する酵素を示す。
【0028】
「ブドウ糖酸化酵素」(例えばEC 1.1.3.4)はブドウ糖と酸素の反応を触媒し、グルコン酸塩と過酸化水素を生成する酵素を示す。
【0029】
「酵素単位」は標準実験条件下、1分間に1μmol の果糖を転化するのに必要な酵素の量或いは1μmolのブドウ糖を生成するのに必要な酵素の量と規定する。
【0030】
用語「ATCC」はAmerican Type Culture Collection located at Manassas, VA 20108(ATCC; <www.atcc.org>).を示す。
【0031】
本発明による製造方法は蔗糖を含む食品の入手及び酵素的にフルクトオリゴ糖を生成するため、その食品とフルクトシルトランスフェラーゼを接触させる方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
食品として飲料(例えば甘い飲料)或いはシロップのような甘味料が好ましい。好ましい飲料にはオレンジ、リンゴ、グレープフルーツ、ブドウ、パイナップル、クランベリー、レモン、プルーン及びライムなどのような果実のジュースが含まれる。特に好ましい飲料はオレンジジュースとリンゴジュースである。
【0033】
シロップはメープルシロップ、イチゴシロップ、ブルベリーシロップ、ボイゼンベリーシロップなどが挙げられる。
【0034】
ある実施の形態においては、食品は約0.1%〜80%, 1%〜60%範囲の全固形物パーセント(DS%)を含有する。食品が果汁飲料の場合、DSは1%〜80%範囲である。
【0035】
ある実施の形態においては、食品が天然果汁(例えば非濃縮ジュース)の場合、DS%は0.1%〜15%、または0.5%〜10%、さらに0.5%〜5%範囲で変化する。ほかの実施の形態においては、食品を濃縮する場合、DS%は25%〜90%, 25%〜80%, 30%〜60%, 35%〜50%の範囲で変化する。
【0036】
オレンジジュースを用いた特定の例として、FOS生成反応を天然ジュース(約12W/V%以下の固形物、例えば10%以下、8%以下または6%以下)から濃縮ジュース(約40W/V%以上の固形物、例えば、45%以上、50%以上、55%以上または60%以上)に変えつつ固体レベルで反応を実施した。
【0037】
蔗糖の最初の濃度は食品の種類により異なる。ある実施の形態においては、食品における蔗糖濃度(W/V%)は約2%から75%, 10%から55%, 25%から55%, 30%から45%である。ほかの実施の形態においては、オレンジジュース中の蔗糖濃度は約2%から12%、または4%から10%で、濃縮オレンジジュース中における蔗糖の最初の濃度は約20%から45%または25%から40%である。
【0038】
本発明の実施に有用なフルクトシルトランスフェラーゼ(FT)はEC.2.4.1.99に分類され、転移酵素活性を示す。これらの酵素をβ-フルクトフラノシダーゼという場合もある。β-フルクトフラノシダーゼはEC.3.2.1.26に分類される加水分解酵素も含む。本明細書に用いられるFTという用語は転移反応を触媒することが可能ないずれの酵素にも使用されており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
フルクトシルトランスフェラーゼはアスパラガス、サトウダイコン、オニオン、キクイモ及びその他の植物から抽出できる。(Henry, R.J. et al.,(1980) Phytochem.: 1017―1020; Unger, C. (1994) Plant Physiol. 104: 1351―1357; and Luscher, M. et al.,(2000) Plant Physiol. 124: 1217―1228を参照すること)。
【0040】
フルクトシルトランスフェラーゼはアスペルギルス(Aspergillus)、アオレオバシジウム(Aureobasidium)及びフサリウムなどの真菌からも抽出できる。具体的な例としてアスペルギルスジャポニカス(Aspergillus Japonicus)、例えば、CCRC 38011;黒色アスペルギルス(Aspergillus niger)、例えば、ATCC20611; Aspergillus foetidus (例えばNRRL377);Aspergillus aculeatus;Aureobasidium pullulans, 例えばATCC9348, AT12535及びATCC15223などが挙げられる。(Yuan-Chi Su et al.,(1993) Proceedings National Science Council, ROC 17:62-69; Hirayama, M. et al., (1989)Agric. Biol. Chem.53:667-673; Hidaka, H., et al.,(1988)Agric. Biol. Chem. 52:1181-1187; Boddy, L.M. et al.,(1993) Curr. Genet. 24: 60-66; 及びUSP 4,276,379).
フルクトシルトランスフェラーゼはさらにアルスロバクター(Fouet, A. (1986) Gene 45:221― 225; Sato, Y. et al.(1989)Infect. lmmun., 56:1956― 1960; and Aslanidis, C. et al.,(1989)J. Bacteriol., 171: 6753―6763)のような細菌から抽出できる。
【0041】
場合によって、フルクトシルトランスフェラーゼは天然に存在するフルクトシルトランスフェラーゼの変異体である。USP6,566,111には酵素生産性を改善するための遺伝子組み替えβ-フルクトフラノシダーゼについて述べられている。Koji Y., et al., US20020192771も参考されたい。
【0042】
フルクトシルトランスフェラーゼはPECTINEX ULTRA SP-L(Novozymes A/S)及びRAPIDASE TF(DSM)から商業的に入手できる。
【0043】
フルクトシルトランスフェラーゼは可溶状態で、またはこの分野で知られているいずれかの技術により固定化し、用いることができる。これらの固定化技術は国際公開第 02083741A号パンフレット(Hayashi et al., 1991 J. Ferment. Bioeng. 72:68-70 and Hayashi et al., (1991) Biotechnol. Letts 13:395-398).の例に記述されるようなキャリア吸着法を含む。酵素の固定化により多量な酵素の経済的利用を可能にし、産物中の残留酵素の除去或いは不活性化にかかる手間を省きまたは軽減することができる。可溶性の酵素は低温殺菌またはほかの知られている方法により随意に不活性化することができる。
【0044】
本発明の製造方法におけるフルクトシルトランスフェラーゼの用量は複数の変数により変化する。これらの変数には本発明の製造方法に用いられる食品、生成されたFOSの量、処理時間、製造過程における酵素触媒、例えばグルコース異性化酵素の添加及び製造過程におけるほかの条件などの要素が含まれるが、これらの要素に制限されるものではない。当業者は本発明の製造方法におけるフルクトシルトランスフェラーゼの用量を容易に決めることができる。
【0045】
さらに、酵素の用量と反応時間は反比例することは当技術分野において周知である。従って、これらの関係は反応の進行を測る尺度として用量と反応時間の積を計算するのが有用である。例えば、蔗糖を1U(ユニット)/gで2時間反応させた場合(用量・時間(dose time)=2U(ユニット)・hrs/g )と2U/gで1時間反応させた場合(用量・時間=2U・hrs/g)の用量・時間は等しい。
【0046】
ある実施の形態においては、蔗糖をFOSに変換するのに0.5U・hrs/g から400U・hrs/gの用量・時間(dose time)が必要になり、ほかの実施の形態においては、0.5U・hrs/gから200U・hrs/g; また、1.0U・hrs/gから100U・hrs/g; さらに1.0U・hrs/gから50U・hrs/gの用量・時間が必要になる。
【0047】
同程度の転化率を得るのに、ある条件では、低用量・時間(例えば1〜2U・hrs/g程度)が必要な場合であっても、他の条件では、大用量・時間が必要になる。例えば、食品のpHが酸性の場合、フルクトシルトランスフェラーゼの活性が低く、より大きい用量・時間が求められる。ある限定されない実験例では、酸性条件下、フルクトシルトランスフェラーゼによる酵素的転化過程において約200U・hrs/g以上の用量・時間が必要になる。
【0048】
FOS生成のため、適当な条件でフルクトシルトランスフェラーゼを食品と接触させる。ある実施の形態においては、実質的に全ての蔗糖が酵素的にFOSに転化する。ほかの実施の形態においては、食品中の蔗糖の濃度が下記のように減少する。ある実施の形態においては、食品の外観、風味、色彩と香りが実質的に保たれ、食品の品質が維持される。
【0049】
ある実施の形態においては、FOS生成反応は幅広い温度範囲で実施されるが、これは時間の関数となる。ある実施の形態においては、温度範囲は約-10℃から95℃、約-5℃から90℃、約1℃から80℃、約1℃から75℃; 約1℃から70℃; 約5℃から65℃、約5℃から60℃、約5℃から55℃、約10℃から50℃; 約5℃から40℃; 約10℃から40℃である。他の実施の形態においては、温度範囲は約-10℃から10℃である。ほかの実施の形態においては、FOS生成反応は約pH3.0から8.0; 約pH3.0から7.0; 約pH3.0から6.0; 約pH3.5から6.0のpH範囲で行われる。ある実施の形態においては、FOS生成反応は食品がオレンジジュースとリンゴジュースの場合、およそpH3.0から4.5、メープルシロップの場合はおよそpH5.5から7.5で行われる。
【0050】
ある実施の形態においては、接触は1分しか行われないが、ほかの実施の形態においては数日または数週間行われる。ある実施の形態においては、30分から48時間の接触が行われ、ある実施の形態においては、食品を消費する前の輸送及び貯蔵の間に接触が行われる。ほかの実施の形態においては、約1分から60時間の間に蔗糖からFOSに酵素利用により転化する。
【0051】
ある実施の形態においては、特に官能特性を保つため、適切な接触条件が酵素活性に最適と思われる条件と異なる場合がある。そして、接触時間とフルクトシルトランスフェラーゼの用量を調整する必要がある。限定されない実施例の一つとして、フルクトシルトランスフェラーゼはおよそpH5.5, 50℃で最適酵素活性を有するが、およそpH3.6, 5℃でフルーツ飲料と接触するときには酵素活性が低下する。接触時間と酵素用量を調整することはこの技術分野における技術常識である。
【0052】
FOS生成反応は食品の製造過程においていつでも起こり得る。また、消費する前の貯蔵段階で反応を継続させることもできる。
【0053】
本発明による製造プロセスは低温殺菌前、殺菌中及び殺菌後に行ってもよい。ほかの実施の形態においては、FOS生成反応は食品が果汁の場合、低温条件、例えば-5℃から10℃の温度範囲で行われる。
【0054】
FOS生成反応はフルクトシルトランスフェラーゼの変性を引き起こす条件、例えば低いpHにおいて加熱殺菌または低温殺菌の条件によって反応を終了するか、または固定化フルクトシルトランスフェラーゼの場合、物理的に触媒を取り除くことにより反応を終了することができる。例えば、消費用果汁製造過程では低温殺菌処理を行う。場合によって、温度60℃から95℃、一般的には65℃から75℃で、約15秒から60分、15秒から30分、5分から25分、10分から20分接触処理する。
【0055】
フルクトシルトランスフェラーゼは蔗糖をFOSに酵素的に転化する。2果糖残基を含むFOSをGF2(Gはグルコース、Fはフルクトースを意味する)で表す。3果糖残基を含むFOSをGF3、4果糖残基を含むFOSをGF4で表す。GF2は1-kestose, GF3はnystoseとしても知られている。
【0056】
ある実施の形態においては、食品中のFOS濃度が少なくとも0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%、300%増加し、対応食品に比べて高い。しかし、通常、対応食品にはFOSが含まれていないか1%(例えば、0から1.0、0から0.5%)以下である。ある実施の形態においては、GF2を含む食品においてFOSが少なくとも20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%生成された。ある実施の形態においては、FOS濃度の増加は15分から62時間の間(例えば、15分から48時間、15分から36時間、30分から24時間)に現れた。
【0057】
他の実施の形態においては、本発明の製造方法により食品中の100%から20%の蔗糖がFOSに酵素的に転化する。ある実施の形態においては、本発明の製造方法により食品中の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%の蔗糖がFOSに転化される。ある実施の形態においては、蔗糖のFOSへの酵素的転化は15分から62時間(例えば、15分から48時間、15分から36時間、30分から24時間)の間に現れた。
【0058】
ある実施の形態においては、食品中における蔗糖濃度が対応食品に比べて少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%減少した。ある実施の形態においては、対応食品に比べて蔗糖量が50%以上減少し、他の実施の形態においては、蔗糖量が90%以上減少した。ある実施の形態においては、本発明の製造方法により製造された食品中に蔗糖が0.5%、1%、2% 、5%または25%含まれている。
【0059】
他の実施の形態においては、本発明の製造方法により製造された食品中におけるデキストロース(ブドウ糖)濃度が少なくとも25%、50%、75%、100%、125%、またはこれよりも多く、対応食品中のデキストロース濃度に比べて高い。ある実施の形態においては、本発明のフルクトシルトランスフェラーゼとの接触方法により製造された食品中におけるブドウ糖の濃度は0.1から20W/V% (重量/体積)である。他の実施の形態においては、未処理食品におけるブドウ糖の初期濃度は非常に低いか、または実質的にブドウ糖を含んでいない場合には、本発明の製造方法により製造された食品には実質的にブドウ糖が含まれていない。ある実施の形態においては、食品中における果糖の生成量は5%以下、2%以下、1%以下であり、ある実施の形態においては、0.5%以下である。
【0060】
ある実施の形態において、本発明の製造方法により製造されたFOS産物が安定というのは実質的に天然蔗糖を生成する逆反応が起こらないことを意味する。ある実施の形態においては、本発明の製造方法により製造されたFOSでは実質的にブドウ糖と果糖を生成する加水分解反応が起こらない。ある実施の形態においては、インシチュ FOS生成はブドウ糖生成と直接的に関連があると考えられる。
【0061】
本発明の製造方法による蔗糖のフルクトオリゴ糖への酵素的転化はブドウ糖の他の化合物への転化を触媒する酵素、例えばブドウ糖異性化酵素及び/またはブドウ糖酸化酵素の存在下で促進される可能性がある。これらの酵素源はよく知られている。
【0062】
ブドウ糖異性化酵素はバチルス、ストレプトメセス及びアエロバクター属から得られる。(USP 3,826,714; USP 4,308,349; USP 4,567,142; USP 4,699,882 and USP 5,120,650)Antrimら著の(1979)Appl.BIOCHEM & BIOENGINEER. V2 Academic Press 及びChenら著の(1980)Process Biochem 30-35も参考にできる。ブドウ糖酸化酵素は黒色アスペルギルス(USP 4,996,062)からも得られる。これらの酵素はGenencor社のGensweet and OxyGO(登録商標)として、商業的に入手することができる。
【0063】
食品中におけるFOS濃度はこの分野でよく知られている方法により測定できる。FOSの直接的な測定方法はHPLCによる測定方法である。(Yun J.W. et al., (1993) Korean J. Biotechnol. Bioeng. 9:35-39)他に、クロマトグラフィー及びNMRによる測定方法もある。加水分解反応が起こらない場合、FOSはブドウ糖分子を放出し、放出されたブドウ糖分子は実施例に開示したようなブドウ糖酸化酵素による血糖試験法を含む様々な方法により測定できる。
【実験】
【0064】
下記の例は本発明のある好ましい実施の形態を示すために説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。現に、ここで述べることに基づいて本発明のプロセスをさらに最適化することは容易にできることである。
【0065】
実施例1
アスペルギルスジャポニカス(Aspergillus japonicus )EB001由来のフルクトシルトランスフェラーゼと接触させることによる、異なる基質の食品中におけるインシチュ蔗糖の減少とブドウ糖の生成について

濃縮オレンジジュース、濃縮リンゴジュース、メープルシロップ及び蔗糖のサンプルは雑貨店で購入したものである。蔗糖は水に50ds%まで溶解した。各食品中における乾燥物質(ds)の濃度は固体が蔗糖の形態で存在すると仮定し、その屈折率に基づいて計算することにより求められた。4種類の食品はそれぞれpH 5.6±0.1に調製され、14U/gdsのフルクトシルトランスフェラーゼに接触させるか、或いは制御のための酵素を加えず、52℃で24時間保持した。残留ブドウ糖及び蔗糖はサンプル反応液のHPLC測定により求めた(表1)。
【0066】
表1は1時間及び24時間経過後の結果を示し、図1A及び図1Bは1時間経過後の結果を示す。
【表1】

【0067】
表1及び図1A、図1BはFT非存在下、24時間定温培養後、4種類の基質において殆ど変化がないことを示している。FT存在下では、4種類の基質全てのサンプルにおいて、蔗糖が除去されることが観測された。基質中における蔗糖の減少はブドウ糖の増加と関連性を有しており、果糖の増加は観測されなかった。
【0068】
実施例2
アスペルギルスジャポニカス(Aspergillus japonicus)由来のフルクトシルトランスフェラーゼと接触させることによるpH3.5の蔗糖溶液中におけるインシチュ蔗糖の減少とブドウ糖の生成について

実施例1の50ds%の蔗糖溶液をpH3.5に調製し、14U/gdsのフルクトシルトランスフェラーゼと25℃で55時間接触反応を行った。反応の間、サンプルを回収し、市販のブドウ糖酸化酵素を用いて血糖測定器(Bayer Glucometer Elite XL with Ascensia EliteTMM Blood Glucose Test Strips)によりブドウ糖濃度を測定した。結果を図2に示す。
【0069】
実施例3
アスペルギルスジャポニカス(Aspergillus japonicus)由来のフルクトシルトランスフェラーと1℃で接触させることによる蔗糖溶液中におけるインシチュ蔗糖の減少とブドウ糖の生成について

実施例1の50ds%の蔗糖溶液を塩酸でpH3.5, 4.0, 4.5, 及び5.5に調製し、14U/gdsのフルクトシルトランスフェラーゼと接触させ、1.5℃±0.5℃で77時間保った。反応の間、サンプルを回収し、市販のブドウ糖酸化酵素を用いて血糖測定器によりブドウ糖濃度を測定した。結果を図3に示す。
【0070】
実施例4
約46.4ds%に相当する56%w/vの蔗糖溶液を5U/gdsフルクトシルトランスフェラーゼ(EB001)と25℃、pH5.5で接触反応させた。0.0 ,4.0, 9.5, 21.0及び24.0時間反応後、炭水化物のプロフィールを決定するためにHPLC分析を行った。表2に示した結果はフルクトシルトランスフェラーゼの活性によりフルクトオリゴ糖が生成されることを示している。検出された極少量のフリーの果糖からインベルターゼの活性が失活されたことが示された。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1A】図1Aは基質をアスペルギルスジャポニカス由来のフルクトシルトランスフェラーゼ(FT)に1時間接触させた場合と、それと対応する基質をFTに接触させていない場合について、数種類の基質中のインシチュ蔗糖減少量をW/W %計測値で比較して示したものである。
【図1B】図1Bは基質をアスペルギルスジャポニカス由来のフルクトシルトランスフェラーゼ(FT)に1時間接触させた場合と、それと対応する基質をFTに接触させていない場合について、数種類の基質中のインシチュブドウ糖の生成をW/W %計測値で比較して示したものである。OJはオレンジジュース、AJはリンゴジュース、MSはメープルシロップを示し、その他の事項は実施例1(Example1)に示してある。
【図2】図2はインシチュブドウ糖の生成を示し、pH3.5, 室温で蔗糖からFOSが生成されることが示されている。
【図3】図3はインシチュブドウ糖の生成を示し、pH4.0, 4.5, 5.5及び温度1.5℃において蔗糖からFOSが生成されることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中にフルクトオリゴ糖を生成させるためのインシチュ製造方法であって
a) 蔗糖を含む食品を得るステップと
b) 食品中の蔗糖をフルクトオリゴ糖(FOS)に酵素的に変換するため、当該食品をフルクトシルトランスフェラーゼと接触させるステップ
を含む方法
【請求項2】
前記食品が飲料である請求項1記載の方法
【請求項3】
前記フルクトシルトランスフェラーゼが微生物由来である請求項1記載の方法
【請求項4】
前記フルクトシルトランスフェラーゼが糸状菌由来である請求項3記載の方法
【請求項5】
フルクトシルトランスフェラーゼがアスペルギルス(Aspergillus)由来である請求項3記載の方法
【請求項6】
前記フルクトシルトランスフェラーゼがアスペルギルスジャポニカス(Aspergillus japonicus )由来である請求項5記載の方法
【請求項7】
前記FOSの少なくとも30%が1-kestoseからなる請求項1記載の方法
【請求項8】
前記食品のブドウ糖含有量が対応食品に比べて増加していることを特徴とする請求項1記載の方法
【請求項9】
前記食品中の蔗糖含有量がフルクトシルトランスフェラーゼと1時間接触後、対応食品に比べて少なくとも75%減少することを特徴とする請求項1記載の方法
【請求項10】
前記食品中の蔗糖含有量がフルクトシルトランスフェラーゼと24時間接触後、対応食品に比べて少なくとも90%減少することを特徴とする請求項1記載の方法
【請求項11】
前記飲料が果汁である請求項2記載の方法
【請求項12】
前記果汁がオレンジジュースである請求項11記載の方法
【請求項13】
前記オレンジジュースが濃縮ジュースである請求項12記載の方法
【請求項14】
請求項1記載の製造方法であって、食品をさらにブドウ糖オキシダーゼ及び/またはブドウ糖イソメラーゼと接触させるステップを含むことを特徴とする方法
【請求項15】
請求項11記載の方法により製造された飲料

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−516527(P2009−516527A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542387(P2008−542387)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/044813
【国際公開番号】WO2007/061918
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】