説明

フレキシブルプリント回路基板補強用フィルム、それからなるフレキシブルプリント回路補強板、およびそれらからなるフレキシブルプリント回路基板積層体

【課題】FPC基板の補強用フィルムとして、はんだリフロー工程においてカールの発生が抑制されたフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを提供すること。また、かかるフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムからなるフレキシブルプリント回路補強板、およびそれらからなるフレキシブルプリント回路基板積層体を提供すること。
【解決手段】二軸配向ポリエステルフィルム基材層を有するフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムであって、230℃で10分間加熱処理したときの該補強用フィルムの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の両方向において−1%以上4%未満であって、長手方向および幅方向の周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(E’)が、200℃において350〜2000MPaであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カールの抑制されたフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムに関する。また、かかるフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムからなるフレキシブルプリント回路補強板、およびそれらからなるフレキシブルプリント回路基板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの電子機器の技術進歩に伴って、フレキシブルプリント回路(以下、FPCと略記することがある)基板の需要が急激に伸びている。かかるFPC基板としては、電子機器の軽量化や小型化に伴い、基板フィルムの薄膜化が進んでいるが、それに伴い基板フィルム自体の剛性が低下し、FPCを製造する際の加工がより困難になってきている。このような加工性低下を改良する方法として、基板フィルムとは別にFPC補強用フィルムを補強板として用い、該補強板を、FPC基板において加工性が求められる部位に接着シートを介して貼りあわせることにより保持し、全体として剛性を持たせる方法が用いられている。
【0003】
従来、かかるFPC補強用フィルムには、ポリイミドフィルムを2層以上貼り合わせた積層フィルムが使用されてきた。しかしながら、ポリイミドは素材の性質上、フィルム化や75μm以上の膜厚のフィルムの作成が困難であり、また非常に高価なものである。その他、ポリイミドは比較的吸水しやすく、FPCなどの電子材料として取り扱いにくい特性も有している。さらに、耐熱性に優れてはいるが、本用途においては過剰品質である点も否めない。
【0004】
一方、FPC基板フィルムとしてはポリイミド以外の他素材も検討されており、例えば特許文献1では、ポリエチレンナフタレートフィルムを用いたFPC基板用フィルムが提案されており、加工時の補強用フィルムとして用いてもよいことが開示されている。しかしながら特許文献1に開示されているポリエチレンナフタレートフィルムを用いてはんだリフロー処理を行うと、カールが発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−129699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、FPC基板の補強用フィルムとして、はんだリフロー工程においてカールの発生が抑制されたフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを提供することにある。また、かかるフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムからなるフレキシブルプリント回路補強板、およびそれらからなるフレキシブルプリント回路基板積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するために以下の構成を採用するものである。
1.二軸配向ポリエステルフィルム基材層を有するフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムであって、230℃で10分間加熱処理したときの該補強用フィルムの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の両方向において−1%以上4%未満であって、長手方向および幅方向の周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(E’)が、200℃において350〜2000MPaであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【0008】
また本発明は、以下を包含する。
2.二軸配向ポリエステルフィルム基材層が、該層の重量を基準として2重量%以上50重量%以下のアスペクト比10以上の無機フィラーを含有する上記1に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
3.無機フィラーがカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、人造黒鉛、窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記2に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
4.二軸配向ポリエステルフィルム基材層の少なくとも片面に、オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を含む高分子バインダーを含む塗布層を有する上記1〜3のいずれか1に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
5.塗布層における高分子バインダーの含有量が、塗布層の重量を基準として10重量%以上80重量%以下である上記4に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
6.オキサゾリン基を有するアクリル樹脂の含有量が、高分子バインダーの重量を基準として3重量%以上90重量%以下である上記4または5に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
7.二軸配向ポリエステルフィルム基材層を構成するポリエステルが、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである上記1〜6のいずれか1に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
8.上記1〜7のいずれかに記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを用いたフレキシブルプリント回路補強板。
9.フレキシブルプリント回路基板に接着シートを介して上記8に記載のフレキシブルプリント回路補強板が貼り合わされたフレキシブルプリント回路基板積層体。
10.接着シートがエポキシ系接着シートまたはアクリル系接着シートである上記9に記載のフレキシブルプリント回路基板積層体。
11.フレキシブルプリント回路基板のベースフィルムがポリイミドまたはポリエステルである上記9または10に記載のフレキシブルプリント回路基板積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、FPC基板の補強用フィルムとして、はんだリフロー工程においてカールの発生が抑制されたフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを提供することができる。また、かかるフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムからなるフレキシブルプリント回路補強板、およびそれらからなるフレキシブルプリント回路基板積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、連続製膜方向を縦方向または長手方向またはMDと呼称する場合がある。また、連続製膜方向と直行する方向を横方向または幅方向またはTDと呼称する場合がある。
【0011】
<二軸配向ポリエステルフィルム基材層>
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、二軸配向ポリエステルフィルム基材層を有する。該基材層を構成するポリエステルは、特に限定されないが、ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルが好ましい。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸等を例示することができる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール等を例示することができる。
【0012】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが特に好ましい。なお、ポリエステルは、ホモポリマーであってもよく、また本発明の目的を損なわない範囲においては、コポリマーであってもよく、これらのブレンドであってもよい。
【0013】
(ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルム基材層を構成するポリエステルとしては、ナフタレンジカルボン酸またはその誘導体とエチレングリコールとの重縮合によって得られるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、中でもポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。ポリエステルとしてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いることにより、フィルムの耐熱寸法安定性の向上効果を高めることができる。
【0014】
本発明のポリエステルは、ホモポリマーであってもよく、また共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、全酸成分を基準として10モル%以下、さらに5モル%以下であることが好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分が挙げられる。
【0015】
ポリエステルは公知の方法を適用して製造することができる。例えば、ジオールとジカルボン酸および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0016】
ポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40dl/g以上0.80dl/g以下であることがさらに好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.80dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下することがある。
【0017】
該基材層において、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは該層の重量を基準として50重量%以上98重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上98重量%以下、特に好ましくは80重量%以上98重量%以下である。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの含有量が下限値に満たない場合、補強板が脆くなり、補強効果が十分でないことがある。一方、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの含有量が上限値を超える場合、200℃における貯蔵弾性率(E’)を本発明が規定する数値範囲とすることが困難となる傾向にあり、カール抑制の向上効果が低くなる傾向にある。また、放熱効果が十分に発現しないことがある。
【0018】
(無機フィラー)
本発明における二軸配向ポリエステル基材層は、アスペクト比10以上、好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上の無機フィラーを含有することが好ましい。このような特定のアスペクト比を有する無機フィラーを含有することにより、200℃における貯蔵弾性率(E’)を本発明が規定する数値範囲とすることが容易となり、カール抑制の向上効果を高くすることができる。また、アスペクト比の上限は特に限定されないが、実質的には1500以下、好ましくは1000以下である。
【0019】
かかる無機フィラーの含有量は、二軸配向ポリエステル基材層の重量を基準として、2重量%以上50重量%以下が好ましく、これにより200℃における貯蔵弾性率(E’)を本発明が規定する数値範囲とすることがより容易となり、カール抑制の向上効果をさらに高くすることができる。無機フィラーの含有量が下限値に満たない場合は、200℃における貯蔵弾性率(E’)が低くなる傾向にあり、はんだリフロー工程において発生するカールを抑制する効果が低くなる傾向にある。他方、無機フィラーの含有量が上限値を超えると、補強板が脆くなり、折り曲げた際などに補強効果が十分でないことがある他、製膜時に切断が発生しやすくなる。このような観点から、無機フィラーの含有量は、さらに好ましくは2重量%以上30重量%以下、特に好ましくは2重量%以上20重量%以下である。なお、上記数値範囲内においては、無機フィラーの含有量が多いほど、200℃における貯蔵弾性率(E’)は大きくなる傾向にあり、カール抑制の向上効果が高くなる傾向にある。
【0020】
無機フィラーとしては、200℃における貯蔵弾性率(E’)をより高くする観点、およびカール抑制の向上効果を高める観点から、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、人造黒鉛、窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーであることが好ましい。また、これらの無機フィラーの中でもカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーは、少量の添加でも200℃における貯蔵弾性率(E’)の向上効果を高くし、カール抑制効果が発現しやすくなるため好ましい。
【0021】
無機フィラーの平均粒径または平均繊維長は、好ましくは0.5〜300μm、さらに好ましくは0.5〜200μm、特に好ましくは0.5〜50μmである。平均粒径または平均繊維長が上記数値範囲にあると、200℃における貯蔵弾性率(E’)を本発明が規定する数値範囲とすることが容易となり、カール抑制の向上効果を高くすることができる。平均粒径が下限値に満たない場合、分散性が悪くなり無機フィラーの凝集が生じやすい傾向にあるため、フィルムに粗大突起を形成し、生産工程上のトラブルになる可能性がある。また、かかる凝集により200℃における貯蔵弾性率(E’)の向上効果が低くなる傾向にあり、カール抑制の向上効果が低くなる傾向にある。一方、平均粒径または平均繊維長が上限値を超える場合、フィルムの表面が粗くなる傾向にあり、また無機フィラーが脱落しやすくなる傾向にある。
【0022】
また、無機フィラーの平均厚みまたは平均繊維径は、好ましくは0.001〜15μm、さらに好ましくは0.01〜15μm、特に好ましくは0.1〜1μmである。平均厚みまたは平均繊維径が上記数値範囲にあると、200℃における貯蔵弾性率(E’)を本発明が規定する数値範囲とすることが容易となり、カール抑制の向上効果を高くすることができる。平均粒径が下限値に満たない場合、分散性が悪くなり無機フィラーの凝集が生じやすい傾向にあるため、フィルムに粗大突起を形成し、生産工程上のトラブルになる可能性がある。また、かかる凝集により200℃における貯蔵弾性率(E’)の向上効果が低くなる傾向にあり、カール抑制の向上効果が低くなる傾向にある。一方、平均厚みまたは平均繊維径が上限値を超える場合、フィルムの表面が粗くなる傾向にあり、また無機フィラーが脱落しやすくなる傾向にある。
【0023】
本発明における無機フィラーは、ポリエステルとの密着性を高めるために、表面処理を行ってもよい。かかる表面処理としては、特に限定されないが、例えばエポキシシランやビニルシラン処理、強酸処理などで表面に官能基を付ける方法が挙げられる。
【0024】
無機フィラーを、基材層を構成するポリエステルに含有させる方法としては、各種の方法を用いることができ、代表的な方法として下記のような方法を挙げることができる。
(ア)ポリエステル合成時のエステル交換反応もしくはエステル化反応終了前に添加、もしくは重縮合反応開始前に添加する方法。
(イ)フィルム製膜時に、ポリエステルチップなどとともに押出機に投入し、溶融混練する方法。
(ウ)上記(ア)、(イ)の方法において、無機フィラーを多量添加したマスターペレットを製造し、これらと添加剤を含有しないポリエステルとを混練して所定量の添加物を含有させる方法。
(エ)上記(ウ)のマスターペレットをそのまま使用する方法。
【0025】
なお、(ア)のポリエステル合成時に添加する方法を用いる場合には、フィラーをグリコールに分散したスラリーとして、反応系に添加することが好ましい。
一般的にこれら無機フィラーは、凝集して粗大凝集フィラーとなることが多く、粗大凝集フィラーの個数を減らすために、製膜時のフィルターとして線径15μm以下のステンレス鋼細線よりなる平均目開き10〜100μm、好ましくは平均目開き20〜50μmの不織布型フィルターを用い、溶融ポリマーを濾過することが好ましい。
【0026】
(その他添加剤)
基材層を構成するポリエステルには、その他の添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤を本発明の目的を逸脱しない範囲内で、必要に応じて混合して含有させてもよい。これらの添加剤を含む場合、その含有量は基材層の重量を基準として5重量%以下であることが好ましく、さらに3重量%以下、特に1重量%以下であることが好ましい。
【0027】
<塗布層>
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、上述の二軸配向ポリエステルフィルム基材層の少なくとも片面に、オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を含む高分子バインダーを含有してなる塗布層を有することが好ましい。これにより、市販の接着シートとの密着性に優れ、はんだリフロー工程において、市販の接着シートを用いてFPC基板と補強板とを貼り合せた場合であっても、接着界面における部分的な剥がれや膨れの発生をさらに抑制することができる。
【0028】
(高分子バインダー)
塗布層を構成する高分子バインダーは、オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を含有する。かかる高分子バインダーを用いることにより、市販の接着シートを介してフレキシブルプリント回路基板とフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムとの接着性をさらに高めることができる。
【0029】
オキサゾリン基を有するアクリル樹脂として、以下のオキサゾリン基を有するモノマーからなるアクリル樹脂が例示される。
オキサゾリン基を有するモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手しやすく好適である。
【0030】
オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を用いることにより、塗布層の凝集力が向上し、塗布層での凝集破壊の発生を防ぐことができる。そのため、接着シートと接着させる際に塗布層面に接着させることにより、接着シートとの密着性が強固なものとなり、同時に補強用フィルムの熱収縮率が一定の範囲にあることにより、はんだリフロー工程を経ても接着シートとの接着界面が剥がれにくく、また膨れの発生を抑制することができ、フレキシブルプリント回路基板補強板として十分に回路基板を補強することができる。
【0031】
オキサゾリン基を有するモノマー成分は、アクリル樹脂の繰り返し単位を基準として、5モル%以上80モル%以下であることが好ましく、10モル%以上50モル%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、アクリル樹脂は共重合成分として、さらにポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーを含有してもよい。かかるポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたものを挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖はポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド等を挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位は3〜100であることが好ましい。
【0033】
塗布層中にさらにポリエステル樹脂を含む場合、ポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を用いることで、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の相溶性がポリアルキレンオキシド鎖を含有しないアクリル樹脂に比べて向上する。
【0034】
アクリル樹脂がポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーを含有する場合、ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位が3より少ないとポリエステル樹脂とアクリル樹脂との相溶性が十分に向上しないことがある。一方、ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位が100より大きいと塗布層の耐湿熱性が下がり、高湿度、高温下で接着シートとの密着性が低下することがある。
【0035】
さらに、アクリル樹脂を構成するその他の共重合成分として、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシル基またはその塩を有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N,N−ジアルコキシアクリルアミド、N,N−ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド等のアミド基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエンが挙げられる。
【0036】
また、高分子バインダーとして、該アクリル樹脂に加えて、さらに他の成分を併用することができ、例えばポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂を併用することにより、ポリエステル基材層と塗布層との接着性を高めることができる。
【0037】
ポリエステル樹脂として、多価塩基酸成分とジオール成分から得られるポリエステルを用いることが好ましい。多価塩基成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。高分子バインダーを構成するポリエステル樹脂としては、2種以上のジカルボン酸成分を用いた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。ポリエステル樹脂には、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分が、或いはp−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0038】
ポリエステル樹脂のジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを例示することができる。
【0039】
高分子バインダーのポリエステル樹脂のガラス転移点は、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは60〜80℃である。この範囲であれば、ポリエステル基材層との優れた接着性に加え、さらに優れた耐傷性を得ることができる。他方、ガラス転移温度が40℃未満であるとフィルム同士でブロッキングが発生しやすくなり、100℃を超えると塗膜が硬く、また脆くなることがある。
【0040】
高分子バインダーの含有量は、塗布層の重量を基準として10重量%以上80重量%以下であることが好ましい。また、高分子バインダーの含有量の下限値は20重量%であることがさらに好ましく、高分子バインダーの含有量の上限値は50重量%であることがさらに好ましい。高分子バインダーの含有量がかかる範囲にあることにより、接着シートとの接着性を強固なものにすることができ、かつ補強用フィルムの熱収縮率が一定の範囲にある場合にはんだリフロー後の界面の剥がれや膨れの発生を抑制することができる。
【0041】
また、オキサゾリン基を有するアクリル樹脂の含有量は、高分子バインダーの重量を基準として3重量%以上90重量%以下であることが好ましい。また該アクリル樹脂の含有量の下限値は15重量%であることがより好ましく、25重量%であることがさらに好ましい。また、該アクリル樹脂の含有量の好ましい上限値は80重量%である。
【0042】
高分子バインダーに占めるオキサゾリン基を有するアクリル樹脂の割合がかかる範囲にあることにより、塗布層の凝集力が向上して凝集破壊が生じにくくなり、はんだリフロー後の接着界面における剥がれや膨れを抑制することができ、好ましい範囲になるほどその効果が高くなる。一方、該アクリル樹脂が下限に満たない場合、塗布層の凝集力が低下し、接着シートとの接着性が不十分となることがある。また、該アクリル樹脂が上限を超える場合、ポリエステルフィルムと塗布層との密着性が低下することがある。
【0043】
また、高分子バインダーがさらにポリエステル樹脂を含む場合、ポリエステル樹脂の含有量は、高分子バインダーの重量を基準として5重量%以上95重量%以下であることが好ましい。またポリエステル樹脂の含有量の下限値は10重量%であることがより好ましく、20重量%であることがさらに好ましい。またポリエステル樹脂の含有量の上限値は90重量%であることがより好ましく、さらには85重量%であり、75重量%であることが特に好ましい。
【0044】
(微粒子)
本発明の塗布層はフィルムの滑り性を高める目的で微粒子を含有することができる。微粒子の種類は特に制限されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機微粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機微粒子を挙げることができる。これらのうち、水不溶性の固体物質は、水分散液中で沈降するのを避けるため、比重が3を超えない微粒子を選ぶことが好ましい。
【0045】
微粒子の平均粒子径は40〜120nmの範囲が好ましい。平均粒子径が120nmより大きいと粒子の落脱が発生しやすくなり、40nmよりも小さいと十分な滑性、耐傷性が得られない場合がある。
微粒子の含有量は、塗布層の重量を基準として10重量%未満の範囲が好ましい。10重量%を超えると塗膜の凝集力が低くなり接着性が悪化することがある。また微粒子の含有量の下限は、塗布層の重量を基準として0.1重量%であることが好ましい。
【0046】
(脂肪族ワックス)
塗布層には、ブロッキングを防止する目的で脂肪族ワックスを添加してもよい。かかる目的で脂肪族ワックスを添加する場合、その含有量は塗布層の重量を基準として、好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1重量%〜10重量%である。含有量が下限に満たない場合、フィルム表面の滑性が得られず、フィルム同士がブロッキングすることがある。一方、含有量が上限を超えるとポリエステルフィルム基材層および接着シートに対する接着性が不足する場合がある。
【0047】
脂肪族ワックスの具体例としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスを挙げることができる。これらの中でも、接着シートとの接着性と滑り性が良好なことから、カルナバワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが特に好ましい。これらは環境負荷の低減が可能であることおよび取扱のし易さから水分散体として用いることが好ましい。
【0048】
(その他の成分)
本発明においては塗布層を形成する成分として、上記成分以外に、塗布する場合の濡れ性を改良するために界面活性剤などの濡れ剤を用いてもよい。また、所望に応じてその他の成分を配合することができる。その他の配合剤としては、メラミン樹脂等の他の樹脂、帯電防止剤、着色剤、軟質重合体、フィラー、熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、レベリング剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、天然油、合成油、乳剤、充填剤、硬化剤、難燃剤などが挙げられ、その配合割合は、あくまで本発明の目的を損なわない範囲で選択される。
【0049】
(塗布層の形成方法)
塗布層の形成については、例えば延伸可能なポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗膜を形成する成分を含む水溶液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。塗布層の形成時期について、さらに具体的には、未延伸フィルム、縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、あるいは縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたフィルム(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)のいずれかの時期に塗布液を塗布することが好ましく、その後、さらに縦延伸および/または横延伸させる方法が挙げられる。
【0050】
塗布液の固形分濃度は塗布液の重量を基準として1〜20重量%であることが好ましい。かかる範囲にある場合、塗布斑の発生を抑制しやすい。
塗布方法としては、公知の任意の塗布方が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを単独または組み合わせて用いることができる。
【0051】
<フィルム特性>
(貯蔵弾性率(E’))
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、長手方向および幅方向において、周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(E’)が、200℃において350〜2000MPaである。200℃における貯蔵弾性率(E’)が上記数値範囲にあると、はんだリフロー工程におけるカール発生を抑制することができる。200℃における貯蔵弾性率(E’)が低すぎる場合は、カール発生を抑制することができない。200℃における貯蔵弾性率(E’)が高いほどカール抑制の効果は高くなる傾向にあるが、一方で、200℃における貯蔵弾性率(E’)が2000MPaを超えるフィルムの製膜は現実的に困難性が高い。このような観点から、200℃における貯蔵弾性率(E’)は、400〜1500MPaが好ましく、500〜1100MPaがさらに好ましい。
【0052】
貯蔵弾性率(E’)を上記数値範囲とするためには、ポリエステルの固有粘度や融点、延伸条件、熱固定条件等を適宜調整すればよい。例えば、ポリエステルの固有粘度や融点を高くしたり、延伸倍率を高くしたり熱固定温度を高くしたりすることによって、配向結晶化を高くすることで、貯蔵弾性率(E’)は高くなる傾向にある。また、ポリエステルとして、ポリエチレンンナフタレンジカルボキシレートを用いることも効果的である。さらに、アスペクト比10以上の無機フィラーを、上述した態様でフィルムに含有させることによっても、上記貯蔵弾性率(E’)を達成することができ、本発明における好ましい達成方法として挙げることができる。
【0053】
(熱収縮率)
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、230℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の両方向において−1%以上4%未満である。かかる熱収縮率の下限値は、好ましくは−0.5%、さらに好ましくは0%である。また、かかる熱収縮率の上限値は好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0%である。
【0054】
補強用フィルムの熱収縮率が下限値に満たない場合、あるいは上限値を超える場合は、上述の塗布層を有していたとしても、FPC基板との貼り合せに用いる市販の接着シートとの密着性が低下し、はんだリフロー後にその密着性を保つことができず、接着シートと補強板との接着界面に剥がれや膨れが生じる。また、はんだリフロー工程において、FPC積層体として、カールが発生してしまう。上記数値範囲内においても、補強用フィルムの熱収縮率が好ましい範囲になるほど、さらにFPC基板とのひずみが小さくなり、接着シートとの界面部分の剥がれ面積が小さくなることに加え、FPC積層体としてのカールがより低減される傾向にある。
【0055】
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、フィルム長手方向および幅方向の両方向においてかかる熱収縮率特性を有することを要する。一方でも熱収縮率がはずれる場合は、カール抑制の効果が不十分となる。また、はんだリフロー後にその密着性を保つことができず、接着シートと補強板との接着界面に剥がれや膨れ、およびピール強度の低下を引き起こす。
【0056】
かかる熱収縮率は、ポリエステルの種類、延伸条件、熱固定温度、熱弛緩処理条件、アニール処理条件等を適宜調整することによって達成することができる。例えば、ガラス転移点Tgや融点Tmの高いポリエステルを選択したり、延伸倍率を低くしたり、熱固定温度を高くしたり、熱弛緩処理における弛緩率を高くしたり、温度を高くしたり、アニール処理における温度を高くしたり、時間を長くしたりすることによって、熱収縮率は低くなる傾向にある。
【0057】
かかる熱収縮率の好ましい達成方法としては、ポリエステルの種類としてポリエチレンナフタンジカルボキシレートを選択して、後述する延伸条件で二軸延伸を行った後に熱固定処理を施し、かかる熱固定処理温度が(Tm−100℃)以上の温度、好ましくは220℃〜250℃の温度条件で施すこと、その後150℃〜250℃の温度条件で1〜3%の熱弛緩処理を行い、さらにオフライン工程にて150〜250℃で5分以上熱処理(アニール処理)し、50〜80℃で除冷する方法を挙げることができる。また、かかる熱処理条件の範囲内で温度を高くするか、または処理時間を長くすることにより、熱収縮率を好ましい範囲にすることができる。
【0058】
本発明においては、200℃における貯蔵弾性率(E’)と、230℃で10分間熱処理したときの熱収縮率が同時に上記数値範囲にあることにより、カールの抑制に非常に優れるものである。
【0059】
(カール)
本発明においては、後述の方法によって求められるカールが、20mm未満である。好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下である。カールが上記数値範囲にあると、FPC基板とした際の反りが小さいことを意味し、品質の優れたFPC基板とすることができる。
【0060】
<フィルム厚み>
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムのフィルム厚みは、50μm以上250μm以下であることが好ましく、かかる用途において適度なハンドリング性が得られる。
【0061】
<製膜>
本発明のフィルムを得る方法を以下に具体的に述べるが、以下の例に特に限定されるものではない。
ポリエステルは所望に応じて乾燥後、押出機に供給してTダイよりシート状に成形される。
【0062】
Tダイより押し出されたシート状成形物を表面温度10〜60℃の冷却ドラムで冷却固化し、この未延伸フィルムを例えばロール加熱または赤外線加熱によって加熱した後、縦方向(連続製膜方向)に延伸して縦延伸フィルムを得る。かかる縦延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸温度はポリエステルのガラス転移点(Tg)より高い温度、更にはTgより20〜40℃高い温度とするのが好ましい。縦延伸倍率は1.5倍以上3.5倍以下の範囲で行うことが好ましく、さらに好ましくは1.5倍以上3.0倍以下の範囲、特に好ましくは2.0倍以上3.0倍以下の範囲である。縦延伸倍率を上記数値範囲とすることによって、貯蔵弾性率(E’)を達成しやすくなる。縦延伸倍率が下限に満たない場合、補強板としての強度が十分でないことがある他、フィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られないことがある。また縦延伸倍率が上限を超える場合、本発明の熱収縮率特性が得られず、またフィルムが破断するなどの問題が生じる。
【0063】
得られた縦延伸フィルムは、続いて横延伸(連続製膜方向に垂直な方向への延伸)を行い、その後熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、かかる処理はフィルムを走行させながら行う。
【0064】
横延伸処理はポリエステルのガラス転移点(Tg)より20℃高い温度から始める。そしてポリエステルの融点(Tm)より(120〜30)℃低い温度まで昇温しながら行う。この横延伸開始温度は、(Tg+40)℃以下であることが好ましい。また横延伸最高温度は、Tmより(100〜40)℃低い温度であることが好ましい。
横延伸過程の昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、通常は段階的に昇温する。例えば、ステンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、各ゾーンごとに所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0065】
横延伸倍率は2.85倍以上4.0倍以下の範囲で行うことが好ましく、さらに好ましくは3.00倍以上3.5倍以下の範囲、特に好ましくは3.00倍以上3.30倍以下の範囲である。横延伸倍率を上記数値範囲とすることによって、貯蔵弾性率(E’)を達成しやすくなる。横延伸倍率が下限値に満たない場合、補強板としての強度が十分でないことがある他、フィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られないことがある。また横延伸倍率が上限値を超える場合、本発明の熱収縮率特性が得られず、またフィルムが破断するなどの問題が生じる。
【0066】
二軸延伸されたフィルムは、その後熱固定処理が施される。熱固定処理温度は(Tm−100℃)以上、さらに好ましくは(Tm−70)℃〜(Tm−40)℃の範囲で行うことができ、特に220℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。熱固定処理後、150℃〜250℃の温度条件で1〜3%の熱弛緩処理を行い、さらにオフライン工程にて150〜250℃で30秒以上熱処理(アニール処理)し、50〜80℃で除冷する。これらの工程を経ることにより、本発明の熱収縮率特性を有するフィルムを得ることができる。また、オフライン工程で行うアニール処理は、かかる熱処理条件の範囲内で温度を高くするか、または処理時間を長くすることにより、熱収縮率を好ましい範囲にすることができる。アニール処理時間の上限は特に制限されないが、長時間すぎるとフィルム物性が低下する可能性があるため、高々1時間であることが好ましい。
【0067】
<接着シート>
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムとフレキシブルプリント回路基板とを貼りあわせるに際し、接着シートを介して貼りあわせることが好ましい。かかる接着シートとして市販の接着シートを用いることができ、例えばエポキシ系接着シートまたはアクリル系接着シートを用いることができる。これら市販の接着シートの具体例として、TFA−880CC35(京セラケミカル株式会社製)、SAFV(ニッカン工業株式会社製)、D3410(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製)が挙げられる。
【0068】
<フレキシブルプリント回路基板積層体>
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを用いてフレキシブルプリント回路基板補強板に加工し、得られた補強板をフレキシブルプリント回路基板の補強が必要な部位に貼り合せて用いることができる。
【0069】
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムと貼りあわせて用いられるフレキシブルプリント回路基板のベースフィルムとして、ポリイミドまたはポリエステルが例示される。ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。フレキシブルプリント回路基板の厚みは、通常7.5〜250μm程度である。
【0070】
また、本発明のフレキシブルプリント回路基板積層体は、フレキシブルプリント回路基板に接着シートを介して本発明のフレキシブルプリント回路基板補強板を貼り合せた構成を有する。フレキシブルプリント回路基板積層体は、はんだリフロー工程後に接着シートを介した接着界面における剥がれや膨れ、反りの発生がなく、ピール強度が高く、補強効果が高いことから、部品搭載部など回路基板だけでは撓みが生じやすい部位や、コネクター接続部などコネクターに取り付ける際に折れ曲がったりしやすい部位といった、より補強性が必要とされる部位に好適に用いることができる。
【0071】
なお、本発明のフレキシブルプリント回路のベースフィルム又は基板に形成される回路パターンについては特に制限はなく、従来から用いられている一般的なものが使用される。本発明のフレキシブルプリント回路基板積層体は、補強板の接着性及び接着部の耐熱性に優れ、かつフレキシブルプリント回路基板に発生する熱の放熱性にも優れることから、車載用の電子機器などの高温環境下で使用される電子機器の電気回路に有用である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
1.熱収縮率
フィルムサンプルに10cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに230℃のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム連続製膜方向(MD)と、製膜方向に垂直な方向(TD)において、下記式にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)
={(熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離}×100
【0074】
2.動的粘弾性
動的粘弾性測定装置((株)オリエンテック製R HEOVIBRON model DDV−01FP)を用い、サンプルを長手方向または幅方向にセットし、各方向について下記の条件設定にて測定した。
測定モード:温度特性 引張
試料寸法:チャック間=30mm、幅=3mm
静荷重:10g
測定温度:室温〜230℃
昇温速度:2℃/分
インターバール:2℃
加振モード:単一波形
定変位振幅:25μm
最小荷重振幅:0g
測定周波数:1Hz
【0075】
3.はんだリフローテスト
はんだリフローは、株式会社タムラ製作所製のはんだリフロー炉(TNX25−537EM)を用いてピーク温度260℃で15秒間のリフロー処理を行い、処理後の外観評価を行った。なお評価にあたり、以下の方法で作成された二軸配向ポリエステルフィルム/市販の補強用フィルム接着用接着シート/ポリイミドフィルムを基材とした片面銅張積層板からなるフレキシブルプリント回路基板積層体を用いた。
【0076】
3−1.フレキシブルプリント回路基板積層体の作成方法
作成した二軸配向ポリエステルフィルムの上に、市販の補強用フィルム接着用接着シート(SAFV(商品名):ニッカン工業株式会社製)、さらに接着シートの上にポリイミドフィルムを基材とした片面銅張積層板(F―30VC1(商品名):ニッカン工業株式会社製)をポリイミドフィルム側を接着シートに面するようにしてのせた。この積層体に温度100℃、圧力3MPaで5分間プレスした後、さらに温度を上げ160℃、圧力3MPaで5分間プレスし、そのまま60分間の熱処理を施した。その後室温まで冷却し取り出した。
【0077】
3−2.外観評価
(気泡、膨れ)
リフロー処理後のフレキシブルプリント回路基板積層体について、接着シートと補強板との界面に気泡や膨れの発生があるか補強板側から観察し、測定範囲5cm×5cm四方における気泡、膨れの発生面積を求めて下記の基準で評価した。
A: 気泡、膨れの発生した面積が10%未満
B: 気泡、膨れの発生した面積が10%以上15%未満
C: 気泡、膨れの発生した面積が15%以上
(基材の反り(カール))
試料寸法を15cm×15cmとし、リフロー処理後のフレキシブルプリント回路基板積層体サンプルを相対湿度55%、23℃の雰囲気下で24時間放置した後、フィルムのカールが下に凸となるように水平な盤上に置いた状態で、盤上からの4隅のカール高さ(mm)を測定し、最も大きい値を基材の反り(カール)とした。
【0078】
4.無機フィラー
無機フィラーの大きさは、以下の測定方法により求めた。
【0079】
4−1.無機フィラーが球状である場合
(平均粒径)
平均粒径は、HORIBA製LA−750パーティクルサイズアナライザー(Particle Size Analyzer)を用いて測定した。50マスパーセントに相当する粒径を読み取り、この値を平均粒径とした。
【0080】
4−2.無機フィラーが平板状である場合
(平均厚み)
まず、エポキシ樹脂中に無機フィラーを10wt%程度分散させ、硬化させ、無機フィラーが包埋された包埋サンプルを作成した。このとき平板状の無機フィラーは、平板の面が上(または下)を向くように向きがほぼ揃う。次いで、かかる包埋サンプルから、平板状の無機フィラーにおける平板の面に対してできるだけ垂直な方向にスライスサンプルを切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観測し、50個の無機フィラーについて断面(平板の面に対してほぼ垂直方向に切断した断面)を観測し、厚みを測定し、それらの平均値を平均厚みとして求めた。
(平均粒径)
平均粒径は、HORIBA製LA−750パーティクルサイズアナライザー(Particle Size Analyzer)を用いて測定した。50マスパーセントに相当する粒径を読み取り、この値を平均粒径とした。
(アスペクト比)
アスペクト比は平均粒径、平均厚みを用いて次式にて計算した。
アスペクト比=平均粒径/平均厚み
【0081】
4−3.無機フィラーが繊維状である場合
(平均繊維径)
平均繊維径は、JIS R7607に準じ、黒鉛化炭素短繊維は光学顕微鏡、気相法炭素繊維および熱伝導性フィラーは走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(平均繊維長)
平均繊維長は、個数平均繊維長であり、黒鉛化炭素短繊維は光学顕微鏡、気相法炭素繊維および熱伝導性フィラーは走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000本測定(10視野、200本ずつ測定)し、その平均値から求めた。倍率は糸長さに応じて適宜調整した。
(アスペクト比)
アスペクト比は平均繊維径、平均繊維長を用いて次式にて計算した。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0082】
[塗布層中の樹脂組成と各成分の配合比]
実施例と比較例で用いた塗布層の組成と配合は、表1の通りである。
【0083】
【表1】

【0084】
ここで塗布層を構成する各成分は以下のものを用いた。
アクリル:メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されているアクリル樹脂(Tg=50℃)を用いた。なお、アクリル樹脂は次の方法で製造されたものであり、特開昭63−37167号公報の製造例1〜3に記載の方法に準じている。すなわち、四つ口フラスコに、イオン交換水302部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、更にモノマー類である、メタクリル酸メチル23.3部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン22.6部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸40.7部、アクリルアミド13.3部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、撹拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が25%のアクリルの水分散体を得た。
ポリエステル:酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸63モル%/イソフタル酸32モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル% 、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されているポリエステル(Tg=76℃、平均分子量12000)を用いた。なお、ポリエステルは次の方法で製造したものであり、特開平06−116487 号公報の実施例1に記載の方法に準じている。すなわち、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル42部、イソフタル酸ジメチル17部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4部、エチレングリコール33部、ジエチレングリコール2部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃ にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。
微粒子:シリカの無機粒子(平均粒子径:100nm)を用いた。
濡れ剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製、商品名「ナロアクティーN−70」)を用いた。
添加剤:カルナバワックス(中京油脂株式会社製、商品名「セロゾール524」)を用いた。
【0085】
[実施例1]
平均繊維径80nm、平均繊維長10μmのアスペクト比125のカーボンナノファイバー(昭和電工(株)製、VGCF−S)を基材層の重量を基準として2重量%含有するポリエチレンナフタレンジカルボキシレート樹脂(固有粘度0.60dl/g(o−クロロフェノール中、35℃))を、290℃に加熱された押出機に供給し、290℃のダイスよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度60℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを、140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.0倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した後、その片面に表1に記載の塗布層用組成物からなる塗剤1(固形分濃度3%の水性塗液)をロールコーターで均一に塗布した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、150℃に加熱された雰囲気中で長手に垂直な方向(横方向)に3.0倍で延伸した。その後テンタ−内で250℃の熱固定を行い、240℃で2%の弛緩後、均一に除冷して、室温まで冷やして175μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。さらに得られたフィルムをIRヒーターを用いて230度で1分間熱アニール処理を行った後、50度の温度雰囲気下で除冷した。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0086】
得られたフィルムを用いて評価方法に準じてフレキシブルプリント回路基板積層体を作成し、はんだリフローテストを行ったところ、補強板と接着シートとの界面に発生した気泡または膨れの面積は10%未満であり、密着性良好であった。また、カールも小さいものであった。
【0087】
[実施例2〜12、比較例1]
塗剤種類、無機フィラーの種類および添加量、アニール処理温度を表2に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0088】
[比較例2]
カーボンナノファイバーの含有量を、基材層の重量を基準として5重量%とし、延伸倍率を、長手方向(縦方向)に3.1倍、長手に垂直な方向(横方向)に3.2倍とし、熱固定温度を230℃とし、さらにIRヒーターを用いたアニール処理を実施しなかった以外は実施例1と同様の方法にてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0089】
[比較例3、4]
塗剤種類、無機フィラーの種類および添加量、アニール処理温度を表2に示すとおりとする以外は、比較例2と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
なお、表2における無機フィラーは以下のとおりである。
VGCF:平均繊維径80nm、平均繊維長10μm、アスペクト比125のカーボンナノファイバー(昭和電工(株)製、VGCF−S)
CF:平均繊維径8μm、平均繊維長200μm、アスペクト比25の炭素繊維(帝人(株)製、ラヒーマ R−301)
BN:平均厚み0.1μm、平均粒径8.9μm、アスペクト比89の窒化ホウ素(昭和電工(株)製、UHP−1)
人造黒鉛:平均厚み0.1μm、平均粒径10μm、アスペクト比100の人造黒鉛(昭和電工(株)製、UFG−30)
TiO:平均粒径1.5μmの酸化チタン
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムは、はんだリフロー工程にけるカール発生が抑制されており、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリエステルフィルム基材層を有するフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムであって、230℃で10分間加熱処理したときの該補強用フィルムの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の両方向において−1%以上4%未満であって、長手方向および幅方向の周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(E’)が、200℃において350〜2000MPaであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項2】
二軸配向ポリエステルフィルム基材層が、該層の重量を基準として2重量%以上50重量%以下のアスペクト比10以上の無機フィラーを含有する請求項1に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項3】
無機フィラーがカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、人造黒鉛、窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項4】
二軸配向ポリエステルフィルム基材層の少なくとも片面に、オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を含む高分子バインダーを含む塗布層を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項5】
塗布層における高分子バインダーの含有量が、塗布層の重量を基準として10重量%以上80重量%以下である請求項4に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項6】
オキサゾリン基を有するアクリル樹脂の含有量が、高分子バインダーの重量を基準として3重量%以上90重量%以下である請求項4または5に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項7】
二軸配向ポリエステルフィルム基材層を構成するポリエステルが、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜6のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルプリント回路基板補強用フィルムを用いたフレキシブルプリント回路補強板。
【請求項9】
フレキシブルプリント回路基板に接着シートを介して請求項8に記載のフレキシブルプリント回路補強板が貼り合わされたフレキシブルプリント回路基板積層体。
【請求項10】
接着シートがエポキシ系接着シートまたはアクリル系接着シートである請求項9に記載のフレキシブルプリント回路基板積層体。
【請求項11】
フレキシブルプリント回路基板のベースフィルムがポリイミドまたはポリエステルである請求項9または10に記載のフレキシブルプリント回路基板積層体。