説明

フロントエンド構造を備えた自動車用の安全装置

本発明は、フロントエンド構造(1)と、該フロントエンド構造(1)を車内(5)から隔てるダッシュパネル(4)と、該ダッシュパネル(4)に固定されかつブレーキシリンダ(9)を備えたブレーキ装置(6)とを備えた自動車用の安全装置に関する。ブレーキシリンダ(9)は、ブレーキ装置(6)を回転させる手段(11)を備えている。前記手段は、衝突時に、フロントエンド構造(1)に配置された構造要素と相互作用する。本発明によれば、自動車の運転者の安全性が向上する。また、本発明は、固定部分と、滑動面が設けられた滑動部分とを備えた、ブレーキ装置を回転させる手段(11)にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントエンド構造と、該フロントエンド構造を車内と隔てるダッシュパネルと、該ダッシュパネルに固定されかつブレーキシリンダを備えたブレーキ装置とを備えた自動車用の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の先行技術から、フロントエンド構造と、該フロントエンド構造を車内と隔てるダッシュパネルとを備えた自動車用の安全装置が知られている。公知のダッシュパネルには、ブレーキシリンダを備えたブレーキ装置が固定されている。さらに、ボディシェル構造のフロントエンド内には、ブレーキ装置のブレーキシリンダに配置された支持アタッチメントと相互作用する機械的強制案内手段が設けられている。車両の衝突時にフロントエンドが変形されると、機械的強制案内手段がブレーキ装置の方向に移動される。変形が十分に大きい場合、機械的強制案内手段がブレーキシリンダの支持フランジに作用して、ブレーキ装置の意図した回転運動が行われる。ブレーキ装置は、車内に突出しているブレーキペダルに連結されている。ブレーキ装置の回転によって、ブレーキペダルが揺動して足元空間から離れる。
【0003】
さらに、フロントエンド構造に配置された構造要素及び組み立て品(例えばエンジンなど)に、ブレーキ装置に割り当てられた特別な強制案内手段を設けることが、先行技術から知られている。このために、例えば、特許文献2を参照する。この先行技術から、ブレーキ装置のブレーキシリンダに、ブレーキ装置を回転させる手段であって、車両の衝突時にフロントエンド構造に配置された構造要素と相互作用する手段を設けることも知られている。
【0004】
【特許文献1】独国特許発明第198 39 521 C1号明細書
【特許文献2】特開平10−338167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フロントエンド構造と、ダッシュパネルと、該ダッシュパネルに固定されたブレーキ装置とを備えた自動車用の安全装置であって、車両の衝突時に、簡単な手段によって、自動車の運転者の足元領域における負傷の危険を軽減する自動車用の安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、請求項1の特徴を有する自動車用の安全装置によって達成される。
【0007】
したがって、本発明は、ダッシュパネルに固定されかつブレーキシリンダを有するブレーキ装置であって、該ブレーキシリンダが、固定部分と滑動面を備えた滑動部分とを有するブレーキ装置を回転させる手段を有している、ブレーキ装置を特徴としている。固定部分によって、滑動部分をブレーキシリンダに容易に連結できる。車両の衝突時にフロントエンド構造が変形されると、滑動面が、フロントエンド構造に配置された構造要素と相互作用する。滑動面を適切に位置合わせすることによって、フロントエンドに配置されたこれらの構造要素の相互作用が、ブレーキ装置の傾動をもたらす。この傾動により、ブレーキ装置に連結されかつ車内に突出しているブレーキペダルが揺動する。これによって、車両の運転者の足元領域における負傷の危険が軽減される。
【0008】
ブレーキ装置を回転させる手段を、ブレーキシリンダの走行方向において前方を向いた端面に割り当てることが考えられる。その結果、滑動部分がフロントエンド構造内の比較的奥まで突出し、それによってブレーキ装置が、上述した傾動によってフロントエンド構造の変形に早期に関与する。このフロントエンドの変形への早期の関与の結果として、ブレーキ装置は比較的大きな回転角度に及ぶことができるので、ブレーキペダルを、足元空間から離れるように確実に揺動できる。
【0009】
ブレーキ装置を回転させる手段は、主ブレーキシリンダに脱着可能に連結することができる。このことは、車種に応じて、あるいは当該車種が右ハンドルか左ハンドルかに応じて、異なる先端部が与えられ得るという利点をもたらす。さらに、それによって、既に設置されたブレーキ装置も容易に上等品へ交換できる。これに加えて、多部品構造の場合には、材料選択が自由であり、ブレーキ装置を回転させる手段のための材料が、ブレーキシリンダの材料に関係なく選択できる。当然ながら、ブレーキシリンダの一部品として、ブレーキ装置を回転させる手段を実現することも考えられ、このことは、2つの別個の構造要素の代わりに単一の構造要素を作製すれば済むため、製造経費の点で利益をもたらす。
【0010】
車両の衝突時に、ブレーキ装置がほぼ水平な軸を中心に回転運動を行うように、滑動面は位置合わせされ得る。この回転運動によって、ブレーキペダルを、自動車の車内の足元空間から離れるように確実に揺動できることが保証される。
【0011】
滑動部分は、互いに所定の態様で配置された4つの面から成り得、そのうちの1つの面が滑動面を形成している。本発明では、これらの面は空洞を囲み得る。この構成は、中実の構造要素と比べて軽量であるという利点をもたらす。複数の面を用いることによって、構造要素の安定性が著しく高められる。4つの面は、例えば、車両の鉛直方向において、長手方向断面が三角形であり、該三角形の1つの角が下向きに位置合わせされるように配置されることができる。
【0012】
滑動部分の面のうちの少なくとも1つの面の壁厚は、下に向かうにつれて厚くなることが考えられる。この実施の形態は、例えば、滑動部分が鋳物として実現されている場合、生産技術要因によって調整され得る。しかしながら、このことはまた、特に滑動面の安定性に関して、さらなる利点をもたらす。
【0013】
空洞には、例えば排出口などの、液体の排水のための手段が設けられ得る。このことは、空洞内に集まる可能性のある、例えばエンジンを洗浄する際に用いられた洗浄剤を容易に流すことができるという利点をもたらす。
【0014】
ブレーキ装置を回転させる手段の固定部分は、例えば孔などの、固定手段用の収容具を有し得る。これらの孔を用いて、固定手段によって特に安価で簡単な方法で、ブレーキ装置を回転させる手段とブレーキシリンダとの間の接続が実現され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、図面に示される例示的な実施の形態を参照しながら、以下により詳細に説明される。
【0016】
乗用車は、基本的に知られているように、ボディシェル部分として、特に2つのフロントエンド縦部材2と、各車両側部にそれぞればねストラットブラケット3又はホイールハウスとを有するフロントエンド構造1(図1に完全には示されていない)を有している。フロントエンド縦部材2は、ダッシュパネル4に合流し、乗員室及び車内の方向において、このダッシュパネル4でフロントエンド構造1が終端している。基本的に知られているように、車内の足元空間5に突出しているのは、ブレーキ装置6に結合されたブレーキペダル7である。ブレーキ装置6は、ダッシュパネル4に固定されている。
【0017】
フロントエンド構造1は、フロントエンジン車両ではエンジンルームとなり、またリアエンジン車両又は中央にエンジンが配置された車両ではトランク又は荷台となるフロントエンド空間を画定する。
【0018】
ブレーキ装置6は、ブレーキブースター8が、フロントエンド空間、すなわち、エンジンルームあるいはトランク又は荷台に対向するダッシュパネル4の側部に配置されるように、ダッシュパネル4に固定される。ブレーキブースター8には、車両の縦方向の前方に、やはりブレーキ装置6の部品である主ブレーキシリンダ9が隣接している。主ブレーキシリンダ9の上には、圧力媒体のリザーバタンク10が、本来知られているように配置され得る。
【0019】
ブレーキ装置6の前端面領域、図示された例示的な実施の形態ではブレーキシリンダ9の前端面領域では、ブレーキ装置6を回転させる手段11が、ブレーキシリンダ9のハウジングに設けられている。この手段11は、図2〜5を参照しながら以下により詳細に説明される。
【0020】
図2には、ブレーキ装置6を回転させる手段11が斜視図で示されている。この手段11は、固定部分12及び滑動部分13を有している。固定部分12は2つの面14及び15から成り、これらの面は互いにほぼ直角になるように位置合わせされている。面15には、固定手段を収容するための2つの孔16が作製されている。
【0021】
滑動部分13は、4つの面14、17、18及び19から成る。面19は、固定部分の面15の延長上に配置され、滑動面を成している。面14は、固定部分12に割り当てられる面14に対応している。面18は、面14に平行に配置されている。これらの2つの面の間には面17が延在している。面14、17、18及び19は、空洞20を囲んでいる。この空洞20は断面が三角形であり、三角形の1つの角が固定部分12、特に固定部分12の面15と境界を接している。設置された状態では、ブレーキ装置を回転させる手段11は、滑動面19が走行方向において前方を向き、面17がブレーキシリンダ9に割り当てられるように配置される。この手段11は、固定部分12によってブレーキシリンダ9に接続されている。ここで、空洞20は上向きに開口している。
【0022】
図3には、手段11が、ブレーキシリンダに割り当てられる面17の側面図で示されている。さらに、2つの互いに平行な面14及び18、ならびに面17の上に突出している面19が見られる。面15が手段11の下端を成している。
【0023】
図4には、手段11が滑動面19の側面図で示されている。面19の他に面15が見られ、面15は手段11の下端を成し、面19に対して横方向に突出している。さらに、端開口21が見られる。この端開口21は、面19を貫通する孔として実現されている。端開口21により、空洞20に収容された液体を確実に流すことができる。
【0024】
図5は、手段11の平面図を示す。この図中の平面には、2つの孔16を備えた面15が配置されている。図中の平面に対して垂直に延在しているのは、面14、18、及び17である。この図では明確ではないが、図中の平面に対して斜めに延在しているのは、滑動面19である。滑動面19には、排出口21も見られる。
【0025】
面14、17、及び18が下方向に向かうにつれて壁厚が厚くなっているのは、図5から明らかである。これらの壁厚は、例えば、上部で4mm、下部で7mmとなり得る。滑動面19は、これに対応して実現され得る。孔16を備えた厚さ7mmの面15により、十分な剛性の構造要素の製造が可能になる。手段11は、例えば鋳物として実現できる。この場合、構造要素の厚さの分配は、生産技術要因によって調整される。
【0026】
本発明による、フロントエンド構造を備えた自動車用の安全装置の動作の仕方は以下に説明される。車両の衝突時に、フロントエンド構造1は、フロントエンド縦部材2及びばねストラットブラケットがダッシュパネルの方向に移動するように変形される。それによって、フロントエンド構造に配置された構造要素も同様に、ダッシュパネルの方向に移動する。変形が十分に大きい場合、ブレーキ装置6の前方を向いた滑動面19が、フロントエンド構造に配置された構造要素にぶつかるモーメントに達することがある。滑動面19の位置合わせによって、ブレーキ装置6が、ほぼ水平な回転軸を中心に回転される。これによって、ブレーキ装置6が傾動を行う。図1に示すように、傾動は、時計回りの方向で実現される。ブレーキ装置6のこの傾動によって、ブレーキ装置6に結合されたブレーキペダル7が、走行方向において前方に移動して足元空間5から離れ、これによって、運転者の足元領域の負傷の危険が軽減される。
【0027】
車両の衝突時のフロントエンドの変形に付随する、車両の縦方向におけるフロントエンド構造のさらなる座屈により、ブレーキペダル7を含めたブレーキ装置6の足元空間5への後方移動が起こる可能性を防ぐために、滑動面19は以下のように設計され得る。すなわち、ダッシュパネル4に対するブレーキ装置6の所定の回転角度から、滑動面19がフロントエンド構造に配置されかつ該滑動面19が相互作用する構造要素から外れ、その結果、さらなるトルクがブレーキ装置6にかからないように滑動面19は設計されている。これにより、ブレーキペダル7の所望の回転退避位置が維持され、ブレーキ装置6が、フロントエンド領域のさらなる変形から生じるブレーキ装置6のさらなる後方移動をもたらさないことが保証される。
【0028】
当然ながら、ブレーキ装置6を回転する手段11がブレーキシリンダと一体で実現されることも考えられる。同様に、例えば締めねじなどの、ブレーキシリンダに存在する固定手段は、滑動面19を備えた滑動部分13を有するように設計され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】フロントエンド構造を備えた自動車用の安全装置の本発明による実施の形態の概略的な側面図を示す。
【図2】本発明によるブレーキ装置を回転させる手段を三次元で示す。
【図3】ブレーキシリンダに対向する側から見た、図2に記載の手段の側面図を示す。
【図4】ブレーキシリンダの反対側から見た、図2に記載の手段の側面図を示す。
【図5】図2に記載の手段の平面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンド構造と、該フロントエンド構造を車内と隔てるダッシュパネルと、該ダッシュパネルに固定されかつブレーキシリンダを備えたブレーキ装置とを備えた自動車用の安全装置であり、前記ブレーキシリンダが、前記ブレーキ装置を回転させる手段を有し、該手段が、車両の衝突時に、前記フロントエンド構造に配置された構造要素と相互作用する安全装置であって、
前記ブレーキ装置(6)を回転させる手段(11)が、固定部分(12)と、滑動面(19)を有する滑動部分(13)とを有することを特徴とする安全装置。
【請求項2】
前記ブレーキ装置(6)を回転させる手段(11)が、前記ブレーキシリンダ(9)の走行方向において前方を向いた端面に割り当てられていることを特徴とする請求項1に記載の安全装置。
【請求項3】
前記ブレーキ装置(6)を回転させる手段(11)が、前記ブレーキシリンダ(9)に脱着可能に接続されていることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の安全装置。
【請求項4】
前記滑動面(19)は、前記ブレーキ装置(6)が車両の衝突時にほぼ水平な軸を中心として回転運動を行うように位置合わせされていることを特徴とする請求項1に記載の安全装置。
【請求項5】
前記滑動部分(13)が、空洞(20)を形成している4つの面(14、17、18、19)を有し、そのうちの1つの面が前記滑動面(19)を成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の安全装置。
【請求項6】
車両の鉛直方向において、前記空洞(20)の長手方向断面が三角形であり、該三角形の1つの角が下向きに位置合わせされていることを特徴とする請求項5に記載の安全装置。
【請求項7】
前記滑動部分の前記面(14、17、18、19)のうちの少なくとも1つの面の壁厚が、下に向かうにつれて厚くなっていることを特徴とする請求項5あるいは6に記載の安全装置。
【請求項8】
前記空洞(20)が、排出口(21)を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の安全装置。
【請求項9】
前記固定部分(12)が、固定手段用の収容具(16)を有することを特徴とする請求項1に記載の安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−522702(P2006−522702A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504447(P2006−504447)
【出願日】平成16年2月21日(2004.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001731
【国際公開番号】WO2004/089710
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】