説明

フロントフォーク

【課題】 たとえば、競技中などの二輪車の走行中に、あるいは、二輪車の走行を中止した停車中に、ライダーが二輪車に跨った状態のまま直ちにエアバネ力を調整できるようにする。
【解決手段】 車体側チューブTと車輪側チューブとからなるフォーク本体内にこのフォーク本体の伸縮作動時に膨縮するエア室Aを有するフロントフォークにおいて、フォーク本体が外部にエア室におけるエア量の調整を可能にするエア量調整機構10を有し、このエア量調整機構10がエア室Aに連通するエア通路11と、このエア通路11に連通する調整用エア室12と、この調整用エア室12を画成するフリーピストン13と、このフリーピストン13を進退させて調整用エア室12を大小するアジャスタ14とを有し、このアジャスタ14が人手による回動操作を可能にしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、二輪車の前輪側に装備されて伸縮作動時にエアバネ力を発揮するフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に装備されて伸縮作動時にエアバネ力を発揮するフロントフォークとしては、これまでに種々の提案があるが、その中で、たとえば、特許文献1に開示の提案にあっては、エアバネ力を調整できる。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示のフロントフォークにあっては、フロントフォークを構成する車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内に収容される作動液体の液体面を境にして画成されてフォーク本体の伸縮作動時に膨縮する気室を有する。
【0004】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案にあっては、フォーク本体内に収容される作動液体量を変更することで気室の容積を変更でき、フォーク本体の伸縮作動時、つまり、フロントフォークの伸縮作動時におけるエアバネ力を調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−257401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、フロントフォークの伸縮作動時におけるエアバネ力を調整するについて、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0007】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、フォーク本体内に収容される作動液体量を変更する際には、フォーク本体を構成する車体側チューブの上端開口を閉塞するキャップ部材の取り外し作業およびその後の復旧作業を要する。
【0008】
それゆえ、たとえば、二輪車のライダーが最適なエアバネ力を得たいとする場合には、降車するのはもちろんのこと、二輪車をスタンド利用などでいわゆる修理態勢にすることが必須になり、しかも、キャップ部材の取り外しやその復旧でエアバネ力の調整作業に時間を要すことになる。
【0009】
また、調整されるエアバネ力は、フォーク本体内に画成される作動液体収容室および気室の容積に依存されるため調整幅が小さく、ライダーの好みに充分に対応できない。
【0010】
そして、この調整幅が小さく、ライダーの好みに充分に対応できないことについては、フォーク本体内に封入されるエア圧を高低調整する場合にも通じる不具合となる。
【0011】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、エアバネ力の調整を容易にできると共に、その調整幅を大きくし得るようにしたフロントフォークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内にこのフォーク本体の伸縮作動時に膨縮するエア室を有するフロントフォークにおいて、上記フォーク本体が外部に上記エア室におけるエア量の調整を可能にするエア量調整機構を有し、このエア量調整機構が上記エア室に連通するエア通路と、このエア通路に連通する調整用エア室と、この調整用エア室を画成するフリーピストンと、このフリーピストンを進退させて上記調整用エア室を大小するアジャスタとを有してなるとする。
【0013】
そして、好ましくは、この発明によるフロントフォークにあっては、上記フォーク本体が上記エア量調整機構を有すると共に、上記エア室における封入エア圧の変更を可能にするエア封入機構を有し、このエア封入機構と上記エア量調整機構とをそれぞれ調整することでエアバネ特性を変更してなるとする。
【発明の効果】
【0014】
この発明にあっては、エア量調整機構における調整用エア室がエア通路を介してフォーク本体内のエア室に連通するから、調整用エア室を画成するフリーピストンが進退されて調整用エア室が大小されることで、フォーク本体内のエア室とエア量調整機構における調整用エア室とを有してなる総エア室の容積の大小変更が可能になる。
【0015】
上記の総エア室の容積が大きくなる場合には、フロントフォークのストロークの後半に比較的揺るやかにエアバネ力が大きくなり、反対に、上記の総エア室の容積が小さくなる場合には、フロントフォークのストロークの後半に比較的急激にエアバネ力が大きくなる。
【0016】
そして、この発明にあって、エア量調整機構を有すると共に、エア室における封入エア圧の変更を可能にするエア封入機構を有することで、総エア室の容積を大小することに加えて、封入されるエア圧を高低することで、より幅広いエアバネ力の調整が可能になる。
【0017】
また、この発明にあって、エア量調整機構における調整用エア室を画成するフリーピストンの進退を人手による回動操作によるとする場合には、二輪車のライダーによる操作を可能にする。
【0018】
その結果、この発明にあっては、フロントフォークにおいて、エアバネ力の調整を容易にできると共に、その調整幅を大きくし得ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態によるフロントフォークの上方側部を示す部分正面図である。
【図2】この発明の一実施形態によるフロントフォークの上端側部を示す横断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態によるフロントフォークの上端側部を示す部分横断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態によるフロントフォークの上端側部を示す部分横断面図である。
【図5】この発明のフロントフォークにおける収縮ストロークに対するエアバネ力の変化状態を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、左右で一対となるフロントフォークを二輪車の前輪側に装備するについては、図1の実施形態に示すように、二本のフロントフォークの上端側部をあらかじめブリッジ機構Bで一体化し、図示しないが、二輪車の前輪側に装備後、各フロントフォークにおける下端部を前輪の車軸に連結させて前輪を左右から挟むようにして懸架する。
【0021】
ブリッジ機構Bは、フロントフォークにおける上端側部の上方側部に連結されて二輪車におけるハンドル(図示せず)を連結させるアッパーブラケットB1と、このアッパーブラケットB1の下方に位置決めされてフロントフォークにおける上端側部の下方側部に連結されるアンダーブラケットB2とを有してなる。
【0022】
このとき、アッパーブラケットB1およびアンダーブラケットB2は、両端部に形成の割り構造の取り付け孔(図示せず)にフロントフォークにおける上端側部、すなわち、車体側チューブTの上端側部を挿通させて一体的に把持する。
【0023】
また、このブリッジ機構Bにあっては、アッパーブラケットB1とアンダーブラケットB2とを一体的に連結する一本のステアリングシャフトSを両者の中央に有する。
【0024】
このステアリングシャフトSは、二輪車における車体の先端部を構成するヘッドパイプ(図示せず)内に回動可能に導通されて回転中心になり、ハンドル操作でブリッジ機構Bが回転されるとき、二本のフロントフォークを介しての前輪における左右方向への転舵を可能にする。
【0025】
ところで、この発明によるフロントフォークは、上端側部材とされる車体側チューブT内に図示しない下端側部材とされる車輪側チューブが出入可能に挿通される、つまり、テレスコピック型に形成されるフォーク本体(符示せず)を有し、このフォーク本体内に収容される作動油で代表される作動液体の液面で画成されるエア室A(図2参照)を有する。
【0026】
また、この発明によるフロントフォークにあっては、このフォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧で車体側チューブT内から車輪側チューブが突出する伸長方向に附勢される。
【0027】
そして、このフォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧は、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上となるとして、フォーク本体が最伸長状態から反転して収縮作動を開始する当初から、たとえば、フォーク本体に内蔵のダンパ内の減衰部による減衰作用がいわゆる遊びなくして設定通りになされるとしている。
【0028】
そしてまた、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧については、フロントフォークが二輪車の前輪側に装備される状況では、わずかではあるが収縮状態になることでエア圧が大気圧以上になるから、その意味では、最伸長状態時に大気圧以上になっていなくても良いと言い得る。
【0029】
ちなみに、この発明のフロントフォークにあっては、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧によって伸長方向に附勢されるから、たとえば、従前のフォーク本体内に収装の懸架バネによって伸長方向に附勢されるフロントフォークに比較して、懸架バネを有しないとき、その分全体重量の軽減化に寄与する利点がある。
【0030】
もっとも、この発明が意図するところからすると、フロントフォークがフォーク本体内にエア室Aを有すれば良く、フロントフォークがフォーク本体内に懸架バネを収装するか収装しないかは問題ではなく、フォーク本体内に懸架バネを収装しても、この発明の成立を妨げるものではない。
【0031】
なお、フォーク本体にあっては、図示しないが、車体側チューブTと車輪側チューブとの間に上下となって離間配置される軸受を有すると共に、この上下の軸受で画成される潤滑隙間を有し、この潤滑隙間にフォーク本体内に収容の作動油で代表される作動液体が流入することで、車体側チューブTと車輪側チューブとの間における同芯となる摺動と潤滑を保障する。
【0032】
そして、同じく図示しないが、車体側チューブTの下端部となる開口端部を形成するシールケース部の内側には、車輪側チューブの外周に摺接する下方軸受の下方に直列するようにオイルシールおよびダストシールが配設され、オイルシールでフォーク本体内を密封空間にし、ダストシールで車輪側チューブの外周に付着するダストのオイルシール側への侵入を阻止して、オイルシールにおけるシール機能を保障する。
【0033】
さらに、フォーク本体にあって、車体側チューブT内に車輪側チューブが大きいストロークで没入する最収縮作動時には、それ以上の収縮を阻止するべく、図示しないが、車輪側チューブの上端が車体側チューブT側に当接される設定とされ、また、オイルロック機構で最収縮作動時の底突きが阻止される。
【0034】
そしてさらに、フォーク本体にあって、車体側チューブT内から車輪側チューブが大きいストロークで突出する最伸長作動時には、図示しないが、多くの場合に、ダンパが収装する伸び切りバネが最収縮し、この伸び切りバネの最収縮でいわゆる衝撃吸収が実現されると共に、フォーク本体の最伸長時の長さが規制される。
【0035】
ところで、この発明によるフロントフォークにあっては、上記のオイルシールの配設で密封空間となる内部、すなわち、フォーク本体内をリザーバ(符示せず)に設定する。
【0036】
このリザーバは、所定量の作動液体を収容すると共に、前記したように、作動液体の液面を境にして画成される気室Aを有し、この気室Aは、同じく前記したように、フォーク本体の伸縮作動時に同期して膨縮して、この膨縮の際に所定のエアバネ力を発生する。
【0037】
ちなみに、上記の気室Aは、車体側チューブTの上端開口を閉塞するキャップ部材T1に配設される任意構造のバルブを介して封入されるエア圧を高低調整し得るとしても良い。
【0038】
しかしながら、この発明にあっては、後述する連結部材たるエア封入治具Jが有する封入バルブVでフォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧を高低し得るので、上記のバルブがあらためて上記のキャップ部材T1に、つまり、車体側チューブTの上端部に配設されていなくても良いと言い得る。
【0039】
そして、キャップ部材T1が上記のバルブを有しないとする場合には、キャップ部材T1の構成を簡素化でき、たとえば、部品コストの低減を可能にし、あるいは、図示しないが、減衰力調整用のアジャスタや、さらには、懸架バネのバネ力調整用のアジャスタを設けることを容易にするなどの利点を生む。
【0040】
一方、上記のフォーク本体は、図示しないが、作動液体を収容してリザーバとされる内部にダンパ(符示せず)を有し、このダンパは、たとえば、正立型に設定されるとき、車体側チューブTの軸芯部に垂設される上端側部材たるロッド体の先端側部を車輪側チューブの軸芯部に立設される下端側部材たるシリンダ体内に出入自在に挿通させてなる。
【0041】
このことから、フォーク本体内のエア室Aにあっては、図示しないが、ロッド体が軸芯部に位置決めされる状態を呈し、また、上記のダンパが倒立型に設定される場合には、ロッド体に代えて、シリンダ体が上記のエア室Aの軸芯部に位置決められる状態を呈する。
【0042】
ちなみに、図示しないが、フォーク本体の軸芯部に配設されるダンパにあっては、凡そこの種のダンパがそうであるように、たとえば、シリンダ体内に摺動可能に収装のピストン体が減衰手段を有し、それゆえ、ピストン体によってシリンダ体内に画成されるロッド側室とピストン側室とが減衰手段を介して連通するときに所定の減衰作用が具現化される。
【0043】
上記したところは、この発明によるフロントフォークにおける言わば基本的な構成であるが、この発明にあっては、フロントフォークが以下の構成を有する。
【0044】
すなわち、この発明のフロントフォークにあっては、図2に示すように、エア量調整機構10を有し、このエア量調整機構10の作動するところによって、フロントフォークの伸縮作動時に膨縮されるエア室A、すなわち、詳しくは後述するが、エア室Aを含む総エア室の容積が大小変更されてエアバネ力が調整される。
【0045】
そこで、以下には、このエア量調整機構10について説明するが、この発明にあって、エア量調整機構10は、フォーク本体内のエア室Aに連通するエア通路11と、このエア通路11に連通する調整用エア室12と、この調整用エア室12を画成するフリーピストン13と、このフリーピストン13を進退させて調整用エア室12を大小するアジャスタ14とを有し、このアジャスタ14が人手による回動操作、つまり、進退を可能にしてなる。
【0046】
すなわち、図2に示す実施形態では、フロントフォークは、左右となる一対とされるが、この発明が意図するところからすると、エア量調整機構10が設けられるフロントフォークは、一本であっても良く、左右の一対とされることを要しない。
【0047】
つまり、近年では、左右の一対とされるフロントフォークのいずれか一方のフロントフォークにあって、フォーク本体がダンパを有して減衰作用を負担し、いずれか他方のフロントフォークにあって、フォーク本体がダンパを有せずしてバネ力、特に、懸架バネを有するか有しないかに拘りなく、エアバネ力を負担するエア封入タイプとされる場合がある。
【0048】
この発明は、フロントフォークが上記のような一本となるエア封入タイプとされる場合にも実施可能とされるが、その一方で、一対とされて左右配置とされるフロントフォークが左右ともフォーク本体内にダンパを有すると共にエアバネ力の発揮を可能にする同じ構成からなる場合も多くあることを鑑みて、図示するところでは、フロントフォークが左右の一対とされる場合を例にする。
【0049】
ちなみに、図示するところでは、フロントフォークが左右で一対とされ、この左右となる各フロントフォークにおけるフォーク本体内のエア室Aにエア量調整機構10が連通されるので、左右のフロントフォークにおけるフォーク本体内のエア室Aを含む総エア室の容積が大小変更される。
【0050】
ところで、この発明におけるエア量調整機構10は、図2に示す実施形態では、フォーク本体の上端側部に連結のエア封入治具Jに連結されるハウジング15を有し、このハウジング15内に上記のフリーピストン13を摺動可能に収装して上記の調整用エア室12を画成する。
【0051】
そして、この調整用エア室12は、エア封入治具Jにおける連結部J1に形成の連通孔16を介して同じくエア封入治具Jの連結部J1に形成の上記のエア通路11に連通し、このエア通路11がエア封入治具Jの両端把持部J2に把持されるフォーク本体における車体側チューブTの上端側部に開穿の連通孔17を介してこの車体側チューブTの内側に形成のエア室Aに連通する。
【0052】
ちなみに、連結部J1に形成される連通孔16および車体側チューブTの上端側部に開穿の連通孔17は、このエア量調整機構10におけるエア通路11に連通するもので、その意味では、このエア通路11を構成すると言い得る。
【0053】
上記エア通路11は、図示するところでは、エア封入治具Jの連結部J1に、つまり、エア封入治具Jの両端把持部J2と一体に形成される連結部J1に形成されるが、このエア通路11が調整用エア室12をエア室Aに連通させる機能からすれば、このエア通路11を形成させる構成については任意とされて良く、たとえば、図示しないが、両端部にエア封入治具Jにおける両端把持部J2を連結させる耐圧性のフレキシブルなホースからなるとしても良い。
【0054】
なお、上記の連結部J1に形成されるエア通路11は、これがエア封入治具Jの連結部J1に形成されるのに際して、加工の関係から、図2中で右端となる一端が両端把持部J2のいずれか一方、つまり、図2中で右方となる一方の外周に開口することになるので、エア通路11の一端側に鋼球18が圧入されて言わば開口が封止される。
【0055】
ちなみに、後述する図4の実施形態に示すように、上記のエア通路11に耐圧性のフレキシブルな管路Lを介していわゆる外置きのエア量調整機構10が連結される場合には、上記の鋼球18の配設が省略されるのはもちろんである。
【0056】
また、調整用エア室12をエア通路11に連通させる上記の連通孔16については、図4の実施形態に示すように、ハウジング15に連通孔19として形成されるとしても良い。
【0057】
一方、ハウジング15については、図2に示すところでは、図2中で上下方向となる軸線方向がフォーク本体の軸線を横切ることになる水平方向に延在されるように配設されるが、これに代えて、図3の実施形態に示すように、軸線方向がフォーク本体の軸線方向に沿うことになる縦方向になるように配設されるとしても良い。
【0058】
この図3に示す実施形態の場合には、後述するアジャスタ14の後端たる操作端が下方に向けて延在されるので、図2に示す実施形態の場合にように、アジャスタ14の後端たる操作端が図中で上方に、つまり、二輪車にあって前輪側となる前方に向けて延在される場合に比較して、二輪車のシートに着座するライダーからするとアジャスタ14に対する操作性が良い点で有利になろう。
【0059】
そして、このハウジング15を設ける部位については、詳しくは図示しないが、図2中に二点鎖線で仕切られる空間Jaとされても良く、この場合には、エア量調整機構10が空間Jaに位置決めされて二輪車の前方に向けていわゆる突出しない点で有利となる。
【0060】
また、ハウジング15を有するエア量調整機構10は、エア封入治具Jに一体に形成されるのに代えて、図4に示す実施形態のように、エア封入治具Jと別体とされてエア量調整機構10におけるエア通路11を構成する耐圧性のフレキシブルな管路Lでエア封入治具Jに連結されるとしても良い。
【0061】
ちなみに、この図4に示すところにあって、エア量調整機構10における調整用エア室12は、ハウジング15に形成されてエア量調整機構10におけるエア通路11を構成する連通孔19および同じくエア量調整機構10におけるエア通路11を構成する管路Lを介してエア封入治具Jに形成のエア通路11に連通するのはもちろんである。
【0062】
ハウジング15内に収装されるフリーピストン13は、ハウジング15内におけるいわゆる漏れを回避するためのシール13aを介装させると共に、このシール13aに適宜の間隔を有して直列してハウジング15内でのフリーピストン13の傾斜を阻止する軸受13bを有してなる。
【0063】
ちなみに、シール13aおよび軸受13bは、それぞれフリーピストン13の外周に形成の環状溝(符示せず)に嵌装されて外周をハウジング15の内周に摺接させる。
【0064】
アジャスタ14は、螺条軸14aをハウジング15の厚肉に形成の後端部15aに螺装させ、この螺条軸14aの図2中で下端となる先端をフリーピストン13の図中で上端となる後端に当接させている。
【0065】
それゆえ、このアジャスタ14にあっては、図2中で上端部となる後端部たる操作部14bを回動するとき、ハウジング15内でフリーピストン13を進退させることになる。
【0066】
ちなみに、アジャスタ14を回動操作して、これを後退させるとき、フリーピストン13の図2中で下端面となる先端面にはエア室Aからのエア圧が作用しているので、フリーピストン13がアジャスタ14の螺条軸14aにおける先端から離座しない。
【0067】
また、アジャスタ14における螺条軸14aは、先端近傍にスナップリングからなるストッパ14cを嵌装させており、このストッパ14cがハウジング15の後端部15aに干渉することでハウジング15内からのアジャスタ14の抜け出しが阻止される。
【0068】
なお、上記のアジャスタ14は、ハウジング15からすると外部に突出することになるので、図2中に二点鎖線図で示すように、たとえば、合成樹脂材からなるキャップCで被覆されて、飛び石による被害を回避し、泥の付着を阻止するとしても良い。
【0069】
このとき、このキャップCのハウジング5への連結態様は、任意とされて良いが、好ましくは、二輪車の荒地走行などの際にも、簡単に脱落しないように、螺着されるなど、固定的に連結されるのが良い。
【0070】
以上のように形成されたエア量調整機構10にあっては、フォーク本体内のエア室Aに連通して大小可能とされる調整用エア室12を有してなるから、この調整用エア室12が大小されるとき、主に、エア室A,エア通路11および調整用エア室12で形成される総エア室の容積が大小変更される。
【0071】
図5は、フォーク本体の収縮ストロークに対するエアバネ力の変化状態をPV曲線で示す特性図であるが、この図5において、a線で示すところは、言わばエア室Aへの封入圧を変更せず、また、総エア室における容積を変更しない場合の特性となる。
【0072】
それに対して、エア室Aへの封入圧を変更しないが、総エア室における容積を変更して大きくする場合には、図5中のb線で示す特性が得られ、逆に、エア室Aへの封入圧を変更しないが、総エア室における容積を変更して小さくする場合には、図5中のc線で示す特性が得られる。
【0073】
すなわち、フロントフォークにおけるエア室Aへの封入圧を変更しないまま、フロントフォークにおけるエア室Aを含む総エア室の容積を大きくする場合には、図5中にb線で示すように、フロントフォークの収縮ストロークの後半に比較的揺るやかにエアバネ力が大きくなる。
【0074】
それに対して、フロントフォークにおけるエア室Aへの封入圧を変更しないままであるが、フロントフォークにおけるエア室Aを含む総エア室の容積を小さくする場合には、図5中にc線で示すように、フロントフォークの収縮ストロークの後半に比較的急激にエアバネ力が大きくなる。
【0075】
ちなみに、上記したエアバネ力の調整は、図示する実施形態では、エア封入治具Jが左右のフォーク本体におけるエア室Aを連通するので、左右のエアバネ力が同時に調整される。
【0076】
その結果、左右のフォーク本体におけるエア室Aの容積が別々に変更される場合に比較して、左右のフォーク本体におけるエアバネ力の調整状態をバランスさせることが可能になる。
【0077】
尤も、エア量調整機構10が左右あるうちの一方のフォーク本体に設けられる場合には、言わば単独でエア室Aを含む総エア室の容積を変更することになるが、左右となるフォーク本体は、上端側部がブリッジ機構Bで一体的に連結され、下端部が前輪の車軸で一体的に連結されるから、一方のフォーク本体における総エア室の容積が変更されることによるエアバネ力の効果に問題を生じない。
【0078】
そして、この発明にあっては、上記のエア室Aを含む総エア室における容積の変更をエア量調整機構10におけるアジャスタ14に対する回動操作で実現し得るから、人手、つまり、二輪車のライダーによる操作でこれを実現し得ることになる。
【0079】
そしてまた、この二輪車のライダーによる調整操作は、競技中などの二輪車の走行中にも可能になり、また、二輪車が走行を中止した停車中にあっても、停車中の二輪車から降車せずして二輪車に跨った状態のまま上記の調整操作を実現し得ることになり、フロントフォークにおけるエアバネ力を迅速に調整できることになる。
【0080】
さらに、この発明におけるエア量調整機構10にあっては、フォーク本体内に収容される作動液体の量を変更することなく、エア室Aを含む総エア室における容積を変更できるから、前記した特許文献1に開示の提案に比較して、フォーク本体の上端開口を閉塞するキャップ部材T1(図1参照)の取り外しやその復旧が必須とされず、エア室Aを含む総エア室における容積を大小変更する作業を迅速に実現できる。
【0081】
のみならず、エア室Aを含む総エア室における容積の変更に際して、フォーク本体内に収容される作動液体量を変更しないので、フロントフォークにおける重量を変更させず、したがって、フロントフォークにおける重量が変化することに起因する乗り心地の好ましくない変化の招来を回避できる点で有利となる。
【0082】
ところで、前記したところでは、この発明のフロントフォークにあっては、エア量調整機構10をフォーク本体の上端側部に連結されるエア封入治具Jに設けるとするが、このエア封入治具Jは、エア圧給排源と分離可能に設定される封入バルブVを有し、この封入バルブVを利用してのフォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧、つまり、エア室Aを含む総エア室における封入圧を高低調整できるとする。
【0083】
言い換えれば、前記したエア量調整機構10が、エア室Aを含む総エア室の容積を大小変更し得るとするのに対して、このエア封入治具Jは、エア室Aを含む総エア室における封入圧を高低変更し得るエア封入機構としての封入バルブVを有してなるとする。
【0084】
その結果、前記したエア量調整機構10の利用に併せてエア封入治具Jが利用される場合には、エア室Aを含む総エア室における容積、つまり、総エア室のボリュームを変更できると共に総エア室における封入圧を変更できるから、エアバネ力の調整幅が増大することになり、その分、二輪車における乗り心地をライダーの好みに応じて任意に選択できることになる。
【0085】
ちなみに、封入バルブVを利用してのエア室Aにおける封入圧の変更は、封入バルブVを介してエア封入治具Jに外部に準備のエア圧給排源を連結することで実現される。
【0086】
このとき、封入バルブVは、これまでに周知されている封入バルブと同様に構成されていて、エア圧給排源が接続されるとき、このエア圧給排源とフォーク本体内のエア室Aとの間におけるエアの往復を許容すると共に、エア圧給排源が分離されるときのいわゆる遮断動作で、フォーク本体内のエア室Aに供給したエア圧を封入して、この封入されたエア圧が外部に漏出することを阻止する。
【0087】
そして、このエア封入治具Jにあっては、封入バルブVに連通するエア通路11を介して一対のフォーク本体内のエア室Aを連通するから、一対のフォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧を同じにする。
【0088】
したがって、このエア封入治具Jにあっては、エア封入治具Jが有する封入バルブVにエア圧給排源を接続すると共に、エア圧給排源からのエア圧をフォーク本体内のエア室Aに供給するとき、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧を高くする。
【0089】
そして、このエア封入治具Jにあっては、上記と逆に、封入バルブVを介してフォーク本体内のエア室Aからエア圧を抜くときに、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧を低くする。
【0090】
ちなみに、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧が高くなるとき、高くなったエア室Aのエア圧がフォーク本体を伸長させるエアバネ力を大きくし、逆に、フォーク本体内のエア室Aにおけるエア圧が低くなるとき、低くなったエア室Aのエア圧がフォーク本体を伸長させるエアバネ力を小さくする。
【0091】
一方、この発明にあっては、封入バルブVがエア封入治具Jに設けられてエア圧給排源と分離可能に設けられるとするから、二輪車にあっては、エア圧給排源を装備することを要請されず、したがって、二輪車における車体重量の軽減化に寄与すると言い得る。
【0092】
さらに、封入バルブVに接続されるエア圧給排源については、二輪車に搭載されずしていわゆる外部に別置きとされ、したがって、エア圧給排源を二輪車に常時装備する場合に比較して、二輪車においていわゆるレイアウトを考慮する必要がなく、したがって、その意味では、言わば既存の二輪車にエア封入治具Jを設けることを容易にする利点がある。
【0093】
また、この発明にあって、エア封入治具Jは、左右のフォーク本体の上端側部に配設されるとし、したがって、この左右のフォーク本体の上端側部にはヘッドライトや風防、さらには、ゼッケンプレートなどの言わば遮蔽物が近隣配置されるので、左右のフォーク本体の上端側部にエア封入治具Jを設けていることおよび前記したエア量調整機構10を設けていることを外からの観る者に容易に視認されないことになる。
【0094】
次に、この発明にあっては、図2に示すように、上記した封入バルブVが左右のフォーク本体の上端側部における二輪車のシート側となる裏側に位置決めされるとして、この発明によるエア封入治具Jを装備している状態を外からの観者に容易に視認できないように配慮している。
【0095】
つまり、エア封入治具Jにおける封入バルブVは、左右のフォーク本体の上端側部における二輪車のシート側(図示せず)となる裏側に位置決めされている。
【0096】
それゆえ、二輪車を二輪車の前から二輪車の後輪側に向けて見る外からの観者にすれば、フォーク本体の上端側部の裏側にエア封入治具Jを設けていることおよび封入バルブVがあることを視認できない。
【0097】
また、二輪車を二輪車の前から二輪車の後輪側に向けて見るとき、フロントフォークの上端側部には、ヘッドライトが近設されていたり、風防が設けられていたりし、特に、オフロード車にあっては、ゼッケンプレートが設けられていたりする。
【0098】
このことから、上記のヘッドライトやゼッケンプレートは、言わば、遮蔽物となり、フォーク本体の上端側部における裏側の状態を容易に視認させない。
【0099】
このことからして、この発明を具現化する二輪車にあっては、左右のフォーク本体の上端側部における二輪車のシート側となる裏側にエア封入治具Jを装備している状態およびこのエア封入治具Jにおける封入バルブVがある状態を外からの観者に容易に視認できないことになる。
【0100】
したがって、この発明にあっては、二輪車の前から二輪車の後輪側を見る外からの観者に、エア封入治具Jが配設されていることを視認させず、その結果、エア封入治具Jが配設されていることを視認することに起因する違和感を持たすことがない。
【0101】
そして、二輪車のライダーにあっては、フロントフォークにエア封入治具Jを配設していることを視認されることに起因する違和感を外からの観者に持たれずに二輪車に搭乗できることになる。
【0102】
前記したエア量調整機構10と上記のように構成されたエア封入治具Jとを併用する場合のエアバネ特性について観察すると、図5中のd線あるいはe線で示す特性が得られる。
【0103】
つまり、エア封入治具Jの利用で総エア室への封入圧を高くする一方で、エア量調整機構10の利用で総エア室における容積を大きくする場合には、図5中のd線で示す特性が得られ、逆に、エア封入治具Jの利用で総エア室への封入圧を低くする一方で、エア量調整機構10の利用で総エア室における容積を小さくする場合には、図5中のe線で示す特性が得られる。
【0104】
以上からすると、エア封入治具Jの構成については、任意に選択でき、たとえば、前記したように、連結部J1が両端把持部J2と一体に形成されるのに代えて、両端部にエア封入治具Jの両端把持部J2を連結させる耐圧性のフレキシブルなホースで連結部J1が形成されるとしても良い。
【0105】
また、エア封入治具Jにあって、連結部J1が両端把持部J2と一体に形成されてなるとする場合に、このエア封入治具J自体が前記したブリッジ機構Bを構成するアッパーブラケットB1からなるとしても良い。
【0106】
そしてまた、封入バルブVが機能するところを勘案すると、この封入バルブVがエア量調整機構10を構成するハウジング15に連結されて調整用エア室12に連通されるとしても良く、この場合には、エア封入治具Jの構成を簡素化できる点で有利となる。
【0107】
さらに、封入バルブVが機能するとことからすれば、この封入バルブVがフォーク本体を構成する車体側チューブTの上端開口を閉塞するキャップ部材T1に設けられてエア室Aに直接連通するとしても良く、この場合にも、エア封入治具Jの構成を簡素化できる。
【符号の説明】
【0108】
10 エア量調整機構
11 エア通路
12 調整用エア室
13 フリーピストン
13a シール
13b 軸受
14 アジャスタ
14a 螺条軸
14b 操作部
15 ハウジング
15a 後端部
16,17,19 連通孔
18 鋼球
A エア室
B ブリッジ機構
B1 アッパーブラケット
B2 アンダーブラケット
J 連結部材たるエア封入治具
J1 連結部
J2 両端把持部
Ja 空間
T 車体側チューブ
T1 キャップ部材
V エア封入機構を構成する封入バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内にこのフォーク本体の伸縮作動時に膨縮するエア室を有するフロントフォークにおいて、
上記フォーク本体が外部に上記エア室におけるエア量の調整を可能にするエア量調整機構を有し、
このエア量調整機構が上記エア室に連通するエア通路と、このエア通路に連通する調整用エア室と、この調整用エア室を画成するフリーピストンと、このフリーピストンを進退させて上記調整用エア室を大小するアジャスタとを有してなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記エア通路が上記フォーク本体の上端部に連結される連結部材に形成され、この連結部材に上記エア通路に連通する調整用エア室およびこの調整用エア室を画成するフリーピストンを有するハウジングが連結され、このハウジングに上記フリーピストンの進退を可能にするアジャスタが設けられてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記エア室,上記エア通路あるいは上記調整用エア室がフォーク本体と分離されて設けられるエア圧給排源の分離可能な連結を可能にする封入バルブに連通されてなる請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記フォーク本体が左右の一対とされ、上記エア通路が上記左右となる各フォーク本体内のエア室に連通されてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
上記フォーク本体が上記エア量調整機構を有すると共に、上記エア室における封入エア圧の変更を可能にするエア封入機構を有し、このエア封入機構と上記エア量調整機構とをそれぞれ調整することでエアバネ特性を変更してなる請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
上記連結部材が左右となるフォーク本体における上端側部を一体的に連結してなる請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19505(P2013−19505A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154713(P2011−154713)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】