説明

フレキシブル配線基板、及びそれを用いたインクジェットプリントヘッド

【課題】 高湿度下における長期使用においてもイオンマイグレーションが発生しないフレキシブル配線基板、およびインクジェットプリントヘッドを提供する。
【解決手段】 ベースフィルムと該ベールフィルム上に接着された配線パターンの導体層とその保護層により構成されるフレキシブル配線基板において、ベースフィルムと導体層の間に無機材料層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル配線基板、及びそれを用いたインクジェットプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、電子機器の小型化が進む中で、その実装形態の自由度、省スペース性から、フレキシブル配線基板が近年広く使用されている。
【0003】
図8はフレキシブル配線基板の一例であるTABの構成を示す。1はベースフィルム、2は接着剤、3は導体層、4はレジストの保護層である。ベースフィルム1はポリイミド系樹脂が一般的で、厚みは50、75、125μm等がある。導体層3は銅箔を接着剤2で接着した後パターニングすることで形成され、厚みは12.5、25、35μmが一般的である。
【0004】
図9は他の例の構成を示す。1はベースフィルム、2は接着剤、3は導体層、5は接着剤、6は保護フィルムである。保護フィルム6は一般的にはベースフィルム1に比べて薄く、ポリイミド系樹脂やアラミド系樹脂が使われる。接着剤5は保護フィルム6の接着を行なうと同時に導体層3の配線間隔を充填する。
【0005】
これらのフレキシブル配線基板はインクジェットプリントヘッドにおいても近年しばしば用いられており、特登録3253203号公報では電気的接続部について述べられている。また、特開2002−19146号公報ではフレキシブル配線基板を用いたインクジェットプリントヘッドの構成について述べられている。ここではインク滴を吐出するための記録素子基板との電気回路の構成にフレキシブル配線基板が使われている。フレキシブル配線基板は、ベースフィルム1面を表にインクジェットプリントヘッド構成部材に接着して使われる。近年、多ノズル化に伴う配線本数の増加と部品の小型化によりフレキシブル配線基板の高密度配線化がすすみ、配線間の隙間は約50μmと狭くなっている。
【0006】
インクジェットプリントヘッドでは、フレキシブル配線基板表面はインクの吐出やワイピング作用によりインクで濡れた状態になっている。また、インクジェットプリンタ内部にあるインクジェットプリントヘッドは常に湿度の高い状態にある。インクジェットプリントヘッドで用いられるフレキシブル配線基板のベースフィルムであるポリイミド系樹脂は約2.2%吸湿率をもっている。更に厚みが約50μmと小さいため水分子は容易にベースフィルムを通過することができ、接着剤2や配線間の保護層4に浸透していく(図10)。
【0007】
インクの消費に伴い交換されるディスポーザブルタイプでは殆ど問題とならないが、基本的にヘッド交換されないパーマネントタイプのインクジェットプリントヘッドでは、問題となる。すなわち、長時間の使用では、接着剤や保護層内に存在する不純物イオンが水の分子の存在により配線材の銅に作用し、配線の電源ライン間でイオンマイグレーションを発生させる。
【0008】
さらに長寿命化したインクジェットプリントヘッドでは、このイオンマイグレーションを無視することが出来なくなり、長期使用で電気的なショートに至る可能性がでてくる。
【0009】
高密度配線されたフレキシブル配線基板でのこのようなイオンマイグレーションを防止するには、保護層材料の不純物イオン濃度低減や、銅配線の金メッキが有効である。
【特許文献1】特登録3253203号公報
【特許文献2】特開2002−19146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記イオンマイグレーション防止のための接着剤や保護層材料の不純物イオン濃度低減や銅配線の金メッキはコスト増につながる上に、さらに長寿命化したインクジェットプリントヘッドでは十分期待できる効果が得られない。
【0011】
本発明は、上述した従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高湿度下における長期使用においてもイオンマイグレーションが発生しないフレキシブル配線基板、およびインクジェットプリントヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するための本発明のフレキシブル配線基板は、ベースフィルムと該ベールフィルム上に接着された配線パターンの導体層とその保護層により構成されるフレキシブル配線基板において、ベースフィルムと導体層の間に無機材料層を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のインクジェットプリントヘッドは、インクを吐出するために用いられるエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生素子と、前記インク滴を吐出する吐出口と、該複数の吐出エネルギー発生素子を配する基板と、前記吐出口を備える吐出口プレートとを備え、前記基板と前記吐出口プレートが接合され基板と吐出口プレートとの間にインクを供給するインク流路が形成されているインクジェットプリントヘッドにおいて、前記基板に電気的に接続されたフレキシブル配線基板が、ベースフィルムと導体層の間に無機材料層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、高湿度下における長期使用においてもイオンマイグレーションが発生しないフレキシブル配線基板、およびインクジェットプリントヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係るフレキシブル配線基板、及びそれを用いたインクジェットプリントヘッドの実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1に本実施例のフレキシブル配線基板の断面図を示す。ポリイミド樹脂のベースフィルム1は厚みが50μmで、片側には全面に9μmのアルミ箔7が接着剤10で接着されている。アルミ箔7の上には導体層である銅配線パターン3が接着剤2を介して形成されており、さらにレジスト4で保護されている。この銅配線パターン3は、アルミ箔9上に35μm厚の銅箔を接着したあとエッチング処理によりパターニングされる。
【0017】
図2に本実施例のフレキシブル配線基板を接着剤9で基材8に接着した場合の断面図を示す。本層構成では、ベースフィルム1側が高湿度であっても、ベースフィルム1を浸透した水分子はアルミ箔7で遮断されるので銅配線パターン3側に到達することはない。ここではアルミ箔7を用いているが他の金属である銅、銀、金等の金属箔を用いても効果は同様である。
【0018】
次に、このフレキシブル配線基板を用いたインクジェットプリントヘッドについて説明する。本発明の記録ヘッド部H1001は、図4(a)および図4(b)の斜視図でわかるように、インクジェットプリントヘッドである記録ヘッドカートリッジH1000を構成する一構成要素である。また、記録ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッド部H1001とこれに着脱自在に設けられたインクタンクH1900とで構成されている。この記録ヘッドカートリッジH1000は、インクジェット記録装置本体のキャリッジ(不図示)に、位置決め手段によって位置決めされ、電気的接点の接触により電気的に接続され固定支持されて載置されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっている。
【0019】
記録ヘッド部H1001は、図5の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1002とインク供給ユニット(液体供給ユニット)H1003とタンクホルダーH2000とから構成されている。
【0020】
さらに、図6の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1002は、第1の記録素子基板H1100、第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、フレキシブル配線基板である電気配線テープ(電気配線基板)H1300、電気コンタクト基板H2200、第2のプレートH1400で構成されている。また、インク供給ユニットH1003は、インク供給部材H1500、流路形成部材H1600、ジョイントシール部材H2300、フィルターH1700、シールゴムH1800から構成されている。
【0021】
電気配線テープH1300は、第1の記録素子基板H1100と第2の記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。電気配線テープH1300には、それぞれの記録素子基板H1100,H1101に対応する2つの開口部が形成されている。この開口部の縁付近には、それぞれの記録素子基板H1100,H1101の電極部H1104に接続される電極端子H1302が形成されている。電気配線テープH1300の端部には、電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301を有する電気コンタクト基板H2200と電気的接続を行うための電気端子接続部H1303が形成されている。そして、電極端子H1302と電気端子接続部H1303とは連続した銅箔の配線パターンでつながっている。
【0022】
電気配線テープH1300は裏面で第3の接着剤によって第2のプレートH1400の下面に接着固定され、さらに、第1のプレートH1200の一側面側に折り曲げられ、第1のプレートH1200の側面に接着固定されている。第3の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした厚さ10〜100μmの熱硬化接着剤が使用されている。
【0023】
電気配線テープH1300と第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101との電気的な接続は、例えば、熱超音波圧着法によって行われる。すなわち、記録素子基板H1100,H1101の電極部H1104と電気配線テープH1300の電極端子H1302とを熱超音波圧着法によって電気接合させるのである。そして、第1の記録素子基板H1100および第2の記録素子基板H1101と電気配線テープH1300との電気接続部分は、第1の封止剤H1307と第2の封止剤H1308によって封止されている。これによって電気接続部分がインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤H1307は、主に電気配線テープの電極端子H1302と記録素子基板H1100,H1101の電極部H1104との接続部の裏側からの封止と記録素子基板H1100,H1101の外周部分の封止とに用いられている。また、第2の封止剤H1308は、接続部の表側からの封止に用いられている。
【0024】
電気配線テープH1300の端部には、電気コンタクト基板H2200が異方性導電フィルムなどを用いて熱圧着して電気的に接続されている。電気コンタクト基板H2200には、位置決め用の端子位置決め穴H1309と、固定用の端子結合穴H1310とが形成されている。
【0025】
インク供給ユニットH1003、記録素子ユニットH1002、インク供給部材H1500及びタンクホルダーH2000を結合させると、図7に示すようにインクジェットプリントヘッドである記録ヘッドカートリッジH1000が完成する。
【0026】
以上説明したインクジェットプリントヘッドをインクジェット記録装置本体に装着して印字を行なうと、フレキシブル配線基板である電気配線テープH1300の表面はインクに触れるため高湿度条件にさらされる。しかしながら本実施例では、フレキシブル配線基板内部には水分子が浸透しないので配線間の保護層内部の不純物イオン濃度が高くてもイオンマイグレーション発生の心配はなく、さらなる長寿命に対応可能となる。
【実施例2】
【0027】
図3に第2の実施例であるフレキシブル配線基板の断面図を示す。ポリイミド樹脂のベースフィルム1は厚みが50μmで、片側には全面に0.3μmの金の蒸着層11が形成されている。この蒸着層側に導体層である厚さ35μmの銅配線パターン3が接着剤2を介して形成されており、厚さ5μmのアラミド樹脂の保護フィルム6が接着剤5で配線間の隙間を充填するように接着して保護している。保護フィルム6の接着面全面にも0.3μmの金の蒸着層12が形成されている。本層構成では、フレキシブル配線基板の両面が高湿度となっても、水分子は蒸着層7で遮断されるので銅配線パターン3および接着剤5に到達することはない。ここでは蒸着に金を用いているが他の金属である銅、銀、アルミ等を用いても効果は同様である。
【0028】
本実施例のフレキシブル配線基板をインクジェットプリントヘッドに応用した場合は、フレキシブル配線基板の裏面が外部と完全に遮断されていなくても、実施例1と同様に、フレキシブル配線基板内部には水分子が浸透しない。このため、配線間の接着剤内部の不純物イオン濃度が高くてもイオンマイグレーション発生の心配はなく、さらなる長寿命が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【図2】本発明の実施例1のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例2のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1のインクジェットプリントヘッドを説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1のインクジェットプリントヘッドを説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1のインクジェットプリントヘッドを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1のインクジェットプリントヘッドを説明するための図である。
【図8】従来例のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【図9】従来例のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【図10】従来例のフレキシブル配線基板を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ベースフィルム
2 接着剤
3 銅配線パターン(導体層)
4 レジスト
5 接着剤
6 保護フィルム
7 アルミ箔
8 基材
9 接着剤
10 接着剤
11 蒸着層
12 蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと該ベールフィルム上に接着された配線パターンの導体層とその保護層により構成されるフレキシブル配線基板において、
ベースフィルムと導体層の間に無機材料層を有することを特徴とするフレキシブル配線基板。
【請求項2】
前記無機材料層厚みは、前記導体層厚みより小さいことを特徴とする請求項1記載のフレキシブル配線基板。
【請求項3】
前記無機材料層は、シリカ層であることを特徴とする請求項2記載のフレキシブル配線基板。
【請求項4】
前記無機材料層は、金属層であることを特徴とする請求項2記載のフレキシブル配線基板。
【請求項5】
前記金属層は、前記ベースフィルム上に金属を蒸着したものであることを特徴とする請求項4記載のフレキシブル配線基板。
【請求項6】
前記金属層は、前記ベースフィルムに金属箔を接着したものであることを特徴とする請求項4記載のフレキシブル配線基板。
【請求項7】
前記保護層は前記導体層に接着された保護フィルムにより構成されており、前記保護フィルムの接着面には第2の無機材料層を有することを特徴とする請求項1記載のフレキシブル配線基板。
【請求項8】
インクを吐出するために用いられるエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生素子と、前記インクを吐出する吐出口と、該複数の吐出エネルギー発生素子を配する基板と、前記吐出口を備える吐出口プレートとを備え、前記基板と前記吐出口プレートが接合され基板と吐出口プレートとの間にインクを供給するインク流路が形成されているインクジェットプリントヘッドにおいて、
前記基板に電気的に接続されたフレキシブル配線基板が、ベースフィルムと導体層の間に無機材料層を有することを特徴とするインクジェットプリントヘッド。
【請求項9】
前記保護層は前記導体層に接着された保護フィルムにより構成されており、前記保護フィルムの接着面には第2の無機材料層を有することを特徴とする請求項8記載のインクジェットプリントヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−126629(P2008−126629A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317235(P2006−317235)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】