説明

フロアポリッシュビヒクル組成物

【課題】 耐久性に悪影響を与えることなく、改良された高い初期光沢および改良された繰り返し可能な研磨応答性を示す新規なポリマーラテックスおよびポリッシュビヒクル組成物の提供。
【解決手段】 エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマー組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAの単位を25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーの単位を3重量%から50重量%含む、ポリマー組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー組成物に関し、改良された高速研磨応答性(high speed burnish response)を有するポリマーラテックス、フロアポリッシュビヒクル組成物、およびフロアポリッシュ組成物に関する。本発明のポリマー組成物は、少なくとも35℃のガラス転移温度(Tg)を有し、イソブチルメタクリレート(IBMA)およびn−ブチルメタクリレート(BMA)の単位を含む、エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマー組成物である。
【背景技術】
【0002】
イオン的に架橋されたフロアポリッシュビヒクル組成物は公知である。そのようなポリッシュビヒクル組成物は、水不溶性のフィルム形成性のポリマーであって室温以上のガラス転移温度を有するものの水性ディスパージョンまたはサスペンジョンを含むポリマーラテックスと、水溶性または水分散性の塩および錯体を含む。ポリマーの性質はビヒクルの意図される用途により決定される。たとえば、フロアポリッシュビヒクルは床材として有用であり歩行に耐えうるポリマーを含む。フロアポリッシュ組成物は、フロアポリッシュビヒクル組成物とともに、アルカリ溶解性樹脂、可塑剤、ワックス、防腐剤、分散剤、造膜助剤、および平滑剤などの他の有用なフロアポリッシュ成分を含む。
【0003】
フロアポリッシュ組成物の一つの重要な特性は、歩行による劣化に対する耐性である。その耐性が大きいほど、フロアポリッシュ剤の耐久性が長い。良好な耐久性は、得られる層のスカッフマークまたはブラックヒールマークを抑制する能力として定義される。耐久性の一般的な特性は、種々の方法により測定することができる。たとえば、耐スカッフ性、耐スクラッチ性、光沢保持率、耐パウダー性、耐汚染性、および耐ブラックヒールマーク性は、当業者にとってすべてが耐久性の指標であることが認識されている。フロアポリッシュ組成物の耐久性に影響を与える因子は、米国特許第4517330号に開示されている。
【0004】
フロアポリッシュ組成物に望まれるもう1つの特性は、フロアポリッシュの外観を元に戻すために定期的に行われる高速のバフがけまたは研磨により、歩行による損傷を補修することのできる能力である。高速研磨機による機械操作により回復できる床材の能力は「研磨応答性(burnish response)」と呼ばれる。これらのフロアポリッシュ組成物を定期的に研磨して使用すると、長期間にわたり高光沢外観を得ることができ、それにより、公知のフロアポリッシュ剤においては必要のあった、コストの高いストリッピングと再塗布の必要性をなくし、または実質的に低減する。
【0005】
研磨可能なフロアポリッシュ組成物は、典型的には、多量の軟質ワックスおよび/または多量の可塑剤を使用し、フロアフィニッシュを柔らかくするか、または他の方法により、研磨パッドの研磨に対するフィルムの抵抗を減らし、それにより研磨操作によるフィルムの修理をより受け入れやすいものにしている。しかし、フィニッシュ層の柔軟性のために、これらのフロアポリッシュ剤は、その「湿った外観(wet look)」を回復するために、頻繁に研磨操作をすることが必要とされる。研磨操作の間に高光沢フィニッシュに繰り返し回復することのできるフィニッシュ層の能力はフロアポリッシュ剤の「繰り返し可能な研磨応答性(repeatable burnish response)」の尺度である。超高速研磨機械がより一般に使用されるにおよび、これらのタイプのフロアポリッシュ組成物が商業的により重要になってきた。良好な繰り返し可能な研磨応答性は、スーパーマッケットのような小売店での使用が意図される高光沢フロアポリッシュにおいて特に望まれる特性である。
【0006】
IBMAおよび他のエチレン性不飽和モノマー、すなわちスチレン(Sty)、メチルメタクリレート(MMA)、およびメタクリル酸(MAA)から形成されるポリマーラテックスがフロアポリッシュ組成物に使用され、公知のフロアポリッシュ組成物に比較して優れた初期光沢と良好な繰り返し可能な研磨応答性を示すことが知られている。
【0007】
酸官能基残基を有する水不溶性エマルションコポリマーと多価金属イオン又は錯体架橋剤を含む水性分散液に基づくフロアポリッシュ組成物は公知である。そのような組成物は、たとえば米国特許第3328325号、米国特許第3467610号、米国特許第3554790号、米国特許第3573329号、米国特許第3711436号、米国特許第3808036号、米国特許第4150005号、米国特許第4517330号、米国特許第5149745号、および米国特許第5319018号に開示されている。これらの文献のいずれも、IBMAとBMAの両方を含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成されるコポリマーを含むポリマーラテックスを具体的に開示していないし、フロアポリッシュにおいて良好な繰り返し可能な研磨応答性を得るという課題も示していない。特願平1−261843号(特開平3−122174号)は、建造物表面用の非水性分散タイプの樹脂組成物を開示するが、これらの組成物がフロアポリッシュビヒクル組成物として有用であることを示唆していない。ましてや、それらがフロアポリッシュ組成物において高速研磨応答性を示す可能性は示唆していない。さらに、この文献に具体的に開示されている樹脂は、IBMAをBMAと等しいか又は多い量で含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4517330号明細書
【特許文献2】米国特許第3328325号明細書
【特許文献3】米国特許第3467610号明細書
【特許文献4】米国特許第3554790号明細書
【特許文献5】米国特許第3573329号明細書
【特許文献6】米国特許第3711436号明細書
【特許文献7】米国特許第3808036号明細書
【特許文献8】米国特許第4150005号明細書
【特許文献9】米国特許第4517330号明細書
【特許文献10】米国特許第5149745号明細書
【特許文献11】米国特許第5319018号明細書
【特許文献12】特開平3−122174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規なポリマーラテックスおよびポリッシュビヒクル組成物であって、高い初期光沢および得られる層の耐久性に悪影響を与えることなく、少なくとも同等の繰り返し可能な研磨応答性を示すことのできるフロアポリッシュ組成物を製造するために使用することのできるものを提供することである。そのような組成物は耐久性に悪影響を与えることなく、改良された高い初期光沢および改良された繰り返し可能な研磨応答性を示すことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はその一態様として、エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマー組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAの単位を25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーの単位を3重量%から50重量%含む、ポリマー組成物を提供する。本発明はその一態様として、水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマー組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAを25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーを3重量%から50重量%含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成されるポリマーである、ポリマー組成物を提供する。本発明はその一態様として、水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマーラテックスであって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAを25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーを3重量%から50重量%含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成されるポリマーである、ポリマーラテックスを提供する。本発明はその一態様として、水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むフロアポリッシュビヒクル組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAを25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーを3重量%から50重量%含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成されるポリマーである、組成物を提供する。本発明はその一態様として、水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むフロアポリッシュ組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAを25重量%から65重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーを3重量%から50重量%含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成されるポリマーである、組成物を提供する。
【0011】
本発明はさらに、エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンであって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、IBMAおよびBMAの単位を25重量%から65重量%、好ましくは35重量%から55重量%含み、少なくとも1種の酸モノマーの単位を3重量%から50重量%、好ましくは5重量%から20重量%含む水性サスペンジョンまたはディスパージョンを、フロアポリッシュビヒクル組成物に使用することを含む、フロアポリッシュ組成物の繰り返し高速研磨応答性を改良する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかる水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むフロアポリッシュ組成物は、ポリッシュの耐久性に悪影響を与えることなく、改良された高い初期光沢および改良された繰り返し可能な高速研磨応答性を示す。
【0013】
好ましくは水不溶性ポリマーは、少なくとも40℃のガラス転移温度を有する。水不溶性ポリマーは、25重量%から65重量%、好ましくは35重量%から55重量%のIBMAおよびBMAを含み、0重量%から70重量%、好ましくは25重量%から50重量%の少なくとも1種のビニル芳香族モノマーを含み、3重量%から50重量%、好ましくは5重量%から20重量%の少なくとも1種の酸モノマーを含み、0重量%から72重量%、好ましくは0重量%から35重量%のIBMAおよびBMAとは異なる(C−C)アルコールのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物から形成される。
【0014】
好ましくは、モノマー混合物中のIBMAの量は、混合物中のIBMAとBMAの合計重量に基づいて、80重量%以下、より好ましくは50重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%未満である。好ましくは、モノマー混合物中のIBMAの量は、混合物中のIBMAとBMAの合計重量に基づいて、少なくとも5重量%であり、より好ましくは少なくとも20重量%であり、さらに好ましくは少なくとも50重量%である。
【0015】
好ましくは、ビニル芳香族モノマーは、α、β−エチレン性不飽和芳香族モノマーであり、好ましくはスチレン(Sty)、ビニルトルエン、2−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−クロロスチレン、o−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、アリルフェニルエーテル、アリルトリルエーテル、およびα−メチルスチレンからなる群から選択される。スチレンがもっとも好ましいモノマーである。
【0016】
好ましくは酸モノマーは、α、β−モノエチレン性不飽和酸であり、好ましくはマレイン酸、フマル酸、アコニット酸、クロトン酸、シトラコン酸、アクリルオキシプロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸(MAA)、およびイタコン酸からなる群から選択される。MAAがもっとも好ましい。水不溶性のフィルム形成性ポリマーを形成するために共重合することのできる他のモノエチレン性不飽和酸モノマーとしては、不飽和脂肪族ジカルボン酸の部分エステル、およびそのような酸のアルキルハーフエステルがある。たとえば、イタコン酸、フマル酸、およびマレイン酸のアルキルハーフエステルであって、アルキル基が1から6個の炭素原子を有するもの、たとえばメチルイタコン酸、ブチルイタコン酸、エチルフマル酸、ブチルフマル酸、およびメチルマレイン酸がある。
【0017】
IBMAとBMAに加えて、モノマー混合物は0重量%から72重量%のIBMAおよびBMAとは異なる(C−C)アルコールのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種のモノマー、たとえばメチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート(BA)、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、およびシクロプロピルメタクリレートを含むことができる。
【0018】
モノマー混合物は、0重量%から40重量%の少なくとも1種の極性もしくは極性化可能なイオン化されない親水性モノマー、たとえばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、シス−およびトランス−クロトノニトリル、α−シアノスチレン、α−クロロアクリロニトリル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソブチル−およびブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ビニルアセテート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ブタンジオールアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、およびビニルチオール類、たとえば、2−メルカプトプロピルメタクリレート、2−スルホエチルメタクリレート、メチルビニルチオールエーテル、およびプロピルビニルチオエーテルを含むことができる。
【0019】
モノマー混合物は、0重量%から10重量%の、エステルの酸部分が芳香族酸または(C−C18)脂肪族酸から選択されるものである少なくとも1種のモノマー性ビニルエステルを含むことができる。そのような酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、n−吉草酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ガンマ−クロロ酪酸、4−クロロ安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、o−トルイル酸、2,4,5−トリメトキシ安息香酸、シクロブタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−メトキシフェニル)シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−トリル)−1−シクロペンタンカルボン酸、ヘキサン酸、ミリスチン酸、およびp−トルイル酸がある。モノマーのヒドロキシビニル部位は、たとえばヒドロキシエチレン、3−ヒドロキシ−ペンテ−1−エン、3,4−ジヒドロキシブチ−1−エンのようなヒドロキシビニル化合物から選択することができる。そのような誘導体は純粋に形式的なものであると理解され、たとえば、実際にはモノマーがそのような前駆体から合成することができないとしても、ビニル酢酸は酢酸とヒドロキシエチレンとからの誘導体であると理解される。
【0020】
本発明の水性分散可能な水不溶性ポリマーの調製方法は公知である。エマルション重合の方法は、D.C.Blackley,Emulsion Polymerization(Wiley,1975)に詳細に説明されている。本発明のラテックスポリマーは、内部可塑化されたポリマーエマルションを使用して配合することもできる。内部可塑化されたポリマーエマルションの調製は、米国特許第4150005号に詳細に説明されており、内部可塑化されていないフロアポリッシュエマルションポリマーの調製方法は、米国特許第3573239号、米国特許第3328325号、米国特許第3554790号、および米国特許第3467610号に記載されている。
【0021】
上記に記載された公知のエマルション重合方法は、本発明のポリマーラテックスを調製するために使用することができる。すなわち、モノマーをアニオン性またはノニオン性の分散剤で乳化することができ、使用されるモノマーの合計重量の0.5から10重量%が好ましく使用される。酸モノマーは水溶性であり、そのため、使用される他のモノマーの乳化を助ける分散剤として作用する。フリーラジカルタイプの重合開始剤、たとえば過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムを単独で、または促進剤、たとえばカリウムメタビスルフェートまたはナトリウムチオスルフェートとともに使用することができる。開始剤および促進剤は、一般には触媒と呼ばれ、共重合されるモノマーの合計重量に基づいてそれぞれ0.5%から2%の量で好適に使用される。重合温度は公知であるように、室温から90℃、又はそれ以上である。
【0022】
本発明において有用なエマルションの重合プロセスに好適な乳化剤の例としては、アルキル、アリール、アルカリール、アルアルキルスルホネート、スルフェート、ポリエーテルスルフェートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;対応するホスフェートおよびホスホネート;およびアルコキシル化脂肪酸、エステル、アルコール、アミン、アミドおよびアルキルフェノールがある。メルカプタン、ポリメルカプタン、およびポリハロゲン化合物をはじめとする連鎖移動剤は、ポリマーの分子量を調節するために重合混合物中に存在することがしばしば好ましい。
【0023】
フロアポリッシュビヒクル組成物は、好ましくは、上記記載の水不溶性ポリマーと、米国特許第4517330号に開示されているように、ポリマー中の酸残基の0%から100%当量の少なくとも1種の多価金属イオンまたは錯体架橋剤、および任意の少なくとも1種の塩基性水酸化物又はアルカリ金属塩を含む。好ましくは、多価金属は遷移金属である。フロアポリッシュビヒクル組成物における遷移金属イオンまたは錯体架橋剤の量は、ポリマー中の酸残基当量の25%から80%、および/または遷移金属とアルカリ金属のモル比は、1.0:0.25から1.0:2.0が好ましい。組成物における遷移金属の量が、ポリマー中の酸残基当量の30%から70%、および/または遷移金属とアルカリ金属のモル比が、1.0:0.5から1.0:1.5であることがより好ましい。
【0024】
本発明において有用な多価金属、アルカリ金属イオン、および錯体架橋剤は公知である。これらは、たとえば米国特許第3328325号、米国特許第3467610号、米国特許第3554790号、米国特許第3573329号、米国特許第3711436号、米国特許第3808036号、米国特許第4150005号、米国特許第4517330号、米国特許第5149745号、および米国特許第5319018号に開示されている。好ましい多価金属錯体としては、ジアンモニウム亜鉛(II)およびテトラアンモニウム亜鉛(II)イオン、カドミウムグリシナト、ニッケルグリシナト、亜鉛グリシナト、ジルコニウムグリシナト、亜鉛アラナート、銅ベータアラナート、亜鉛ベータアラナート、亜鉛バラネート(zinc valanate)、銅ビス−ジメチルアミノアセテートがある。
【0025】
多価金属、アルカリ金属イオン、および錯体架橋剤化合物はポリッシュビヒクル組成物の水性媒体に容易に溶解し、特に6.5から10.5の範囲のpHで容易に溶解する。しかし、これらの化合物を含むポリッシュ組成物は乾燥して、本質的に水に不溶性であるが依然として除去可能であるポリッシュ被覆を形成する。多価金属錯体は水不溶性フィルム形成性ポリマーラテックスに溶液として加えることもできる。これは、希釈アンモニアのようなアルカリ性溶液中に金属錯体を可溶化することによって達成することができる。アンモニアは多価金属化合物と錯体を形成することができるので、たとえば、カドミウムグリシナトが水性アンモニア溶液中に可溶化されたものはカドミウムアンモニアグリシナトと呼ぶことができる。他の多価金属錯体も同様に呼ぶことができる。
【0026】
好適に使用されるためには、多価金属錯体はアルカリ性溶液中で安定でなければならないが、あまりに安定であるものは望ましくない。なぜなら、ポリッシュ被覆のフィルム形成中における金属イオンの解離が遅くなるからである。フロアポリッシュ組成物は、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満の最低造膜温度(MFT)を有する。
多価金属イオン及び錯体架橋剤は、その形成のいかなる段階においてポリッシュ組成物に加えても良い。しかし、フロアポリッシュビヒクルに加えることが一般に都合がよい。
同様に、アルカリ金属の塩基性塩は、ポリッシュ配合物のいかなる段階において、多価金属イオン及び錯体架橋剤に加えても良い。しかし、アルカリ金属の塩基性塩を、多価金属イオン及び錯体架橋剤と同じ溶液としてフロアポリッシュビヒクル組成物に加えることが一般により都合がよい。
【0027】
一般に、本発明のフロアポリッシュ組成物は、以下の主要な成分を含む。
a) 固形分重量で10から100部の、多価金属錯体及び/またはアルカリ金属塩基性塩ですでに架橋されているか又は後に架橋される水不溶性ポリマー、
b) 固形分重量で0から90部の、ワックスエマルション、
c) 固形分重量で0から90部の、アルカリ可溶性樹脂(ASR)、
d) 固形分重量で0.01から20部の、湿潤剤、乳化剤および分散剤、消泡剤、レベリング剤;塗布温度でポリッシュフィルムを形成するのに十分な可塑剤および造膜助剤、e) ポリッシュ組成物の固形分を0.5から45%、好ましくは5%から30%にする量の水。
a)、b)およびc)の合計は100である。
【0028】
存在する場合には、c)の量はa)の重量の100%以下であり、好ましくは、a)の重量の3%から25%である。ASRを使用しなくとも、満足できるポリッシュ配合物を調製する事ができる。すなわち、ASRは耐久性フロアポリッシュ組成物の本質的な成分ではない。ポリッシュビヒクル組成物の固有な特性、及び他の配合物成分(d)により、配合物のコストを低減させ、レベリングと光沢を改良し、アルカリストリッパーに対するポリッシュ感受性(polishsensitivity)を向上させるために、ポッリッシュ配合者により要求される最終製品の特性のバランスおよびASRの特性に応じてASRを任意に使用することができる。
【0029】
本発明の組成物のような高速研磨ポリッシュ組成物については、ワックスの量は好ましくはa)、b)およびc)の合計固形分の6重量%よりも多い。
公知の湿潤剤、分散剤、消泡剤、可塑剤、及び造膜溶剤を公知の量で、配合者により要求される製品特性のバランスに応じて使用することができる。他の配合剤成分、例えば香料、臭気マスク剤(odor−masking agent)、染料、着色剤、殺生物化合物、抗菌剤を、任意に使用することもできる。
【実施例】
【0030】
以下において、本発明を実施例を示して説明する。
ポリマー
公知の方法により、35℃以上のガラス転移温度を有し、以下の組成(重量%)を有する水不溶性ポリマーの水性分散体を含むポリマーラテックスを調製した。
【0031】
【表1】

【0032】
IBMA=イソブチルメタクリレート、
BMA=n−ブチルメタクリレート、
Sty=スチレン、
MAA=メタクリル酸、
BA=n−ブチルアクリレート、
MMA= メチルメタクリレート
計算ガラス転移温度はFOXの式を使用して計算した。
1/Tg= W/Tg(A)+ W/Tg(B)
ここで、Tg(A)およびTg(B)は、それぞれ成分AおよびBのホモポリマーのガラス転移温度(単位は絶対温度)を意味し、WおよびWは、成分Aおよび成分Bのポリマーの重量分率を表す。
(T.G.Fox,Bull.Am.Phys.Soc.1,123(1956))
**ポリマーB、D、HおよびIは本発明にかかるポリマーである。
【0033】
ポリマーの調製上記のポリマーは、以下の一般的手法により調製された。
実施例1(ポリマーB)
IBMA/BMA/Sty/MAA含有ポリマーラテックスの調製
モノマーエマルションの調製
モノマー混合物の乳化物を、593gの脱イオン水と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの23%溶液21gとの溶液中に、撹拌下に、ゆっくりと以下のモノマーを順次加えることにより調製した。
【0034】
【表2】

【0035】
温度計、凝縮器、および撹拌機を取り付けた適当な反応容器中で、49gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(23%活性)と1240gの脱イオン水の溶液を87℃に、窒素雰囲気下で加熱した。上記のモノマーの40gを反応容器に一度に投入し、温度を80−82℃にした。過硫酸アンモニウム触媒溶液(33gの脱イオン水に4.0gを溶解)を容器に一度に加えた。約5分以内に、温度が2−3℃上がること、および反応混合物の外観の変化(色および透明度)により重合の開始が示された。発熱が終了したら、残りのモノマー混合物と共供給触媒/緩衝溶液(120gの脱イオン水中に3.0gの過硫酸アンモニウム、2.8gの炭酸カリウム、および1gの炭酸水素アンモニウムを溶解したもの)を、反応容器に徐々に加えた。添加速度は冷却により重合反応の発熱が除去できる程度にされなければならない(2−3時間)。重合反応温度は必要に応じて冷却することにより、80−84℃に維持される。添加が完了したら、モノマー混合物と触媒容器、並びに供給ラインを洗浄して容器に加えた。反応系を50℃に冷却した。
フロアポリッシュビヒクル組成物の調製
上記のポリマーラテックスを50℃で撹拌しながら、400gの脱イオン水中の、酸化亜鉛(Kadox15、30g)、炭酸水素アンモニウム(41g)、水酸化アンモニウム(28%活性、62g)、非イオン性界面活性剤(22%活性、146g)の溶液を20分にわたりゆっくりと加えた。架橋後、フロアポリッシュビヒクル組成物は周囲温度に冷却され、次いで固形分38%まで水で希釈された。この時点における粘度は12cpsであり、希釈生成物のpHは9.0であった。ポリマーA−Iから調製されたフロアポリッシュビヒクル組成物は典型的には以下の特性を有していた。
【0036】
【表3】

【0037】
フロアポリッシュ組成物
上記のフロアポリッシュビヒクルのそれぞれを、ついで以下の配合でフロアポリッシュ組成物に配合した。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
試験手順
歩行者の激しい通行に暴露された試験領域において、2つの異なる長期間のフロア試験の結果を表1および表2に示す。2.7m(8フィート)×29m(80フィート)のビニル組成物のタイルの通路(aisle)から、通常のストリッパー溶液のフラッドコート(flood coat)とブラシアタッチメントを取り付けたプロパン動力のスクラバー機械により、存在するフロアポリッシュのすべてを除去した。すべてのフロアフィニッシュと過剰のストリッパー溶液は床から真空により除去された。次いで、清浄なリンス水を施し、残留しているポリッシュ剤および/またはストリッパー溶液を除去する操作を2回行った。床を約45分乾燥させ、ポリッシュの塗布を始めた。試験領域は2.7m(8フィート)×3m(10フィート)の部分に分割され、10回の実験を行えるようにした。ポリッシュの塗布はSSS(登録商標)ブルー/ホワイト中重量の綿モップを使用して行い、モップは適当なポリッシュに浸漬し、それぞれのポリッシュとモップが対応するようにした。モップはフィニッシュから取り出され、バケツの絞り装置によりポリッシュがほとんどモップからたれ落ちなくなるまで絞った。部分の端部を最初に塗布し、ついで横方向に動かして通路の端と端の間の部分を塗布した。ほぼ30−45分間乾燥した後、この操作を繰り返した。最低4回塗布するまで、この操作を繰り返した。4回目の塗布・乾燥後、BYKガードナーマイクロ−TRI−光沢計を使用して初期光沢を測定し、60度および20度の反射角における光沢を記録した。1日の通行があった次の晩に、通路から残留している汚れをきれいに拭き取った。60度と20度での光沢測定値を記録し、床を中性クリーナーで洗浄した。乾燥後、3M社製のTopline(登録商標)パッドを取り付けたプロパンマシン(Pioneer Eclipse 2100(登録商標))を使用して、2000rpmで床を研磨した。洗浄及び研磨操作は、毎週3回行われた。光沢測定値はこの操作の間、連続的に記録され、床の摩耗特性(耐スカッフ性および耐ブラックヒールマーク性)が評価された。光沢は研磨の前後において測定された。
【0042】
黒と白のビニルおよびビニル組成物のタイルからなる試験床に、アプリケーターパッドで4回、配合サンプルを塗布して、実験室で評価した結果を表3に示す。3日後、3M社製のToplineパッドを取り付けたPioneer Eclipse Superbuffer(登録商標)を使用して、床を高速研磨した。光沢を研磨の前後において測定した。すべての場合において、本床試験における研磨応答性は、キャリブレートされたポータブル光沢計、BYKガードナー社製、マイクロ−TRI−光沢計(登録商標)を使用して測定された。この光沢計は垂直から60度と20度における床からの光の反射率を測定するものである。実験者は、3−5の光沢単位の相違がある床を、目視により明瞭に識別することができる。
【0043】
【表7】

【0044】
【表8】

【0045】
【表9】

【0046】
結果のまとめ
研磨による光沢の結果は、たとえば床の汚れの程度、床の洗浄の程度、タイルの種類、歩行のパターンなどの種々の要因によって変化する。光沢値は毎日変化する。しかし、データから以下のことが明らかに理解できる。
表1及び表2から
1. 本発明のポリマーである、10IBMA/35BMA(ポリマーB)、または20IBMA/25BMA(ポリマーD)の比率でIBMAとBMAを組み合わせたものは、IBMAのみを多く含むもの、45IBMA(ポリマーA)および34IBMA(ポリマーC)よりも高い研磨応答性を示す。
2. 本発明のポリマーである、10IBMA/35BMA(ポリマーB)、または20IBMA/25BMA(ポリマーD)の比率でIBMAとBMAを組み合わせたものは、BMAのみを多く含むもの(IBMA非含有)であるポリマーHよりも高い研磨応答性を示す。
【0047】
表3から
3. 本発明のポリマーである、10IBMA/35BMA(ポリマーB)、または30IBMA/15BMA(ポリマーH)、または10IBMA/33BMA(ポリマーI)の比率でIBMAとBMAを組み合わせたものは、BAのみを多く含むポリマーF(アクリル系のみ)よりも高い研磨応答性を示す。45BA/45Sty/10MAAの組成のポリマーも評価のため調製されたが、フロアポリッシュとしては有用でなかった。
4. 本発明のポリマーである、10IBMA/35BMA(ポリマーB)、または30IBMA/15BMA(ポリマーH)、または10IBMA/33BMA(ポリマーI)の比率でIBMAとBMAを組み合わせたものは、BAとIBMAを含むポリマーGよりも高い研磨応答性を示す。ポリマーGは黒いタイルに塗布したときに灰色を呈し、ジェットネス(jetness)に欠ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むポリマー組成物であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、イソブチルメタクリレート(IBMA)およびn−ブチルメタクリレート(BMA)の単位を25重量%から65重量%含み、および少なくとも1種の酸モノマーの単位を3重量%から50重量%含み、
前記ポリマーが、25重量%から65重量%、好ましくは35重量%から55重量%のIBMAおよびBMA、0重量%から70重量%、好ましくは25重量%から50重量%の少なくとも1種のビニル芳香族モノマー、3重量%から50重量%、好ましくは5重量%から20重量%の少なくとも1種の酸モノマー、0重量%から72重量%、好ましくは0重量%から35重量%のIBMAおよびBMAとは異なる(C−C)アルコールのアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種のモノマー、0重量%から40重量%の少なくとも1種の極性もしくは極性化可能なイオン化されない親水性モノマー、および0重量%から10重量%のエステルの酸部分が芳香族酸および(C−C18)脂肪族酸から選択されるものである少なくとも1種のモノマー性ビニルエステルを含むモノマー混合物から形成される、ポリマー組成物。
【請求項2】
エチレン性不飽和モノマーの水不溶性ポリマーの水性サスペンジョンまたはディスパージョンを含むフロアポリッシュ組成物を製造することを含む、フロアポリッシュ組成物の研磨応答性を改良する方法であって、該ポリマーが少なくとも35℃のガラス転移温度を有し、イソブチルメタクリレート(IBMA)およびn−ブチルメタクリレート(BMA)の単位を25重量%から65重量%、好ましくは35重量%から55重量%含み、および少なくとも1種の酸モノマーの単位を3重量%から50重量%、好ましくは5重量%から20重量%含む、方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、25重量%から65重量%のIBMAおよびBMA、および3重量%から50重量%の少なくとも1種の酸モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーの混合物から形成される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、25重量%から65重量%、好ましくは35重量%から55重量%のIBMAおよびBMA、0重量%から70重量%、好ましくは25重量%から50重量%の少なくとも1種のビニル芳香族モノマー、3重量%から50重量%、好ましくは5重量%から20重量%の少なくとも1種の酸モノマー、0重量%から72重量%、好ましくは0重量%から35重量%のIBMAおよびBMAとは異なる(C−C)アルコールのアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種のモノマー、0重量%から40重量%の少なくとも1種の極性もしくは極性化可能なイオン化されない親水性モノマー、および0重量%から10重量%のエステルの酸部分が芳香族酸および(C−C18)脂肪族酸から選択されるものである少なくとも1種のモノマー性ビニルエステルを含むモノマー混合物から形成される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
モノマー混合物中のIBMAの量が、混合物中のIBMAおよびBMAの合計重量の80重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%未満である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
モノマー混合物中のIBMAの量が、混合物中のIBMAおよびBMAの合計重量の少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも50重量%である、請求項3記載の方法。

【公開番号】特開2009−287037(P2009−287037A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208126(P2009−208126)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【分割の表示】特願平10−253573の分割
【原出願日】平成10年9月8日(1998.9.8)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】