フレキシブル形状機能性積層体及び機能性構造体
【課題】 フレキシブル形状の基材に、無機物層を含有する機能性層が設けられた機能性積層体であって、クラックの発生によってその機能が損なわれることが少なく、同時に水抜け性を向上させることのできるフレキシブル形状機能性積層体、及びそのフレキシブル形状機能性積層体を備えた機能性構造体を提供すること。
【解決手段】 所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、立体的形状に起因する応力集中部位8に開裂部9を有する機能性層1と、機能性層1の一方の主面側に配置されているフレキシブル形状の基材2とで、フレキシブル形状機能性積層体10を構成する。フレキシブル形状の基材4が樹脂層3を介して機能性層1を支持する構成11としてもよく、機能性層1のもう一方の主面を被覆する保護層を設ける構成12および13としてもよい。開裂部9は、機能性層1の機能に影響を与えることの少ない、稜線部やコーナー部8に選択的に形成される。
【解決手段】 所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、立体的形状に起因する応力集中部位8に開裂部9を有する機能性層1と、機能性層1の一方の主面側に配置されているフレキシブル形状の基材2とで、フレキシブル形状機能性積層体10を構成する。フレキシブル形状の基材4が樹脂層3を介して機能性層1を支持する構成11としてもよく、機能性層1のもう一方の主面を被覆する保護層を設ける構成12および13としてもよい。開裂部9は、機能性層1の機能に影響を与えることの少ない、稜線部やコーナー部8に選択的に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル形状の基材に、無機物層を含有する機能性層が設けられたフレキシブル形状機能性積層体に関するものであり、詳しくは、クラックの発生によってその機能が損なわれることが少ないフレキシブル形状機能性積層体、及びそのフレキシブル形状機能性積層体を備えた機能性構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯型電子機器をはじめとして、電子機器の軽薄短小化に対する要求が強まっている。それに伴い、従来用いられてきたガラス基板を、フィルム状やシート状のプラスチック基板で代替しようとする研究が盛んに行われている。プラスチック基板は、安価であるばかりでなく、軽くて割れにくく、フレキシビリティ(柔軟性)に富むので、プラスチック基板を用いれば、曲面形状の画像表示素子など、ガラス基板では実現し得なかった電子素子を実現できる可能性がある。また、光学部材などにおいても、プラスチック基材を用いた反射鏡など、基材としてプラスチックを用いる研究が盛んである。
【0003】
これらの機能性部材では、プラスチック基材などのフレキシブル基材上に、機能性層として金属層、半導体層、誘電体層、透明導電層などの無機物層を形成することが一般的に行われている。また、無機物層の耐久性やバリア性の向上を目的として、クラックの存在しない、緻密な無機物層を形成する方法は数多く提案されている。
【0004】
しかし、無機物層は脆いことが多く、フレキシブルな基材上に無機物層を形成した場合、無機物層にクラック(割れ)が生じやすいという問題がある。仮に形成時にクラックが全く無い無機物層を作製することができたとしても、その後のハンドリング時に加わる外力や、温度変化による膨張、収縮によって、容易にクラックが発生する。無機物層全体に大きなクラックが発生すると、その部分から水蒸気や腐食性ガスによる腐食が進行し、機能性部材としての機能が損なわれる場合がある。
【0005】
例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチックフィルム上に厚さ20〜50nm程度のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)層からなる透明導電層が形成されたフィルムでは、厚さが50μm未満の薄いプラスチックフィルムを用いた場合、ハンドリングの際にITO層にクラックが生じ、ITO層の導電性が著しく損ねられる。従って、ITO層の割れを防ぐために、基材フィルムとして、厚さが少なくとも50μm以上、通常は100μm以上であり、十分な強度と剛性を有するプラスチックフィルムが用いられるのが実情である。これは、ITO層におけるクラックの発生を防止するために、基材フィルムのフレキシビリティを犠牲にしていることにほかならない。
【0006】
また、単に無機物層におけるクラックの発生を防止することだけが目的であれば、多少の外力や温度変化ではクラックが生じないほど、無機物層を厚く、強固に形成することも考えられるが、それでは、基材フィルムのフレキシビリティを生かすことができない。
【0007】
そこで、後述の特許文献1では、ベースフィルム上に塗布法により導電性酸化物微粒子層を形成した後、更に該導電性酸化物微粒子層上に同じく塗布法により導電性オーバーコート層を形成して得られる、透明導電層と導電性オーバーコート層とを有するフレキシブル透明導電フィルムであって、
前記導電性酸化物微粒子層には圧縮処理が施されており、
前記透明導電層は、前記導電性酸化物微粒子層の導電性酸化物微粒子の間隙に前記導 電性オーバーコート層のバインダー成分が染込んで形成され、導電性酸化物微粒子とバ インダーマトリックスを主成分としており、
前記導電性オーバーコート層は、導電性成分とバインダーマトリックスを主成分とし 、且つ、厚さが0.1〜0.5μmであること
を特徴とするフレキシブル透明導電フィルムが提案されている。
【0008】
特許文献1では、上記の構成によって、高い導電性を維持したまま、膜強度や耐溶剤擦過性を高めることができ、従来のスパッタリングITOフィルムと同等の透明性と導電性を有すると同時に、フレキシビリティにも優れるフレキシブル透明導電フィルムを得ることができる、と説明されている。
【0009】
一方、ガラスなどに光機能性フィルムなどを施工する際には、ガラス面を水で濡らし、両者の間に気泡が入らないようにする水貼りを行うのが一般的である。この場合、施工後、ガラスと光機能性フィルムとの間に残った水が光機能性フィルムを透過して完全に抜け去るまで、養生期間が必要になる。養生期間中は施工液が水泡として現れたり、フィルム面が白濁したりすることがあるので、光機能性フィルムとしての本来の機能を発揮できない。また、養生期間中は、光機能性フィルムに触ることも制限される。そのため、水貼りする光機能性フィルムには、水貼りの際に用いた水が速やかに抜け去るように、ある程度の水抜け性が求められる。
【0010】
しかしながら、光機能性を付与するために金属層や誘電体層などからなる機能性層を基材フィルムに設ける場合、機能性層が厚く緻密であると、バリア性が高くなりすぎ、光機能性フィルムの水抜け性が低下して、養生期間が長くなるという問題がある。この対策として、例えば、光機能性フィルムに応力を加え、機能性層にクラックを形成しようとすると、通常の光機能性フィルムでは、機能性層のいたるところでクラックが発生する。この結果、機能性層の水抜け性は向上するものの、機能性層の劣化が進み、光機能性フィルムとしての性能が損なわれる。
【0011】
上述したように、単に応力を加え、クラックの発生を誘起する方法では、水抜け性の向上と光機能性の維持とを両立させることは不可能である。機能性層の機能に影響を与えない領域に選択的に開口部を設けることによって、光機能性フィルムとしての性能を維持しながら、水蒸気透過率を増大させ、水抜け性を向上させることができると考えられる。しかし、本発明者の知る限り、そのような提案は、まだ、なされていない。
【0012】
厚さが1〜10μm程度の無機材料膜の所定の領域に開口部を設ける方法としては、熱膨張係数の異なる犠牲層を用いる方法が後述の特許文献2に提案されている。
【0013】
図24は、特許文献2に提案されている無機材料膜のパターン形成方法のフローを示す断面図である。この方法では、まず、図24(a)に示すように、基板111上に、無機材料とは熱膨張係数が異なる材料を用いて、パターンを有する犠牲層112を形成する。次に、図24(b)に示すように、犠牲層112が形成された基板111上に、所定の成膜温度で無機材料を用いて無機材料層113を形成する。次に、図24(c)に示すように、無機材料層113の温度を低下させることにより、犠牲層112上に形成された無機材料層113にクラックを発生させる。次に、図24(d)に示すように、犠牲層112およびその上に形成された無機材料層を除去し、犠牲層112上以外の領域に形成された無機材料層114だけを選択的に残す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1で提案されているフレキシブル透明導電フィルムは、導電性酸化物微粒子からなる透明導電層と、導電性成分(導電性酸化物微粒子、イオン性液体、またはイオン導電性化合物)およびバインダーマトリックスを主成分とする導電性オーバーコート層とを含有する。しかし、導電性酸化物微粒子は焼結されていないので、この構成によって、スパッタリング法によって形成される透明導電層と同程度の、良好な導電性を確実に得ることは難しいと考えられる。また、この構成は、透明導電フィルムに限定され、光機能性フィルムなどには適用できない。
【0015】
特許文献2で提案されている無機材料膜のパターン形成方法は、構成材料が特定の熱膨張係数をもつ材料に限定される。また、犠牲層112のパターニングが必要であるので、工程が煩雑である。
【0016】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、フレキシブル形状の基材に、無機物層を含有する機能性層が設けられた機能性積層体であって、簡易に作製でき、クラックの発生によってその機能が損なわれることが少なく、同時に水抜け性を向上させることのできるフレキシブル形状機能性積層体、及びそのフレキシブル形状機能性積層体を備えた機能性構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明は、
所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、前記立体的形状に起因する応力集 中部位に開裂部(クラック)を有する機能性層と、
少なくともフレキシブル形状の基材を含有し、前記機能性層の一方の主面側に配置さ れている支持体と
を有する、フレキシブル形状機能性積層体に係わるものである。
【0018】
また、前記フレキシブル形状機能性積層体を備える、機能性構造材に係わるものである。
【発明の効果】
【0019】
立体的形状をもつ物体では、稜線部やコーナー部に応力が集中しやすいことが知られている。本発明のフレキシブル形状機能性積層体では、機能性層に含有されている前記無機物層は、応力集中部位を有する所定の立体的形状に形成されている。無機物層は脆いので、フレキシブル形状の基材を介して、わずかな応力を加えるだけで、簡易に前記応力集中部位に開裂部(クラック)を生じさせることができる。いったん前記クラックが形成されると、そのクラックが応力の逃げ道になる。また、初期に発生した前記クラックによって前記無機物層が多数の小さな部分に細分化されると、前記フレキシブル形状の基材の変形に即応して各部分ごとに小さく変位することが可能になるので、前記無機物層全体としては前記フレキシブル形状の基材の変形に追従して変形できるようになる。従って、その後加えられる応力によって、前記クラックが成長し続けたり、別の箇所に新しいクラックが発生したりすることが少ない。
【0020】
これに対し、無機物層が平板状で、応力集中部位をもたない場合には、フレキシブル形状の基材の変形につれて、その都度応力が集中する箇所が変化する。そして、応力の大きさが、無機物層が耐え得る限界を超えると、この応力集中箇所に大きなクラックが形成される。この結果、平板状の無機物層では、大きなクラックが不規則に発生する。
【0021】
上記2つのケースを比べると、前記無機物層が前記応力集中部位を有し、前記クラックを生じやすい立体的形状に形成されている方が、結果的には、前記クラックの大きさを小さく抑え、前記クラックの発生量を抑制することができる。しかも、前記クラックが一部の領域(前記応力集中部位)に選択的に発生するように制御することも可能であり、好ましい。
【0022】
前記無機物層の前記所定の立体的形状には、2つの場合がある。1つは、前記所定の立体的形状が前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部である場合である。もう1つは、前記所定の立体的形状が前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられている場合である。後者の場合ばかりでなく、前者の場合であっても、多くの場合、前記応力集中部位が、前記無機物層の機能を損なうことのない領域又は損なうことの少ない領域に、適切な大きさで配置されるように、前記所定の立体的形状を工夫することができる。この結果、前記クラックの発生による機能の劣化を最小限に抑えることができる。
【0023】
本発明のフレキシブル形状機能性積層体では、立体的形状に起因する応力集中を利用してクラックを形成するので、前記無機物層及び前記フレキシブル形状の基材を構成する材料が制限されることがない。また、前記クラックを有する構造を極めて簡易に作製することができる。また、前記クラックの発生によって水蒸気透過率が増加するので、水貼り性能として求められる水抜け性も同時に向上する。
【0024】
本発明の機能性構造材は、前記フレキシブル形状機能性積層体を備えるので、上記と同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図2】同、機能性層の形状の例を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図3】同、機能性層の別の形状を示す斜視図である。
【図4】同、機能性層のさらに別の形状を示す平面図(a)、および4B−4B線の位置における拡大断面図(b)である。
【図5】同、機能性層における応力集中部位および開裂部(クラック)を模式的に示す部分断面図である。
【図6】同、フレキシブル形状機能性積層体の作製工程を示す断面図である。
【図7】同、フレキシブル形状機能性積層体の作製工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に基づくフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である
【図9】本発明の実施の形態3に基づく、フレキシブル形状機能性積層体に入射する入射光と、フレキシブル形状機能性積層体によって反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図10】同、変形例1のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図11】同、変形例2のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図12】同、変形例3のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図13】同、変形例4の機能性層の形状を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図14】同、変形例5の機能性層の形状を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図15】同、変形例6の機能性層の形状を示す斜視図である。
【図16】同、変形例7の機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に16B−16B線および16C−16C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。
【図17】同、変形例8の機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に17B−17B線および17C−17C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。
【図18】本発明の実施の形態4に基づくブラインド装置の構造を示す斜視図(a)、およびスラットの断面図(b)である。
【図19】同、ロールスクリーン装置の構成を示す斜視図(a)、およびスクリーンの断面図(b)である。
【図20】同、建具の構成を示す斜視図(a)、および光学的機能性体の断面図(b)である。
【図21】本発明の実施例によるコーナーキューブ形状の機能性層におけるクラック発生の特徴を示す、光学顕微鏡による観察像である。
【図22】本発明の比較例による平板状の機能性層におけるクラック発生の特徴を示す、光学顕微鏡による観察像である。
【図23】本発明の実施例および比較例による機能性層の、耐候性試験前後における可視および近赤外領域における反射率の変化を示す反射スペクトルである。
【図24】特許文献2に提案されている無機材料膜のパターン形成方法のフローを示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のフレキシブル形状機能性積層体において、前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部であるのがよい。或いは、前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられているものでもよい。
【0027】
また、前記応力集中部位が、前記立体的形状のうち、前記無機物層の機能を損なうことのない、又は損なうことの少ない領域に設けられているのがよい。
【0028】
前記フレキシブル形状の基材が、前記機能性層の前記一方の主面に密着しているのがよい。或いは、前記機能性層の前記一方の主面に密着して樹脂層が配置されており、前記フレキシブル形状の基材はこの樹脂層を介して前記機能性層を支持しているのがよい。
【0029】
また、前記機能性層のもう一方の主面が、樹脂からなる保護層によって被覆されているのがよい。この際、前記保護層の、前記機能性層と接している面とは反対側の面に接して、保護材が配置されているのがよい。また、前記樹脂層と前記保護層とが同種の材料からなるのがよい。
【0030】
また、フレキシブル形状機能性積層体が、前記フレキシブル形状の基材の表面を光入射面とし、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。
【0031】
この際、前記機能性層が、指向反射性を有する光学的機能性層であるのがよい。指向反射とは、入射光を正反射(入射角と反射角が等しい反射)の方向以外のある特定の方向へ反射するとともに、その反射強度が、指向性をもたない拡散反射強度よりも十分に強い反射のことである。反射面が一定の方向を向いた1枚の光学的平面である場合には、正反射と、表面の平滑性の乱れに起因する拡散反射とが起こる。これに対し、反射面が、ある規則性をもって異なる方向に配向している多数の小さな面からなる場合には、入射光は小さな面による正反射を複数回繰り返し、その結果、指向反射が起こることがある。
【0032】
例えば、前記機能性層の反射面が第1の反射面群と第2の反射面群からなる多数の反射面群で構成され、前記第1の反射面及び前記第2の反射面の平面形状は細長い長方形で、長辺は互いに同じ長さであり、前記長辺は前記光入射面に対して平行であるが、前記第1の反射面および前記第2の反射面の短辺は、それぞれ、前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記第1の反射面及び多数の前記第2の反射面が、前記反射面の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に交互に配列されているのがよい。
【0033】
別の例としては、前記機能性層の反射面は、多数の単位凹部又は単位凸部が規則正しく配置されて構成されており、前記単位凹部又は単位凸部の立体的形状が、角錐形、円錐形、半球形、又はシリンドリカル形であるのがよい。
【0034】
これらの指向反射性を有する光学的機能性層は、前記機能性層の反射面の対称面の面内方向又は対称軸の方向、すなわち、再帰反射率が最大又は概ね最大になる方向が、前記入射面に直交する方向から傾斜しているのがよい。再帰反射とは、入射光をその発生源の方向に再び導くように反射することを言い、指向反射の1つである。
【0035】
あるいは、前記機能性層の反射面が、1種類の、個片化された、多数の反射面群で構成され、前記反射面の平面形状は細長い長方形で、その長辺は前記光入射面に対して平行であるが、その短辺は前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記反射面がその長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されているのがよい。
【0036】
また、機能性積層体が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。この際、前記機能性層が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層であるのがよい。この場合、前記機能性層が、高屈折率層と金属層とが積層された複数層からなるか、又は、低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層からなるのがよい。
【0037】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0038】
[実施の形態1]
実施の形態1では、請求項1、2、および4〜19に対応し、無機物層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必須のものであり、応力集中部位がその立体的形状の一部である例について説明する。
【0039】
[フレキシブル形状機能性積層体]
図1は、実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体10〜13の構造を示す断面図である。図1(a)に示すフレキシブル形状機能性積層体10は、機能性層1と、機能性層1の一方の主面に密着するように配置された、フレキシブル形状の基材2とを有する。機能性層1は所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、その材料、層構造、および立体的形状に応じて、特定の機能を発現する層である。フレキシブル形状の基材2はその支持体である。フレキシブル形状機能性積層体10は、最も簡素に構成されたフレキシブル形状機能性積層体である。
【0040】
図1(b)に示すフレキシブル形状機能性積層体11は、機能性層1と、機能性層1の一方の主面に密着するように配置された樹脂層3およびフレキシブル形状の基材4からなる支持体とを有する。フレキシブル形状機能性積層体11では、支持体が2つの部材、樹脂層3およびフレキシブル形状の基材4で構成されているので、フレキシブル形状機能性積層体10に比べ、各部材の材料選択の自由度が大きくなるなどのメリットがある。
【0041】
図1(c)および図1(d)に示すフレキシブル形状機能性積層体12および13は、それぞれ、機能性層1のもう一方の主面を被覆するように、樹脂からなる保護層5が設けられた例、および、保護層5の外側にさらにフレキシブル形状の保護材6が設けられた例である。保護層5や保護材6が設けられることによって、積層体12および13の信頼性が向上する。しかも、保護層5や保護材6はフレキシブルであるので、これらの部材が設けられることによって積層体12および13のフレキシビリティが損なわれることはない。
【0042】
フレキシブル形状機能性積層体12および13では、樹脂層3を構成する樹脂と、保護層5を構成する樹脂とが同種の材料からなるのがよい。また、フレキシブル形状機能性積層体13では、フレキシブル形状の基材4を構成する材料と、フレキシブル形状の保護材6を構成する材料とが同種の材料からなるのがよい。このようであると、機能性層1を挟んで配置されている部材間で力学的なバランスがとれやすく、また、膨張率などの温度依存性が同程度になるので、外力や温度変化による膨張収縮などによって機能性層1に加わる応力が小さくなると期待される。また、後述する光学的機能性積層体を構成する場合には、同じ屈折率の材料を用いることで透明性が向上する。
【0043】
[フレキシブル形状光学的機能性積層体]
フレキシブル形状機能性積層体10〜13は、機能性層1の所定の立体的形状がその機能の発現に必須のものであること以外に、とくに限定されることはない。代表的には、機能性積層体10〜13は、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である。この場合、とくに、機能性層1が、指向反射性を有する光学的機能性層であるのがよい。また、機能性積層体10〜13が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。この場合、とくに、機能性層1が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層であるのがよい。
【0044】
以下、機能性層1が、特定の波長領域の光を選択的に指向反射する一方、その波長領域外の光を透過させる波長選択反射層であり、フレキシブル形状機能性積層体13が特定の波長領域の光を選択的に指向反射する一方、その波長領域外の光を透過させる光学機能性フィルムとして構成されている例について、各部材等を詳述する。なお、フレキシブル形状機能性積層体13がフレキシブル形状機能性積層体10〜12であっても同様である。
【0045】
この際、選択的に指向反射する光が近赤外光であり、透過させる光が可視光であるのがとくに好ましい。近年、窓から室内に入射する太陽光によって、室内の温度が過度に上昇するのを防止することを目的として、窓ガラスなどに太陽光の一部を反射する光学層が設けられる例が増加している。太陽から注がれる光エネルギーは、主として、波長380〜780nmの可視領域の光のエネルギーと、波長780〜2100nmの近赤外領域の光のエネルギーとからなる。このうち、近赤外領域の光を遮断しても人間の視覚が損なわれることはないので、高い透明性・視認性と高い熱遮断性とを両立させるためには、近赤外領域の光の透過を制限することが重要である。近赤外光を選択的に再帰反射する光学機能性フィルムを窓ガラスに貼り付けると、周囲への熱汚染を生じることなく、この目的を達成できるので好ましい。
【0046】
機能性積層体10〜13が光学的機能性積層体である場合、機能性積層体10または11では、分光特性としての透過性は確保できるが、向こう側の像が見えにくくなる現象が生じる(写像鮮明度が低下する)ことがある。また、機能性積層体10または11では機能性層1の保護も難しいので、機能性層1の材料として耐久性の高い無機材料を用いる場合を除いて、機能性積層体12または13の構成の方が好ましい。
【0047】
<機能性層の形状>
図2(a)は、フレキシブル形状機能性積層体13における機能性層1の形状の例を示す斜視図である。見やすくするため、機能性層1と保護層5のみを示した。この例は請求項12に対応する。機能性層1の反射面は、2種類の反射面7aおよび7bからなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面7aおよび7bは交互に一方向に向かって一次元的に配列されている。反射面7aおよび7bの平面形状は細長い長方形で、互いに同じ大きさである。反射面7aおよび7bは、長辺は光入射面(例えば、フレキシブル形状の基材4の表面;図2(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は、それぞれ、光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。隣接する反射面7aと反射面7bとがなす角を二等分する面Nは光入射面に直交し、反射面7aと反射面7bとはこの面に関して対称である。この対称に形成された反射面7aと反射面7bとの組が、多数組み、反射面7の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されて、機能性層1の反射面が構成されている。従って、機能性層1の反射面は、一次元配列方向に関して反転対称性を有する。以下、機能性層1のこの形状をV字溝形状と呼ぶことにする。反射面7aおよび7bとのなす角に特に制限はないが、代表的には90°である。この場合、配列方向に平行な面で反射面7aおよび7bを切断すると、直角二等辺三角形の直角を挟む2つの短辺に切断される。ここではV字形の溝が形成されている例を示したが、溝がU字形であってもよい。
【0048】
反射面7aおよび7bの配列のピッチは、5μm〜5mmであるのが好ましく、10〜250μmであるのがより好ましく、20〜200μmであるのがさらに好ましい。ピッチが250μm以下であると、柔軟性が向上し、ロール・ツー・ロール・プロセスで製造することが容易になり、バッチ・プロセスで製造するのに比べ、生産性が向上するので、好ましい。本実施の形態の光学機能性フィルムを窓ガラスなどの建材に適用する際には、多くの場合、数m程度の長さが必要であり、このような長尺の光学機能性フィルムの製造には、バッチ・プロセスよりもロール・ツー・ロール・プロセスの方が適している。ピッチが20〜200μmである場合には、さらに柔軟性などが向上し、生産性が向上する。
【0049】
これに対して、ピッチが5μm未満であると、機能性層1の形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択特性を急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると、回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、ピッチが5mmを超えると、機能性層1の厚さが厚くなり、柔軟性が失われ、窓ガラスなどの剛体に貼りあわせることが困難になる。
【0050】
機能性層1の厚さは、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。平均膜厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。
【0051】
図2(b)は、機能性層1の機能を示す断面図である。見やすくするため、第1の樹脂層2および第2の樹脂層3のハッチングは省略した。フレキシブル形状の基材4の表面は平坦である。また、機能性層1に接している側とは反対側の、樹脂層3の表面も平坦である。機能性積層体13では、フレキシブル形状の基材4の平坦な表面が光入射面として用いられる。上記の機能性層1が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層1の反射面に近赤外光が入射すると、近赤外光は、通常、反射面7bと反射面7aで各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層1を単に透過する。機能性層1では、反射面7の対称面、すなわち二等分面Nが光入射面に直交しているので、再帰反射率が最大になる方向は、入射面に直交する方向になる。
【0052】
図3は、機能性層の別の形状を示す斜視図である。見やすくするため、図3では、フレキシブル形状機能性積層体20の機能性層21と保護層25のみを示した。この例は請求項13に対応する。機能性層21の反射面は、多数の単位凹部23が規則正しく配置されて構成されている。1個の単位凹部23は反射面22a〜22dを有する。機能性層21の裏面側の形状は、図4(a)に示したV字溝を縦と横の直交する2方向に形成することによって得られる形状(四角錐が規則正しく配置された形状)である。以下、機能性層21のこの形状を二重V字溝形状と呼ぶことにする。機能性層21が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層21の反射面に近赤外光が入射すると、近赤外光は、通常、反射面22aと22c、または22bと22dで各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層21を単に透過する。
【0053】
上記の例では、反射面が凹部23を形成する例を説明したが、反射面が凹部23の凹凸を反転させた凸部を形成するのでもよい。この場合、近赤外光は、隣接する2つの四角錐の、対向する反射面で各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。
【0054】
図4は、機能性層のさらに別の形状を示す平面図(a)、および4B−4B線の位置における拡大断面図(b)である。見やすくするため、断面図では機能性層31と保護層35のみを示した。この例も請求項13に対応する。機能性層31の反射面は、多数のコーナーキューブ形の単位凹部33が規則正しく配置されて構成されている。1個のコーナーキューブ形単位凹部33は反射面32a〜32cを有する。機能性層31の裏面側の形状は、図2(a)に示したV字溝を60°で交わる3方向に形成することによって得られる形状(三角錐が規則正しく配置された形状)である。以下、機能性層31のこの形状をコーナーキューブ形状と呼ぶことにする。機能性層31が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層31の反射面に近赤外光が入射すると、図4(b)に示すように、近赤外光は、少なくとも2回、通常は反射面32a、32b、32cで各1回、合計3回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層31を単に透過する。
【0055】
上記の例では、反射面が凹部33を形成する例を説明したが、反射面が凹部33の凹凸を反転させた凸部を形成するのでもよい。この場合、近赤外光は、隣接する2つの三角錐の、対向する反射面で各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。
【0056】
図5は、機能性層1における応力集中部位8およびそこに発生した開裂部(クラック)9を模式的に示す部分断面図である。立体的形状をもつ物体では、稜線部や谷筋部やコーナー部に応力が集中しやすい性質がある。機能性層1では、反射面7aと反射面7bとが連結する稜線部や谷筋部が応力集中部位8である。機能性層1を構成している無機物層は脆いので、フレキシブル形状の基材4を介して、わずかな応力を加えるだけで、応力集中部位8にクラック9を生じさせることができる。
【0057】
いったんクラック9が形成されると、クラック9が応力の逃げ道になる。また、初期に発生したクラック9によって機能性層1が多数の小さな部分に細分化されると、フレキシブル形状の基材4の変形に即応して各部分ごとに小さく変位することが可能になるので、機能性層1全体としては基材4の変形に追従して変形できるようになる。従って、その後加えられる応力によってクラック9が成長し続けたり、別の箇所に新しいクラックが発生したりすることが少なく、必要以上にクラックが発生することがない。
【0058】
これに対し、機能性層が平板状で、応力集中部位をもたない場合には、フレキシブル形状の基材の変形につれて、その都度応力が集中する箇所が変化する。そして、応力の大きさが、機能性層が耐え得る限界を超えると、この応力集中箇所に大きなクラックが形成される。この結果、平板状の機能性層では、大きなクラックが不規則に発生する。
【0059】
上記2つのケースを比べると、機能性層が応力集中部位を有し、クラックを生じやすい立体的形状に形成されている方が、結果的には、クラックの大きさを小さく抑え、クラックの発生量を抑制することができる。しかも、クラック9が一部の領域(応力集中部位8)に選択的に発生するように制御することも可能であり、好ましい。
【0060】
フレキシブル形状機能性積層体10〜13では、機能性層1の立体形状は、機能性層1が再帰反射層として機能するために必要なものであり、応力集中部位8はその形状の一部である。ただし、機能性層1の、再帰反射層としての機能は、反射面7aおよび7bによって担われ、応力集中部位8である稜線部はその機能にほとんど寄与していない。従って、反射面7aおよび7bにクラックが発生すると機能性層1の機能が損なわれが、応力集中部位8である稜線部にクラックが発生しても、機能性層1の機能が損なわれることはほとんどない。再帰反射層のように、構造内での多重反射により光機能性を発現する場合、反射の回数だけ劣化の影響が大きくなるので、劣化抑制の効果は特に大きい。
【0061】
フレキシブル形状機能性積層体20および30においても同様である。機能性層21および31の立体形状は、それぞれ、機能性層21および31が再帰反射層として機能するために必要なものであり、その稜線部やコーナー部に応力集中部位が自ずと生じる。しかし、指向性反射層としての機能性層21および31の機能は、それぞれ、反射面22a〜22dおよび32a〜32cによって担われ、応力集中部位である稜線部やコーナー部はその機能にほとんど寄与していない。従って、応力集中部位にクラックが発生しても、機能性層21および31の機能が損なわれることはほとんどない。
【0062】
上記の例のように、機能性層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必須のものであり、応力集中部位がその立体的形状の一部である場合であっても、多くの場合、応力集中部位が、機能性層の機能を損なうことのない領域又は損なうことの少ない領域に、適切な大きさで配置されるように、立体的形状を工夫することができる。この結果、クラックの発生による機能の劣化を最小限に抑えることができる。
【0063】
本実施の形態に基づくフレキシブル形状機能性積層体では、立体的形状に起因する応力集中を利用してクラックを形成するので、機能性層やフレキシブル形状の基材を構成する材料が制限されることがない。また、前記クラックを有する構造を極めて簡易に作製することができる。また、前記クラックの発生によって水蒸気透過率が増加するので、水貼り性能として求められる水抜け性も同時に向上する。例えば、図5に示したフレキシブル形状機能性積層体13は、クラック9がない状態では水抜け性が悪いが、クラック9が形成されると水抜け性が良好である。
【0064】
機能性層は単層の無機物層であってもよいし、図5に示すように、複数層の無機物層が積層された層であってもよい。クラック9は、通常、機能性層を構成する全ての層を貫通する。クラック9は、機能性層の作製時に同時に形成してもよいし、機能性層の作製後に形成してもよいが、機能性層の作製後に形成するほうが簡便でよい。
【0065】
クラック9を作製するには、フレキシブル形状の基材2または4のフレキシビリティが高いことが好ましい。例えば、フレキシブル形状の基材2または4として、厚さが50μm未満(例えば25μm等)の薄いプラスチックフィルムを用い、スパッタリング法で機能性層を形成した場合、ハンドリングの最中に機能性層にクラック9が発生する。また、フレキシブル形状の基材2または4として、十分な強度と剛性を備える厚さ100μm程度のプラスチックフィルムを用いた場合でも、フレキシブル形状機能性積層体を少し曲げるだけで簡易にクラック9を形成することができる。例えば、機能性層として金属層もしくは誘電体層を作製する際に、ロール・ツー・ロール・プロセスで作製すれば、製膜後にロールに巻きつけるプロセスの間に、簡易にクラックを発生させることができる。例えば、直径15mmの丸棒に5回程度巻きつけることで、クラックを発生させることができる。
【0066】
<フレキシブル形状機能性積層体の作製>
図6および図7は、実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体10〜13の作製工程を示す断面図である。
【0067】
機能性積層体10を作製するには、まず、図6(a)に示すように、バイトによる切削加工やレーザー加工などによって、金型19の表面に所定の立体形状を形成する。この立体形状は、作製しようとする機能性層1の立体形状と同一の形状、またはその凹凸を反転した形状とする。本例では同一の形状とする。
【0068】
次に、図6(b)に示すように、この金型19の表面に塗布法などで樹脂材料層42を形成する。樹脂材料層3aは、硬化すると樹脂層3に変化する、未硬化の樹脂モノマー及び/又はオリゴマーからなる層である。さらにその上に、例えば、厚さが100μm程度のフレキシブル形状の基材4を押し当て、金型19と樹脂材料層3aと基材4とを密着させる。
【0069】
次に、図6(c)に示すように、基材4の側から紫外光を樹脂材料層3aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、樹脂層3を形成する。
【0070】
次に、図6(d)に示すように、基材4と樹脂層3との積層体を金型19から剥離させ、金型19の表面の立体形状の凹凸反転形状が転写された樹脂層3を得る。この例では、樹脂層3の材料として紫外線硬化性樹脂を用いる方法を示したが、樹脂層3の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながら樹脂材料層3aを金型19に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却して金型19から剥離させることにより、樹脂層3を形成してもよい。
【0071】
次に、図7(e)に示すように、樹脂層3の表面に密着するように機能性層1を成膜する。この結果、機能性層1の、樹脂層3に密着している主面は、金型19の表面の立体形状と同じ形状に形成される。機能性層1の成膜方法は、とくに限定されることはなく、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)、塗布法、および浸漬法などの中から、用いる材料や機能性層1の形状に応じて適宜選択する。以上の工程で、フレキシブル形状機能性積層体11を得る。
【0072】
フレキシブル形状機能性積層体10を得るには、フレキシブル形状の基材2の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながらフレキシブル形状の基材2を金型19に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却して金型19から剥離させることにより、金型19の形状の反転形状をフレキシブル形状の基材2の表面に転写すればよい。その後、図7(e)で説明したと同様にして、基材2の表面に密着するように機能性層1を形成する。フレキシブル形状機能性積層体12または13を得るには、さらに下記の工程を行う。
【0073】
次に、図7(f)に示すように、機能性層1のもう一方の主面に、塗布法などで樹脂材料層5aを形成する。樹脂材料層5aは、硬化すると保護層5に変化する、未硬化の樹脂モノマー及び/又はオリゴマーからなる層である。樹脂材料層5aから気泡を押し出した後に、その上に厚さ100μm程度のフレキシブル形状の保護材6を押し当て、機能性層1と樹脂材料層5aと保護材6とを密着させる。
【0074】
次に、図7(g)に示すように、保護材6の側から紫外光を樹脂材料層5aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、保護層5を形成する。この結果、フレキシブル形状機能性積層体13を得る。この例では、保護層5の材料として紫外線硬化性樹脂を用いる方法を示したが、保護層5の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながら樹脂材料層5aを機能性層1に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却してもよい。
【0075】
フレキシブル形状機能性積層体12を得るには、保護材6に剥離用フィルムを被せた状態で図7(f)および図7(g)に示した工程を行い、その後、剥離用フィルムのところで、硬化した保護層5から保護材6を剥がせばよい。
【0076】
<機能性層の層構造および構成材料>
図2〜図4にそれぞれ示した機能性層1、機能性層21および機能性層31は、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層である。このような層は、高屈折率層と金属層とが積層された複数層、または低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層によって構成することができる。
【0077】
例えば、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する高屈折率層と、赤外領域において反射率の高い金属層とを交互に積層すると、可視光の透過率が高く、近赤外光の反射率が高い層を形成することができる。赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、金Au、銀Ag、銅Cu、アルミニウムAl、ニッケルNi、クロムCr、チタンTi、パラジウムPd、コバルトCo、ケイ素Si、タンタルTa、タングステンW、モリブデンMo、ゲルマニウムGeなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする層である。実用性を考慮すると、これらのうち、単体では、Ag、Cu、Al、SiまたはGeが好ましい。合金では、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgNdCu、AgBi、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。高屈折率層は、例えば、インジウム・スズ複合酸化物(ITO)、酸化亜鉛ZnO、ガリウム・亜鉛複合酸化物(GZO)、アルミニウム・亜鉛複合酸化物(AZO)、ガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物(GAZO)、酸化ニオブNb2O5、酸化タンタルTaO2、酸化チタンTiO2などの高誘電体を主成分とする。透明層の成膜時に下層の金属層が酸化されるのを防止する目的で、金属層との界面に数nm程度のTiなどからなる薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、高屈折率層の成膜時に、自らが酸化されることによって金属層の酸化を防止する層である。
【0078】
また、干渉フィルタとして構成された、低誘電率層と高誘電率層との交互積層膜を用いても、可視光の透過率が高く、近赤外光の反射率が高い層を形成することができる。
【0079】
<その他の機能性層>
(1)クロミック材料層
クロミック材料を主成分として機能性層1を形成すると、外部刺激によって反射性能などが可逆的に変化する光学的機能性積層体を構成することができる。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、熱によって着色するサーモクロミック材料、電圧印加によって着色するエレクトロクロミック材料、光によって着色するフォトクロミック材料、ガスとの接触で着色するガスクロミック材料などを用いることができる。
【0080】
(2)フォトニックラティス層
コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0081】
(3)半透過層
機能性層1は、入射光の何割かを指向反射し、かつ、散乱が少なく、反対側を視認できる透明性を有する半透過層であってもよい。半透過層としては、例えば、単層または複数層の金属層からなり、半透過性を有するものである。構造体上に製膜する金属層の材料としては、例えば、上述の積層膜の金属層と同様のものを用いることができる。半透過層の具体例を下記に示す。
(a)厚さ8.5nmのAgTi層(質量比 Ag:Ti=98.5:1.5)
(b)厚さ3.4nmのAgTi層(質量比 Ag:Ti=98.5:1.5)
(c)厚さ14.5nmのAgNdCu層(質量比 Ag:Nd:Cu=99.0:0.4:0.6)
半透過層の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0082】
<樹脂層3および保護層5の材料>
ガラス転移温度に関しては、特に機能を限定することはないが、金属層または酸化物層をスパッタリング法や蒸着法などで成膜する際には、樹脂表面の温度が局所的に高温になるため、樹脂層3の樹脂のガラス転移温度は60℃以上であることが望ましい。樹脂層3および保護層5の材料として好適な材料は、例えば、製造の容易さから、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化性樹脂、または熱により硬化する熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0083】
エネルギー線硬化性樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化性樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、機能性層1との密着性を向上させるために、リン酸構造を含有する化合物、コハク酸構造を含有する化合物、またはブチロラクトン構造などを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸構造を含有する化合物としては、例えば、リン酸構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはホスホノ基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸構造を含有する化合物としては、例えば、コハク酸構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸構造を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトン構造を含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトン構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトン構造を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0084】
紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化性樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0085】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量が500〜60000の分子をいう。
【0086】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向がある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0087】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用してもよい。
【0088】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、フレキシブル形状の基材4およびフレキシブル形状の保護材5との密着性を考慮してヒドロキシ基やカルボキシ基やホスホノ基を有するような単量体、多価アルコール類、カルボン酸、シラン、アルミニウム、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加してもよい。
【0089】
樹脂組成物が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。この架橋剤としては、環状の架橋剤を用いることが特に好ましい。架橋剤を用いることで、室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。なお、室温での貯蔵弾性率が大きく変化すると、フレキシブル形状機能性積層体が脆くなり、ロール・ツー・ロール・プロセスなどによるフレキシブル形状機能性積層体の作製が困難となる。環状の架橋剤としては、例えば、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0090】
樹脂層3と保護層5は、可視光領域において透明性を有する同一樹脂からなることが好ましい。或いは、両層を構成する材料の屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。樹脂層3および保護層5のうち、窓材などの外部支持体6と貼り合わせる側となる層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。なお、樹脂層3と保護層5の少なくとも一方には、添加剤が含まれていてもよい。
【0091】
添加剤としては、光安定剤、難燃剤、酸化防止剤、波長選択反射膜と樹脂層との密着性を向上させるための添加剤などが挙げられる。密着性を向上させるための添加剤としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(例えば、共栄社化学(株)製のライトアクリレートP−1A(商品名)、添加量:0.5〜10質量%)、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(例えば、共栄社化学(株)製のライトアクリレートP−2M(商品名)、添加量:2〜10質量%)、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸(例えば、共栄社化学(株)製のHOA−MS(商品名)、添加量:20〜50質量%)、γ−ブチロラクトンメタクリレート(例えば、大阪有機化学(株)製のGBLMA(商品名)、添加量:20〜30質量%)が挙げられる。密着性を向上させるためには、それぞれ括弧内に示した添加量とするのが適しているが、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3の一方のみに、添加剤を添加する場合には、屈折率の違いにより曇って反対側が見えにくくなることを防止するため、添加量は3質量%以下、好ましくは1質量%以下にするとよい。したがって、この場合には、リン酸系の添加剤を採用することが好ましい。これにより、透過鮮明性を高くすることができる。一方、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3の両方に添加剤を添加する場合には、屈折率差が極力小さく(好ましくは0.010以下)となるように、添加量を調整すればよい。
【0092】
<フレキシブル形状の基材4および保護材6の材料>
フレキシブル形状の基材4および保護材6として好適な材料は、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)やジアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂(PA)、アラミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、およびメラミン樹脂などの樹脂である。
【0093】
[実施の形態2]
実施の形態2では、請求項3に対応し、無機物層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必要なものではなく、クラックの発生を制御する目的で設けられている例について説明する。
【0094】
図11は、実施の形態2に基づくフレキシブル形状機能性積層体40の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体40は、フレキシブル形状の基材44と、樹脂層43と、機能性層である透明導電層41とで構成されている。透明導電層41はITOなどからなり、脆いので、開裂部(クラック)が生じやすい。通常、クラックが生じると、透明導電層41の透明性および導電性が著しく損なわれる。透明導電層41は液晶ディスプレイや有機太陽電池の透明電極などとして好適に用いられる。
【0095】
しかし、フレキシブル形状機能性積層体40では、画素46間などの、機能に差し障りのない領域に応力集中部45が形成されており、主として応力集中部45にクラックが生じるように構成されている。このため、クラックが生じても、画質の低下を引き起こすことが少ない。生じたクラックには有機導電材などをしみ込ませることによって、導電性を回復させることができる。フレキシブル形状機能性積層体40を用いれば、フレキシブルな形状をもつ液晶ディスプレイや有機太陽電池を形成することができる。
【0096】
[実施の形態3]
実施の形態3では、まず、これから用いる入射光の入射方向および反射光の反射方向の表示方法を明らかにし、次に、実施の形態1の変形例に相当し、光学的機能性積層体として機能する種々のフレキシブル形状機能性積層体の例について説明する。
【0097】
<入射光の入射方向および反射光の反射方向>
図9は、フレキシブル形状機能性積層体に入射する入射光の入射方向と、フレキシブル形状機能性積層体によって反射される反射光の反射方向とを整理して示すための斜視図である。フレキシブル形状機能性積層体は、入射光Lが入射する平坦な入射面S1を有する。入射光の入射方向および反射光の反射方向を示すために、下記のように2つの偏角θおよびφを定義する。すなわち、入射光Lが入射面S1に入射する点Oにおいて入射面S1に立てた垂線をOP、点Oを起点として入射光Lの光源側に引いた特定の半直線をOQとする。Oを起点とする任意の半直線の、垂線OPからの偏角をθとする。そして、入射光Lの、垂線OPからの偏角をθL(0≦θL≦90°)、垂線OPを基準として入射光Lと対称の方向の偏角を−θL(0≧−θL≧−90°)とおく。また、Oを起点とする任意の半直線を入射面S1に射影し、得られる半直線の、半直線OQからの偏角(方位角)をφとする。この際、半直線OQから時計回り方向に回転した角度を正とし、反時計回り方向に回転した角度を負とする。そして、入射光Lを入射面S1に射影し、得られる半直線OMと半直線OQとがなす角をφL(−90°≦φL≦90°)とおく。このように定めると、入射光Lの入射方向は、偏角θとφの組み(θ、φ)を用いて(θL、φL)と表され、その正反射方向は(−θL、φL+180°)と表される。
【0098】
前述した特定の半直線OQの方向は、フレキシブル形状機能性積層体にある方向(方位)から入射した光が、同じ方向(方位)へ指向反射される反射強度が最大になる方向とする。但し、反射強度が最大となる方向が複数ある場合には、そのうちの1つを半直線OQとして選択する。例えば、フレキシブル形状機能性積層体13では、図2に矢印で示した、機能性層1における反射面7の一次元的配列方向、またはその反対方向を半直線OQの向きに定める。
【0099】
フレキシブル形状機能性積層体は、入射光Lのうち、特定波長領域の光L1を選択的に、正反射方向以外の方向へ指向反射する一方、特定波長領域以外の光L2を透過させる。また、フレキシブル形状機能性積層体は、入射光L2に対して透明性を有し、後述する範囲の透過像鮮明度を有することが好ましい。ここで、「反射する」とは、特定の波長領域、例えば近赤外領域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを意味するものとする。「透過させる」とは、特定の波長領域、例えば可視領域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを意味するものとする。
【0100】
入射光L1および入射光L2の波長領域は、フレキシブル形状機能性積層体の用途によって異なる。例えば、高層ビルや住居などの建築用ガラスや壁材などに、太陽光の一部を吸収または反射する光学層として機能性積層体を設ける場合には、入射光L1は近赤外光であり、入射光L2は可視光であることが好ましい。より具体的には、入射光L1が主に波長が780〜2100nmの近赤外光であることが好ましい。太陽光から注がれる光エネルギーは、主として、波長380〜780nmの可視領域の光のエネルギーと、780〜2100nmの近赤外領域の光のエネルギーとからなる。この近赤外領域の光を反射することによって、太陽から注がれる光エネルギーによって建物内の温度が過度に上昇するのを防止することができる。これにより、夏期には冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。なお、要求特性によっては、フレキシブル形状機能性積層体の入射面S1は、平坦面でなく凹凸を有していてもよい。
【0101】
入射光L1が指向反射される方向を(θR、φR)とすると、−90°≦φR≦90°(0≦θR)であることが好ましい。この範囲内であると、OQの方向が上方になるようにフレキシブル形状機能性積層体を外部支持体に貼りつけた場合に、上方から入射してくる入射光L1を上方へ戻すことができる。周辺に高い建物がない場合には、このような特性を有するフレキシブル形状機能性積層体が有効である。
【0102】
また、指向反射される方向(θR、φR)が、(θL、−φL)近傍、または、再帰反射方向である(θL、φL)近傍であることが好ましい。近傍とは、(θL、−φL)または(θL、φL)からのずれが、好ましくは5°以内、より好ましくは3°以内であり、さらに好ましくは2°以内の範囲内であることをいう。この範囲内であると、OQの方向が上方になるようにフレキシブル形状機能性積層体を外部支持体に貼りつけた場合に、周辺に同程度の高さの建物が立ち並ぶ場合でも、上空から入射してくる入射光L1を他の建物の上空に効率よく戻すことができる。
【0103】
このような指向反射を実現するためには、例えば、球面や双曲面の一部、または三角錐や四角錘や円錐などの3次元構造体の側面を用いることが好ましい。方向(θL、φL;ここで、−90°<φL<90°)から入射した光は、その形状に基づいて方向(θR、φR;ここで、0°<θR<90°、−90°<φR<90°)へ反射させることができる。または、一方向に伸びた柱状体にすることが好ましい。方向(θL、φL;ここで、−90°<φL<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて方向(θR、φR;ここで、0°<θR<90°、φR=−φL)に反射させることができる。
【0104】
先にふれた写像鮮明度に関しては、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。写像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上、60未満であると、外の明るさにも依存するが、日常生活には問題がない。60以上、75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンはほとんど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した写像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。写像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上、270未満であると、外の明るさにも依存するが、日常生活には問題がない。270以上、350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ、回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンはほとんど気にならない。ここで、写像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合には、透過させたい波長のフィルタを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0105】
透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過させたい波長のフィルタを用いて校正した後に測定することが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、写像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。測定装置および測定条件を下記に示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A (株式会社小坂研究所)
λc:0.8mm
評価長さ:4mm
カットオフ:×5倍
データサンプリング間隔:0.5μm
【0106】
フレキシブル形状機能性積層体の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得るためには、入射面S1から入射し、樹脂層及び機能性層1を透過し、出射面S2から出射される透過光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。さらに、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。
【0107】
また、反射光の色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩行者からは歩くにつれて色が変化するように見えたりするので、好ましくない。このような反射光の色調の変化を抑制するためには、0°以上、60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2に入射し、樹脂層または機能性層1によって反射された反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、フレキシブル形状機能性積層体の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光の色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の主面において満たされることが望ましい。
【0108】
<変形例1>
図10(a)は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体14の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体14では、保護層15は、表面に凹凸形状を有している。この凹凸形状と、機能性層1の凹凸形状とは、例えば、両者の凹凸形状が対応するように形成されており、両者が有する凸部の頂部と凹部の最下部との位置が略一致している。保護層15の凹凸形状は、機能性層1の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0109】
保護層15の平坦部は、機能性層1の頂部の高さ(底部を基準とした高さ)とほぼ同じ厚さを有し、第1の体積を有している。また、保護層15の凹凸部は、第2の体積を有する厚みで平坦部の上に形成されている。
【0110】
ここで、凹凸部の第2の体積は、平坦部の第1の体積の5%以上であることが好ましい。また、保護部15を構成するエネルギー線硬化樹脂が、8体積%以上の硬化収縮率を有する場合には、第2の体積は、第1の体積の15%以上であることが好ましい。また、保護層15を構成するエネルギー線硬化樹脂が、13体積%以上の硬化収縮率を有する場合には、第2の体積は、第1の体積の200%以上であることが好ましい。これにより、エネルギー線硬化樹脂の硬化後の残留応力を緩和でき、機能性層1と保護層15の間の層間剥離に起因する光学素子の透過率の低下を防止することができる。なお、凹凸層が平坦層である場合にも、当該体積の比率にすることにより、同様の効果が得られる。
【0111】
図10(b)は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体16の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体16では、保護層15が、上記平坦部のみで形成されている。すなわち、保護層15は、機能性層1の頂部の高さ(底部を基準とした高さ)とほぼ同じ厚さを有している。
【0112】
<変形例2>
図11は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体50の構造を示す断面図である。この例は請求項16に対応する。フレキシブル形状機能性積層体50がフレキシブル形状機能性積層体13と異なるのは、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層51を入射面上に備えていることである。自己洗浄効果層51は、例えば、酸化チタンTiO2などの光触媒を含んでおり、光触媒の親水性によって、機能性積層体50の表面に付着した汚れ物質を雨水などで均一に洗い流すことができる。なお、自己洗浄効果層51に代えて、撥水性を有する層(例えば、撥水性を有するフッ素系やシリコーン系の樹脂層)を形成してもよい。
【0113】
光学素子として構成された機能性積層体の光入射面は常に光学的に透明であることが好ましいが、機能性積層体を屋外や汚れの多い室内などに設置すると、表面に汚れ物質が付着し、この汚れ物質によって光が散乱され、光学特性が損なわれることがある。本変形例では、自己洗浄効果層51(親水性を有する層)または撥水性を有する層を設けたことにより、汚れ物質などが表面に付着するのを抑制し、光学特性の低下を防止することができる。
【0114】
<変形例3>
図12は、変形例3に基づくフレキシブル形状機能性積層体52の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体52がフレキシブル形状機能性積層体13と異なるのは、特定波長領域以外の光L2を透過させるのではなく、散乱させることである。本変形例によれば、赤外線などの、特定波長領域の光L1を指向反射し、かつ可視光などの、特定波長領域以外の光L2を散乱させることができる。このようにすると、フレキシブル形状機能性積層体52に曇りガラスのような意匠性を付与することができる。
【0115】
図12(a)は、フレキシブル形状機能性積層体52の一例52aの構造を示す断面図である。機能性積層体52aでは、第2の樹脂層3内に光L2を散乱させる微粒子53が配置されている。微粒子53は、第2の樹脂層3を主として構成する樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子53は、中空微粒子などであってもよい。微粒子53は、無機微粒子および有機微粒子の少なくとも1種であって、例えば、シリカ微粒子およびアルミナ微粒子などの無機微粒子や、スチレン樹脂微粒子、(メタ)アクリル樹脂微粒子、およびそれらの共重合体微粒子などの有機微粒子である。このうち、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0116】
図12(b)および(c)は、それぞれ、機能性積層体52の別の例52bおよび52cの構造を示す断面図である。機能性積層体52bでは、第2の樹脂層3の光透過側に光拡散層54が配置されている。機能性積層体52cでは、機能性層1と第2の樹脂層3との間に光拡散層55が配置されている。光拡散層54および55は、それぞれ、樹脂と微粒子とを含有し、微粒子は微粒子53と同様のものである。
【0117】
機能性積層体52では、入射光を散乱する微粒子や光拡散層などの光散乱体が、機能性層1よりも光透過側にあることが望ましい。光入射面と機能性層1との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が損なわれるからである。フレキシブル形状機能性積層体52を窓ガラスなどに貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらに貼りつけてもよい。
【0118】
<変形例4>
図13は、変形例4に基づく機能性層61の形状を示す斜視図(a)、およびフレキシブル形状機能性積層体60の構造を示す断面図(b)である。図13(a)では、見やすくするため、機能性層61と第2の樹脂層63のみを示した。この例は請求項9に対応する。機能性層61の反射面は、機能性層1と同様に、平面形状が細長い長方形である2種類の反射面64aおよび64bからなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面64aおよび64bは交互に一方向に向かって一次元的に配列されている。また、反射面64aおよび64bは、長辺は光入射面(例えば、第1の支持体4の表面;図13(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は、それぞれ、光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。しかし、機能性層1とは異なり、反射面64aと反射面64bとは、短辺の長さおよび光入射面に対する傾きが互いに異なる。隣接する反射面64aと反射面64bとがなす角を二等分する面Nは、光入射面に直交する方向からαだけ傾いている。すなわち、反射面64aと反射面64bとは二等分面Nに関して非対称であり、機能性層61の反射面は一次元配列方向に関して反転対称性を有していない。機能性層61で再帰反射率が最大になる方向は、概ね二等分面N内にある。機能性層61では二等分面Nが光入射面に直交していないので、再帰反射率が最大になる方向は入射面に直交する方向から傾斜した方向になる。
【0119】
窓ガラスなど、地面に対して略垂直に配置されている部材に機能性積層体を貼りつける場合、太陽からの直射光が下方(地面側)からくることはなく、反射光や散乱光を含めても、一般に上方(空側)から入射する光量の方が下方(地面側)から入射する光量に比べて圧倒的に多い。また、太陽からの光エネルギーの流入が多いのは昼過ぎ頃の時間帯であり、太陽の高度が45°より高いことが多い。このように入射光における入射方向の分布が非対称な場合、(一次元配列方向に関して)対称な反射面を有するフレキシブル形状機能性積層体13などを配置するより、(一次元配列方向に関して)非対称な反射面を有する機能性積層体60などを適切な向きに配置する方が、効果的に太陽からの近赤外線を上方(空側)に反射することができる場合がある。この場合、機能性層61の反射率に応じて、下記のいずれかを選択するのがよい。
【0120】
機能性層61の反射率が大きい場合、OQの方向、すなわち、再帰反射強度が最も強くなる方向が上方(空側)になるように、機能性積層体60を配置するのがよい。このようにすれば、機能性層61の再帰反射機能を生かして、上方から入射してくる入射光を上方へ戻すことができる。
【0121】
しかし、再帰反射は正反射を複数回行うので、機能性層61の反射率が小さい場合には、再帰反射される反射率は小さくなる。このような場合には、図13(b)に示すように、二等分面Nが傾いている方向が下方(地面側)になるように、機能性積層体60を配置するのがよい。このようにすると、上方から機能性層61に入射する光のうち、多くの光が、上方に向いた、面積の大きい反射面64aに入射して、1回の正反射で上方に戻される。
【0122】
上記のように、入射光の入射方向が一様ではなく、偏りがある場合には、対称性の高い反射面を有する機能性積層体を配置するより、対称面(例えば、上記二等分面N)または対称軸が一方向に傾斜した、非対称な反射面を有する機能性積層体を適切な向きに配置する方が、効果的である場合がある。上記の例では反射面が一次元配列体である例を示したが、これは、図5に示した二重V字溝形状の機能性層21や、図6に示したコーナーキューブ形状の機能性層31のように、単位凹部が二次元的に配列している場合でも同様である。
【0123】
例えば、機能性層31がコーナーキューブ形状である場合、稜線の曲率半径Rが大きい場合は、上空に向けて傾けた方がよく、下方反射を抑制するという目的においては、地面側に向けて傾いている方が好ましい。太陽光線は、機能性積層体30に対して斜めから入射するため、構造の奥まで光が入射しにくく、入射側の形状が重要となる。すなわち、稜線部分の曲率半径が大きい場合は、再帰反射光が減少してしまうため、上空に向けて傾けることでこの現象を抑制することができる。また、コーナーキューブ形状の機能性層31では、反射面で3回反射することで再帰反射を実現するが、一部の光が2回反射により再帰反射以外の方向に漏れることがある。コーナーキューブを地面側に向けて傾けることで、この漏れ光を上空方向に多く戻すことができる。このように、形状や目的に応じてどちらの方向に傾けてもよい。
【0124】
<変形例5>
図14は、変形例5に基づく機能性層66の形状を示す斜視図(a)、およびフレキシブル形状機能性積層体65の構造を示す断面図(b)である。図14(a)では、見やすくするため、機能性層66と第2の樹脂層68のみを示した。この例は請求項10に対応する。機能性層66の反射面は、機能性層1と同様に、平面形状が細長い長方形である1種類の反射面64からなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面64は一方向に向かって一次元的に配列されている。また、反射面64は、長辺は光入射面(例えば、第1の支持体4の表面;図14(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。
【0125】
機能性層66の反射面は、機能性層61の反射面から反射面64bが省略され、反射面64aだけが反射面69として残されたものと考えることができる。反射面64bが省略されているので、機能性層66の反射面には、指向反射の機能はない。しかし、反射面64bが省略されているので、上方から機能性層66に入射する光のすべてを、上方に向いた反射面69による1回の正反射で上方に戻すことができる。
【0126】
前述したように、再帰反射は正反射を複数回行うので、機能性層の反射率が小さい場合には、再帰反射される反射率は小さくなる。従って、入射光の大部分が上方から入射してくる場合には、上方に向いた反射面による1回の正反射で上方からくる光を上方に戻す方が有利になる。変形例4に基づく機能性層66は、このような目的に特化した光学的機能性層の例である。
【0127】
<変形例6>
図15は、変形例6に基づく機能性層71の形状を示す斜視図である。見やすくするため、図15では、機能性積層体70の機能性層71と第2の樹脂層73のみを示した。機能性層71は、図3に示した機能性層21の変形例である。機能性層71の反射面は、機能性層21の反射面と同様に、多数の単位凹部72が規則正しく配置されて構成されている。しかし、機能性層71の反射面は、機能性層21の反射面と異なり、頂部が丸みを帯びた形状(曲率半径Rを有する形状)となっている点が異なっている。
【0128】
<変形例7>
図16は、変形例7に基づく機能性層74における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に13B−13B線および13C−13C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。図5に示した機能性層21や、図6に示した機能性層31と同様に、機能性層74の反射面は、多数の単位凹部75が規則正しく稠密に配置されて構成されている。単位凹部75は外形の平面形状が長方形で、この長方形の内部に、滑らかな曲面からなる反射面を有する凹部が形成されている。機能性層21や機能性層31と同様に、機能性層74も再帰反射層として機能する。
【0129】
<変形例8>
図17は、変形例8に基づく機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に14B−14B線および14C−14C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。図16に示した機能性層74と同様に、機能性層77の反射面は、多数の単位凹部78が規則正しく稠密に配置されて構成されている。単位凹部78は外形の平面形状が六角形で、この六角形の内部に、滑らかな曲面からなる反射面を有する凹部が形成されている。機能性層74と同様に、機能性層77も再帰反射層として機能する。
【0130】
[実施の形態4]
実施の形態4では、請求項20に記載した機能性構造体の例について説明する。本発明のフレキシブル形状機能性積層体は、代表的には、ガラスなどに貼りつけ、窓材などの機能性構造体を構成するようにすることができる。また、本発明のフレキシブル形状機能性積層体は、種々の内装部材や外装部材などの機能性構造体を構成するように用いることもできる。これらの機能性構造体は、壁や屋根のように固定された部材のみならず、季節や時間変動など、必要に応じて光学的機能性積層体の適用量を変更できる部材なども挙げられる。より具体的には、光学的機能性積層体を複数の要素に分割し、角度を変更するなどの手段により、光学的機能性積層体への入射光線の透過量を調整可能な部材、例えばブラインドなどが挙げられる。また、巻き取ったり、折り畳んだりすることが可能である光学的機能性積層体を適用した部材、例えばロールカーテンなどが挙げられる。更に、光学的機能性体を枠組みなどに固定し、必要に応じ枠組みごと取り外しが可能な部材、例えば障子などが挙げられる。
【0131】
光学的フレキシブル形状機能性積層体が適用された内装部材または外装部材としては、例えば、フレキシブル形状機能性積層体自体により構成されたものや、フレキシブル形状機能性積層体が貼り合わされた透明基材などにより構成されたものが挙げられる。このような内装部材または外装部材を室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、内装部材または外装部材を設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、内装部材または外装部材による室内側への散乱反射もほとんどないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、視認性制御や強度向上など必要な目的に応じ、透明基材以外の貼り合わせ部材を適用することもできる。
【0132】
<適用例1>
本適用例では、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるブラインド装置に機能性積層体を適用した例について説明する。
【0133】
図18(a)は、日射遮蔽装置であるブラインド装置80の構造を示す斜視図である。ブラインド装置80は、ヘッドボックス83と、複数のスラット(羽)81からなるスラット群(日射遮蔽部材群)82と、ボトムレール84とを備える。ヘッドボックス83はスラット群82の上方に設けられている。ヘッドボックス83から昇降コード85および昇降操作コード86が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール84が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット81は、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス83から下方に延びるラダーコード87により所定間隔で吊り下げられ、支持される。
【0134】
ヘッドボックス81には、スラット群83の傾斜角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。ヘッドボックス81は、ロッドなどの操作手段の操作に応じてスラット群83の傾斜角度を変化させ、室内などに取り込まれる光量を調節する。また、ヘッドボックス81は、昇降操作コード86などの操作手段の操作に応じて、スラット群83を昇降させる駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0135】
図18(b)は、スラット(羽)82の構成例を示す断面図である。スラット82は、基材88とフレキシブル形状機能性積層体89とを備える。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材88の両主面のうち、スラット群83を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89と基材88とは、例えば、接着層などにより貼り合される。
【0136】
基材88の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材88の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上記実施形態に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0137】
スラット(羽)82の第2の構成例として、フレキシブル形状機能性積層体89本体をスラット82として用いてもよい。この場合、フレキシブル形状機能性積層体89は、ラダーコード87により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0138】
なお、本適用例では、フレキシブル形状機能性積層体89を横型ブラインド装置(ベネシアンブラインド装置)に対して適用した例について説明したが、縦型ブラインド装置(バーチカルブラインド装置)に対して適用してもよい。
【0139】
<適用例2>
本適用例では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0140】
図19(a)は、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置90の構造を示す斜視図である。ロールスクリーン装置90は、ヘッドボックス91と、スクリーン92と、芯材93とを備える。ヘッドボックス91は、チェーン94などの操作部を操作することにより、スクリーン92を昇降できるように構成されている。ヘッドボックス91は、その内部にスクリーン92を巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン92の一端が結合されている。また、スクリーン92の他端には芯材93が結合されている。スクリーン92は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置90を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましい。例えば、スクリーン92は矩形状である。
【0141】
図19(b)は、スクリーン92の構成例を示す断面図である。スクリーン92は、基材95とフレキシブル形状機能性積層体89とを備え、可撓性を有していることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材95の両主面のうち、外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89と基材95とは、例えば、接着層などにより貼り合される。なお、スクリーン92の構成はこの例に限定されるものではなく、フレキシブル形状機能性積層体89をスクリーン92として用いるようにしてもよい。
【0142】
基材95の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材95の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上記実施形態に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
なお、本適用例ではロールスクリーン装置について説明したが、本実施の形態はこの例に限定されない。例えば、日射遮蔽部材を折り畳むことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置に対しても本発明は適用可能である。このような日射遮蔽装置としては、例えば、日射遮蔽部材であるスクリーンを蛇腹状に折り畳むことで、入射光線の遮蔽量を調整するプリーツスクリーン装置を挙げることができる。
【0144】
<適用例3>
本適用例では、指向反射性能を有する光学的機能性体を採光部に備える建具(内装部材または外装部材)に対して機能性積層体を適用した例について説明する。
【0145】
図20(a)は、日射遮蔽部材である建具96の構造を示す斜視図である。建具96は、その採光部に光学体97を備え、その周縁部に支持体として枠材98を備える。建具96としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。光学体97は枠材98により固定されるが、必要に応じて枠材98を分解して光学体97を取り外すことができるように構成してもよい。
【0146】
図20(b)は、光学体97の構成例を示す断面図である。光学体97は、基材99と、フレキシブル形状機能性積層体89とを備える。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材99の両主面のうち、外光を入射させる入射面側に設けられる。フレキシブル形状機能性積層体89と基材99とは、接着層などにより貼り合される。なお、光学体97の構成はこの例に限定されるものではなく、フレキシブル形状機能性積層体89を光学体97として用いるようにしてもよい。
【0147】
基材99は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材99としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学的機能性体として公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上述の実施形態または変形例に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
なお、上述の適用例では、窓材、ブラインド装置のスラット、ロールスクリーン装置のスクリーン、および建具などの内装部材または外装部材に適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、上記以外の内装部材および外装部材にも適用可能である。
【実施例】
【0149】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0150】
本実施例では、フレキシブル形状機能性積層体として、近赤外光を選択的に再帰反射する一方、可視光を透過させる光学機能性フィルムとして構成された、下記のフレキシブル形状機能性積層体を作製した。
実施例1:フレキシブル形状機能性積層体30(図4参照。機能性層31の形状は、ピッチ100μm、高さ47μmのコーナーキューブ形状である。)
実施例2:フレキシブル形状機能性積層体13(図2参照。機能性層1の形状は、ピッチ50μm、高さ25μmのV字溝形状である。)
実施例3:フレキシブル形状機能性積層体20(図3参照。機能性層21の形状は、ピッチ100μm、高さ50μmの二重V字溝形状である。)
【0151】
実施例1〜3では、機能性層として下記のガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物(GAZO)層と銀ネオジム銅合金(AgNdCu)層との交互多層膜(( )内の数値は層の厚さ(nm)である。以下、同様。):
GAZO層(40)、AgNdCu層(9)、GAZO層(80)、AgNdCu層(9)、およびG AZO層(40)の積層体(178)
を作製した。上記ガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物におけるat分率は、Ga2O3:Al2O3:ZnO=0.57:0.31:99.12at%であり、銀ネオジム銅合金におけるat分率は、Ag:Nd:Cu=99.0:0.4:0.6at%である。
【0152】
また、実施例4および5では、上記コーナーキューブ形状の機能性層31を、それぞれ、酸化亜鉛(ZnO)層と銀パラジウム銅合金(AgPdCu)層との交互多層膜:
ZnO層(33)、AgNdCu層(7)、ZnO層(121)、AgNdCu層(7)、およびZnO 層(33)の積層体(201)
、および酸化ニオブ(Nb2O5)層と銀ビスマス合金(AgBi)層と酸化亜鉛(ZnO)層との交互多層膜:
Nb2O5層(38)、AgBi層(18)、ZnO層(7)、Nb2O5層(63)、AgBi層(19)、 ZnO層(7)、Nb2O5層(33)、およびZnO層(3)の積層体(188)
で作製した。なお、機能性層はスパッタリング法で形成し、とくに金属酸化物層は酸素雰囲気中で金属をスパッタリングする低応力反応性スパッタリング法で形成した。
【0153】
樹脂層3と保護層5とは同一材料とし、ウレタンアクリレート樹脂であるアロニックスUVX4502(商品名;東亞合成(株)製、硬化後の屈折率は1.533。)を用いた。また、フレキシブル形状の基材4および保護材6として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるコスモシャインA4300(商品名;東洋紡(株)製、厚さは75μm。)を用いた。
【0154】
一方、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体では、上述したPETフィルム上に、アロニックスUVX4502(商品名)を用いて平坦なウレタンアクリレート樹脂層(厚さは40μm。)を形成し、その上に平板状の機能性層を形成した。機能性層としては、上述したガリウムアルミニウム亜鉛複合酸化物(GAZO)層と銀ネオジム銅合金(AgNdCu)層との交互多層膜を形成した。この機能性層には、作製直後にはクラックがほとんどない。そこで、直径15mmの丸棒に5回巻きつけることにより、平板状の機能性層にクラックを発生させ、比較例2のフレキシブル形状機能性積層体を作製した。
【0155】
<光学機能性フィルムの作製>
【0156】
まず、図6(a)に示したように、バイトによる切削加工によって、ニッケル・リン(Ni・P)製の金型19の表面に所定の立体形状を形成する。この立体形状は、機能性層1を作製しようとする場合には、機能性層1と同一の立体形状とした。
【0157】
一方、機能性層21または機能性層31を作製しようとする場合には、金型19の表面の立体形状を機能性層の立体形状の凹凸を反転した形状とし、反転した形状を切削加工する。この際、機能性層の効果を発現するためには光の入射面は逆になる。
【0158】
次に、図6(b)に示したように、金型19の表面に塗布法で樹脂材料層3aを形成した。さらにその上に、厚さ100μmのフィルム状のフレキシブル形状の基材4を押し当て、金型19と樹脂材料層3aとフレキシブル形状の基材4とを密着させた。
【0159】
次に、図6(c)に示したように、フレキシブル形状の基材4の側から紫外光を樹脂材料層3aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、樹脂層3を形成した。
【0160】
次に、図6(d)に示したように、フレキシブル形状の基材4と樹脂層3との積層体を金型19から剥離させ、金型19の表面の立体形状の凹凸反転形状が転写された樹脂層3を得た。
【0161】
次に、図7(e)に示したように、スパッタリング法によって、樹脂層3の表面に密着するように機能性層1を成膜した。この結果、機能性層1の、樹脂層3に密着している主面は、金型19の表面の立体形状と同じ形状に形成される。
【0162】
次に、図7(f)に示したように、機能性層1のもう一方の主面に、塗布法で樹脂材料層43を形成した。樹脂材料層43から気泡を押し出した後に、その上に厚さ100μmのフィルム状のフレキシブル形状の保護材6を押し当て、機能性層1と樹脂材料層43と保護材6とを密着させた。
【0163】
次に、図7(g)に示したように、フレキシブル形状の保護材6の側から紫外光を樹脂材料層43に照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、保護層5を形成した。この結果、目的とする光学機能性フィルムであるフレキシブル形状機能性積層体13を得た。
【0164】
<コーナーキューブ形状の機能性層と平板状の機能性層とにおけるクラック発生の違い>
図21は、実施例1による、コーナーキューブ形状の機能性層31におけるクラック発生の特徴(大きさ、発生位置、および発生量)を示す、光学顕微鏡による観察像である。図21(a)の拡大倍率は100倍、図21(b)の拡大倍率は500倍である。図21から、コーナーキューブ形状の機能性層31に発生するクラックは、発生位置が応力集中部位である稜線部に集中し、多くのクラックの長さが1ピッチ(100μm)未満であることがわかる。
【0165】
図22は、比較例2による、平板状の機能性層におけるクラック発生の特徴(大きさ、発生位置、および発生量)を示す、光学顕微鏡による観察像である。図22(a)の拡大倍率は100倍である。図22から、平板状の機能性層に発生するクラックは、発生位置が層全体に不規則に分布し、多くのクラックの長さが1mm以上であることがわかる。
【0166】
<耐候性への影響>
機能性層全体に大きなクラックが発生すると、その部分から水蒸気や腐食性ガスによる腐食が進行し、機能性部材としての機能が損なわれる場合がある。ここでは、銀の酸化による反射率の低下によって、耐候性試験における機能性層の劣化の程度を調べた。反射率は、分光光度計Solid Spec−3700DUV(商品名;島津製作所(株)製)を用いて、波長領域300〜2600nmの反射率を測定した。耐候性試験では、恒温槽PR−4KP(商品名;エスペックエンジニアリング(株)製)を用いて、60°、相対湿度90%での高温高湿耐久試験を1000時間実施した。
【0167】
図23は、実施例1および比較例2による機能性層の、耐候性試験前後における可視および近赤外領域における反射率の変化を示す反射スペクトルである。また、表1は、近赤外領域(波長=700〜2500nm)における平均反射率の変化を示す表である。なお、実施例1における反射率が比較例2における反射率に比べて小さい原因は、主として、コーナーキューブ形状の反射層では正反射が3回行われるので、反射率が1回の正反射の反射率の3乗になるからである。
【0168】
【表1】
【0169】
図23および表1に示されているように、耐候性試験による反射率の減少は、実施例1の方が比較例2に比べて小さい。この原因は、上述したように、比較例2では、平板状の機能性層全体に長いクラックが不規則に発生するのに対し、実施例1では、機能性層31の機能に寄与しない稜線部38に集中して短いクラックが発生するからであると考えられる。
【0170】
<水蒸気透過率と養生期間との関係>
表2は、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体と、市販のウィンドウフィルムの水蒸気透過率を比較した表である。なお、比較例1(クラックなし)とは保護層5およびフレキシブル形状の保護材6のない構成であり、比較例1の完成品とは、これらを備えた構成である(以下、同様。)。また、表中、住友3M赤外線遮蔽、リケンテクノスSS200T、リケンテクノスSS1490Cと略記したのは、それぞれ、赤外線遮蔽(商品名;住友3M(株)製)、RIVEXセキュリティータイプSS200T(商品名;リケンテクノス(株)製)、RIVEXセキュリティータイプSS1490C(商品名;リケンテクノス(株)製)である。
【0171】
【表2】
【0172】
表2に示されているように、水蒸気透過率と水貼り養生期間には相関が見られ、市販品との比較から、平板状の機能性層を作製した、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体では、水蒸気透過率が小さすぎ、水貼り養生期間が長くなりすぎることがわかる。
【0173】
<開口部作成による水蒸気透過率の向上>
表3は、実施例1〜5および比較例1および2によるフレキシブル形状機能性積層体の水蒸気透過率を示す表である。表中、機能性層のコーナーキューブ形状はCCPと略記した。
【0174】
【表3】
【0175】
表3に示されているように、クラックの発生によって一様に水蒸気透過率を向上させることができ、水貼り養生期間を短縮できることがわかる。これは比較例2においても同様であるが、比較例2のように、平板状の機能性層全体に長いクラックが不規則に発生すると耐侯性が低下するので不都合である。
【0176】
<水抜け性評価>
特開2000−96009号公報において、水貼り6時間維持後の粘着力が常態粘着力(空貼り時)の20%以上であれば粘着剤の水抜け性が十分であるとする評価が提案されている。この指標は粘着剤の粘着力の回復、つまり水抜け性を示す指標ではあるが、この水抜け性には粘着剤を貼り合わせるフィルムの水蒸気透過率も影響する。つまり、粘着剤の水抜け性は十分であっても、水抜け性の悪い無機物層を有するフレキシブル形状機能性積層体に貼り合わせた場合、この指標を満たすことができない。従って、粘着剤の水抜け性から基材フィルムの水抜け性を推定することができる。そこで、フレキシブル形状機能性積層体を粘着剤(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス(株)製、品名:96A2007)に貼り合わせ、ガラスに水貼り施工を行い、粘着力の回復を評価した。表4はその結果である。
【0177】
【表4】
【0178】
比較例1の、水蒸気バリア性の高い無機膜を有するフレキシブル形状機能性積層体では、この指標を満たせなかった。しかし、実施例1〜3および比較例2では、開裂部(クラック)を設けることで水抜け性が向上し、粘着力の回復も早くなることがわかった。つまり、開裂部(クラック)を設けることで、フレキシブル形状機能性積層体をウィンドウフィルムとして施工する際の養生期間を短縮できることが確認できた。
【0179】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0180】
1…機能性層、2…フレキシブル形状の基材、3…樹脂層、3a…樹脂材料層、
4…フレキシブル形状の基材、5…保護層、5a…樹脂材料層、
6…フレキシブル形状の保護材、7a、7b…反射面、
8…応力集中部位(稜線部や谷筋部)、9…開裂部(クラック)、
10〜13…フレキシブル形状機能性積層体、
14、16…フレキシブル形状機能性積層体、15、17…保護層、19…金型、
20…フレキシブル形状機能性積層体、21…機能性層、22a〜22d…反射面、
23…単位凹部、25…保護層、30…フレキシブル形状機能性積層体、
31…機能性層、32a〜32c…反射面、33…単位凹部、35…保護層、
38…応力集中部位(稜線部)、38…応力集中部位(稜線部)、
40…フレキシブル形状機能性積層体、41…透明導電層、43…樹脂層、
44…フレキシブル形状の基材、45…応力集中部位、46…画素、
50…機能性積層体、51…自己洗浄効果層、52a〜52c…機能性積層体、
53…微粒子、54、55…光拡散層、60…機能性積層体、61…機能性層、
62…第1の樹脂層、63…第2の樹脂層、64a、64b…反射面、
65…機能性積層体、66…機能性層、67…第1の樹脂層、68…第2の樹脂層、
69a、69b…反射面、70…機能性積層体、71…機能性層、72…反射面、
73…第2の樹脂層、74…機能性層、75…反射面、76…第2の樹脂層、
77…機能性層、78…反射面、79…第2の樹脂層、80…ブラインド装置、
81…スラット(羽)、82…スラット群(日射遮蔽部材群)、83…ヘッドボックス、
84…ボトムレール、85…昇降コード、86…昇降操作コード、87…ラダーコード、
88…基材、89…フレキシブル形状機能性積層体、90…ロールスクリーン装置、
91…スクリーン、92…ヘッドボックス、93…芯材、94…チェーン、95…基材、
96…建具、97…光学的機能性体、98…枠材、99…基材、111…基板、
112…犠牲層、113…無機材料層、114…パターニングされた無機材料層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0181】
【特許文献1】特開2009−135099号公報(請求項1、第5及び7頁、図2)
【特許文献2】特開2008−78631号公報(請求項1、第5及び6頁、図1)
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル形状の基材に、無機物層を含有する機能性層が設けられたフレキシブル形状機能性積層体に関するものであり、詳しくは、クラックの発生によってその機能が損なわれることが少ないフレキシブル形状機能性積層体、及びそのフレキシブル形状機能性積層体を備えた機能性構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯型電子機器をはじめとして、電子機器の軽薄短小化に対する要求が強まっている。それに伴い、従来用いられてきたガラス基板を、フィルム状やシート状のプラスチック基板で代替しようとする研究が盛んに行われている。プラスチック基板は、安価であるばかりでなく、軽くて割れにくく、フレキシビリティ(柔軟性)に富むので、プラスチック基板を用いれば、曲面形状の画像表示素子など、ガラス基板では実現し得なかった電子素子を実現できる可能性がある。また、光学部材などにおいても、プラスチック基材を用いた反射鏡など、基材としてプラスチックを用いる研究が盛んである。
【0003】
これらの機能性部材では、プラスチック基材などのフレキシブル基材上に、機能性層として金属層、半導体層、誘電体層、透明導電層などの無機物層を形成することが一般的に行われている。また、無機物層の耐久性やバリア性の向上を目的として、クラックの存在しない、緻密な無機物層を形成する方法は数多く提案されている。
【0004】
しかし、無機物層は脆いことが多く、フレキシブルな基材上に無機物層を形成した場合、無機物層にクラック(割れ)が生じやすいという問題がある。仮に形成時にクラックが全く無い無機物層を作製することができたとしても、その後のハンドリング時に加わる外力や、温度変化による膨張、収縮によって、容易にクラックが発生する。無機物層全体に大きなクラックが発生すると、その部分から水蒸気や腐食性ガスによる腐食が進行し、機能性部材としての機能が損なわれる場合がある。
【0005】
例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチックフィルム上に厚さ20〜50nm程度のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)層からなる透明導電層が形成されたフィルムでは、厚さが50μm未満の薄いプラスチックフィルムを用いた場合、ハンドリングの際にITO層にクラックが生じ、ITO層の導電性が著しく損ねられる。従って、ITO層の割れを防ぐために、基材フィルムとして、厚さが少なくとも50μm以上、通常は100μm以上であり、十分な強度と剛性を有するプラスチックフィルムが用いられるのが実情である。これは、ITO層におけるクラックの発生を防止するために、基材フィルムのフレキシビリティを犠牲にしていることにほかならない。
【0006】
また、単に無機物層におけるクラックの発生を防止することだけが目的であれば、多少の外力や温度変化ではクラックが生じないほど、無機物層を厚く、強固に形成することも考えられるが、それでは、基材フィルムのフレキシビリティを生かすことができない。
【0007】
そこで、後述の特許文献1では、ベースフィルム上に塗布法により導電性酸化物微粒子層を形成した後、更に該導電性酸化物微粒子層上に同じく塗布法により導電性オーバーコート層を形成して得られる、透明導電層と導電性オーバーコート層とを有するフレキシブル透明導電フィルムであって、
前記導電性酸化物微粒子層には圧縮処理が施されており、
前記透明導電層は、前記導電性酸化物微粒子層の導電性酸化物微粒子の間隙に前記導 電性オーバーコート層のバインダー成分が染込んで形成され、導電性酸化物微粒子とバ インダーマトリックスを主成分としており、
前記導電性オーバーコート層は、導電性成分とバインダーマトリックスを主成分とし 、且つ、厚さが0.1〜0.5μmであること
を特徴とするフレキシブル透明導電フィルムが提案されている。
【0008】
特許文献1では、上記の構成によって、高い導電性を維持したまま、膜強度や耐溶剤擦過性を高めることができ、従来のスパッタリングITOフィルムと同等の透明性と導電性を有すると同時に、フレキシビリティにも優れるフレキシブル透明導電フィルムを得ることができる、と説明されている。
【0009】
一方、ガラスなどに光機能性フィルムなどを施工する際には、ガラス面を水で濡らし、両者の間に気泡が入らないようにする水貼りを行うのが一般的である。この場合、施工後、ガラスと光機能性フィルムとの間に残った水が光機能性フィルムを透過して完全に抜け去るまで、養生期間が必要になる。養生期間中は施工液が水泡として現れたり、フィルム面が白濁したりすることがあるので、光機能性フィルムとしての本来の機能を発揮できない。また、養生期間中は、光機能性フィルムに触ることも制限される。そのため、水貼りする光機能性フィルムには、水貼りの際に用いた水が速やかに抜け去るように、ある程度の水抜け性が求められる。
【0010】
しかしながら、光機能性を付与するために金属層や誘電体層などからなる機能性層を基材フィルムに設ける場合、機能性層が厚く緻密であると、バリア性が高くなりすぎ、光機能性フィルムの水抜け性が低下して、養生期間が長くなるという問題がある。この対策として、例えば、光機能性フィルムに応力を加え、機能性層にクラックを形成しようとすると、通常の光機能性フィルムでは、機能性層のいたるところでクラックが発生する。この結果、機能性層の水抜け性は向上するものの、機能性層の劣化が進み、光機能性フィルムとしての性能が損なわれる。
【0011】
上述したように、単に応力を加え、クラックの発生を誘起する方法では、水抜け性の向上と光機能性の維持とを両立させることは不可能である。機能性層の機能に影響を与えない領域に選択的に開口部を設けることによって、光機能性フィルムとしての性能を維持しながら、水蒸気透過率を増大させ、水抜け性を向上させることができると考えられる。しかし、本発明者の知る限り、そのような提案は、まだ、なされていない。
【0012】
厚さが1〜10μm程度の無機材料膜の所定の領域に開口部を設ける方法としては、熱膨張係数の異なる犠牲層を用いる方法が後述の特許文献2に提案されている。
【0013】
図24は、特許文献2に提案されている無機材料膜のパターン形成方法のフローを示す断面図である。この方法では、まず、図24(a)に示すように、基板111上に、無機材料とは熱膨張係数が異なる材料を用いて、パターンを有する犠牲層112を形成する。次に、図24(b)に示すように、犠牲層112が形成された基板111上に、所定の成膜温度で無機材料を用いて無機材料層113を形成する。次に、図24(c)に示すように、無機材料層113の温度を低下させることにより、犠牲層112上に形成された無機材料層113にクラックを発生させる。次に、図24(d)に示すように、犠牲層112およびその上に形成された無機材料層を除去し、犠牲層112上以外の領域に形成された無機材料層114だけを選択的に残す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1で提案されているフレキシブル透明導電フィルムは、導電性酸化物微粒子からなる透明導電層と、導電性成分(導電性酸化物微粒子、イオン性液体、またはイオン導電性化合物)およびバインダーマトリックスを主成分とする導電性オーバーコート層とを含有する。しかし、導電性酸化物微粒子は焼結されていないので、この構成によって、スパッタリング法によって形成される透明導電層と同程度の、良好な導電性を確実に得ることは難しいと考えられる。また、この構成は、透明導電フィルムに限定され、光機能性フィルムなどには適用できない。
【0015】
特許文献2で提案されている無機材料膜のパターン形成方法は、構成材料が特定の熱膨張係数をもつ材料に限定される。また、犠牲層112のパターニングが必要であるので、工程が煩雑である。
【0016】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、フレキシブル形状の基材に、無機物層を含有する機能性層が設けられた機能性積層体であって、簡易に作製でき、クラックの発生によってその機能が損なわれることが少なく、同時に水抜け性を向上させることのできるフレキシブル形状機能性積層体、及びそのフレキシブル形状機能性積層体を備えた機能性構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明は、
所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、前記立体的形状に起因する応力集 中部位に開裂部(クラック)を有する機能性層と、
少なくともフレキシブル形状の基材を含有し、前記機能性層の一方の主面側に配置さ れている支持体と
を有する、フレキシブル形状機能性積層体に係わるものである。
【0018】
また、前記フレキシブル形状機能性積層体を備える、機能性構造材に係わるものである。
【発明の効果】
【0019】
立体的形状をもつ物体では、稜線部やコーナー部に応力が集中しやすいことが知られている。本発明のフレキシブル形状機能性積層体では、機能性層に含有されている前記無機物層は、応力集中部位を有する所定の立体的形状に形成されている。無機物層は脆いので、フレキシブル形状の基材を介して、わずかな応力を加えるだけで、簡易に前記応力集中部位に開裂部(クラック)を生じさせることができる。いったん前記クラックが形成されると、そのクラックが応力の逃げ道になる。また、初期に発生した前記クラックによって前記無機物層が多数の小さな部分に細分化されると、前記フレキシブル形状の基材の変形に即応して各部分ごとに小さく変位することが可能になるので、前記無機物層全体としては前記フレキシブル形状の基材の変形に追従して変形できるようになる。従って、その後加えられる応力によって、前記クラックが成長し続けたり、別の箇所に新しいクラックが発生したりすることが少ない。
【0020】
これに対し、無機物層が平板状で、応力集中部位をもたない場合には、フレキシブル形状の基材の変形につれて、その都度応力が集中する箇所が変化する。そして、応力の大きさが、無機物層が耐え得る限界を超えると、この応力集中箇所に大きなクラックが形成される。この結果、平板状の無機物層では、大きなクラックが不規則に発生する。
【0021】
上記2つのケースを比べると、前記無機物層が前記応力集中部位を有し、前記クラックを生じやすい立体的形状に形成されている方が、結果的には、前記クラックの大きさを小さく抑え、前記クラックの発生量を抑制することができる。しかも、前記クラックが一部の領域(前記応力集中部位)に選択的に発生するように制御することも可能であり、好ましい。
【0022】
前記無機物層の前記所定の立体的形状には、2つの場合がある。1つは、前記所定の立体的形状が前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部である場合である。もう1つは、前記所定の立体的形状が前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられている場合である。後者の場合ばかりでなく、前者の場合であっても、多くの場合、前記応力集中部位が、前記無機物層の機能を損なうことのない領域又は損なうことの少ない領域に、適切な大きさで配置されるように、前記所定の立体的形状を工夫することができる。この結果、前記クラックの発生による機能の劣化を最小限に抑えることができる。
【0023】
本発明のフレキシブル形状機能性積層体では、立体的形状に起因する応力集中を利用してクラックを形成するので、前記無機物層及び前記フレキシブル形状の基材を構成する材料が制限されることがない。また、前記クラックを有する構造を極めて簡易に作製することができる。また、前記クラックの発生によって水蒸気透過率が増加するので、水貼り性能として求められる水抜け性も同時に向上する。
【0024】
本発明の機能性構造材は、前記フレキシブル形状機能性積層体を備えるので、上記と同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図2】同、機能性層の形状の例を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図3】同、機能性層の別の形状を示す斜視図である。
【図4】同、機能性層のさらに別の形状を示す平面図(a)、および4B−4B線の位置における拡大断面図(b)である。
【図5】同、機能性層における応力集中部位および開裂部(クラック)を模式的に示す部分断面図である。
【図6】同、フレキシブル形状機能性積層体の作製工程を示す断面図である。
【図7】同、フレキシブル形状機能性積層体の作製工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に基づくフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である
【図9】本発明の実施の形態3に基づく、フレキシブル形状機能性積層体に入射する入射光と、フレキシブル形状機能性積層体によって反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図10】同、変形例1のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図11】同、変形例2のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図12】同、変形例3のフレキシブル形状機能性積層体の構造を示す断面図である。
【図13】同、変形例4の機能性層の形状を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図14】同、変形例5の機能性層の形状を示す斜視図(a)、およびその機能を示す断面図(b)である。
【図15】同、変形例6の機能性層の形状を示す斜視図である。
【図16】同、変形例7の機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に16B−16B線および16C−16C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。
【図17】同、変形例8の機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に17B−17B線および17C−17C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。
【図18】本発明の実施の形態4に基づくブラインド装置の構造を示す斜視図(a)、およびスラットの断面図(b)である。
【図19】同、ロールスクリーン装置の構成を示す斜視図(a)、およびスクリーンの断面図(b)である。
【図20】同、建具の構成を示す斜視図(a)、および光学的機能性体の断面図(b)である。
【図21】本発明の実施例によるコーナーキューブ形状の機能性層におけるクラック発生の特徴を示す、光学顕微鏡による観察像である。
【図22】本発明の比較例による平板状の機能性層におけるクラック発生の特徴を示す、光学顕微鏡による観察像である。
【図23】本発明の実施例および比較例による機能性層の、耐候性試験前後における可視および近赤外領域における反射率の変化を示す反射スペクトルである。
【図24】特許文献2に提案されている無機材料膜のパターン形成方法のフローを示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のフレキシブル形状機能性積層体において、前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部であるのがよい。或いは、前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられているものでもよい。
【0027】
また、前記応力集中部位が、前記立体的形状のうち、前記無機物層の機能を損なうことのない、又は損なうことの少ない領域に設けられているのがよい。
【0028】
前記フレキシブル形状の基材が、前記機能性層の前記一方の主面に密着しているのがよい。或いは、前記機能性層の前記一方の主面に密着して樹脂層が配置されており、前記フレキシブル形状の基材はこの樹脂層を介して前記機能性層を支持しているのがよい。
【0029】
また、前記機能性層のもう一方の主面が、樹脂からなる保護層によって被覆されているのがよい。この際、前記保護層の、前記機能性層と接している面とは反対側の面に接して、保護材が配置されているのがよい。また、前記樹脂層と前記保護層とが同種の材料からなるのがよい。
【0030】
また、フレキシブル形状機能性積層体が、前記フレキシブル形状の基材の表面を光入射面とし、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。
【0031】
この際、前記機能性層が、指向反射性を有する光学的機能性層であるのがよい。指向反射とは、入射光を正反射(入射角と反射角が等しい反射)の方向以外のある特定の方向へ反射するとともに、その反射強度が、指向性をもたない拡散反射強度よりも十分に強い反射のことである。反射面が一定の方向を向いた1枚の光学的平面である場合には、正反射と、表面の平滑性の乱れに起因する拡散反射とが起こる。これに対し、反射面が、ある規則性をもって異なる方向に配向している多数の小さな面からなる場合には、入射光は小さな面による正反射を複数回繰り返し、その結果、指向反射が起こることがある。
【0032】
例えば、前記機能性層の反射面が第1の反射面群と第2の反射面群からなる多数の反射面群で構成され、前記第1の反射面及び前記第2の反射面の平面形状は細長い長方形で、長辺は互いに同じ長さであり、前記長辺は前記光入射面に対して平行であるが、前記第1の反射面および前記第2の反射面の短辺は、それぞれ、前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記第1の反射面及び多数の前記第2の反射面が、前記反射面の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に交互に配列されているのがよい。
【0033】
別の例としては、前記機能性層の反射面は、多数の単位凹部又は単位凸部が規則正しく配置されて構成されており、前記単位凹部又は単位凸部の立体的形状が、角錐形、円錐形、半球形、又はシリンドリカル形であるのがよい。
【0034】
これらの指向反射性を有する光学的機能性層は、前記機能性層の反射面の対称面の面内方向又は対称軸の方向、すなわち、再帰反射率が最大又は概ね最大になる方向が、前記入射面に直交する方向から傾斜しているのがよい。再帰反射とは、入射光をその発生源の方向に再び導くように反射することを言い、指向反射の1つである。
【0035】
あるいは、前記機能性層の反射面が、1種類の、個片化された、多数の反射面群で構成され、前記反射面の平面形状は細長い長方形で、その長辺は前記光入射面に対して平行であるが、その短辺は前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記反射面がその長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されているのがよい。
【0036】
また、機能性積層体が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。この際、前記機能性層が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層であるのがよい。この場合、前記機能性層が、高屈折率層と金属層とが積層された複数層からなるか、又は、低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層からなるのがよい。
【0037】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0038】
[実施の形態1]
実施の形態1では、請求項1、2、および4〜19に対応し、無機物層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必須のものであり、応力集中部位がその立体的形状の一部である例について説明する。
【0039】
[フレキシブル形状機能性積層体]
図1は、実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体10〜13の構造を示す断面図である。図1(a)に示すフレキシブル形状機能性積層体10は、機能性層1と、機能性層1の一方の主面に密着するように配置された、フレキシブル形状の基材2とを有する。機能性層1は所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、その材料、層構造、および立体的形状に応じて、特定の機能を発現する層である。フレキシブル形状の基材2はその支持体である。フレキシブル形状機能性積層体10は、最も簡素に構成されたフレキシブル形状機能性積層体である。
【0040】
図1(b)に示すフレキシブル形状機能性積層体11は、機能性層1と、機能性層1の一方の主面に密着するように配置された樹脂層3およびフレキシブル形状の基材4からなる支持体とを有する。フレキシブル形状機能性積層体11では、支持体が2つの部材、樹脂層3およびフレキシブル形状の基材4で構成されているので、フレキシブル形状機能性積層体10に比べ、各部材の材料選択の自由度が大きくなるなどのメリットがある。
【0041】
図1(c)および図1(d)に示すフレキシブル形状機能性積層体12および13は、それぞれ、機能性層1のもう一方の主面を被覆するように、樹脂からなる保護層5が設けられた例、および、保護層5の外側にさらにフレキシブル形状の保護材6が設けられた例である。保護層5や保護材6が設けられることによって、積層体12および13の信頼性が向上する。しかも、保護層5や保護材6はフレキシブルであるので、これらの部材が設けられることによって積層体12および13のフレキシビリティが損なわれることはない。
【0042】
フレキシブル形状機能性積層体12および13では、樹脂層3を構成する樹脂と、保護層5を構成する樹脂とが同種の材料からなるのがよい。また、フレキシブル形状機能性積層体13では、フレキシブル形状の基材4を構成する材料と、フレキシブル形状の保護材6を構成する材料とが同種の材料からなるのがよい。このようであると、機能性層1を挟んで配置されている部材間で力学的なバランスがとれやすく、また、膨張率などの温度依存性が同程度になるので、外力や温度変化による膨張収縮などによって機能性層1に加わる応力が小さくなると期待される。また、後述する光学的機能性積層体を構成する場合には、同じ屈折率の材料を用いることで透明性が向上する。
【0043】
[フレキシブル形状光学的機能性積層体]
フレキシブル形状機能性積層体10〜13は、機能性層1の所定の立体的形状がその機能の発現に必須のものであること以外に、とくに限定されることはない。代表的には、機能性積層体10〜13は、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である。この場合、とくに、機能性層1が、指向反射性を有する光学的機能性層であるのがよい。また、機能性積層体10〜13が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体であるのがよい。この場合、とくに、機能性層1が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層であるのがよい。
【0044】
以下、機能性層1が、特定の波長領域の光を選択的に指向反射する一方、その波長領域外の光を透過させる波長選択反射層であり、フレキシブル形状機能性積層体13が特定の波長領域の光を選択的に指向反射する一方、その波長領域外の光を透過させる光学機能性フィルムとして構成されている例について、各部材等を詳述する。なお、フレキシブル形状機能性積層体13がフレキシブル形状機能性積層体10〜12であっても同様である。
【0045】
この際、選択的に指向反射する光が近赤外光であり、透過させる光が可視光であるのがとくに好ましい。近年、窓から室内に入射する太陽光によって、室内の温度が過度に上昇するのを防止することを目的として、窓ガラスなどに太陽光の一部を反射する光学層が設けられる例が増加している。太陽から注がれる光エネルギーは、主として、波長380〜780nmの可視領域の光のエネルギーと、波長780〜2100nmの近赤外領域の光のエネルギーとからなる。このうち、近赤外領域の光を遮断しても人間の視覚が損なわれることはないので、高い透明性・視認性と高い熱遮断性とを両立させるためには、近赤外領域の光の透過を制限することが重要である。近赤外光を選択的に再帰反射する光学機能性フィルムを窓ガラスに貼り付けると、周囲への熱汚染を生じることなく、この目的を達成できるので好ましい。
【0046】
機能性積層体10〜13が光学的機能性積層体である場合、機能性積層体10または11では、分光特性としての透過性は確保できるが、向こう側の像が見えにくくなる現象が生じる(写像鮮明度が低下する)ことがある。また、機能性積層体10または11では機能性層1の保護も難しいので、機能性層1の材料として耐久性の高い無機材料を用いる場合を除いて、機能性積層体12または13の構成の方が好ましい。
【0047】
<機能性層の形状>
図2(a)は、フレキシブル形状機能性積層体13における機能性層1の形状の例を示す斜視図である。見やすくするため、機能性層1と保護層5のみを示した。この例は請求項12に対応する。機能性層1の反射面は、2種類の反射面7aおよび7bからなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面7aおよび7bは交互に一方向に向かって一次元的に配列されている。反射面7aおよび7bの平面形状は細長い長方形で、互いに同じ大きさである。反射面7aおよび7bは、長辺は光入射面(例えば、フレキシブル形状の基材4の表面;図2(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は、それぞれ、光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。隣接する反射面7aと反射面7bとがなす角を二等分する面Nは光入射面に直交し、反射面7aと反射面7bとはこの面に関して対称である。この対称に形成された反射面7aと反射面7bとの組が、多数組み、反射面7の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されて、機能性層1の反射面が構成されている。従って、機能性層1の反射面は、一次元配列方向に関して反転対称性を有する。以下、機能性層1のこの形状をV字溝形状と呼ぶことにする。反射面7aおよび7bとのなす角に特に制限はないが、代表的には90°である。この場合、配列方向に平行な面で反射面7aおよび7bを切断すると、直角二等辺三角形の直角を挟む2つの短辺に切断される。ここではV字形の溝が形成されている例を示したが、溝がU字形であってもよい。
【0048】
反射面7aおよび7bの配列のピッチは、5μm〜5mmであるのが好ましく、10〜250μmであるのがより好ましく、20〜200μmであるのがさらに好ましい。ピッチが250μm以下であると、柔軟性が向上し、ロール・ツー・ロール・プロセスで製造することが容易になり、バッチ・プロセスで製造するのに比べ、生産性が向上するので、好ましい。本実施の形態の光学機能性フィルムを窓ガラスなどの建材に適用する際には、多くの場合、数m程度の長さが必要であり、このような長尺の光学機能性フィルムの製造には、バッチ・プロセスよりもロール・ツー・ロール・プロセスの方が適している。ピッチが20〜200μmである場合には、さらに柔軟性などが向上し、生産性が向上する。
【0049】
これに対して、ピッチが5μm未満であると、機能性層1の形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択特性を急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると、回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、ピッチが5mmを超えると、機能性層1の厚さが厚くなり、柔軟性が失われ、窓ガラスなどの剛体に貼りあわせることが困難になる。
【0050】
機能性層1の厚さは、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。平均膜厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。
【0051】
図2(b)は、機能性層1の機能を示す断面図である。見やすくするため、第1の樹脂層2および第2の樹脂層3のハッチングは省略した。フレキシブル形状の基材4の表面は平坦である。また、機能性層1に接している側とは反対側の、樹脂層3の表面も平坦である。機能性積層体13では、フレキシブル形状の基材4の平坦な表面が光入射面として用いられる。上記の機能性層1が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層1の反射面に近赤外光が入射すると、近赤外光は、通常、反射面7bと反射面7aで各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層1を単に透過する。機能性層1では、反射面7の対称面、すなわち二等分面Nが光入射面に直交しているので、再帰反射率が最大になる方向は、入射面に直交する方向になる。
【0052】
図3は、機能性層の別の形状を示す斜視図である。見やすくするため、図3では、フレキシブル形状機能性積層体20の機能性層21と保護層25のみを示した。この例は請求項13に対応する。機能性層21の反射面は、多数の単位凹部23が規則正しく配置されて構成されている。1個の単位凹部23は反射面22a〜22dを有する。機能性層21の裏面側の形状は、図4(a)に示したV字溝を縦と横の直交する2方向に形成することによって得られる形状(四角錐が規則正しく配置された形状)である。以下、機能性層21のこの形状を二重V字溝形状と呼ぶことにする。機能性層21が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層21の反射面に近赤外光が入射すると、近赤外光は、通常、反射面22aと22c、または22bと22dで各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層21を単に透過する。
【0053】
上記の例では、反射面が凹部23を形成する例を説明したが、反射面が凹部23の凹凸を反転させた凸部を形成するのでもよい。この場合、近赤外光は、隣接する2つの四角錐の、対向する反射面で各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。
【0054】
図4は、機能性層のさらに別の形状を示す平面図(a)、および4B−4B線の位置における拡大断面図(b)である。見やすくするため、断面図では機能性層31と保護層35のみを示した。この例も請求項13に対応する。機能性層31の反射面は、多数のコーナーキューブ形の単位凹部33が規則正しく配置されて構成されている。1個のコーナーキューブ形単位凹部33は反射面32a〜32cを有する。機能性層31の裏面側の形状は、図2(a)に示したV字溝を60°で交わる3方向に形成することによって得られる形状(三角錐が規則正しく配置された形状)である。以下、機能性層31のこの形状をコーナーキューブ形状と呼ぶことにする。機能性層31が近赤外光を選択的に反射する材料及び/又は層構成からなる場合、機能性層31の反射面に近赤外光が入射すると、図4(b)に示すように、近赤外光は、少なくとも2回、通常は反射面32a、32b、32cで各1回、合計3回正反射され、光源側へ再帰反射される。一方、可視光は機能性層31を単に透過する。
【0055】
上記の例では、反射面が凹部33を形成する例を説明したが、反射面が凹部33の凹凸を反転させた凸部を形成するのでもよい。この場合、近赤外光は、隣接する2つの三角錐の、対向する反射面で各1回、合計2回正反射され、光源側へ再帰反射される。
【0056】
図5は、機能性層1における応力集中部位8およびそこに発生した開裂部(クラック)9を模式的に示す部分断面図である。立体的形状をもつ物体では、稜線部や谷筋部やコーナー部に応力が集中しやすい性質がある。機能性層1では、反射面7aと反射面7bとが連結する稜線部や谷筋部が応力集中部位8である。機能性層1を構成している無機物層は脆いので、フレキシブル形状の基材4を介して、わずかな応力を加えるだけで、応力集中部位8にクラック9を生じさせることができる。
【0057】
いったんクラック9が形成されると、クラック9が応力の逃げ道になる。また、初期に発生したクラック9によって機能性層1が多数の小さな部分に細分化されると、フレキシブル形状の基材4の変形に即応して各部分ごとに小さく変位することが可能になるので、機能性層1全体としては基材4の変形に追従して変形できるようになる。従って、その後加えられる応力によってクラック9が成長し続けたり、別の箇所に新しいクラックが発生したりすることが少なく、必要以上にクラックが発生することがない。
【0058】
これに対し、機能性層が平板状で、応力集中部位をもたない場合には、フレキシブル形状の基材の変形につれて、その都度応力が集中する箇所が変化する。そして、応力の大きさが、機能性層が耐え得る限界を超えると、この応力集中箇所に大きなクラックが形成される。この結果、平板状の機能性層では、大きなクラックが不規則に発生する。
【0059】
上記2つのケースを比べると、機能性層が応力集中部位を有し、クラックを生じやすい立体的形状に形成されている方が、結果的には、クラックの大きさを小さく抑え、クラックの発生量を抑制することができる。しかも、クラック9が一部の領域(応力集中部位8)に選択的に発生するように制御することも可能であり、好ましい。
【0060】
フレキシブル形状機能性積層体10〜13では、機能性層1の立体形状は、機能性層1が再帰反射層として機能するために必要なものであり、応力集中部位8はその形状の一部である。ただし、機能性層1の、再帰反射層としての機能は、反射面7aおよび7bによって担われ、応力集中部位8である稜線部はその機能にほとんど寄与していない。従って、反射面7aおよび7bにクラックが発生すると機能性層1の機能が損なわれが、応力集中部位8である稜線部にクラックが発生しても、機能性層1の機能が損なわれることはほとんどない。再帰反射層のように、構造内での多重反射により光機能性を発現する場合、反射の回数だけ劣化の影響が大きくなるので、劣化抑制の効果は特に大きい。
【0061】
フレキシブル形状機能性積層体20および30においても同様である。機能性層21および31の立体形状は、それぞれ、機能性層21および31が再帰反射層として機能するために必要なものであり、その稜線部やコーナー部に応力集中部位が自ずと生じる。しかし、指向性反射層としての機能性層21および31の機能は、それぞれ、反射面22a〜22dおよび32a〜32cによって担われ、応力集中部位である稜線部やコーナー部はその機能にほとんど寄与していない。従って、応力集中部位にクラックが発生しても、機能性層21および31の機能が損なわれることはほとんどない。
【0062】
上記の例のように、機能性層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必須のものであり、応力集中部位がその立体的形状の一部である場合であっても、多くの場合、応力集中部位が、機能性層の機能を損なうことのない領域又は損なうことの少ない領域に、適切な大きさで配置されるように、立体的形状を工夫することができる。この結果、クラックの発生による機能の劣化を最小限に抑えることができる。
【0063】
本実施の形態に基づくフレキシブル形状機能性積層体では、立体的形状に起因する応力集中を利用してクラックを形成するので、機能性層やフレキシブル形状の基材を構成する材料が制限されることがない。また、前記クラックを有する構造を極めて簡易に作製することができる。また、前記クラックの発生によって水蒸気透過率が増加するので、水貼り性能として求められる水抜け性も同時に向上する。例えば、図5に示したフレキシブル形状機能性積層体13は、クラック9がない状態では水抜け性が悪いが、クラック9が形成されると水抜け性が良好である。
【0064】
機能性層は単層の無機物層であってもよいし、図5に示すように、複数層の無機物層が積層された層であってもよい。クラック9は、通常、機能性層を構成する全ての層を貫通する。クラック9は、機能性層の作製時に同時に形成してもよいし、機能性層の作製後に形成してもよいが、機能性層の作製後に形成するほうが簡便でよい。
【0065】
クラック9を作製するには、フレキシブル形状の基材2または4のフレキシビリティが高いことが好ましい。例えば、フレキシブル形状の基材2または4として、厚さが50μm未満(例えば25μm等)の薄いプラスチックフィルムを用い、スパッタリング法で機能性層を形成した場合、ハンドリングの最中に機能性層にクラック9が発生する。また、フレキシブル形状の基材2または4として、十分な強度と剛性を備える厚さ100μm程度のプラスチックフィルムを用いた場合でも、フレキシブル形状機能性積層体を少し曲げるだけで簡易にクラック9を形成することができる。例えば、機能性層として金属層もしくは誘電体層を作製する際に、ロール・ツー・ロール・プロセスで作製すれば、製膜後にロールに巻きつけるプロセスの間に、簡易にクラックを発生させることができる。例えば、直径15mmの丸棒に5回程度巻きつけることで、クラックを発生させることができる。
【0066】
<フレキシブル形状機能性積層体の作製>
図6および図7は、実施の形態1に基づくフレキシブル形状機能性積層体10〜13の作製工程を示す断面図である。
【0067】
機能性積層体10を作製するには、まず、図6(a)に示すように、バイトによる切削加工やレーザー加工などによって、金型19の表面に所定の立体形状を形成する。この立体形状は、作製しようとする機能性層1の立体形状と同一の形状、またはその凹凸を反転した形状とする。本例では同一の形状とする。
【0068】
次に、図6(b)に示すように、この金型19の表面に塗布法などで樹脂材料層42を形成する。樹脂材料層3aは、硬化すると樹脂層3に変化する、未硬化の樹脂モノマー及び/又はオリゴマーからなる層である。さらにその上に、例えば、厚さが100μm程度のフレキシブル形状の基材4を押し当て、金型19と樹脂材料層3aと基材4とを密着させる。
【0069】
次に、図6(c)に示すように、基材4の側から紫外光を樹脂材料層3aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、樹脂層3を形成する。
【0070】
次に、図6(d)に示すように、基材4と樹脂層3との積層体を金型19から剥離させ、金型19の表面の立体形状の凹凸反転形状が転写された樹脂層3を得る。この例では、樹脂層3の材料として紫外線硬化性樹脂を用いる方法を示したが、樹脂層3の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながら樹脂材料層3aを金型19に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却して金型19から剥離させることにより、樹脂層3を形成してもよい。
【0071】
次に、図7(e)に示すように、樹脂層3の表面に密着するように機能性層1を成膜する。この結果、機能性層1の、樹脂層3に密着している主面は、金型19の表面の立体形状と同じ形状に形成される。機能性層1の成膜方法は、とくに限定されることはなく、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)、塗布法、および浸漬法などの中から、用いる材料や機能性層1の形状に応じて適宜選択する。以上の工程で、フレキシブル形状機能性積層体11を得る。
【0072】
フレキシブル形状機能性積層体10を得るには、フレキシブル形状の基材2の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながらフレキシブル形状の基材2を金型19に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却して金型19から剥離させることにより、金型19の形状の反転形状をフレキシブル形状の基材2の表面に転写すればよい。その後、図7(e)で説明したと同様にして、基材2の表面に密着するように機能性層1を形成する。フレキシブル形状機能性積層体12または13を得るには、さらに下記の工程を行う。
【0073】
次に、図7(f)に示すように、機能性層1のもう一方の主面に、塗布法などで樹脂材料層5aを形成する。樹脂材料層5aは、硬化すると保護層5に変化する、未硬化の樹脂モノマー及び/又はオリゴマーからなる層である。樹脂材料層5aから気泡を押し出した後に、その上に厚さ100μm程度のフレキシブル形状の保護材6を押し当て、機能性層1と樹脂材料層5aと保護材6とを密着させる。
【0074】
次に、図7(g)に示すように、保護材6の側から紫外光を樹脂材料層5aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、保護層5を形成する。この結果、フレキシブル形状機能性積層体13を得る。この例では、保護層5の材料として紫外線硬化性樹脂を用いる方法を示したが、保護層5の材料として熱可塑性樹脂を用い、そのガラス転移温度より高い温度に加熱しながら樹脂材料層5aを機能性層1に押し当て、その後、ガラス転移温度より低い温度に冷却してもよい。
【0075】
フレキシブル形状機能性積層体12を得るには、保護材6に剥離用フィルムを被せた状態で図7(f)および図7(g)に示した工程を行い、その後、剥離用フィルムのところで、硬化した保護層5から保護材6を剥がせばよい。
【0076】
<機能性層の層構造および構成材料>
図2〜図4にそれぞれ示した機能性層1、機能性層21および機能性層31は、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層である。このような層は、高屈折率層と金属層とが積層された複数層、または低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層によって構成することができる。
【0077】
例えば、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する高屈折率層と、赤外領域において反射率の高い金属層とを交互に積層すると、可視光の透過率が高く、近赤外光の反射率が高い層を形成することができる。赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、金Au、銀Ag、銅Cu、アルミニウムAl、ニッケルNi、クロムCr、チタンTi、パラジウムPd、コバルトCo、ケイ素Si、タンタルTa、タングステンW、モリブデンMo、ゲルマニウムGeなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする層である。実用性を考慮すると、これらのうち、単体では、Ag、Cu、Al、SiまたはGeが好ましい。合金では、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgNdCu、AgBi、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。高屈折率層は、例えば、インジウム・スズ複合酸化物(ITO)、酸化亜鉛ZnO、ガリウム・亜鉛複合酸化物(GZO)、アルミニウム・亜鉛複合酸化物(AZO)、ガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物(GAZO)、酸化ニオブNb2O5、酸化タンタルTaO2、酸化チタンTiO2などの高誘電体を主成分とする。透明層の成膜時に下層の金属層が酸化されるのを防止する目的で、金属層との界面に数nm程度のTiなどからなる薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、高屈折率層の成膜時に、自らが酸化されることによって金属層の酸化を防止する層である。
【0078】
また、干渉フィルタとして構成された、低誘電率層と高誘電率層との交互積層膜を用いても、可視光の透過率が高く、近赤外光の反射率が高い層を形成することができる。
【0079】
<その他の機能性層>
(1)クロミック材料層
クロミック材料を主成分として機能性層1を形成すると、外部刺激によって反射性能などが可逆的に変化する光学的機能性積層体を構成することができる。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、熱によって着色するサーモクロミック材料、電圧印加によって着色するエレクトロクロミック材料、光によって着色するフォトクロミック材料、ガスとの接触で着色するガスクロミック材料などを用いることができる。
【0080】
(2)フォトニックラティス層
コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0081】
(3)半透過層
機能性層1は、入射光の何割かを指向反射し、かつ、散乱が少なく、反対側を視認できる透明性を有する半透過層であってもよい。半透過層としては、例えば、単層または複数層の金属層からなり、半透過性を有するものである。構造体上に製膜する金属層の材料としては、例えば、上述の積層膜の金属層と同様のものを用いることができる。半透過層の具体例を下記に示す。
(a)厚さ8.5nmのAgTi層(質量比 Ag:Ti=98.5:1.5)
(b)厚さ3.4nmのAgTi層(質量比 Ag:Ti=98.5:1.5)
(c)厚さ14.5nmのAgNdCu層(質量比 Ag:Nd:Cu=99.0:0.4:0.6)
半透過層の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0082】
<樹脂層3および保護層5の材料>
ガラス転移温度に関しては、特に機能を限定することはないが、金属層または酸化物層をスパッタリング法や蒸着法などで成膜する際には、樹脂表面の温度が局所的に高温になるため、樹脂層3の樹脂のガラス転移温度は60℃以上であることが望ましい。樹脂層3および保護層5の材料として好適な材料は、例えば、製造の容易さから、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化性樹脂、または熱により硬化する熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0083】
エネルギー線硬化性樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化性樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、機能性層1との密着性を向上させるために、リン酸構造を含有する化合物、コハク酸構造を含有する化合物、またはブチロラクトン構造などを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸構造を含有する化合物としては、例えば、リン酸構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはホスホノ基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸構造を含有する化合物としては、例えば、コハク酸構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸構造を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトン構造を含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトン構造を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトン構造を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0084】
紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化性樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0085】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量が500〜60000の分子をいう。
【0086】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向がある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0087】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用してもよい。
【0088】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、フレキシブル形状の基材4およびフレキシブル形状の保護材5との密着性を考慮してヒドロキシ基やカルボキシ基やホスホノ基を有するような単量体、多価アルコール類、カルボン酸、シラン、アルミニウム、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加してもよい。
【0089】
樹脂組成物が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。この架橋剤としては、環状の架橋剤を用いることが特に好ましい。架橋剤を用いることで、室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。なお、室温での貯蔵弾性率が大きく変化すると、フレキシブル形状機能性積層体が脆くなり、ロール・ツー・ロール・プロセスなどによるフレキシブル形状機能性積層体の作製が困難となる。環状の架橋剤としては、例えば、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0090】
樹脂層3と保護層5は、可視光領域において透明性を有する同一樹脂からなることが好ましい。或いは、両層を構成する材料の屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。樹脂層3および保護層5のうち、窓材などの外部支持体6と貼り合わせる側となる層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。なお、樹脂層3と保護層5の少なくとも一方には、添加剤が含まれていてもよい。
【0091】
添加剤としては、光安定剤、難燃剤、酸化防止剤、波長選択反射膜と樹脂層との密着性を向上させるための添加剤などが挙げられる。密着性を向上させるための添加剤としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(例えば、共栄社化学(株)製のライトアクリレートP−1A(商品名)、添加量:0.5〜10質量%)、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(例えば、共栄社化学(株)製のライトアクリレートP−2M(商品名)、添加量:2〜10質量%)、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸(例えば、共栄社化学(株)製のHOA−MS(商品名)、添加量:20〜50質量%)、γ−ブチロラクトンメタクリレート(例えば、大阪有機化学(株)製のGBLMA(商品名)、添加量:20〜30質量%)が挙げられる。密着性を向上させるためには、それぞれ括弧内に示した添加量とするのが適しているが、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3の一方のみに、添加剤を添加する場合には、屈折率の違いにより曇って反対側が見えにくくなることを防止するため、添加量は3質量%以下、好ましくは1質量%以下にするとよい。したがって、この場合には、リン酸系の添加剤を採用することが好ましい。これにより、透過鮮明性を高くすることができる。一方、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3の両方に添加剤を添加する場合には、屈折率差が極力小さく(好ましくは0.010以下)となるように、添加量を調整すればよい。
【0092】
<フレキシブル形状の基材4および保護材6の材料>
フレキシブル形状の基材4および保護材6として好適な材料は、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)やジアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂(PA)、アラミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、およびメラミン樹脂などの樹脂である。
【0093】
[実施の形態2]
実施の形態2では、請求項3に対応し、無機物層の所定の立体的形状が、その機能の発現に必要なものではなく、クラックの発生を制御する目的で設けられている例について説明する。
【0094】
図11は、実施の形態2に基づくフレキシブル形状機能性積層体40の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体40は、フレキシブル形状の基材44と、樹脂層43と、機能性層である透明導電層41とで構成されている。透明導電層41はITOなどからなり、脆いので、開裂部(クラック)が生じやすい。通常、クラックが生じると、透明導電層41の透明性および導電性が著しく損なわれる。透明導電層41は液晶ディスプレイや有機太陽電池の透明電極などとして好適に用いられる。
【0095】
しかし、フレキシブル形状機能性積層体40では、画素46間などの、機能に差し障りのない領域に応力集中部45が形成されており、主として応力集中部45にクラックが生じるように構成されている。このため、クラックが生じても、画質の低下を引き起こすことが少ない。生じたクラックには有機導電材などをしみ込ませることによって、導電性を回復させることができる。フレキシブル形状機能性積層体40を用いれば、フレキシブルな形状をもつ液晶ディスプレイや有機太陽電池を形成することができる。
【0096】
[実施の形態3]
実施の形態3では、まず、これから用いる入射光の入射方向および反射光の反射方向の表示方法を明らかにし、次に、実施の形態1の変形例に相当し、光学的機能性積層体として機能する種々のフレキシブル形状機能性積層体の例について説明する。
【0097】
<入射光の入射方向および反射光の反射方向>
図9は、フレキシブル形状機能性積層体に入射する入射光の入射方向と、フレキシブル形状機能性積層体によって反射される反射光の反射方向とを整理して示すための斜視図である。フレキシブル形状機能性積層体は、入射光Lが入射する平坦な入射面S1を有する。入射光の入射方向および反射光の反射方向を示すために、下記のように2つの偏角θおよびφを定義する。すなわち、入射光Lが入射面S1に入射する点Oにおいて入射面S1に立てた垂線をOP、点Oを起点として入射光Lの光源側に引いた特定の半直線をOQとする。Oを起点とする任意の半直線の、垂線OPからの偏角をθとする。そして、入射光Lの、垂線OPからの偏角をθL(0≦θL≦90°)、垂線OPを基準として入射光Lと対称の方向の偏角を−θL(0≧−θL≧−90°)とおく。また、Oを起点とする任意の半直線を入射面S1に射影し、得られる半直線の、半直線OQからの偏角(方位角)をφとする。この際、半直線OQから時計回り方向に回転した角度を正とし、反時計回り方向に回転した角度を負とする。そして、入射光Lを入射面S1に射影し、得られる半直線OMと半直線OQとがなす角をφL(−90°≦φL≦90°)とおく。このように定めると、入射光Lの入射方向は、偏角θとφの組み(θ、φ)を用いて(θL、φL)と表され、その正反射方向は(−θL、φL+180°)と表される。
【0098】
前述した特定の半直線OQの方向は、フレキシブル形状機能性積層体にある方向(方位)から入射した光が、同じ方向(方位)へ指向反射される反射強度が最大になる方向とする。但し、反射強度が最大となる方向が複数ある場合には、そのうちの1つを半直線OQとして選択する。例えば、フレキシブル形状機能性積層体13では、図2に矢印で示した、機能性層1における反射面7の一次元的配列方向、またはその反対方向を半直線OQの向きに定める。
【0099】
フレキシブル形状機能性積層体は、入射光Lのうち、特定波長領域の光L1を選択的に、正反射方向以外の方向へ指向反射する一方、特定波長領域以外の光L2を透過させる。また、フレキシブル形状機能性積層体は、入射光L2に対して透明性を有し、後述する範囲の透過像鮮明度を有することが好ましい。ここで、「反射する」とは、特定の波長領域、例えば近赤外領域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを意味するものとする。「透過させる」とは、特定の波長領域、例えば可視領域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを意味するものとする。
【0100】
入射光L1および入射光L2の波長領域は、フレキシブル形状機能性積層体の用途によって異なる。例えば、高層ビルや住居などの建築用ガラスや壁材などに、太陽光の一部を吸収または反射する光学層として機能性積層体を設ける場合には、入射光L1は近赤外光であり、入射光L2は可視光であることが好ましい。より具体的には、入射光L1が主に波長が780〜2100nmの近赤外光であることが好ましい。太陽光から注がれる光エネルギーは、主として、波長380〜780nmの可視領域の光のエネルギーと、780〜2100nmの近赤外領域の光のエネルギーとからなる。この近赤外領域の光を反射することによって、太陽から注がれる光エネルギーによって建物内の温度が過度に上昇するのを防止することができる。これにより、夏期には冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。なお、要求特性によっては、フレキシブル形状機能性積層体の入射面S1は、平坦面でなく凹凸を有していてもよい。
【0101】
入射光L1が指向反射される方向を(θR、φR)とすると、−90°≦φR≦90°(0≦θR)であることが好ましい。この範囲内であると、OQの方向が上方になるようにフレキシブル形状機能性積層体を外部支持体に貼りつけた場合に、上方から入射してくる入射光L1を上方へ戻すことができる。周辺に高い建物がない場合には、このような特性を有するフレキシブル形状機能性積層体が有効である。
【0102】
また、指向反射される方向(θR、φR)が、(θL、−φL)近傍、または、再帰反射方向である(θL、φL)近傍であることが好ましい。近傍とは、(θL、−φL)または(θL、φL)からのずれが、好ましくは5°以内、より好ましくは3°以内であり、さらに好ましくは2°以内の範囲内であることをいう。この範囲内であると、OQの方向が上方になるようにフレキシブル形状機能性積層体を外部支持体に貼りつけた場合に、周辺に同程度の高さの建物が立ち並ぶ場合でも、上空から入射してくる入射光L1を他の建物の上空に効率よく戻すことができる。
【0103】
このような指向反射を実現するためには、例えば、球面や双曲面の一部、または三角錐や四角錘や円錐などの3次元構造体の側面を用いることが好ましい。方向(θL、φL;ここで、−90°<φL<90°)から入射した光は、その形状に基づいて方向(θR、φR;ここで、0°<θR<90°、−90°<φR<90°)へ反射させることができる。または、一方向に伸びた柱状体にすることが好ましい。方向(θL、φL;ここで、−90°<φL<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて方向(θR、φR;ここで、0°<θR<90°、φR=−φL)に反射させることができる。
【0104】
先にふれた写像鮮明度に関しては、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。写像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上、60未満であると、外の明るさにも依存するが、日常生活には問題がない。60以上、75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンはほとんど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した写像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。写像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上、270未満であると、外の明るさにも依存するが、日常生活には問題がない。270以上、350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ、回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンはほとんど気にならない。ここで、写像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合には、透過させたい波長のフィルタを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0105】
透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過させたい波長のフィルタを用いて校正した後に測定することが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、写像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。測定装置および測定条件を下記に示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A (株式会社小坂研究所)
λc:0.8mm
評価長さ:4mm
カットオフ:×5倍
データサンプリング間隔:0.5μm
【0106】
フレキシブル形状機能性積層体の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得るためには、入射面S1から入射し、樹脂層及び機能性層1を透過し、出射面S2から出射される透過光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。さらに、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。
【0107】
また、反射光の色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩行者からは歩くにつれて色が変化するように見えたりするので、好ましくない。このような反射光の色調の変化を抑制するためには、0°以上、60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2に入射し、樹脂層または機能性層1によって反射された反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、フレキシブル形状機能性積層体の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光の色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の主面において満たされることが望ましい。
【0108】
<変形例1>
図10(a)は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体14の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体14では、保護層15は、表面に凹凸形状を有している。この凹凸形状と、機能性層1の凹凸形状とは、例えば、両者の凹凸形状が対応するように形成されており、両者が有する凸部の頂部と凹部の最下部との位置が略一致している。保護層15の凹凸形状は、機能性層1の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0109】
保護層15の平坦部は、機能性層1の頂部の高さ(底部を基準とした高さ)とほぼ同じ厚さを有し、第1の体積を有している。また、保護層15の凹凸部は、第2の体積を有する厚みで平坦部の上に形成されている。
【0110】
ここで、凹凸部の第2の体積は、平坦部の第1の体積の5%以上であることが好ましい。また、保護部15を構成するエネルギー線硬化樹脂が、8体積%以上の硬化収縮率を有する場合には、第2の体積は、第1の体積の15%以上であることが好ましい。また、保護層15を構成するエネルギー線硬化樹脂が、13体積%以上の硬化収縮率を有する場合には、第2の体積は、第1の体積の200%以上であることが好ましい。これにより、エネルギー線硬化樹脂の硬化後の残留応力を緩和でき、機能性層1と保護層15の間の層間剥離に起因する光学素子の透過率の低下を防止することができる。なお、凹凸層が平坦層である場合にも、当該体積の比率にすることにより、同様の効果が得られる。
【0111】
図10(b)は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体16の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体16では、保護層15が、上記平坦部のみで形成されている。すなわち、保護層15は、機能性層1の頂部の高さ(底部を基準とした高さ)とほぼ同じ厚さを有している。
【0112】
<変形例2>
図11は、変形例1に基づくフレキシブル形状機能性積層体50の構造を示す断面図である。この例は請求項16に対応する。フレキシブル形状機能性積層体50がフレキシブル形状機能性積層体13と異なるのは、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層51を入射面上に備えていることである。自己洗浄効果層51は、例えば、酸化チタンTiO2などの光触媒を含んでおり、光触媒の親水性によって、機能性積層体50の表面に付着した汚れ物質を雨水などで均一に洗い流すことができる。なお、自己洗浄効果層51に代えて、撥水性を有する層(例えば、撥水性を有するフッ素系やシリコーン系の樹脂層)を形成してもよい。
【0113】
光学素子として構成された機能性積層体の光入射面は常に光学的に透明であることが好ましいが、機能性積層体を屋外や汚れの多い室内などに設置すると、表面に汚れ物質が付着し、この汚れ物質によって光が散乱され、光学特性が損なわれることがある。本変形例では、自己洗浄効果層51(親水性を有する層)または撥水性を有する層を設けたことにより、汚れ物質などが表面に付着するのを抑制し、光学特性の低下を防止することができる。
【0114】
<変形例3>
図12は、変形例3に基づくフレキシブル形状機能性積層体52の構造を示す断面図である。フレキシブル形状機能性積層体52がフレキシブル形状機能性積層体13と異なるのは、特定波長領域以外の光L2を透過させるのではなく、散乱させることである。本変形例によれば、赤外線などの、特定波長領域の光L1を指向反射し、かつ可視光などの、特定波長領域以外の光L2を散乱させることができる。このようにすると、フレキシブル形状機能性積層体52に曇りガラスのような意匠性を付与することができる。
【0115】
図12(a)は、フレキシブル形状機能性積層体52の一例52aの構造を示す断面図である。機能性積層体52aでは、第2の樹脂層3内に光L2を散乱させる微粒子53が配置されている。微粒子53は、第2の樹脂層3を主として構成する樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子53は、中空微粒子などであってもよい。微粒子53は、無機微粒子および有機微粒子の少なくとも1種であって、例えば、シリカ微粒子およびアルミナ微粒子などの無機微粒子や、スチレン樹脂微粒子、(メタ)アクリル樹脂微粒子、およびそれらの共重合体微粒子などの有機微粒子である。このうち、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0116】
図12(b)および(c)は、それぞれ、機能性積層体52の別の例52bおよび52cの構造を示す断面図である。機能性積層体52bでは、第2の樹脂層3の光透過側に光拡散層54が配置されている。機能性積層体52cでは、機能性層1と第2の樹脂層3との間に光拡散層55が配置されている。光拡散層54および55は、それぞれ、樹脂と微粒子とを含有し、微粒子は微粒子53と同様のものである。
【0117】
機能性積層体52では、入射光を散乱する微粒子や光拡散層などの光散乱体が、機能性層1よりも光透過側にあることが望ましい。光入射面と機能性層1との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が損なわれるからである。フレキシブル形状機能性積層体52を窓ガラスなどに貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらに貼りつけてもよい。
【0118】
<変形例4>
図13は、変形例4に基づく機能性層61の形状を示す斜視図(a)、およびフレキシブル形状機能性積層体60の構造を示す断面図(b)である。図13(a)では、見やすくするため、機能性層61と第2の樹脂層63のみを示した。この例は請求項9に対応する。機能性層61の反射面は、機能性層1と同様に、平面形状が細長い長方形である2種類の反射面64aおよび64bからなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面64aおよび64bは交互に一方向に向かって一次元的に配列されている。また、反射面64aおよび64bは、長辺は光入射面(例えば、第1の支持体4の表面;図13(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は、それぞれ、光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。しかし、機能性層1とは異なり、反射面64aと反射面64bとは、短辺の長さおよび光入射面に対する傾きが互いに異なる。隣接する反射面64aと反射面64bとがなす角を二等分する面Nは、光入射面に直交する方向からαだけ傾いている。すなわち、反射面64aと反射面64bとは二等分面Nに関して非対称であり、機能性層61の反射面は一次元配列方向に関して反転対称性を有していない。機能性層61で再帰反射率が最大になる方向は、概ね二等分面N内にある。機能性層61では二等分面Nが光入射面に直交していないので、再帰反射率が最大になる方向は入射面に直交する方向から傾斜した方向になる。
【0119】
窓ガラスなど、地面に対して略垂直に配置されている部材に機能性積層体を貼りつける場合、太陽からの直射光が下方(地面側)からくることはなく、反射光や散乱光を含めても、一般に上方(空側)から入射する光量の方が下方(地面側)から入射する光量に比べて圧倒的に多い。また、太陽からの光エネルギーの流入が多いのは昼過ぎ頃の時間帯であり、太陽の高度が45°より高いことが多い。このように入射光における入射方向の分布が非対称な場合、(一次元配列方向に関して)対称な反射面を有するフレキシブル形状機能性積層体13などを配置するより、(一次元配列方向に関して)非対称な反射面を有する機能性積層体60などを適切な向きに配置する方が、効果的に太陽からの近赤外線を上方(空側)に反射することができる場合がある。この場合、機能性層61の反射率に応じて、下記のいずれかを選択するのがよい。
【0120】
機能性層61の反射率が大きい場合、OQの方向、すなわち、再帰反射強度が最も強くなる方向が上方(空側)になるように、機能性積層体60を配置するのがよい。このようにすれば、機能性層61の再帰反射機能を生かして、上方から入射してくる入射光を上方へ戻すことができる。
【0121】
しかし、再帰反射は正反射を複数回行うので、機能性層61の反射率が小さい場合には、再帰反射される反射率は小さくなる。このような場合には、図13(b)に示すように、二等分面Nが傾いている方向が下方(地面側)になるように、機能性積層体60を配置するのがよい。このようにすると、上方から機能性層61に入射する光のうち、多くの光が、上方に向いた、面積の大きい反射面64aに入射して、1回の正反射で上方に戻される。
【0122】
上記のように、入射光の入射方向が一様ではなく、偏りがある場合には、対称性の高い反射面を有する機能性積層体を配置するより、対称面(例えば、上記二等分面N)または対称軸が一方向に傾斜した、非対称な反射面を有する機能性積層体を適切な向きに配置する方が、効果的である場合がある。上記の例では反射面が一次元配列体である例を示したが、これは、図5に示した二重V字溝形状の機能性層21や、図6に示したコーナーキューブ形状の機能性層31のように、単位凹部が二次元的に配列している場合でも同様である。
【0123】
例えば、機能性層31がコーナーキューブ形状である場合、稜線の曲率半径Rが大きい場合は、上空に向けて傾けた方がよく、下方反射を抑制するという目的においては、地面側に向けて傾いている方が好ましい。太陽光線は、機能性積層体30に対して斜めから入射するため、構造の奥まで光が入射しにくく、入射側の形状が重要となる。すなわち、稜線部分の曲率半径が大きい場合は、再帰反射光が減少してしまうため、上空に向けて傾けることでこの現象を抑制することができる。また、コーナーキューブ形状の機能性層31では、反射面で3回反射することで再帰反射を実現するが、一部の光が2回反射により再帰反射以外の方向に漏れることがある。コーナーキューブを地面側に向けて傾けることで、この漏れ光を上空方向に多く戻すことができる。このように、形状や目的に応じてどちらの方向に傾けてもよい。
【0124】
<変形例5>
図14は、変形例5に基づく機能性層66の形状を示す斜視図(a)、およびフレキシブル形状機能性積層体65の構造を示す断面図(b)である。図14(a)では、見やすくするため、機能性層66と第2の樹脂層68のみを示した。この例は請求項10に対応する。機能性層66の反射面は、機能性層1と同様に、平面形状が細長い長方形である1種類の反射面64からなる多数の反射面群で構成されており、多数の反射面64は一方向に向かって一次元的に配列されている。また、反射面64は、長辺は光入射面(例えば、第1の支持体4の表面;図14(b)参照。)に対して平行であるが、短辺は光入射面に対し一定の角度で傾いて形成されている。
【0125】
機能性層66の反射面は、機能性層61の反射面から反射面64bが省略され、反射面64aだけが反射面69として残されたものと考えることができる。反射面64bが省略されているので、機能性層66の反射面には、指向反射の機能はない。しかし、反射面64bが省略されているので、上方から機能性層66に入射する光のすべてを、上方に向いた反射面69による1回の正反射で上方に戻すことができる。
【0126】
前述したように、再帰反射は正反射を複数回行うので、機能性層の反射率が小さい場合には、再帰反射される反射率は小さくなる。従って、入射光の大部分が上方から入射してくる場合には、上方に向いた反射面による1回の正反射で上方からくる光を上方に戻す方が有利になる。変形例4に基づく機能性層66は、このような目的に特化した光学的機能性層の例である。
【0127】
<変形例6>
図15は、変形例6に基づく機能性層71の形状を示す斜視図である。見やすくするため、図15では、機能性積層体70の機能性層71と第2の樹脂層73のみを示した。機能性層71は、図3に示した機能性層21の変形例である。機能性層71の反射面は、機能性層21の反射面と同様に、多数の単位凹部72が規則正しく配置されて構成されている。しかし、機能性層71の反射面は、機能性層21の反射面と異なり、頂部が丸みを帯びた形状(曲率半径Rを有する形状)となっている点が異なっている。
【0128】
<変形例7>
図16は、変形例7に基づく機能性層74における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に13B−13B線および13C−13C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。図5に示した機能性層21や、図6に示した機能性層31と同様に、機能性層74の反射面は、多数の単位凹部75が規則正しく稠密に配置されて構成されている。単位凹部75は外形の平面形状が長方形で、この長方形の内部に、滑らかな曲面からなる反射面を有する凹部が形成されている。機能性層21や機能性層31と同様に、機能性層74も再帰反射層として機能する。
【0129】
<変形例8>
図17は、変形例8に基づく機能性層における二次元配列を示す平面図(a)と、平面図(a)に14B−14B線および14C−14C線で示した位置における断面図(b)および(c)である。図16に示した機能性層74と同様に、機能性層77の反射面は、多数の単位凹部78が規則正しく稠密に配置されて構成されている。単位凹部78は外形の平面形状が六角形で、この六角形の内部に、滑らかな曲面からなる反射面を有する凹部が形成されている。機能性層74と同様に、機能性層77も再帰反射層として機能する。
【0130】
[実施の形態4]
実施の形態4では、請求項20に記載した機能性構造体の例について説明する。本発明のフレキシブル形状機能性積層体は、代表的には、ガラスなどに貼りつけ、窓材などの機能性構造体を構成するようにすることができる。また、本発明のフレキシブル形状機能性積層体は、種々の内装部材や外装部材などの機能性構造体を構成するように用いることもできる。これらの機能性構造体は、壁や屋根のように固定された部材のみならず、季節や時間変動など、必要に応じて光学的機能性積層体の適用量を変更できる部材なども挙げられる。より具体的には、光学的機能性積層体を複数の要素に分割し、角度を変更するなどの手段により、光学的機能性積層体への入射光線の透過量を調整可能な部材、例えばブラインドなどが挙げられる。また、巻き取ったり、折り畳んだりすることが可能である光学的機能性積層体を適用した部材、例えばロールカーテンなどが挙げられる。更に、光学的機能性体を枠組みなどに固定し、必要に応じ枠組みごと取り外しが可能な部材、例えば障子などが挙げられる。
【0131】
光学的フレキシブル形状機能性積層体が適用された内装部材または外装部材としては、例えば、フレキシブル形状機能性積層体自体により構成されたものや、フレキシブル形状機能性積層体が貼り合わされた透明基材などにより構成されたものが挙げられる。このような内装部材または外装部材を室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、内装部材または外装部材を設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、内装部材または外装部材による室内側への散乱反射もほとんどないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、視認性制御や強度向上など必要な目的に応じ、透明基材以外の貼り合わせ部材を適用することもできる。
【0132】
<適用例1>
本適用例では、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるブラインド装置に機能性積層体を適用した例について説明する。
【0133】
図18(a)は、日射遮蔽装置であるブラインド装置80の構造を示す斜視図である。ブラインド装置80は、ヘッドボックス83と、複数のスラット(羽)81からなるスラット群(日射遮蔽部材群)82と、ボトムレール84とを備える。ヘッドボックス83はスラット群82の上方に設けられている。ヘッドボックス83から昇降コード85および昇降操作コード86が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール84が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット81は、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス83から下方に延びるラダーコード87により所定間隔で吊り下げられ、支持される。
【0134】
ヘッドボックス81には、スラット群83の傾斜角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。ヘッドボックス81は、ロッドなどの操作手段の操作に応じてスラット群83の傾斜角度を変化させ、室内などに取り込まれる光量を調節する。また、ヘッドボックス81は、昇降操作コード86などの操作手段の操作に応じて、スラット群83を昇降させる駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0135】
図18(b)は、スラット(羽)82の構成例を示す断面図である。スラット82は、基材88とフレキシブル形状機能性積層体89とを備える。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材88の両主面のうち、スラット群83を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89と基材88とは、例えば、接着層などにより貼り合される。
【0136】
基材88の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材88の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上記実施形態に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0137】
スラット(羽)82の第2の構成例として、フレキシブル形状機能性積層体89本体をスラット82として用いてもよい。この場合、フレキシブル形状機能性積層体89は、ラダーコード87により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0138】
なお、本適用例では、フレキシブル形状機能性積層体89を横型ブラインド装置(ベネシアンブラインド装置)に対して適用した例について説明したが、縦型ブラインド装置(バーチカルブラインド装置)に対して適用してもよい。
【0139】
<適用例2>
本適用例では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0140】
図19(a)は、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置90の構造を示す斜視図である。ロールスクリーン装置90は、ヘッドボックス91と、スクリーン92と、芯材93とを備える。ヘッドボックス91は、チェーン94などの操作部を操作することにより、スクリーン92を昇降できるように構成されている。ヘッドボックス91は、その内部にスクリーン92を巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン92の一端が結合されている。また、スクリーン92の他端には芯材93が結合されている。スクリーン92は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置90を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましい。例えば、スクリーン92は矩形状である。
【0141】
図19(b)は、スクリーン92の構成例を示す断面図である。スクリーン92は、基材95とフレキシブル形状機能性積層体89とを備え、可撓性を有していることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材95の両主面のうち、外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。フレキシブル形状機能性積層体89と基材95とは、例えば、接着層などにより貼り合される。なお、スクリーン92の構成はこの例に限定されるものではなく、フレキシブル形状機能性積層体89をスクリーン92として用いるようにしてもよい。
【0142】
基材95の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材95の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上記実施形態に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
なお、本適用例ではロールスクリーン装置について説明したが、本実施の形態はこの例に限定されない。例えば、日射遮蔽部材を折り畳むことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置に対しても本発明は適用可能である。このような日射遮蔽装置としては、例えば、日射遮蔽部材であるスクリーンを蛇腹状に折り畳むことで、入射光線の遮蔽量を調整するプリーツスクリーン装置を挙げることができる。
【0144】
<適用例3>
本適用例では、指向反射性能を有する光学的機能性体を採光部に備える建具(内装部材または外装部材)に対して機能性積層体を適用した例について説明する。
【0145】
図20(a)は、日射遮蔽部材である建具96の構造を示す斜視図である。建具96は、その採光部に光学体97を備え、その周縁部に支持体として枠材98を備える。建具96としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。光学体97は枠材98により固定されるが、必要に応じて枠材98を分解して光学体97を取り外すことができるように構成してもよい。
【0146】
図20(b)は、光学体97の構成例を示す断面図である。光学体97は、基材99と、フレキシブル形状機能性積層体89とを備える。フレキシブル形状機能性積層体89は、基材99の両主面のうち、外光を入射させる入射面側に設けられる。フレキシブル形状機能性積層体89と基材99とは、接着層などにより貼り合される。なお、光学体97の構成はこの例に限定されるものではなく、フレキシブル形状機能性積層体89を光学体97として用いるようにしてもよい。
【0147】
基材99は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材99としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学的機能性体として公知のものを用いることができる。フレキシブル形状機能性積層体89としては、上述の実施形態または変形例に係るフレキシブル形状機能性積層体のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
なお、上述の適用例では、窓材、ブラインド装置のスラット、ロールスクリーン装置のスクリーン、および建具などの内装部材または外装部材に適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、上記以外の内装部材および外装部材にも適用可能である。
【実施例】
【0149】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0150】
本実施例では、フレキシブル形状機能性積層体として、近赤外光を選択的に再帰反射する一方、可視光を透過させる光学機能性フィルムとして構成された、下記のフレキシブル形状機能性積層体を作製した。
実施例1:フレキシブル形状機能性積層体30(図4参照。機能性層31の形状は、ピッチ100μm、高さ47μmのコーナーキューブ形状である。)
実施例2:フレキシブル形状機能性積層体13(図2参照。機能性層1の形状は、ピッチ50μm、高さ25μmのV字溝形状である。)
実施例3:フレキシブル形状機能性積層体20(図3参照。機能性層21の形状は、ピッチ100μm、高さ50μmの二重V字溝形状である。)
【0151】
実施例1〜3では、機能性層として下記のガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物(GAZO)層と銀ネオジム銅合金(AgNdCu)層との交互多層膜(( )内の数値は層の厚さ(nm)である。以下、同様。):
GAZO層(40)、AgNdCu層(9)、GAZO層(80)、AgNdCu層(9)、およびG AZO層(40)の積層体(178)
を作製した。上記ガリウム・アルミニウム・亜鉛複合酸化物におけるat分率は、Ga2O3:Al2O3:ZnO=0.57:0.31:99.12at%であり、銀ネオジム銅合金におけるat分率は、Ag:Nd:Cu=99.0:0.4:0.6at%である。
【0152】
また、実施例4および5では、上記コーナーキューブ形状の機能性層31を、それぞれ、酸化亜鉛(ZnO)層と銀パラジウム銅合金(AgPdCu)層との交互多層膜:
ZnO層(33)、AgNdCu層(7)、ZnO層(121)、AgNdCu層(7)、およびZnO 層(33)の積層体(201)
、および酸化ニオブ(Nb2O5)層と銀ビスマス合金(AgBi)層と酸化亜鉛(ZnO)層との交互多層膜:
Nb2O5層(38)、AgBi層(18)、ZnO層(7)、Nb2O5層(63)、AgBi層(19)、 ZnO層(7)、Nb2O5層(33)、およびZnO層(3)の積層体(188)
で作製した。なお、機能性層はスパッタリング法で形成し、とくに金属酸化物層は酸素雰囲気中で金属をスパッタリングする低応力反応性スパッタリング法で形成した。
【0153】
樹脂層3と保護層5とは同一材料とし、ウレタンアクリレート樹脂であるアロニックスUVX4502(商品名;東亞合成(株)製、硬化後の屈折率は1.533。)を用いた。また、フレキシブル形状の基材4および保護材6として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるコスモシャインA4300(商品名;東洋紡(株)製、厚さは75μm。)を用いた。
【0154】
一方、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体では、上述したPETフィルム上に、アロニックスUVX4502(商品名)を用いて平坦なウレタンアクリレート樹脂層(厚さは40μm。)を形成し、その上に平板状の機能性層を形成した。機能性層としては、上述したガリウムアルミニウム亜鉛複合酸化物(GAZO)層と銀ネオジム銅合金(AgNdCu)層との交互多層膜を形成した。この機能性層には、作製直後にはクラックがほとんどない。そこで、直径15mmの丸棒に5回巻きつけることにより、平板状の機能性層にクラックを発生させ、比較例2のフレキシブル形状機能性積層体を作製した。
【0155】
<光学機能性フィルムの作製>
【0156】
まず、図6(a)に示したように、バイトによる切削加工によって、ニッケル・リン(Ni・P)製の金型19の表面に所定の立体形状を形成する。この立体形状は、機能性層1を作製しようとする場合には、機能性層1と同一の立体形状とした。
【0157】
一方、機能性層21または機能性層31を作製しようとする場合には、金型19の表面の立体形状を機能性層の立体形状の凹凸を反転した形状とし、反転した形状を切削加工する。この際、機能性層の効果を発現するためには光の入射面は逆になる。
【0158】
次に、図6(b)に示したように、金型19の表面に塗布法で樹脂材料層3aを形成した。さらにその上に、厚さ100μmのフィルム状のフレキシブル形状の基材4を押し当て、金型19と樹脂材料層3aとフレキシブル形状の基材4とを密着させた。
【0159】
次に、図6(c)に示したように、フレキシブル形状の基材4の側から紫外光を樹脂材料層3aに照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、樹脂層3を形成した。
【0160】
次に、図6(d)に示したように、フレキシブル形状の基材4と樹脂層3との積層体を金型19から剥離させ、金型19の表面の立体形状の凹凸反転形状が転写された樹脂層3を得た。
【0161】
次に、図7(e)に示したように、スパッタリング法によって、樹脂層3の表面に密着するように機能性層1を成膜した。この結果、機能性層1の、樹脂層3に密着している主面は、金型19の表面の立体形状と同じ形状に形成される。
【0162】
次に、図7(f)に示したように、機能性層1のもう一方の主面に、塗布法で樹脂材料層43を形成した。樹脂材料層43から気泡を押し出した後に、その上に厚さ100μmのフィルム状のフレキシブル形状の保護材6を押し当て、機能性層1と樹脂材料層43と保護材6とを密着させた。
【0163】
次に、図7(g)に示したように、フレキシブル形状の保護材6の側から紫外光を樹脂材料層43に照射し、樹脂モノマー及び/又はオリゴマーを硬化させ、保護層5を形成した。この結果、目的とする光学機能性フィルムであるフレキシブル形状機能性積層体13を得た。
【0164】
<コーナーキューブ形状の機能性層と平板状の機能性層とにおけるクラック発生の違い>
図21は、実施例1による、コーナーキューブ形状の機能性層31におけるクラック発生の特徴(大きさ、発生位置、および発生量)を示す、光学顕微鏡による観察像である。図21(a)の拡大倍率は100倍、図21(b)の拡大倍率は500倍である。図21から、コーナーキューブ形状の機能性層31に発生するクラックは、発生位置が応力集中部位である稜線部に集中し、多くのクラックの長さが1ピッチ(100μm)未満であることがわかる。
【0165】
図22は、比較例2による、平板状の機能性層におけるクラック発生の特徴(大きさ、発生位置、および発生量)を示す、光学顕微鏡による観察像である。図22(a)の拡大倍率は100倍である。図22から、平板状の機能性層に発生するクラックは、発生位置が層全体に不規則に分布し、多くのクラックの長さが1mm以上であることがわかる。
【0166】
<耐候性への影響>
機能性層全体に大きなクラックが発生すると、その部分から水蒸気や腐食性ガスによる腐食が進行し、機能性部材としての機能が損なわれる場合がある。ここでは、銀の酸化による反射率の低下によって、耐候性試験における機能性層の劣化の程度を調べた。反射率は、分光光度計Solid Spec−3700DUV(商品名;島津製作所(株)製)を用いて、波長領域300〜2600nmの反射率を測定した。耐候性試験では、恒温槽PR−4KP(商品名;エスペックエンジニアリング(株)製)を用いて、60°、相対湿度90%での高温高湿耐久試験を1000時間実施した。
【0167】
図23は、実施例1および比較例2による機能性層の、耐候性試験前後における可視および近赤外領域における反射率の変化を示す反射スペクトルである。また、表1は、近赤外領域(波長=700〜2500nm)における平均反射率の変化を示す表である。なお、実施例1における反射率が比較例2における反射率に比べて小さい原因は、主として、コーナーキューブ形状の反射層では正反射が3回行われるので、反射率が1回の正反射の反射率の3乗になるからである。
【0168】
【表1】
【0169】
図23および表1に示されているように、耐候性試験による反射率の減少は、実施例1の方が比較例2に比べて小さい。この原因は、上述したように、比較例2では、平板状の機能性層全体に長いクラックが不規則に発生するのに対し、実施例1では、機能性層31の機能に寄与しない稜線部38に集中して短いクラックが発生するからであると考えられる。
【0170】
<水蒸気透過率と養生期間との関係>
表2は、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体と、市販のウィンドウフィルムの水蒸気透過率を比較した表である。なお、比較例1(クラックなし)とは保護層5およびフレキシブル形状の保護材6のない構成であり、比較例1の完成品とは、これらを備えた構成である(以下、同様。)。また、表中、住友3M赤外線遮蔽、リケンテクノスSS200T、リケンテクノスSS1490Cと略記したのは、それぞれ、赤外線遮蔽(商品名;住友3M(株)製)、RIVEXセキュリティータイプSS200T(商品名;リケンテクノス(株)製)、RIVEXセキュリティータイプSS1490C(商品名;リケンテクノス(株)製)である。
【0171】
【表2】
【0172】
表2に示されているように、水蒸気透過率と水貼り養生期間には相関が見られ、市販品との比較から、平板状の機能性層を作製した、比較例1のフレキシブル形状機能性積層体では、水蒸気透過率が小さすぎ、水貼り養生期間が長くなりすぎることがわかる。
【0173】
<開口部作成による水蒸気透過率の向上>
表3は、実施例1〜5および比較例1および2によるフレキシブル形状機能性積層体の水蒸気透過率を示す表である。表中、機能性層のコーナーキューブ形状はCCPと略記した。
【0174】
【表3】
【0175】
表3に示されているように、クラックの発生によって一様に水蒸気透過率を向上させることができ、水貼り養生期間を短縮できることがわかる。これは比較例2においても同様であるが、比較例2のように、平板状の機能性層全体に長いクラックが不規則に発生すると耐侯性が低下するので不都合である。
【0176】
<水抜け性評価>
特開2000−96009号公報において、水貼り6時間維持後の粘着力が常態粘着力(空貼り時)の20%以上であれば粘着剤の水抜け性が十分であるとする評価が提案されている。この指標は粘着剤の粘着力の回復、つまり水抜け性を示す指標ではあるが、この水抜け性には粘着剤を貼り合わせるフィルムの水蒸気透過率も影響する。つまり、粘着剤の水抜け性は十分であっても、水抜け性の悪い無機物層を有するフレキシブル形状機能性積層体に貼り合わせた場合、この指標を満たすことができない。従って、粘着剤の水抜け性から基材フィルムの水抜け性を推定することができる。そこで、フレキシブル形状機能性積層体を粘着剤(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス(株)製、品名:96A2007)に貼り合わせ、ガラスに水貼り施工を行い、粘着力の回復を評価した。表4はその結果である。
【0177】
【表4】
【0178】
比較例1の、水蒸気バリア性の高い無機膜を有するフレキシブル形状機能性積層体では、この指標を満たせなかった。しかし、実施例1〜3および比較例2では、開裂部(クラック)を設けることで水抜け性が向上し、粘着力の回復も早くなることがわかった。つまり、開裂部(クラック)を設けることで、フレキシブル形状機能性積層体をウィンドウフィルムとして施工する際の養生期間を短縮できることが確認できた。
【0179】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0180】
1…機能性層、2…フレキシブル形状の基材、3…樹脂層、3a…樹脂材料層、
4…フレキシブル形状の基材、5…保護層、5a…樹脂材料層、
6…フレキシブル形状の保護材、7a、7b…反射面、
8…応力集中部位(稜線部や谷筋部)、9…開裂部(クラック)、
10〜13…フレキシブル形状機能性積層体、
14、16…フレキシブル形状機能性積層体、15、17…保護層、19…金型、
20…フレキシブル形状機能性積層体、21…機能性層、22a〜22d…反射面、
23…単位凹部、25…保護層、30…フレキシブル形状機能性積層体、
31…機能性層、32a〜32c…反射面、33…単位凹部、35…保護層、
38…応力集中部位(稜線部)、38…応力集中部位(稜線部)、
40…フレキシブル形状機能性積層体、41…透明導電層、43…樹脂層、
44…フレキシブル形状の基材、45…応力集中部位、46…画素、
50…機能性積層体、51…自己洗浄効果層、52a〜52c…機能性積層体、
53…微粒子、54、55…光拡散層、60…機能性積層体、61…機能性層、
62…第1の樹脂層、63…第2の樹脂層、64a、64b…反射面、
65…機能性積層体、66…機能性層、67…第1の樹脂層、68…第2の樹脂層、
69a、69b…反射面、70…機能性積層体、71…機能性層、72…反射面、
73…第2の樹脂層、74…機能性層、75…反射面、76…第2の樹脂層、
77…機能性層、78…反射面、79…第2の樹脂層、80…ブラインド装置、
81…スラット(羽)、82…スラット群(日射遮蔽部材群)、83…ヘッドボックス、
84…ボトムレール、85…昇降コード、86…昇降操作コード、87…ラダーコード、
88…基材、89…フレキシブル形状機能性積層体、90…ロールスクリーン装置、
91…スクリーン、92…ヘッドボックス、93…芯材、94…チェーン、95…基材、
96…建具、97…光学的機能性体、98…枠材、99…基材、111…基板、
112…犠牲層、113…無機材料層、114…パターニングされた無機材料層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0181】
【特許文献1】特開2009−135099号公報(請求項1、第5及び7頁、図2)
【特許文献2】特開2008−78631号公報(請求項1、第5及び6頁、図1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、前記立体的形状に起因する応力集 中部位に開裂部(クラック)を有する機能性層と、
少なくともフレキシブル形状の基材を含有し、前記機能性層の一方の主面側に配置さ れている支持体と
を有する、フレキシブル形状機能性積層体。
【請求項2】
前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項3】
前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項4】
前記応力集中部位が、前記立体的形状のうち、前記無機物層の機能を損なうことのない、又は損なうことの少ない領域に設けられている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項5】
前記フレキシブル形状の基材が、前記機能性層の前記一方の主面に密着している、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項6】
前記機能性層の前記一方の主面に密着して樹脂層が配置されており、前記フレキシブル形状の基材はこの樹脂層を介して前記機能性層を支持している、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項7】
前記機能性層のもう一方の主面が、樹脂からなる保護層によって被覆されている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項8】
前記保護層の、前記機能性層と接している面とは反対側の面に接して、保護材が配置されている、請求項7に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項9】
前記樹脂層と前記保護層とが同種の材料からなる、請求項7に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項10】
前記フレキシブル形状の基材の表面を光入射面とし、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項11】
前記機能性層が、指向反射性を有する光学的機能性層である、請求項10に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項12】
前記機能性層の反射面が第1の反射面群と第2の反射面群からなる多数の反射面群で構成され、前記第1の反射面及び前記第2の反射面の平面形状は細長い長方形で、長辺は互いに同じ長さであり、前記長辺は前記光入射面に対して平行であるが、前記第1の反射面および前記第2の反射面の短辺は、それぞれ、前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記第1の反射面及び多数の前記第2の反射面が、前記反射面の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に交互に配列されている、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項13】
前記機能性層の反射面は、多数の単位凹部又は単位凸部が規則正しく配置されて構成されており、前記単位凹部又は単位凸部の立体的形状が、角錐形、円錐形、半球形、又はシリンドリカル形である、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項14】
前記機能性層の反射面の対称面の面内方向又は対称軸の方向、すなわち、再帰反射率が最大又は概ね最大になる方向が、前記入射面に直交する方向から傾斜している、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項15】
前記機能性層の反射面が、1種類の、個片化された、多数の反射面群で構成され、前記反射面の平面形状は細長い長方形で、その長辺は前記光入射面に対して平行であるが、その短辺は前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、前記反射面がその長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されている、請求項10に記載した機能性積層体。
【請求項16】
特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項17】
前記機能性層が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層である、請求項16に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項18】
前記機能性層が、高屈折率層と金属層とが積層された複数層からなる、請求項17に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項19】
前記機能性層が、低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層からなる、請求項17に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載したフレキシブル形状機能性積層体を備える、機能性構造材。
【請求項1】
所定の立体的形状に形成された無機物層を含有し、前記立体的形状に起因する応力集 中部位に開裂部(クラック)を有する機能性層と、
少なくともフレキシブル形状の基材を含有し、前記機能性層の一方の主面側に配置さ れている支持体と
を有する、フレキシブル形状機能性積層体。
【請求項2】
前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必須のものであり、前記応力集中部位がその立体的形状の一部である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項3】
前記所定の立体的形状が、前記無機物層の機能の発現に必要なものではなく、前記クラックの発生を制御する目的で設けられている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項4】
前記応力集中部位が、前記立体的形状のうち、前記無機物層の機能を損なうことのない、又は損なうことの少ない領域に設けられている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項5】
前記フレキシブル形状の基材が、前記機能性層の前記一方の主面に密着している、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項6】
前記機能性層の前記一方の主面に密着して樹脂層が配置されており、前記フレキシブル形状の基材はこの樹脂層を介して前記機能性層を支持している、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項7】
前記機能性層のもう一方の主面が、樹脂からなる保護層によって被覆されている、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項8】
前記保護層の、前記機能性層と接している面とは反対側の面に接して、保護材が配置されている、請求項7に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項9】
前記樹脂層と前記保護層とが同種の材料からなる、請求項7に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項10】
前記フレキシブル形状の基材の表面を光入射面とし、入射光を反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項11】
前記機能性層が、指向反射性を有する光学的機能性層である、請求項10に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項12】
前記機能性層の反射面が第1の反射面群と第2の反射面群からなる多数の反射面群で構成され、前記第1の反射面及び前記第2の反射面の平面形状は細長い長方形で、長辺は互いに同じ長さであり、前記長辺は前記光入射面に対して平行であるが、前記第1の反射面および前記第2の反射面の短辺は、それぞれ、前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、多数の前記第1の反射面及び多数の前記第2の反射面が、前記反射面の長手方向に直交する方向に向かって一次元的に交互に配列されている、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項13】
前記機能性層の反射面は、多数の単位凹部又は単位凸部が規則正しく配置されて構成されており、前記単位凹部又は単位凸部の立体的形状が、角錐形、円錐形、半球形、又はシリンドリカル形である、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項14】
前記機能性層の反射面の対称面の面内方向又は対称軸の方向、すなわち、再帰反射率が最大又は概ね最大になる方向が、前記入射面に直交する方向から傾斜している、請求項11に記載した機能性積層体。
【請求項15】
前記機能性層の反射面が、1種類の、個片化された、多数の反射面群で構成され、前記反射面の平面形状は細長い長方形で、その長辺は前記光入射面に対して平行であるが、その短辺は前記光入射面に対して一定の角度で傾いて形成されており、前記反射面がその長手方向に直交する方向に向かって一次元的に配列されている、請求項10に記載した機能性積層体。
【請求項16】
特定の波長領域の入射光を選択的に反射、吸収、半透過、又は透過する光学的機能性積層体である、請求項1に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項17】
前記機能性層が、特定の波長領域の入射光を選択的に反射又は透過する光学的機能性層である、請求項16に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項18】
前記機能性層が、高屈折率層と金属層とが積層された複数層からなる、請求項17に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項19】
前記機能性層が、低誘電率層と高誘電率層とが交互に積層された複数層からなる、請求項17に記載したフレキシブル形状機能性積層体。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載したフレキシブル形状機能性積層体を備える、機能性構造材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図24】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図24】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−212971(P2011−212971A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83141(P2010−83141)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]