説明

フロアインシュレータの取付け構造

【課題】フロアインシュレータの取付け構造に関し、簡素な構成で複雑な形状をしたキャブフロア下面へのフロアインシュレータの仮組みを可能とし、フロアインシュレータが仮組み用クリップから脱落して撓むことを防止する。
【解決手段】キャブフロア1下面に固設され、折り曲げ自在の係止部3bを有する係止手段と、フロアインシュレータに形成された取付け穴5と、フロアインシュレータの取付け穴5に隣接した箇所に下方に突出して形成された突設部6とを設け、係止部3bを折り曲げることで突設部6を係止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のキャブフロア下面に取付けられ、キャブフロア下面とエンジンとの間で、エンジンの熱や騒音を遮断するフロアインシュレータの取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のキャブオーバ型車両においては、キャブフロアの下方に配設されたエンジンから発せられる熱や騒音を遮断する目的で、フロアインシュレータが、キャブフロア下面を覆うように取付けられている。例えば、特許文献1には、キャブオーバ型車両のキャブフロア下面に、エンジンとキャブフロア下面との間に隙間を確保し、このキャブフロア下面の形状に合わせて形成されたフロアインシュレータを、キャブフロア下面の全面を覆うように取付けた構造が開示されている。
【0003】
ところで、このようなキャブオーバ型車両のキャブフロア下面にフロアインシュレータを取付ける場合、一般的に、作業者はキャブフロア100の下面の下方からフロアインシュレータ104を持ち上げて、図5に示すようにキャブフロア100の下面に設けられたビス穴107と、フロアインシュレータ104のビス挿通穴108との位置あわせを行い、本組み用ビス109を打ち込んで取付けるが、ビス穴107とビス挿通穴108との位置あわせを迅速かつ正確に行うことは困難なため、通常は作業効率の向上から、フロアインシュレータ104を仮組みクリップ103で仮組みしたうえで行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−580975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなフロアインシュレータの取付け構造において、フロアインシュレータ104をキャブフロア100の下面に仮組みする場合、仮組み用クリップ103をキャブフロア100の下面と略平行になるまで折り曲げて、フロアインシュレータ104をキャブフロア100の下面に押圧して挟持しているため、仮組みクリップ103の長さLの挟持スペース(以下、仮組みスペースという)が必要となり、複雑に隆起した形状のキャブフロア100の下面に対しては、十分な仮組みスペースを確保できず、キャブフロアの下面の形状に柔軟に対応できないといった課題がある。
【0006】
また、仮組みクリップ103は、フロアインシュレータ104が本組みビス109によってキャブフロア100下面に取付けられた後も、そのままの状態で放置されるが、図5に示すように、仮組みクリップ103の先端部が、グラスウール等の部材から成形されたフロアインシュレータ104に入り込んだ状態で長期間放置されると、フロアインシュレータ104はこの先端部が入り込んだ部分を起点に部材がほつれ、最終的にはフロアインシュレータ104が仮組みクリップ103から脱落して撓むことで、エンジンの熱や騒音を遮断する効果が低減するだけでなく、下方のエンジンやラジエター等に接触し、これらエンジンやラジエター等に影響を及ぼすといった課題がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で複雑な形状をしたキャブフロア下面へのフロアインシュレータの仮組みを可能とし、フロアインシュレータが仮組み用クリップから脱落して撓むことを防止した、フロアインシュレータの取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のフロアインシュレータの取付け構造は、 車両のキャブフロアの下面に取り付けられ、前記キャブフロアの下方のエンジンからの熱と騒音とを遮断するフロアインシュレータの取付け構造であって、前記キャブフロア下面に固設され、折り曲げ自在の係止部を有する係止手段と、前記フロアインシュレータに形成され、前記係止手段を挿通する取付け穴と、前記フロアインシュレータの前記取付け穴に隣接した箇所に、下方に突出して形成された突設部とを備え、前記係止部が、前記突設部に面接触する位置まで折り曲げられて前記突設部を係止することを特徴とする。
【0009】
また、前記キャブフロア下面が、前記車両の水平方向に延びた横壁部と、前記横壁部から下方に段落ちした縦壁部とを有するとともに、前記フロアインシュレータには、前記横壁部の形状に合わせた平面部と、前記縦壁部の形状に合わせた段差部とが形成され、前記係止手段が、前記横壁部に設けられるとともに、前記突設部が、前記平面部と前記段差部との間に設けられ、前記係止部が、前記係止部の先端部と前記段差部とが接触しない所定の長さに形成さるようにしてもよい。
【0010】
また、前記係止手段が、断面L字状の薄板から形成されたクリップとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフロアインシュレータの取付け構造によれば、係止手段を突設部と接触する位置まで折り曲げて、フロアインシュレータをキャブフロア下面に仮組みするため、係止手段をキャブフロア下面と略水平になる状態まで折り曲げる必要がなくなり、仮組みスペースを縮小できるとともに、複雑な形状をしたキャブフロア下面に対してもフロアインシュレータを柔軟に対応して仮組みをすることができる。
【0012】
また、係止手段の先端部が、フロアインシュレータに入り込まない状態で仮組みできるため、係止手段の先端部によりフロアインシュレータが受傷してほつれることで、フロアインシュレータが係止手段から脱落することを防止し、これにより防音断熱性能が低下することや、下方のエンジンやラジエター等に接触して影響を及ぼすことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るフロアインシュレータの取付け構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフロアインシュレータの取付け構造を下方から視た斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るフロアインシュレータの仮組み状態の詳細を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るその他の仮組み状態の詳細を示す断面図である。
【図5】従来のフロアインシュレータの取付け構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面により、本発明に係る実施形態について説明する。
図1〜3は、本発明の一実施形態を説明するもので、図1はそのフロアインシュレータの取付け構造を示す断面図、図2はそのフロアインシュレータの取付け構造を下方から視た斜視図、図3はそのフロアインシュレータの仮組み状態の詳細を示す断面図である。
本実施形態に係るフロアインシュレータの取付け構造は、図1に示すように、キャブオーバ型車両(以下、車両という)のキャブフロア1の下面に取付けられるフロアインシュレータ4の取付け構造であって、キャブフロア1の下面に固設された仮組みクリップ(係止手段)3と、フロアインシュレータ4に設けられた取付け穴5,突設部6及び、締結部7とを備え構成されている。
【0015】
キャブフロア1の下面には、図2に示すように、キャブフロア1の中心から略水平に延びた中央平面部(横壁部)1aと、この中央平面部1aの右端部から車両の下方に断落ちした右側縦壁部(縦壁部)1bと、中央平面部1aの左端部から車両の下方に断落ちした左側縦壁部(縦壁部)1cと、右側縦壁部1bの下端部からキャブフロア1の下面の右側端部に設けられた右側補強部材10まで略水平に延びた右側平面部1dと、左側縦壁部1cの下端部からキャブフロア1の下面の左側端部に設けられた左側補強部材11まで略水平に延びた左側平面部1eとが形成されている。
【0016】
仮組みクリップ3は、図3に示すように、塑性変形する折り曲げ可能な断面L字状の薄板から形成され、中央平面部1aに溶着等により固設される固設板部3aと、この固設板部3aと略垂直に長さLで形成された挟持板部(係止部)3bとを備えている。また、挟持板部3bは、キャブフロア1の後方側からの断面視において右方向へ、中央平面部1aに対して角度0とならないように、すなわち所定の角度θ(θ>0)に傾斜して折り曲げられることで、詳細を後述するフロアインシュレータ4の突設部6を、斜め下方から支持して第1平面部1aとの間に挟持するようになっている。
【0017】
フロアインシュレータ4は、エンジンからの騒音や熱を遮断するグラスウール等の材質からなる公知の断熱吸音材であって、図2に示すように、キャブフロア1の下面の略全面を覆うように、キャブフロア1の下面の形状に合わせて屈曲して形成され、前述の中央平面部1aに対応する第1平面部(平面部)4aと、右側縦壁部1bに対応する右側段差部(段差部)4bと、左側縦壁部1cに対応する左側段差部(段差部)4cと,右側平面部1dに対応する第2平面部4dと、左側平面部1eに対応する第3平面部4eとが形成されている。
【0018】
取付け穴5は、図2に示すように、フロアインシュレータ4の第1平面部4aに設けられ、その開口は前述の仮組みクリップ3の挟持板部3bの折り曲げ方向が長手方向となるような方形に形成されている。また、その短手方向の幅Wは、前述の仮組みクリップ3の挟持板部3bを円滑に挿通できるように、挟持板部3bの幅Wよりも大きい値(W>W)で形成されている。なお、フロアインシュレータ4が仮組みクリップ3によって仮組みされた状態においては、フロアインシュレータ4は水平方向への移動が依然として許容されうるため、仮組みクリップ3の挟持板部3bからフロアインシュレータ4が脱落することを防ぐためには、この取付け穴5の長手方向の幅Wを、挟持板部3bの所定の長さLよりも小さい値(W<L,図3参照)にすることが好ましい。
【0019】
突設部6は、図3に示すように、取り付け穴5に近接して、フロアインシュレータ4の第1平面部4aと右側段差部4bとの間に下方に突出するように設けられ、この突設部6の頂面6aがフロアインシュレータ4の第1平面部4aから所定の高さHになるように形成されている。
なお、突設部6を設ける位置は、仮組みクリップ3の挟持板部3bを所定の角度θに折り曲げた状態で、この挟持板部3bが突設部6の端部を十分に支持できる位置に設けられる必要がある。
【0020】
締結部7は、作業者によって、前述の折り曲げクリップ3でフロアインシュレータ4を仮組みした後に、このフロアインシュレータ4をキャブフロア1の下面に本組みするためのもので、フロアインシュレータ4の第2平面部4dと第3平面部4eとに設けられたビス挿通部7aと、キャブフロア1の下面の右側平面部1dと左側平面部1eとに設けられたビス穴部7bと、ビス穴部7bに嵌挿されるプラスチックビス7cとから構成されている。
【0021】
[作用・効果]
以上のような構成により、本実施形態におけるフロアインシュレータの取付け構造によれば以下のような作用・効果を奏する。
すなわち、フロアインシュレータ4は、仮組みクリップ3の挟持板部3bが突設部6と接する位置まで折り曲げられて、この突設部6がキャブフロア1の中央平面部1aと挟持板部3bとで挟持されることで、キャブフロア1の下面に仮組みされる。
【0022】
したがって、仮組みクリップ3の挟持板部3bをキャブフロア1の下面の中央平面部1aと略水平になる状態まで折り曲げることなくフロアインシュレータ4をキャブフロア1の下面に仮組みすることができるため、仮組みスペースを縮小することができるとともに、挟持板部3bを折り曲げるための十分なスペースが確保できないような複雑な形状をしたキャブフロア1の下面に対しても柔軟に対応して仮組みをすることができる。
【0023】
また、挟持板部3bの先端部が、フロアインシュレータ4に入り込まない状態で仮組みできるため、挟持板部3bの先端部によりフロアインシュレータ4が受傷してほつれることで、フロアインシュレータ4が仮組みクリップ3から脱落することを防止し、これにより防音断熱性能が低下することや、下方のエンジンやラジエター等に接触して影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0024】
また、作業者はフロアインシュレータ4を仮組みした後に、フロアインシュレータ4を微移動させながらビス挿通部7aとビス穴部7bとの位置合わせ調整を行い、プラスチックビスを打ち込むことで本組み作業を行うが、この位置合わせ調整を、挟持板部3bの先端部がフロアインシュレータ4に入り込んでいない状態で行うことができるため、フロアインシュレータ4の微移動が許容されることで位置合わせ調整が容易となり、フロアインシュレータ4の取付け作業の効率化を図ることができる。
【0025】
[その他]
なお、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
例えば、上述の実施形態において、突設部6は、フロアインシュレータ4の第1平面部4aと右側段差部4bとの間に設けられるものとして説明したが、例えば、第1平面部4aと左側段差部4cとの間に設けるなど、いずれの段差部に対応して設けることができる。
【0026】
また、図4に示すように、フロアインシュレータ4の第1平面部4aに仮組みスペースが十分ある場合は、この第1平面部4aに設けるなど、平面部に設けてもよい。
また、上述の一実施形態において、仮組みクリップ3は、塑性変形する折り曲げ可能な断面L字状の薄板から形成されているものとして説明したが、必ずしもその形状は断面L字状である必要はなく、一端をキャブフロア1の下面に固設した平板状であってもよく、また、断面T字状であってもよい。
【0027】
また、挟持板部3bは、キャブフロア1の後方側の断面視において右方向へ折り曲げられるものとして説明したが、この挟持板部3bの折り曲げ方向は、必ずしも右方向に限定されるものではなく、例えば、突設部6を設ける位置が第1平面部4aと右側段差部4bとの間以外の部分に設けられる場合には、この突設部6の配設位置が折り曲げ方向となるように、適宜変更して折り曲げることができる。
【0028】
また、取付け穴5は、その開口が方形に形成されるものとして説明したが、必ずしも開口の形状は方形である必要はなく、例えば、円形に形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 キャブフロア
1a 中央平面部(横壁部)
1b 右側縦壁部(縦壁部)
1c 左側縦壁部(縦壁部)
3 仮組みクリップ(係止手段)
3a 固設板部
3b 挟持板部(係止部)
4 フロアインシュレータ
4a 第1平面部(平面部)
4b 右側段差部(段差部)
4c 左側段差部(段差部)
5 取付け穴
6 突設部
7 締結部
10 右側補強部材
11 左側補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のキャブフロアの下面に取り付けられ、前記キャブフロアの下方のエンジンからの熱と騒音とを遮断するフロアインシュレータの取付け構造であって、
前記キャブフロア下面に固設され、折り曲げ自在の係止部を有する係止手段と、
前記フロアインシュレータに形成され、前記係止手段を挿通する取付け穴と、
前記フロアインシュレータの前記取付け穴に隣接した箇所に、下方に突出して形成された突設部と、を備え、
前記係止部が、前記突設部に面接触する位置まで折り曲げられて前記突設部を係止する
ことを特徴とする、フロアインシュレータの取付け構造。
【請求項2】
前記キャブフロア下面が、前記車両の水平方向に延びた横壁部と、前記横壁部から下方に段落ちした縦壁部とを有するとともに、
前記フロアインシュレータには、前記横壁部の形状に合わせた平面部と、前記縦壁部の形状に合わせた段差部とが形成され、
前記係止手段が、前記横壁部に設けられるとともに、
前記突設部が、前記平面部と前記段差部との間に設けられ、
前記係止部が、前記係止部の先端部と前記段差部とが接触しない所定の長さに形成された
ことを特徴とする、請求項1記載のフロアインシュレータの取付け構造。
【請求項3】
前記係止手段が、断面L字状の薄板から形成されたクリップである
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のフロアインシュレータの取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−126308(P2011−126308A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283799(P2009−283799)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】