説明

フローティングカッターユニットおよびトリミングプレス加工装置

【課題】フローティングカッターの交換容易性を実現しつつ、高い取付け精度を維持可能なフローティングカッターユニットを提供する。
【解決手段】フローティングカッターユニット1は、フローティングカッター2、フローティングカッター2を保持するホルダセット3、ホルダセット3に対するフローティングカッター2のα方向移動を制限するダンパ4を備え、ホルダセット3は、ホルダ31、ホルダプレート32、ホルダ31の貫通穴に嵌合されたブッシュ34を有する。ブッシュ34は、固体潤滑剤が分散され、フローティングカッター2のシャンクが摺動する摺動層を内周に有し、フローティングカッター2のシャンク部がゼロまたはマイナスクリアランスで挿入される。ホルダプレート32は貫通孔を有し、フローティングカッター2の尾端に軸心24上でピストンロッド43が接触したダンパ4をこの貫通孔に挿入した状態でホルダ31に重ね合わされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティングカッターユニットに関し、特にフローティングカッターとダンパとの交換が容易で、かつ精度よく取付け可能なフローティングカッターユニットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トリミングにより発生するスクラップを分断可能なトリミングプレス加工装置が開示されている。
【0003】
このトリミングプレス加工装置には、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とす切断刃を有するトリミング用プレス上下型の他、切り落されたスクラップをさらに分断する切断刃を有するスクラップ切断用プレス上下型が設けられている。
【0004】
トリミング用プレス上下型のうち、トリミング用プレス上型は、主トリミング用プレス上型と副トリミング用プレス上型とにより構成されている。主トリミング用プレス上型は、固定されたトリミング用プレス下型に対して昇降し、副トリミング用プレス上型は、状況に応じて、主トリミング用プレス上型に同期した動きまたは同期しない動きをする。このトリミングプレス加工装置による加工工程は、トリミング用プレス上下型によりスクラップを切り落とすトリミング加工工程(第一工程)、スクラップ切断用プレス上下型によりスクラップをさらに分断するスクラップ分断工程(第二工程)との二工程から成り立っている。第一工程において、副トリミング用プレス上型は、主トリミング用プレス上型とともに下降し、トリミング用プレス下型との間に板状素材を挟み込んで、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とす。その後、第二工程において、さらに、主トリミング用プレス上型とともに下降した副トリミング用プレス上型が、スクラップ切断用プレス下型上のスクラップと接触し、一定荷重でスクラップを押圧してその状態を維持し、主トリミング用プレス上型に対して相対的に上昇する。スクラップ切断用プレス上型は、主トリミング用プレス上型とともに下降し、製品部品以外のスクラップを切り落とした後の副トリミング用プレス上型の相対的な上昇によって、一定荷重でスクラップを押圧し続け、スクラップ切断用プレス下型との間にスクラップを挟み込み、スクラップをスクラップ分断線に沿って分断する。
【0005】
ここで、主トリミング用プレス上型に対して移動可能に副トリミング用プレス上型を保持するため、この副トリミング用プレス上型には液体圧発生部が設けられている。この液体圧発生部は、可圧縮性流体が充填されたシリンダと、シリンダ内を副トリミング用プレス上型の昇降方向に移動するピストンと、ピストンと副トリミング用プレス上型とに連結されたピストンロッドと、を有している。可圧縮性流体は、トリミング用プレス上下型によるスクラップ切り落としのときには、反力により、主トリミング用プレス上型に対する副トリミング用プレス上型の上昇を阻止する一方、スクラップ切り落とし後に、副トリミング用プレス上型がスクラップ切断用プレス下型に接触し押圧されたときには、主トリミング用プレス上型に対する副トリミング用プレス上型の相対的な上昇を許容する。
【0006】
なお、特許文献1には、副トリミング用プレス上型を交換可能とするために、副トリミング用プレス上型が、ピストンロッドの先端部に取り外し可能に連結、あるいは連結や固着なしに対面配置されていてもよい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−126304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術においては、副トリミング用プレス上型が、ピストンロッドの先端に固着または連結されずに対面配置されることを想定しているが、このような配置を採用した場合、トリミングプレス加工装置への副トリミング用プレス上型の取付け精度を高く維持するためには、副トリミング用プレス上型として利用されるフローティングカッターの取り付け時のガタツキ等を防止する構成が重要となる。ところが、上記従来の技術には、そのような具体的な構成が開示されていない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トリミングプレス加工装置において、副トリミング用プレス上型として利用されるフローティングカッターおよびダンパの交換容易性を実現しつつ、フローティングカッターの取付け精度を高く維持可能なフローティングカッターユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明においては、ホルダにフローティングカッターおよびダンパを取り付けたユニット構造とし、フローティングカッターのシャンク部が挿通し、当該フローティングカッターのシャンク部とゼロまたはマイナスクリアランスとなる貫通孔を有するブッシュを設ける。ここで、このブッシュの貫通孔の内周には摺動部が設けられており、この摺動部によって、例えば、固体潤滑剤が表面に分散、露出した摺動面が形成され、この摺動をフローティングカッターのシャンク部が摺動する。
【0011】
例えば、本発明の一態様は、板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置に取り付けられて用いられるフローティングカッターユニットであって、
素材からスクラップを切断するフローティングカッターと、
前記フローティングカッターを、当該フローティングカッターの軸心方向に移動可能に保持するホルダセットと、
前記フローティングカッターの軸心上で前記フローティングカッターの尾端面に接触し、前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの、前記軸心方向への移動を制限するダンパと、を備え、
前記ホルダセットは、
一方の端面と他方の端面とを貫通し、当該一方の端面側から当該他方の端面側へ前記フローティングカッターが挿入される貫通孔が形成されたホルダと、
前記フローティングカッターのシャンク部を摺動させる摺動部を内周に有し、前記ホルダの前記貫通孔に嵌め込まれるブッシュと、
前記ダンパが挿入される貫通孔が形成され、前記フローティングカッターの軸心に対して位置付けられた前記ダンパが当該貫通孔に挿入された状態で前記ホルダの前記一方の端面に重ねられて配置されるホルダプレートと、を有する。
【0012】
このフローティングカッターユニットにおいて、前記フローティングカッターのシャンク部がゼロまたはマイナスクリアランスで前記ブッシュの内周側に挿入されるようにしてもよい。さらに、前記摺動部に固体潤滑剤が分散されており、前記フローティングカッターのシャンク部が摺動する当該摺動部の摺動面に当該固体潤滑剤が露出するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明の他の態様は、トリミングプレス加工装置に、
トリミングプレス用下型と、
前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用下型との間で、板状素材から製品部以外のスクラップを切り落とすトリミングプレス用上型と、
前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型との間で前記板状素材から前記スクラップを切り落とす上記のフローティングカッターユニットと、
前記トリミングプレス用下型の刃先から、前記トリミングプレス用上型の移動方向に、前記板状素材の板厚に応じた間隔をあけて配置されたスクラップ切断用プレス下型と、
前記トリミングプレス用上型とともに移動し、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断するスクラップ切断用プレス上型と、を設けて、
前記フローティングカッターユニットのダンパは、
前記スクラップを切り落としたフローティングカッターが前記スクラップ切断用プレス下型に押し当てられると、前記フローティングカッターを、前記ホルダセットに対して前記トリミングプレス用上型の移動方向と逆方向へ移動させ、
前記スクラップ切断用プレス上型は、
前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの移動により、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホルダの孔とフローティングカッターのシャンク部とのクリアランスをゼロまたはマイナスクリアランスに抑制しつつも、フローティングカッターのシャンク部をホルダの孔にスムーズに挿入することができるため、フローティングカッターの交換容易性を実現しつつ、トリミングプレス加工装置へのフローティングカッターの取付け精度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(A)、(B)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の概略構成を示す外観図および部分断面図であり、図1(C)は、図1(A)のA−A断面図である。
【図2】図2は、フローティングカッターユニット1の部品展開図である。
【図3】図3(A)〜(D)は、フローティングカッター2の上面図、正面図、側面図および底面図であり、図3(E)は、図3(B)のB−B断面図である。
【図4】図4(A)、(B)は、フローティングカッター2を挿通するための貫通穴312にブッシュ34が嵌合されたホルダ31の上面図および底面図であり、図4(C)は、図4(A)のC−C断面図である。
【図5】図5(A)は、ホルダプレート32の上面図であり、図5(B)は、図5(A)のD−D断面図である。
【図6】図6(A)、(B)は、ダンパ4の上面図および正面図であり、図6(C)は、図6(A)のE−E断面図である。
【図7】図7(A)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置の金型部の概略構成を示す図であり、図7(B)、(C)は、図7(A)のS1矢示図およびS2矢示図である。
【図8】図8(A)〜(D)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
【0017】
本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1は、例えば、板状素材から製品部分以外のスクラップを切断分離した後、さらに、このスクラップを分断する場合に、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型に取り付けて用いられる。
【0018】
図1(A)、(B)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の概略構成を示す外観図および部分断面図であり、図1(C)は、図1(A)のA−A断面図である。また、図2は、フローティングカッターユニット1の部品展開図である。
【0019】
図示するように、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1は、フローティングカッター2と、フローティングカッター2を保持するホルダセット3と、ホルダセット3に対するフローティングカッター2の上昇(α方向)を制限する円筒状のダンパ4と、を有する。
【0020】
ホルダセット3は、ホルダ31と、ホルダ31のα方向側の一方の端面(トリミングプレス加工装置のトリミング用金型側の面:以下、上面)315に重ね合わせて配置されるホルダプレート32と、ホルダセット3に対するフローティングカッター2の回転を阻止する回り止め33と、ホルダ31にαおよびβ方向に形成されたフローティングカッター2挿通用の貫通穴312に嵌合された円管状のブッシュ34と、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型にホルダセット3を固定するための取付け用ボルトおよびナット(不図示)と、を有する。これら各部材の詳細は以下の通りである。
【0021】
図3(A)〜(D)は、フローティングカッター2の上面図、正面図、側面図および底面図であり、図3(E)は、図3(B)のB−B断面図である。
【0022】
図示するように、フローティングカッター2は、円柱状のシャンク部21と、シャンク部21の一方の端部213に連結するように一体的に形成された角柱状の刃部22と、を有する。
【0023】
刃部22には、一端224側の先端の刃面221と各側面の刃面222との交線によって刃先223が形成されている。シャンク部21の他方の端部(刃部22が一体的に形成されている端部213とは逆側の端部:以下、尾端面)212の外周には、径方向外周側に突出した円板状のフランジ部23が形成され、この円板状のフランジ部23の外周面231の一部には、刃先223に対して所定の位置関係を有する平面状の切り欠き部232が形成されている。この切り欠き部232は、ホルダ31(後述の回り止め用溝314)内に収容された回り止め33の側面331に接触し(図1参照)、ホルダセット3に対して刃先223を位置決めするとともに、ホルダセット3に対してフローティングカッター2がその軸心24周りに回転するのを防ぐ。この切り欠き部232は、図示した平面状に限らず、回り止め33の形状に応じた、回転を防ぐ形状であればよい。
【0024】
図4(A)、(B)は、フローティングカッター2を挿通するための貫通穴312にブッシュ34が嵌合されたホルダ31の上面図および底面図であり、図4(C)は、図4(A)のC−C断面図である。
【0025】
図示するように、ホルダ31には、取付け用ボルト(不図示)が挿入される貫通孔311が形成されるとともに、一方の端面である上面315と他方の端面である底面316とを貫く方向(図1のα方向、β方向)にフローティングカッター2が挿入される貫通孔312が形成されている。貫通孔311は、ホルダ31の上面315側よりも底面316側の方が大径(r3<r4)の段付き孔であり、挿入された取付け用ボルトに締結される取付け用ナット(不図示)が底面316側に収容されるように形成されている。貫通孔312は、フローティングカッター2のフランジ部23の外径(図3(A)のr1)よりも大きな内径r2を有しており、その内側に、ブッシュ34が嵌めこまれ、さらに、このブッシュ34の内周面(後述の摺動面)345でフローティングカッター2のシャンク部21が保持されるようにフローティングカッター2が挿入される。また、貫通孔312の内壁面313の一端部側(上面315側)には、上面315側が開放された凹状の回り止め用溝314が形成されており、この回り止め用溝314に回り止め33が収容される。なお、ホルダ31には、さらに、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型に対する回り止め、位置決め等のためのピンが挿入されるノック穴317が形成されていてもよい。
【0026】
ブッシュ34は、ホルダ31の貫通孔312の深さh2よりも回り止め33の長さ(図2のh3)だけ少なくとも短い長さh1を有しており、ホルダ31の貫通孔312内に嵌合されて、両端面343、344がホルダ31の貫通孔312から軸方向に突き出ない位置で固定される。この状態において、ブッシュ34内にフローティングカッター2のシャンク部21が挿入されると、ホルダ31の貫通孔312からフローティングカッター2が抜け落ちないように、ホルダ31の貫通孔312内でフローティングカッター2のフランジ部23がブッシュ34の一方の端面344に当接する(図1参照)。このとき、フローティングカッター2がスムーズに挿入されるようにするため、ブッシュ34の内周部341には、フローティングカッター2のシャンク部21の外周面211が摺動する摺動面345が形成されている。具体的には、ブッシュ34の内周部341には、摺動部として摺動層342が形成されている。この摺動層342は、例えば、黒鉛等の固体潤滑剤を銅合金等に分散させ、これを焼結して得られる多孔質の焼結合金層にさらに含油処理を施したものである。このようなブッシュ34として、例えばオイレス工業株式会社のオイレス♯2000がある。このオイレス♯2000は、金属製の管とその内側に形成された摺動層からなる二重構造を有しており、重量比で、錫を4〜10%、ニッケルを10〜40%、燐を0.5〜4%、黒鉛を3〜10%含み、残部として銅を含む円筒状の圧粉体を、鉄、鉄合金、銅および銅合金のうちのいずれか一つの金属で形成された管の内側に圧入したものを焼結することにより形成される。なお、摺動層342に代えて、例えば、摺動部として、黒鉛等の固体潤滑剤を、ブッシュ34の内周面341から露出するようにブッシュ34に埋め込んでもよい。このようなブッシュ34としては、例えばオイレス工業株式会社のオイレス♯500がある。
【0027】
ここで、フローティングカッター2のシャンク部21の外径(図2のr5)は、基準寸法に対してゼロまたはプラス公差で仕上げられ、このシャンク部21が挿入されるブッシュ34の内径(図2のr6)は、基準寸法に対してゼロまたはマイナス公差で仕上げられている。これにより、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5とブッシュ34の内径r6とのクリアランスがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34が摺動層342を備えていることにより、フローティングカッター2のシャンク部21は、かじりを生じることなくブッシュ34内にスムーズに挿入される。また、スクラップ分断加工時においても、かじりを生じることなく、スムーズな動きを発揮する。
【0028】
回り止め33は、ホルダ31の回り止め用溝314にホルダ31の上面315側から挿入される。この回り止め33は、ホルダ31の貫通孔312に挿入されたフローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232に接触する、貫通孔312の径方向の厚さ(図2のt)を有している。これにより、ホルダ31の貫通孔312内において、フローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232に回り止め33の側面331が接触して(図1参照)、ホルダセット3に対して刃先223を位置決めするとともに、ホルダセット3に対する軸心24周りのフローティングカッター2の回転を防止する。さらに、少なくとも回り止め33の側面331に、ブッシュ34の内周部341の摺動面345と同様な摺動面を形成することによって、回り止め33に、回り止めの機能と共に、軸方向への滑りを補助する機能を付与してもよい。
【0029】
図5(A)は、ホルダプレート32の上面図であり、図5(B)は、図5(A)のD−D断面図である。
【0030】
図示するように、ホルダプレート32には、ホルダ31の上面315に重ね合わせて配置された状態において、ホルダ31の各貫通孔311、312につながる貫通孔321、322が形成されている。貫通孔321には、ホルダ31の貫通孔311に挿入された取付け用ボルト(不図示)が挿入される。貫通孔322には、ホルダ31の貫通孔312に挿入されたフローティングカッター2と同軸に配置されたダンパ4(シリンダ41)が挿入される。この貫通孔322は、一方の面(トリミングプレス装置のトリミング用金型側の面)325側よりも他方の面(ホルダ31の上面315に重ね合わせられる面)326側において大径の段付き穴(r7<r8)であり、大径部3221内にダンパ4のフランジ部441が収容される。なお、ホルダ31にノック穴317が形成されている場合、ホルダプレート32にも、それらのノック穴317に挿入されたピンが挿通する貫通孔327が形成される。
【0031】
図6(A)、(B)は、ダンパ4の上面図および正面図であり、図6(C)は、図6(A)のE−E断面図である。
【0032】
図示するように、ダンパ4は、例えばビンガム流体45が充填された円筒状のシリンダ41と、シリンダ41内をαおよびβ方向に往復移動するピストン42と、ピストン42に一方の端部431が連結されるとともにフローティングカッター2の尾端面212に他方の端部432が当接するピストンロッド43と、シリンダ41内にビンガム流体54を封止するとともにピストンロッド43をスライド可能に保持するカバー44と、ピストンロッド43の外周面433およびカバー44の貫通孔442の内周面443間に介在するシール材(不図示)等と、を有する。カバー44には、外周から突出したフランジ部441が形成されている。このフランジ部441は、向かい合う一対の平面4411と、向かい合う一対の曲面4412とより外周が形成されている。この一対の曲面4412は、カバー44の外周から突出しており、それらの間の距離r9がホルダプレート32の貫通穴322の径r7よりも大きい。このため、フランジ部441がホルダプレート32の大径部3221に嵌合し、ホルダプレート32からのダンパ4の抜け出しを防止する。
【0033】
このような構成により、フローティングカッター2に対して、ホルダ31の底面316から上面315へ向かう方向(図1の上昇方向α)に所定値未満の大きさの力が加えられても、シリンダ41内のビンガム流体54の抵抗力によりピストン42の上昇方向αへの移動が阻止されるため、ホルダ31に対してフローティングカッター2は移動しない。一方、フローティングカッター2に対して、上昇方向αに所定値以上の大きさの力が加えられると、シリンダ41内のビンガム流体54の流動によりピストン42が上昇方向αへ移動するため、ホルダ31に対してフローティングカッター2は上昇方向αへ移動する。
【0034】
所定値以上の大きさの力が解除されると、フローティングカッター2は、ビンガム流体54の復元力により、初期位置に復帰するようになっている。ビンガム流体54の復元力は、フローティングカッター2に対するホルダ31の保持力(ブッシュ34とフローティングカッター2のシャンク部21の締め代による固定力およびブッシュ34の摺動面345とフローティングカッター2のシャンク部21の外周面211との摩擦力)より大きく設定されているため、フローティングカッター2を確実に初期位置に復帰させることが可能である。
【0035】
なお、本実施の形態においては、ビンガム流体54を利用したダンパ4を用いているが、このようなダンパ4の代わりに、例えば、バネ等の弾性体を利用したダンパを用いてもよい。バネ等の弾性体を利用したダンパを用いても、ビンガム流体54を利用したダンパ4と同様な機能を付与することができる。
【0036】
つぎに、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の組立て手順の概要を説明する。
【0037】
図2に示すように、ブッシュ34は、ホルダ31の貫通孔312に嵌め込まれて固定される。回り止め33は、ホルダ31の回り止め用溝314に、ホルダ31の上面315側から挿入される。フローティングカッター2は、フランジ部23の切り欠き部232を回り止め33の側面331側に向けて、刃部22の方からホルダ31の貫通孔312に挿入される。これにより、ホルダ31の貫通孔312内においてフローティングカッター2のフランジ部23がブッシュ34の一方の端面344に当接するまで、フローティングカッター2のシャンク部21がブッシュ34に挿入される。このとき、上述したように、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5とブッシュ34の内径r6とがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34の内周部341の摺動層342により、フローティングカッター2のシャンク部21は、かじりを生じることなくブッシュ34内にスムーズに挿入される。
【0038】
また、ホルダ31の貫通孔312内において、フローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232は、回り止め33の側面331に接触する。ダンパ4は、ピストンロッド43の他方の端部432がフローティングカッター2の尾端面212に接触するように、フローティングカッター2の尾端面212側に配置される。ホルダプレート32は、ダンパ4のシリンダ41が貫通孔322に挿入されるように、ホルダ31の上面315にかぶせられる。これにより、ピストンロッド43の他方の端部432がフローティングカッター2の軸心24上でフローティングカッター2の尾端面212に当接するように(ピストンロッド43がフローティングカッター2と同軸に位置されるように)、フローティングカッター2に対してダンパ4が位置付けられる。
【0039】
このように、フローティングカッター2が、ホルダ31にスムーズに挿入でき、かつ、ピストンロッド43とフローティングカッター2とが、ホルダセット3によって芯出しされ、さらに、ガタつくことなく保持されるため、フローティングカッター2およびピストンロッド43の交換容易性を実現しつつ、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持することができる。
【0040】
つぎに、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工について説明する。
【0041】
図7(A)は、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置の金型部の概略構成を示す斜視図であり、図7(B)、(C)は、図7(A)のS1矢示図およびS2矢示図である。
【0042】
図示するように、トリミングプレス加工装置は、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とすトリミング用プレス上下型70、71と、切り落とされたスクラップをさらに分断するスクラップ切断用プレス上下型72、73と、トリミング用プレス下型71およびスクラップ切断用プレス下型73に対してトリミング用プレス上型70およびスクラップ切断用プレス上型72を昇降させる油圧ラム(不図示)と、を有する。
【0043】
トリミング用プレス上型70は、トリミング用プレス下型71に対して昇降する複数の主トリミング用プレス上型701、702と、主トリミング用プレス上型701、702とともに昇降するフローティングカッターユニット1と、を有する。フローティングカッターユニット1の構成要素の一つであるフローティングカッター2の刃部22は、トリミング用プレス下型71と対向するいずれかの刃先223が主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021とともに、製品部分の輪郭線を形成するように主トリミング用プレス上型701、702の間に配置されている。
【0044】
スクラップ切断用プレス下型73の上側刃面731は、トリミング用プレス下型71の上側刃面711よりも下方の位置に配置されており、それらの間には板状素材の板厚以上の間隔iがあけられている。
【0045】
なお、簡略化のため、図7では、主トリミング用プレス上型701、702が2つ、フローティングカッターユニット1が1つの場合を示しているが、実際には、適宜定められた数の主トリミング用プレス上型およびフローティングカッターユニット1が用いられる。また、スクラップ切断用プレス上型72が主トリミング用プレス上型701と一体的に形成されている場合を示しているが、これらはそれぞれ別個に形成されたものでもよい。
【0046】
図8(A)〜図8(D)は、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工を説明するための図である。
【0047】
図8(A)に示すように、板状素材74がトリミング用プレス下型71上にセットされると、油圧ラムの駆動により、主トリミング用プレス上型701、702、フローティングカッターユニット1、およびスクラップ切断用プレス上型72が、トリミング用プレス下型71に向かう方向βに下降し始める。
【0048】
そして、図8(B)に示すように、主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021およびフローティングカッター2の刃先223と、トリミング用プレス下型71の刃先712とによって、板状素材74から製品部分以外のスクラップ741が切り落とされる。なお、このとき、シリンダ41内のビンガム流体54の抵抗力によりピストン42の移動が阻止されるため、フローティングカッター2は、ホルダ31に対して移動しない。このため、主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021およびフローティングカッター2の刃先223が同期して移動する。
【0049】
その後、図8(C)に示すように、主トリミング用プレス上型701、702、フローティングカッターユニット1、およびスクラップ切断用プレス上型72がβ方向に下降し続ける。これにより、フローティングカッター2の先端の刃面221が、スクラップ741を介してスクラップ切断用プレス下型73に押し当てられると、図8(D)に示すように、シリンダ41内のビンガム流体54の流動によりピストン42が上昇方向αへ移動し、フローティングカッター2が、ホルダ31に対してα方向に上昇する。すなわち、主トリミング用プレス上型701、702およびスクラップ切断用プレス上型72のみが下降を続ける。これにより、スクラップ切断用プレス上下型72、73の刃先721、732によって、スクラップ741が分断される。
【0050】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。
【0051】
本実施の形態によれば、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5が、基準寸法に対してゼロまたはプラス公差で仕上げられ、このシャンク部21が挿入されるブッシュ34の内径r6が、基準寸法に対してゼロまたはマイナス公差で仕上げられるとともに、このブッシュ34の内周部341に、フローティングカッター2のシャンク部21の外周面211が摺動する固体潤滑剤が分散された摺動面345が形成されている。このため、フローティングカッター2のシャンク部21とブッシュ34とがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34の摺動層342により、フローティングカッター2のシャンク部21をブッシュ34内にスムーズに挿入することができる。したがって、フローティングカッター2の交換容易性を実現しつつ、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持することができる。
【0052】
また、ダンパ4とフローティングカッター2とを個別のモジュールとし、これらをホルダセット3によって連結するだけで、ダンパ4のピストンロッド43とフローティングカッター2とが芯出しされ、ゼロまたはマイナスクリアランスにより昇降中のフローティングカッター2がガタつくことなく保持されるようにしている。このため、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持しながら、フローティングカッター2とダンパ4との組合せを簡単に変えることができる。
【0053】
また、ホルダ31に回り止め用溝314を形成し、このなかに回り止め33が収容されるため、ホルダセット3に対してフローティングカッター2の刃先223を簡単に位置決めすることができるとともに、ホルダセット3に対する軸心24周りのフローティングカッター2の回転を阻止することができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、四方向の使用が可能な角柱状の刃部22を有するフローティングカッター2を用いているが、他の形状の刃部を有するフローティングカッターを用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1:フローティングカッターユニット、2:フローティングカッター、3:ホルダセット、4:ダンパ、21:フローティングカッター2のシャンク部、22:フローティングカッター2の刃部、23:フローティングカッター2のフランジ部、24:フローティングカッター2の軸心、31:ホルダ、32:ホルダプレート、33:回り止め、34:ブッシュ、41:シリンダ、42:ピストン、43:ピストンロッド、44:カバー、45:ビンガム流体、211:シャンク部21の外周面、212、213:フローティングカッター2の端部、221、222:フローティングカッター2の刃面、223:フローティングカッター2の刃先、231:フランジ部23の外周面、232:フランジ部23の切り欠き部、311:取付け用ボルト挿入の貫通孔、312:フローティングカッター挿入用の貫通孔、313:貫通孔312の内壁面、314:ホルダ31の回り止め用溝、315:ホルダ31の上面、316:ホルダ31の底面、317:ノック穴、321:取付け用ボルト挿入の貫通孔、322:ダンパ挿入用の貫通孔、327:ピン挿入用の貫通孔、325:ホルダプレート32の表面、326:ホルダプレート32の裏面、331:回り止め33の側面、341:ブッシュ34の内周部、342:ブッシュ34の摺動層、343、344:ブッシュ34の端面、345:ブッシュ34の摺動面、431、432:ピストンロッド43の端部、433:ピストンロッド43の外周面、441:カバー44のフランジ部、442:カバー44の貫通穴、443:貫通穴442の内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置に取り付けられて用いられるフローティングカッターユニットであって、
素材からスクラップを切断するフローティングカッターと、
前記フローティングカッターを、当該フローティングカッターの軸心方向に移動可能に保持するホルダセットと、
前記フローティングカッターの軸心上で前記フローティングカッターの尾端面に接触し、前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの、前記軸心方向への移動を制限するダンパと、を備え、
前記ホルダセットは、
一方の端面と他方の端面とを貫通し、当該一方の端面側から当該他方の端面側へ前記フローティングカッターが挿入される貫通孔が形成されたホルダと、
前記フローティングカッターのシャンク部を摺動させる摺動部を内周に有し、前記ホルダの前記貫通孔に嵌め込まれるブッシュと、
前記ダンパが挿入される貫通孔が形成され、前記フローティングカッターの軸心に対して位置付けられた前記ダンパが当該貫通孔に挿入された状態で前記ホルダの前記一方の端面に重ねられて配置されるホルダプレートと、を有する
ことを特徴とするフローティングカッターユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のフローティングカッターユニットであって、
前記フローティングカッターのシャンク部がゼロまたはマイナスクリアランスで前記ブッシュの内周側に挿入される
ことを特徴とするフローティングカッターユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフローティングカッターユニットであって、
前記摺動部には固体潤滑剤が分散され、当該固体潤滑剤は、前記フローティングカッターのシャンク部が摺動する当該摺動部の摺動面に露出する
ことを特徴とするフローティングカッターユニット。
【請求項4】
請求項3に記載のフローティングカッターユニットであって、
前記摺動部は、
金属製の前記ブッシュの内周に形成された多孔質の焼結合金層であり、
当該焼結合金層は、
重量比で、錫を4〜10%、ニッケルを10〜40%、燐を0.5〜4%、前記固体潤滑剤として黒鉛を3〜10%含み、残部として銅を含む
ことを特徴とするフローティングカッターユニット。
【請求項5】
トリミングプレス用下型と、
前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用下型との間で、板状素材から製品部以外のスクラップを切り落とすトリミングプレス用上型と、
前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型との間で前記板状素材から前記スクラップを切り落とす請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフローティングカッターユニットと、
前記トリミングプレス用下型の刃先から、前記トリミングプレス用上型の移動方向に、前記板状素材の板厚に応じた間隔をあけて配置されたスクラップ切断用プレス下型と、
前記トリミングプレス用上型とともに移動し、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断するスクラップ切断用プレス上型と、を備え、
前記フローティングカッターユニットのダンパは、
前記スクラップを切り落としたフローティングカッターが前記スクラップ切断用プレス下型に押し当てられると、前記フローティングカッターを、前記ホルダセットに対して前記トリミングプレス用上型の移動方向と逆方向へ移動させ、
前記スクラップ切断用プレス上型は、
前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの移動により、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断する
ことを特徴とするトリミングプレス加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240109(P2012−240109A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115179(P2011−115179)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】