説明

フローティングキャリパ型ディスクブレーキ

【課題】展開形状を小さくして必要となる素材の量を抑えると共に、折れ曲がり部の数を少なく、折れ曲がり部の形状を単純にして、曲げ加工を容易化でき、アンチラトルスプリング12bの製造コストを抑えられる構造を実現する。
【解決手段】前記アンチラトルスプリング12bは、枠部33と、この枠部33の周方向両側に設けられた複数の弾性押圧部34a〜35dとを備える。この枠部33の内側に、プレッシャプレート8aの吊り下げ板部19を挿通する。又、この枠部33の周方向両端部を、この吊り下げ板部19を進入させる為、キャリパのブリッジ部の内径側側面のうちで、この面に形成した凹部を周方向両側から挟む位置に当接させる。又、前記各弾性押圧部34a〜35dにより、第一、第二の両パッド6a、7aを構成するプレッシャプレート8a、8bを径方向内方に押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車等の制動に用いられるフローティングキャリパ型ディスクブレーキの改良に関する。具体的には、互いに相対変位可能に組み合わされた、サポートプレートと、キャリパと、一対のパッドとの係合部ががたつくのを防止する為のアンチラトルスプリングの形状及び構造の改良に関する。そして、この改良により、このアンチラトルスプリングの材料費の低減と加工の容易さとを両立させて、このアンチラトルスプリングを組み込んだフローティングキャリパ型ディスクブレーキのコスト低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
オートバイやスクーター等の自動二輪車の制動装置に利用されるディスクブレーキとして、例えば特許文献1〜6に記載された様な、フローティングキャリパ型ディスクブレーキが知られている。図21〜26は、このうちの特許文献5に記載された構造を示している。この従来構造のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータ1の軸方向片側面に対向する状態で配置したサポートプレート2を、車体の一部であるホーク3に固定している。このサポートプレート2に第一、第二のガイドピン4、5を、それぞれの基端部をこのサポートプレート2に固定した状態で、軸方向に設置している。尚、本明細書及び特許請求の範囲全体で、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、特に断らない限り、ロータの軸方向、径方向及び周方向を言う。
【0003】
又、前記ロータ1の円周方向の一部を軸方向両側から挟む状態で、第一のパッド6と第二のパッド7とを、軸方向の変位を可能にした状態で配置している。これら両パッド6、7はそれぞれ、プレッシャプレート8a、8bのうちで前記ロータ1の側面に対向する部分に、それぞれライニング9a、9bを添着固定して成る。又、このうちの第一のパッド6を構成するプレッシャプレート8aの両端部を、前記両ガイドピン4、5に、軸方向の変位を可能に支持している。これに対して、第二のパッド7を構成するプレッシャプレート8bの一端部を、前記第一のガイドピン4に対し、軸方向の変位を可能に支持している。又、これら両プレッシャプレート8a、8bの径方向外端部で且つ周方向中央部に第三のガイドピン10を挿通し、この第三のガイドピン10により、前記第二のパッド7の回転を阻止すると共に、キャリパ11を、軸方向の変位を可能に支持している。更に、前記第三のガイドピン10と、前記両プレッシャプレート8a、8bの径方向外端縁との間に、板ばね製のアンチラトルスプリング12を設けている。
【0004】
制動時には、前記キャリパ11に設けたシリンダ13内に液圧を導入してピストン14を押し出し、前記キャリパ11を軸方向に変位させつつ、このピストン14の先端面とキャリパ爪15の内側面との間隔を縮める。そして、前記両パッド6、7のライニング9a、9bを前記ロータ1の軸方向両側面に押し付ける。前記アンチラトルスプリング12は、前記両パッド6、7が非制動時に、前記各ピン4、5、10に対してがたついたり、前記キャリパ11が前記第三のガイドピン10に対しがたつくのを防止する。
【0005】
図21〜26には、簡単で原理的な構造を示しており、前記アンチラトルスプリング12の形状に関しても具体的ではない。実際の場合には、重量の嵩むキャリパのがたつきを十分に抑える為に、アンチラトルスプリングを、キャリパと、第一、第二の両パッドのプレッシャプレートとの間に設ける構造が好ましい。この様な構造に組み込む為のアンチラトルスプリングとして本発明者等は、図27〜30に示す様な形状を有するアンチラトルスプリング12aを発明した。
【0006】
この先発明に係るアンチラトルスプリング12aは、基板部16の周方向両端縁からそれぞれ一対ずつ、合計4本の弾性腕片17a〜17dを設け、これら各弾性腕片17a〜17dの先端部にそれぞれ押圧部18a〜18dを設けている。前記基板部16乃至これら各弾性腕片17a〜17dの基半部は径方向外方に突出させている。そして、前記アンチラトルスプリング12aと、一対のプレッシャプレート8a、8bの径方向外端縁の周方向中央部から径方向外方に突出させた吊り下げ板部19、19同士の間に掛け渡した第三のガイドピン10aとの干渉防止を図っている。又、前記基板部16の軸方向両端縁部にそれぞれ、径方向内方に折れ曲がった係止片20a、20bを形成し、これら各係止片20a、20bと前記両吊り下げ板部19、19との係合により、第一、第二の両パッド6、7に対する前記アンチラトルスプリング12aの、軸方向に関する位置決めを図っている。
【0007】
上述の様な先発明に係るアンチラトルスプリング12aは、径方向外方に突出した、前記基板部16乃至これら各弾性腕片17a〜17dの基半部を、キャリパ11aの径方向内側面に形成した凹部21(本発明の実施の形態を示す、図6〜9参照)に進入させた状態で、前記キャリパ11aに組み付ける。そして、前記各押圧部18a〜18dにより、前記両プレッシャプレート8a、8bの径方向外端縁の周方向両端寄り部分に形成した突部22、22を径方向内方に抑え付けて、サポートプレート2a(本発明の実施の形態を示す図1〜6参照)に対する、前記キャリパ11a及び前記両パッド7、8のがたつきを防止する。
【0008】
上述の様な先発明に係るアンチラトルスプリング12aは、素材となる、ステンレスのばね鋼板に打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造る。従って、前記アンチラトルスプリング12aのコストを抑える為には、必要となる素材の量を抑える事と、曲げ加工を容易化する事とが必要になる。このうち、必要となる素材の量を抑える為には、前記アンチラトルスプリング12aの展開形状(平板状に拡げた状態で厚さ方向に見た形状)をできるだけ小さくする必要がある。又、曲げ加工を容易化する為には、折れ曲がり部の数をできるだけ少なく、又、折れ曲がり部の形状をできるだけ単純にする必要がある。これに対して、先発明に係る、前記アンチラトルスプリング12aの展開形状はあまり小さいとは言えない。特に、前記基板部16乃至前記各弾性腕片17a〜17dの基半部と、前記両吊り下げ板部19、19及び前記第三のガイドピン10aとの干渉を防止する為、前記基板部16乃至前記各弾性腕片17a〜17dを前記凹部21内に深く進入させる構造を採用している。この為、前記展開形状が相当に大きくなる事が避けられない。又、折れ曲がり部の数も少ないとは言えず、折れ曲がり部の形状も単純とは言えない。この為、前記アンチラトルスプリング12aの製造コストを、必ずしも十分には抑えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭49−44166号公報
【特許文献2】特開平10−213167号公報
【特許文献3】特開2000−249172号公報
【特許文献4】特開2002−48163号公報
【特許文献5】特開2003−254360号公報
【特許文献6】特開2009−150530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、展開形状を小さくして必要となる素材の量を抑えると共に、折れ曲がり部の数を少なく、折れ曲がり部の形状を単純にする事により、曲げ加工を容易化できて、アンチラトルスプリングの製造コストを抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、ロータと、サポートプレートと、第一、第二のガイドピンと、一対のパッドと、キャリパと、アンチラトルスプリングとを備える。
このうちのロータは、車輪と共に回転する。
又、前記サポートプレートは、前記ロータの軸方向片側面に対向する状態で、車体に固定される。
又、前記両ガイドピンは、それぞれ前記サポートプレートに支持固定された状態で、軸方向に配置される。
又、前記両パッドは、それぞれがプレッシャプレートの片面にライニングを添設して成り、このライニングを前記ロータの側面に対向させた状態で、軸方向の変位を可能に支持されている。尚、プレッシャプレートとライニングとは、必ずしも、互いに別体のものを貼着等により結合固定した構造である必要はなく、例えば、合成樹脂により一体とした構造も含む(一体の場合も、プレッシャプレートにライニングを添設した構造に該当する)。
又、前記キャリパは、前記両ガイドピンにより前記サポートプレートに対し、軸方向の変位を可能に支持されたもので、ブリッジ部と、キャリパ爪と、シリンダ部とを備える。このうちのブリッジ部は、前記ロータの外周縁を跨ぐ位置に設けられている。又、前記キャリパ爪は、このブリッジ部の軸方向一端部から径方向内方に折れ曲がって、前記ロータの軸方向片側面に対向する状態で設けられている。又、前記シリンダ部は、このロータの軸方向他側面に対向する状態で、前記ブリッジ部の軸方向他端部に設けられている。更に、前記ブリッジ部の径方向内側面のうちの周方向中間部でこのシリンダ部と前記キャリパ爪との間部分に、径方向に関して外方に凹んだ凹部を設けている。
又、前記アンチラトルスプリングは、板ばね製で、前記キャリパのうちの前記ブリッジ部の径方向内側面と、前記両パッドを構成する前記プレッシャプレートの径方向外端縁との間に設けられている。
又、前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートのうち、径方向外端縁の周方向中間部に、前記凹部に緩く挿入される吊り下げ板部がそれぞれ設けられており、これら両吊り下げ板部に形成されたガイド孔に、第三のガイドピンが挿通されている。この第三のガイドピンは、両端部を前記キャリパ爪と前記シリンダ部とに支持した状態で前記凹部内に、軸方向に配置されている。
そして、前記シリンダ部内ヘの圧油の送り込みに伴って、このシリンダ部に嵌装したピストンの先端面と前記キャリパ爪の内側面との間隔を縮めつつ前記キャリパを前記サポートプレートに対し軸方向に変位させる事で、前記両パッドのライニングにより前記ロータを軸方向両側から挟持して制動を行う。
【0012】
特に、本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキでは、前記アンチラトルスプリングは、枠部と、この枠部の周方向両側に設けられた複数の弾性押圧部とを備える。
このうちの枠部は、内側に前記両プレッシャプレートのうちの何れかのプレッシャプレートの吊り下げ板部を挿通可能な内寸と、前記ブリッジ部の径方向内側面のうちで前記凹部を周方向両側から挟む部分に当接可能な外寸とを有する。
又、前記各弾性押圧部は、前記枠部の周方向両端部を前記ブリッジ部の径方向内側面に当接させた状態で、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの径方向外端縁のうちで前記吊り下げ板部を周方向両側から挟む位置を径方向内方に弾性的に押圧する。
【0013】
上述の様な本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記アンチラトルスプリングを構成する前記枠部のうち、軸方向両側に位置する一対の側辺部のうちの少なくとも一部に、径方向に折り曲げた折り曲げ部を形成する事により、周方向に関する前記枠部の曲げ剛性を向上させる。尚、この折り曲げ部は、好ましくは、前記プレッシャプレートとほぼ平行になるまで(このプレッシャプレートに対する傾斜角度が10度以内に収まる様に)折り曲げる。又、前記折り曲げ部は、必ずしも平板状でなくても良く、断面形状が円弧状である、部分円筒状(カール形状)としても良い。
【0014】
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置された前記第一のガイドピンを、前記サポートプレートから軸方向両側に突出させる。そして、前記キャリパ爪側に配置した一方のパッドを構成するプレッシャプレートの一部に設けられた支持腕部の先端部に形成された円孔を前記第一のガイドピンの先端部に、軸方向の変位を可能に外嵌する。又、前記枠部を構成する一対の側辺部のうち、前記一方のパッド側の側辺部をこの一方のパッドを構成する前記プレッシャプレートよりも前記ロータ側に配置する。更に、他方のパッド側の側辺部がこの他方のパッドを構成する前記プレッシャプレートよりも前記ロータと反対側に配置する。
【0015】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記枠部のうち、周方向両側に位置する一対の端辺部からそれぞれ径方向外方に折れ曲がった一対の折り立て舌片を、前記凹部のうちで周方向反対側に存在する一対の内側面に係合させる。そして、前記枠部が前記キャリパに対し、周方向にずれ動く事を防止する。又、前記枠部の周方向に関して両側に設けられた前記各弾性押圧部を、前記両パッド毎に互いに独立させる。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキによれば、アンチラトルスプリングの展開形状を小さくして必要となる素材の量を抑えると共に、折れ曲がり部の数を少なく、形状を単純にして、曲げ加工を容易化できる。この為、アンチラトルスプリングの製造コストを抑えられて、このアンチラトルスプリングを組み込んだフローティングキャリパ型ディスクブレーキの製造コストの低減を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、ロータを除いて組み立て、キャリパ爪側で且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく反キャリパ爪側で且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図3】同じく周方向から見た状態で示す正投影図。
【図4】同じくキャリパ爪側から見た状態で示す正投影図。
【図5】同じく径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図6】同じく図1のA−A断面図。
【図7】同B−B断面図。
【図8】一対のパッド及びサポートプレートを除いて径方向内側から見た状態で示す斜視図。
【図9】同じく径方向内側から見た状態で示す正投影図。
【図10】一対のパッドと第三のガイドピン及びアンチラトルスプリングを取り出して、図2と同方向から見た状態で示す斜視図。
【図11】図10のC矢視図。
【図12】図11の上方から見た正投影図。
【図13】同じく図11の右方から見た正投影図。
【図14】アンチラトルスプリングを取り出して図2、10と同方向から見た状態で示す斜視図。
【図15】同じく図12と同方向から見た状態で示す正投影図。
【図16】本発明の実施の形態の第2例を示す、図10と同様の図。
【図17】同じく図12と同様の図。
【図18】同じく図13と同様の図。
【図19】同じく図14と同様の図。
【図20】同じく図15と同様の図。
【図21】従来構造の1例を、車体に組み付けて反キャリパ爪側から見た状態で示す正投影図。
【図22】同じくキャリパ爪側から見た状態で示す正投影図。
【図23】一部を切断した状態で径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図24】図21のD−D断面図。
【図25】同E−E断面図。
【図26】図23のF−F断面図。
【図27】先発明の構造を示す、図10と同様の図。
【図28】図27のG矢視図。
【図29】アンチラトルスプリングを取り出して図27と同方向から見た図。
【図30】同じく径方向内側から見た正投影図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1〜15は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例を含めて、本発明の特徴は、アンチラトルスプリング12bの形状、並びに、このアンチラトルスプリング12bを、キャリパ11aと第一、第二の両パッド6a、7aのプレッシャプレート8a、8bとの間に組み付ける為の構造にある。フローティングキャリパ型ディスクブレーキ全体としての構造は、前述の特許文献1〜6に記載される等により従来から知られている構造と同様である。就いては、先ず、本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキ全体の構造及び作用に就いて簡単に説明した後、前記アンチラトルスプリング12bの形状、並びに、このアンチラトルスプリング12bの組み付け構造に就いて、詳しく説明する。
【0019】
本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータ1(図23〜26参照)に隣接して車体(図21〜22に記載したホーク3等)に固定される、サポートプレート2aを備える。この為に、このサポートプレート2aの内径寄り部分の周方向両端寄り部分の2個所位置に、固定用のボルト(図示せず)を挿通する為の円孔23、23を形成している。又、これら両円孔23、23よりも少し径方向外寄り部分で少し周方向にずれた部分に、それぞれ第一のガイドピン4aの中間部、及び、第二のガイドピン5aの基端部を支持固定して、これら両ガイドピン4a、5aを軸方向に配置している。そして、これら両ガイドピン4a、5aと前記サポートプレート2aとにより前記両パッド6a、7aを、軸方向の変位を可能に支持している。
【0020】
又、前記両ガイドピン4a、5aによりキャリパ11aを前記サポートプレート2aに対し、軸方向の変位を可能に支持している。このキャリパ11aは、ブリッジ部24と、キャリパ爪25と、シリンダ部26とを備える。このうちのブリッジ部24は、前記ロータ1の外周縁を跨ぐ位置に設けられている。又、前記キャリパ爪25は、このブリッジ部24の軸方向一端部(自動二輪車用のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合、四輪車用途は逆に、インナ側端部)から径方向内方に折れ曲がって、前記ロータ1の軸方向片側面(自動二輪車用の場合、インナ側面)に対向する状態で設けられている。又、前記シリンダ部26は、前記ロータ1の軸方向他側面(自動二輪車用の場合、アウタ側面)に対向する状態で、前記ブリッジ部24の軸方向他端部(自動二輪車用の場合、アウタ側端部)に設けられている。更に、前記ブリッジ部24の径方向内側面のうちの周方向中間部で、前記シリンダ部26と前記キャリパ爪25との間部分に、径方向に関して外方に凹んだ凹部21を、前記ブリッジ部24の軸方向に関する全幅に亙って設けている。
【0021】
又、前記両パッド6a、7aを構成する両プレッシャプレート8a、8bのうち、径方向外端縁の周方向中間部に、それぞれ吊り下げ板部19、19を形成し、これら両吊り下げ板部19、19を、前記凹部21に、軸方向の変位を可能に、緩く挿入している。そして、これら両吊り下げ板部19、19の中央部に形成したガイド孔27、27に、第三のガイドピン10aを挿通している。この第三のガイドピン10aは、両端部を前記キャリパ爪25と前記シリンダ部26とに支持した状態で前記凹部21内に、軸方向に配置している。そして、このシリンダ部26内ヘの圧油の送り込みに伴って、このシリンダ部26に嵌装したピストン14aの先端面28と前記キャリパ爪15の内側面29との間隔を縮めつつ前記キャリパ11aを前記サポートプレート2aに対し軸方向に変位させる事で、前記両パッド6a、7aのライニング9a、9bにより前記ロータ1を軸方向両側から挟持して制動を行う様に構成している。
【0022】
又、前記第一、第二の両ガイドピン4a、5aのうち、前記ロータ1の外周縁よりも径方向外側に配置された第一のガイドピン4aは、前記サポートプレート2aから軸方向両側に突出させている。そして、前記キャリパ爪25側に配置した第二のパッド7aを構成するプレッシャプレート8bの一部に支持腕部30を、径方向外方で且つ周方向に突出する状態で形成している。そして、この支持腕部30の先端部に形成された円孔31に、前記第一のガイドピン4aの先端部を、軸方向の変位を可能に挿通している。従って、前記第二のパッド7aは、この第一のガイドピン4aと前記第三のガイドピン10aとにより、前記サポートプレート2aに対し、軸方向の変位を可能に支持している。これに対して、前記第一のパッド6aは、前記第三のガイドピン10aと、前記サポートプレート2aに形成した係止凹部32(図6参照)とにより前記サポートプレート2aに対し、軸方向の変位を可能に支持している。
【0023】
本例の特徴である、前記アンチラトルスプリング12bは、上述の様なフローティングキャリパ型ディスクブレーキを構成する、前記キャリパ11aを構成するブリッジ部24の径方向内側面と、前記両パッド6a、7aを構成する両プレッシャプレート8a、8bの径方向外端縁との間に設けている。この様なアンチラトルスプリング12bは、ステンレス鋼板等の、弾性及び耐食性を有する板ばね製の素材に、プレスによるうち抜き成形及び曲げ成形を施す事により、全体を図14〜15に示す様な形状としている。
【0024】
即ち、前記アンチラトルスプリング12bは、枠部33と、この枠部33の周方向両側に設けられた、4箇所の弾性押圧部34a〜34dとを備える。
このうちの枠部33は、全体を略長矩形状としている。又、この枠部33の内寸は、図6、10、12に示す様に、この枠部33の内側に、前記シリンダ部26側に設ける第一のパッド6aを構成するプレッシャプレート8aの吊り下げ板部19を挿通可能な大きさとしている。又、前記枠部33の外寸(特に周方向長さ)は、図6〜9に示す様に、前記キャリパ11aを構成するブリッジ部24の径方向内側面のうちで、前記凹部21を周方向両側から挟む部分に当接可能な大きさとしている。
【0025】
又、前記各弾性押圧部34a〜34dは、前述の図27〜30に示した、先発明に係るアンチラトルスプリング12aと同様に、それぞれが弾性腕片17a〜17dと押圧部18a〜18dとから成る。それぞれがこの様な弾性腕片17a〜17dと押圧部18a〜18dとから成る、前記各弾性押圧部34a〜34dは、本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの構成各部材を組み立てた状態で、前記両パッド6a、7aを径方向内方に弾性的に押圧する。即ち、この状態で、前記枠部33の周方向(長さ方向)両端部が、前記ブリッジ部24の径方向内側面のうちで前記凹部21を周方向両側から挟む部分に当接し、前記各押圧部18a〜18dが、前記両プレッシャプレート8a、8bの径方向外端縁のうちで前記吊り下げ板部19、19を周方向両側から挟む位置に形成した各凸部22、22に、弾性的に当接する。
【0026】
又、本例の場合には、前記枠部33のうち、軸方向両側に位置する一対の側辺部35a、35bのうちの少なくとも一部に折り曲げ部36a、36bを形成する事により、周方向に関する前記枠部33の曲げ剛性を向上させている。本例の場合には、前記キャリパ11aへの組み付け状態で前記シリンダ部26側に配置される側辺部35aに関しては、この側辺部35a全体を、前記両プレッシャプレート8a、8bと平行になるまで折り曲げている。そして、前記側辺部35aの軸方向に関する寸法を小さく(素材の板厚分だけに)抑えて、前記シリンダ部26と前記プレッシャプレート8aとの間の、狭い空間への設置を可能として、軸方向に関するレイアウト性を向上させている。これに対し、前記キャリパ爪25側に配置される側辺部35bに関しては、幅方向中間部を前記両プレッシャプレート8a、8bと平行になるまで折り曲げている。言い換えれば、前記枠部33の内側縁側に、これら両プレッシャプレート8a、8bに対し直角方向に存在する部分を残して、図15の左右方向に関する、前記枠部33の剛性を確保している。
【0027】
更に、前記枠部33の周方向両端部に、それぞれ折り立て舌片38、38を形成している。これら両折り立て舌片38、38は、周方向両側に位置する一対の端辺部37、37の互いに対向する側縁から、それぞれ径方向外方に折れ曲がった状態で形成されている。組み立て状態で前記両舌片38、38は、前記凹部21のうちで周方向反対側に存在する一対の内側面に係合する。そして、前記枠部33が前記キャリパ11aに対し、周方向にずれ動く事を防止する。
【0028】
上述の様なアンチラトルスプリング12bを本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキに組み込んだ状態では、例えば図8〜10に示す様に、前記枠部33を構成する一対の側辺部35a、35bのうち、前記キャリパ爪25側に設けた第二のパッド7a側の側辺部35bを、この第二のパッド7aを構成する前記プレッシャプレート8bよりも前記ロータ1側に配置する。これに対して、前記シリンダ部26側に設けた第一のパッド6a側の側辺部35aを、この第一のパッド6aを構成する前記プレッシャプレート8aを挟んで、前記ロータ1と反対側に配置する。
【0029】
上述の様に構成する本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキによれば、前記アンチラトルスプリング12bの展開形状を小さくして、必要となる素材の量を抑える事ができる。即ち、本例の構造に組み込む、前記アンチラトルスプリング12bの場合には、前記両プレッシャプレート8a、8bの吊り下げ板部19、19との干渉を防止する為に、前記アンチラトルスプリング12bの中央部に枠部33を設けている。前述した先発明の構造の様に、前記凹部21内に入り込む様に大きく湾曲した基板部16を設けてはいない。この為、例えば図14と前述の図29とを比較すれば明らかな通り、展開形状を小さくして素材の量(面積)を抑え、低コスト化を図れる。又、やはり図14と前述の図29とを比較すれば明らかな通り、折れ曲がり部の数を少なく、折れ曲がり部の形状を単純にして、曲げ加工を容易化できる。これらにより、前記アンチラトルスプリング12bの製造コストを抑えられて、このアンチラトルスプリング12bを組み込んだフローティングキャリパ型ディスクブレーキ構造の製造コストの低減を図れる。
【0030】
[実施の形態の第2例]
図16〜21は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の構造の場合には、アンチラトルスプリング12cを構成する枠部33aの両側辺部35a、35bを、何れも、それぞれの全体をプレッシャプレート8a、8bに対し平行になるまで折り曲げている。この構成により、前記両側辺部35a、35bの軸方向寸法を、何れも素材の板厚分に止めて、前記アンチラトルスプリング12cを、より狭い空間に組み込み可能としている。又、キャリパ爪25(図1〜5、8、9参照)側の側辺部35bを周方向両側から挟む位置に、それぞれ係止片20c、20cを形成して、前記キャリパ爪25側の第二のパッド7aのプレッシャプレート8bの径方向外端縁と係合させている。従って、図16に示したサブアッセンブリの状態で、第一、第二両パッド6a、7a同士が互いに離れる方向に変位し、このサブアッセンブリの構成部材が不用意に分離する事を防止できる。
【0031】
又、本例の場合には、前記枠部33aの周方向両端部に形成した1対の折り立て舌片38a、38aの先端部(径方向外端部)を、互いに反対方向に折り返している。前記アンチラトルスプリング12cをキャリパ11a(図1〜4、8、9参照)に組み付けた状態では、前記両折り立て舌片38a、38aの先端部に設けた折り返し部が、前記キャリパ11aの凹部21(図6〜9参照)のうちで周方向反対側の内面に当接する。
又、弾性押圧部34c、34dの側面のうち、前記各弾性押圧部34a、34bとそれぞれ対向する位置には、径方向内方に折れ曲がった係止片がそれぞれ形成されている。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、図示の様な自動二輪車用に限らず、四輪車用のフローティングキャリパ型ディスクブレーキにも適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 ロータ
2、2a サポートプレート
3 ホーク
4、4a 第一のガイドピン
5、5a 第二のガイドピン
6、6a 第一のパッド
7、7a 第二のパッド
8a、8b プレッシャプレート
9a、9b ライニング
10、10a 第三のガイドピン
11、11a キャリパ
12、12a、12b、12c アンチラトルスプリング
13 シリンダ
14、14a ピストン
15 キャリパ爪
16 基板部
17a〜17d 弾性腕片
18a〜18d 押圧部
19 吊り下げ板部
20a、20b、20c 係止片
21 凹部
22 突部
23 円孔
24 ブリッジ部
25 キャリパ爪
26 シリンダ部
27 ガイド孔
28 先端面
29 内側面
30 支持腕部
31 円孔
32 係止凹部
33、33a 枠部
34a〜34d 弾性押圧部
35a、35b 側辺部
36a、36b、36c 折り曲げ部
37 端辺部
38、38a 折り立て舌片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータと、このロータの軸方向片側面に対向する状態で車体に固定されるサポートプレートと、それぞれこのサポートプレートに支持固定された状態で軸方向に配置された第一、第二のガイドピンと、それぞれがプレッシャプレートの片面にライニングを添設して成り、このライニングを前記ロータの側面に対向させた状態で、軸方向の変位を可能に支持された一対のパッドと、前記両ガイドピンにより前記サポートプレートに対し、軸方向の変位を可能に支持されたキャリパと、このキャリパと前記両パッドとの間に設けられたアンチラトルスプリングとを備え、
このうちのキャリパは、前記ロータの外周縁を跨ぐ位置に設けられたブリッジ部と、このブリッジ部の軸方向一端部から径方向内方に折れ曲がって前記ロータの軸方向片側面に対向する状態で設けられたキャリパ爪と、このロータの軸方向他側面に対向する状態で前記ブリッジ部の軸方向他端部に設けられたシリンダ部とを備え、前記ブリッジ部の径方向内側面のうちの周方向中間部でこのシリンダ部と前記キャリパ爪との間部分に、径方向に関して外方に凹んだ凹部を設けたものであり、
前記アンチラトルスプリングは、板ばね製で、前記ブリッジ部の径方向内側面と前記両パッドを構成する前記プレッシャプレートの径方向外端縁との間に設けられており、
前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートのうち、径方向外端縁の周方向中間部に、前記凹部に緩く挿入される吊り下げ板部がそれぞれ設けられていて、これら両吊り下げ板部に形成されたガイド孔に、両端部を前記キャリパ爪と前記シリンダ部とに支持した状態で前記凹部内に軸方向に配置された、第三のガイドピンが挿通されており、
前記シリンダ部内ヘの圧油の送り込みに伴って、このシリンダ部に嵌装したピストンの先端面と前記キャリパ爪の内側面との間隔を縮めつつ前記キャリパを前記サポートプレートに対し軸方向に変位させる事で前記両パッドのライニングにより前記ロータを軸方向両側から挟持して制動を行うフローティングキャリパ型ディスクブレーキであって、
前記アンチラトルスプリングは、枠部と、この枠部の周方向両側に設けられた複数の弾性押圧部とを備えたものであり、
このうちの枠部は、内側に前記両プレッシャプレートのうちの何れかのプレッシャプレートの吊り下げ板部を挿通可能な内寸と、前記ブリッジ部の径方向内側面のうちで前記凹部を周方向両側から挟む部分に当接可能な外寸とを有するものであり、
前記各弾性押圧部は、前記枠部の周方向両端部を前記ブリッジ部の径方向内側面に当接させた状態で、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの径方向外端縁のうちで前記吊り下げ板部を周方向両側から挟む位置を径方向内方に弾性的に押圧するものである事を特徴とするフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記アンチラトルスプリングを構成する前記枠部のうち、軸方向両側に位置する一対の側辺部のうちの少なくとも一部に、径方向に折り曲げた折り曲げ部を形成する事により、周方向に関する前記枠部の曲げ剛性を向上させている、請求項1に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ロータの外周縁よりも径方向外側に配置された前記第一のガイドピンが、前記サポートプレートから軸方向両側に突出していて、前記キャリパ爪側に配置された一方のパッドを構成するプレッシャプレートの一部に設けられた支持腕部の先端部に形成された円孔が前記第一のガイドピンの先端部に、軸方向の変位を可能に外嵌されており、前記枠部を構成する一対の側辺部のうち、前記一方のパッド側の側辺部がこの一方のパッドを構成する前記プレッシャプレートよりも前記ロータ側に、他方のパッド側の側辺部がこの他方のパッドを構成する前記プレッシャプレートよりも前記ロータと反対側に、それぞれ配置されている、請求項2に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記枠部のうち、周方向両側に位置する一対の端辺部からそれぞれ径方向外方に折れ曲がった一対の折り立て舌片を、前記凹部のうちで周方向反対側に存在する一対の内側面に係合させる事により、前記枠部が前記キャリパに対し、周方向にずれ動く事を防止しており、前記枠部の周方向に関して両側に設けられた前記各弾性押圧部は、前記両パッド毎に互いに独立している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−226552(P2011−226552A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96653(P2010−96653)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】