説明

フレキシブルプリント基板

【課題】屈曲性が良好でありつつも安定した特性インピーダンスを実現し、高周波特性に優れる。
【解決手段】フレキシブルプリント基板100は、ベース基材12と、ベース基材12の両面に形成された配線11及びグランドプレーン層とを備える。配線11の一部には、配線11よりも幅広に形成されたパッド10が形成され、グランドプレーン層のパッド10とベース基材12を介して対向する位置には、パッド10と相似形状で且つパッド10の外形から100±50μm外側に拡がった外形となるようにくり抜かれたグランド除去部14が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高周波特性に優れたフレキシブルプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高速信号伝送用のフレキシブルプリント基板における電子部品を表面実装するための部品実装パッドや接続用パッドは、信号伝送用の配線より幅広に形成されている。また、フレキシブルプリント基板のパッドと反対側の面には、全面的に形成されたグランドプレーン層が設けられている。
【0003】
このような構造のフレキシブルプリント基板においては、このままの状態ではパッドの部分で特性インピーダンスが変化し、反射が起きて信号が乱れてしまうこととなる。
【0004】
そこで、下記特許文献1に開示された回路基板では、パッドを有する第1の信号伝送用導体層の下方に第1の誘電体層を介して形成された第1のグランド/電源プレーン層のパッドに対応する部分にくり抜き部を形成し、更にその下方に第2の誘電体層を介して第2のグランド/電源プレーン層を形成している。
【0005】
これにより、パッド部分では、グランドとの距離を拡大することにより、静電容量を低減させ、パッド部分の特性インピーダンスを増加させて信号の乱れを防ぐこととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−307578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された回路基板では、パッドとグランドとの距離を稼ぐために、少なくとも4層以上の導体層を有する基板構造が必要となる。このため、薄くて曲げ易いフレキシブルプリント基板に適用すると、特性インピーダンスを維持するためにその屈曲性を相殺せざるを得なくなるという問題がある。
【0008】
近年のプリント配線回路の高機能化の進展や要求特性が多岐にわたること、或いは製造コストの低減への要求が大きいことなどを考慮すると、電気的特性のためだけに材料をLCPに変更したり、上記特許文献1のように空気層を設けるなどの構造的変更を行うことは現実的には難しいという問題がある。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消し、屈曲性が良好でありつつも安定した特性インピーダンスを実現することができる高周波特性に優れたフレキシブルプリント基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るフレキシブルプリント基板は、ベース基材と、前記ベース基材の一方の面側に形成されたパッドと、前記ベース基材の他方の面側に形成されたグランドプレーン層とを有するフレキシブルプリント基板において、前記グランドプレーン層は、前記パッドと前記ベース基材を介して対向する位置に、前記パッドと相似形状で且つ前記パッドの外形から100±50μm外側に拡がった外形を有するように形成されたグランド除去部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るフレキシブルプリント基板によれば、ベース基材の一方の面にパッドが、他方の面にグランドプレーン層がそれぞれ形成され、グランドプレーン層のパッドとベース基材を介して対向する位置に、パッドと相似形状で且つパッドの外形から100±50μm外側に拡がった外形を有するグランド除去部が形成されている。すなわち、2層の導体層の基板構造で構成されている。そして、パッドの辺とグランド除去部の辺との間で電気力線が集中し、これとパッドのインダクタンスとがバランスする。このため、屈曲性が良好でありつつも安定した特性インピーダンスを実現し、高周波特性に優れる。
【0012】
本発明の一つの実施形態においては、前記パッドと前記グランド除去部との外形差が、90〜110μmである。
【0013】
また、本発明の他の実施形態においては、前記パッド及び前記グランド除去部が、矩形状の外形を備える。
【0014】
更に、本発明の更に他の実施形態においては、前記パッドが複数形成された場合、各パッド間最短距離が250μm以上である。
【0015】
また、本発明の更に他の実施形態においては、前記パッド及び前記グランド除去部が、円形又は楕円形の外形を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈曲性が良好でありつつも安定した特性インピーダンスを実現し、高周波特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るフレキシブルプリント基板の構造を示す平面図である。
【図2】図1のA−A’拡大断面図である。
【図3】同フレキシブルプリント基板の電気力線を示す断面図である。
【図4】同フレキシブルプリント基板におけるTDR法により測定された特性インピーダンスを説明するための図である。
【図5】本発明の実施例におけるフレキシブルプリント基板の特性インピーダンスとグランド除去部のオフセット量との関係を示す図である。
【図6】同実施例におけるフレキシブルプリント基板のグランド除去部のオフセット量と特性インピーダンスとの関係を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るフレキシブルプリント基板の構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して、この発明の実施の形態に係るフレキシブルプリント基板を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るフレキシブルプリント基板の構造を示す平面図である。図2は、図1のA−A’拡大断面図である。図3は、フレキシブルプリント基板の電気力線を示す断面図である。本実施形態に係るフレキシブルプリント基板100は、各種信号伝送用の回路に用いられ、例えば高速信号伝送用のマイクロストリップライン構造を備えている。
【0020】
フレキシブルプリント基板100は、図1及び図2に示すように、3層CCL(銅張積層板)を基本として形成され、例えば厚さ25,50,又は75μmのポリイミド樹脂(PI)からなるベース基材12と、このベース基材12の両面に形成された例えば厚さ10μmのエポキシ系接着剤からなる接着剤層(図示せず)と、これら接着剤層を介して貼り付けられた、例えば厚さ20μmの銅箔からなる配線11及びグランドプレーン層13とを備えて構成されている。なお、配線11上には図示しないカバー層が形成されている。
【0021】
配線11は、例えば幅150μm程度のマイクロストリップ線である。また、グランドプレーン層13は、ベース基材10の下面全面に形成されている。配線11の一部には、例えば矩形状で配線11よりも幅広に形成された部品実装パッド又は接続用パッド等のパッド10が形成されている。カバー層は、パッド10上には形成されていない。
【0022】
このカバー層は、例えばポリイミド樹脂などの絶縁材からなるカバーレイと、その下面に配置されたエポキシ系接着剤からなる接着剤層とを備えて構成される。グランドプレーン層13のパッド10とベース基材12を介して対向する位置には、パッド10と相似形状で且つパッド10の外形から100±50μm外側に拡がった外形となるようにくり抜かれたグランド除去部14が形成されている。すなわち、パッド10とグランド除去部14とのオフセット量Wは、100±50μmとなっている。
【0023】
このように構成されたフレキシブルプリント基板100においては、図3に示すように、電気力線Pは、パッド10の辺とグランド除去部14の辺との間で集中する。しかし、パッド10の下側にグランドプレーン層13が存在しないため、静電容量Cは小さくなり、Zo=√(L/C)で示す特性インピーダンスZoが増加して、配線11の部分同様になる。そして、ベース基材12の両面にパッド10とグランド除去部14が形成されたグランドプレーン層13とが形成された3層構造であるため、非常に薄く構成することができる。このため、屈曲性が良好でありつつも安定した特性インピーダンスを実現すると共に、高周波特性に優れる。
【実施例】
【0024】
次に、本実施形態に係るフレキシブルプリント基板100の具体的な電気的特性について説明する。図4は、フレキシブルプリント基板100におけるTDR(Time Domain Reflectometry)法により測定された特性インピーダンスを説明するための図である。図4に示すように、本出願人が実施した試験によると、グランド除去部14がパッド10よりも大きくプラス側にオフセット量Wが100±50μmで形成されている場合、一点鎖線で示すように特性インピーダンスは配線11部分からパッド10部分にかけて一定となり安定する。
【0025】
一方、パッド10よりもプラス側のオフセット量Wが大き過ぎるグランド除去部14bでは、二点鎖線で示すようにパッド10部分の特性インピーダンスが配線11部分よりも増加してしまう。また、パッド10よりもマイナス側にオフセットしているグランド除去部14aでは、点線で示すようにパッド10部分の特性インピーダンスが配線11部分よりも小さくなる。
【0026】
このような結果を踏まえ、本出願人は、次のようなサンプル基板を作製して、TDR法により特性インピーダンスを測定した。すなわち、パッド10のパッドサイズを一辺当たり250μm、2500μmと変化させ、ベース基材12の厚さを25μm、50μm、75μmと変化させたサンプル基板を作製し、それぞれのサンプル基板におけるグランド除去部14のオフセット量Wを変化させて、特性インピーダンスを測定した。
【0027】
図5は、本発明の実施例におけるフレキシブルプリント基板の特性インピーダンスとグランド除去部のオフセット量との関係を示す図である。図6は、本発明の実施例におけるフレキシブルプリント基板のグランド除去部のオフセット量と特性インピーダンスとの関係を示す図である。
【0028】
図5に示すように、グランド除去部14のオフセット量Wが90μm〜110μmであるときが、ベース基材厚及びパッドサイズの影響を受けずに、特性インピーダンスZoがほぼ50Ωで一定となり、高速信号伝送用にて主に用いられる特性インピーダンスの設計値とほぼ同等となった。図5の内容をまとめると、次の表1となる。
【0029】
【表1】

【0030】
これにより、パッド10の裏側のグランドプレーン層13において、グランド除去部14の形状をパッド10の形状から100μm程度プラス側にオフセットさせた形状とすることにより、パッド10部分における信号の反射を小さくすることが可能であることが判明した。
【0031】
また、図6に示すように、各サンプル基板において、ベース基材厚及びパッドサイズの違いによる特性インピーダンスZoになるときのグランド除去部14のオフセット量Wについて調べても、同様の結果となった。この図6の内容をまとめると、次の表2となる。
【0032】
【表2】

【0033】
特性インピーダンスZoは、上記のように通常50Ωに設計されることが多く、更に設計値から±10%(最大で±20%)の公差が許容範囲とされることが多い。そこで、特性インピーダンスZoが50Ω±10%の範囲になるグランド除去部14のオフセット量Wについて検討する。まず、ベース基材厚が25μmでパッド10のパッドサイズが2500μmのときは、特性インピーダンスZoが50Ω±10%となる範囲が狭く、グランド除去部14のオフセット量Wが61μm〜108μmのときにこの範囲内となることが分かる。
【0034】
そして、このような条件下で、ベース基材厚が25μmより厚く、又はパッドサイズが2500μmより小さい場合には、特性インピーダンスZoが50Ω±10%の範囲内に収まることが分かる。
【0035】
また、ベース基材厚が50μmの場合には、パッドサイズが2500μmのときに特性インピーダンスZoが50Ω±10%となる範囲が狭く、グランド除去部14のオフセット量Wが55μm〜117μmのときにこの範囲内となることが分かる。
【0036】
そして、このような条件下で、ベース基材厚が50μmより厚く、又はパッドサイズが2500μmより小さい場合には、特性インピーダンスZoが50Ω±10%の範囲内に収まることが分かる。
【0037】
更に、ベース基材厚が75μmの場合には、パッドサイズが2500μmのときに特性インピーダンスZoが50Ω±10%となる範囲が狭く、グランド除去部14のオフセット量Wが48μm〜124μmのときにこの範囲内となることが分かる。
【0038】
そして、このような条件下で、ベース基材厚が75μmより厚く、又はパッドサイズが2500μmより小さい場合には、特性インピーダンスZoが50Ω±10%の範囲内に収まることが分かる。従って、オフセット量Wは、プラス側に100±50μm、好ましくは90μm〜110μmとなれば、特性インピーダンスZoを50Ω±10%の範囲内とすることが可能であることが判明した。
【0039】
図7は、本発明の他の実施形態に係るフレキシブルプリント基板の構造を示す平面図である。本実施形態に係るフレキシブルプリント基板100Aは、パッド10及びグランド除去部14が複数並設されている点が、先の実施形態に係るフレキシブルプリント基板100と相違している。
【0040】
この場合、オフセット量Wをそれぞれ100μmとすると、パッド10間の距離WAは250μm以上となるように形成される。従って、この場合のグランド除去部14の間の距離WBは50μmとなる。距離WBを50μmに固定して、オフセット量Wを100±50μmの範囲とすれば、距離WAは150μm〜350μmの範囲で設定される。このように構成しても、上述したような作用効果を奏することができる。
【0041】
なお、上述した実施形態においては、フレキシブルプリント基板100,100Aを高速信号伝送用のマイクロストリップライン構造のものとして説明したが、本発明に係るフレキシブルプリント基板はこれに限定されるものではなく、種々の電気信号伝送用回路等に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 パッド
11 配線
12 ベース基材
13 グランドプレーン層
14 グランド除去部
100 フレキシブルプリント基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基材と、前記ベース基材の一方の面側に形成されたパッドと、前記ベース基材の他方の面側に形成されたグランドプレーン層とを有するフレキシブルプリント基板において、
前記グランドプレーン層は、前記パッドと前記ベース基材を介して対向する位置に、前記パッドと相似形状で且つ前記パッドの外形から100±50μm外側に拡がった外形を有するように形成されたグランド除去部を有する
ことを特徴とするフレキシブルプリント基板。
【請求項2】
前記パッドと前記グランド除去部との外形差は、90〜110μmであることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項3】
前記パッド及び前記グランド除去部は、矩形状の外形を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項4】
前記パッドは複数形成され、各パッド間最短距離は250μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項5】
前記パッド及び前記グランド除去部は、円形又は楕円形の外形を備えることを特徴とする請求項1、2又は4記載のフレキシブルプリント基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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