説明

フレグランスとしてのα,β−不飽和ニトリル類

香味料およびフレグランス成分としての短鎖α,β−不飽和ニトリル類の使用ならびにこれらを含む香味料およびフレグランス利用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香で満たす成分としての短鎖アルカ−2−エンニトリル類の使用ならびにこれらを含む香味料およびフレグランス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フレグランス産業において、芳香ノートについて増強または改善する新規な化合物について、定常的な要求がある。
短鎖アルカ−2−エンニトリル類は、従来技術から知られている。しかし、本発明者らの知る限りでは、従来技術は、これらの感覚刺激性特性または香料の分野におけるこの群の化合物のあらゆる使用に関しては、完全に記載がない。
【0003】
文献中に記載されている香料の分野において適する唯一の短鎖ニトリル類は、それぞれタマネギ様臭気ノートおよび刺激性のカラシ様臭気ノートを有する3−ブテンニトリルおよび4−ペンテンニトリルである(6th Int. Congr. Essent. Oils 1974, 73, W. S. Brud et al.)。
【発明の概要】
【0004】
驚異的なことに、本発明者らは、ある種の短鎖アルカ−2−エンニトリル類が極めて興味深いグリーン、フルーティ臭気ノートを有することを見出した。
【0005】
したがって、本発明は、この観点の1つにおいて、式(I)
【化1】

式中、Rは、直鎖状、分枝状C3〜4アルキルおよびC3〜4シクロアルキル、例えばプロピル、プロパ−2−イル、ブチル、1−メチルプロパ−1−イル、2−メチルプロパ−1−イルおよびシクロプロピルから選択され;
二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物のフレグランスまたは香味料成分としての使用に関する。
【0006】
(Z)および(E)異性体が同様の嗅覚プロフィールを示す一方、(Z)異性体の臭気しきい値は、この対応する(E)異性体と比較して高い。したがって、純粋な(E)異性体を用いることが、好ましい。しかし、両方の異性体の混合物、好ましくは合成的に容易に入手できる(E)異性体が豊富であるものもまた、用いることができる。
【0007】
用語「豊富である」は、本明細書中では、(E)異性体が1:1より大きい異性体純度を有する本発明の化合物を記載するために用いる。特に好ましいのは、1.5:1の(E:Z)、一層好ましくは2:1の(E:Z)または3:1の(E:Z)および最も好ましくは5:1の(E:Z)またはこれより大きい異性体純度を有する化合物である。
【0008】
本発明の化合物は、1つの立体中心を含んでいてもよく、これ自体立体異性体の混合物として存在する。これらを、立体異性体の混合物として用いることができるか、またはジアステレオマー的に、および/または鏡像異性的に純粋な形態で分離してもよい。立体異性体を分離することは、これらの化合物の製造および精製の複雑さを大きくし、したがって当該化合物を、単に経済的理由によりこの立体異性体の混合物として用いるのが、好ましい。しかし、個別の立体異性体を調製するのが望ましい場合には、これを、当該分野において知られている手順に従って、例えば分取HPLCおよびGC、または立体選択的合成により達成してもよい。
【0009】
特定の態様は、好ましくは(E)−異性体が豊富である、ヘキサ−2−エンニトリル、ヘプタ−2−エンニトリル、4−メチルヘキサ−2−エンニトリル、5−メチルヘキサ−2−エンニトリル、4−メチルペンタ−2−エンニトリルおよび3−シクロプロピルアクリロニトリルからなるリストから選択される、式(I)で表される化合物の香味料またはフレグランス成分としての使用である。
【0010】
式(I)で表される化合物を、単独で、これらの混合物として、またはベース材料と組み合わせて用いてもよい。本明細書中で用いる、「ベース材料」は、現在利用できる広範囲の天然物および合成分子から選択されるすべての既知の着臭剤(odorant)分子、例えばエッセンシャルオイル、アルコール類、アルデヒド類およびケトン類、エーテル類およびアセタール類、エステル類およびラクトン類、大員環および複素環、フレグランス組成物中において着臭剤と組み合わせて通常用いられる1種もしくは2種以上の成分もしくは賦形剤、例えば当該分野において一般的に用いられる担体材料および他の補助剤、例えばジプロピレングリコール(DPG)、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)およびクエン酸トリエチル(TEC)などの溶媒、または、前記着臭剤分子と前記成分もしくは賦形剤との混合物を含む。
【0011】
以下のリストは、本発明の化合物と混ぜ合わせることができる、既知の着臭剤分子の例を含む:
−エッセンシャルオイルおよび抽出物、例えばツリーモスアブソリュート(absolute)、メボウキ油、果実油、例えばベルガモット油およびマンダリン油、ギンバイカ油、パルマローザ油、パチョリ油、プチグレン油、ジャスミン油、ローズ油、ビャクダン油、ヨモギ油、ラベンダー油またはイランイラン油;
−アルコール類、例えばケイ皮アルコール、シス−3−ヘキセノール、シトロネロール、Ebanol(登録商標)、オイゲノール、ファルネソール、ゲラニオール、Super Muguet(商標)、リナロール、メントール、ネロール、フェニルエチルアルコール、ロジノール、Sandalore(登録商標)、テルピネオールまたはTimberol(登録商標);
【0012】
−アルデヒド類およびケトン類、例えばアニスアルデヒド、α−アミルシンナムアルデヒド、Georgywood(商標)、ヒドロキシシトロネラール、Iso E(登録商標)Super、Isoraldeine(登録商標)、Hedione(登録商標)、Lilial(登録商標)、マルトール、メチルセドリルケトン、メチルイオノン、ベルベノンまたはバニリン;
−エーテルおよびアセタール類、例えばAmbrox(登録商標)、ゲラニルメチルエーテル類、ローズオキシドまたはSpirambrene;
−エステル類およびラクトン類、例えば酢酸ベンジル、酢酸セドリル、γ−デカラクトン、Helvetolide(登録商標)、γ−ウンデカラクトンまたは酢酸ベチベニル。
−大員環、例えばアンブレットリド、エチレンブラシレートまたはExaltolide(登録商標)。
−複素環、例えばイソブチルキノリン。
【0013】
式(I)で表される化合物を、広範囲のフレグランス用途において、例えば上質および機能的香料(fine and functional perfumery)、例えば香水、家庭用品、ランドリー製品、ボディーケア製品および化粧品などのあらゆる分野において、用いることができる。当該化合物を、特定の用途並びに他の着臭剤成分の性質および量に依存して、広範囲に変化する量で用いることができる。この比率は、典型的には利用品(application)の0.001〜20重量パーセントである。一態様において、本発明の化合物を、柔軟剤において0.001〜0.05重量パーセントの量で用いることができる。他の態様において、本発明の化合物を、上質香料において、0.1〜20重量パーセント、一層好ましくは0.1〜5重量%の量で用いることができる。しかし、経験のある香水業者はまた、一層低い、または一層高い濃度を用いて、効果を達成することができるか、または新規な調和を作成することができるため、これらの値は、例としてのみ示される。
【0014】
前に記載した化合物は、フレグランス利用品中において、単にフレグランス組成物をフレグランス利用品と直接混合することにより用いることができるか、またはこれを、一層早期の段階において、封入材料、例えばポリマー、カプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、リポソーム、フィルム形成剤、吸収剤、例えば炭素もしくはゼオライトなどの環状オリゴ糖類およびこれらの混合物を用いて封入することができるか、またはこれを外部の刺激、例えば光、酵素などを適用することによりフレグランス分子を放出するように適合された基質に化学的に結合させ、次に利用品と混合することができる。
【0015】
したがって、本発明はさらに、フレグランス利用品の製造方法であって、本発明の化合物を、フレグランス成分として、当該化合物を利用品に直接混和することにより、または式(I)で表される化合物を含むフレグランス組成物を混和し、次にこれを、慣用の手法および方法を用いてフレグランス利用品に混合することができることにより導入することを含む、前記方法を提供する。
【0016】
本明細書中で用いる「フレグランス利用品」は、着臭剤を含むすべての製品、例えば上質香料、例えば香水およびオードトワレ;家庭用品、例えば食器洗浄機用の洗浄剤、表面洗浄剤;ランドリー製品、例えば柔軟剤、漂白剤、洗浄剤;ボディーケア製品、例えばシャンプー、シャワー用ジェル;ならびに化粧品、例えばデオドラント、バニシングクリームを意味する。製品のこのリストは、例示により示し、いかなる方法によっても限定するものとみなされるべきではない。
【0017】
式(I)で表されるα,β−不飽和ニトリル類を、当業者に知られている条件下での飽和アルデヒド類の(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリルとのWittig反応により、好都合に調製することができる。
ここで、本発明を、以下の非限定的例を参照してさらに記載する。これらの例は、例示のみの目的のためであり、当業者により変法および修正をすることができることが、理解される。
【0018】
例1:ヘキサ−2−エンニトリル
(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)、蒸留ブチルアルデヒド(1.2g、16.6mmol)および蒸留ジベンジルエーテル(15ml)の混合物を、4時間80℃にて加熱した。次に、反応混合物(E/Z 70:30)を冷却し、Kugelrohr装置(ボールからボールへの(ball-to-ball)ロータリー蒸留装置)を用いて、40mbarにて220℃まで蒸留した。次に、主要な画分(1.59g)を、1.6gのパラフィンの存在下で微小蒸留して(microdistilled)(15mbar、油浴温度:120℃)、15mbarにて79℃の沸点を有する(E/Z)−ヘキサ−2−エンニトリル(0.6g、38%)の63:37混合物を得た。
臭気の記載 (E/Z)−ヘキサ−2−エンニトリル:フルーティ、グリーン、シトラス。
【0019】
(E)−ヘキサ−2−エンニトリルのデータ:
【化2】

【0020】
例2:ヘプタ−2−エンニトリル
蒸留バレルアルデヒド(1.43g、16.6mmol)を、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)を蒸留ペンタン(15ml)に懸濁させた懸濁液に滴加した。8時間還流させた後、反応混合物を冷却し、濾過し、濃縮した(50℃における真空を用いないロータリーエバポレータ)。次に、残留物(E:Z 70:30)を、Kugelrohr装置(ボールからボールへのロータリー蒸留装置)を用いて10mbarおよび81℃にて蒸留し、10mbarにおいて81℃の沸点を有する(E/Z)−ヘプタ−2−エンニトリルの2種の画分(第1の画分:1.04g、58%、E:Z 64:36;第2の画分:0.45g、E:Z 84:16、25%)を得た。
臭気の記載:グリーン、フルーティ、シトラス、脂肪様。
【0021】
(E)−ヘプタ−2−エンニトリルのデータ:
【化3】

【0022】
例3:4−メチルヘキサ−2−エンニトリル
(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)、蒸留2−メチルブチルアルデヒド(1.43g、16.6mmol)および蒸留ペンタン(15ml)の混合物を、18時間還流において加熱し、濾過し、濃縮した(50℃における真空を用いないロータリーエバポレータ)。粗生成物(1.2g)のFC(ペンタン)により、10mbarにおいて50℃の沸点を有する(E/Z)−4−メチルヘキサ−2−エンニトリル(0.9g、50%)の85:15混合物が得られた。
臭気の記載:グリーン、わずかにキュウリ様、わずかにフルーティ、わずかに油脂様(fatty-oily)。
【0023】
(E)−4−メチルヘキサ−2−エンニトリルのデータ:
【化4】

【0024】
例4:5−メチルヘキサ−2−エンニトリル
(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)、蒸留イソバレルアルデヒド(1.43g、16.6mmol)および蒸留ペンタン(15ml)の混合物を、6.5時間還流において加熱し、濾過し、濃縮した(50℃における真空を用いないロータリーエバポレータ)。粗生成物(2.1g)のFC(ペンタン)により、10mbarにおいて64℃の沸点を有する(E/Z)−5−メチルヘキサ−2−エンニトリル(1.0g、56%)の66:34混合物が得られた。
臭気の記載:グリーン−フルーティ、脂肪様(イソバレリアニック(isovalerianic))。
【0025】
(E)−5−メチルヘキサ−2−エンニトリルのデータ:
【化5】

【0026】
例5:4−メチルペンタ−2−エンニトリル
(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)、蒸留イソブチルアルデヒド(1.2g、16.6mmol)および蒸留ペンタン(15ml)の混合物を、18時間還流において加熱し、濾過し、濃縮した(50℃における真空を用いないロータリーエバポレータ)。次に、残留物(E/Z 87:13)を、Kugelrohr装置(ボールからボールへのロータリー蒸留装置)を用いて10mbarおよび50℃にて蒸留し、(E/Z)−4−メチルペンタ−2−エンニトリルの2つの画分(第1の画分:0.16g、10%、E/Z 83:17;第2の画分:0.32g、E/Z 91:9、20%)を得た。
沸点:50℃(10mbar)。
臭気の記載:グリーン、フレッシュ、フルーティ、わずかにクミン様(cuminic)。
【0027】
(E)−4−メチルペンタ−2−エンニトリルのデータ:
【化6】

【0028】
例6:3−シクロプロピルアクリロニトリル
(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル(5g、16.6mmol)、蒸留シクロプロパンカルボキシアルデヒド(1.16g、16.6mmol)および蒸留ペンタン(15ml)の混合物を、19時間還流において加熱し、濾過し、濃縮した(50℃における真空を用いないロータリーエバポレータ)。次に、残留物を、Kugelrohr装置(ボールからボールへのロータリー蒸留装置)を用いて10mbarおよび67℃にて蒸留し、10mbarにおいて67℃の沸点を有する(E/Z)−3−シクロプロピルアクリロニトリルの2種の画分(第1の画分:0.27g、18%、E/Z 76:24;第2の画分:0.12g、8%、E/Z 85:15)を得た。
臭気の記載:グリーン、リンゴ、フルーティ、わずかに脂肪様。
【0029】
(E)−3−シクロプロピルアクリロニトリルのデータ:
【化7】

【0030】
例7:グリーンアップル調和(accord)を有するフレグランス組成物
【表1】

【0031】
このアップル調和において、2%のヘキサ−2−エンニトリルにより、典型的なグリーンアップル容積が得られ、これにより、これは、一層フレッシュナチュラルおよび魅力的となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

式中、Rは、直鎖状、分枝状C3〜4アルキルおよびC3〜4シクロアルキルから選択され;二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物の、香味料またはフレグランス成分としての使用。
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、ヘキサ−2−エンニトリル、ヘプタ−2−エンニトリル、4−メチルヘキサ−2−エンニトリル、5−メチルヘキサ−2−エンニトリル、4−メチルペンタ−2−エンニトリルおよび3−シクロプロピルアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
式(I)
【化2】

式中、Rは、直鎖状、分枝状C3〜4アルキルおよびC3〜4シクロアルキルから選択され;二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物;およびベース材料を含む、フレグランス組成物。
【請求項4】
フレグランス組成物の製造方法であって、式(I)
【化3】

式中、Rは、直鎖状、分枝状C3〜4アルキルおよびC3〜4シクロアルキルから選択され;二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物を、ベース材料中に導入することを含む、前記方法。
【請求項5】
フレグランス利用品を改善、増強または改変する方法であって、嗅覚的に許容し得る量の式(I)
【化4】

式中、Rは、直鎖状、分枝状C3〜4アルキルおよびC3〜4シクロアルキルから選択され;二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物を加えることによる、前記方法。
【請求項6】
フレグランス利用品が、香水、家庭用品、ランドリー製品、ボディーケア製品および化粧品からなる群から選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
式(I)
【化5】

式中、Rは、1−メチルプロパ−1−イルであり;二重結合は、EまたはZ立体配置である、
で表される化合物;またはこれらの混合物。

【公表番号】特表2010−504415(P2010−504415A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529485(P2009−529485)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000472
【国際公開番号】WO2008/037105
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】