説明

フルクトシルリジンの測定方法及び試薬

【課題】フルクトシルリジンを正確かつ安価に測定することが可能な方法、および該方法に基づく試薬組成物の提供。
【解決手段】大腸菌組換え体より高純度に調製された、フルクトシルリジンに対し特異性の高いアスペルギルス属由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを利用したフルクトシルリジンを測定する方法、およびフルクトシルリジン測定用試薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルクトシルリジンを正確かつ安価に測定することが可能な方法に関する。より詳しくは、大腸菌組換え体より高純度に調製された、フルクトシルリジンに対し特異性の高いアスペルギルス属由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを利用したフルクトシルリジンを測定する方法、およびフルクトシルリジン測定用試薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖コントロールマーカーとして、血液タンパク質中の糖化タンパク質であるHbA1c、グリコアルブミンの測定が重用されている。血液中に存在するD−グルコースは、血液タンパク質を構成するアミノ酸残基と非酵素的に反応し糖化タンパク質を生成する。タンパク質の主な糖化部位は、リジン残基のε−アミノ基とタンパク質のアミノ末端アミノ酸のα−アミノ基である。特に、タンパク質分子中のリジン残基のε位に対するD−グルコースの結合はターゲット部位の多い反応である(非特許文献1)。
【0003】
近年、血液中の糖化タンパク質を簡便かつ短時間で測定できる酵素的測定法が開発され、既に商品化されている。酵素的測定法を利用することにより、糖化タンパク質をハイスループットに測定することが可能となり、臨床検査分野で役立てられている。酵素法は、まずプロテアーゼで糖化タンパク質を加水分解し、次いで生じたフルクトシルリジンなどの糖化アミノ酸をフルクトシルアミノ酸オキシダーゼで酸化的加水分解する。更に、オキシダーゼ反応により生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ−色原体反応システムにより比色定量する(特許文献1〜3)。
【0004】
酵素法による糖化タンパク質の測定では、主反応酵素であるフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの基質特異性が重要な要素となることはいうまでもない。HbA1cの測定には、フルクトシルバリンに対する特異性の高い酵素が望まれており、グリコアルブミンの測定には、フルクトシルリジンに対する特異性が高い酵素、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが望まれている(特許文献4〜10)。
【0005】
フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、既にアスペルギルス・オリゼより抽出、精製されており、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子も単離されている(非特許文献2、3参照)。したがって、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを遺伝子操作技術で簡易に使用できるようになれば、正確で安価なフルクトシルリジンの測定方法及び試薬を提供することが可能になり、血中グルコアルブミンの正確で安価な定量に貢献すると考えられる。
【0006】
しかしながら、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を遺伝子工学的手法にて大腸菌に導入し、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを大腸菌の培養液より抽出、精製しようという試みが種々なされてきたが、今現在に至るまでその試みは成功していない(非特許文献2参照)。大腸菌の組換え体での酵素生産、酵素精製は、これまでの多くの知見が集積しており、簡便、安価に酵素を提供することが可能になる。また、大腸菌はフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを元々生産しないため、高純度な酵素の調製にも相応しい。例えば、アスペルギルス・オリゼでは2種以上のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産することが知られており(非特許文献2、3参照)、単一のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを取得するには多くの精製工程が必要であるが、大腸菌の組換え体での生産は、工程を簡易化することに貢献するはずである。
【0007】
したがって、アスペルギルス属由来であってフルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを、大腸菌における遺伝子操作技術で生産、調製できることが望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開2004−129531号公報
【特許文献2】特開2004−113014号公報
【特許文献3】国際公開第2003/064683号パンフレット
【特許文献4】特開2004−275168号公報
【特許文献5】特開2004−275063号公報
【特許文献6】特開2003−235585号公報
【特許文献7】特開2002−218982号公報
【特許文献8】特開2002−125663号公報
【特許文献9】特開2000−245454号公報
【特許文献10】特開平11−221081号公報
【非特許文献1】J. Biol. Chem., 26:13542-13545(1986)
【非特許文献2】Appl. Environ. Microbiol., 70:5882-5890(2004)
【非特許文献3】Functional Analysis of Fructosyl-Amino Acid Oxidases in Fungi (真菌におけるフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの機能解析),奈良先端科学技術大学院大学博士学位論文,報告番号:甲第442号(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フルクトシルリジンを正確かつ安価に測定することが可能な方法、および該方法に基づく試薬組成物を提供することにより、臨床検査や各種診断等に有用なフルクトシルリジン測定を、安価で正確なものとすることにある。より詳しくは、大腸菌組換え体より高純度に調製された、フルクトシルリジンに対し特異性の高いアスペルギルス属由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを利用したフルクトシルリジンを測定する方法、およびフルクトシルリジン測定用試薬組成物を提供することにより、測定用試薬の正確性、経済性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アスペルギルス属に属する微生物が本来産生する、以下の(i)(ii)の性質を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を導入した大腸菌の培養液より、(i)(ii)の性質を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを抽出、精製することに成功した。
(i)フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しない。
(ii)D−グルコース、L−リジンに作用しない。
【0011】
上記のようなフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、既に天然において知られている。すなわち、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、既にアスペルギルス・オリゼより抽出、精製されており、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子も単離されている(非特許文献2、3参照)。したがって、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを遺伝子操作技術で簡易に使用できるようになれば、正確で安価なフルクトシルリジンの測定方法及び試薬を提供することが可能になるであろうとの推察は、当業者にとって不可能なことではなかった。しかし、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を遺伝子工学的手法にて大腸菌(エシェリヒア・コリー)に導入し、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをエシェリヒア・コリーの培養液より抽出、精製しようという試みが種々なされてきたが、その試みは成功しなかった(非特許文献2参照)。本発明者らが種々検討した結果、エシェリヒア・コリーの組換え体での酵素生産、酵素精製が可能であることを見出した。結果として、簡便、安価に酵素を提供することが可能となった。また、エシェリヒア・コリーはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを元々生産しないため、高純度な酵素の調製も可能となった。例えば、アスペルギルス・オリゼでは2種以上のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産することが知られており(非特許文献2、3参照)、単一のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを取得するには多くの精製工程が必要であるが、エシェリヒア・コリーの組換え体での生産は、工程を簡易化することに貢献する。
【0012】
そして本発明者らは、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをフルクトシルリジン含有検体に作用させ、生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ反応で定量することによりフルクトシルリジンの測定が可能であることを見い出し、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを利用したフルクトシルリジン測定試薬を開発することにより本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は、以下のような構成からなるものである。
[1]アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物が有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が導入された大腸菌の培養液より抽出、精製された以下の(a)および(b)の性質を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをフルクトシルリジン含有検体に作用させる工程、および前記工程で生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ反応で定量する工程を包含することを特徴とするフルクトシルリジンの測定方法:
(a)フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しない;
(b)D−グルコース、L−リジンのそれぞれに作用しない;
[2]アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)である[1]のフルクトシルリジンの測定方法;
[3]フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が配列表の配列番号1のDNA配列、又は配列表の配列番号1のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する[1]のフルクトシルリジンの測定方法;
[4]フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が配列表の配列番号2のアミノ酸配列、又は配列表の配列番号2のアミノ酸配列から1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する請求項1記載のフルクトシルリジンの測定方法;
[5]大腸菌の培養液より抽出、精製され、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、及びペルオキシダーゼならびに色原体を含有する試薬組成物;
[6]含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼがアスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物由来である[5]の試薬組成物;
[7]含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼがアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来である[5]の試薬組成物;
[8]含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが配列表の配列番号2のアミノ酸配列、又は配列表の配列番号2のアミノ酸配列から1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列から成る[5]の試薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、フルクトシルリジン測定の正確性、経済性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明におけるフルクトシルリジン測定の対象となる試料としては、血清、尿、血漿などの生体試料が挙げられるが、これに特定されない。
【0017】
本発明の試薬組成物は、少なくともフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、色原体、およびリン酸塩やGOODバッファー、トリスバッファーなどの緩衝剤を含有する。更には、酵素反応を妨害するイオンを捕捉するEDTAやO−ジアニシジンなどのキレート試薬や、過酸化水素の定量の妨害物質であるアスコルビン酸を消去するアスコルビン酸オキシダーゼ、トリトンX−100やNP−40などの各種界面活性剤、ストレプトマイシンやアジ化ナトリウムなどの各種抗菌剤や防腐剤などを含んでもよい。これらの試薬は、単一試薬でも2種類以上の試薬からなるものであってもよい。
【0018】
本発明に使用する緩衝剤としては特に限定されないが、6〜8.5のpH範囲において充分な緩衝能力を有する任意の緩衝剤を使用することができる。このpH範囲の緩衝剤は、リン酸塩、トリス、ビス−トリスプロパン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、2−モルフォリノエタンスルホン酸1水和物(MES)、ピペラジン―1,4―ビス(2−エタンスルホン酸)(piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))(PIPES)、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)(HEPES)、および3−〔N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)を含む。特に、好ましい緩衝剤はMESおよびPIPESである。特に、好ましい濃度範囲は、20−200mMであり、pH6〜7である。
【0019】
本発明においてフルクトシルリジンの酸化に由来する過酸化水素の検出には、ペルオキシダーゼ反応を利用する。好ましくは、ペルオキシダーゼおよび色原体(過酸化水素発色試薬)を用いる。使用するペルオキシダーゼおよび過酸化水素発色試薬は何ら制限されるものではない。好ましい過酸化水素発色試薬は溶液において安定であり、かつビリルビン干渉が低いものである。
【0020】
過酸化水素発色試薬としては、例えば4−アミノアンチピリンまたは3−メチル−2−ベンゾチアゾリンヒドラゾン(MBTH)とフェノールもしくはその誘導体またはアニリンもしくはその誘導体を組み合わせて使用する。フェノール誘導体としては、2−クロロフェノール、4−クロロフェノール、1,2−ジクロロフェノール等が挙げられる。アニリン誘導体としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジエチル−m−トルイジン、N,N−ジメチル−m−アニシジン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−アセチルエチレンジアミン、N−エチル−N−(β−ヒドロキシエチル)−m−トルイジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−サクシニルエチレンジアミン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−N−スルホプロピル)−m−アニシジン等が挙げられる。また、10−X−メチルカルバモイル−3,7−ジメチルアミノ−10H−フェノチアジン、ビス〔8−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル〕アミン、1,4−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニル−(2,7−ジヒドロキシ−4−ナフチル)メタン等のロイコ色素を使用してもよい。
【0021】
本発明においてフルクトシルリジンの酸化に由来する過酸化水素を検出する際の好ましい試薬は、ベンジジン類、ロイコ染料類、4−アミノアンチピリン、フェノール類、ナフトール類およびアニリン誘導体類を含む。より好ましい指示薬は、4−アミノアンチピリンおよびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(TOOS)である。好ましい濃度範囲は、4−アミノアンチピリンについては、0.05−10mM、TOOSでは0.05−10mMである。
【0022】
本発明においてフルクトシルリジンの酸化に由来する過酸化水素を検出する際に用いるペルオキシダーゼは、高純度かつ低価格のものが商業的に入手可能であることから西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼが好ましい。酵素濃度は、迅速かつ完全な反応のために充分高くなければならず、好ましくは、1,000−50,000U/Lである。
【0023】
不活性タンパク質を、更に安定性を増すために添加してもよい。不活性タンパク質は、血清アルブミン類、グロブリン類および繊維性タンパク質類を含む。好ましいタンパク質は、ウシ血清アルブミンであり、wt/volにおける好ましい濃度は、0.05−1%である。より低い濃度が有用であり得る。好ましい不活性タンパク質は、酵素分解を起こすであろうプロテアーゼ不純物を含まないものである。
【0024】
フルクトシルリジン濃度の測定は、試料の特定体積および試薬の特定体積を用いて行われる。吸光度測定は、試料ブランクを測定するために、混合後、かつフルクトシルリジンによる有意な吸光度変化が起こる前にできるだけ速やかに行われる。0.5〜5秒後の第1の吸光度測定が適当である。第2の吸光度測定は、吸光度が定常的になった後、典型的には1mg/dLのフルクトシルリジン濃度において37℃にて3〜5分間である。典型的には、該試薬は既知のフルクトシルリジン濃度を有する水性または血清溶液にて標準化される。
【0025】
本発明において使用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しないものである。更には、反応生成物であるD−グルコース、L−リジンに作用しないものである。より好ましくは、反応最適pHが6.5付近にあり、かつ37℃で2U/mg以上の比活性を有し、基質との親和性(Km値)が1mMを越えないものである。
【0026】
本発明者らは種々検討した結果、このようなフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、フルクトシルリジン測定を安価で正確なものとすると結論付けられた。このようなフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、既に天然において知られている。すなわち、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、既にアスペルギルス・オリゼより抽出、精製されており、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子も単離されている(非特許文献2、3参照)。したがって、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを遺伝子操作技術で簡易に使用できるようになれば、正確で安価なフルクトシルリジンの測定方法及び試薬を提供することが可能になると考えられる。しかし、該フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を遺伝子工学的手法にて大腸菌(エシェリヒア・コリー)に導入し、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをエシェリヒア・コリーの培養液より抽出、精製しようという試みが種々なされてきたが、その試みは成功しなかった(非特許文献2参照)。エシェリヒア・コリーの組換え体での酵素生産、酵素精製は、これまでの多くの知見が集積しており、簡便、安価に酵素を提供することが可能になる。また、エシェリヒア・コリーはフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを元々生産しないため、高純度な酵素の調製にも相応しい。例えば、アスペルギルス・オリゼでは2種以上のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産することが知られており(非特許文献2、3参照)、単一のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを取得するには多くの精製工程が必要であるが、エシェリヒア・コリーの組換え体での生産は、工程を簡易化することに貢献する。
【0027】
本発明者らは種々検討した結果、アスペルギルス属に属する微生物が本来産生する以下の性質を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が導入されたエシェリヒア・コリーの培養液より抽出、精製することに成功した:
(a)フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しない;
(b)D−グルコース、L−リジンに作用しない。
【0028】
そして、このフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをフルクトシルリジン含有検体に作用させ、生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ反応で定量することを特徴とするフルクトシルリジンの測定方法を開発するに至った。
【0029】
本発明において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼはフルクトシルリジン測定試薬組成物中100〜5,000U/Lの酵素濃度で使用されることが好ましい。
【0030】
本発明において使用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、アスペルギルス属に属する微生物由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼであり、種について限定されるものではない。好ましくは、アスペルギルス・オリゼおよびその近縁種に由来するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼである。アスペルギルス・オリゼの近縁種としては、Aspergillus flavus、Aspergillus fumigatus、Aspergillus terreus、Aspergillus niger、Aspergillus sojae、 Aspergillus parasiticus、Aspergillus tamari、Aspergillus clavatusなどが挙げられる。特に好ましくは、アスペルギルス・オリゼ由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼである。
【0031】
具体的には例えば、アスペルギルス・オリゼRIB40株に由来するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが例示され、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号2、当該アミノ酸配列をコードする遺伝子は配列番号1でそれぞれ示される。これらはいずれも、非特許文献2および非特許文献3に記載されている。なお、配列番号2において、アミノ酸の表記は、メチオニンを1として番号付けされている。
【0032】
本発明において使用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ活性を保持していれば、分子間または分子内架橋が施されたもの、糖鎖やその他の官能基により化学修飾されたもの、あるいは、ヒスチジンタグが付与されたもの、各種融合タンパク質などであっても、特に問題とならない。
【0033】
本発明において使用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、好ましくは配列表の配列番号2に記載されるアミノ酸配列、又は配列表の配列番号2のアミノ酸配列から1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列を有するものである。
【0034】
さらに、本発明において使用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼは、フルクトシルリジンに対する作用性が本質的に維持される限り、いくつかの由来の野生型フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの断片を組み合わせて構成したキメラタンパク質も含み得る。
【0035】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子は、好ましくは、配列表の配列番号1に記載のDNA配列、又は配列表の配列番号1に記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAである。ここでストリンジェントな条件とは、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドのTmから該Tmより15℃、好ましくは10℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件をいう。具体的には、例えば一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液(例えば、×6 SSC、×5 デンハルト、0.1% SDS、100μg/ml サケ精子DNA)中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件をいう。
【0036】
さらに、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子は、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの発現を向上させるように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更したものを含み得る。
【0037】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、改変遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Site−Directed Mutagenesis Kit;Clonetech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、あるいはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。作成された改変遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産する形質転換体となる。
【0038】
ベクターとしてプラスミドを用いる場合、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とするため、pBluescript,pUC18,pETシリーズベクター(pET11,pET23など)などが使用できる。宿主用エシェリヒア・コリーとしては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5α、エシェリヒア・コリーBL21、エシェリヒア・コリーBL21(DE3)、エシェリヒア・コリー(DE3)pLysS、エシェリヒア・コリーCodon Plus、エシェリヒア・コリーCodon Plus(DE3)などが利用できる。エシェリヒア・コリーに組換えベクターを移入する方法としては、例えば、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行う方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109;東洋紡績製,Codon Plus;ストラタジーン製)を用いてもよい。
【0039】
このような遺伝子はこれらの菌株より抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらに、PCR法の利用により、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を得ることも可能である。
【0040】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を得る方法としては、例えば、遺伝子配列が未知のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ生産菌であれば、染色体を分離、精製した後、超音波処理、制限酵素処理等を用いてDNAを切断したものと、リニアーな発現ベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得ることでできる。
【0041】
遺伝子配列が公知となっているものであれば、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼのコードする遺伝子が増幅されるようなプライマーを作成した上で、PCR法を用いて遺伝子を取得し、適当なベクターに連結することで、比較的容易にフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組み換えベクターを得ることができる。
【0042】
形質転換を行うエシェリヒア・コリーの菌株としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質発現できるものであれば特に制限されない。一般的には、エシェリヒア・コリー HB101、エシェリヒア・コリー JM109、エシェリヒア・コリー DH5α、エシェリヒア・コリーBL21、エシェリヒア・コリーBL21(DE3)、エシェリヒア・コリー(DE3)pLysS、エシェリヒア・コリーCodon Plus、エシェリヒア・コリーCodon Plus(DE3)などを用いることができる。得られたエシェリヒア・コリー形質転換体は、栄養培地で培養されることにより、多量のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを安定に生産し得る。エシェリヒア・コリーへの目的組換えベクターの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの薬剤耐性マーカーを発現するエシェリヒア・コリーを検索すればよい。
【0043】
上記の方法により得られたフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子の塩基配列は、Science,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読される。また、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定される。
【0044】
このようにして、一度選択されたフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子を保有する組換えベクターより、エシェリヒア・コリーにて複製できる他の組換えベクターへの移入は、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによるフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ生産能を有するエシェリヒア・コリーを造成するための形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0045】
例えば上記のようにして得られた形質転換体であるエシェリヒア・コリーは、栄養培地で培養されることにより、多量の組換えタンパク質を安定して生産し得る。形質転換体であるエシェリヒア・コリーの培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0046】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0047】
培養温度は菌が成育し、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが最高収量に達する適当な時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地のpHは菌が発育し、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ改変体を生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH6.0〜9.0程度の範囲である。
【0048】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを生産するエシェリヒア・コリーを含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ含有溶液とエシェリヒア・コリー菌体とを分離した後に利用される。フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤および界面活性剤を添加してフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0049】
上記のようにして得られたフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを得ることができる。
【0050】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケアバイオサイエンス)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B(GEヘルスケアバイオサイエンス)、オクチルセファロースCL−6B(GEヘルスケアバイオサイエンス)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。実施例中、活性測定試薬、フルクトシルリジン測定用試薬組成物は以下のような組成で調製した。測定条件は、以下のように行った。また、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの活性は、以下のように測定した。試薬はナカライテスク社より購入したものを使用した。
【0052】
【表1】

【0053】
−活性測定法−
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの各基質に対する活性は、酵素反応により生成する過酸化水素を追随するペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加で測定した。活性測定試薬3mlを37℃で5分間予備加温後、予め、酵素希釈液(20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0))で希釈した酵素溶液0.1mlを加え、反応を開始する。37℃で5分間反応させ、500nmの吸光度変化を測定する(ΔODtest/min)。盲検は酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mlを加え、上記同様に操作を行って吸光度変化を測定した(ΔODblank/min)。得られた吸光度変化より、下記計算式に基づきフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの酵素活性を算出した。尚、上記条件で1分間に1マイクロモルの基質を酸化する酵素量を1単位(U)とする。
【0054】
計算式
活性値(U/ml)={ΔOD/min(ΔODtest−ΔODblank)×3.1(ml)×希釈倍率}/{13×1.0(cm)×0.1(ml)}
3.1(ml):全液量
13:ミリモル吸光係数
1.0cm:セルの光路長
0.1(ml):酵素サンプル液量
【0055】
【表2】

【0056】
−フルクトシルリジン測定方法−
フルクトシルリジン測定は、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ反応による過酸化水素の生成を、追随するペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加で測定した。
【0057】
試料:100〜2000μMのフルクトシルリジン水溶液
100〜2000μMのフルクトシルバリン水溶液
100〜2000μMのD−グルコース水溶液
100〜2000μMのL−リジン水溶液
【0058】
フルクトシルリジン測定用試薬組成物3mlを37℃で5分間予備加温後、試料0.1mlを加え、反応を開始する。37℃で正確に5分間反応させた後、500nmの吸光度増加分を測定する(ΔODtest)。盲検は試料の代わりに水0.1mlを加え、上記同様に操作を行って吸光度を測定した(ΔODblank)。得られた吸光度より、検量線に基づきフルクトシルリジン量を算出した。
【0059】
<実施例1>
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子のクローニング
麹菌アスペルギルス・オリゼのフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの遺伝子クローニングを行うために、麹菌ゲノムデータベース(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/MicroTop?GENOME_ID=ao)を検索した。麹菌のゲノムデータベースの中から、FAD−dependent oxidoreductaseをコードすることが予測される遺伝子を抽出した。検索結果から得られた種々の遺伝子のうち、非特許文献2,3記載のフルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの遺伝子に対応するクローン番号AO090011000473(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/ProteinInformation?ORF_ID=AO090011000473)に相当する遺伝子をクローニングすることとした。
【0060】
次に、AO090011000473に相当するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子のcDNAクローニングを行った。麹菌アスペルギルス・オリゼ RIB40株を、GPY液体培地(2%グルコース、0.5%カザミノ酸、1%ペプトン、0.5%イーストエキストラクト、0.1%リン酸1水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.05%塩化カリウム、0.001%硫酸鉄、pH6.0)で、30℃、2日間培養した。液体培養した麹菌A.oryzaeからニッポンジーン社ISOGENを利用して全RNAを抽出した。全RNAの調製方法は、ニッポンジーン社ISOGENのプロトコールに従った。その全RNAから東洋紡社Mag Extractor−mRNA−を用いてmRNAを抽出した。得られたmRNA0.1μgをもとに、東洋紡社ReverTra−Plus−を用いて、RT−PCRを行った。1段階目の逆転写反応では、オリゴデオキシリボヌクレオチドP1プライマー(5’-ACCAAGATTGGCGATAAGAGTCGGCTTTAA-3’)(配列番号3)を用いた。2段階目のPCRでは、P1プライマーと、P2プライマー(5’-ATGACATCCTCCAAGTTGACTCCCACATCA-3’)(配列番号4)を用いた。得られたcDNAを、東洋紡社Blunting highで末端の平滑化を行い、公知のプラスミドpUC118のSmaI部位へサブクローニングした。cDNA部分についてシーケンスを行った結果、配列番号1の配列が得られた。配列番号1から明らかとなったアミノ酸配列は、配列番号2に示した。配列番号1はcDNAであり、コーディング領域は配列番号1の1から1335であり、開始コドンは配列番号1の1から3、終止コドンTAAは配列番号1の後、1336から1338に相当する。
【0061】
<実施例2>
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子の大腸菌での大量発現と精製、酵素アッセイ
上記フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子の大腸菌での大量発現を試みた。フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子の終止コドンを除いた全長cDNA領域(配列番号1の1から1335bp)をPCRで増幅した。その際、N末端側にプライマーP3(5’-GGAATTCCATATGACATCCTCCAAGTTGACTCCCACATCA-3’)(下線はNdeI部位)(配列番号5)を用いてNdeI、C末端側にプライマーP4(5’-CCGCTCGAG AAGCCGACTCTTATCGCCAATCTTGGTCCA-3’)(下線はXhoI部位)(配列番号6)を用いてXhoI部位を導入した。本断片をノバジェン社pET−23bベクターのNdeI−XhoI部位へT7プロモーターと正方向になるようにサブクローニングした。本プラスミドは、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ発現用プラスミドであり、pIE278と命名した。
【0062】
プラスミドpIE278をストラタジーン社大腸菌BL21 CodonPlus(DE3)−RILへ形質転換後、アンピシリン耐性を示す形質転換体BL21 CodonPlus(DE3)−RIL(pIE278)を選択した。
【0063】
200mlのTB培地を2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したアンピシリンを終濃度が100μg/mlになるように添加した。この培地に100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地で予め30℃、16時間培養したBL21 CodonPlus(DE3)−RIL(pIE278)の培養液を2ml接種し、30℃で24時間通気攪拌培養を行った。培養終了より菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、超音波破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。粗酵素液のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ活性を、フルクトシルリジン含有測定試薬にて測定した処、約2.5U/mlの活性が得られ、更にフルクトシルバリン含有測定試薬にて測定した処、活性は検出されなかった。したがい、所望のフルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを得ることに成功した。
【0064】
得られた粗酵素液をポリエチレンイミンによる除核酸および硫安分画を行い、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析を行った。透析後のサンプルを、MagExtractor(東洋紡績製)を用いてプロトコール通りに精製した。更にDEAEセファロースCL−6B(GEヘルスケアバイオサイエンス製)カラムクロマトグラフィーにより分離・精製し、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析を行うことにより、精製酵素標品(IE278)を得た。本方法により得られた標品は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により、単一であることが確認された。
【0065】
精製酵素標品の酵素活性を、フルクトシルリジン,フルクトシルバリン,D−グルコース,L−リジンをそれぞれ単独に含有する測定試薬にて測定し、本酵素標品が以下の性質を有するものであることを確認した:
(a)フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しない;
(b)D−グルコース、L−リジンに作用しない。
【0066】
<実施例3>
フラクトシルリジン測定
実施例2にて精製したフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ標品を用いて、上述のフルクトシルリジン測定用試薬組成物を調製した。本試薬組成物を用い、フルクトシルリジン測定を実施した。検体としては、100〜2000μMのフルクトシルリジン水溶液、フルクトシルバリン水溶液、D−グルコース水溶液、L−リジン水溶液をそれぞれ使用した。
【0067】
結果として、本試薬組成物のフルクトシルバリン水溶液、D−グルコース水溶液、L−リジン水溶液に対する影響は無視できるものであった。一方、フルクトシルリジン水溶液を検体とした場合には十分な反応性が認められ、フルクトシルリジン濃度と測定データは良好な正の相関を示した(図1)。したがい、本発明のフルクトシルリジン測定用試薬組成物を用いることにより、正確なフルクトシルリジンの測定を行うことができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によって、経済的かつ正確なフルクトシルリジンの測定を行うことが可能となる。また、正確性、経済性が向上した新規フルクトシルリジン測定用試薬組成物を供給することが可能となり、例えば、予防医学に基づく臨床検査の更なる普及に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の試薬組成物にてフルクトシルリジン水溶液を測定した際のタイムコースを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0070】
SEQ ID NO:3: Primer 1
SEQ ID NO:4: Primer 2
SEQ ID NO:5: Primer 3
SEQ ID NO:6: Primer 4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物が有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が導入された大腸菌の培養液より抽出、精製された以下の(a)および(b)の性質を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼをフルクトシルリジン含有検体に作用させる工程、および前記工程で生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ反応で定量する工程を包含することを特徴とするフルクトシルリジンの測定方法:
(a)フルクトシルリジンに作用し、フルクトシルバリンに実質的に作用しない;
(b)D−グルコース、L−リジンのそれぞれに作用しない。
【請求項2】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)である請求項1記載のフルクトシルリジンの測定方法。
【請求項3】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が配列表の配列番号1のDNA配列、又は配列表の配列番号1のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する請求項1記載のフルクトシルリジンの測定方法。
【請求項4】
フルクトシルアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が配列表の配列番号2のアミノ酸配列、又は配列表の配列番号2のアミノ酸配列から1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列をコードするDNA配列を有する請求項1記載のフルクトシルリジンの測定方法。
【請求項5】
大腸菌の培養液より抽出、精製され、フルクトシルリジンに作用するがフルクトシルバリンに実質的に作用しないフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、及びペルオキシダーゼならびに色原体を含有する試薬組成物。
【請求項6】
含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼがアスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物由来である請求項5記載の試薬組成物。
【請求項7】
含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼがアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来である請求項5記載の試薬組成物。
【請求項8】
含有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが配列表の配列番号2のアミノ酸配列、又は配列表の配列番号2のアミノ酸配列から1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列から成る請求項5記載の試薬組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84(P2009−84A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166687(P2007−166687)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】