説明

フローサイトメータ

【課題】サンプル液中の微粒子を4種類以上に分取することが可能なフローサイトメータを提供する。
【解決手段】 サンプル液をフローセル内に流すことによってサンプル液中の複数の微粒子を個々に識別するようにした本体部40と、サンプル液の排出側に微粒子の分取手段50を具備したフローサイトメータにおいて、分取手段50がスイッチング素子54a,……を備えた分岐チャンネル52a,……を多段に繋げた構成とされている。本体部40で識別した微粒子が分岐チャンネル54a,……を通過する時刻に合わせて、制御器58は各スイッチング素子54a,……の作動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフローサイトメータに係り、特にサンプル液の排出側に微粒子の分取手段を具備したフローサイトメータに関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメータは、サンプル液を透明なフローセル内に細長く流すことによって、サンプル液中に存在する細胞、微生物、マイクロビーズなどの微粒子をその特性に応じて光学的に識別し、計数するようにした測定解析装置である。また、必要に応じてサンプル液の排出側に分取手段を取り付け、識別した微粒子を分取手段によって分取することもできる。
【0003】
図5は一般的なフローサイトメータの概念図である。フローチャンバ10にはインサーションノズル12が奥深く挿入され、インサーションノズル12の下端開口から微粒子を含んだサンプル液14がフローチャンバ10内に注入される。フローチャンバ10にはシース液の供給口16が接続している。供給口16から流れ込んだシース液18がサンプル液14を包むようにしてフローチャンバ10の下部に設けたフローセル20に向けて細長い押し出し流を形成する。この際シース液18とサンプル液14の流量を制御することにより、フローセル20には微粒子が1個ずつ縦に並んだ状態で流れるようにする。
【0004】
フローセル20の位置にはレーザ光源22が配置されており、フローセル20内にレーザ光を照射している。サンプル液14中に微粒子が存在するとレーザ光が散乱する。また、微粒子に予め蛍光色素を付与しておくとレーザ光の照射によって微粒子が蛍光を発する。レーザ光源22の対向位置(又は側向位置)には発生した散乱光や蛍光を測定する検出器24が配置されている。検出器24で測定した散乱光や蛍光をデータ処理器26で解析することによってフローセル20を通過した個々の微粒子の種類を特定するとともに、所定時間当たりにフローセル20を通過した微粒子をその種類毎にカウントする。
【0005】
フローセル20のサンプル液排出側には微粒子の分取手段28が設けられている。分取手段28は制御器29と荷電器30と一対の偏向板32a,32bと3個の採取容器34a,34b,34cとによって構成される。超音波振動などによってフローセル20の下端ノズルから連続的に滴下する液滴は例えば目的の微粒子1個を含む液滴、微粒子を含まない液滴、目的外の微粒子1個を含む液滴の3種類に区分される。したがって、分取手段28はこの3種類の液滴をそれぞれ別の採取容器34a,34b,34cに分取する目的で作動する。
【0006】
すなわち、制御器29はデータ処理器26からの信号に基いて、荷電器30の側方位置を落下する液滴31が上記3種類の区分のいずれであるかを判別し、液滴31が目的の微粒子1個を含む液滴である時には例えば液滴31が−帯電するように荷電器30を作動させる。また、液滴31が目的外の微粒子1個を含む液滴である時には液滴31が+帯電するように荷電器30を作動させる。また、液滴31が微粒子を含まない液滴である時には液滴31が帯電しないように荷電器30を作動させる。なお、液滴31が荷電器30によって−+に帯電しやすいように、サンプル液を包むシース液としては電解質溶液が使用される。
【0007】
荷電器30の下方には一対の偏向板32a,32bが末広がりに配置されている。偏向板32aは+極板であり、偏向板32bは−極板である。したがって、荷電器30によって−帯電した液滴31は偏向板32a,32b間の空間を落下する過程で+極板である偏向板32a側に引き寄せられ、偏向板32aの下方に配置された採取容器34aに採取される。一方、荷電器30によって+帯電した液滴31は−極板である偏向板32b側に引き寄せられ、偏向板32bの下方に配置された採取容器34cに採取される。帯電していない液滴31は中央の採取容器34bに採取される。
【0008】
その結果、目的の微粒子は採取容器34aに、目的外の微粒子は採取容器34cに分取される。また、上記と同様の操作によって、例えば第1目的の微粒子を採取容器34aに、第2目的の微粒子を採取容器34cに、目的外の微粒子を採取容器34bに分取することも可能である。このようにして、サンプル液中の微粒子を目的に応じて2〜3種類に分取することができる(以上、例えば非特許文献1又は特許文献1参照)。
【非特許文献1】FCMの原理入門講座、[online]、ベックマンコールター社,[平成17年1月25日検索]、インターネット<URL:http//www.bc-cytometry.com/FCM/fcmprinciple.html>
【特許文献1】特表2003−512605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、サンプル液中に4種類以上の微粒子が存在しており、これらの微粒子を種類別に4種類以上に分取したい場合には、上述のフローサイトメータでは対応できないという欠点があった。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、サンプル液中の微粒子を4種類以上に分取することが可能なフローサイトメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るフローサイトメータは、複数の微粒子が浮遊するサンプル液をフローセル内に流す過程で前記微粒子を個々に識別するようにした本体部と、前記フローセルのサンプル液の排出側に微粒子の分取手段とを具備したフローサイトメータにおいて、前記分取手段がスイッチング素子を備えた分岐チャンネルを多段に繋げた構成とされたことを特徴とする。この構成のフローサイトメータは、前記本体部で識別した微粒子が前記分岐チャンネルを通過する時刻に合わせて前記各スイッチング素子の作動を制御する制御手段を具備していることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分取手段がスイッチング素子を備えた分岐チャンネルを多段に繋げた構成とされている。このため、目的とする微粒子を含んだサンプル液が各分岐チャンネルを通過する際に、それぞれのスイッチング素子を作動させることによって、当該サンプル液の流路を選択し目的の分取位置まで誘導することができる。分岐チャンネルを2段以上に繋げたことによって、サンプル液中の微粒子を少なくとも4種類以上に分取することができる。この際、本体部で識別した微粒子が各分岐チャンネルを通過する時刻に合わせて各スイッチング素子が作動するように制御すると正確な分取が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係るフローサイトメータの実施形態を示す系統図である。本体部40は図5に示したフローサイトメータと同様にフローチャンバ、フローセル、レーザ光源、検出器などによって構成されており、検出器で測定した散乱光や蛍光をデータ処理器42で解析することによってフローセルを通過した個々の微粒子の種類を識別する。
【0014】
フローセルのサンプル液の排出側には分取手段50が接続している。この分取手段50は、サンプル液の排出経路として逆Y字型の分岐チャンネル52a,52b,……,52gを3段に繋げた構成とされ、各分岐チャンネルはスイッチング素子54a,54b,……,54gを備えている。また、分岐チャンネル52dの末端側には排出されたサンプル液を受ける採取容器56a,56bが配置されている。同様に分岐チャンネル52eの末端側には採取容器56c,56d、分岐チャンネル52fの末端側には採取容器56e,56f、分岐チャンネル52gの末端側には採取容器56g,56hがそれぞれ配置されている。
【0015】
本体部40のフローセルを通過したサンプル液は、まず第1段の分岐チャンネル52aに至り、スイッチング素子54aの作動によって左右いずれかの流路が選択される。分岐チャンネル52aを通過したサンプル液は、引き続き第2段の分岐チャンネル52b又は52cに至り、スイッチング素子54b又は54cの作動によって左右いずれかの流路が選択される。第2段の分岐チャンネル52b又は52cを通過したサンプル液は、引き続き第3段の分岐チャンネル52d〜52gのいずれかに至り、各分岐チャンネルのスイッチング素子の作動によって左右いずれかの流路が選択され、8個の採取容器56a〜56hのいずれかに採取される。したがって、この実施形態の分取手段50によれば、各スイッチング素子を適正に作動させることによって、サンプル液中に存在する微粒子を8種類に分取することができる。
【0016】
スイッチング素子54a〜54gの作動は制御器58によって制御される。すなわち、本体部40のフローセルを通過した個々の微粒子は前記したようにデータ処理器42によって識別され、この識別信号が制御器58に送られる。制御器58ではこの本体部40で識別した微粒子が各分岐チャンネルを通過する時刻に合わせて各スイッチング素子の作動を制御する。この際、分取したい微粒子の種類がA〜Hの8種類とすれば、これらの微粒子の種別を図2に示したように2進法でコード化する。この3桁のコードは先頭の数字が第1段の分岐チャンネルの分岐方向、中間の数字が第2段の分岐チャンネルの分岐方向、末尾の数字が第3段の分岐チャンネルの分岐方向を意味する。
【0017】
そして各分岐チャンネルでサンプル液を左側に通過させる時は「0」、右側に通過させる時は「1」と定めておき、上記微粒子のコードにリンクして各分岐チャンネルのスイッチング素子を作動させる。例えば本体部40のフローセルを通過した微粒子がDである時は、この微粒子Dのコードは図2から「011」となる。そして、この微粒子Dを含むサンプル液が第1段の分岐チャンネル52aを通過する時刻には、コードの先頭数字が「0」であるから分岐チャンネル52aではサンプル液を左側に通過させるようにスイッチング素子54aを作動させる。次に、この微粒子Dを含むサンプル液が第2段の分岐チャンネル52bを通過する時刻には、コードの中間数字が「1」であるから分岐チャンネル52bではサンプル液を右側に通過させるようにスイッチング素子54bを作動させる。さらに、この微粒子Dを含むサンプル液が第3段の分岐チャンネル52eを通過する時刻には、コードの末尾数字が「1」であるから分岐チャンネル52eではサンプル液を右側に通過させるようにスイッチング素子54eを作動させる。その結果、微粒子Dを含むサンプル液が採取容器56dに分取される。
【0018】
上記の分取操作を的確に実行するためには、該当するサンプル液が各段の分岐チャンネルを通過する時刻を正確に算出し、その算出結果に応じてスイッチング素子を遅速なく作動させることが重要である。そのため、制御器58には各部位におけるチャンネル内のサンプル液の流速を演算、記憶して上記の時刻を割り出す演算機能を具備させる。
【0019】
図3はスイッチング素子を例示した原理図である。図3(1)に示したものは、図5に示した分取手段と同様の原理であり、分岐チャンネル52の上流側にスイッチング素子としての荷電器60が、分岐部に偏向板62a,62bが配置されている。荷電器60は制御器58からの信号によってチャンネル内を通過するサンプル液を+、−のいずれかに帯電させる。荷電器60によってサンプル液が−に帯電すると、サンプル液は+極である偏向板62aに吸引され、左側の分岐路に誘導される。荷電器60によってサンプル液が+に帯電すると、サンプル液は−極である偏向板62bに吸引され、右側の分岐路に誘導される。
【0020】
図3(2)に示したものは、分岐チャンネル52の分岐部にスイッチング素子として一対の圧電式切替弁64a,64bが配置されている。これらの圧電式切替弁は制御器58からの信号によって、いずれか一方が分岐路を遮断し、他方が分岐路を開放することによって、サンプル液の流れ方向を選択する。
【0021】
図3(3)に示したものは、分岐チャンネル52の分岐部を弾性壁で構成し、この分岐部にスイッチング素子として一対の圧電式ピストン65a,65bが配置されている。これらの圧電式ピストンは制御器58からの信号によって、いずれか一方が分岐路を弾性変形させることによって遮断し、サンプル液の流れ方向を選択する。
【0022】
図4は本発明に係るフローサイトメータの他の実施形態を示す系統図である。この実施形態のフローサイトメータは分取手段66が4個の逆Y字型の分岐チャンネル68a〜68dを3段又は2段に繋げた構成とされ、分取手段66の末端側には排出されたサンプル液を受ける5個の採取容器70a〜70eが配置されている。したがって、本実施形態のフローサイトメータによれば、サンプル液中に存在する微粒子を5種類に分取することができる。
【0023】
このように、本発明に係るフローサイトメータでは、分取したい微粒子の種類数に応じて多段に繋げる分岐チャンネルの数を増減すればよい。このため、柔軟性のある分取機能を具備したフローサイトメータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るフローサイトメータの実施形態を示す系統図である。
【図2】微粒子の種類のコード化例を示す説明図である。
【図3】スイッチング素子を例示した原理図である。
【図4】本発明に係るフローサイトメータの他の実施形態を示す系統図である。
【図5】従来技術の一般的なフローサイトメータの概念図である。
【符号の説明】
【0025】
10………フローチャンバ、12………インサーションノズル、14………サンプル液、16………(シース液の)供給口、18………シース液、20………フローセル、22………レーザ光源、24………検出器、26………データ処理器、28………分取手段、30………荷電器、32a,32b………偏向板、34a,34b,34c………採取容器、40………本体部、42………データ処理器、50,66………分取手段、52,52a〜52g,68a〜68d………分岐チャンネル、54a〜54g………スイッチング素子、54a〜54h,70a〜70e………採取容器、60………荷電器、62a,62b………偏向板、64a,64b………圧電式切替弁、65a,65b………圧電式ピストン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微粒子が浮遊するサンプル液をフローセル内に流す過程で前記微粒子を個々に識別するようにした本体部と、前記フローセルのサンプル液の排出側に微粒子の分取手段とを具備したフローサイトメータにおいて、前記分取手段がスイッチング素子を備えた分岐チャンネルを多段に繋げた構成とされたことを特徴とするフローサイトメータ。
【請求項2】
前記本体部で識別した微粒子が前記分岐チャンネルを通過する時刻に合わせて前記各スイッチング素子の作動を制御する制御手段を具備したことを特徴とする請求項1に記載のフローサイトメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−234558(P2006−234558A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49159(P2005−49159)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】