説明

フロアーポリッシュ組成物

【課題】揮発性有機化合物(VOC)を含有しなくても、造膜性が良好で、且つ、耐ブラックヒールマーク性及び高光沢等の諸性能を満足できるフロアーポリッシュ組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂エマルションを含有するフロアーポリッシュ組成物において、該アクリル系樹脂エマルション中の樹脂粒子をコアシェル構造を有するものとし、該シェル部のTgを−50℃以上20℃以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアーポリッシュ組成物に関し、詳細には、オフィスビルや店舗等の床面に塗布して光沢を付与するためのフロアーポリッシュ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスビル及び店舗等の近代化に伴い、室内の美観を明るくし、引き立てるために、フロアーポリッシュに対する要求性能は高まりつつある。このようなフロアーポリッシュとしては、合成樹脂エマルション系のフロアーポリッシュが広く用いられている。合成樹脂エマルション系のフロアーポリッシュは、塗布後放置乾燥するだけで床面に光沢が出るものであり、近年広く用いられている。また、該合成樹脂エマルション系のフロアーポリッシュに対しては、耐ブラックヒールマーク性及び高光沢等の諸性能が要求されている。これら諸性能を向上させるために、種々のタイプの合成樹脂エマルション系フロアーポリッシュが研究、開発されている。
【0003】
上記諸特性の向上を目的とした合成樹脂エマルション系のフロアーポリッシュとしては、例えば、特定範囲のガラス転移点を有するアクリル系樹脂エマルションと特定のグリコールエーテルを含むフロアーポリッシュ組成物(特許文献1)、特定範囲のガラス転移点と特定範囲の分子量とを有するアクリル系樹脂エマルションを含有する被覆剤組成物(特許文献2)、特定範囲のガラス転移点と特定範囲の酸価を有するアクリル系樹脂からなるフロアーポリッシュ組成物(特許文献3)及び、特定範囲のガラス転移点と特定範囲の粒子径を有するアクリル系樹脂エマルションを含有するフロアーポリッシュ用水性エマルション組成物(特許文献4)等が開示されている。
【特許文献1】特開2006−77190号公報
【特許文献2】特開2004−217878号公報
【特許文献3】特開2004−59745号公報
【特許文献4】特開平09−95642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のフロアーポリッシュの主成分である合成樹脂エマルション樹脂には、固有の最低造膜温度(MFT)があり、造膜させるために、必須成分として、有機溶媒等の皮膜形成助剤(造膜助剤)を配合する必要があった。一方、この必須成分である皮膜形成助剤は、揮発性有機化合物(VOC)であり、近年、シックハウス症候群の原因として指摘されている。
【0005】
室内環境改善のため、揮発性有機化合物(VOC)を含有せず、かつ、耐ブラックヒールマーク性及び高光沢等の諸性能を満足できるフロアーポリッシュ組成物の開発が望まれている。なお、内部可塑化、又は外部可塑化により、合成樹脂エマルションのMFTを下げれば、皮膜形成助剤無しでも造膜性は良好になる。しかし、これでは、極めて軟質な皮膜しか得られないため、耐ブラックヒールマーク性が著しく劣り、実用に耐えない。
【0006】
そこで、本発明は、揮発性有機化合物(VOC)を含有しなくても、造膜性が良好で、且つ、耐ブラックヒールマーク性及び高光沢等の諸性能を満足できるフロアーポリッシュ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の発明を完成させた。
第1の本発明は、アクリル系樹脂エマルションを含有するフロアーポリッシュ組成物であって、該アクリル系樹脂エマルション中の樹脂粒子がコアシェル構造を有し、該シェル部のTgが−50℃以上20℃以下である、フロアーポリッシュ組成物である。
【0009】
第1の本発明において、樹脂粒子のコアシェル構造におけるコア部のTgは、50℃以上であることが好ましい。コア部のTgが低すぎる場合は、耐ヒールマーク性に劣る虞がある。
【0010】
第1の本発明において、樹脂粒子のコアシェル構造における、コア部とシェル部との固形分比率は、質量比で、コア部/シェル部=50/50以上95/5以下であることが好ましい。コア部とシェル部との固形分比率がかかる範囲にあるならば、造膜性および耐ヒールマーク性をより良好なものとすることができる。
【0011】
第1の本発明において、樹脂粒子は、エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位を有する重合体を備え、該エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位の割合が該重合体全体を100質量%として、3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、該エチレン性不飽和カルボン酸は、アクリル酸またはメタクリル酸であることが好ましい。所定割合でエチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位を含む重合体を備えるものとすることにより、剥離性と耐水性が両立するという効果がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフロアーポリッシュ組成物は、所定のコアシェル構造を有する樹脂粒子を含むアクリル系樹脂エマルションを含有してなり、これにより、揮発性有機化合物(VOC)を含有させなくとも、造膜性が良好で、且つ、耐ブラックヒールマーク性に優れ、高光沢なものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0014】
<フロアーポリッシュ組成物>
本発明のフロアーポリッシュ組成部は、以下において説明する所定のアクリル系樹脂エマルションを含有してなる。
(アクリル系樹脂エマルション)
本発明で使用するアクリル系樹脂エマルションとは、エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られるアクリル系樹脂エマルションである。
【0015】
かかるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル(以下、MMAと省略する場合がある。)、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル(以下、BAと省略する場合がある。)、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下、2−EHAと省略する場合がある。)、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;スチレン(以下Stと省略する場合がある。)、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、2,4―ジブロモスチレン等のエチレン性不飽和芳香族単量体類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸(以下、MAAと省略する場合がある。)、クロトン酸、マレイン酸およびその無水物、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸類等のラジカル重合可能な単量体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸を意味する。これらのエチレン性不飽和単量体は、単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。また、(メタ)アクリル系の不飽和単量体を必須で含んでいることが好ましく、その場合、(メタ)アクリル系の不飽和単量体以外の単量体の割合は、エチレン性不飽和単量体全体に対し70%以下とすることが好ましい。
【0016】
アクリル系樹脂エマルションを製造する際に用いる乳化剤としては、従来公知の如何なる乳化剤を用いることもできる。例えば、スチレンスルホン酸ソーダ、ビニルスルホン酸ソーダ、ラテムルS−180A(花王社製)、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、アクアロンHS−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N(旭電化工業社製)が挙げられる。
【0017】
これら乳化剤の使用量は、アクリル系樹脂エマルションの化学的安定性、機械的安定性等を考慮して、エチレン性不飽和単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下の範囲である。
【0018】
本発明で使用するアクリル系樹脂エマルションを製造するに際しては、従来公知の重合条件が採用できる。例えば、上記乳化剤及びフリ−ラジカル発生触媒の存在下で、上記単量体混合物を40℃以上80℃以下で熱重合あるいはレドックス重合する方法が採用できる。かかるフリ−ラジカル発生触媒としては、例えば、過硫酸カリウム(K)、過硫酸ナトリウム(Na)、過硫酸アンモニウム((NH)、過酸化水素水等の水性触媒が使用でき、場合によっては、これらの触媒に酸性亜硫酸ソーダ、アミン類のような還元剤を併用してレドックス重合させることもできる。
【0019】
本発明で使用するアクリル系樹脂エマルションとしては、該エマルション中の樹脂粒子が「コアシェル構造」を有するものであって、該シェル部のTgが−50℃以上20℃以下のものであることが好ましい。また、コアシェル構造を有するアクリル系樹脂エマルションのコア部のTgは50℃以上であることが好ましい。
【0020】
かかるコアシェル構造のアクリル系樹脂エマルションの製造方法としては、従来公知の如何なる方法を採用してもよく、例えば、上記したエチレン性不飽和単量体の内、Tgが50℃以上のコア部を形成する単量体を乳化重合させた後、Tgが−50℃以上20℃以下のシェル部を形成する単量体を乳化重合させる多段乳化重合方法等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、シェル部を形成する重合体のTgが−50℃以上20℃以下であるので、MFTが低く、有機溶媒等の皮膜形成助剤を配合させなくても、造膜性を良好にすることができる。また、コア部を形成する重合体のTgが50℃以上であるので、造膜後においては、シェル部とコア部とがシンタリングして、耐ブラックヒールマーク性の良好な硬質皮膜を形成する。
【0022】
コアシェル構造のアクリル系樹脂エマルションにおいて、コア部とシェル部の固形分比率は、質量比で、好ましくはコア部/シェル部=50/50以上95/5以下である。コア部とシェル部の固形分比率をかかる範囲とすることで、造膜性、および、耐ヒールマーク性がより良好なフロアーポリッシュ組成物を得ることができる。
【0023】
前記樹脂粒子が、エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位を有する重合体を備え、該エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位の割合が該重合体全体を100質量%として、3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、モノマーであるエチレン性不飽和カルボン酸として、好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸が挙げられる。
【0024】
所定割合でエチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位を含む重合体を備えるものとすることにより、剥離性と耐水性が両立するという効果がある。エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位の割合が少なすぎると、剥離性が劣ることとなり、逆に多すぎると耐水性が劣ることとなる。
【0025】
本発明のフロアーポリッシュ組成物は、更に、ワックスを含有することが好ましい。ワックスとしては、融点が70℃〜150℃の酸化ポリエチレンワックスを、乳化剤を使用して水中に乳化分散したもの(ワックスエマルション)を使用することが好ましい。かかる高融点のワックスを使用することにより、より優れた耐ヒールマーク性を得ることができる。
【0026】
アクリル系樹脂エマルションとワックスエマルションの固形分比率は、質量比でアクリル系樹脂部/ワックス部=50/50以上95/5以下であることが好ましい。ワックスの使用量がかかる範囲であれば、より優れた耐ヒールマーク性を得ることができる。
【0027】
本発明のフロアーポリッシュ組成物には、上記以外の成分として、多価金属化合物、アルカリ可溶性樹脂、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤、香料、染料、ウレタン樹脂、コロイダルシリカ、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0028】
具体的には、本発明のフロアーポリッシュ組成物は、必要に応じて、ポリマー、ワックス類のレベリングを助けたり、剥離性を向上させたりする等の補助剤的に使用されるアルカリ可溶性樹脂、エマルションの表面張力を下げて床面への濡れ性をよくするフッ素系界面活性剤、耐洗剤性及び剥離性を向上させるための多価金属化合物、その他乳化剤、防腐剤、消泡剤等を適量含有することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例と比較例により、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に断らない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0030】
<アクリル系樹脂エマルションの作製>
(製造例1)
撹拌装置を備えた重合容器にイオン交換水100部とエレミノールJS−2(三洋化成社製)2部を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を80℃に昇温した。昇温後、下記モノマー混合液(a−1)と開始剤水溶液をそれぞれ反応容器内に滴下し重合を行った。滴下時間はモノマー混合液(a−1)が2時間、開始剤水溶液が4時間であった。モノマー混合液(a−1)の滴下終了後、引き続きモノマー混合液(a−2)を滴下し80℃を保持しながら重合を完結させた。モノマー混合液(a−2)の滴下時間は2時間であった。シェル部のTgが0℃、コア部のTgが66℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションA)を得た。モノマーの配合組成を表1に示す。
【0031】
モノマー混合液(a−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA13部、St50部、MAA7部である。モノマー混合物(a−2)の重合組成(シェル部)は、BA17部、MMA10部、MAA3部である。開始剤水溶液は、過硫酸アンモニウム0.3部、イオン交換水50部からなる。
【0032】
(製造例2)
下記モノマー混合液を用いる以外は、製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが−41℃、コア部のTgが80℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションB)を得た。モノマーの配合組成を表1に示す。
【0033】
モノマー混合液(b−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA11部、St70部、MAA9部である。モノマー混合物(b−2)の重合組成(シェル部)は、BA9部、MAA1部である。
【0034】
(製造例3)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが12℃、コア部のTgが57℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションC)を得た。モノマーの配合組成を表1に示す。
【0035】
モノマー混合液(c−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA15部、St36部、MAA9部である。モノマー混合物(c−2)の重合組成(シェル部)は、BA20部、MMA14部、MAA6部である。
【0036】
(製造例4)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが−5℃、コア部のTgが61℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションD)を得た。モノマーの配合組成を表1に示す。
【0037】
モノマー混合液(d−1)の重合組成(コア部)は、BA16部、MMA60部、MAA4部、である。モノマー混合物(d−2)の重合組成(シェル部)は、2−EHA12部、St7部、MAA1部である。
【0038】
(製造例5)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが−18℃、コア部のTgが67℃、固形分40%、のアクリル系樹脂エマルション(エマルションE)を得た。モノマーの配合組成を表1に示す。
【0039】
モノマー混合液(e−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA20部、MMA40部、MAA20部である。モノマー混合物(e−2)の重合組成(シェル部)は、BA15部、MAA5部、である。
【0040】
(比較製造例1)
下記モノマー混合液(f)のみを用い、モノマーの滴下時間を4時間とした以外は製造例1と同様の方法で、Tgが43℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションF)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0041】
モノマー混合液(f)の重合組成は、BA17部、2−EHA13部、MMA10部、St50部、MAA10部である。
【0042】
(比較製造例2)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが31℃、コア部のTgが66℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションG)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0043】
モノマー混合液(g−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA13部、St50部、MAA7部である。モノマー混合物(g−2)の重合組成(シェル部)は、BA11部、MMA16部、MAA3部、である。
【0044】
(参考製造例1)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが0℃、コア部のTgが39℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションH)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0045】
モノマー混合液(h−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA23部、St40部、MAA7部である。モノマー混合物(h−2)の重合組成(シェル部)は、BA17部、MMA10部、MAA3部である。
【0046】
(参考製造例2)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが−14℃、コア部のTgが74℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションI)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0047】
モノマー混合液(i−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA6部、St30部、MAA4部である。モノマー混合物(i−2)の重合組成(シェル部)は、BA40部、MMA14部、MAA6部である。
【0048】
(参考製造例3)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが−5℃、コア部のTgが59℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションJ)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0049】
モノマー混合液(j−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA13部、St56.3部、MAA0.7部である。モノマー混合物(j−2)の重合組成(シェル部)は、BA17部、MMA12.7部、MAA0.3部である。
【0050】
(参考製造例4)
下記モノマー混合液を用いる以外は製造例1と同様の方法で、シェル部のTgが5℃、コア部のTgが76℃、固形分40%のアクリル系樹脂エマルション(エマルションK)を得た。モノマーの配合組成を表2に示す。
【0051】
モノマー混合液(k−1)の重合組成(コア部)は、2−EHA20部、MMA30部、MAA30部である。モノマー混合物(k−2)の重合組成(シェル部)は、BA12.5部、MAA7.5部である。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
<実施例1〜5、比較例1〜3、参考例1〜4>
製造例1〜5で製造したエマルションA〜Eを用い、表3に記載の組成を有する水性フロアーポリッシュ組成物を調製し、その性能を測定した(実施例1〜5)。また、比較製造例1〜2および参考製造例1〜4で製造したエマルションF〜Kを用い、表4に記載の組成を有する水性フロアーポリッシュ組成物を調製し、その性能を測定した(比較例1〜3、参考例1〜4)。
【0055】
【表3】

(注1)炭酸亜鉛溶液:容器に水54.0gを入れ、撹拌しながら酸化亜鉛10gを水中に分散した。28%アンモニア水18g、炭酸アンモニア18gを加え、炭酸亜鉛溶液を得た(亜鉛有効成分8.0%)。
(注2)ワックスエマルション:ハイテックE4B(東邦化学工業社製、固形分40%)
(注3)アルカリ可溶性樹脂:スチレン・マレイン酸アンモニウム溶液(固形分15%)
(注4)濡れ剤:フッ素系界面活性剤サーフロンS−111(セイミケミカル)
【0056】
【表4】

(注1)〜(注4)については、表3におけるものと同様である。
(注5)TBEP:トリブトキエチルホスフェート(可塑剤)
(注6)DEGME:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(皮膜形成助剤)
【0057】
得られた各フロアーポリッシュ組成物について、造膜性、光沢度、耐ヒールマーク性、耐水性、剥離性を測定した。実施例の結果を表5に、比較例および参考例の結果を表6示す。各測定方法は、以下の通りである。
(1)造膜性
JFPA規格−02「試験基材の調整」に準拠して、ホモジニアスビニルタイル(東リ社製、マチコSプレーン)を用いて試料を3回塗布後測定し、以下の基準により評価した。
良好: ポリッシュ皮膜に欠陥が無く,造膜性が良好である。
不良: ポリッシュ皮膜に欠陥(クラック)があり、造膜性が不良である。
【0058】
(2)光沢度
JFPA規格−10「光沢度の測定法方法」に準拠して、コンポジションビニルタイル(東リ社製、ニューマチコV)を用いて試料を3回塗布後測定した。
光沢度(60度鏡面高光沢度)は数値が大きい方が光沢が高い。光沢度60%以上あれば良好な光沢である。
【0059】
(3)耐ヒールマーク性
JFPA規格−11「耐ヒールマーク性の試験方法」に準拠して、コンポジションビニルタイル(東リ社製、ニューマチコV)を用いて試料を3回塗布後測定した。
試験片に付着したヒールマークの度合いを5点法で評価した。
5点:ヒールマークの付着が無い。
4点:ヒールマークが僅かに付着しているが、美観を保っている。
3点:ヒールマークが付着し、美観が実用限界まで低下している。
2点:ヒールマークの付着が多く、見苦しい。
1点:ヒールマークの付着が著しく多い。
【0060】
(4)耐水性
JFPA規格−13「耐水性の試験方法」に準拠して、コンポジションビニルタイル(東リ社製、ニューマチコV)を用いて試料を3回塗布後測定した。
水滴除去後のポリッシュ皮膜に白化現象(艶減少、白く曇る)が有るか否かを調べた。
良好:白化現象無し。
不良:白化現象有り。
【0061】
(5)剥離性
JFPA規格−15「剥離性の試験方法」に準拠して、コンポジションビニルタイル(東リ社製、ニューマチコV)を用いて試料を3回塗布後測定した。
ポリッシュ皮膜の完全除去に要する往復駆動回数を測定した。
優秀:25〜50回で除去できる。
良好:51〜100回で除去できる。
普通:101〜200回で除去できる。
不良:201回以上。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
表5およびbより、本発明のフロアーポリッシュ組成物(実施例1〜5)は造膜性に優れ、光沢度が高く、且つ耐ヒールマーク性に優れていることが分かった。一方、比較例1、3の組成物は造膜性が著しく劣り、実用に耐えないものであった。比較例2の組成物は、皮膜形成助剤を配合した従来のフロアーポリッシュ組成物であり、造膜性に優れ、光沢度が高く、且つ耐ヒールマーク性に優れている。
【0065】
参考例1では、コア部のTgが、本発明の好ましい範囲に比べて小さすぎるため、耐ヒールマーク性に劣っていた。参考例2では、コア部とシェル部の固形分比率において、本発明の好ましい範囲に比べて、コア部の比率が少なすぎるため、耐ヒールマーク性に劣っていた。参考例3では、エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位(MAA単位)の割合が本発明の好ましい範囲と比べ少なすぎるため、剥離性が劣っていた。参考例4では、逆にエチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位(MAA単位)の割合が多すぎるため、耐水性が劣っていた。
【0066】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うフロアーポリッシュ組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂エマルションを含有するフロアーポリッシュ組成物であって、該アクリル系樹脂エマルション中の樹脂粒子がコアシェル構造を有し、該シェル部のTgが−50℃以上20℃以下である、フロアーポリッシュ組成物。
【請求項2】
前記樹脂粒子のコアシェル構造におけるコア部のTgが、50℃以上である、請求項1に記載のフロアーポリッシュ組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子のコアシェル構造における、コア部とシェル部との固形分比率が、質量比で、コア部/シェル部=50/50以上95/5以下である、請求項1または2に記載のフロアーポリッシュ組成物。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位を有する重合体を備え、該エチレン性不飽和カルボン酸由来のモノマー単位の割合が該重合体全体を100質量%として、3質量%以上30質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のフロアーポリッシュ組成物。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸またはメタクリル酸である、請求項4に記載のフロアーポリッシュ組成物。
【請求項6】
揮発性有機化合物を含有しない、請求項1〜5のいずれかに記載のフロアーポリッシュ組成物。

【公開番号】特開2010−95651(P2010−95651A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268597(P2008−268597)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)