説明

フレアキャップ

【課題】キャップの取り外しを容易としつつ、医療用チューブの液密性と接続強度を確保し、成型性に優れるフレアキャップを提供することができる。
【解決手段】 医療用チューブCを接続先へ接続するまで先端に被せて保護する、有底二重円筒構造のフレアキャップ1であって、先端外周面OSを保護する外側円筒部10と、チューブC内に差し込み、外径が、底ではチューブ内径より大であるように底側に向けて拡径した内側円筒部20と、外側円筒部内半径と内側円筒部外半径とをチューブCの肉厚以上の間隔として外側円筒部10と内側円筒部20とを一体的に繋げる底部30と、を有し、内側円筒部20の外側の表面に凹凸21を設けたことを特徴とするフレアキャップ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チューブの先端に被せて接続時までチューブを衛生的に保護するフレアキャップに関し、医療用チューブの中でも最大径の部類である人工心肺回路用や人工透析回路用のチューブに特に適したフレアキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
人工心肺回路などに用いられる医療用チューブは、血流量の確保(=大径であること)、取り回しが容易(=柔軟であること)、中途折れが発生しない(=肉厚であること)、血液の色を確認できる(=透明であること)、といったスペックを満たすため、その素材はPVC(ポリ塩化ビニル)によるものがほとんどである。このチューブは、回路機器(人工肺、動脈フィルタ、遠心ポンプなど)に接続するまで当然の事ながら内部は滅菌された状態が保たれ、端部は保護されている必要がある。
【0003】
そこで、従来ではチューブ端部には、図6に示すようなフレアキャップが挿入され、チューブ端部を保護している。フレアキャップは、有底の二重円筒構造であり、特に、内側の円筒部に特徴があり、図示したように、リブ付きであって底(蓋)に向かって拡径している。なお、図ではリブを明瞭に示すため、外側の筒は点線で描画している。
【0004】
拡径している理由は、表面摩擦力が大きく、そのままでは肉厚なPVCチューブを機器に押し込みにくいところ、これを接続(挿入)しやすくするためであり、リブを設けているのは、キャップ後にEOG(エチレンオキサイドガス)を導通してチューブ内部を滅菌するための流入路確保のためである。
【0005】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
リブを設けた場合には、チューブ内周面にクセすなわち凹条形状が残存しやすく液密性や接続強度に欠ける可能性があるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−22371
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、解決しようとする問題点は、キャップの取り外しを容易としつつ、医療用チューブの液密性と接続強度を確保するフレアキャップを提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のフレアキャップは、医療用チューブを接続先へ接続するまで先端に被せて保護する、有底二重円筒構造のフレアキャップであって、チューブ外周面を保護する外側円筒部と、チューブ内に差し込み、外径が、底ではチューブ内径より大であるように底側に向けて拡径した内側円筒部と、外側円筒部内半径と内側円筒部外半径とをチューブ肉厚以上の間隔として外側円筒部と内側円筒部とを一体的に繋げる底部と、を有し、内側円筒部の外側の表面に凹凸を設けたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、射出成形も可能な形状であってチューブの機器への挿入性を高める拡径形状を採用しつつ、接触面における摩擦力を低減させるので、医療用チューブの液密性と接続強度を確保したフレアキャップを提供することが可能となる。
【0010】
なお、底は内側円筒部と底部との接合箇所であって基端を意味し、底側とは基端側を意味する。また、拡径した内側円筒部の外形は必ずしも切頭円錐状である必要はなく、緩やかなカーブがついていてもよく、段がついているものも含まれ、総じて拡径していればよいものとする。二重円筒は通常は同心円にて構成される形状である。凹凸は、請求項3に規定するようにエンボス加工がされたようなランダムな形状のほか、水玉模様、蜂の巣模様、麻模様のような規則的な形状であってもよい。なお、凹凸の高さは、チューブを機器に接続したときに液密性を損ねず、また、キャップ装着時にEOGガスの導通性(通気性)を確保できる程度とする。また、凸部分の接触総面積は、凹凸の高さや、キャップの挿入深さ、チューブおよびキャップの素材に依存するが、キャップをチューブから取り外しやすくする程度とする。
【0011】
なお、内側円筒は、本願においては中実を含むものとする。すなわち、この場合はフレアキャップは、外側円筒部の内側に錐形部を一体的に形成した構造ということができる。製造上の観点から射出成形する場合には、中心にピンを当てることができ、かつ、使用材料の少量化もできるため、中空である方が好ましい。
【0012】
請求項2に記載のフレアキャップは、請求項1に記載のフレアキャップにおいて、前記凹凸は底から所定高さ以上に設け、当該高さまでは平滑としたことを特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項2に係る発明は、チューブ先端は凹凸の癖がつかないので機器へ接続した際に液密性と接続強度をより高める。なお、EOGガスの導通性を確保する場合には、請求項4に記載のように軸に沿ってスリットを設けることが好ましい。なお、使用の態様によっては、軸方向に、平滑部分と凹凸部分が交互に帯(円環帯)を形成するようにしてもよい。なお、平滑とは、表面が意図的に粗らされていないことをいい、換言すれば、凹凸がつけられていないことをいう。
【0014】
また、請求項3に記載のフレアキャップは、請求項1または2に記載のフレアキャップにおいて、凹凸をエンボス加工様としたことを特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項3に係る発明は、射出成形可能であって簡便に摩擦力を低減させ、かつ、液密性を確保することができる。なお、エンボス加工様とは、必ずしも加工工程により形成されることを意味せず、エンボス加工がされたような表面形状であればよい。
【0016】
また、請求項4に記載のフレアキャップは、請求項1、2または3に記載のフレアキャップにおいて、内側円筒部の外側の表面に軸に沿って通気用の溝(スリット)を設けたことを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項4に係る発明は、EOGを代表とするチューブ内滅菌用ガスの導通性を簡便に高めることが可能となる。溝の数は特に限定されないが、たとえば、6本とすることができる。
【0018】
請求項5に記載のフレアキャップは、請求項1〜4のいずれか一つに記載のフレアキャップにおいて、ポリプロピレン素材、ポリエチレン素材またはナイロン素材を用いたことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項5に係る発明は、医療用途として使用実績があり射出成形にも適した硬質な素材により製造することが可能となる。ここで、図6に示した従来型のフレアキャップについて、リブを設けない場合には、チューブ内周面に凹条は生じず液密性などは確保されるが、取り外せないほど密に接合してしまう。このため、現実的にはキャップを柔軟な素材として解決しているが、今度は、射出成形に不向きとなり成型性に劣ってしまう。本発明では、摩擦力の低減が実現されるので、上記素材を用いることができ、成形性と着脱性を両立させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、キャップの取り外しを容易としつつ、医療用チューブの液密性と接続強度を確保し、成型性に優れるフレアキャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態のフレアキャップの外観構成図である。
【図2】本実施の形態のフレアキャップの断面図と正面図である。
【図3】本実施の形態のフレアキャップを人工心肺回路用のチューブに嵌めた様子と当該チューブの機器への接続の様子を示した図である。
【図4】実際にフレアキャップをチューブに接続した際の凹凸のチューブ内周面への接触の様子を示した写真である。
【図5】内側円筒部表面の他の構成例を示した図である。
【図6】従来のリブ付きのフレアキャップとスリット付きのフレアキャップの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態では、医療用チューブの中でも最大径の部類に属する人工心肺回路用のチューブに使用するフレアキャップについて説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態のフレアキャップの外観構成図である。また、図2は、本実施の形態のフレアキャップの断面図と平面図である。図3は、本実施の形態のフレアキャップを人工心肺回路用のチューブに嵌めた様子と当該チューブの機器への接続の様子を示した図である。
【0024】
フレアキャップ1は、図示したように、二重円筒が片面でつながった構造であって、大きく、外側円筒部10と、内側円筒部20と、底部30とにより構成される。人工心肺回路用チューブCは、PVC製であって実質的に規格が決まっており、若干の幅はあるものの、大きなものでは内径×外径がφ9.5mm×φ14.3mm、小さなものではφ4.7mm×φ6.5mmであって、フレアキャップ1の大きさもこのチューブ径にあわせた大きさである。
【0025】
外側円筒部10は、チューブCを人工肺などの回路機器へ接続するときまで、その先端外周面OSを保護する。また、外側円筒部10の外周面には波様の凹条11が周方向に設けてあり、フレアキャップ1をチューブCから抜き外す際の滑り止めとしている。なお、図では、内側円筒部20より軸方向の長さ(円筒高さ)を長くしている。
【0026】
内側円筒部20は、底部30へ向けて拡径した略円錐形状の外形の筒状部位であって、使用時にはチューブCの先端内周面ISに差し込みチューブC内の滅菌状体を保つ。内側円筒部20の外周は、エンボス様の凹凸21が形成されており、また、軸に沿って6本のスリット22が設けられている。チューブCはPVC製であるため摩擦係数が高く、また、キャップの取り外し時には、素材の復元力により中心方向に向けて力がかかるため相乗的に摩擦力が増大するが、凹凸21により接触面積を低減させることができ、容易に引き抜くことが可能となる。なお、図では凹凸21を便宜上大きく描画している。
【0027】
凹凸の段差ないし高さは、0.05mm〜1.0mmが好ましく、また、凸部分の面積は全体の面積(凸部分の面積+凹部分の面積)の10%〜60%で適宜設定する。凹凸の高さが高いと、フレアキャップ1を取り外した後もチューブCの内周面ISに凹凸形状が残存し接続信頼性を損ねる可能性が生じ、また、凹凸の差が小さいと、PVCの柔軟性により凹部分にもチューブCが接触して摩擦力低減効果が得られないため、上記範囲としている。凹凸の面積比は、チューブ径と差し込み深さにも依存するが、凸部分の面積が大きいとフレアキャップ1がチューブCから抜けにくくなり、面積が小さいとチューブCの搬送中に外れる可能性が出てくるため、上記範囲としている。
【0028】
なお、本願発明者は、フレアキャップ1はポリエチレン製であるが、凹凸21を設けないでφ9.5mm×φ14.3mmのチューブCに挿入したところ、人力では抜くことができず、強固に接合してしまうため実用性に欠けることを確認している。
【0029】
スリット22の大きさは、特に限定されないが、幅は0.5mm〜2mm、深さは0.5mm〜2mmとすることができる。スリット22を設けるのは、チューブCの両端にフレアキャップを装着後、EOGガスでチューブ内を滅菌する際に、その通気性を良好に確保するためである。
【0030】
内側円筒部20は底面部分で最大径であり、チューブCの内径より0.5mm〜3mm大きく設計する。内側円筒部20は、底部30と反対方向に向けて縮径するが、先端では勾配を大きくして、緩勾配部23と急勾配部24を設け、チューブCへの挿入しやすさが確保されるようにしている。なお、本実施の形態では、凹凸21は緩勾配部23のみに設けているが、使用の態様によっては急勾配部24部分にも設けるようにしてもよい。
【0031】
なお、内側円筒部20は中空形状であるが、これも使用の態様によっては中実としてもよい。中空とする場合には素材(ポリエチレン)の使用量が少なくて済み、また、射出成形の際にピンを位置させることもできる。
【0032】
底部30は、外側円筒部10と内側円筒部20を一体的に繋げ、また、チューブC断面部分を保護する部位である。ここで、底部30においては、外側円筒部10の内側と内側円筒部20の外側とを、チューブCの肉厚に若干の余裕を持たせた間隔をあけるようにして繋げている。
【0033】
フレアキャップ1は、上述したような有底二重円筒構造であるので、ポリエチレンによる射出成形により製造が可能である。射出成形は汎用技術によるので、ここではその説明を省略する。なお、従来のフレアキャップでは、リブをつけずポリエチレンで製造すると摩擦力により引き抜くことができないため、柔軟なエラストマー材料としているが、これは、射出成形に向かず、製品精度が劣るので、必ずしも医療用用途には向かないという側面がある。本発明では、射出成形が容易であって、量産性はもとより寸法安定性にも優れるという利点を有する。
【0034】
使用に際しては、図3に示したように、フレアキャップ1をチューブCにさし込み、適宜EOGガスによりチューブ内外を滅菌し、製品出荷や使用時(回路構築時)まで、保管しておく。使用時には、フレアキャップ1をチューブCから取り外す。このとき、チューブC先端は拡径しているので、相手機器への接続が容易になる。なお、チューブCは、PVC製であるので、接続後じきに元の形状に戻り、また、内側円筒部20表面の凹凸21も消失し、強固な接続が得られることとなる。
【0035】
なお、図4に実際にフレアキャップ1をチューブCに接続した際の凹凸のチューブ内周面への接触の様子を示した写真を示した。写真では、撮影の都合上、外側円筒部10を一部切り欠いている。写真から明らかなように、緩勾配部23の凹凸21の凸が先端内周面ISに密に接着している様子が確認できる。
【0036】
なお、内側円筒部20の表面形状は上述したものに限定されず、種々の態様をとることができる。図5は、内側円筒部表面の他の構成例を示した図である。図5(a)は、緩勾配部の底部に近い側には表面凹凸をつけず平滑なままとした例である。この場合、チューブCの先端内周面ISの最先端部分には凹凸が一切付かないので、フレアキャップを外してチューブCを機器へ接続したときの接続信頼性ないし接続強度がより向上することとなる。
【0037】
また、他の例として図5(b)のように、凹凸21を網目状に設け、かつ、周方向に沿ってもリング状の溝を設けた、複合的な凹凸としてもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、キャップの取り外しを容易としつつ、医療用チューブの液密性と接続強度を確保し、成型性に優れるフレアキャップを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、必ずしも太い医療用チューブだけでなく細い医療用チューブの保護具としてもよい。細いチューブは、チューブ厚も薄いので、図6のような構成では、軸に沿ったスジが残存しやすく接続信頼性が低下する可能性があり、また力任せにフレアキャップを抜くと、チューブ断裂や変形による肉薄部の形成などチューブ品質を低下させる可能性があるが、本発明ではこのようなことが生じず、好適である。
【符号の説明】
【0040】
1 フレアキャップ
10 外側円筒部
11 凹条
20 内側円筒部
21 凹凸
22 スリット(溝)
23 緩勾配部
24 急勾配部
30 底部
C 人工心肺回路用チューブ
IS 先端内周面
OS 先端外周面



【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用チューブを接続先へ接続するまで先端に被せて保護する、有底二重円筒構造のフレアキャップであって、
チューブ外周面を保護する外側円筒部と、
チューブ内に差し込み、外径が、底ではチューブ内径より大であるように底側に向けて拡径した内側円筒部と、
外側円筒部内半径と内側円筒部外半径とをチューブ肉厚以上の間隔として外側円筒部と内側円筒部とを一体的に繋げる底部と、
を有し、
内側円筒部の外側の表面に凹凸を設けたことを特徴とするフレアキャップ。
【請求項2】
前記凹凸は底から所定高さ以上に設け、当該高さまでは平滑としたことを特徴とする請求項1に記載のフレアキャップ。
【請求項3】
凹凸をエンボス加工様としたことを特徴とする請求項1または2に記載のフレアキャップ。
【請求項4】
内側円筒部の外側の表面に軸に沿って通気用の溝を設けたことを特徴とする請求項1、2または3に記載のフレアキャップ。
【請求項5】
ポリプロピレン素材、ポリエチレン素材またはナイロン素材を用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のフレアキャップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−24765(P2011−24765A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173326(P2009−173326)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】