説明

フローティング型ディスクブレーキ

【課題】サポート1aの加工を容易に行えてコスト低減を図り易く、且つ、インナ、アウタ両パッド4a、5aの交換を容易に行えて、しかも、制動に伴って、これら両パッド4a、5aのライニング15c、15dが偏摩耗する事を抑えられる構造を実現する。
【解決手段】前記アウタパッド5aをキャリパ爪10aのインナ側面に支持する。前記サポート1aに対しキャリパ3aを支持する1対のガイドピンのうちのメインピン17を、ロータ6の外周縁よりも径方向内側に設置する。これに対して、弾性スリーブ29を介して支持するサブピン18を、前記外周縁よりも径方向外側に設置する。前記インナパッド4aの回出側端縁と前記サポート1aとの間に隙間を介在させて、このインナパッド1aを前記キャリパ3aに装着したまま、このキャリパ3aを、前記メインピン17を中心として上方に回動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に用いるフローティング型ディスクブレーキの改良に関する。具体的には、サポートの加工を容易に行えてコスト低減を図り易く、且つ、インナ、アウタ両パッドの交換を容易に行えて、しかも、制動に伴って、これら両パッドのライニングが偏摩耗する事を抑えられる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動を行う為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを、一対のガイドピンを介して軸方向の変位を可能に支持すると共に、このキャリパのうち、ロータに関して片側のみにシリンダ及びピストンを設けたフローティングキャリパ型のものが、例えば、特許文献1〜6に記載されている様に、従来から広く知られ、実際に広く使用されている。図15〜16は、従来から知られているフローティング型ディスクブレーキの1例として、特許文献1に記載された構造を示している。
【0003】
この従来構造の1例の場合、サポート1と、一対のガイドピン2と、キャリパ3と、インナパッド4と、アウタパッド5とを備える。このうちのサポート1は、軸方向から見た形状が大略コ字形で、周方向(軸方向、或いは周方向とは、特に断らない限り、次述するロータ6の軸方向、或いは周方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の中間部に、径方向外方が開口した凹入部7を備え、車輪と共に回転するロータ6(本発明の実施の形態を示す、図2〜4、6、10〜12、14参照)のインナ側(インナ側とは、車体への組み付け状態で、この車体の幅方向中央側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)で車体に固定される。又、前記両ガイドピン2は、前記サポート1の周方向両端部にそれぞれの基端部を、それぞれボルト8、8により、このサポート1からインナ側に突出する状態で、互いに平行に結合固定されている。
【0004】
又、前記キャリパ3は、周方向両端部にそれぞれガイド筒部9a、9bを設けており、これら両ガイド筒部9a、9bの内径側空間を、それぞれ第一、第二両ガイド孔としている。そして、これら両ガイド孔に、それぞれ前記両ガイドピン2を、軸方向の変位を可能に挿入して、前記キャリパ3を前記サポート1に対し、軸方向の変位を可能に支持している。このキャリパ3は、アウタ側(アウタ側とは、車体への組み付け状態で、この車体の幅方向両端側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)端部に径方向内方に突出したキャリパ爪10を設けている。又、前記キャリパ3のインナ側部分を構成するシリンダ部11内にシリンダ孔を、前記サポート1の凹入部7を介して前記キャリパ爪10のインナ側面に向け開口する状態で設け、このシリンダ孔内にピストンを、油密に嵌装している。そして、給油ポート12を通じてこのシリンダ孔内に圧油を給排する事により、前記ピストンを軸方向に変位させられる様にしている。
【0005】
又、前記インナ、アウタ両パッド4、5は、それぞれ前記サポート1を構成する一対のアンカブロック13、13に、軸方向の変位を可能に支持している。前記両パッド4、5は、それぞれプレッシャプレート14a、14bの互いに対向する面にライニング15a、15bを添着して成る。前記両パッド4、5は、このうちのプレッシャプレート14a、14bの周方向両端部を前記両アンカブロック13、13に、軸方向の変位を可能に、且つ、前記ロータ6の軸方向両側面と前記両ライニング15a、15bとの摩擦に基づいて加わるブレーキトルクを支承可能に係合させている。この様なフローティング型ディスクブレーキは、前記サポート1の基板部16を車体(ナックル等の懸架装置の構成部材)に支持固定し、前記両パッド4、5を前記ロータ6の軸方向両側に配置した状態に組み立てる。
【0006】
尚、サポートに対してキャリパを、一対のガイドピンにより軸方向の変位を可能に支持する、所謂ガイドピン型のフローティング型ディスクブレーキの場合、例えば特許文献6に記載されている様に、一方のガイドピンをメインピンとし、他方のガイドピンをサブピンとする事が、広く行われている。このうちのメインピンとは、ガイド孔に直接(径方向に関して厚さが実質的に変化しない、硬質材製のスリーブを介して挿入する場合も含む。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)、自身の径方向の変位を抑えた状態で(がたつきなく)挿入したガイドピンを言う。これに対して、サブピンとは、ガイド孔に、径方向に関する厚さが弾性的に変化する弾性材を介して挿入したガイドピンを言う。この様な構造により、それぞれ一対ずつ設けたガイドピンとガイド孔との間に存在する、僅かなピッチ誤差を吸収可能としている。
【0007】
前述の図15〜16に示した構造のフローティング型ディスクブレーキにより制動を行う場合には、前記給油ポート12を通じて前記シリンダ孔内に圧油を送り込む。そして、前記ピストンをアウタ側に押し出して、前記インナパッド4のライニング15aを前記ロータ6のインナ側面に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、前記キャリパ3がインナ側に変位し、このキャリパ3に設けた前記キャリパ爪10が前記アウタパッド5をインナ側に押圧して、このアウタパッド5のライニング15bを前記ロータ6のアウタ側面に押し付ける。この結果、このロータ6が軸方向両側から挟持されて、制動が行われる。この制動時に前記両パッド4、5には、前記両ライニング15a、15bと前記ロータ6の両側面との摩擦に基づいてブレーキトルクが作用する。このブレーキトルクは、前記両アンカブロック13、13が支承する。この際、前記ロータ6の回出側(回転方向前側)のアンカブロック13は、ブレーキトルクを圧縮力として支承する押しアンカとして機能する。これに対して、前記ロータ6の回入側(回転方向後側)のアンカブロック13は、ブレーキトルクを引っ張り力として支承する引きアンカとして機能する。前記シリンダ孔内の油圧を排除すれば、図示しないリターンスプリングの弾力等により、前記両パッド4、5のライニング15a、15bが前記ロータ6の両側面から離隔し、制動が解除される。
【0008】
上述の図15〜16に示した様な従来構造の場合、前記ロータ6の外周縁を軸方向に跨ぐ状態で、前記両アンカブロック13、13を設け、これら両アンカブロック13、13にインナ、アウタ両パッド4、5を支持している。図示の従来構造の場合、前記サポート1を、基板部16と前記両アンカブロック13、13とに分割し、このうちの基板部16を、前記車体に対し、ボルト等により結合固定する様にしている。但し、ロータの外周縁部を跨ぐ形状を有する一体型のサポートに、インナ、アウタ両パッドを支持する構造も、広く知られている。何れの構造の場合でも、制動及びその解除が円滑に行われる様にする為には、サポート1(図示の例の場合には、そのうちのアンカブロック13、13)と、前記両パッド4、5のプレッシャプレート14a、14bとの係合部の摺動抵抗を低く抑える必要がある。そして、この為には、前記サポート1のうちで前記両プレッシャプレート14a、14bと係合する部分を、機械加工により精度良く仕上げる必要がある。この為、前記サポート1を含むフローティング型ディスクブレーキの製造コストが嵩む事が避けられない。
【0009】
又、前記ライニング15a、15bが摩耗した前記インナ、アウタ両パッド4、5を、新たなパッドに交換する際には、前記サポート1に対してこれら両パッド4、5を着脱する作業が必要になる。即ち、図15〜16に示した従来構造の場合、これら両パッド4、5を前記サポート1に着脱する際に、前記キャリパ3を径方向外方に退避させた状態で、このサポート1に対して前記両パッド4、5を、軸方向に摺動させる必要がある。この様な作業は、このサポート1を車体内部に組み付けた状態のまま、パッドを落とさない様に注意しつつ行う必要があり、熟練と手間とを要する。
【0010】
これに対して、特許文献2、3には、アウタパッドをキャリパ爪の内側面に、ブレーキトルクの支承を可能に支持する構造が記載されている。更に、特許文献4、5には、キャリパ爪を省略し、アウタパッドのプレッシャプレートを、キャリパのアウタ側端部にボルトにより結合固定する構造が記載されている。これら各特許文献2〜5に記載された構造の場合には、アウタパッドをキャリパと共にサポートに対し着脱可能にできる為、パッド交換作業の容易化を図れる余地はある。但し、前記各特許文献2〜5に記載された構造の様に、アウタパッドをキャリパのアウタ側端部にのみ支持し、サポートに対して支持しない構造の場合には、制動時にアウタパッドに加わるブレーキトルクに基づいて、前記キャリパの姿勢変化が大きくなり易い。具体的には、このキャリパのアウタ側端部がロータの回出側に強く引かれて、このキャリパが、このロータの径方向に存在する仮想中心軸回りで回動する傾向になる。この結果、インナ、アウタ両パッドを構成する一対のプレッシャプレート同士の間隔が、ロータの回入側に比べて回出側で狭くなる傾向になり、前記両パッドを構成するライニングの磨耗が回出側で著しくなる、偏摩耗が進み易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−133356号公報
【特許文献2】特開平8−240232号公報
【特許文献3】特開平10−26156号公報
【特許文献4】特開2010−121721号公報
【特許文献5】特開2010−127326号公報
【特許文献6】特許第3945546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、サポートの加工を容易に行えてコスト低減を図り易く、且つ、インナ、アウタ両パッドの交換を容易に行えて、しかも、制動に伴って、これら両パッドのライニングが偏摩耗する事を抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のフローティング型ディスクブレーキは、従来から一般的に知られているフローティング型ディスクブレーキと同様に、サポートと、一対のガイドピンと、キャリパと、インナパッドと、アウタパッドとを備える。
このうちのサポートは、周方向の中間部に径方向外方が開口した凹入部を備え、車輪と共に回転するロータのインナ側で、車体(ナックル等の懸架装置の構成部材)に固定される。
又、前記両ガイドピンは、互いに平行に配置された状態で、前記サポートの周方向両端部にそれぞれの基端部を、このサポートからインナ側に突出する状態で、結合固定している。
又、前記キャリパは、周方向両端部に設けた第一、第二両ガイド孔と前記両ガイドピンとの係合に基づいて前記サポートに対し、軸方向の変位を可能に支持している。そして、前記キャリパは、アウタ側端部に径方向内方に突出したキャリパ爪を設けると共に、インナ側部分にシリンダ孔を、前記サポートの凹入部を介してこのキャリパ爪のインナ側面に向け開口する状態で設けている。そして、前記シリンダ孔内にピストンを、軸方向の変位を可能に嵌装している。
又、前記インナパッドは、このサポートの一部に、軸方向の変位を可能に支持している。
又、前記アウタパッドは、前記ロータを介してこのインナパッドと対向する状態で設けている。
【0014】
特に、本発明のフローティング型ディスクブレーキに於いては、前記アウタパッドを前記キャリパ爪のインナ側面に、制動時にこのアウタパッドに加わるブレーキトルクをこのキャリパ爪に伝達可能に係合させた状態で支持している。
又、前記両ガイドピンのうちの一方のガイドピンは、前記キャリパの周方向一端部に設けられた前記第一ガイド孔に直接、軸方向の変位及び自身の中心軸回りの回転を可能に挿入されたメインピンである。そして、このメインピンの中心軸を、前記ロータの外周縁よりも径方向内側部分に存在させている。
同じく、他方のガイドピンは、前記キャリパの周方向他端部に設けられた前記第二ガイド孔に弾性材を介して軸方向の変位を可能に挿入されたサブピンである。そして、このサブピンの設置位置は、前記ロータの外周縁よりも径方向外側としている。
又、前記サポートの一部を前記インナパッドの周方向一端縁に、このサポートを挟んで前記サブピンと同心に配置されたアンカピンを前記インナパッドの周方向他端縁に、それぞれ当接させている。そして、制動時にこのインナパッドに加わるブレーキトルクを支承可能としている。
更に、前記インナパッドの周方向他端縁と前記サポートとの間に、前記アンカピンをこのサポートから外して、このインナパッドと共に前記キャリパを前記メインピンを中心として回動させた場合に、前記インナパッドの周方向他端縁と前記サポートとの干渉を防止できる隙間を介在させている。
【0015】
上述の様な本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記サポートの一部と前記インナパッドの周方向一端縁とを、この周方向一端縁の径方向内寄り部分で当接させる。これに対して、前記アンカピンと前記インナパッドの周方向他端縁とを、この周方向他端縁の径方向外寄り部分で当接させる。
【0016】
又、本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記アンカピンを、アウタ側端部に設けられた大径で円柱状のアンカ部とインナ側端部に設けられた雄ねじ部とを備えたものとする。この様なアンカピンは、前記サポートの周方向他端部に軸方向に形成した、前記アンカ部の外径よりも小さな内径を有する支持孔に、アウタ側からインナ側に向け、前記アンカ部を除く部分を緩く挿通する。又、前記サブピンを、アウタ側端面に開口するねじ孔を備えたものとする。そして、前記支持孔に前記アンカピンのうちでこのアンカ部を除く部分をアウタ側から緩く挿通して、前記雄ねじ部を前記サブピンのねじ孔に螺合し更に締め付ける事により、前記サブピン及び前記アンカピンを前記サポートに対し支持固定する。又、前記インナパッドの周方向他端縁はこのアンカピンに対し、このインナパッドを構成するプレッシャプレートの一部に形成された二股状の係止部に前記アンカピンを係合させる事で、径方向の変位を阻止した状態で係止する。
【0017】
或いは、本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記サブピンの外径と前記第二ガイド孔の内径との差を、前記ロータから遠い側で近い側よりも小さくする。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明のフローティング型ディスクブレーキによれば、サポートの加工を容易に行えてコスト低減を図り易く、且つ、インナ、アウタ両パッドの交換を容易に行えて、しかも、制動に伴う、これら両パッドのライニングの偏摩耗を軽減できる構造を実現できる。
【0019】
先ず、サポート加工の容易化は、アウタパッドをキャリパ爪のインナ側面に支持する事、並びに、インナパッドの周方向両端部を、サポートの一部とアンカピンとにより、軸方向の変位を可能に支持する事により図れる。即ち、これらの構造を採用する事により、前記サポートの形状を単純化し、且つ、インナパッドを支持する為の部分の加工を容易化できる。そして、前記サポートを含む、フローティング型ディスクブレーキの製造コストの低減を図れる。
【0020】
次に、パッド交換作業の容易化は、前記インナパッドの周方向他端縁と前記サポートとの間に所定の大きさを有する隙間を介在させる事により図れる。即ち、このサポートからアンカピンを外した状態では、キャリパが、メインピンを中心として回動可能になる。そして、前記隙間の存在に基づき、前記インナパッド及びアウタパッドをキャリパに支持した状態のままであっても、前記メインピンを中心とする回動の間、これら両パッドの一部と前記サポートの一部とが干渉する事はない。この為、前記キャリパに対するこれら両パッドの着脱作業を、前記メインピンを中心としてこのキャリパを径方向外方に回動させた状態で行えて、前記パッド交換作業の容易化を図れる。しかも、前記アウタパッドをロータの外周縁よりも径方向外方に退避させた状態で、前記メインピンと前記キャリパとの係合を外せば(このメインピンをキャリパのガイド孔から抜き取れば)、前記両パッドを前記キャリパごと、前記サポートから、ブレーキホースを傷めない範囲で取り外す事も可能になる。この様に、前記キャリパを前記サポートから取り外した状態で、前記両パッドをこのキャリパに対し着脱すれば、これら両パッドの交換作業を、より容易に行える。又、工場でのフローティング型ディスクブレーキの製造工程で、キャリパを前記サポートに組み付ける以前に、このキャリパに前記両パッドを組み付けてから、このキャリパをこのサポートに組み付ける様にすれば、工場での組立作業の容易化を図れる。
【0021】
更に、前記両パッドのライニングの偏摩耗の軽減は、前記メインピンの中心軸をロータの外周縁よりも径方向内側部分に配置する事により図れる。即ち、このメインピンの設置位置を径方向に関して内側寄り部分としている為、このメインピンと、前記サポートを車体に結合している部分との距離が短くなる。従って、この車体に対するこのメインピンの支持剛性を高くできて、制動に伴ってこのメインピンにブレーキトルクが作用した場合に於ける、このメインピンの姿勢変化を少なく抑えられる。延いては、このメインピンに支持した、前記キャリパの姿勢変化を少なく抑える事ができ、このキャリパに内蔵したピストンの押し出しに基づく、前記両パッドの押圧力の偏りを少なく抑えられて、これら両パッドのライニングの偏摩耗を抑えられる。
【0022】
又、請求項2に記載した発明によれば、車両の進行方向に関係なく、制動時にインナパッドと、サポートの一部或いはアンカピンとが勢い良く衝突する事を防止して、制動時に不快な異音や振動が発生する事を防止できる。即ち、制動時に前記インナパッドには、ライニングとロータのインナ側面との摩擦に基づいて、摩擦面の中心に関して接線方向の力が加わる。そして、この力の作用方向と、この力を支承する為のアンカ部分との位置関係に応じて前記インナパッドに、前記摩擦面の中心を通る、ロータの中心軸と平行な仮想中心軸回りのモーメントが加わる。制動開始の瞬間に、このモーメントの作用方向前側部分に隙間が存在すると、この隙間の消滅に伴って、前記衝突に基づく異音や振動が発生する。車両の進行方向が一定であれば、アンチラトルスプリングにより前記隙間をなくす事で、前記衝突を防止できる。但し、自動車の場合、例えば前進状態でこの隙間をなくせても、後退状態ではこの隙間をなくせない可能性がある。これに対して前記請求項2に記載した発明の構成を採用すれば、前進状態からの制動時にも、後退状態からの制動時にも、前記インナパッドに同じ方向のモーメントが加わる。この為、パッドクリップ等のアンチラトルスプリングによりこのインナパッドを、このモーメントと同じ方向に、弾性的に押圧しておきさえすれば、制動時にこのモーメントの作用方向前側に隙間が存在しない状態として、前記衝突に基づく異音や振動の発生を防止できる。
【0023】
又、請求項3に記載した発明によれば、サポートに対するサブピン及びアンカピンの着脱を容易に、且つ、確実に行わせる事ができ、しかも、制動時に於ける前記キャリパの姿勢を、より安定させる事ができる。即ち、前記アンカピン側の雄ねじ部と前記サブピン側のねじ孔との螺合に基づいて、これらアンカピンとサブピンとを前記サポートに対し容易に着脱できる。又、前記インナパッドのプレッシャプレートに設けた係止部と前記アンカピンとの係合に基づき、このインナパッドを前記サポートに対し、径方向の姿勢を安定して支持できる。
【0024】
更に、制動時に前記インナパッドに加わるブレーキトルクに基づいて前記キャリパの姿勢を変える方向に作用する力と、同じくアウタパッドに加わるブレーキトルクに基づいて前記キャリパの姿勢を変える方向に作用する力とが、前記サブピン部分で互いに相殺される。即ち、前記インナパッドに加わるブレーキトルクは、前記アンカピンを介して前記サブピンに、回出側に変位させる方向の力として作用する。これに対して、前記アウタパッドに加わるブレーキトルクは前記キャリパに、前記サブピンを挿入した第二ガイド孔部分を回入側に変位させる方向の力として作用する。この為、これら両方向の力が相殺し合って、制動時に於ける前記キャリパの姿勢の安定化を図れる。
特に、請求項4に記載した発明の様に、前記サブピンの外径と前記第二ガイド孔の内径との差を、前記ロータから遠い、このサブピンの先端側で小さくすれば、このサブピンと前記メインピンとのピッチ誤差の吸収と、前記両方向の力の相殺とを、高次元で両立させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、アウタ側且つ径方向外方から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じくアウタ側から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じく径方向外方から見た状態で示す正投影図。
【図4】図2の左方から見た状態で示す正投影図。
【図5】同じくインナ側から見た状態で示す正投影図。
【図6】同じく、図2のA−A断面図。
【図7】インナ、アウタ両パッドを支持したまま、キャリパをサポートから取り外した状態を、アウタ側且つ径方向内側から見た状態で示す斜視図。
【図8】キャリパ及びインナ、アウタ両パッドを取り外したサポートを、アウタ側且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図9】本発明の実施の形態の第2例を、アウタ側且つ径方向外方から見た状態で示す斜視図。
【図10】同じくアウタ側から見た状態で示す正投影図。
【図11】同じく径方向外方から見た状態で示す正投影図。
【図12】図10の左方から見た状態で示す正投影図。
【図13】同じくインナ側から見た状態で示す正投影図。
【図14】同じく、図10のB−B断面図。
【図15】従来構造の第1例を、組み立てた状態で、インナ側且つ径方向外方から見た状態で示す斜視図。
【図16】同じく分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態の第1例]
図1〜8は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のフローティング型ディスクブレーキは、サポート1aと、それぞれがガイドピンであるメインピン17及びサブピン18と、キャリパ3aと、インナパッド4aと、アウタパッド5aとを備える。
【0027】
このうちのサポート1aは、鉄系合金或いはアルミニウム系合金を鋳造(ダイキャスト成形を含む)する事により、或いは、十分な強度及び剛性を有する鋼板にプレス加工を施す事により、凹凸を有する板状に形成したもので、周方向(図1〜3、5、6、8の左右方向)の中間部に、径方向外方が開口した凹入部7aを備える。又、前記サポート1aのうち、周方向両端部の内径寄り部分に、それぞれ取付孔19、19を形成している。前記サポート1aは、これら両取付孔19、19を挿通した(これら両取付孔19、19が単なる円孔の場合)、或いはこれら両取付孔19、19に螺合した(これら両取付孔19、19がねじ孔の場合)ボルトにより、ナックル等の懸架装置の一部で、車体に結合固定される。何れにしても、前記サポート1aは、車輪と共に回転するロータ6のインナ側で、前記車体に固定する。尚、本例の場合にこのロータ6は、車両が前進する際に、図2、3、6に矢印αで示す様に、これら各図の右から左に(図2の反時計方向に)回転する。従って、前進状態での回入側は、図1〜3、5〜8の右側となり、同じく回出側はこれら各図の左側となる。又、以下の説明で、回入側、回出側とは、特に断わらない限り、前進時の状態で言う。又、本例の場合、回入側端縁が、特許請求の範囲に記載した周方向一端縁に、回出側端縁が同じく周方向他端縁に、それぞれ相当する。
【0028】
又、前記メインピン17及び前記サブピン18は、それぞれ、前記サポート1aの周方向両端部にそれぞれの基端部を、このサポート1aからインナ側(図1、8の右上側、図2の裏面側、図3、6の上側、図4の左側、図5の手前側)に突出する状態で、互いに平行に結合固定している。先ず、前記メインピン17は、基端部に設けた小径の雄ねじ部20を、前記サポート1aの周方向一端部(図1〜3、6、8の右端部、図5の左端部)に形成したねじ孔21に螺合し更に締め付ける事で、前記サポート1aに対し結合固定している。
【0029】
これに対して、前記サブピン18は、アンカピン22との間で、前記サポート1aの周方向他端部(図1〜3、6の左端部、図5、8の右端部)を挟持する状態で、このサポート1aの周方向他端部に支持固定している。即ち、前記サブピン18のアウタ側半部の中心部に、このサブピン18のアウタ側端面に開口するねじ孔23を設けている。又、前記アンカピン22は、アウタ側端部に設けられた大径で円柱状のアンカ部24と、インナ側端部に設けられた雄ねじ部25とを備える。これらアンカ部24と雄ねじ部25との間部分は、この雄ねじ部25よりも少しだけ小径の円柱部26としている。この様な前記アンカピン22を組み付ける為に、前記サポート1aの周方向他端部に、前記アンカ部24の外径よりも小さく、前記円柱部26の外径よりも大きな内径を有する支持孔27を、軸方向に形成している。そして、この支持孔27に前記アンカピン22の雄ねじ部25乃至円柱部26を、アウタ側からインナ側に向けて緩く挿通し、前記アンカ部24のインナ側端面を、前記サポート1aの周方向他端部のアウタ側面に突き当てている。
【0030】
更に、前記雄ねじ部25を前記サブピン18のねじ孔23に螺合し更に締め付けている。この状態で、このサブピン18の基端面(アウタ側端面)と前記アンカ部24のインナ側端面との間で、前記サポート1aの周方向他端部を軸方向両側から強く挟持し、前記サブピン18及び前記アンカピン22を、この周方向他端部に固定している。但し、本例の場合には、前記雄ねじ部25と前記ねじ孔23との締め付け強度を適切に規制したり、或いは、これら雄ねじ部25とねじ孔23との螺合深さを規制している。これにより、前記サポート1aの周方向他端部の軸方向両側面と、前記サブピン18の基端面及び前記アンカ部24のインナ側端面との当接部の摩擦を適正にし、急制動等により前記インナパッド4aから前記アンカピン22に大きなブレーキトルクが加わった場合に、このアンカピン22が、前記円柱部26の外周面と前記支持孔27の内周面との間に設けられた隙間の存在に基づいて、周方向にずれ動く事を許容する様にしている。
【0031】
又、前記サブピン18の軸方向中間部には小径部28を形成しており、この小径部28に、特許請求の範囲に記載した弾性材である、弾性スリーブ29を外嵌している。この弾性スリーブ29の自由状態での外径は、前記サブピン18のうちで、前記小径部28の軸方向両側部分の外径よりも大きい。又、本例の場合には、前記サブピン18の外径を、前記小径部28の両側で、互いに異ならせている。具体的には、この小径部28よりも先端側(インナ側)の外径D18を、基端側(アウタ側)の外径d18よりも大きく(D18>d18)している。
【0032】
本例の場合には、前述の様なサポート1aに、前述した様なメインピン17及び上述した様なサブピン18を組み付けた構造を採用する事により、前記サポート1aの加工の容易化を図れる。即ち、これらの構造を採用する事により、このサポート1aの形状を単純化し、且つ、後述する前記インナパッド4aを支持する為の部分の加工を容易化できる。そして、前記サポート1aを含む、フローティング型ディスクブレーキの製造コストの低減を図れる。
【0033】
又、前記キャリパ3aは、前述の様なメインピン17と上述の様なサブピン18とにより、前記サポート1aに対し、軸方向の変位を可能に支持している。即ち、前記キャリパ3aの周方向両側面から一対のガイド腕部30、31を、周方向に関して互いに反対側に(回入側、回出側に)突設している。これら両ガイド腕部30、31のうち、回入側に突設したメインガイド腕部30の先端部にメインガイド筒部32を、回出側に突設したサブガイド腕部31の先端部にサブガイド筒部33を、それぞれ設けている。更に、これら両ガイド筒部32、33にそれぞれアウタ側に開口する状態で、特許請求の範囲に記載した第一ガイド孔に相当するメインガイド孔34、及び、同じく第二ガイド孔に相当するサブガイド孔35を、それぞれ軸方向に、互いに平行に設けている。これら両ガイド孔34、35の径方向に関する設置位置は、互いに異ならせている。即ち、このうちのメインガイド孔34に関しては、少なくともその中心軸を(図示の例ではこのメインガイド孔34全体を)、前記ロータ6の外周縁よりも径方向内側に配置している。これに対して、前記サブガイド孔35に関しては、全体を、前記ロータ6の外周縁よりも径方向外側に配置している。
【0034】
上述の様なメインガイド孔34とサブガイド孔35とには、それぞれ前記メインピン17と前記サブピン18とを、それぞれ軸方向の変位を可能に挿入している。このうちのメインピン17に関しては、前記メインガイド孔34に直接、軸方向の変位及び自身の中心軸回りの回転を可能に挿入している。前記メインピン17のうちで前記メインガイド孔34に挿入される部分の外径は軸方向に関して変化せず、且つ、この外径は前記メインガイド孔34の内径よりも僅かに小さいだけである。従って前記メインピン17はこのメインガイド孔34内に、前記変位及び回転を可能に、がたつきなく嵌合している。
【0035】
一方、前記サブピン18は前記サブガイド孔35に緩く挿入すると共に、このサブピン18の軸方向中間部に形成した前記小径部28の外周面と前記サブガイド孔35の内周面との間で、前記弾性スリーブ29を弾性的に圧縮している。前記サブピン18自体の外径D18、d18に関しては、基端側の外径d18は勿論、先端側の外径D18に関しても、前記サブガイド孔35の内径よりも少し小さくしている。この先端側の外径D18がこの内径よりも小さくなる程度は、前記軸方向の変位に支障を来たさない限り、少ない程好ましい。具体的には、前記両ピン17、18間のピッチと、前記両ガイド孔34、35間のピッチとの間に存在し得る誤差(製造上許容される寸法公差)を考慮して、設計的に規制する。何れにしても、前記サブピン18を前記サブガイド孔35に挿入した状態で、これらサブピン18の外周面とサブガイド孔35の内周面との間には隙間が存在するが、前記弾性スリーブ29の存在に基づき、これらサブピン18とサブガイド孔35との係合部ががたつく事はない。又、このサブガイド孔35の設置位置との関係上、前記サブピン18、及び、このサブピン18と同心に結合された、前記アンカピン22との設置位置は、前記ロータ6の外周縁よりも径方向外側となる。
【0036】
又、前記キャリパ3aは、前記メイン、サブ両ピン17、18と、前記メイン、サブ両ガイド孔34、35との係合に基づいて、前記サポート1aに対し、軸方向の変位を可能に支持している。尚、このサポート1aに対する前記各ピン17、18、22の組み付けを可能にする為、メインピン17及びアンカピン22の端面に、工具を係止する為の係止孔36a、36bを形成している。又、前記両ピン17、18と前記両ガイド孔34、35との係合部に異物が入り込むのを防止する為に、これら両ピン17、18と両ガイド孔34、35との間に防塵ブーツ37a、37bを装着している。
【0037】
又、前記キャリパ3aは、アウタ側端部にキャリパ爪10aを、インナ側半部にシリンダ部11aを、それぞれ設けている。これらキャリパ爪10aとシリンダ部11aとは、前記ロータ6の外周縁よりも径方向外方に存在する(このロータ6を跨ぐ位置に設けた)ブリッジ部38により、それぞれの径方向外端部同士を一体的に結合している。言い換えれば、前記キャリパ爪10aは、前記ブリッジ部38のアウタ側端部から、径方向内方に突出する状態で設けられている。又、前記シリンダ部11a内にシリンダ孔39を、前記サポート1aの凹入部7aを介して、前記キャリパ爪10aのインナ側面に向け開口する状態で設けている。そして、前記シリンダ孔39内にピストン40を、シールリング41を介して、油密に嵌装している。このシリンダ孔39内へは、給油ポート12aを介して圧油の給排を可能としている。そして、この圧油の給排に基づいて、前記ピストン40を前記シリンダ孔39内で軸方向に変位させられる様にしている。
【0038】
又、前記インナパッド4aは、前記サポート1aの一部に、軸方向の変位を可能に、且つ、両方向のブレーキトルクを支承可能に支持している。この為に本例の場合には、前記インナパッド4aを構成するプレッシャプレート14cの回入側端縁の径方向内端寄り部分を、前記凹入部7aの回入側の内側面に、パッドクリップ42を介して突き当てている。この回入側の突き当て部分は、後退状態での制動時に前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクを支承する。又、前記プレッシャプレート14cの回出側端縁の径方向外端部に、二股状の(コ字形に凹入した)係止部43を形成し、この係止部43に前記アンカピン22を係合させている。このアンカピン22との係合部は、前進状態での制動時に前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクを支承する。又、前記係止部43と前記アンカピン22との係合部は、前記インナパッド4aの回出側が径方向に変位する事を阻止する機能も有する。又、このインナパッド4aは、前記プレッシャプレート14cの裏面に係止したパッドクリップ44を、前記ピストン40の開口部に弾性的に内嵌する事により、このピストン40の先端部に係止している。
【0039】
上述の様な係止部43は、前記インナパッド4aを構成するプレッシャプレート14cの回出側端縁部のうち、外径側端部を回出側に突出させた部分に形成している。これに伴って、この回出側端縁部の径方向中間部乃至内径側端部は、前記係止部43を形成した部分に対し、周方向中央側に十分に凹んでいる。そして、前記プレッシャプレート14cの回出側端縁の径方向中間部乃至内径側端部と、前記サポート1aに形成した、前記凹入部7aの回出側の内側面との間に、隙間45を介在させている。この隙間45の幅寸法W45(図2)は、前記インナパッド4aの交換作業の容易化の面から規制している。即ち、前記アンカピン22を前記サポート1aから外して、前記インナパッド4aと共に前記キャリパ3aを前記メインピン17を中心として回動させた場合に、前記プレッシャプレート14cの回出側端縁と前記凹入部7aの回出側の内側面とが干渉しない程度に、前記隙間45の幅寸法W45を規制している。
【0040】
又、前記アウタパッド5aは、前記ロータ6を介して前記インナパッド4aと対向する状態で設けている。又、このアウタパッド5aを前記キャリパ爪10aのインナ側面に、制動時にこのアウタパッド5aに加わるブレーキトルクをこのキャリパ爪10aに伝達可能に係合させた状態で支持している。この為に本例の場合には、前記アウタパッド5aを構成するプレッシャプレート14dの裏面に一対の凸部46、46を突設し、これら両凸部46、46を、それぞれ前記キャリパ爪10aに形成した係止孔47、47に、がたつきなく嵌合させている。そして、前記アウタパッド5aを構成するプレッシャプレート14dの裏面に装着したパッドスプリング48により、前記キャリパ爪10aに対する前記アウタパッド5aのがたつき防止、及び、分離防止を図っている。
【0041】
上述の様に構成する本発明のフローティング型ディスクブレーキにより制動を行う際には、前記給油ポート12aを通じて前記シリンダ孔39内に圧油を送り込む。そして、前記ピストン40をアウタ側に押し出して、前記インナパッド4aのライニング15cを前記ロータ6のインナ側面に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、前記キャリパ3aが、前記メインピン17及び前記サブピン18と、前記メインガイド孔34及び前記サブガイド孔35との嵌合部を軸方向に摺動させつつインナ側に変位する。そして、このキャリパ3aに設けた前記キャリパ爪10aにより、前記アウタパッド5aをインナ側に押圧し、このアウタパッド5のライニング15dを前記ロータ6のアウタ側面に押し付ける。この結果、このロータ6が軸方向両側から挟持されて、制動が行われる。前記シリンダ孔39内の油圧を排除すれば、図示しないリターンスプリングの弾力等により、前記両パッド4a、5aのライニング15c、15dが前記ロータ6の両側面から離隔し、制動が解除される。
【0042】
上述の様にして行われる制動時に、前記両パッド4a、5aには、前記両ライニング15c、15dと前記ロータ6の両側面との摩擦に基づいてブレーキトルクが作用する。前進時にこのブレーキトルクは、前記インナパッド4aに関しては前記アンカピン22が支承する。又、前記アウタパッド5aに加わるブレーキトルクに関しては、前記キャリパ3aに伝達され、このキャリパ3aから前記メインピン17を介して、前記サポート1aに伝達され、このサポート1aを結合固定した車体が支承する。この際、前記キャリパ3aには、図3、6で時計方向に回動しようとするモーメントが加わる。そして、このモーメントにより、前記キャリパ3aの姿勢が不正になる傾向になる。
【0043】
本例の場合、前記メインピン17と、前記サポート1aを車体に結合している部分との距離は短いので、前記キャリパ3aから前記サポート1aに加わるブレーキトルクに対する、このサポート1aの剛性、延いては、前記メインピン17を介して前記サポート1aに支持された、前記キャリパ3aの支持剛性は十分に高い。従って、徐々に減速する場合の如き軽制動時の様に、前記インナパッド4a(及び前記アウタパッド5a)に加わるブレーキトルクが小さく、従って前記モーメントが小さい場合には、前記キャリパ3aの姿勢の悪化は、無視できる程度に小さく抑えられる。そして、前記両パッド4a、5aのライニング15c、15dと前記ロータ6の軸方向両側面との当接圧が、回入側と回出側とで大きな差を生じにくくなる。この結果、前記両ライニング15c、15dに、問題となる程の偏摩耗が生じにくくできる。
【0044】
これに対して、急制動時等、前記インナパッド4a及び前記アウタパッド5aに加わるブレーキトルクが大きくなると、上述の様な、キャリパ3aの支持剛性が高い事に加えて、次の様な機構により、このキャリパ3aの姿勢の悪化を抑え、前記両ライニング15c、15dの偏摩耗を抑える。即ち、急制動時には、前記図3、6で時計方向のモーメントが大きくなるだけでなく、前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクも大きくなる。このうちのモーメントは、図6に矢印イで示す様に、前記サブピン18の先端部を回入側に押圧する力として加わる。又、前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクは、前記アンカピン22並びにこのアンカピン22と結合固定された前記サブピン18を押圧する力となり、このサブピン18の先端部を、図6の矢印ロで示す様に、回出側に押圧する。これら両矢印イ、ロから明らかな通り、制動時に前記サブピン18の先端部に加わる力の方向は、前記アウタパッド5aに加わるブレーキトルクに基づく力と、同じくインナパッド4aに加わるブレーキトルクに基づく力とで互いに逆になる。この為、これらの力の一部が、前記サブピン18の先端部で互いに相殺され、その分、前記図3、6で時計方向のモーメントが低減されて、前記キャリパ3aの姿勢の悪化を抑えられ、前記両ライニング15c、15dの偏摩耗を抑えられる。
【0045】
特に本例の構造の場合には、前記サブピン18の外径と前記サブガイド孔35の内径との差を、このサブピン18の先端側で小さくしている。この為、このサブピン18と前記メインピン17とのピッチ誤差の吸収と、前記両方向の力の相殺とを、高次元で両立させる事ができる。即ち、前記サブピン18の基端側で、このサブピン18の外径と前記サブガイド孔35の内径との差を或る程度確保しているので、前記両ピッチが多少ずれていても、前記サポート1aに対する前記サブピン18の傾斜角度を、弾性的に僅かに変化させるのみで、このサブピン18及び前記メインピン17を前記サブガイド孔35及び前記メインガイド孔34内に挿入できる。この場合でも、前記サブピン18の先端部外周面と前記サブガイド孔35の奥端部内周面との間に存在する隙間を僅少に抑えられるので、前記キャリパ3aの姿勢が、正規状態から僅かに変化しただけで、前記両矢印イ、ロ方向の力を相殺できて、この姿勢が悪化する程度を僅少に抑えられる。
【0046】
後退状態での制動時には、前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクは、前記パッドクリップ42を介して、前記サポート1aが直接支承する。アウタ側パッド5aに加わるブレーキトルクに関しては、前進時の状態と同様に、前記キャリパ3aにより支承される。後退状態での制動時に前記両パッド4a、5aに加わる制動トルクは、前進状態で加わる制動トルクに比べて小さく、しかも制動を行う頻度も少ない為、前記両パッド4a、5aのライニング15c、15dの偏摩耗が問題となる事はない。むしろ、後退状態での制動時にこれらライニング15c、15dが偏摩耗する様にすれば、(本発明の構造では解消しきれない)前進状態での制動に伴って発生する偏摩耗を相殺できる可能性がある。
【0047】
前記両パッド4a、5aのうち、アウタパッド5aは前記キャリパ3aのキャリパ爪10aに対し、前述の構造により、相対変位しない状態で、がたつきなく支持している。従って、前進、後退、何れの状態でも、制動時に、前記アウタパッド5aが前記キャリパ爪10aに対してがたつく事はない。これに対して前記インナパッド4aは前記サポート1a及び前記アンカピン22に対し、軸方向の変位を可能に支持している。従って、そのままでは前記インナパッド4aが前記サポート1aに対して、非制動時にがたつき、不快な異音や振動を発生する可能性がある。この為に本例の場合には、前記パッドクリップ42により前記インナパッド4aのプレッシャプレート14cを押圧し、このプレッシャプレート14cと前記サポート1a及び前記アンカピン22との係合部のがたつきをなくしている。更に本例の場合には、前記パッドクリップ42が前記プレッシャプレート14cを押圧する方向と、制動時に前記インナパッド4aに加わるブレーキトルクに基づいてこのプレッシャプレート14cが変位しようとする方向とを一致させて(図2の時計方向として)、前進、後退、何れの状態でも、制動開始の瞬間に不快な異音や振動が発生しない様にしている。
【0048】
即ち、制動時に前記インナパッド4a(アウタパッド5aの場合も同様)にはブレーキトルクが、ライニング15cとロータ6の側面との摩擦中心から、この摩擦中心を含む円弧に関する接線方向の力として加わる。前記インナパッド4aのプレッシャプレート14cは、回出側端縁に関しては径方向外側で、回入側端縁に関しては同じく内側で、それぞれブレーキトルクを支承可能に支持されている為、前進状態、後退状態、何れの状態でも、前記インナパッド4aには、図2で時計方向のモーメントが加わる。従って、前記パッドクリップ42、又は、別途設けたアンチラトルスプリングによりこのインナパッド4aに、前記図2で時計方向のモーメントが付加される方向に押圧しつつ、前記プレッシャプレート14cと、前記サポート1a及び前記アンカピン22との係合部の隙間を無くせば、制動時に、ブレーキトルクにより前記パッドスプリング42を弾性変形させつつ前記隙間を解消する事がなくなり、制動開始の瞬間に不快な異音や振動が発生する事を防止できる。
【0049】
又、本例の構造で、前記インナ、アウタ両パッド4a、5aを交換する作業は、前記アンカピン22を前記支持孔27から引き抜き、前記メインピン17を中心として前記キャリパ3aを、前記サブピン18と共に径方向外方に回動させる事により行う。この際、ライニング15c、15dが摩耗した、古いインナ、アウタ両パッド4a、5aは、前記キャリパ3aに支持したまま回動させる。回動中心となる前記メインピン17は、前記ロータ6の外周縁よりも径方向内側に存在し、前記アンカピン22を抜き取った状態では、前記インナ、アウタ両パッド4a、5aの回出側端部のうちの外径寄り部分が径方向外方に変位する事を妨げる部分は存在しない。又、前記隙間45の存在により、前記インナパッド4aの回出側端部のうちの内径寄り部分が径方向外方に変位する事も妨げられない。従って、これらインナ、アウタ両パッド4a、5aを前記キャリパ3aに支持した状態のまま、このキャリパ3aを、前記メインピン17を中心として、径方向外方に、大きく回動させる事ができる。
【0050】
そこで、前記キャリパ3aを、前記ロータ6及び前記サポート1aの外周縁よりも十分に径方向外方に退避させた状態で、前記古いインナ、アウタ両パッド4a、5aを順番に1個ずつ、それぞれパッドクリップ44、48を弾性変形させつつ、前記キャリパ3aから取り外す。その後、新しい(ライニング15c、15dが摩耗していない)インナ、アウタ両パッド4a、5aを順番に1個ずつ、それぞれに付属したパッドクリップ44、48を弾性変形させつつ、前記キャリパ3aに組み付ける。この様な、前記両パッド4a、5aの、このキャリパ3aへの組み付け作業は、懸架装置から車輪を外した状態で、このキャリパ3aを前記ロータ6及び前記サポート1aの外周縁よりも十分に径方向外方に退避させた状態で、比較的広い空間で行える。従って、前記パッド交換作業の容易化を図れる。
【0051】
新しいインナ、アウタ両パッド4a、5aを組み付けたキャリパ3aは、前記メインピン17を中心として径方向内方に、前記サブピン18のねじ孔23と、前記サポート1aの支持孔27とが整合するまで回動させる。そして、前記インナパッド4aを構成するプレッシャプレート14cの回出側端部外径寄り部分に設けた係止部43と前記支持孔27とをアウタ側から挿通した、前記アンカピン22の雄ねじ部25を前記ねじ孔23に螺合し、更に締め付ける。この作業により、前記両パッド4a、5aの交換作業が完了する。この交換作業の際、前記サポート1aに対する前記サブピン18及び前記アンカピン22の着脱は容易に、且つ、確実に行えて、交換作業完了後には、制動時に於ける前記キャリパ3aの姿勢を安定させられる。
【0052】
更には、前記アウタパッド5aを前記ロータ6の外周縁よりも径方向外方に退避させた状態で、前記メインピン17と前記キャリパ3aとの係合を外せば(このメインピン17を前記メインガイド孔34から抜き取れば)、このキャリパ3aにその一端を接続したブレーキホースを傷めない範囲で、図7に示す様に、前記両パッド4a、5aを前記キャリパ3aごと、前記サポート1aから完全に取り外す事も可能になる。この状態で前記両パッド4a、5aを前記キャリパ3aに対し着脱すれば、これら両パッド4a、5aの交換作業を、より容易に行える。又、工場でのフローティング型ディスクブレーキの製造工程で、前記キャリパ3aを前記サポート1aに組み付ける以前に、このキャリパ3aに前記両パッド4a、5aを組み付けてから、このキャリパ3aを前記サポート1aに組み付ける様にすれば、工場での組立作業の容易化を図れる。即ち、工場で前記キャリパ3aに前記両パッド4a、5aを組み付ける作業を、特別な治具や熟練を必要とせず、容易に行える。尚、この様な工場での組立工程時には、前記キャリパ3aには、未だブレーキホースの一端を接続していない為、前記キャリパ3aへの前記両パッド4a、5aの組み付け作業は、より容易に行える。予めサポートの側に一対のパッドを組み込んでから、このサポートにキャリパを組み付ける場合に必要な、パッド落下防止の為の治具や、落下防止の為の配慮が不要になる。
【0053】
[実施の形態の第2例]
図9〜14は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合も、車両が前進する状態でのロータ6の回転方向は、図10、11、14に矢印αで示す様に、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。本例の場合には、回入側にサブピン18a及びアンカピン22aを、回出側にメインピン17aを、それぞれ設置している。又、キャリパ3bのインナ側半部の周方向側面から回入側に突設したサブガイド腕部31aの先端部にサブガイド孔35aを、このサブガイド腕部31aを貫通する状態で、軸方向に形成して、当該部分をサブガイド筒部33aとしている。前記サブピン18aは前記サブガイド孔35a内に、防塵ブーツ37cと一体の、弾性材製のスリーブ49を介して、緩く挿通している。又、インナパッド4bを構成するプレッシャプレート14eの回入側端部の径方向外端部を前記アンカピン22aに対し、回入側への変位及び径方向外方への変位を抑えた状態で係止している。
【0054】
上述の様な本例の構造は、前記メインピン17aを回出側に設置すると共に、特許請求の範囲中の請求項3、4に記載した発明の構成を備えていない。この為、これら請求項3、4に記載した発明により得られる作用・効果は得られないが、請求項1、2に記載した発明の作用・効果は得られる。尚、本例の場合、前記メインピン17aと前記サブピン18aとの配置を、回入側と回出側とで逆にした事に伴い、前記インナパッド4bは、前進状態でも後退状態でも、制動時に図10で反時計方向に揺動する傾向になる。従って、図示しないアンチラトルスプリングにより前記インナパッド4bを、図10で反時計方向に付勢する。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、パーキング専用のディスクブレーキとして実施する事もできる。この場合には、キャリパのシリンダ孔内への圧油の給排を行う必要がない為、この圧油の給排を行う為の構造(給油ポート等)を設ける必要はない。
【符号の説明】
【0056】
1、1a サポート
2 ガイドピン
3、3a、3b キャリパ
4、4a、4b インナパッド
5、5a アウタパッド
6 ロータ
7、7a 凹入部
8 ボルト
9a、9b ガイド筒部
10、10a キャリパ爪
11、11a シリンダ部
12、12a 給油ポート
13 アンカブロック
14a、14b、14c、14d、14e プレッシャプレート
15a、15b、15c、15d ライニング
16 基板部
17、17a メインピン
18、18a サブピン
19 取付孔
20 雄ねじ部
21 ねじ孔
22、22a アンカピン
23 ねじ孔
24 アンカ部
25 雄ねじ部
26 円柱部
27 支持孔
28 小径部
29 弾性スリーブ
30 メインガイド腕部
31、31a サブガイド腕部
32 メインガイド筒部
33、33a サブガイド筒部
34 メインガイド孔
35、35a メインガイド孔
36a、36b 係止孔
37a、37b、37c 防塵ブーツ
38 ブリッジ部
39 シリンダ孔
40 ピストン
41 シールリング
42 パッドクリップ
43 係止部
44 パッドクリップ
45 隙間
46 凸部
47 係止孔
48 パッドクリップ
49 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向の中間部に径方向外方が開口した凹入部を備え、車輪と共に回転するロータのインナ側で車体に固定されるサポートと、このサポートの周方向両端部にそれぞれの基端部を、このサポートからインナ側に突出する状態で、結合固定された互いに平行な一対のガイドピンと、これら両ガイドピンと周方向両端部に設けた第一、第二両ガイド孔との係合に基づいて前記サポートに対し、軸方向の変位を可能に支持されたキャリパと、このサポートの一部に軸方向の変位を可能に支持されたインナパッドと、前記ロータを介してこのインナパッドと対向する状態で設けられたアウタパッドとを備え、前記キャリパは、アウタ側端部に径方向内方に突出したキャリパ爪を設けると共に、インナ側部分に、前記サポートの凹入部を介してこのキャリパ爪のインナ側面に向け開口する状態で設けられたシリンダ孔内にピストンを、軸方向の変位を可能に嵌装したものであるフローティング型ディスクブレーキに於いて、前記アウタパッドは前記キャリパ爪のインナ側面に、制動時にこのアウタパッドに加わるブレーキトルクをこのキャリパ爪に伝達可能に係合させた状態で支持されており、前記両ガイドピンのうちの一方のガイドピンは、前記キャリパの周方向一端部に設けられた前記第一ガイド孔に直接、軸方向の変位及び自身の中心軸回りの回転を可能に挿入されたメインピンであり、同じく他方のガイドピンは、前記キャリパの周方向他端部に設けられた前記第二ガイド孔に弾性材を介して軸方向の変位を可能に挿入されたサブピンであり、このサブピンの設置位置は、前記ロータの外周縁よりも径方向外側であり、前記サポートの一部を前記インナパッドの周方向一端縁に、このサポートを挟んで前記サブピンと同心に配置されたアンカピンを前記インナパッドの周方向他端縁に、それぞれ当接させて、制動時にこのインナパッドに加わるブレーキトルクを支承可能としており、前記メインピンの中心軸は、前記ロータの外周縁よりも径方向内側部分に存在しており、前記インナパッドの周方向他端縁と前記サポートとの間に、前記アンカピンをこのサポートから外して、このインナパッドと共に前記キャリパを前記メインピンを中心として回動させた場合に、前記インナパッドの周方向他端縁と前記サポートとの干渉を防止できる隙間を介在させた事を特徴とするフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記サポートの一部と前記インナパッドの周方向一端縁とを、この周方向一端縁の径方向内寄り部分で、前記アンカピンと前記インナパッドの周方向他端縁とを、この周方向他端縁の径方向外寄り部分で、それぞれ当接させている、請求項1に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記アンカピンが、アウタ側端部に設けられた大径で円柱状のアンカ部とインナ側端部に設けられた雄ねじ部とを備えたものであり、前記サブピンが、アウタ側端面に開口するねじ孔を備えたものであり、前記サポートの周方向他端部に軸方向形成された、前記アンカ部の外径よりも小さな内径を有する支持孔に前記アンカピンのうちでこのアンカ部を除く部分をアウタ側から緩く挿通して、前記雄ねじ部を前記サブピンのねじ孔に螺合し更に締め付ける事により、前記サブピン及び前記アンカピンを前記サポートに対し支持固定しており、前記インナパッドの周方向他端縁はこのアンカピンに対し、このインナパッドを構成するプレッシャプレートの一部に形成された二股状の係止部に前記アンカピンを係合させる事で、径方向の変位を阻止した状態で係止している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記サブピンの外径と前記第二ガイド孔の内径との差が、前記ロータから遠い側で近い側よりも小さい、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−72842(P2012−72842A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218504(P2010−218504)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】