説明

フレンチトースト様食品の製造方法

【課題】ソフトでしっとりしながら、油性感がなく、手で持つことの出来る十分な保型性をもつフレンチトースト様食品の簡便な生産方法、及び、上記特徴を有するフレンチトースト様食品。
【解決手段】パン又はケーキに対し、油相に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、水相に卵類及び糖類を含有する油中水型乳化物を、付着させたのち、加熱することを特徴とするフレンチトースト様食品の製造方法、及び、該製造方法によって得られたフレンチトースト様食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレンチトーストをはじめ、パンの代わりに菓子やケーキを使用したものや、カスタード風味だけでなく、チョコレート風味やチーズ風味のものも含む、いわゆるフレンチトースト様食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレンチトーストとは、特に定義はないが、老化して硬くなったパンを、再生する一方法として古くから食されてきたもので、パン全体に、卵類、牛乳、糖類からなる、いわゆる浸漬液を染み込ませた後に加熱調理し、しっとりと柔らかくさせた加工食品である。
【0003】
フレンチトーストの一般的な製法は、バット等に入れた浸漬液に、厚さ10mm〜20mm程度にスライスした食パン、あるいはフランスパンを20〜60分浸漬し、さらに必要に応じ、砂糖やシナモン等の風味原料を振り掛け、これをフライパン、あるいはオーブンで焼成する、というものである。
【0004】
すなわち、フレンチトーストとは、常温で液状、且つ加熱により凝固するという卵の特性を利用し、浸漬液の水分によりパン組織に過剰の水分を含ませ、且つ卵を凝固させた卵ゲルの物性を付与することにより、老化して硬くなったパンにしっとりとしたソフトな食感とを再付与したものである。
【0005】
ただし、このフレンチトーストの製造方法は手間と時間がかかるため、家庭のお菓子や小規模の生産の場合は問題ないが、大規模な工場生産には不適である。
【0006】
反面、パンの表面だけに浸漬液を塗布して加熱調理したものや、卵、砂糖、澱粉、牛乳等を主原料として加熱加工した、カスタードクリームやフラワーペーストを載せて焼成したものなど、パンに浸漬液が浸透していない簡便なフレンチトーストもある。この場合、もちろんパンの内相まで浸漬液、クリーム又はペーストが浸透していないため全体としてしっとりとした食感は得られない。
【0007】
また、浸漬液の主要原料である卵は大変保存性の悪いものであるため、使用の度に割卵や、冷凍卵の解凍などの作業が必要であり、また、長時間浸漬液を保存しておいておくことも不可能であるため、大変作業性が悪い。
【0008】
さらに、浸漬液を浸透させて後焼成して得たフレンチトーストは、卵ゲルの物性が脆弱であることに加え、水分を大量に染み込んで重量が増加している上に、浸漬液の浸透によりパン組織物性を失っているため、手にとって食すには保型性が足りず、よって、サンドイッチに利用したり、パンの売り場で販売するには不適当であった。
【0009】
また、カスタードクリームやフラワーペーストを塗布する方法では、卵に比べ保存性はよいものの、カスタードクリームやフラワーペーストは粘度が高くパンへの浸透性が極めて悪いうえに、焼成時の焦げの問題があった。
そのため、このような問題点を解決し、簡便にフレンチトーストを得るためにさまざまな検討が行われてきた。
【0010】
例えば、水分含量50〜59%である冷凍フレンチトーストを得る方法(例えば特許文献1参照)、卵類、乳類を含有し、熱により融解するシート状卵加工食品をパンに積載し、焼成する方法(例えば特許文献2参照)、あるいは、卵黄成分を固形分換算で2〜15%含むスラリーをパンの厚みに対し2/5〜4/5吸収してなり、かつ、該スラリーを吸収していない部分が1/5〜3/5であるフレンチトースト(例えば特許文献3参照)、油脂中に糖類、乾燥卵黄及び粉乳を分散させているフレンチトースト用油脂食品を使用する方法(例えば特許文献4参照)、特定の粒径の澱粉粒子を含み、且つ融点が37℃以上の熱可逆性ゲルによってゲル化している水中油型乳化組成物を使用する方法(例えば特許文献5参照)などの検討が行われてきた。
【0011】
しかし、特許文献1に記載の方法はただ食する前の段階で冷凍工程を挟んだだけであり、保存性の悪い卵を大量に使用する点は変わらず、また、パンに浸漬液を浸透させる時間の短縮効果もなく、また、冷凍工程のため、全体としての製造時間はむしろ長く煩雑になってしまっている。
【0012】
特許文献2に記載の方法は、シート状加工食品が冷蔵保存、もしくは常温で保存する場合に、浸漬液がシート状を保つためには多量の増粘多糖類を含有させることが必要であり、そのため、パンへの染み込みが悪く、得られたフレンチトーストの食感が劣ったものになってしまう。シート状加工食品が冷凍品である場合はこの問題はないが、上記同様、冷凍工程を経るために全体としての製造時間が長く煩雑になるという問題が残る。
【0013】
特許文献3に記載の方法は、卵黄液を用い、染み込ませる浸漬液量をある程度制限することにより大量生産性と卵味の風味性のバランスをとっているが、浸漬液が染み込まない層を必ず残さねばならない点において、製造の際に大変気を使う必要がある。
【0014】
特許文献4に記載の方法は、乾燥卵黄を使用し、水分を含まないことから、得られるフレンチトースト様食品の食感が油性感の高いものになってしまう問題があった。
【0015】
特許文献5に記載の方法は、手で持つことの出来る十分な保型性をもつフレンチトースト様食品を得るためには、加熱調理時の浸透性を考慮しながら水中油型乳化組成物の塗布量を決定する必要があること、また、加熱調理時の温度条件によっては該水中油型乳化組成物が十分にパンに浸透しない場合があるなど、良好な品質のフレンチトースト様食品を得るにはきめ細かい条件設定が必要であるという問題があった。
【0016】
【特許文献1】特開平10−99057号公報
【特許文献2】特開平11−206343号公報
【特許文献3】特開平11−215947号公報
【特許文献4】特開2003−180245号公報
【特許文献5】特開2004−81091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
よって、本発明の目的は、ソフトでしっとりしながら、油性感がなく、手で持つことの出来る十分な保型性をもつフレンチトースト様食品を得ることができる、フレンチトースト様食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定の乳化剤を油相中に含有する油中水型乳化物を用いることにより、上記問題を解決しうることを知見した。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、パン又はケーキに対し、油相に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、水相に卵類及び糖類を含有する油中水型乳化物を付着させたのち、加熱することを特徴とするフレンチトースト様食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフレンチトースト様食品の製造方法によれば、加熱調理時に、付着させた浸漬液がダマになることなく、極めて低粘度の液状となってパン又はケーキに染み込ませることができ、また、ソフトでしっとりとした食感でありながら、油性感がなく、手でもって食せるほどの保型性を示すフレンチトースト様食品を簡便に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のフレンチトースト様食品の製造方法について詳述する。
【0022】
本発明で使用するパンとしては食パン、菓子パン、フランスパン、ライ麦パン、デニッシュ・ペストリー、イングリッシュマフィン、コーヒーケーキ、ブリオッシュ、シュトーレン、パネトーネ、クロワッサン、イーストパイ、ピタ、ナン、マフィン、蒸しパンなどがあげられ、なかでも食パン又はフランスパンが好ましい。
【0023】
また、本発明で使用するケーキとしては、スポンジケーキ、カステラ、バターケーキ、シフォンケーキ等があげられるが、液状物質が浸透しても組織崩壊をおこさないしっかりした組織をもつケーキが好ましいことから、これらのケーキは2度焼きしてから使用することが好ましい。
【0024】
次に、本発明で使用する油中水型乳化物について述べる。
【0025】
上記油中水型乳化物は、油相に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、水相に卵類及び糖類を含有する。
【0026】
上記油中水型乳化物において、油相中に、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることにより、スプレッドに適した粘度が油中水型乳化物に付与されること、及び、加熱調理時の油中水型乳化物の粘度を下げることが可能となり、結果として油中水型乳化物のスプレッド性が向上し、また、加熱調理時の油中水型乳化物のパンへの浸透性を高めることが可能となる。また、このポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することにより、フレンチトースト様食品の油性感を低減させることもできる。
【0027】
上記油中水型乳化物における、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油中水型乳化物中、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.01質量%未満では、加熱調理時の油中水型乳化物の粘度の低下効果が少なく、また、油性感の低減効果も少なくなってしまう。また、5質量%を超えると、乳化剤臭が生じたり、油中水型乳化物製造時の乳化の点で問題が生じたり、また、付着させる際に油脂組成物が均一に伸展せず、不均一になってしまい、結果として得られるフレンチトースト様食品の表面があばた状になる等の弊害が生じやすいので好ましくない。
【0028】
上記油中水型乳化物に用いられる、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸基としては、例えば、パルミトレイン酸基、オレイン酸基、エライジン酸基、リノール酸基、リノレン酸基、アラキドン酸基、エルカ酸基等の不飽和脂肪酸基を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、不飽和脂肪酸基であれば良い。これらのなかでも、特に、経日安定性の上でオレイン酸基が好ましい。この脂肪酸基が不飽和脂肪酸基でないと本発明の優れた効果は得られない。
【0029】
上記油中水型乳化物に用いられる上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは9以上、より好ましくは11以上であり、その上限は通常20程度であるが、これに制限されずそれ以上であってもよい。HLBが9未満では油性感を改良できない。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの重合度やエステル結合の数は、このような高HLBを与え得れば何ら制限されるものではないが、好ましくは、グリセリンの重合度が6〜10、1分子中のエステル結合の数が1であるポリグリセリン脂肪酸エステルが良い。
【0030】
上記油中水型乳化物で用いる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、乳脂、バターオイル等の各種植物油脂、動物油脂ならびにこれらを水素添加、分別およびエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0031】
なお、上記油中水型乳化物に使用する油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、バタークリーム等の油脂組成物や、油脂を含有する食品素材も使用することができる。
【0032】
上記油中水型乳化物の油脂含量は、油脂純分として好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは25〜60質量%、最も好ましくは25〜35質量%である。
【0033】
また、上記油中水型乳化物は、水相中に、卵類を含有する。
【0034】
上記の卵類としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄などを用いることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
上記油中水型乳化物の卵類の含量は、好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは2〜45質量%、最も好ましくは5〜30質量%である。
【0036】
また、上記油中水型乳化物は、水相中に糖類を含有する。
【0037】
上記糖類としては、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、はちみつ等があげられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記油中水型乳化物の糖類の含量は、固形分として、好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜35質量%、最も好ましくは10〜30質量%である。
【0039】
上記油中水型乳化物の水相に使用する水としては、水道水や天然水等を挙げることができるが、上記卵類をはじめ水を含有する食品素材も使用することができる。
【0040】
上記油中水型乳化物の水分含量は、水の純分として好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜35質量%、最も好ましくは10〜35質量%である。
【0041】
なお、上記油中水型乳化物は、効果に影響のない範囲において、風味や物性の調整の目的で、上記以外のその他の成分を含有させることができる。
【0042】
該その他の成分としては、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤、酸化防止剤、澱粉、穀粉、無機塩及び有機酸塩、ゲル化剤、増粘安定剤、着色料、保存料、pH調整剤、乳や乳製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、アルコール類、塩味剤、紅茶、抹茶、ハーブ、果汁、果肉、香辛料、着香料、調味料、その他食品素材等を用いることができる。これら成分の含有量は一般的なフレンチトーストに使用する浸漬液に使用する量に準じたものであれば良い。
【0043】
次に上記油中水型乳化物の製造方法について述べる。
【0044】
上記油中水型乳化物は、油脂及び脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油相と、卵類及び糖類を含有する水相とを乳化し、油中水型とすることによって得ることができる。
【0045】
詳しくは、まず加熱溶解した食用油脂に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを加えて油相部を調製する。一方、水に卵類、糖類、その他の親水成分を加えて水相部を調製する。そして前記油相部を攪拌しながら、これに水相部を添加して乳化し、必要に応じ急冷混和して得ることができる。
【0046】
なお、別の方法として、油相に油脂及び脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物に、卵類及び糖類を添加し、油中水型に乳化することによっても得ることができる。本発明では、水分含量が高くても製造中の乳化が安定で分離をおこしにくいことから、油中水型乳化物の製造方法としてこの製造方法によることが好ましい。
【0047】
該油脂組成物は水分を含有しないショートニングであっても、また水相を油中水型に乳化された形で含有するマーガリンやファットスプレッドであってもよく、さらには糖類及び/又は卵類を含有するファットスプレッドやバタークリームであってもよい。
【0048】
詳しくは、まず、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、油脂を連続相とする油脂組成物を用意する。該油脂組成物は水分を含有しないショートニングであっても、また水相を油中水型に乳化された形で含有するマーガリンやファットスプレッドであってもよく、さらには糖類及び/又は卵類を含有するファットスプレッドやバタークリームであってもよい。一方、水に卵類、その他の親水成分を加えて水溶液1を調製し、水に糖類、その他の親水成分を加えて水溶液2を調製する。そして前記油脂を連続相とする油脂組成物を流動状になるまで加温し、これを攪拌しながら、これに上記水溶液1と水溶液2を添加して乳化し、必要に応じ急冷混和して得ることができる。このとき、油中水型乳化物は、スプレッドできるようなかたさのものであることが好ましい。ここで、なお、この方法の場合、上記水溶液1と水溶液2を混合してから添加してもよく、さらには、2種の水溶液を製造する代わりに、卵類と糖類の両方を含有する水溶液を製造し、使用してもよい。
【0049】
なお、本発明における油中水型には、油中水型油型を含み、さらに、油中水中油型乳化の乳化形態には、O/O型の乳化形態を含むものである。なお、このO/O型の乳化形態とは、油中水中油型の乳化形態の一種であり、外油相中に、1つの内油相をもった水中油型乳化物が多数存在する状態を指す。
【0050】
本発明のフレンチトースト様食品の製造方法は、従来のフレンチトースト製造の際に用いられる浸漬液の代わりに、上記油相に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、水相に卵類及び糖類を含有する油中水型乳化物を使用し、パン又はケーキに付着させるものである。
【0051】
本発明での付着とは、上述のとおり、パン又はケーキに、油中水型乳化物を片面に塗布する、又はさらに裏返してもう片面に塗布する、あるいは表面全体に塗布する等の方法があげられる。また、塗布する際にはスプレーによってもよい。
【0052】
また別の方法として、パン又はケーキを、バット等に拡げた油中水型乳化物に片面、さらに又は裏返してもう片面を漬ける、完全に潜没させる等の方法があげられる。
【0053】
なお、付着の際に、上記油中水型乳化物を人肌の温度程度まで加温すると作業性が良好となる。
【0054】
上記油中水型乳化物は付着時にペースト状であっても、後の加熱調理時に液状化し、菓子、パン又はケーキの内相にまで吸収させることができる。
【0055】
本発明のフレンチトースト様食品を得る際の、パン又はケーキへの付着量は、パン又はケーキ100質量部に対し、好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは40〜200質量部、最も好ましくは50〜120質量部である。30質量部以下であると、付着した食味が淡く、フレンチトースト様食品の様相を呈さない食品であり、300質量部を超えるとフレンチトースト様食品の保型性が悪くなりすぎ、手で持って食することができないくらいの柔らかい食品となってしまう。
【0056】
なお、通常のフレンチトースト同様に、上記油中水型乳化物をパン又はケーキに付着させる際、その前後に、砂糖やシナモン等の風味原料を振り掛けてもよい。
【0057】
油中水型乳化物を付着させたパン又はケーキを加熱調理する方法としては一般的な方法でよく、例えば、ホットプレートやオーブンやジェットオーブンで焼成、フライパン等で加熱、蒸し器で蒸す、あるいはマイクロ波により加熱する等の方法がある。
【0058】
本発明のフレンチトースト様食品の加熱条件は、フレンチトースト様食品の種類によって異なるが、好ましくは120〜240℃で、さらに好ましくは130〜210℃、さらに最も好ましくは、140〜180℃である。
【0059】
ここで得られた本発明のフレンチトースト様食品は、生の卵類を大量に使用せずとも、上記油中水型乳化物を使用することにより、浸漬後、あるいは、塗布時にペースト状であっても、加熱調理時に液状となってパン又はケーキに染み込むため、大変使いやすく、ソフトでしっとりとし、食感が大変良好である。
【0060】
また、本発明のフレンチトースト様食品は、油中水型乳化物を使用するため、水中油型乳化物を使用した場合のような浸漬液の浸透によりパン組織物性を失うことがない。また、脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルにより油性感が低減されているため、ソフトで口溶けがよいにもかかわらず、油性感がなく、手でもって食せるほどの保型性を示す。
【0061】
また、本発明のフレンチトースト様食品の製造時において、パン又はケーキに油中水型乳化物を付着させた段階、あるいは最終製品である加熱後のフレンチトースト様食品を、冷凍や冷蔵で保存することももちろん可能である。そして、解凍、加熱、あるいは再加熱時に、オーブンや電子レンジを使用した場合、油中水型乳化脂を用いていることにより、ぱさつきやヒキのある食感を抑制することができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0063】
(油中水型乳化物Aの調製)
パーム硬化油148.7kg及び大豆白絞油114.8kg、グリセリンモノオレイン酸エステル10kg、グリセリンモノステアリン酸エステル10kg、HLB13のデカグリセリンモノオレエート2kg、色素0.1kgからなる油相からなる油相に、水105kg、液糖(固形分75質量%)213.5kg、香料2.2kg、脱脂濃縮乳18.8kg、3倍濃縮乳125kg、全卵(正味)187.5kg及び上白糖62.5kgからなる水相とを、55℃で乳化し、油中水型乳化物を得た。
【0064】
この油中水型乳化物Aの油分含量は30質量%、卵類含量は19質量%、糖類含量は固形分として23質量%、水分含量は28%、HLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル含量は0.2%であった。
【0065】
なお、確認のために、テスターを用いて組成物の電気抵抗を測定したところ、通電性を有しなかったため、乳化型は油中水型であることが確認された。
【0066】
(油中水型乳化物Bの調製)
<油脂組成物Bの製造>
パーム硬化油160kg及び大豆白絞油123.4kg、グリセリンモノオレイン酸エステル10kg、グリセリンモノステアリン酸エステル10kg、HLB13のデカグリセリンモノオレエート3kg、からなる油相1と、水168.03kg、液糖(固形分75質量%)341.57kg、香料3.5kg及び脱脂濃縮乳30kgからなる水相とを、45〜55℃で乳化し、水中油型乳化物を得た。さらに、パーム硬化油90kg、大豆白絞油60.3kg及び色素0.2kgからなる油相2を上記水中油型乳化物に加え、油中水中油型乳化物を得た。この油中水中油型乳化物をコンビネーターで急冷可塑化し、転相させ、さらに、窒素をインラインミキサーで導入し、比重0.65、内油相:水相:外油相の質量比率は25:55:20、油分含量が46質量%、水分含量が34%、糖分含量が固形分として25質量%の、O/O型の油脂組成物B(バタークリーム)を製造した。
【0067】
<油中水型乳化物の製造>
40℃に加温溶解した上記油脂組成物B100質量部に、3倍濃縮乳20質量部、全卵(正味)30質量部、上白糖10質量部及び抹茶ペースト2質量部を混合し40℃に加温溶解した水溶液を添加し、十分に混合し、油中水型乳化物Bを得た。
【0068】
この油中水型乳化物Bの油分含量は30質量%、卵類含量は19質量%、糖類含量は固形分として23質量%、水分含量は28%、HLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル含量は0.2%であった。
【0069】
なお、確認のために、テスターを用いて組成物の電気抵抗を測定したところ、通電性を有しなかったため、乳化型は油中水型であることが確認された。
【0070】
(油中水型乳化物Cの調製)
油脂組成物Bの製造におけるHLB13のデカグリセリンモノオレエートを無添加とし、大豆白絞油123.4kgを126.4kgとした以外は、油中水型乳化物Bの配合・製法と同様にして油脂組成物C、そして、油中水型乳化組成物Cを得た。
【0071】
この油中水型乳化物Cの油分含量は30質量%、卵類含量は19質量%、糖類含量は固形分として23質量%、水分含量は28%、HLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル含量は0.3%であった。
【0072】
なお、確認のために、テスターを用いて組成物の電気抵抗を測定したところ、通電性を有しなかったため、乳化型は油中水型であることが確認された。
【0073】
(フレンチトースト用浸漬液の調製)
牛乳70質量部、グラニュー糖15質量部、卵黄15質量部を均一に混合した。
なお、確認のために、テスターを用いて組成物の電気抵抗を測定したところ、通電性を有していたため、乳化型は水中油型であることが確認された。
【0074】
(実施例1 フレンチトースト様食品1の調製)
フランスパン(パリジャン)を25℃の部屋にて12時間、袋をかけずに放置し乾燥させ、斜めにスライスし長径100mm短径70mm厚さ20mm(質量20g)のスライスしたフランスパンを得た。25℃においてペースト状の油中水型乳化物Aをそのまま、上記スライスしたフランスパンの片面にバターナイフを用いて12g塗布した。
【0075】
よって、付着量はパン100質量部あたり、60質量部であった。ここに、抹茶粉末を0.2g散布したのち、これをジェットオーブンで240℃、5分間焼成後、10℃で1時間冷却し、本発明のフレンチトースト様食品1を得た。ここで得られたフレンチトースト様食品1はソフトでしっとりしながら、油性感がなく、手で持つことの出来る十分な保型性を有していた。
【0076】
(実施例2 フレンチトースト様食品2の調製)
フランスパン(パリジャン)を25℃の部屋にて12時間、袋をかけずに放置し乾燥させ、斜めにスライスし長径100mm短径70mm厚さ20mm(質量20g)のスライスしたフランスパンを得た。油中水型乳化物Aを湯煎で溶解し、これをバットに、深さ2cm以上となるように投入し、40℃に調温した。ここに上記スライスしたフランスパンを片面60秒浸漬し、さらに反転して、60秒浸漬し、ペースト状組成物を付着させた。 実測したところ付着量は18gであった。よって、付着量はパン100質量部あたり、90質量部であった。ここに、抹茶粉末を0.2g散布したのち、これをジェットオーブンで240℃、5分間焼成後、10℃で1時間冷却し、本発明のフレンチトースト様食品2を得た。ここで得られたフレンチトースト様食品2はソフトでしっとりしながら、油性感がなく、手で持つことの出来る十分な保型性を有していた。
【0077】
(実施例3 フレンチトースト様食品3の調製)
フランスパン(パリジャン)を25℃の部屋にて12時間、袋をかけずに放置し乾燥させ、斜めにスライスし長径100mm短径70mm厚さ20mm(質量20g)のスライスしたフランスパンを得た。油中水型乳化物Bを湯煎で溶解し、これをバットに、深さ2cm以上となるように投入し、40℃に調温した。ここに上記スライスしたフランスパンを片面60秒浸漬し、さらに反転して、60秒浸漬し、ペースト状組成物を付着させた。実測したところ付着量は18gであった。よって、付着量はパン100質量部あたり、90質量部であった。これをジェットオーブンで240℃、5分間焼成後、10℃1時間冷却し、本発明のフレンチトースト様食品3を得た。ここで得られたフレンチトースト様食品3はソフトでしっとりしながら、油性感がなく、手で持つことの出来る十分な保型性を有していた。
【0078】
(比較例1 フレンチトースト様食品4の調製)
フランスパン(パリジャン)を25℃の部屋にて12時間、袋をかけずに放置し乾燥させ、斜めにスライスし長径100mm短径70mm厚さ20mm(質量20g)のスライスしたフランスパンを得た。油中水型乳化物Cを湯煎で溶解し、これをバットに、深さ2cm以上となるように投入し、40℃に調温した。ここに上記スライスしたフランスパンを片面60秒浸漬し、さらに反転して、60秒浸漬し、ペースト状組成物を付着させた。実測したところ付着量は18gであった。よって、付着量はパン100質量部あたり、90質量部であった。ここに、抹茶粉末を0.2g散布したのち、これをジェットオーブンで240℃、5分間焼成後、10℃1時間冷却し、本発明のフレンチトースト様食品4を得た。ここで得られたフレンチトースト様食品4はソフトでしっとりしながら、手で持つことの出来る十分な保型性を有していたが、油性感の強い食感であった。
【0079】
(比較例2 フレンチトースト様食品5の調製)
フランスパン(パリジャン)を25℃の部屋にて12時間、袋をかけずに放置し乾燥させ、斜めにスライスし長径100mm短径70mm厚さ20mm(質量20g)のスライスしたフランスパンを得た。実施例1の油中水型乳化物Aをフレンチトースト用浸漬液に置き換えた以外は同一の配合と製法により、比較例のフレンチトースト様食品5を得た。実測したところ付着量は15gであった。よって、付着量はパン100質量部あたり、75質量部であった。このフレンチトースト様食品5は大変美味ではあったが、手で持つと大きくしなり、保型性がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン又はケーキに対し、油相に脂肪酸基が不飽和脂肪酸基で且つHLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、水相に卵類及び糖類を含有する油中水型乳化物を付着させたのち、加熱することを特徴とするフレンチトースト様食品の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法によって得られたフレンチトースト様食品。

【公開番号】特開2010−75136(P2010−75136A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249728(P2008−249728)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】