説明

フレキシブルグラファイト材料への炭素質被覆

疎水性結合剤およびそこに接着した炭素質材料を有するフレキシブルグラファイトシートを開示する。フレキシブルグラファイトシートは、プロトン交換メンブラン燃料電池等の燃料電池における電極またはガス拡散層として使用することができる。当該フレキシブルグラファイトシートを有する電気化学的装置および当該フレキシブルグラファイトシートの製造方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、炭素質被覆を施したフレキシブルグラファイト材料、ならびに、バッテリー、コンデンサーおよび燃料電池等の電気化学的装置における当該材料の使用に関する。本発明の特別な一実施態様は、当該材料の、燃料電池における電極またはガス拡散層としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、エネルギーをある形態から別の形態に変換するのに使用され、航空宇宙、自動車、およびエレクトロニクス工業を含む広範囲な用途を有する。燃料電池の一形態は、イオン交換メンブラン燃料電池であり、これは、プロトン交換メンブラン燃料電池、重合体電解質燃料電池または固体重合体電解質燃料電池とも呼ばれる(以下、「PEM燃料電池」と呼ぶ)。他の形態の燃料電池としては、改質ガソリン/空気燃料電池、直接メタノール燃料電池(燃料としてメタノールを使用する)、再生燃料電池、アルカリ燃料電池、リン酸燃料電池、固体酸化物燃料電池、亜鉛空気燃料電池、プロトン性セラミック燃料電池、および溶融炭酸塩燃料電池がある。ほとんどの燃料電池の一般的な設計は、電解質や、場合により特定の燃料を除いて、類似している。
【0003】
PEM燃料電池は、水素と空気中の酸素との化学反応により電気を発生する。燃料電池内では、アノードおよびカソードと呼ばれる電極が重合体電解質を取り囲み、一般的にメンブラン電極組立構造またはMEAと呼ばれるものを形成している。電極は、燃料電池のガス拡散層(またはGDL)としても機能することが多い。触媒材料が水素分子を刺激してプロトンと電子に分裂させ、次いでメンブランで、プロトンはメンブランを通過し、電子は外部の回路を通って流れる。電子は電気エネルギーとして利用される。プロトンは電解質を通して移行し、酸素および電子と結合し、水を形成する。
【0004】
PEM燃料電池は、2個のフローフィールドプレート間に狭持されたメンブラン電極組立構造を含む。通常、メンブラン電極組立構造は、不規則に配向した炭素繊維紙電極(アノードおよびカソード)からなり、触媒材料、特に白金または白金族金属の薄い層が、電極間に配置されたプロトン交換メンブランのどちらかの側に結合した等方性炭素粒子、例えばランプブラック上に塗布されている。動作の際、水素はフローフィールドプレートの一方にある通路を通ってアノードに流れ、そこで触媒が、水素の水素原子への、さらにはプロトンと電子への分裂を促進し、プロトンはメンブランを通過し、電子は外部負荷を通って流れる。空気は他方のフローフィールドプレート中にある通路を通ってカソードに流れ、そこで空気中の酸素が酸素原子に分裂し、その酸素原子が、プロトン交換メンブランを通って来るプロトンや回路を通る電子と結合し、組み合わさって水を形成する。メンブランは電気的絶縁体なので、電子は外部の回路を通って移動し、そこで電気が使用され、カソードでプロトンと結合する。その様な燃料電池の組合せが燃料電池積重構造中で使用され、所望の電圧を供給する。
【0005】
フローフィールドプレートは、出入口を備えた連続的な反応物流動通路を有する。入口は、アノードフローフィールドプレートの場合は燃料供給源に、カソードフローフィールドプレートの場合は酸化体供給源に接続されている。燃料電池積重構造中に組み立てられた時、各フローフィールドプレートは集電装置として機能する。
【0006】
ガス拡散層とも呼ばれることがある電極は、本明細書に記載のグラファイトシートを用意し、そのシートに通路を設けることにより形成できるが、それらの通路は、好ましくは平滑な側面を有し、フレキシブルグラファイトシートの平行な対向する表面の間を通り、圧縮された膨脹可能なグラファイトの壁により分離されている。グラファイトシートが電極として機能する時、イオン交換メンブランと実際に接しているのはグラファイトシートの壁である。
【0007】
フレキシブルグラファイトシートには、複数の箇所で、通路を形成する。フレキシブルグラファイトシートには、典型的には通路のパターンを形成する。そのパターンは、通路を通る流体の流れを、所望により制御する、最適化する、または最大にするために工夫することができる。例えば、フレキシブルグラファイトシート中に形成されたパターンにより、上記のように通路を選択的に配置することも、あるいは通路密度または通路形状を変化させ、例えば使用時、ならびに当業者には明らかな他の目的のために、電極の表面に沿って流体圧力を等化することもできる。
【0008】
衝撃力は、好ましくは適切に制御された、パターン形成されたローラーを使用して作用させ、グラファイトシート中に孔を効果的に形成する。フレキシブルグラファイトシートに衝撃を与えて通路を形成する際、グラファイトはシート内で移動し、膨脹したグラファイト粒子の平行な向きが攪乱され変形する。その結果、移動したグラファイトは、隣接する突起の側面およびローラーの平滑な表面により「ダイ−成形される」。これによって、フレキシブルグラファイトシート中の異方性を低下させ、対向する表面を横断する方向でシートの電気的および熱的伝導性を増加することができる。同様の効果は、円錐台形の、および側面が平行で末端が平らな釘形の突起でも達成される。
【0009】
グラファイトは、炭素原子の六角形配列または網目の層平面から形成されている。これらの、六角形に配置された炭素原子の層平面は、実質的に平らであり、実質的に互いに平行で等間隔になるように配向または配列されている。実質的に平らで、平行で、等間隔の炭素原子のシートまたは層は、通常、基底面と呼ばれ、一つに連結または結合されており、それらの群がクリスタライトに配置されている。高度に秩序付けられたグラファイトは、かなりの大きさのクリスタライトからなり、それらのクリスタライトは、相互に高度に整列または配向しており、十分に秩序付けられた炭素層を有する。つまり、高度に秩序付けられたグラファイトは、高度の選択的クリスタライト配向を有する。グラファイトは、それらの固有の構造のために異方性を有し、従って、方向性が高い多くの特性、例えば熱的および電気的伝導性および流体拡散性、を示すか、または有する。
【0010】
簡潔に述べると、グラファイトは炭素のラミネート構造、すなわち弱いファンデルワールス力により一つに接合された炭素原子の重なり合った層または薄片からなる構造として特徴付けることができる。グラファイト構造を考える時、2つの軸または方向、すなわち「c」軸または方向および「a」軸または方向、を表示する。簡単にするために、「c」軸または方向は炭素層に対して直角の方向と考えることができる。「a」軸または方向は炭素層に対して平行の方向または「c」方向に対して直角の方向と考えることができる。フレキシブルのグラファイトシートを製造するのに最も適した天然グラファイトは、非常に高度の配向を有する。
【0011】
上記の様に、炭素原子の平行な層を一つに保持している結合力は弱いファンデルワールス力だけである。グラファイトを処理し、重なり合った炭素層または薄片間の間隔を十分に広げ、その層に対して直角の方向、すなわち「c」方向に大きく拡張し、膨張した、または膨れあがったグラファイト構造を形成することができ、その際、炭素層の薄層特性は実質的に維持されている。
【0012】
大きく膨張した、より詳しくは、最終的な厚さ、つまり「c」方向寸法が本来の「c」方向寸法の約80倍以上にも膨張したグラファイトフレークを、結合剤を使用せずに形成し、膨張したグラファイトの凝集性の、または一体化されたシート、例えばウェブ、紙、細片、テープ、等を製造することができる。
【0013】
フレキシブルグラファイトのシート材料は、膨張グラファイト粒子およびグラファイト層が、非常に大きな圧縮、例えばロールプレス加工、により得られるシートの対向面に対して実質的に平行に配向しているために、フレキシブルに加えて、上記の様に、熱的および電気的な伝導性および流体拡散性に関して、出発材料である天然グラファイトに匹敵する高度の異方性を有することも分かっている。この様にして製造されたシート材料は、フレキシブル性に優れ、良好な強度を有し、非常に高度に配向している。
【0014】
簡潔に述べると、フレキシブルで、結合剤を含まない、異方性のグラファイトシート材料、例えばウェブ、紙、細片、テープ、ホイル、マット、等の製造方法は、予め決められた負荷の下で、結合剤の不存在下で、「c」方向寸法が本来の粒子の約80倍以上にも膨張したグラファイト粒子を圧縮または圧迫し、実質的に平らで、フレキシブルで、一体化されたグラファイトシートを形成することを含んでなる。膨張したグラファイト粒子は、一般的に外観がウォーム状である、または細長く、圧縮された後、圧縮永久ひずみを維持し、シートの対向する主表面と整列している。シート材料の密度および厚さは、圧縮の程度を制御することにより変えることができる。シート材料の密度は約0.04g/cc〜約2.0g/ccである。フレキシブルのグラファイトシート材料は、グラファイト粒子がシートの対向する平行な主要表面に対して平行に整列しているために、かなりの程度の異方性を示し、異方性の程度は、シート材料をロールプレス加工し、密度を増加することにより増加する。ロールプレス加工した異方性シート材料では、厚さ、すなわち、対向する平行なシート表面に対して直角の方向は「c」方向を含んでなり、長さおよび幅に沿った、すなわち対向する主要表面に沿った、または平行な方向は、「a」方向を含んでなり、シートの熱的、電気的および流体拡散性は、「c」および「a」方向で非常に大きく、数等級異なっている。
【0015】
燃料電池に戻って、現在のPEM燃料電池設計は、酸素を含む湿ったガス流を酸素またはカソード側で使用し、場合により、水素または燃料側の水素含有ガス流を湿らせ、メンブランの乾燥を防止する。メンブランの乾燥は、メンブランおよび燃料電池の損傷につながることがある。燃料電池中の反応が起こると、上記のように水が発生する。この水は、典型的には酸素を含むガス流により燃料電池から除去される。このガス流が飽和すると、反応により発生した水を除去できなくなり、水はガス拡散層の細孔中に蓄積することがある。この水が、メンブランへの酸素の移動を阻止することがあり、「フラッディング」と呼ばれる。燃料電池の適切な動作を確保するには、メンブランの過剰乾燥と過剰湿潤との間のバランスを確立する必要がある。
【0016】
水の蓄積が過剰になった場合、ガス拡散層の一個以上の通路が遮断されることがあり、「液体停滞」と呼ばれることがある。その場合、遮断された通路の酸素含有ガスの流れが大幅に低下することがある。この酸素含有ガス流の低下により、プロトンとの反応に利用できる反応物の量が減少し、酸素含有ガスの、発生した水を燃料電池から除去する能力が低下する。本発明は、この分野における上記の欠点に対処するものである。
【発明の開示】
【0017】
従って、本発明の一態様は、改良されたグラファイト製品およびその製造方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の実施態様は、改良されたガス拡散層およびその製造方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の実施態様は、改良されたプロトン交換メンブラン燃料電池およびその製造方法を提供することである。
【0020】
これらの及び他の実施態様は、本明細書を読むことにより、当業者には明らかであり、新規なグラファイト製品およびグラファイト製品の新規な製造方法を開発することにより、達成される。この新規なグラファイト製品は、対向する主要表面を有するシートの形態にある、膨脹したグラファイト粒子の圧縮された集合体、該主要表面の一方の上にある疎水性重合体状結合剤、および該一主要表面上の該重合体状結合剤と接触する炭素質材料を包含する。グラファイト製品の新規な製造方法は、炭素質材料を疎水性重合体状結合剤に加えて混合物を形成する工程、および該混合物をフレキシブルグラファイト基材の主要表面に塗布し、被覆されたグラファイト基材を形成する工程を包含する。本方法は、所望により、被覆されたグラファイト基材を焼結させ、炭素質材料が密着したフレキシブルグラファイトシートを形成することを含むことができる。
【0021】
本発明のグラファイト材料および方法には、本明細書を読むことにより当業者には明らかであろう多くの用途がある。そのような用途の一例は、燃料電池用のガス拡散層の製造である。そのようなガス拡散層には、多くの利点があり、例えば、燃料電池内部の水管理を改良し、より薄いガス拡散層を製造することができ、ガス拡散層の一部としての炭素紙の使用を回避することができ、重合体状結合剤をフレキシブルグラファイトシート中に取り入れ、炭素質材料とフレキシブルグラファイトシートとの間の密着性を増加することができる。
【0022】
上記に加えて、本発明の被覆された複合材料は、炭素紙、炭素布、または炭素フェルト系材料と比較して熱的および電気的伝導性が優れ、複合材料の巨視的多孔度を制御する能力が改良されており、金属含有材料と比較して耐食性が優れている。
【0023】
本発明を実施する別の利点は、ここに記載する新規なガス拡散層で製造した燃料電池が、燃料電池のメンブランを脱水することなく作動できることである。さらに、新規なガス拡散層は、従来のガス拡散層よりも強度が高く、耐久性が優れている。本発明は、フレキシブルグラファイトガス拡散層上に炭素質材料を、より均質に分散させることができる。
【0024】
本発明の他の特徴および優位性は、下記の詳細な説明中に記載してあり、当業者には、その説明から部分的に明らかであるか、または本発明を、下記の詳細な説明、請求項、ならびに付随する図面を包含する本明細書に記載されているように実行することにより、理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、原料、例えばグラファイト材料のフレキシブルシートを用意することを包含する。この原料は、典型的にはグラファイト、すなわち平坦層状の平面で共有結合した原子を含んでなり、平面間で弱く結合した結晶形態の炭素を含んでなる。原料、例えば上記グラファイトのフレキシブルシート等の原材料を得る際に、天然グラファイトフレーク等のグラファイト粒子を、典型的には、例えば、硫酸及び硝酸の溶液からなる挿入物質(インターカラント)で処理することにより、グラファイトの結晶構造が反応してグラファイトとインターカラントとの化合物が形成される。処理したグラファイト粒子を、以下「インターカラントグラファイト粒子」と称する。
【0026】
高温暴露すると、グラファイト内のインターカラントが分解・揮発して、インターカラントグラファイトの粒子が、c軸方向、すなわち、グラファイトの結晶面に垂直な方向に、もとの容積の約80倍以上の寸法に蛇腹状に膨張する。膨張(剥離とも称される)グラファイト粒子は、外観がねじ状であり、したがって、一般的にウォームと称されている。ウォームは、ともに圧縮してフレキシブルシートとすることができる。フレキシブルシートは、処理前のグラファイトフレークとは異なり、種々の形状に形成及び切断でき、また変形により機械的影響を受けて小さな横軸開口を備えることができる。
【0027】
本発明で使用するのに好適な剥離されたグラファイトまたはフレキシブルシート用のグラファイト出発材料としては、熱に暴露したときに有機酸や無機酸だけでなくハロゲンを挿入して膨張させた、高度に黒鉛化した炭素質材料などがある。これらの黒鉛化度の高い炭素質材料は、最も好ましくは黒鉛化度が約1.0である。この開示で使用される用語「黒鉛化度」とは、下式による値(g)を意味する:
【数1】

(式中、d(002)は、結晶構造におけるグラファイトの炭素層間の間隔(単位:オングストローム)である)。グラファイトの層間の間隔dは、標準X線回折法により測定される。(002)、(004)及び(006)ミラー指数に対応する回折ピークの位置を測定し、標準最小二乗法を用いてこれらのピークの全てについて全誤差を最小にする間隔を導く。黒鉛化度が高い炭素質材料の例として、種々の原料から得られる天然グラファイトだけでなく、他の炭素質材料、例えば、化学蒸着、ポリマーの高温熱分解、または溶融金属液からの結晶化等により調製したグラファイトなどが挙げられるが、天然グラファイトが最も好ましい。
【0028】
本発明に使用されるフレキシブルシート用のグラファイト出発材料は、原料の結晶構造に必要とされる黒鉛化度を保ち、かつこれらが剥離し得る限り、非グラファイト成分を含有しても良い。一般的に、結晶構造に必要とされる黒鉛化度を有し、かつ剥離し得るいずれの炭素含有原料も、本発明に好適に使用できる。このようなグラファイトの灰分は、好ましくは20重量%未満である。より好ましくは、本発明に用いられるグラファイトは、少なくとも約94%の純度を有する。最も好ましい実施態様によれば、用いられるグラファイトは、少なくとも約99%の純度を有する。
【0029】
グラファイトシートを製造するための一般的な方法が、米国特許第3,404,061号(Shane等)に記載されている。この文献に開示されている内容は、引用することにより本明細書の内容の一部とされる。Shane等の方法の典型的な実施に際して、天然グラファイトフレークを、例えば、硝酸と硫酸の混合物溶液に分散する、好ましくは、グラファイトフレーク100重量部当たりインターカラント溶液約20〜約300重量部(pph)程度含む溶液に分散することによりグラファイトに物質挿入を行う。インターカレーション溶液は、当該技術分野において公知の酸化剤等のインターカレーション剤を含有する。それらの例として、酸化剤及び酸化性混合物を含有するもの、例えば、硝酸、塩素酸カリウム、クロム酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム、二クロム酸カリウム、過塩素酸等を含有する溶液、又は混合物、例えば、濃硝酸と塩素酸塩の混合物、クロム酸とリン酸の混合物、硫酸と硝酸の混合物、もしくは強有機酸(例えば、トリフルオロ酢酸)とこの有機酸に溶解する強酸化剤との混合物を含有する溶液などが挙げられる。別の方法として、電位を使用してグラファイトの酸化を生じさせることができる。電解酸化を用いたグラファイト結晶に導入できる化学種には、硫酸だけでなく他の酸も挙げられる。
【0030】
好ましい実施態様によれば、インターカレーション剤は、硫酸又は硫酸とリン酸と、酸化剤、すなわち、硝酸、過塩素酸、クロム酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、ヨウ素酸若しくは過ヨウ素酸との混合物の溶液等である。これらの溶液よりは好ましくないが、塩化第二鉄等のハロゲン化金属、及び塩化第二鉄と硫酸との混合物、又はハロゲン化物、例えば、臭素を臭素と硫酸の溶液としてか、あるいは臭素を有機溶媒に溶解した溶液として含有できる。
【0031】
インターカレーション溶液の量は、約20〜約150pphの範囲でよく、より典型的には約50〜約120pphの範囲でよい。グラファイトフレークに物質挿入した後、過剰の溶液をグラファイトフレークから取り除いて、グラファイトフレークを水洗する。あるいは、インターカレーション溶液の量は、約10〜約50pphとしてよい。この量では、米国特許第4,895,713号に開示ないし示唆されているように洗浄工程を省略してもよい。上記文献に開示されている内容も、引用することにより本明細書の内容の一部とされる。
【0032】
インターカレーション溶液で処理したグラファイトフレークの粒子は、必要に応じて、例えば、25℃〜125℃の範囲で酸化性インターカレーション液の表面膜と反応するアルコール類、糖類、アルデヒド類及びエステル類から選択された還元性有機剤と混合して、これら還元性有機剤と接触させてもよい。好ましい具体的有機剤としては、ヘキサデカノール、オクタデカノール、1−オクタノール、2−オクタノール、デシルアルコール、1,10−デカンジオール、デシルアルデヒド、1−プロパノール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、デキストロース、フルクトース、ラクトース、スクロース、ジャガイモデンプン、エチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、ジメチルオキシレート、ジエチルオキシレート、メチルホルメート、エチルホルメート、アスコルビン酸、及びリグニン由来化合物、例えば、リグノ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。有機還元剤の量は、グラファイトフレークの粒子の約0.5〜4重量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
インターカレーション前、インターカレーション中、もしくはインターカレーション直後に膨張助剤を使用して改善することもできる。これらの改善には、剥離温度の減少及び膨張体積(「ウォーム体積」とも称される)の増加などがある。このための膨張助剤は、インターカレーション溶液に充分溶解して膨張を改善できる有機材料であるのが有利である。
【0034】
膨脹助剤としてカルボン酸がとりわけ有効であることが判明した。膨張助剤として有用である好適なカルボン酸は、炭素数が少なくとも1個、好ましくは炭素数が最大約15個である、芳香族、脂肪族又はシクロ脂肪族、直鎖又は分岐鎖、飽和及び不飽和のモノカルボン酸類、ジカルボン酸類並びに多カルボン酸類から選択できるが、これらのカルボン酸は、一つ以上の剥離面で適度な改善をするのに有効な量のインターカレーション溶液に可溶であることが必要である。好適な有機溶媒を用いて、インターカレーション溶液への有機膨張剤の溶解度を改善することができる。
【0035】
飽和脂肪族カルボン酸類の代表例としては、H(CHCOOH(式中、nは0〜約5の数である)等で表される酸類、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸等が挙げられる。カルボン酸類の代わりに、無水物又は反応性カルボン酸誘導体、例えば、アルキルエステルを用いてもよい。アルキルエステル類の代表例は、ギ酸メチル及びギ酸エチルである。硫酸、硝酸及び他の公知の水性インターカラントは、ギ酸を分解して最終的に水と二酸化炭素とすることができる。このため、ギ酸及び他の効果的な膨張助剤を、グラファイトフレークを水性のインターカラントに浸漬する前にグラファイトフレークと接触させるのが有利である。代表的なジカルボン酸として、炭素数が2〜12個である脂肪族ジカルボン酸、特にシュウ酸、フマル酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,5−ペンタンジカルボン酸、1,6−ヘキサンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸、例えば、フタル酸又はテレフタル酸が挙げられる。代表的なアルキルエステルとして、ジメチルオキシレート及びジエチルオキシレートが挙げられる。代表的なシクロ脂肪族酸として、シクロヘキサンカルボン酸が挙げられ、代表的な芳香族カルボン酸として、安息香酸、ナフトエ酸、アンスラニル酸、p−アミノ安息香酸、サリチル酸、o−、m−及びp−トリル酸、メトキシ及びエトキシ安息香酸、アセトアセタミド安息香酸類及びアセタミド安息香酸類、フェニル酢酸並びにナフトエ酸類が挙げられる。代表的なヒドロキシ芳香族酸としては、ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸及び7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が挙げられる。多カルボン酸中で代表的なものとしては、クエン酸が挙げられる。
【0036】
インターカレーション溶液は水性であり、剥離を高めるのに有効な量として、好ましくは膨張助剤を約1〜10%含有する。膨張助剤を、インターカレーション水溶液に浸漬する前又は後にグラファイトフレークと接触させる実施態様では、膨張助剤とグラファイトとを混合するに際して、典型的には膨張助剤と約0.2重量%〜約10重量%の量のグラファイトフレークとを、好適な手段、例えば、Vブレンダーにより混合できる。
【0037】
グラファイトフレークに物質挿入した後及びインターカラントグラファイトフレークと有機還元剤との混合に続いて、混合物を、25℃〜125℃の範囲の温度に暴露して還元剤とインターカラントグラファイトフレークとの反応を促進することができる。加熱期間は、約20時間以内であり、上記範囲において温度が高い場合には、加熱時間はもっと短かくてもよく、少なくとも約10分間である。
【0038】
この様に処理したグラファイトの粒子は、「インターカレーション処理したグラファイトの粒子」または「膨脹可能なグラファイト」と呼ばれることがある。高温、例えば少なくとも約160℃、特に約700℃〜1200℃以上の温度で暴露することにより、インターカレーション処理されたグラファイトの粒子は、c軸方向、すなわち構成するグラファイト粒子の結晶面に対して直角の方向で、アコーディオン状に、その本来の体積の約80〜1000倍以上にも膨張する。膨脹した、すなわち剥離されたグラファイト粒子は、細長い外観を呈するので、一般的にウォームと呼ばれる。これらのウォームを一緒に圧縮し、フレキシブルのシートを形成することができるが、これらのシートは、本来のグラファイトフレークと異なり、様々な形状に成形および裁断し、以下に説明する様に、機械的衝撃を加えて変形させることにより、小さな横方向開口部を形成することができる。
【0039】
フレキシブルグラファイトシートおよびホイルは、凝集性があり、良好な取扱強度を有し、例えばロールプレス加工により、厚さ約0.05mm〜4.00mm、典型的な密度約0.1〜1.5グラム/立方センチメートル(g/cc)に適宜圧縮される。米国特許第5,902,762号(本明細書に参考として包含される)に開示されている様に、約1〜30重量%のセラミック添加剤をインターカレーション加工したグラファイトフレークと混合し、最終的なフレキシブルグラファイト製品の樹脂含浸性を高めることができる。これらの添加剤は、長さ約0.1〜2.0ミリメートルのセラミック繊維粒子を含む。粒子の幅は約0.05〜0.001mmが好適である。
【0040】
セラミック繊維粒子は、グラファイトに対して非反応性で非粘着性であり、約1100℃までの、典型的には約1400℃以上の温度で安定している。セラミック繊維粒子は、細断した石英ガラス繊維、炭素およびグラファイト繊維、ジルコニア、窒化ホウ素、炭化ケイ素およびマグネシア繊維、天然鉱物繊維、例えばメタケイ酸カルシウム繊維、ケイ酸カルシウムアルミニウム繊維、酸化アルミニウム繊維、等から形成されることが好ましい。
【0041】
フレキシブルグラファイトシートは、樹脂で処理することもできる。この処理は、フレキシブルグラファイトシートの耐湿性および取扱強度、すなわち剛性を高めると共に、シートの形状を「固定する」。好適な樹脂含有量は、典型的には少なくとも5重量%、より典型的には約10〜35重量%であり、約60重量%まで好適である。本発明の実施に特に有用であることが分かっている樹脂としては、アクリル、エポキシおよびフェノールを基剤とする樹脂系、またはそれらの混合物がある。好適なエポキシ樹脂系には、ジグリシジルエーテルまたはビスフェノールA(DGEBA)を基剤とする系、および他の多官能性樹脂系がある。使用できるフェノール系樹脂としては、レゾールおよびノボラックフェノール系が挙げられる。
【0042】
本発明のグラファイトシートは、切断し、トリミングして所望の物体を形成することができる。本発明の方法は、トリミングした部分を包含する上記のグラファイトシートを使用することができる。より詳しくは、本発明の方法は、以下に記載するように完成までの様々な段階でトリミングした部分を包含する上記のグラファイトシートを使用することができる。
【0043】
本発明では、疎水性結合剤により炭素質材料を、電極またはGDLとして使用するフレキシブルグラファイトシートに接着させることにより、水の除去が改善され、ガス流を連続的に流せることが分かった。下記の考察は、GDLに関して行うが、電極にも適用できる。炭素質材料をガス拡散層に応用することにより、GDLに移動する恐れがあるすべての水を管理することができる。
【0044】
炭素質材料を燃料電池中のガス拡散層に接着することにより、少なくとも燃料電池の触媒層に燃料または酸素を供給するガス流動通路の「詰まり」が少なくなるために、燃料電池内部の反応により発生した水の管理が改善され、燃料電池効率が増加することが確認されている。疎水性結合剤(非湿潤性結合剤とも呼ばれる)で接着する炭素質材料は、気孔率が典型的には約20%〜約80%である多孔質層を形成する。この多孔質層は、その中に巨視的および微視的通路を有する。典型的には、炭素質材料は、煤の導電率よりも高い導電率を有する。ここで煤は、実質的に燃焼材料の不完全燃焼により主として形成される炭素粒子からなる材料として定義される。
【0045】
本明細書で使用する「炭素質材料」とは、炭素を含むか、または生じる材料を意味する。好適な炭素質材料の例としては、Vulcan炭素、炭素ナノファイバー、グラファイトナノファイバー、グラファイト、炭素ナノチューブ、炭素繊維、グラファイト繊維、カーボンブラック、活性炭、およびそれらの組合せがある。用語疎水性の定義は、ここではすべての科学文献における用語疎水性の一般的な定義に従って使用する。好適な疎水性結合剤の例としては、ポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレンがあるが、これらに限定するものではない。ここで使用する「気孔率」は、材料の空隙容積と、その集合体の体積との比を意味する。
【0046】
本発明をPEM燃料電池に関連する好ましい実施態様に関して説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。PEM燃料電池に関連する説明は、その例であり、説明する特定の燃料電池に限定することなく、本発明を説明し、その実施を可能にすることを意図している。
【0047】
図1は、燃料電池10を燃料(「アノード」)14および酸素側(「カソード」)16に分割するメンブラン電極組立構造(「MEA」)を有するPEM燃料電池10を例示する。典型的には、MEA12は、本明細書に記載するように、イオン交換メンブランを含み、このイオン交換メンブランは、2個の触媒層(メンブランのそれぞれの側に1個ずつ)の間に狭持されている。メンブラン組立構造12の重合体メンブランは、電子がMEA12のメンブランを通過するのを阻止するが、プロトンは、重合体メンブランを通して燃料電池10の酸素側16に伝達され、電子はGDL30から、外部回路(図には示していない)を経由してGDL34へ通過し、電気を発生する。MEA12のカソード側16では、還元反応が起こり、その際、プロトン、酸素、および電子が組み合わされて水を生じる。この反応は、一般的に本明細書に記載する触媒、例えば白金または白金金属を必要とする。
【0048】
触媒は、メンブラン電極組立構造12の面上に、燃料電池10のアノード側とカソード側用の別の触媒として配置することができる。この配置は、所望により本発明で使用できる。メンブラン12は、従来のいずれの方式によっても、PEM燃料電池に使用される従来のいずれの材料によっても製造できる。典型的には、メンブランとしては、DuPontからNAFION(登録商標)の商品名で市販されているペルフルオロスルホン酸系重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの混合物または共重合体が挙げられる。酸ドーピングしたポリベンズイミダゾール(PBI)は、メンブラン材料から選択できるもう一つの材料である。
【0049】
ガス不透過性フローフィールドプレート22および24は、燃料電池10の外側にある供給源から燃料または空気(または他の酸素含有ガス)を受け取り、これらのガスを、それぞれ流動通路26(燃料側14)および28(酸素側16)を経由して配分する。典型的には、燃料側14は燃料を受け取り、酸素側16は空気を受け取る。好適な燃料は、水素含有ガス(例えば水素または直接メタノール燃料電池ではメタノール)である。プレート22および24は、全体として燃料電池を構造的に支持し、電子を外部回路(図には示していない)に、および外部回路から伝達するための集電装置の機能も果たす。燃料電池10同士を積み重ねることができ、その場合、一つの燃料電池10のカソード側16上のフローフィールドプレート24が、隣接する燃料電池10のアノード側14上のフローフィールドプレート22として機能し、通路26がフローフィールドプレートの一方の側に存在し、通路28が他方の側に存在する。
【0050】
ガス拡散層(「GDL」)30および34が、燃料電池10の両側に備えられている。図1で、GDL30は燃料側14にあり、GDL34は酸素側16にある。典型的には、少なくともGDL34はフレキシブルグラファイトから構築される。典型的には、フレキシブルグラファイトは、平行で対向する第一および第二表面を有するシートの形態で膨脹グラファイト粒子の圧縮された集合体を含んでなり、シートの少なくとも一部は、平行で対向する第一および第二表面の間でシートを通過する複数の横方向流体通路を有し、それらの通路は、複数の箇所でシートの第一表面に機械的衝撃を与えることにより形成され、平行で対向する第一および第二表面の両方に開口部を有する。好ましいフレキシブルグラファイトシートは、グラフテック社からGRAFOIL(登録商標)およびGRAFCELL(登録商標)の名称で市販されている。使用する用語「フレキシブルグラファイトシート」は、圧縮された膨脹(剥離とも呼ばれる)グラファイト自体、または一種以上の充填材または結合剤と共に製造された製品を意味し、その際、グラファイト粒子の平行な表面は、グラファイト粒子の「c」軸方向に対して直角の平面内で主として配向しており、「c」軸方向に対して平行な方向における製品の厚さは約1.5mm未満である。フレキシブルグラファイトシートは、Shaneらの米国特許第3,404,061号およびMercuriの米国特許第6,413,663B1号(これらの開示は参考として本明細書に包含される)により詳細に記載されている。さらに、GDL34および/または30は、樹脂含浸されていても、樹脂含浸されていなくてもよい。所望により、GDL34および30の両方をフレキシブルグラファイトから構築することができる。好ましくは、GDL30、34およびフローフィールドプレート22、24の両方が導電性である。好ましくは、GDL34は、複数の経路または通路を含み、その中を通してガス(GDL34では酸化体)がそれぞれの通路28からGDL34を通って拡散することができ、そのGDL34は、ガスと、メンブラン電極組立構造12のそれぞれの触媒層との接触を強化する。同様に、燃料および燃料電池10の燃料側14に対するGDL30にも好ましい。所望により、ガス拡散層は、そのようなガス拡散層に従来使用されている他の材料、例えば炭素布を、当該フレキシブルグラファイトとの組合せで含んでなることができる。あるいは、GDL34は、炭素紙、炭素布、または炭素フェルト紙を実質的に含まなくてもよい。上記の説明は、アノード側のGDL30にも等しく適用できる。
【0051】
典型的には、GDL34は、GDL34とMEA12との間の界面36に炭素質被覆を有する。好ましくは、炭素質被覆は、疎水性重合体状結合剤(例えばポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレン)を使用してGDL34に接着する。より好ましくは、結合剤は一般的にフッ素化樹脂を含んでなる。最も好ましくは、結合剤は有機溶剤(例えばアセトン)に可溶である。可溶とは、結合剤の有機溶剤に対する溶解度がポリテトラフルオロエチレンの有機溶剤に対する溶解度よりも大きいことを意味する。好適な炭素質被覆は、グラファイト、炭素ナノチューブ、炭素繊維、グラファイト繊維、カーボンブラック、活性炭、Vulcan炭素、グラファイトナノファイバー、炭素ナノファイバー、およびそれらの組合せを含んでなることができる。一実施態様では、炭素質材料は典型的には煤を実質的に含まない。
【0052】
所望により、結合剤は、結合剤の疎水性を必要に応じて調節するために、他の化合物を含むこともできる。例えば、結合剤は、非疎水性化合物(ポリエチレングリコール)および/または親水性化合物(例えばメチルカルボキシセルロース)を包含することができる。
【0053】
本発明の一実施態様では、GDL30、34は電極である。すなわち、GDL34は、GDL37上の炭素質材料とメンブラン12との間に触媒層を含むこともできる。GDL34が触媒層も含む場合、GDL34は電極、好ましくはカソード、と呼ぶことができる。所望により、GDL30も触媒層を含み、電極を形成し、アノードとして機能することもできる。GDLが電極である場合、MEA12は、メンブランの、電極に面した側に触媒層を有していなくてもよい。
【0054】
アノード30では酸化反応が起こり、その際、水素がアノード30中の、好ましくは曲がりくねった経路を通って、触媒に出会うまで拡散する。典型的には、触媒は貴金属であり、水素分子に触媒作用して2個の水素原子に解離させ、次いでその水素原子が電子を放出して水素イオン(プロトン)を形成する。本明細書で使用する用語「貴金属」とは、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、オスミウム、これらの金属を取り入れた化合物、およびそれらの組合せを含む。燃料電池に従来使用されている、遷移金属を含むすべての材料の触媒を本発明で使用することができる。貴金属を含む合金も好適な触媒である。例えば、直接メタノール燃料電池で典型的な触媒は、白金、ルテニウム、モリブデン、またはそれらの組合せである。本発明の実施態様では、触媒は、GDL34とメンブラン12との間の界面36にある、GDL34の炭素質被覆上に位置する。あるいは、触媒は、炭素質材料中に混合されるか、または炭素質材料の表面上に分散され、炭素質材料は触媒の担体として作用する。触媒は、メンブラン12の表面上にも、単独で、またはGDL30、34の表面上の触媒と平行して、存在することができる。所望により、炭素質材料は、GDL34および/または30の両方に、それぞれGDLとメンブラン組立構造12との界面、およびGDLとフローフィールドプレート22、24との界面に塗布することができる(図1参照)。
【0055】
疎水性結合剤で炭素質材料をGDL30、34に接着することにより、燃料電池10により細かい気孔率が与えられ、水管理が改善されることが分かった。炭素質被覆の気孔率は、約20%〜約80%が好ましい。特定の理論には捕らわれずに、図2および3に示すように、炭素質材料被覆40は、多孔質構造の網目を与え、番号42で示す流入ガス流に、MEA12の触媒層に到達するまでより多くの流路を与え、番号44で示す反応生成物である水を触媒で起こる反応から遠くへ離すように流すことができると考えられる。
【0056】
図3から分かるように、有孔フレキシブルグラファイト電極34は、孔46を通して主として一方向に単相拡散させ、それらの孔は、反応生成物の水滴が蓄積し、孔46の中で集まると、妨害されるか、または詰まることがある。本発明の、炭素質材料および疎水性結合剤で形成される炭素質被覆40は、ガスおよび液体に、互いに干渉せずに移動するための多くの追加流路を与える。その上、水(または、水でない場合、反応生成物の液体)に対して非湿潤性の疎水性結合剤を選択することにより、水が炭素質材料の表面上またはGDLの孔の表面上に蓄積するのを阻止し、水をより効率的に除去する。
【0057】
以下に考察するように、他の材料を炭素質材料被覆40に加え、燃料電池10の特定の配置、利用できる材料、または特定用途の他の状況に応じて、被覆40の疎水性または親水性を増加または減少させることができる。適切な追加材料は、本発明の精神または範囲から離れることなく、過度の実験を行わずに、決定することができる。
【0058】
炭素質材料は、GDL30、34の片面または両面に接着させることができるが、典型的には、炭素質材料は、少なくともカソード側でMEA12に隣接する界面36に接着させて、水素イオン(プロトン)と酸素とを組み合わせて反応生成物の水を形成する反応により発生した水との接触を最大にすることができる。さらに、触媒は、炭素質材料がグラファイトシートに接着しているこの層に付着させるか、または分散させることができる。
【0059】
炭素質材料をフレキシブルグラファイトシートに接着させるための準備を行い、この接着を達成するための、どのような方法でも使用できるが、一例として、結合剤と溶剤を混合してこれに炭素質材料を加えることがとりわけ好都合であることが判明した。
【0060】
典型的には、GDL30、34に炭素質材料を接着させるための結合剤疎水性重合体状結合剤は、好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDFとも呼ばれる)、ポリ二フッ化ビニル、ポリ(二フッ化ビニリデン)およびポリ(1,1−ジフルオロ−1,2−エタンジイル)である。PVDFは、Kynar(登録商標)Flex(登録商標)2801(PVDFとヘキサフルオロポリプロピレンの共重合体、ATOFINA Chemicals, Incから市販)の商品名で入手できる。疎水性結合剤との組合せで使用し、炭素質材料をGDLに結合させることができる他の重合体状材料の例としては、ペルフルオロスルホン酸系重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの混合物またはDuPontからNAFION(登録商標)またはTEFLON(登録商標)の商品名で市販されている共重合体がある。典型的には、結合剤は、被覆/結合剤混合物の1〜35重量%、より典型的には5〜20重量%の濃度で存在する。
【0061】
炭素質材料をGDLに塗布するには、結合剤を一種以上の溶剤に入れた溶液と炭素質材料を組み合わせ、十分に混合するとよい。炭素質材料を結合剤および溶剤と十分に混合した後、得られた混合物をGDLに塗布し、溶剤を蒸発させる。混合物は、従来の被覆方法のいずれか、例えばロール塗り、ナイフ塗り、スプレー塗り等により塗布することができる。
【0062】
溶剤は、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(MNP)、メタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロパノール、水、またはそれらの混合物または溶液、あるいは結合剤を炭素質材料と十分に混合し、電極に塗布し易くするすべての溶剤でよい。典型的には、溶剤は、結合剤を溶解させる溶剤である。溶剤は、使用する特定の炭素質材料、選択した特定の結合剤材料、材料の入手性、または使用者の好みに応じて選択することができる。典型的な溶剤はアセトンである。溶剤を蒸発させた後、得られた被覆されたシートを焼結させ、プレス加工またはカレンダー加工し、材料とシートの結合を強化することができる。ここで、焼結させるとは、材料をその融点より上に、ただし分解温度未満に、典型的には材料が液体のように流れる粘度になる温度よりも低い温度で加熱することを意味する。典型的には、焼結は、結合剤がフレキシブルグラファイトを融合し、炭素質材料をフレキシブルグラファイトに接着する温度で起こる。状況、材料の入手性、および設備、使用者の好み、および他のファクターに応じて、特定の材料、結合剤の濃度、溶剤、および炭素質材料、温度、時間、および蒸発および焼結の他のパラメータすべてを、変形の効果に関する過度の実験を行わずに、変えることができる。シートに孔を開ける場合、孔を開ける前後に、炭素質材料を有孔フレキシブルグラファイトシートに接着させることができる。
【0063】
特定の用途で、第一被覆をGDL30、34に、ある結合剤、例えばPVDFを使用して塗布し、次いで、第一被覆の上に、異なった厚さの第二の被覆を、第二結合剤、例えばPTFE、で塗布するのが有利である。これによって、炭素質材料被覆40の湿潤性に変化を与えることができる。あるいは、炭素質材料をシートに塗布する前に、シートを加熱処理することができる。
【0064】
本発明は、フレキシブルグラファイトシート上にグラファイト粉末を接着させることも含む。典型的には、グラファイト粉末は、サイズが約200ミクロンまで、より典型的には約100ミクロンまでである。好適なグラファイト粉末は、1ミクロン未満の粒子を含むこともできる。グラファイト粉末は、天然グラファイト、合成グラファイト、または膨脹グラファイトから形成することができる。グラファイト粉末は、様々な位置の一つ以上、例えばGDL30、34の、MEA12に面した表面上、界面36または34の一方または両方、MEA12の触媒層の一方または両方に配置することができる。本発明の製品中にグラファイト粉末が存在することにより、電極30または34と、MEA12の隣接する触媒との間の接触抵抗が低下する。
【0065】
本明細書に記載する本発明は、とりわけ、燃料電池に使用する電極またはガス拡散層を改良する。電極またはガス拡散層は、有孔フレキシブルグラファイトシートである必要はないが、有孔フレキシブルグラファイトシートが好ましい。燃料電池は、PEM燃料電池である必要はなく、本発明は、様々な燃料電池、および特に水およびガスを除去し、流れを管理するためのガス拡散電極またはガス拡散層を含む他の用途に適用できる。本明細書に記載する炭素質材料をフレキシブルグラファイトシートに接着させる方法は、特にコスト的に有利な大量生産方法である。
【実施例】
【0066】
本発明を下記の例により、さらに説明する。これらの例で、他に指示がない限り、百分率はすべて重量で表す。
【0067】
例1
活性炭(NUCHAR(登録商標)SA-20)7グラムの溶液を、PVDF(KYNAR(登録商標)FLEX(登録商標)2801)1グラムをアセトン約25mlに入れ、攪拌している溶液に加えた。約15分間攪拌した後、混合物(結合剤約12.5%および炭素約87.5%を含み、溶剤は含まない)を、無孔のGRAFOIL(登録商標)基材に塗布した。アセトンをフード中で蒸発させ、次いでこの複合材料を約110℃の加熱炉中に入れ、残留アセトンをすべて除去した。溶剤を除去した後、この複合材料を約200℃で約20分間焼結させた。次いで、機械的衝撃により孔を開ける方法により、複合材料に孔を形成した。上記の手順を繰り返し、5個の供試試料を調製した。
【0068】
得られた複合材料は、好適な可撓性を示し、炭素質材料はフレキシブルグラファイトシートによく密着しており、塗布した炭素質材料の厚さは約0.125mm以下であった。試料は、曲げることができ、被覆の亀裂や剥離は観察されなかった。接着性に関して、典型的には剥離は内部で、フレキシブルグラファイト基材の中で起こるが、被覆は結合剤とグラファイトとの界面で剥離しなかった。
【0069】
例2
混合物を塗布した基材が有孔フレキシブルグラファイトシートであった以外は、例1に記載した材料および手順を繰り返した。やはり、複合材料は、例1と同様に、塗布した炭素質材料の厚さ約0.125mm以下で、炭素質層の好適な可撓性および密着性を示した。
【0070】
例3
Vulcan炭素5グラムを60%PTFE溶液に加え、PTFEの最終濃度が20〜30%である溶液を形成した。この溶液にイソプロパノールを加え、攪拌して溶液粘度を調節し、スラリーを形成した。このスラリーを有孔グラファイトシートの表面に塗布し、シートを加熱炉中、115℃で約2時間乾燥させ、続いて加熱炉中、約333℃で約30分間加熱し、最終製品を形成した。被覆は基材に十分に密着しており、被覆を除去するには、基材の被覆表面を掻き取る必要があった。
【0071】
例4
本例では、PTFE溶液に剥離されたグラファイト粉末をさらに2.5グラム加えて、例3の手順を繰り返した。被覆は、例3の被覆と実質的に等しい密着性を示した。
【0072】
例5
本例では、例3および例4に準じて試料を調製した。Vulcan炭素−PTFE層に、カーボンブラック85〜95%およびNafion混合物の薄い層をスプレーまたはナイフ塗りにより施し、90℃で15分間熱処理した。例5の被覆した試料は、例3および4におけるよりも、優れた密着性を示した。被覆した表面を掻き取り、被覆を除去するのに必要な圧力は、例3および4の被覆を除去するのに必要な圧力よりも大きかった。
【0073】
例6
膨脹グラファイト粉末1グラムを、PVDF0.2グラムのアセトン溶液に加え、溶液を混合した。得られた粘性の液体を有孔GRAFOIL(登録商標)シートに塗布し、シート上に厚さ100ミクロンの層を形成した。被覆されたシートを加熱炉中、85℃で一晩乾燥させた。被覆の基材に対する密着性は、例1および2で示された密着性と同等で、例3〜5における被覆より大きかった。
【0074】
例7
本例では、可塑剤としてポリプロピレングリコールを上記のPVDFアセトン溶液に加え、例6の手順を繰り返した。例7の被覆は、例6の被覆と同等の密着性を示した。
【0075】
当業者には明らかなように、本発明の精神および範囲から離れることなく、様々な修正および変形を本発明に加えることができる。従って、本発明は、付随する請求項および均等物の範囲内に入る限り、本発明のそれらの修正および変形をすべて含む。
【0076】
本発明を上記の実施態様の説明により例示し、これらの実施態様をある程度詳細に説明したが、本発明者らは、本発明の範囲をそのような詳細に限定することを意図していない。当業者は、さらなる利点および修正を容易に見出すことができる。従って、本発明は、その広い態様で、特定の詳細部、代表的な装置および方法、および上記の例に限定されるものではない。従って、本発明者らの全体的な発明概念の精神および範囲から離れることなく、そのような詳細部から離れることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の特別な一実施態様による燃料電池の分解組立側面図である。
【図2】本発明の特別な一実施態様による炭素質被覆を施したガス拡散層を表す図である。
【図3】図2の、文字「A」により示す部分の詳細図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.対向する主要表面を有するシート形態にある、膨脹したグラファイト粒子の圧縮された集合体、
b.前記主要表面の一方の上にある疎水性重合体状結合剤、および
c.前記一主要表面上の重合体状結合剤と接触した炭素質材料、
を含んでなる、グラファイト製品。
【請求項2】
前記炭素質材料が、グラファイト、炭素ナノチューブ、炭素繊維、グラファイト繊維、炭素ナノファイバー、グラファイトナノファイバー、カーボンブラック、活性炭、およびそれらの組合せからなる群から選択された少なくとも一種の材料を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項3】
前記疎水性重合体状結合剤が、少なくともフッ素化化合物を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項4】
前記結合剤が、ポリフッ化ビニリデン、およびペルフルオロスルホン酸系重合体、ポリテトラフルオロエチレン、またはそれらの共重合体からなる群から選択された少なくとも一種の材料を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項5】
前記疎水性重合体状結合剤が、親水性化合物をさらに含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項6】
前記シートの少なくとも一方の表面に接着した触媒層をさらに含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項7】
前記一主要表面に接着したグラファイト粉末をさらに含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項8】
前記グラファイト粉末の前駆物質が、剥離されたグラファイトを含んでなる、請求項7に記載のグラファイト製品。
【請求項9】
前記炭素質材料中に分散された触媒をさらに含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項10】
前記たわみ性グラファイトシートが、複数の孔をさらに含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項11】
前記たわみ性グラファイトシートが、少なくとも一つの無孔区域をさらに含んでなる、請求項10に記載のグラファイト製品。
【請求項12】
前記シートが、少なくとも一つの有孔区域と前記シートの周辺部に少なくとも一つの無孔区域とをさらに含んでなり、前記結合剤が、ポリフッ化ビニリデンを含んでなり、前記炭素質材料が、グラファイト、炭素ナノチューブ、炭素繊維、グラファイト繊維、およびそれらの組合せの少なくとも一種を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項13】
前記シートが、前記対向する主要表面の一主要表面と第二表面との間に、その一主要表面から第二主要表面に流体を流すための複数の通路を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項14】
前記疎水性結合剤が、有機溶剤に可溶な化合物を含んでなる、請求項1に記載のグラファイト製品。
【請求項15】
たわみ性グラファイトシートの製造方法であって、
a.炭素質材料を疎水性重合体状結合剤に加えて混合物を形成する工程、
b.前記混合物をたわみ性グラファイト基材の表面に塗布する工程、および
c.前記混合物を塗布したたわみ性グラファイト基材を焼結させ、炭素質材料が密着したたわみ性グラファイトシートを形成する工程、
を含んでなる、方法。
【請求項16】
前記混合物を塗布する前に、前記たわみ性グラファイト基材に孔を開ける工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物を塗布した後に、前記フレキシブルグラファイト基材に孔を開ける工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記シートの主要表面にグラファイト粉末を接着させる工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記混合物中に触媒を分散させる工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物に親水性化合物を加える工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−511429(P2006−511429A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563838(P2004−563838)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/040639
【国際公開番号】WO2004/058494
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505003241)アドバンスド、エナジー、テクノロジー、インコーポレーテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED ENERGY TECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】