説明

フレーバーおよびフレグランスとしてのカルボノチオエート

式(I)(R〜Rは特許請求の範囲に定義したとおりである)で表される新規のO−アルキルS−ヒドロキシアルキルカルボノチオエートおよびO−アルキルS−アルコキシアルキルカルボノチオエート、それらの製造ならびにフレーバーおよびフレグランスとしてのそれらの使用を提供する。また、前記物質および少なくとも1種のさらなるフレーバー原料を含むフレーバーおよびフレグランス組成物を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
新規のO−アルキルS−ヒドロキシアルキルカルボノチオエートおよびO−アルキルS−アルコキシアルキルカルボノチオエート、それらの製造ならびにフレーバーおよびフレグランスとしてのそれらの使用を提供する。また、1種または2種以上の前記物質を含むフレーバーおよびフレグランス組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
フレーバーおよびフレグランス業界は、消費者製品のフレーバーの特徴を増強、改善または改変し得る新規の原料に絶え間なく興味がある。
食料および飲料などの可食製品のフレーバーは、香りおよび味の2つの部分からなる。一般的に、鼻腔内の嗅上皮を通って提供されるのは、「香り」といい、これに対し、用語「味」は一般的に、口、特に舌を介して認識される感覚的インパクトを表現するのに使用される。
【発明の概要】
【0003】
驚くべきことに、本発明者らは、可食製品のフレーバーを、それに以下に定義する式(I)で表されるO−アルキルS−ヒドロキシアルキル/アルコキシアルキルカルボノチオエートを混和することにより有意に改善することができることを見出した。
製品のフレーバーは、以下に定義する式(I)で表される化合物無しの製品と比較して、より強いおよび/またはより長く持続することが見出された。これらの特性は、約75℃から約150℃までの加熱などの加工条件下で維持され、これは、式(I)で表される化合物を、インスタントコーヒーおよび粉末コーヒー飲料などの加工食料および飲料に特に好適なものにする。
【0004】
したがって、第一の態様において、式(I)
【化1】

式中、
は、メチル、エチルまたはn−プロピルであり、
は、水素またはC〜Cアルキル(例えば、CまたはCアルキル)であり、
は、C、CまたはCヒドロキシアルキル(例えば、ヒドロキシルエチル、1−ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシプロプ−2−イル、1−メチル2−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル)、あるいはC、CまたはCアルコキシアルキル(例えば、メトキシエチル、エトキシ)であり、および
は、水素またはメチルである、
で表される化合物を提供する。
【0005】
式(I)で表される化合物は、いくつかのキラル中心を含み、したがって、立体異性体の混合物として存在してもよく、またはそれらを異性体的に純粋な形態に分割されてもよい。立体異性体の分割は、化合物の製造および精製の複雑性を増大させるので、単純に経済的理由のため、化合物をそれらの立体異性体の混合物として使用することが好ましい。しかしながら、個別の立体異性体を調製するのが望ましい場合、これを、当該技術分野において既知の方法、例えば分取HPLCおよびGC、結晶化または立体選択的合成にしたがって達成することができる。
【0006】
非限定の例は、Rがエチルである式(I)で表される化合物である。
さらなる非限定の例は、Rがエチルであり、Rが水素である式(I)で表される化合物である。
さらなる非限定の例は、Rがメチルまたはエチルであり、RがC、CまたはCアルコキシアルキル(例えばメトキシエチル)であり、Rが水素である式(I)で表される化合物である。
【0007】
特定の態様において、式(I)で表される化合物は、
O−エチルS−4−メトキシ−2−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−3−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−3−メチルペンタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−2−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−2−メチルペンタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−3−ヒドロキシブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−1−ヒドロキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート、
O−エチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート、および
O−メチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート
からなる群から選択される。
【0008】
式(I)で表される化合物は、単独あるいは要求される目的のために有用な他の物質、例えば、フレグランスまたはフレーバーと組み合わせて使用してもよい。しかしながら、好ましくは、式(I)で表される化合物は、エーテル油類および抽出物、アルコール類、アルデヒド類およびケトン類、エーテル類およびアセタール類、エステル類およびラクトン類、大員環類および複素環類などの広範囲にわたる現在利用可能な天然および合成分子から選択される他のフレーバーおよび/またはフレグランスと組み合わせてもよい。
【0009】
したがって、さらなる態様において、式(I)で表される化合物および少なくとも1種のさらなるフレーバー原料を含むフレーバー組成物を提供する。
さらなる態様において、式(I)で表される化合物を、フレグランス/フレーバーを付与した利用品において、フレーバーまたはフレグランスと併せて通常使用される1種または2種以上の原料または添加剤、例えば、溶媒(例えば、ジプロピレングリコール(DPG)、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)、クエン酸トリエチル(TEC)、エタノール、プロピレングリコール(PG)、トリアセチン、およびベンジル型アルコール)などの当該技術分野において一般に使用されるキャリア材料および他の助剤と混和してもよい。式(I)で表される化合物を、油脂などのキャリア材料中に溶解または分散させてもよく、またはマルトース−デキストリン、ゼラチン、アラビアゴムなどにより包んでもよい。それらを、即席の食品の原料と混合してもよく、または原料の1つと混合してもよい。
【0010】
さらなる態様において、式(I)で表される化合物および製品ベースを含むフレーバー利用品を提供する。
式(I)で表される化合物が特に好適なフレーバー付与された利用品は、乾燥、缶詰の、冷凍およびインスタントスープ、調理済食品、コロッケ、固形ソース、固形ブイヨン、調理用(baking)油脂、マーガリン、パン、ケーキおよびインスタントコーヒーおよび粉末コーヒー飲料などの熱湯で作るインスタントドリンク、ビール、ソフトドリンク、フレーバーティーおよび乳製品などの食料および飲料である。この製品のリストは、例証として示したのであって、いかなる限定とも考えるべきではない。
【0011】
本明細書において用いられるフレーバー利用品に関連する「製品ベース」は、上に定義した式(I)で表される化合物を含有しない、可食製品を意味する。
本明細書において用いられる「可食製品」は、ヒトまたは動物の口腔内へ導入され、摂取される前にそこに一定期間残存することまたは口から除去されることが意図される、食料および飲料などの製品、またはパーソナルケア製品を意味する。かかる製品は、それらの加工、部分的加工または未加工状態の組成物を含む。
【0012】
式(I)で表される化合物は、フレーバー付与された利用品中に、約1ppb(10;1μg/kg)〜約250ppb(10;250μg/kg)、より好ましくは約25ppb〜約100ppbの範囲、例えば約50ppbの量で存在してもよい。
フレーバー組成物において使用される場合、式(I)で表される化合物は、フレーバー組成物に基づき約0.005g/kg〜約2g/kg、より好ましくは約0.05g/kg〜約1g/kgの範囲、例えば約0.5g/kgの量で存在してもよい。
【0013】
別の態様において、式(I)で表される化合物は、広範囲にわたるフレグランス利用品において、例えば、香水、家庭用品、洗濯用品、ボディケア用品および化粧品などの、良質のおよび機能的な香水のあらゆる分野において使用してもよい。
フレグランス利用品において使用される場合、式(I)で表される化合物は、フレグランス利用品に基づき約1〜30ppmの範囲の量で存在してもよい。しかしながら、経験のあるパヒューマーはまた、より低い濃度またはより高い濃度でも効果を達成し得るあるいは新規の調和を作り出し得るため、これらの値は、例としてのみ示したものである。
【0014】
式(I)で表される化合物は、化合物、またはそれを含むフレグランス/フレーバー組成物を製品ベースと混合することにより製品ベース内に用いてもよく、および/またはそれらを、より早い段階で、捕獲材料により捕獲し、そして消費者製品ベースと混合してもよい。
式(I)で表される化合物を、当業者に知られた条件下でスキーム1に描写するように調製してもよい。反応条件についてのさらなる詳細は、例において提供する。
【0015】
スキーム1:
【化2】

、R、RおよびRは、上記(I)について述べたのと同じ意味を有する。
【0016】
ここで、本発明を、以下の非限定的例を参照してさらに記載する。これらの例は、例示のみの目的のためであり、変化および修正が当業者によりなされ得ることが理解される。
【0017】
例1:O−エチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート
窒素下で、300mlの無水THF中(Z)−3−ヘキセノール(718mmol)の溶液を、22〜29℃にて800mlの無水THF中水酸化ナトリウム(790mmol)およびヨードメタン(823mmol)に滴下して加えた。GC分析に照らして反応が完了したとき、水系の後処理(aqueous work-up)およびMTBE抽出を行った。得られた抽出物を、濃縮および蒸留し、51gのメチル化中間物が62%の収率で得られた。
【0018】
窒素下で、3−クロロ過安息香酸(77%、442mmol)を、10℃にて1.70リットルのジクロロメタン中(Z)−1−メトキシヘキサ−3−エン(420mmol)の溶液に添加した。添加が完了した後、混合物を室温へと温めながら、撹拌した。GC分析に照らして反応が完了したとき、重炭酸ナトリウム溶液により後処理(work-up)した。有機層を、濃縮および蒸留し、43gのオキシラン中間物が79%の収率で得られた。
【0019】
窒素下で、cis−2−エチル−3−(2−メトキシエチル)オキシラン(323mmolを、110mlのDI水中硫酸(8.4ml)、チオウレア(332mmol)の溶液に滴下して加えた。混合物を室温まで撹拌した。GC分析に照らして反応が完了したとき、そのpHを、炭酸ナトリウムにより10に調節し、得られた混合物を、40℃に1時間加熱した。生成物の混合物を、MTBEにより抽出し、得られた抽出物を、濃縮および蒸留し、29gのチイラン中間物が61%の収率で得られた。
【0020】
アルゴン下で、5mlの無水THF中2−エチル−3−(2−メトキシエチル)チイラン(34mmol)の溶液を、40mlの無水THF中LAH(17mmol)の混合物に滴下して加えた。混合物を還流し、反応をGCにより監視した。反応が完了したとき、標準の手順に従い後処理した。生成物の混合物を、MTBEにより抽出し、得られた抽出物を、濃縮および蒸留し、3.75gのチオール混合物が得られた。
【0021】
20mlのヘキサン中粗製チオールおよびトリエチルアミン(24mmol)を、氷浴でヘキサン(20ml)中クロロギ酸エチル(48mmol)の溶液に滴下して加えた。GC分析に照らして反応が完了したとき、HClの酸性溶液により後処理し、ヘキサンにより抽出した。抽出物を、シリカゲルカラムで濃縮および精製し、0.80gの式(I)で表される生成物が11%の収率で得られた。
【0022】
【化3】

フレーバーの記載:硫黄様、クロフサスグリ、トロピカル、焙煎コーヒー。
香りの記載:マッシュルーム、ハーブ様、わずかにカカオを含蓄(connation)。
【0023】
例2:O−メチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート
クロロギ酸エチルの代わりにクロロギ酸メチルを使用して、例1の一般的手順に従い、0.41gの表題の化合物を調製した。
【化4】

フレーバーの記載:新鮮な深煎りのノート。
香りの記載:マッシュルーム−玉ねぎ、グリーン、わずかに脂肪様、フルーティ、マンゴ様、パッションフルーツ様、クロフサスグリ、およびトップに硫黄。
【0024】
例3:レギュラーコーヒー
レギュラーコーヒーを、以下の原料から調製した。
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
レギュラーコーヒー(コーヒーA)の一部に、コーヒーの重量に対して0.1ppmのO−エチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエートを添加した(コーヒーB)。コーヒーを缶に詰め、123℃で20分間レトルトにした。比較すると、本発明の化合物を含有するコーヒー(コーヒーB)は、全体的により強いコーヒー様の印象で、よりボディのあるまろやかなフレーバープロファイルを示した。
【0027】
例4:ブラックコーヒー
ブラックコーヒーを、以下の原料から調製した。
【表3】

【0028】
レギュラーコーヒー(コーヒーC)の一部に、コーヒーの重量に対して0.1ppmのO−エチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエートを添加した(コーヒーD)。コーヒーを缶に詰め、121℃で10分間レトルトにした。比較すると、本発明の化合物を含有するコーヒー(コーヒーD)は、増強されたコーヒーローストおよびコーヒー豆様のノートを有した。さらに、それは、コーヒーCと比較して大幅に増強された長期持続性(longlastiness)を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

式中、
は、メチル、エチルまたはn−プロピルであり、
は、水素またはC〜Cアルキルであり、
は、C、CまたはCヒドロキシアルキル、あるいはC、CまたはCアルコキシアルキルであり、および
は、水素またはメチルである、
で表される化合物。
【請求項2】
O−エチルS−4−メトキシ−2−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−3−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−3−メチルペンタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−2−メチルブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−4−ヒドロキシ−2−メチルペンタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−3−ヒドロキシブタン−2−イルカルボノチオエート
O−エチルS−1−ヒドロキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート、
O−エチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート、および
O−メチルS−1−メトキシヘキサン−3−イルカルボノチオエート
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に定義した式(I)で表される化合物および少なくとも1種のさらなるフレーバー原料を含む、フレーバーまたはフレグランス組成物。
【請求項4】
請求項1に定義した式(I)で表される化合物および製品ベースを含む、フレーバーまたはフレグランス利用品。
【請求項5】
フレーバーまたはフレグランス利用品を改善する、増強するまたは改変する方法であって、それに嗅覚的に許容可能な量の請求項1に定義した式(I)で表される化合物を添加するステップを含む、前記方法。
【請求項6】
請求項1に定義した式(I)で表される化合物のフレーバーまたはフレグランスとしての使用。

【公表番号】特表2012−522826(P2012−522826A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504006(P2012−504006)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054582
【国際公開番号】WO2010/115920
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】