説明

フレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔及びその製造方法

【課題】クロム系皮膜の厚膜化および、下地金属膜とクロム系皮膜の合計量に対するクロム系皮膜比率のコントロールをしたフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔を提供する。
【解決手段】銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成したフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔において、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量が50質量%以上99質量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂との高密着強度を有するフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル家電の小型化、薄型化、軽量化、高機能化に伴い、それらに使用されているFPC(フレキシブルプリント配線板)の小型、高密度化が進んでいる。これらの要求にこたえるため、FPC材料への要求特性も厳しいものになっている。
【0003】
FPCに用いられる銅箔に対しては、銅箔とそれが貼り付けられる樹脂との接着強度の向上、パターン形成時に用いる薬品耐性の向上、加工時にかかる熱への耐性の向上が求められている。
【0004】
また、パターンの細線化が進む中において、特に銅箔−樹脂間の密着強度及び、銅箔−樹脂間への加工時の処理液の滲みこみ抑止は重要となる。
【0005】
このFPC用の銅箔には特性向上のために種々の表面処理が施されるが、その一つであるクロメート処理では、処理により基材表面に得られるクロム系皮膜により防錆及び接着力向上の効果が期待できる。
【0006】
従来のクロメート処理は以下のようなフローで行われる。
【0007】
先ず、銅箔に下地金属めっきを施した後これを水洗する。次いで、水洗後の基材表面にクロメート処理を施し、これを更に水洗し、最後に加熱乾燥を施す。これにより、基材表面にクロム系皮膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−60756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、クロメート処理液で基材表面の下地金属を溶解し、基材界面近傍のpHを上昇させて、クロメート処理液中のクロム系皮膜を沈着させるという従来工法では、その製膜量および下地金属との比率変更のコントロールが困難である。
【0010】
クロメート処理では、クロメート処理液中において基材表面の下地金属が溶解し、界面のpHが上昇することで、基材表面に水酸化クロムを含むクロム系皮膜が沈着する。
【0011】
このとき、水酸化クロムの製膜量はクロメート処理液の組成・pH・液当たりによりコントロールできるが、FPC用の銅箔においては下地金属膜及びクロム系皮膜が極めて薄く、また、水酸化クロムの生成により界面付近のpHが再び下降することでクロム系皮膜の再溶解も同時に進行するために、クロム系皮膜の厚膜化および、皮膜量のコントロールが困難である。
【0012】
さらに、クロム系皮膜の生成比率を溶解する下地金属に対し大きくできないという問題点があるため、クロム系皮膜の厚膜化には、最終的なクロム系皮膜厚に合わせた下地金属の厚膜化が必要である。一方、下地として主に用いられる亜鉛めっき面は化学的に活性な両性金属としての性質をもつため、酸やアルカリ雰囲気の影響を受け易く、クロム系皮膜をピール強度向上の為に厚くするのにともない、厚くなった下地としての亜鉛めっき層がFPC製造工程で用いられる各種酸やアルカリ耐性に悪影響を及ぼす。
【0013】
下地金属膜厚によらないクロム系皮膜の厚膜化方法としては電解クロメート法が考えられるが、電解法においてはその特性上アノード側での環境負荷物質である6価クロムの発生が不可避であり、製品への混入が問題となる。電解法での製品への6価クロムの混入防止には隔膜を用いた方法が考えられるが、隔膜破損の可能性を根絶することができないので本発明では採用しない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、下地金属の厚膜化をともなわないクロム系皮膜の厚膜化および、下地金属膜とクロム系皮膜の合計量に対するクロム系皮膜比率のコントロールをしたフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく創案された本発明は、銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成したフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔において、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量が50質量%以上99質量%以下であるフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔である。
【0016】
前記下地金属膜中の亜鉛が0.1μg/cm2以上0.8μg/cm2以下、前記クロム系皮膜中の金属クロムが0.4μg/cm2以上2.0μg/cm2以下含有されるとよい。
【0017】
また、本発明は、銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成するフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法において、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量を50質量%以上99質量%以下とするフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法である。
【0018】
亜鉛めっきからなる前記下地金属膜を形成し、アルカリ浸漬処理を行った後、クロメート処理により前記クロム系皮膜を形成するとよい。
【0019】
前記アルカリ浸漬処理に水酸化ナトリウム水溶液を用いるとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、クロム系皮膜の厚膜化および、下地金属膜とクロム系皮膜の合計量に対するクロム系皮膜比率のコントロールをしたフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各条件での亜鉛とクロムの含有量及びピール強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0023】
本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔(FPC用表面処理銅箔)は、銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成したものであり、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量が50質量%以上99質量%以下であることを特徴とする。
【0024】
下地金属膜中の亜鉛が0.1μg/cm2以上0.8μg/cm2以下、クロム系皮膜中の金属クロムが0.4μg/cm2以上2.0μg/cm2以下含有されることが好ましい。
【0025】
このFPC用表面処理銅箔は、銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成する際に、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量を50質量%以上99質量%以下とすることにより製造される。
【0026】
具体的には、特性向上のために種々の表面処理を施した銅箔上に、亜鉛めっきからなる下地金属膜を形成し、得られた基材の表面を水洗し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ浸漬処理を行った後、クロメート処理によりクロム系皮膜を形成する。そして、更に水洗し、加熱乾燥することでFPC用表面処理銅箔が得られる。
【0027】
従来の方法では基材表面のpHを下地金属の溶解によって上昇させていたのに対し、本実施の形態に係るFPC用表面処理銅箔の製造方法では、下地金属めっき後の基材をアルカリに浸漬させることで、後のクロメート処理時に基材表面のpHを強制的に上げ、効率良く、速やかに水酸化クロムを沈着させるようにした。
【0028】
そのため、溶解する下地金属に対するクロム系皮膜の生成比率を大きくすることができる。また、浸漬させるアルカリ溶液の濃度・クロメート処理液中のクロム濃度を変化させることで、比較的容易に水酸化クロムを含むクロム系皮膜の製膜量をコントロールできる。
【0029】
クロメート処理は後のシランカップリング処理とあわせて、樹脂との接着強度向上に大きな影響を与えると考えられている。このため、水酸化クロムの厚膜化および皮膜量のコントロールが可能になることで各々の樹脂に合わせた皮膜量の最適化により、接着強度の改善が期待される。
【0030】
さらに、従来、クロメート処理液中でクロメート処理液に含まれる酸により下地金属を溶解させることで基材界面近傍のpH上昇を起こし水酸化クロムの沈着を促していたが、本発明においては、予めアルカリ溶液を基材表面に付着させてのクロメート処理であるため、下地金属種によらずクロメート皮膜(クロム系皮膜)の製膜が可能である。このため下地金属として、より高い耐酸性、耐熱性をもつ金属の使用が可能となる。
【0031】
以上要するに、本発明によれば、クロム系皮膜の厚膜化および、下地金属膜とクロム系皮膜の合計量に対するクロム系皮膜比率をコントロールすることができる。
【実施例】
【0032】
以下にクロメート処理の下地金属めっきとして亜鉛を用いた際の実施例、比較例及び従来例を挙げる。
【0033】
(測定方法及び評価方法)
銅箔の表面処理層中の亜鉛及びクロム含有量の測定、銅箔とポリイミド樹脂層とのピール強度はそれぞれ以下の方法により測定又は評価した。
1)亜鉛及びクロムの含有量
ICP発光分光分析計を用いた検量線法により測定した。
2)銅箔とポリイミドとのピール強度
ピール強度試験機を用いて、1mm幅にパターニングされた試料のポリイミド側を両面テープで金属板に固定し、銅箔を90°方向に50mm/分の速度で剥離した際のピール強度を測定した。
【0034】
(処理条件)
基材:表面処理圧延銅箔の最表面に2.5μg/cm2の亜鉛めっきを施したものを用いた。
【0035】
アルカリ浸漬処理:条件(1)アルカリ浸漬無し(従来工法)、条件(2)5g/LのNaOH水溶液、条件(3)10g/LのNaOH水溶液、条件(4)15g/LのNaOH水溶液を用いた。条件(2)〜(3)はいずれも5秒間浸漬させた。
【0036】
クロメート処理:硫酸クロム及び硝酸を含む水溶液(Cr量として:1.0g/L、pH:4.0となるよう調製)を用いた。
【0037】
最表面に2.5μg/cm2の亜鉛めっきを施した表面処理銅箔をクロメート処理及び種々の濃度でのアルカリ浸漬後のクロメート処理を行い図1にあるような含有量となる基材を得た。
【0038】
それぞれをシランカップリング処理した後にキャスト法によりポリイミド樹脂との積層膜としピール強度を測定し、あわせて図1に図示した。
【0039】
条件(1)は従来工法による従来例、条件(2)は比較例であり、条件(3)は実施例1、条件(4)は実施例2である。
【0040】
図1にあるようにアルカリ浸漬することで、従来工法に比べクロム含有量(クロム系皮膜厚)を大幅に増加させることが可能となり、浸漬させるアルカリの濃度により沈着量のコントロールが可能であることを見出せた。
【0041】
また、従来困難であった溶解する下地金属との含有比率を大きく変化させることを可能とした。上記の処理条件によれば、6〜7g/L以上のNaOH水溶液を5秒間浸漬させることで、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量を50質量%以上とすることができる。
【0042】
さらに、最もクロム系皮膜厚の大きな実施例2では、従来例と比較し、約20%のピール強度増加が見られ、耐酸性ピール強度についても同様に向上が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成したフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔において、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量が50質量%以上99質量%以下であることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項2】
前記下地金属膜中の亜鉛が0.1μg/cm2以上0.8μg/cm2以下、前記クロム系皮膜中の金属クロムが0.4μg/cm2以上2.0μg/cm2以下含有される請求項1記載のフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項3】
銅箔上に、少なくとも亜鉛めっきからなる下地金属膜とクロム系皮膜を形成するフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法において、下地金属膜とクロム系皮膜の亜鉛及び金属クロムの含有量の合計に対する金属クロムの含有量を50質量%以上99質量%以下とすることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法。
【請求項4】
亜鉛めっきからなる前記下地金属膜を形成し、アルカリ浸漬処理を行った後、クロメート処理により前記クロム系皮膜を形成する請求項3記載のフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ浸漬処理に水酸化ナトリウム水溶液を用いる請求項4記載のフレキシブルプリント配線板用表面処理銅箔の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60614(P2013−60614A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198284(P2011−198284)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】