説明

フレキシブルプリント基板及びその製造方法

【課題】優れた耐屈曲性を有するフレキシブルプリント基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】絶縁基板10と、絶縁基板10の少なくとも一方の主面10a側に設けられる配線回路30とを備えるフレキシブルプリント基板100において、配線回路30は、第1金属結晶粒36を含む第1金属層33と、第1金属層33に隣接し、第2金属結晶粒37を含む第2金属層34とを有し、第1金属層33及び第2金属層34が、絶縁基板10の主面10aに直交する方向に沿って積層される積層体35を備えており、第1金属結晶粒36の平均粒径が第2金属結晶粒37の平均粒径より小さいフレキシブルプリント基板100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク、携帯電話、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの配線として、フレキシブルプリント基板が使用されている。
【0003】
近年、フレキシブルプリント基板は、その柔軟性から、特に高屈曲性が要求される分野において使用されるようになっている。例えばフレキシブルプリント基板は、ハードディスク装置の内部に設けられた磁気ヘッドと本体回路との間の配線として、折畳式携帯電話の本体部と可動部とを結ぶ配線として、カメラの撮像素子と主基板との間の配線などとして使用されるようになっている。このような用途においては、フレキシブルプリント基板については、繰り返し屈曲を受けながら機器又は素子間の電気的導通を確保する必要がある。従って、フレキシブルプリント基板には優れた耐屈曲性が求められる。
【0004】
下記非特許文献1には、フレキシブルプリント基板の耐屈曲性を向上させるために、フレキシブルプリント基板の導体に圧延銅箔を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】沼倉研史著、「よくわかるフレキシブル基板の使い方」、第1版、日刊工業新聞社、2005年1月21日、p.41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記非特許文献1に記載のフレキシブルプリント基板は、以下の課題を有していた。
【0007】
すなわち、上記非特許文献1のフレキシブルプリント基板に対して曲げ半径の小さな屈曲を繰り返し与えると、導体が疲労劣化し、場合によっては導体にクラックが発生して断線することもあり得る。従って、優れた耐屈曲性を有するフレキシブルプリント基板が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐屈曲性を有するフレキシブルプリント基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非特許文献1において導体にクラックが発生して断線する理由について検討したところ、導体が圧延銅箔からなる単一の層で構成されていると、導体表面にクラックが発生した場合にそのクラックが、導体を支持する絶縁基板にまで伝播して、その結果、断線が起こるのではないかと考えた。ここで、本発明者らは、導体を複数の金属箔の積層体とすることも考えた。この場合、導体の表面で発生したクラックの進展が、隣接する金属箔間の界面で食い止められ、最下層までのクラックの進展が抑制される。しかし、導体を金属箔の積層体としたフレキシブルプリント基板には耐屈曲性向上の点で未だ改善の余地があった。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、金属結晶粒の平均粒径が異なる層を交互に積層することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち本発明は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板において、前記配線回路は、第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径より小さいフレキシブルプリント基板である。
【0011】
このフレキシブルプリント基板によれば、フレキシブルプリント基板が繰り返し屈曲され、配線回路の疲労により配線回路における絶縁基板の主面と反対側の表面でクラックが発生し、そのクラックが積層体の絶縁基板側まで進展しようとしても、そのクラックの進展が第1金属層で抑制される。このため、本発明のフレキシブルプリント基板は、優れた耐屈曲性を有することが可能となる。すなわち、本発明のフレキシブルプリント基板によれば、長寿命化を実現することができる。
【0012】
上記のようにクラックの進展が第1金属層で抑制される理由について、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、クラックは結晶粒界に沿って進展するが、結晶粒界の交差する領域で、クラックの進展は一旦止められる。また、結晶粒径が微小な第1金属層では、この結晶粒界の交差する領域が多く存在する為、クラックの進展が止められる箇所が多く、クラックは容易には進展しないと本発明者らは推測している。またクラックは、隣接する金属結晶粒間の界面のうち絶縁基板に向かって延びる界面の平均的な長さが大きいと絶縁基板側に向かって進展しやすくなると考えられるが、第1金属結晶粒の平均粒径が第2金属結晶粒の平均粒径よりも小さいと、隣接する金属結晶粒間の界面のうち絶縁基板に向かって延びる界面の平均的な長さを小さくすることが可能となる。このため、金属結晶粒の平均粒径がより小さい第1金属層において、クラックの進展が抑制されるものと本発明者らは推測している。
【0013】
前記第1金属結晶粒及び前記第2金属結晶粒の50%以上において、前記第1金属結晶粒及び前記第2金属結晶粒における前記絶縁基板の前記主面に平行な方向の長さが前記絶縁基板の前記主面に直交する方向に沿った長さよりも大きいことが好ましい。ここで、「前記第1金属結晶粒及び前記第2金属結晶粒の50%以上」とは、第1金属結晶粒の総面積のうち、前記第1金属結晶粒における前記絶縁基板の前記主面に平行な方向の長さが前記絶縁基板の前記主面に直交する方向に沿った長さよりも大きい第1金属結晶粒の占める面積の割合である面積分率が50%以上であり、第2金属結晶粒の総面積のうち、前記第2金属結晶粒における前記絶縁基板の前記主面に平行な方向の長さが前記絶縁基板の前記主面に直交する方向に沿った長さよりも大きい第2金属結晶粒の占める面積の割合である面積分率が50%以上であることを意味する。
【0014】
クラックは通常、隣接する金属結晶粒間の界面を通って進展する。このとき、クラックは、隣接する金属結晶粒間の界面のうち絶縁基板に向かって延びる界面の平均的な長さが大きいと絶縁基板側に向かって進展しやすくなると考えられる。その点、第1金属結晶粒及び第2金属結晶粒の50%以上において、第1金属結晶粒及び第2金属結晶粒における絶縁基板の主面に平行な方向の長さが絶縁基板の主面に直交する方向に沿った長さよりも大きいと、隣接する金属結晶粒間の界面のうち絶縁基板に向かって延びる界面の平均的な長さをより小さくすることができる。このため、第1金属結晶粒及び第2金属結晶粒の50%以上における絶縁基板の主面に平行な方向の長さが絶縁基板の主面に直交する方向に沿った長さ以下である場合に比べて、クラックの進展がより十分に抑制され、フレキシブルプリント基板の耐久性をより優れたものとすることが可能となる。
【0015】
上記フレキシブルプリント基板において、前記積層体が、前記第1金属層及び前記第2金属層をそれぞれ5層以上有し、前記積層体において、前記第1金属層及び前記第2金属層が交互に積層されていることが好ましい。
【0016】
この場合、配線回路における絶縁基板の主面と反対側の表面でクラックが発生しても、そのクラックの進展をより効果的に抑制できる。
【0017】
また上記フレキシブルプリント基板において、前記第1金属層及び前記第2金属層は、Sn、Zn、Be、Cd、Ag及びNbからなる群より選択された少なくとも1種の元素を0.05重量%以上含む銅合金箔であることが好ましい。
【0018】
銅合金箔中の上記元素の含有率が0.05質量%以上の範囲内にあると、0.05質量%未満である場合に比べて、フレキシブルプリント基板の製造時の熱処理における温度よりも、銅合金の再結晶温度が高くなるように設定することが出来るという利点がある。
【0019】
また本発明は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板の製造方法において、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側にシード層を形成するシード層形成工程と、前記シード層の上に、前記配線回路に対応する形状を有し且つ前記シード層を露出させる開口が形成されためっきレジストを形成するめっきレジスト形成工程と、電気めっき法を用い、前記シード層と電極との間にパルス状の電流密度を少なくとも1回印加することにより前記シード層上に前記配線回路を形成する配線回路形成工程と、前記めっきレジストを剥離するめっきレジスト剥離工程と、前記シード層のうち、前記めっきレジストで覆われていた部分を除去するシード層除去工程とを含み、前記配線回路は、第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径よりも小さいフレキシブルプリント基板の製造方法である。
【0020】
また本発明は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板の製造方法において、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側にシード層を形成するシード層形成工程と、電気めっき法を用い、前記シード層と電極との間にパルス状の電流密度を少なくとも1回印加することにより前記シード層上に、めっき層を形成するめっき層形成工程と、前記めっき層上に、前記めっき層を露出させる開口が形成され且つ前記配線回路に対応する形状を有するエッチングレジストを形成するエッチングレジスト形成工程と、露出された前記めっき層及び前記シード層をエッチングすることにより前記配線回路を形成する配線回路形成工程と、前記エッチングレジストを剥離するレジスト剥離工程とを含み、前記めっき層は、第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径よりも小さいフレキシブルプリント基板の製造方法である。
【0021】
これらの製造方法によれば、得られるフレキシブルプリント基板が繰り返し屈曲され、配線回路の疲労により配線回路における絶縁基板の主面と反対側の表面でクラックが発生し、そのクラックが積層体の絶縁基板側まで進展しようとしても、そのクラックの進展が第1金属層で抑制される。このため、本発明のフレキシブルプリント基板の製造方法によれば、優れた耐屈曲性を有するフレキシブルプリント基板を得ることが可能となる。
【0022】
上記フレキシブルプリント基板の製造方法において、前記パルス状の電流密度の最大値が4.0A/dm以下であることが好ましい。
【0023】
この場合、パルス状の電流密度の最大値が4.0A/dm超える場合に比べて、緻密で機械強度により優れた配線回路を得ることが出来たり、層状の結晶組織をより得やすくなったりするという利点がある。
【0024】
上記フレキシブルプリント基板の製造方法において、前記パルス状の電流密度を5回以上印加することが好ましい。
【0025】
この場合、第1金属層及び第2金属層をそれぞれ5層以上有し、第1金属層及び第2金属層が交互に積層されている積層体からなる配線回路を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、優れた耐屈曲性を有するフレキシブルプリント基板及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るフレキシブルプリント基板の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大断面図である。
【図3】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態におけるシード層形成工程を示す断面図である。
【図4】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態において、シード層上に形成したレジスト上にマスクを配置する工程を示す断面図である。
【図5】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態におけるめっきレジスト形成工程を示す断面図である。
【図6】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態における配線パターン形成工程を示す断面図である。
【図7】積層体を形成する際のめっき時間と電流密度との関係、並びに、各めっき時間帯と形成される積層体との関係を示す図である。
【図8】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態におけるめっきレジスト剥離工程を示す断面図である。
【図9】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態におけるシード層除去工程を示す断面図である。
【図10】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の一実施形態における保護カバー貼合せ工程を示す断面図である。
【図11】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法により得られるフレキシブルプリント基板を示す断面図である。
【図12】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の他の実施形態におけるめっき層形成工程を示す断面図である。
【図13】本発明に係るフレキシブルプリント基板の製造方法の他の実施形態におけるエッチングレジスト形成工程を示す断面図である。
【図14】実施例1において積層体を形成する際のめっき時間と電流密度との関係を示すグラフである。
【図15】実施例1における積層体の断面を示すSEM写真である。
【図16】実施例1及び比較例1〜2のフレキシブルプリント基板についてのMIT耐折試験の結果を示すグラフである。
【図17】実施例1及び比較例1〜2のフレキシブルプリント基板についてのIPC屈曲試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明に係るフレキシブルプリント基板の一実施形態を示す断面図、図2は、図1の部分拡大断面図である。図1に示すように、フレキシブルプリント基板100は、第1絶縁基板10と、第1絶縁基板10の主面10a上に設けられる配線回路30と、配線回路30を覆うように設けられる接着層40と、接着層40上に設けられる第2絶縁基板50とを備えている。
【0030】
配線回路30は、第1絶縁基板10の主面10a上に設けられる金属薄膜31と、金属薄膜31上に設けられる金属薄膜32と、金属薄膜32上に設けられる積層体35とを備えている。積層体35は、複数の第1金属層33と、複数の第2金属層34とを有しており、積層体35において、第1金属層33及び第2金属層34は、第1絶縁基板10の主面10aに直交する方向に沿って交互に積層されている。複数の第2金属層34のうち最も絶縁基板10に近い第2金属層34は金属薄膜32と接触している。
【0031】
図2に示すように、積層体35において、第1金属層33は第1金属結晶粒36を含み、第2金属層34は第2金属結晶粒37を含んでいる。ここで、第1金属層33における第1金属結晶粒36の平均粒径は、第2金属層34における第2金属結晶粒37の平均粒径よりも小さくなっている。なお、平均粒径とは、第1金属結晶粒36又は第2金属結晶粒37の粒径の平均値である。ここで、粒径をc、第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さをa、主面10aに直交する方向の長さをbとすると、粒径cは下記の式で表される。
c=(a+b)/2
【0032】
第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さとは、第1金属結晶粒36又は第2金属結晶粒37の輪郭線と、第1絶縁基板10の主面10aに平行な直線との交点間の線分の長さが最長となる長さを言うものとする。また主面10aに直交する方向の長さとは、第1金属結晶粒36又は第2金属結晶粒37の輪郭線と、第1絶縁基板10の主面10aに直交する直線との交点間の線分の長さが最長となる長さを言うものとする。
【0033】
平均粒径は、JIS H0501「伸銅品結晶粒度試験方法」(対応国際規格:ISO 2624−1973「銅及び銅合金−平均結晶粒度の測定法」)に従って測定される値を言う。具体的に述べると、平均粒径の求め方としては、切断法が用いられる。切断法では、以下のようにして平均粒径を求める。すなわち、まず積層体35の断面を精密研磨した後、結晶粒と粒界のエッチング速度が異なるようなエッチング液を用い、数秒から数十秒のエッチングを行う。このようにして得た積層体35の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、結晶粒径を直接測定する。ここで、エッチング液としては、銅及び銅合金の組織観察をする場合には、水酸化アンモニウム−過酸化水素混合液が用いられる。なお、JIS H0501「伸銅品結晶粒度試験方法」については、JISC(日本工業標準調査会)のウェブサイト(http://www.jisc.go.jp)から閲覧可能である。
【0034】
さらにフレキシブルプリント基板100では、積層体35が第1金属層33を複数有しているが、第1金属層33の第1金属結晶粒36は、隣接する第2金属層34の第2金属結晶粒37の平均粒径よりも小さければよく、複数の第1金属層33において、第1金属結晶粒36の平均粒径は同一であっても同一でなくてもよい。同様に、フレキシブルプリント基板100では、積層体35が第2金属層34を複数有しているが、第2金属層34の第2金属結晶粒37は、隣接する第1金属層33の第1金属結晶粒36の平均粒径よりも大きければよく、複数の第2金属層34において、第2金属結晶粒37の平均粒径は同一であっても同一でなくてもよい。
【0035】
このフレキシブルプリント基板100によれば、フレキシブルプリント基板100が繰り返し屈曲され、配線回路30の疲労により配線回路30における第1絶縁基板10の主面10aと反対側の表面でクラックが発生し、そのクラックが積層体35の第1絶縁基板10側まで進展しようとしても、そのクラックの進展が金属結晶粒の平均粒径がより小さい第1金属層33で抑制される。このため、フレキシブルプリント基板100は、優れた耐屈曲性を有することが可能となる。すなわち、フレキシブルプリント基板100の長寿命化を実現することができる。
【0036】
次に、第1絶縁基板10、配線回路30及び第2絶縁基板50について詳細に説明する。
【0037】
(第1絶縁基板及び第2絶縁基板)
第1絶縁基板10及び第2絶縁基板50としては、例えばポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどを用いることができる。
【0038】
(配線回路)
配線回路30の第1金属層33及び第2金属層34を構成する金属としては、銅、銅合金などが挙げられるが、電気抵抗が小さいことから、好ましくは銅合金が用いられる。銅合金は、銅と他の金属との合金であればよい。この場合、他の金属としては、例えばSn、Zn、Be、Cd、Ag及びNbが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることも可能である。ここで、銅合金中の他の金属の含有率は好ましくは0.05質量%以上である。他の金属の含有率が上記範囲内にあると、0.05質量%未満である場合に比べて、フレキシブルプリント基板100の製造時の熱処理における温度よりも、銅合金の再結晶温度が高くなるように設定することが出来るという利点がある。但し、他の金属の含有率は好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。他の金属の含有率が上記範囲内にあると、0.5質量%を超える場合に比べて、銅合金の電気抵抗をより小さくすることが出来たり、またより柔軟な銅合金膜を得ることが出来たりするという利点がある。
【0039】
第1金属結晶粒36の平均粒径は、第2金属結晶粒37の平均粒径より小さければ特に限定されないが、第1金属結晶粒36の平均粒径に対する第2金属結晶粒37の平均粒径の比率は好ましくは1:2〜1:20であり、より好ましくは1:5〜1:20である。この場合、第1金属結晶粒36の平均粒径に対する第2金属結晶粒37の平均粒径の比率が上記範囲を外れる場合に比べて、より効果的にクラックの進展を抑制することができる。
【0040】
また第1金属結晶粒36の平均粒径は好ましくは1μm未満であり、より好ましくは0.1〜0.5μmである。この場合、第1金属結晶粒36の平均粒径が1μm以上である場合に比べて、より効果的にクラックの進展を抑制することができる。
【0041】
第1金属結晶粒36及び第2金属結晶37の50%以上において、第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37が層状であり、且つ第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さaが主面10aに直交する方向の長さbよりも大きいことが好ましい。
【0042】
クラックは通常、隣接する金属結晶粒間の界面を通って進展する。このとき、クラックは、隣接する金属結晶粒間の界面のうち第1絶縁基板10に向かって延びる界面の平均的な長さが大きいと第1絶縁基板10側に向かって進展しやすくなると考えられる。その点、第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37の50%以上が層状であり、且つ第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37における第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さが第1絶縁基板10の主面10aに直交する方向に沿った長さよりも大きいと、隣接する金属結晶粒間の界面のうち第1絶縁基板10に向かって延びる界面の平均的な長さをより小さくすることができる。このため、第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37における第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さの平均値が第1絶縁基板10の主面10aに直交する方向に沿った長さの平均値以下である場合に比べて、クラックの進展がより十分に抑制され、フレキシブルプリント基板100の耐久性をより優れたものとすることが可能となる。
【0043】
層状で且つ第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さaが主面10aに直交する方向の長さbよりも大きい第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37はそれぞれ、第1金属層33及び第2金属層34のそれぞれにおいて好ましくは50%以上の割合で存在し、より好ましくは80%以上の割合で存在し、最も好ましくは100%の割合で存在する。
【0044】
また、積層体35は、第1金属層33及び第2金属層34をそれぞれ5層以上有することが好ましい。この場合、フレキシブルプリント基板100が繰り返し屈曲され、配線回路30でクラックが発生しても、そのクラックの進展をより効果的に抑制することができる。
【0045】
但し、積層体35においては、第1金属層33及び第2金属層34の層数はそれぞれ少なくとも1層であればよく、図1及び図2に示すように、第1金属層33及び第2金属層34の層数がそれぞれ5層未満であってもよい。
【0046】
次に、上記フレキシブルプリント基板100の製造方法について説明する。
【0047】
まず第1絶縁基板10を用意する。
【0048】
次に、第1絶縁基板10の上に配線回路30を形成する。配線回路30は、例えば電気めっき法を用いて形成される。電気めっき法には、セミアディティブティブ法やサブトラクティブ法が知られているが、以下の説明では、セミアディティブ法を用いた配線回路30の形成方法について説明する。
【0049】
まず図3に示すように、電気めっきを行う際に用いる一対の電極のうちの陰極を構成するシード層133を形成する(シード層形成工程)。シード層133は、第1シード層131を第1絶縁基板10の上に形成した後、第1シード層131上に第2シード層132を形成することにより得ることができる。第1シード層131及び第2シード層132は、例えばスパッタ法などにより形成することができる。第1シート層131としては、例えばNi、Cr、Ni−Cr合金、Ni−Cu合金又はCr−Cu合金が用いられ、第2シード層132としては、例えば銅が用いられる。第1シード層131の厚さは、例えば0.01〜0.2μmとすればよく、第2シード層132の厚さは、例えば0.5〜4.0μmとすればよい。
【0050】
こうして、電気めっきを行う際に用いる陰極として機能するシード層133が形成される。
【0051】
次に、図4に示すように、シード層133上にレジスト膜60を形成した後、形成すべき配線回路パターンと同一パターンを有するフォトマスク70をレジスト膜60に対向するように配置する。
【0052】
レジスト膜60としては、例えばドライフィルムレジストを用いることができる。レジスト膜60は、例えばラミネート法によりシード層133上に設けることができる。
【0053】
フォトマスク70は、紫外線などの光を通すための開口70aを有している。レジスト膜60が例えばネガ型、すなわち光を照射した領域で硬化する樹脂で構成される場合、レジスト膜60に対し、フォトマスク70の開口70aを通して光を照射すると、光が照射される光照射領域は硬化され、光が照射されない光非照射領域は硬化されない。
【0054】
そして、フォトマスク70を取り外し、現像液を用いてレジスト膜60の現像を行うと、図5に示すように、光照射領域が残り、光非照射領域が除去される。こうしてめっきレジスト80が形成され(めっきレジスト形成工程)、レジストパタン200が得られる。なお、めっきレジスト80において、光非照射領域が除去された部分はシード層133を露出させるための開口80aとなる。開口80aのパターン形状は、形成すべき配線回路30のパターン形状と同一となっている。
【0055】
次に、レジストパタン200を電気めっき浴(図示せず)中に浸漬する。そして、電気めっきを行う際に用いる一対の電極のうちのもう一方の電極である陽極も、電気めっき浴中に浸漬する。そして、浸漬した電極とシード層133との間に電流密度を印加する。このとき、電流密度の大きさを周期的に変化させると、析出する金属の組織も周期的に変化する。例えばパルス状の電流密度を印加すると、図6に示すように、シード層133の上に積層体35が形成される。図1及び図2では、第1金属層33の層数が2層であり、第2金属層34の層数が3層である。この場合、電流密度のパルスは、図7に示すように3回印加される。ここで、電流密度のパルスを印加している時間帯は下記時間帯A〜Gの7つに分けることができる。
(1)時間帯A:電流密度がゼロからJmaxに増加する(t=t〜t
(2)時間帯B:電流密度がJmaxで一定(t=t〜t
(3)時間帯C:電流密度がJmaxから減少してゼロとなった後、増加してJmaxに戻る(t=t〜t
(4)時間帯D:電流密度がJmaxで一定(t=t〜t
(5)時間帯E:電流密度がJmaxから減少してゼロとなった後、増加してJmaxに戻る(t=t〜t
(6)時間帯F:電流密度がJmaxで一定(t=t〜t
(7)時間帯G:電流密度がJmaxから減少してゼロとなる(t=t〜t
【0056】
ここで、電流密度が大きい場合には金属結晶粒の平均粒径を大きくすることができ、電流密度が小さい場合には金属結晶粒の平均粒径を小さくすることができる。時間帯C及び時間帯Eでは、金属結晶粒の析出時間内での平均電流密度は領域B,D,Fにおける電流密度Jmaxよりも小さくなるため、時間帯B,D,Fでは、第2金属結晶粒37を含む第2金属層34が形成され、時間帯C及び時間帯Eでは、時間帯B,D,Fにおいて形成される第2金属層34の第2金属結晶粒37よりも小さい平均粒径の第1金属結晶粒36を含む第1金属層33が形成されることとなる。こうして配線回路30が形成される(配線回路形成工程)。なお、時間帯A、Gにおける金属結晶粒の平均粒径は理論的には小さくなるが、時間帯A、Gは短いため、図7の上半分の切断面に顕著に表れない。
【0057】
このとき、パルス状の電流密度の最大値は時間帯B,D,Fにおいて印加する電流密度Jmaxであり、Jmaxは4.0A/dm以下とすることが好ましく、3.0A/dm以下とすることがより好ましい。この場合、電流密度Jmaxが4.0A/dmを超える場合に比べて、緻密で機械強度により優れためっき膜を得ることが出来たり、層状の結晶組織をより得やすくなるという利点がある。
【0058】
但し、電流密度Jmaxは、好ましくは1.0A/dm以上であり、より好ましくは2.0A/dm以上である。この場合、電流密度Jmaxが1.0A/dm未満である場合に比べてめっき時間を短くでき、めっき装置の短尺化・加工時間の短縮が可能という利点がある。
【0059】
また第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37の形状を層状とし、且つ、第1金属結晶粒36及び第2金属結晶粒37における第1絶縁基板10の主面10aに平行な方向の長さの平均値を第1絶縁基板10の主面10aに直交する方向に沿った長さの平均値よりも大きくするには、めっき時の電流密度を例えば4.0A/dm以下としたり、まためっき液に光沢剤・平坦化剤などの適切な添加剤を加えたりすればよい。
【0060】
時間帯A〜Gの時間は、形成すべき第1金属層33及び第2金属層34の厚さに応じて適宜変更することが可能である。
【0061】
なお、第1金属層33及び第2金属層34をそれぞれ5層以上形成するためには、パルス状の電流密度を5回以上印加すればよい。
【0062】
次に、図8に示すように、めっきレジスト80を剥離した後(レジスト剥離工程)、図9に示すように、露出されているシード層133を除去する。
【0063】
次に、図10に示すように、第2絶縁基板50の上に接着剤層140が設けられた保護カバー90を用意し、この保護カバー90の接着剤層140を配線回路30側に向け、配線回路30に重ね合わせる。
【0064】
続いて、第2絶縁基板50及び第1絶縁基板10によって第2接着剤層140を挟み、熱圧着により配線回路30に保護カバー90を貼り付ける。これにより、図11に示すように、接着剤層140は硬化されて接着層40となる。また第1シード層131は金属薄膜31となり、第2シード層132は金属薄膜32となる。こうしてフレキシブルプリント基板100が得られる。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば上記実施形態では、配線回路30が第1絶縁基板10の一方の主面10a側にのみ形成されているが、第1絶縁基板10の主面10aと反対側の主面側に配線回路30が形成されてもよい。
【0066】
また上記実施形態では、配線回路30が接着層40で覆われ、さらに接着層40の上に第2絶縁基板50が設けられているが、接着層40及び第2絶縁基板50は必ずしも必要なものではなく、省略が可能である。
【0067】
さらに上記実施形態では、第1絶縁基板10の上に直接配線回路30が形成されているが、配線回路30は、第1絶縁基板10の主面10a側にあればよく、配線回路30は、必ずしも直接第1絶縁基板10の上に形成されている必要はない。すなわち、配線回路30は、接着層を介して第1絶縁基板10の主面10a上に形成されてもよい。なお、配線回路30を、接着層を介して第1絶縁基板10の主面10a上に形成する場合、第1金属層33及び第2金属層34としては、圧延銅箔や電解銅箔が用いられる。
【0068】
さらにまた上記実施形態では、フレキシブルプリント基板100がセミアディティブ法を用いて製造されることが記載されているが、フレキシブルプリント基板100は、サブトラクティブ法を用いて製造することも可能である。具体的には、銅箔を熱硬化性樹脂などの接着剤からなる接着剤層120を介して第1絶縁基板10上に熱圧着し、これをシード層133として、図12に示すように、電気めっき法を用い、シード層133と電極との間にパルス状の電流密度を複数回印加することによりシード層133上に全面にわたってめっき層235を形成する(めっき層形成工程)。すなわちパネルめっきを行う。続いて、図13に示すように、めっき層235上に、めっき層235を露出させる開口280aが形成され且つ配線回路30に対応する形状を有するエッチングレジスト280を形成する(エッチングレジスト形成工程)。続いて、露出されためっき層235及びシード層133をエッチングすることにより配線回路30を形成した後(配線回路形成工程)、エッチングレジスト280を剥離する(レジスト剥離工程)。こうしてフレキシブルプリント基板100を製造することも可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
まず厚さ25μmのポリイミドフィルム(商品名:カプトンEN、東レ・デュポン社製)を用意した。次に、ポリイミドフィルム上に、スパッタ法によりNi膜を形成した。このとき、Ni膜の厚さは0.2μmとした。続いて、Ni膜上に、Cu膜をスパッタ法により形成した。Cu膜の厚さは2μmとなるようにした。こうしてNi/Cu膜がスパッタされたシード層付きポリイミドフィルムを作製した。
【0071】
次に、シード層付きポリイミドフィルムのシード層上に、アクリル系ネガドライフィルムレジスト(商品名:SUNFORT UFG−252、旭化成社製)を110℃でラミネートした。続いて、回路幅50μm、スペース100μm、ピッチ150μmとなる金属配線に対応する配線パターンを持つフォトマスクを通してUV露光及び現像を順次行い、厚さ25μmのめっきレジストを形成した。このとき、現像は、30℃で濃度2%の炭酸ソーダ溶液をスプレーすることにより行った。
【0072】
次いで、電解銅めっき浴(硫酸銅めっき、商品名:CLX、メルテックス社製)を用いてパターンめっきを行い、8層の第2金属層と、隣り合う第2金属層の間にそれぞれ設けられる第1金属層とで構成される積層体を得た。このとき、パターンめっきは、パルス状の電流密度を8回印加することにより、Cuめっきの析出組織を周期的に変動させた。電流密度は具体的には図14に示すプロファイルとなるように印加した。図14において、電流密度に応じた時間帯の時間は具体的には、下記の通りとした。なお、図14において、第2金属層の1層目の電流密度を小さくしたのはめっき膜の異常析出(デンドライトと呼ばれる樹状結晶)を防ぐためであり、第2金属層の8層目の電流密度を小さくしたのは総めっき厚を制御するためである。
(1)電流密度を1.5A/dmとする時間
2.5分間
(2)電流密度を2.5A/dmとする時間
3分間
(3)電流密度を0A/dmとする時間
30秒間
(4)電流密度を0A/dmから2.5A/dmまで増加又は減少させる時間
15秒間
【0073】
また積層体の厚さはトータルで18μmとなるようにし、第1金属層および第2金属層の厚さは、それぞれ下記の通りとした。
第1金属層の厚さ:0.2μm
第2金属層の厚さ:2.8μm
【0074】
次に、50℃で濃度3.0%苛性ソーダ液をスプレーしてめっきレジストを剥離した。
【0075】
次に、硫酸及び過酸化水素水系の銅ソフトエッチング液と、硝酸及び過酸化水素水系のニッケルエッチング液を用いて、回路間に露出したシード層を除去した。こうしてポリイミドフィルムの一面上に配線回路が形成され、回路付きポリイミドフィルムを得た。このとき、回路付きポリイミドフィルムをエポキシ系樹脂に埋め、断面研磨を行った。その後、水酸化アンモニウム−過酸化水素系のエッチング液を用いてソフトエッチングして第1金属層及び第2金属層の組織構造を走査型電子顕微鏡により観察した。観察した組織構造を図15に示す。そして、第1金属層における第1金属結晶粒の平均粒径、観察される第1金属層における第1金属結晶粒の総面積のうち、ポリイミドフィルムの主面に平行な方向の長さがポリイミドフィルムの主面に直交する方向の長さよりも大きい層状の第1金属結晶粒の占める面積の割合である面積分率(R1)を測定した。同様に、第2金属層における第2金属結晶粒の平均粒径、観察される第2金属層における第2金属結晶粒の総面積のうち、ポリイミドフィルムの主面に平行な方向の長さがポリイミドフィルムの主面に直交する方向の長さよりも大きい層状の第2金属結晶粒に占める面積の比である面積分率(R2)についても測定した。結果を表1に示す。なお、表1において、第2金属層の1層目の電流密度、および、第2金属層の8層目の電流密度を小さくした理由については既に述べた通りである。しかし、この場合、第2金属層の1層目及び8層目と2〜7層目では電流密度が異なるため理論的には平均粒径に差が生じる。それに伴い第1金属層の1層目及び7層目と2〜6層目についても理論的には平均粒径に差が発生する。しかしながら、実験的には平均粒径に顕著な差は確認されなかった。
【0076】
上記のようにして得られた回路付きポリイミドフィルムに、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに厚さ20μmの接着剤を予め塗布してなる保護カバーを、配線回路と接着剤層とが接するように重ね合わせた後、回路付きポリイミドフィルムと保護カバーとを熱圧着した。このとき、熱圧着は、150℃、20kg/cmで15分間の条件下で行った。こうしてフレキシブルプリント基板を得た。
【0077】
(比較例1)
電解銅箔(商品名:F2−WS、古河電工社製)とポリイミドフィルムとの間に熱可塑性ポリイミド(TPI)を配置し、加熱・加圧により銅箔とポリイミドフィルムとを熱圧着・固定して回路付きポリイミドフィルムを形成したこと以外は実施例1と同様にしてフレキシブルプリント基板を作製した。
【0078】
(比較例2)
圧延銅箔(商品名:HA箔、日鉱金属社製)とポリイミドフィルムとの間に熱可塑性ポリイミド(TPI)を配置し、加熱・加圧により銅箔とポリイミドフィルムとを熱圧着・固定して回路付きポリイミドフィルムを形成したこと以外は実施例1と同様にしてフレキシブルプリント基板を作製した。
【0079】
上記のようにして得られた実施例1及び比較例1〜2のフレキシブルプリント基板について耐屈曲性を以下のようにして評価した。
【0080】
(MIT耐折試験)
実施例1及び比較例1〜2のフレキシブルプリント基板についてASTM D2176に準拠してMIT耐折試験を行うことにより、耐屈曲性を評価した。結果を表1及び図16に示す。なお、試験条件は下記の通りとした。
屈曲半径R=0.38mm
屈曲速度:175回/分
【0081】
(IPC屈曲試験)
実施例1及び比較例1〜2のフレキシブルプリント基板について、IPC規格TM−650に準拠してIPC屈曲試験を行った。結果を表1及び図17に示す。なお、試験条件は下記の通りとした。
測定電流:5mA
屈曲半径:R=0.2mm
ストローク:15mm
屈曲速度:1500回/分
温度:80℃
曲げ方向:保護カバーの表面が内側になる向きに曲げる


【表1】

【0082】
表1及び図16に示す結果より、実施例1のフレキシブルプリント基板のMIT耐折寿命回数は、配線回路として電解銅箔を用いた比較例1のフレキシブルプリント基板のMIT耐折寿命回数よりも顕著に大きかった。また、実施例1のフレキシブルプリント基板のMIT耐折寿命回数は、配線回路として圧延銅箔を用いた比較例2のフレキシブルプリント基板のMIT耐折寿命回数よりも顕著に大きかった。
【0083】
また、表1及び図17に示す結果より、実施例1のフレキシブルプリント基板については、屈曲回数が1億回でも断線が起こらなかったことから、屈曲回数が1億回以上であることが分かった。これに対し、配線回路として電解銅箔を用いた比較例1のフレキシブルプリント基板の断線までの屈曲回数は約500万回であり、配線回路として圧延銅箔を用いた比較例2のフレキシブルプリント基板の断線までの屈曲回数は約7000万回であった。
【0084】
このことから、本発明のフレキシブルプリント基板は、優れた耐屈曲性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0085】
10…第1絶縁基板(絶縁基板)
10a…主面
30…配線回路
33…第1金属層
34…第2金属層
35…積層体
36…第1金属結晶粒
37…第2金属結晶粒
80…めっきレジスト
80a…開口
100…フレキシブルプリント基板
131…第1シード層
132…第2シード層
133…シード層
235…めっき層
280…エッチングレジスト
280a…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板において、
前記配線回路は、
第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、
前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径より小さいフレキシブルプリント基板。
【請求項2】
前記第1金属結晶粒及び前記第2金属結晶粒の50%以上において、前記第1金属結晶粒及び前記第2金属結晶粒における前記絶縁基板の前記主面に平行な方向の長さが前記絶縁基板の前記主面に直交する方向に沿った長さよりも大きい請求項1に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項3】
前記積層体が、前記第1金属層及び前記第2金属層をそれぞれ5層以上有し、前記積層体において、前記第1金属層及び前記第2金属層が交互に積層されている、請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項4】
前記第1金属層及び前記第2金属層は、Sn、Zn、Be、Cd、Ag及びNbからなる群より選択された少なくとも1種の元素を0.05重量%以上含む銅合金箔であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項5】
絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板の製造方法において、
前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側にシード層を形成するシード層形成工程と、
前記シード層の上に、前記配線回路に対応する形状を有し且つ前記シード層を露出させる開口が形成されためっきレジストを形成するめっきレジスト形成工程と、
電気めっき法を用い、前記シード層と電極との間にパルス状の電流密度を少なくとも1回印加することにより前記シード層上に前記配線回路を形成する配線回路形成工程と、
前記めっきレジストを剥離するめっきレジスト剥離工程と、
前記シード層のうち、前記めっきレジストで覆われていた部分を除去するシード層除去工程とを含み、
前記配線回路は、
第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、
前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径よりも小さいフレキシブルプリント基板の製造方法。
【請求項6】
絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側に設けられる配線回路とを備えるフレキシブルプリント基板の製造方法において、
前記絶縁基板の少なくとも一方の主面側にシード層を形成するシード層形成工程と、
電気めっき法を用い、前記シード層と電極との間にパルス状の電流密度を少なくとも1回印加することにより前記シード層上にめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記めっき層上に、前記めっき層を露出させる開口が形成され且つ前記配線回路に対応する形状を有するエッチングレジストを形成するエッチングレジスト形成工程と、
露出された前記めっき層及び前記シード層をエッチングすることにより前記配線回路を形成する配線回路形成工程と、
前記エッチングレジストを剥離するレジスト剥離工程とを含み、
前記めっき層は、
第1金属結晶粒を含む第1金属層と、前記第1金属層に隣接し、第2金属結晶粒を含む第2金属層とを有し、前記第1金属層及び前記第2金属層が、前記絶縁基板の主面に直交する方向に沿って積層される積層体を備えており、
前記第1金属結晶粒の平均粒径が前記第2金属結晶粒の平均粒径よりも小さいフレキシブルプリント基板の製造方法。
【請求項7】
前記パルス状の電流密度の最大値が4.0A/dm以下である請求項5又は6に記載のフレキシブルプリント基板の製造方法。
【請求項8】
前記パルス状の電流密度を5回以上印加する、請求項5〜7のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント基板の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−89910(P2013−89910A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232010(P2011−232010)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】