説明

フロントウインド支持構造

【課題】簡単な構造でありながら、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができるフロントウインド支持構造の提供を目的とする。
【解決手段】カウルパネル11とダッシュパネル7とで、車両前方に開口を有する開断面13を形成し、開断面13の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材10の下端上面に延びてフロントウインド部材10の下端部をその上面から支持することによりフロントウインド部材10の振動を抑制する支持部材16を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラスを車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを前後方向に仕切るダッシュパネルとを備えたようなフロントウインド支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラスを支持する構造としては、図8に示す構造がある。
すなわち、図8に示すように、エンジンルーム71と車室72とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル73を設け、このダッシュロアパネル73の上端部には、カウルパネル74とダッシュアッパパネル75とを配設し、これら両者74,75間には車幅方向に延びるカウル閉断面76を形成すると共に、このカウル閉断面76を構成するカウルパネル74の上部に、接着剤77を用いてフロントウインドガラス78を取付けたものである。
【0003】
なお、図中、79はカウルフロント、80はカウルグリル、81はボンネット、82はボンネットレインフォースメントであり、また図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0004】
図8に示す従来構造においては、車幅方向に延びるカウル閉断面76が形成されているので、カウル部の剛性が向上、安定した走行性能が得られると共に、カウル閉断面76でフロントウインドガラス78の下端部が支持されているので、車両走行時におけるフロントウインドガラス78先端の揺れもなく、NVH性能(noise ノイズ、vibration 振動、harshness 連成振動に関する性能)を確保することができる利点がある。
【0005】
しかし、図8に示す従来構造においては、次のような問題点があった。
つまり、フロントウインドガラス78は剛性が高いカウル閉断面76で支持されているので、上方からの衝撃荷重の入力に対して充分な衝撃吸収性能が得られない問題点があった。
このような問題点を解決し、車両と歩行者との接触時における歩行者保護を図るためには、図9に示すような、オープンカウル構造が考えられる。
【0006】
図9に示すオープンカウル構造のフロントウインド支持構造は、同図に示すように、エンジンルーム83と車室84とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル85を設け、このダッシュロアパネル85の上端部にダッシュアッパパネル86およびカウルパネル87を配設し、これら両パネル86,87で閉断面を形成することなく、両パネル86,87の車両前方側が開口したオープンカウル構成と成して、上述のカウルパネル87の上部に、接着剤88を用いてフロントウインドガラス89を取付けたものである。
【0007】
なお、図中、90はカウルクロスメンバ、91はクロスレイン、92はカウルグリル、93はボンネット、94はボンネットレインフォースメントであり、また図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0008】
図9に示す従来構造においては、カウル部がオープンカウル構造であるため、上方からの衝撃荷重入力時に充分な衝撃吸収性能が得られ、歩行者保護を図ることができる利点がある。
しかしながら、図9に示す従来構造においては、フロントウインドガラス89の下端部がオープンカウル構造で支持されているので、車両走行時にフロントウインドガラス89の先端の振動に起因してフロントウインドガラス全体が太鼓膜のように振動し、車室内騒音が発生する問題点があった。
【0009】
そこで、近年、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることが要請されており、これら両性能確保の両立を図るものとして、特許文献1、特許文献2に開示された構造がある。
特許文献1に開示された構造は、カウルアウタパネルの前端部とカウルインナパネルの下部壁とを、複数のブレースによって車両上下方向に連結し、この連結構造によりブレースの配設部位ではNV性能確保のための閉断面を形成し、さらに、上記カウルインナパネルの下部側に第1折れ部を設定すると共に、ブレースの中間部に第2折れ部を設定し、かつ上記閉断面の寸法関係および角度の関係を特異に設定して、衝突時に該閉断面が前後に開きながら車両上下方向に重なるように潰れていく構造と成したものである。
【0010】
この特許文献1に開示された従来構造においては、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる利点がある反面、上記閉断面の寸法関係および角度関係を厳密に設定しなければならず、寸法設定、角度設定が複雑で、かつ、カウル周辺のレイアウトに制約を受けるという問題点があった。
【0011】
特許文献2に開示された構造は、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラスの下部を支持するガラス支持部の本体部を開断面状に構成し、本体部の開口部にはレインフォースメントを設け、このレインフォースメントによりガラス支持部の車体上下方向の剛性を確保すると共に、上記本体部の下部前面にエアバッグ装置を配置して、歩行者との衝突時に該エアバッグ装置のエアバッグ袋体を膨張させてレインフォースメントの下部を屈曲するように構成したものである。
【0012】
この特許文献2に開示された従来構造においても、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる利点がある反面、上記レインフォースメントを屈曲させる手段(エアバッグ装置)が別途必要となり、カウル部の構造が複雑化するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−331720号公報
【特許文献2】特開2009−6801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、この発明は、カウルパネルとダッシュパネルとで、車両前方に開口を有する開断面を形成し、この開断面の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材の下端上面に延びて該フロントウインド部材の下端部をその上面から支持することにより該フロントウインド部材の振動を抑制する支持部材を設けることで、簡単な構造でありながら、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができるフロントウインド支持構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明によるフロントウインド支持構造は、フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、を備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネルと上記ダッシュパネルとで、車両前方に開口を有する開断面を形成し、該開断面の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材の下端上面に延びて該フロントウインド部材の下端部をその上面から支持することによりフロントウインド部材の振動を抑制する支持部材を設けたものである。
上述の支持部材は、車幅方向の必要最小限の幅を有すると共に、複数の支持部材が車幅方向に所定の間隔を隔てて配設されることが望ましい。
【0016】
上記構成によれば、支持部材でフロントウインド部材の下端部をその上面から支持しているので、車両走行時におけるフロントウインド部材先端の揺れを防止し、この振動抑制によりNV性能を確保することができる。
【0017】
また、カウルパネルとダッシュパネルとで、閉断面ではなく、車両前方に開口を有する開断面を形成すると共に、上下方向に延びる上記支持部材はフロントウインド部材をその上面から支持するので、上方からの衝撃荷重を、該支持部材がフロントウインド部材をその下方から突っ張ることがなく、歩行者保護を有効に行なうことができる。
要するに、簡単な構成で、厳密な寸法設定や角度設定が不要であるうえ、レインフォースメントを屈曲させる別手段も必要とすることなく、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記支持部材の上端部がフロントウインド部材下端部の上面と当接状態で設けられ、該当接状態が上方からの所定荷重入力により解除されるように構成されたものである。
上述の所定荷重入力により解除される構成は、フロントウインド部材の上面と支持部材の上端部とを接着剤で取付ける構造を採用する場合には、接着剤が所定荷重入力で剥がれるように構成するとよい。
【0019】
上記構成によれば、上方からの所定荷重入力により、フロントウインド部材下端部の上面と、支持部材の上端部との当接状態が解除されるので、上方からの荷重受け時に上記支持部材が歩行者保護性能を阻害しない。このため、歩行者保護を有効に行なうことができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュパネルは、ダッシュアッパパネルとダッシュロアパネルとから構成され、上記支持部材はダッシュアッパパネルから上方に延出されており、上記ダッシュアッパパネルに前方斜め下方へ傾斜する傾斜面部を設け、該傾斜面部に上記支持部材の下端部を取付けるものである。
上記構成によれば、ダッシュアッパパネルに(前低後高状に傾斜する)上述の傾斜面部を設けて、この傾斜面部に支持部材の下端部を取付けるように成したので、該支持部材の取付けは、車両前方から斜め後方下方へ向けて取付けを行なうことになり、組付け性の向上を図ることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、上記支持部材は略直線状に形成され、該支持部材上端部のフロントウインド部材への取付け位置が、該支持部材下端部のダッシュパネルへの取付け位置よりも車両前方に位置するものである。
【0022】
上記構成によれば、上記支持部材は前高後低状の前傾状態(前傾姿勢)で取付けられることになり、空調用の空気を取込む際に重要となる断面積を可及的広く確保することができる。特に、車幅方向の長さが長い支持部材を用いる場合には有効となる。
また、上記支持部材の取付け姿勢が前高後低状の前傾状態であるから、フロントウインド部材に上方から荷重が入力された際、該フロントウインド部材の下動により上記支持部材を前方へ倒す作用を助長することができ、より一層良好な歩行者保護性能の確保を図ることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、上記略直線状の支持部材には変形促進部が形成されたものである。
上述の変形促進部は、支持部材の折れ曲がりの起点または座屈起点となる角部であってもよく、支持部材の変形を促進する脆弱部であってもよい。
上記構成によれば、上方からの荷重入力時に上記変形促進部により支持部材の変形が促進されて容易となるので、衝撃吸収性能のさらなる向上を図ることができる。
【0024】
この発明の一実施態様においては、上記支持部材の上端部は下方へ付勢された状態で取付けられているものである。
上記構成によれば、支持部材の下方への付勢により、該支持部材を介してフロントウインド部材の下端部上面に付勢力が作用するので、車両走行時における該フロントウインド部材の振動をより一層良好に抑制して、NV性能のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、カウルパネルとダッシュパネルとで、車両前方に開口を有する開断面を形成し、この開断面の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材の下端上面に延びて該フロントウインド部材の下端部をその上面から支持することにより該フロントウインド部材の振動を抑制する支持部材を設けたので、簡単な構造でありながら、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のフロントウインド支持構造を備えた車両前部の概略斜視図
【図2】フロントウインド支持構造を示す概略斜視図
【図3】図2のA−A線矢視断面図
【図4】支持部材の組付けを示す側面図
【図5】上方荷重入力時の側面図
【図6】フロントウインド支持構造の他の実施例を示す側面図
【図7】上方荷重入力時の側面図
【図8】従来のフロントウインド支持構造を示す側面図
【図9】従来のオープンカウル構造のフロントウインド支持構造を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
簡単な構造でありながら、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図るという目的を、フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、を備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネルと上記ダッシュパネルとで、車両前方に開口を有する開断面を形成し、該開断面の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材の下端上面に延びて該フロントウインド部材の下端部をその上面から支持することによりフロントウインド部材の振動を抑制する支持部材を設けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0028】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はフロントウインド支持構造を示し、図1は該フロントウインド支持構造を備えた車両前部の斜視図、図2はフロントウインド支持構造を示す概略斜視図、図3は図2のA−A線矢視断面図である。
【0029】
図1において、エンジンルーム5(図3参照)の上方を開閉可能に覆うボンネット1を設け、このボンネット1の下面には図3に示すようにボンネットレインフォースメント2を一体的に接合固定している。
【0030】
また、図1に示すように、エンジンルーム5の前方部に位置してフロントバンパの外表面を構成するバンパフェイス3を設けると共に、エンジンルーム5の側方部に位置してボンネット1の側部と、バンパフェイス3の後部と、図示しないフロントピラーの下部およびヒンジピラーの前部との間を覆うフロントフェンダパネル4を設けている。
さらに、図3に示すうように、エンジンルーム5と車室6とを前後方向に仕切るダッシュパネル7を設けている。このダッシュパネル7は上側に位置するダッシュアッパパネル8と、下側に位置するダッシュロアパネル9とを備えている。
【0031】
これらダッシュアッパパネル8およびダッシュロアパネル9は、図2に示すように、何れも車幅方向の略全幅にわたって延びるパネル部材であって、ダッシュロアパネル9は、図3に示すように、上下方向に延びる主体部9aと、この主体部9aの上端9bから車両前方に延びる取付け片9cとを備えている。
また、上述のダッシュアッパパネル8は、図3に示すように、その前後方向の中間部に上記取付け片9cに溶接固定される取付け片8aと、この取付け片8aの後端から上方に立上がる立上り片8bと、この立上り片8bの後端から後方に延びる取付け片8cと、上述の取付け片8aの前端から車両前方に延びる延出片8dとを有し、この延出片8dの基部には、前方斜め下方へ傾斜、つまり前低後高状に傾斜する傾斜面部8eが一体形成されている。ここで、該傾斜面部8eの傾斜角度は、後述する支持部材16の組付け性を考慮して鋭角に設定される。
【0032】
上述のダッシュアッパパネル8には、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラス10を車室内側から支持するカウルパネル11が取付けられている。
このカウルパネル11も車幅方向の略全幅にわたって延びるパネル部材であって、該カウルパネル11はその前側上部に位置するウインド支持部11aと、後側下部に位置する取付け片11bとを備えており、この取付け片11bをダッシュアッパパネル8の取付け片8cに溶接固定することで、カウルパネル11をダッシュアッパパネル8に取付けたものである。
【0033】
上述のカウルパネル11のウインド支持部11a上面には、接着剤12を用いて、フロントウインドガラス10の傾斜下端部を支持させている。
しかも、上述のカウルパネル11と、ダッシュアッパパネル8とで、車両前方に開口を有する開断面13を形成している。
【0034】
この開断面13の前側下部に対応して、上述のダッシュアッパパネル8の延出片8dのさらに前方には、カウルクロスメンバ14とクロスレインフォースメント15とを配設している。これらカウルクロスメンバ14およびクロスレインフォースメント15も車幅方向の略全幅にわたって延びる部材である。
【0035】
さらに、上述の開断面13の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインドガラス10の傾斜下端の上面に延びて該フロントウインドガラス10の傾斜下端部をその上面から支持することにより、該フロントウインドガラス10の振動を抑制する支持部材16を設けている。
この支持部材16は、図2に示すように、車幅方向に所定の間隔を隔てて複数設けられている。この実施例では、図2に示すように、車幅方向の中央に位置する支持部材16と、車幅方向の左側中間部に位置する支持部材16と、車幅方向の右側中間部に位置する支持部材16とを用いているが、該支持部材16の配置数量はこの実施例のものに限定されるものではない。
【0036】
図3に示すように、上述の支持部材16は、上下方向に延びる支持部材本体16aと、この支持部材本体16aの上端から後方に延びてフロントウインドガラス10の傾斜下端部の上側に位置する上端部16bと、支持部材本体16aの下端から前方に延びる取付け片としての下端部16cと、を備えている。
そして、この支持部材16の上端部16bは、フロントウインドガラス10の傾斜下端部の上面と当接状態で設けられており、この当接状態が上方からの所定荷重入力により、解除されるように構成されている。
【0037】
この実施例では、図3に示すように、支持部材16の上端部16bは、フロントウインドガラス10の傾斜下端部の上面に対して、接着剤17を用いて当接配置されており、上述の所定荷重入力時に、該接着剤17が剥がれることで、両者16b,10の当接状態が解除されるように構成している。
【0038】
この当接状態が解除される構造により、上方からの荷重受け時に支持部材16が歩行者保護性能を阻害することなく、歩行者保護を有効に行なうように構成したものである。
【0039】
また、図3に示すように、上述の支持部材16はダッシュパネル7を構成するダッシュアッパパネル8とダッシュロアパネル9のうち、ダッシュアッパパネル8から上方に延出されており、該支持部材16の下端部16cはダッシュアッパパネル8の傾斜面部8eに取付けられている。
【0040】
この実施例では、ダッシュアッパパネル8の傾斜面部8eの下面に、予めナット18を溶接固定し、このナット18に締付けるボルト19を用いて、支持部材16をダッシュアッパパネル8に取付けるように構成している。
この支持部材16は、フロントウインドガラス10とカウルパネル11との組付け後において、ダッシュパネル7に取付けられるものであって、この支持部材16の組付けに際しては、まず、図4に示すように、該支持部材16の上端部16bをフロントウインドガラス10の傾斜下端部の上面に引掛け、次に、図4に矢印aで示す下向きのテンションをもたせた状態で、ボルト19を用いて、支持部材16の下端部16cをダッシュアッパパネル8の傾斜面部8eにボルト止め固定するものである。
【0041】
つまり、図3に示すように、支持部材16の上端部16bは下方へ付勢された状態で取付けられており、フロントウインドガラス10の傾斜下端部は、同図に示すように支持部材16の上端部16bと、カウルパネル11のウインド支持部11aとの間に挟持固定されると共に、図4に矢印aで示した下向きのテンションにより下方へ付勢されているので、該フロントウインドガラス10の振動が抑制されるように構成している。
【0042】
また、上述の支持部材16の下端部16cを、ダッシュアッパパネル8において前方斜め下方へ傾斜する傾斜面部8eに取付けることで、この支持部材16を車両前方から斜め後方下方へ向けて取付けを行なうことができ、該支持部材16の取付け作業性、組付け性の向上を図ることができる。
【0043】
さらに、上述の支持部材16は、図3に示すように、側面から見て略直線状に形成されており、この支持部材16の上端部16bのフロントウインドガラス10への取付け位置が、該支持部材16の下端部16cのダッシュアッパパネル8への取付け位置よりも車両の前方に位置するように構成されており、この構成により、空調用の空気を取込む際に重要となる断面積を可及的広く確保すると共に、支持部材16の取付け姿勢を前傾状態と成して、フロントウインドガラス10に対する上方からの荷重入力時に、該フロントウインドガラス10の下動による支持部材16の前方への倒伏作用を助長すべく構成したものである。
【0044】
しかも、該支持部材16には、図3に示すように、上記荷重入力時に支持部材16の前方への倒伏(または変形)を促進する目的で、変形促進部としての角部16dを形成し、荷重入力時に該角部16dを支持部材16の折れ曲がりの起点として作用させるように構成している。
【0045】
さらに、図3に示すように、支持部材16における上端部16bと角部16dとの間には、前高後低状に傾斜するスラント部16eを一体形成し、荷重入力時にフロントウインドガラス10が下動する際、このフロントウインドガラス10の傾斜下端を該スラント部16eに当接させ、支持部材16の前方への倒れ動作がより一層確実になるように構成している。
【0046】
ここで、上述の変形促進部としては、支持部材16の前面側、望ましくは下端部16c直近の前面側を凹状に抉って脆弱部を形成し、この脆弱部を変形促進部としてもよく、あるいは、該脆弱部と上記角部16dとを併用してもよい。
なお、図2において、20はボンネット用のヒンジブラケットであり、また、図中、矢印Fは車両前方を示す。
【0047】
このように構成したフロントウインド支持構造の作用を、以下に説明する。
図3に示すように、支持部材16でフロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持しており、また、該フロントウインドガラス10は支持部材16の上端部16bとカウルパネル11のウインド支持部11aとの間で挟持されているので、車両走行時において該フロントウインドガラス10先端の揺れを防止し、この振動抑制によりNV性能を確保することができる。
【0048】
さらに、支持部材16の下方への付勢(図4で示す矢印a方向のテンション参照)により、該支持部材16を介してフロントウインドガラス10の下端部上面は下向きの付勢力が作用しているので、車両走行時において該フロントウインドガラス10の振動をより一層良好に抑制することができ、この結果、NV性能のさらなる向上を図ることができる。
【0049】
また、上述の支持部材16は図3で示したように前高後低状の前傾状態(前傾姿勢)で取付けられているので、空調用の空気を取込む際に重要となる断面積を可及的広く確保することができる。このことは、車幅方向の長さが長い支持部材16を用いる場合に、特に有効となる。
【0050】
ところで、図5に矢印bで示すように該フロントウインドガラス10に対して上方からの所定荷重が入力されると、フロントウインドガラス10は下動を開始し、接着剤17による接着が剥がれることで、支持部材16の上端部16bとフロントウインドガラス10の傾斜下端部上面との当接状態が解徐される。
【0051】
下動するフロントウインドガラス10の傾斜下端が、支持部材16のスラント部16eに当接するので、この支持部材16の前傾が助長され、該支持部材16はその折り曲げ起点としての角部16dを支点として前方へ倒れると共に、該支持部材16の全体も、図5に仮想線で示すノーマル時(所定荷重が入力しない通常時)の状態から同図に実線で示すように変形し、フロントウインドガラス10の下動が許容されることで、歩行者保護を図る。なお、フロントウインドガラス10の下動によりカウルパネル11も図5の仮想線状態から同図の実線状態に変形する。また、ボンネット1も下方へ変形するが、該ボンネット1の変形状態については図示省略している。
要するに、複数の支持部材16はフロントウインドガラス10をその下方から突っ張ることがないので、上方からの荷重入力に際して、該歩行者の保護を有効に行なうことができるものである。
【0052】
このように、図1〜図5で示した実施例のフロントウインド支持構造は、フロントウインドガラス10を車室6内側から支持するカウルパネル11と、エンジンルーム5と車室6とを仕切るダッシュパネル7と、を備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル11と上記ダッシュパネル7とで、車両前方に開口を有する開断面13を形成し、該開断面13の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインドガラス10の下端上面に延びて該フロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持することによりフロントウインドガラス10の振動を抑制する支持部材16を設けたものである(図2、図3参照)。
【0053】
この構成によれば、支持部材16でフロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持しているので、車両走行時におけるフロントウインドガラス10先端の揺れを防止し、この振動抑制によりNV性能を確保することができる。
【0054】
また、カウルパネル11とダッシュパネル7とで、閉断面ではなく、車両前方に開口を有する開断面13を形成すると共に、上下方向に延びる上記支持部材16はフロントウインドガラス10をその上面から支持するので、歩行者がフロントウインドガラス10に当接しても該支持部材16がフロントウインドガラス10をその下方から突っ張ることがなく、歩行者保護を有効に行なうことができる。
要するに、簡単な構成でありながら、厳密な寸法設定や角度設定が不要であるうえ、レインフォースメントを屈曲させる別手段も必要とすることなく、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる。
【0055】
また、上記支持部材16の上端部16bがフロントウインドガラス10の下端部の上面と当接状態で設けられ、該当接状態が上方からの所定荷重入力により解除されるように構成されたものである(図3、図5参照)。
この構成によれば、上方からの所定荷重入力により、フロントウインドガラス10の下端部の上面と、支持部材16の上端部との当接状態が図5に示すように解除されるので、上方からの荷重受け時に上記支持部材16が歩行者保護性能を阻害しないので、歩行者保護を有効に行なうことができる。
【0056】
さらに、上記ダッシュパネル7は、ダッシュアッパパネル8とダッシュロアパネル9とから構成され、上記支持部材16はダッシュアッパパネル8から上方に延出されており、上記ダッシュアッパパネル8に前方斜め下方へ傾斜する傾斜面部8eを設け、該傾斜面部8eに上記支持部材16の下端部16cを取付けるものである(図3参照)。
この構成によれば、ダッシュパネル7に上述の傾斜面部8eを設けて、この傾斜面部8eに支持部材16の下端部16cを取付けるように成したので、該支持部材16の取付けは、車両前方から斜め後方下方へ向けて取付けを行なうことになり、組付け性の向上を図ることができる。
【0057】
加えて、上記支持部材16は略直線状に形成され、該支持部材16上端部16bのフロントウインドガラス10への取付け位置が、該支持部材16の下端部16cのダッシュパネル7への取付け位置よりも車両前方に位置するものである(図3参照)。
この構成によれば、上記支持部材16は前高後低状の前傾状態で取付けられることになり、空調用の空気を取込む際に重要となる断面積を可及的広く確保することができる。特に、車幅方向の長さが長い支持部材16を用いる場合には有効となる。
【0058】
また、上記支持部材16の取付け姿勢が前高後低状の前傾状態であるから、フロントウインドガラス10に上方から荷重が入力された際、該フロントウインドガラス10の下動により上記支持部材16を前方へ倒す作用を助長することができ、より一層良好な歩行者保護性能の確保を図ることができる。
【0059】
さらにまた、上記略直線状の支持部材16には変形促進部(角部16d参照)が形成されたものである(図3参照)。
この構成によれば、上方からの荷重入力時に上記変形促進部(角部16d参照)により支持部材16の変形が促進されて容易となるので、衝撃吸収性能のさらなる向上を図ることができる。
【0060】
また、上記支持部材16の上端部16bは下方へ付勢された状態で取付けられているものである(図3、図4参照)。
この構成によれば、支持部材16の下方への付勢(図4の矢印a方向のテンション参照)により、該支持部材16を介してフロントウインドガラス10の下端部上面に付勢力が作用するので、車両走行時における該フロントウインドガラス10の振動をより一層良好に抑制して、NV性能のさらなる向上を図ることができる。
【実施例2】
【0061】
図6、図7はフロントウインド支持構造の他の実施例を示し、図6は上方からの荷重入力がない通常時の側面図、図7は上方から荷重入力が作用した場合の側面図である。なお、図6、図7において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0062】
この実施例においても、フロントウインドガラス10を車室内側から支持するカウルパネル11と、エンジンルーム5と車室6とを前後方向に仕切るダッシュパネル7と、を備えている。
また、上述のカウルパネル11とダッシュパネル7を形成するダッシュアッパパネル8とで、車両前方に開口を有する開断面13を形成し、この開断面13の開口前方において上下方向に延設されてフロントウインドガラス10の下端上面に延びて該フロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持することによりフロントウインドガラス10の振動を抑制する支持部材16を設けている。
【0063】
さらに、上述の支持部材16には、フロントウインドガラス10の傾斜下端側に出っ張るビード16fを一体形成し、荷重入力によるフロントウインドガラス10の下動時に、このフロントウインドガラス10の傾斜下端で該ビード16fを押圧して、支持部材16を前方に倒すように構成している。
【0064】
すなわち、このビード16fは通常時(非衝突時)における支持部材16の強度向上を図る補強部と、フロントウインドガラス10に対する上方からの荷重入力時において支持部材16の変形を促進する変形促進部とを兼ねるものである。
【0065】
図6において、ダッシュロアパネル9の車室6側の面には、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバ21を接合固定して、ダッシュロアパネル9とダッシュクロスメンバ21との間の閉断面22を形成している。
【0066】
また、カウルクロスメンバ14の前端部上部には、カウルグリル23を設けている。このカウルグリル23は、フロントウインドガラス10の傾斜下端部の上面、詳しくは、支持部材16の上端部16bの上方からボンネット1の後端部下方にわたって前後方向に延びるカウルグリル上部23aと、このカウルグリル上部23aの前端部から下側へ延びるカウルグリル前部23bとを有し、車幅方向の略全幅にわたって設けられたものである。
【0067】
さらに、このカウルグリル前部23bの上部に配設したシール部材24で、カウルグリル23とボンネット1、詳しくは、ボンネットレインフォースメント2との間をシールするように構成している。
このように構成した実施例2のフロントウインド支持構造の作用を、以下に説明する。
【0068】
図6に示すように、支持部材16でフロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持しており、また、該フロントウインドガラス10は支持部材16の上端部16bとカウルパネル11のウインド支持部11aとの間で挟持されているので、車両走行時において該フロントウインドガラス10先端の揺れを防止し、この振動抑制によりNV性能を確保することができる。
【0069】
さらに、支持部材16の下方への付勢(実施例1の図4と同様に組付けられている)により、該支持部材16を介してフロントウインドガラス10の下端部上面は下向きの付勢力が作用しているので、車両走行時において該フロントウインドガラス10の振動をより一層良好に抑制することができ、この結果、NV性能のさらなる向上を図ることができる。
【0070】
また、上述の支持部材16は図6で示したように前高後低状の前傾姿勢で取付けられているので、空調用の空気を取込む際に重要となる断面積を可及的広く確保することができる。このことは、車幅方向の長さが長い支持部材16を用いる場合に、特に有効となる。
【0071】
ところで、図7に矢印bで示すように該フロントウインドガラス10に対して上方からの所定荷重が入力されると、フロントウインドガラス10は下動を開始し、接着剤17による接着が剥がれることで、支持部材16の上端部16bとフロントウインドガラス10の傾斜下端部上面との当接状態が解除される。
【0072】
下動するフロントウインドガラス10の傾斜下端が、支持部材16のビード16fを押圧するので、この支持部材16はその下端部16cの後端角部を支点として前方へ倒れ、図7に仮想線で示すノーマル時(所定荷重が入力しない通常時)の状態から同図に実線で示すように変形し、フロントウインドガラス10の下動が許容されることで、歩行者保護を図る。なお、フロントウインドガラス10の下動によりカウルパネル11も図7の仮想線状態から同図の実線状態に変形する。また、ボンネット1も下方へ変形するが、該ボンネット1の変形状態については図示省略している。
【0073】
このように、図6、図7で示した実施例2のフロントウインド支持構造においても、フロントウインドガラス10を車室6内側から支持するカウルパネル11と、エンジンルーム5と車室6とを仕切るダッシュパネル7と、を備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル11と上記ダッシュパネル7とで、車両前方に開口を有する開断面13を形成し、該開断面13の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインドガラス10の下端上面に延びて該フロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持することによりフロントウインドガラス10の振動を抑制する支持部材を設けたものである(図6、図7参照)。
この構成によれば、支持部材16でフロントウインドガラス10の下端部をその上面から支持しているので、車両走行時におけるフロントウインドガラス10先端の揺れを防止し、この振動抑制によりNV性能を確保することができる。
【0074】
また、カウルパネル11とダッシュパネル7とで、閉断面ではなく、車両前方に開口を有する閉断面13を形成すると共に、上下方向に延びる上記支持部材16はフロントウインドガラス10をその上面から支持するので、フロントウインドガラス10に対して上方からの衝撃荷重が入力しても該支持部材16がフロントウインドガラス10をその下方から突っ張ることがなく、歩行者保護を有効に行なうことができる。
要するに、簡単な構成でありながら、厳密な寸法設定や角度設定が不要であるうえ、レインフォースメントを屈曲させる別手段も必要とすることなく、NV性能の確保と歩行者保護性能の確保との両立を図ることができる。
【0075】
この実施例2においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例1とほぼ同様である。
【0076】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のフロントウインド部材は、実施例のフロントウインドガラス10に対応し、
以下同様に、
変形促進部は、角部16dまたはビード16fに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
5…エンジンルーム
6…車室
7…ダッシュパネル
8…ダッシュアッパパネル
8e…傾斜面部
9…ダッシュロアパネル
10…フロントウインドガラス(フロントウインド部材)
11…カウルパネル
13…開断面
16…支持部材
16b…上端部
16c…下端部
16d…角部(変形促進部)
16f…ビード(変形促進部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、
エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、を備えたフロントウインド支持構造であって、
上記カウルパネルと上記ダッシュパネルとで、車両前方に開口を有する開断面を形成し、
該開断面の開口前方にて上下方向に延設されフロントウインド部材の下端上面に延びて該フロントウインド部材の下端部をその上面から支持することによりフロントウインド部材の振動を抑制する支持部材を設けたことを特徴とする
フロントウインド支持構造。
【請求項2】
上記支持部材の上端部がフロントウインド部材下端部の上面と当接状態で設けられ、
該当接状態が上方からの所定荷重入力により解除されるように構成された
請求項1記載のフロントウインド支持構造。
【請求項3】
上記ダッシュパネルは、ダッシュアッパパネルとダッシュロアパネルとから構成され、
上記支持部材はダッシュアッパパネルから上方に延出されており、
上記ダッシュアッパパネルに前方斜め下方へ傾斜する傾斜面部を設け、
該傾斜面部に上記支持部材の下端部を取付ける
請求項1または2記載のフロントウインド支持構造。
【請求項4】
上記支持部材は略直線状に形成され、
該支持部材上端部のフロントウインド部材への取付け位置が、該支持部材下端部のダッシュパネルへの取付け位置よりも車両前方に位置する
請求項1〜3の何れか1に記載のフロントウインド支持構造。
【請求項5】
上記略直線状の支持部材には変形促進部が形成された
請求項4記載のフロントウインド支持構造。
【請求項6】
上記支持部材の上端部は下方へ付勢された状態で取付けられている
請求項1〜5の何れか1に記載のフロントウインド支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−1005(P2012−1005A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134695(P2010−134695)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】