説明

フローディップはんだ付け装置

【課題】 プリント配線板にマスクを設けてフローディップはんだ付けを行う際に、めっきスルーホール内への溶融はんだの濡れ上がりが良好に行われるようにする。
【解決手段】 プリント配線板30が嵌め合わされたマスクキャリア20を予め決めた所定の水平座標位置と垂直座標位置とに搬送する搬送手段14,15,16,17と、制御する搬送制御手段18と、前記プリント配線板30を収容し得る大きさの開口8を有しこの開口上に平面状の溶融はんだ波13を形成する溢流吹き口体7と、その中に前記開口よりも低い位置に開口10を有しポンプ6から供給される溶融はんだをその開口10から前記溢流吹き口体7内に溢流するブースト吹き口体9とが設けられたはんだ槽1とを備え、このブースト吹き口体9の開口10の水平座標位置と前記マスクキャリア20の予め決めた所定の水平座標位置とを整合させるように搬送制御手段18によって制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹き口から溶融はんだを溢流させることでこの吹き口上に平面状の溶融はんだ波を形成しておいて、この溶融はんだ波に被はんだ付けワークを接触させてはんだ付けを行うフローディップ式と呼称されるはんだ付け装置(以後はフローディップはんだ付け装置と呼称する)に関する。
【0002】
近年になって、電子部品のリフローはんだ付けが行われたプリント配線板に、リフローはんだ付けを行うことができないリード型電子部品をフローディップはんだ付け装置ではんだ付けすることが行われている。そのため、このリード型電子部品を後付け部品と呼称したり、そのはんだ付けを後付けと呼称したりすることもある。
【背景技術】
【0003】
下記の非特許文献には「自動はんだ付装置の選定と効果的な使用法」(第41頁〜第64頁)について解説され、第48頁〜第49ページにはんだ槽の大別分類について説明されている。
【0004】
そして、その図15を参照しつつ「(f)フローディップ式」について「噴流式とディップ式の中間の方式で,ディップ式のように,はんだの酸化皮膜をかきとることがなく,噴流ポンプでたえずきれいなはんだ面を保っている。この方式は,部品リードの長いもののはんだ付けに効果があり,噴流はんだ面も安定している。」ことが説明されている。
【0005】
すなわち、フローディップはんだ付け装置とは、プリント配線板の外形寸法よりも大きい吹き口開口を有する吹き口体をその開口面が水平になるように設け、この吹き口体にポンプから溶融はんだを供給することで吹き口体の開口縁から溶融はんだを溢流させて吹き口体の開口上に平面状の溶融はんだ波を形成するはんだ槽を有し、この平面状の溶融はんだ波にプリント配線板の被はんだ付け面を接触させることでその被はんだ付け部に溶融はんだを供給し、はんだ付けを行うはんだ付け装置である。
【0006】
また、下記の特許文献には、「プリント基板」を「はんだ液面」に接触させる際に俯角で進入搬送させ、「プリント基板」を「はんだ液面」から離脱させる際に仰角で進出搬送させる技術が開示されている。
【0007】
近年になって、LSIやICまたチップ型電子部品等のリフローはんだ付けを行った後に、リフローはんだ付けを行うことができないコネクタ等のリード型電子部品をフローディップはんだ付け装置ではんだ付けすることが行われている。そのため、既にリフローはんだ付けされた電子部品やその被はんだ付け部に溶融はんだが接触しないように、プリント配線板にマスクを設けてフローディップはんだ付けを行っている。すなわち、リード型電子部品のリード端子群が存在する被はんだ付け部の領域つまり被はんだ付け領域にのみマスクに開口を設けて、この被はんだ付け領域にのみ溶融はんだを供給してはんだ付けを行う仕組みである。
【0008】
マスクはプリント配線板の種類ごとに用意されるが、マスクの外形寸法を規格化して搬送のためのキャリアと一体化することにより、多種類のプリント配線板を混流してはんだ付けを行うことが可能となる長所を有する。すなわち、多品種少量のはんだ付け実装を高い生産性において実現することができる。
【0009】
また、プリント配線板はマスクの開口部分から溶融はんだが供給されてその被はんだ付け領域が直接に加熱されるが、マスクにより溶融はんだが直接に接触しない領域もマスクを介して間接的に加熱されるため、プリント配線板全体が熱ストレスを生じることなく程良く加熱され、被はんだ付け部に良好なはんだ濡れを得ることができる長所もある。
【非特許文献1】電子技術 臨時増刊号 1981年Vol.23 No.7
【特許文献1】特開昭56−103496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コネクタ等のリード型電子部品は、プリント配線板に設けられたスルーホールに挿入されてはんだ付けが行われる。スルーホールにはその内面にめっき層を有するめっきスルーホールとめっき層を持たない単なるスルーホールとがあるが、電子装置の軽薄短小化が進んで高い実装密度が要求されるプリント配線板では、その両面に被はんだ付け部を形成するランドと配線パターンを有するいわゆる両面基板や内層配線パターンを有するいわゆる多層基板が多用され、今日ではその殆どがめっきスルーホールを使用したプリント配線板である。
【0011】
すなわち、めっきスルーホールはプリント配線板の両面に設けられたランドひいては配線パターンを電気的に接続し内層配線パターンを電気的に接続する役目も有している。なお、はんだ付けされたコネクタのプリント配線板への取り付け強度すなわちはんだ付け強度を高くするために、めっきスルーホールが使用されることもある。
【0012】
めっきスルーホールのはんだ付けにおいては、プリント配線板の下方側の面にあるランドが溶融はんだに接触した際にスルーホール内面のめっき層に溶融はんだが濡れ上がり、プリント配線板の上方の面にあるランドに溶融はんだが濡れ拡がることが必要である。これにより、プリント配線板に加わる温度サイクルストレスすなわちめっきスルーホールに加わる膨脹/収縮サイクルストレスに対する耐性が極めて強固となり、信頼性の高いプリント配線板ひいては電子装置を実現することができるからである。
【0013】
しかし、従来のフローディップはんだ付け装置では、広口の開口から溶融はんだをゆっくりと溢流させて平面状の溶融はんだ波を形成する構成であるため、この平面状溶融はんだ波の表面流速が極めて遅く、マスクの開口部分においてプリント配線板に接触した平面状溶融はんだ波やマスクに接触した平面状溶融はんだ波の表面温度が急速に低下し、これが主な原因となってめっきスルーホール内に溶融はんだが濡れ上がり難い問題がある。プリント配線板が有する固有の熱容量の他にリード型電子部品の大きな熱容量が加わるために、平面状溶融はんだ波との接触界面において平面状溶融はんだ波の表面からプリント配線板やマスクに奪われる熱量が大きく、平面状溶融はんだ波の表面温度が急速に低下するのである。
【0014】
本発明の目的は、特にマスクに設けられた開口部分に供給される平面状溶融はんだ波の温度が低下しないようにはんだ付け装置を構成することによって、めっきスルーホール内への溶融はんだの濡れ上がりが良好に行われるはんだ付けプロセスを実現し、はんだ付け品質の良好なプリント配線板のはんだ付け実装を可能にすることにある。そして、これにより、信頼性の高いプリント配線板を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、平面状溶融はんだ波に接触するマスクひいてはプリント配線板のはんだ付けを行う領域すなわちマスクの開口に積極的に溶融はんだを供給して平面状溶融はんだ波を形成するように構成したところに特徴がある。
【0016】
(1)すなわち、プリント配線板が嵌め合わされこのプリント配線板の予め決めた所定の領域にのみ溶融はんだを供給してはんだ付けを行うために前記予め決めた所定の領域にのみ開口を設けたマスクキャリアと、前記プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアを保持して搬送する搬送手段であってこのマスクキャリアを予め決めた所定の水平座標位置と垂直座標位置とに搬送する搬送手段とを備え、さらに、開口の大きさが前記プリント配線板を収容し得る大きさであり溶融はんだをその開口の周縁から溢流させることでこの開口上に平面状の溶融はんだ波を形成する溢流吹き口体の中に前記開口よりも低い位置に開口を有しポンプから供給される溶融はんだをその開口から前記溢流吹き口体内に溢流するブースト吹き口体が設けられると共にこのブースト吹き口体の開口の水平座標位置と前記予め決めた所定の水平座標位置に搬送されたマスクキャリアの開口の水平座標位置とが整合する位置に設けられたはんだ槽と、前記プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアの搬送位置を制御して前記マスクキャリアを前記溢流吹き口体の開口上に形成された前記平面状の溶融はんだ波を接触させると共に前記マスクキャリアに設けられた開口の水平座標位置とブースト吹き口体の開口の水平座標位置とを整合させる搬送制御手段と、を備えて成るようにフローディップはんだ付け装置を構成する。
【0017】
これにより、ポンプからブースト吹き口体に供給された溶融はんだによって溢流吹き口体の開口上に平面状溶融はんだ波が形成される。すなわち、ブースト吹き口の開口から溢流吹き口体へ流れ出た溶融はんだがこの溢流吹き口体の開口周縁から溢流して平面状溶融はんだ波を形成する。したがって、ブースト吹き口体の開口上では予め決めた所定の温度に維持された溶融はんだが積極的に供給され、さらにブースト吹き口体の開口上では溢流吹き口体の他の開口部分の表面流速よりも早い速度の平面状溶融はんだ波が形成される。また、ブースト吹き口体の開口上では下方から上方へ向かう溶融はんだの流れベクトルが大きくなり、このベクトルがプリント配線板への垂直動圧を増加させる。
【0018】
その結果、マスクの開口部分においてプリント配線板に接触した平面状溶融はんだ波の表面温度が低下しなくなり、またスルーホールの上方へ向かう溶融はんだの垂直動圧も大きくなり、スルーホール内に溶融はんだが濡れ上がり易くなる。
【0019】
(2)前記(1)のフローディップはんだ付け装置において、次のように構成する。すなわち、プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアを保持して搬送する搬送手段が溢流吹き口体の開口上に形成された平面状の溶融はんだ波からマスクキャリアを離脱させる際にこのマスクキャリアの一端を上昇させてこのマスクキャリアに仰角姿勢を採らせることが可能な搬送手段であり、ブースト吹き口体の開口のうち前記マスクキャリアの仰角方向の開口部分の垂直方向の高さが他の開口部分よりも低く設けられているように構成したフローディップはんだ付け装置である。
【0020】
このフローディップはんだ付け装置では、マスクキャリアの開口すなわちプリント配線板のはんだ付けを行うべき被はんだ付け領域側から、平面状溶融はんだ波からマスクキャリアを離脱させる際に上昇されるこのマスクキャリアの一端側へ向けて溶融はんだが流れる平面状溶融はんだ波が形成される。
【0021】
したがって、マスクキャリアが平面状溶融はんだ波から離脱する際にひいてはマスクキャリアの開口にあるプリント配線板の被はんだ付け領域が平面状溶融はんだ波と離脱する際に、平面状溶融はんだ波の流れる方向とは逆向きの方向へすなわち上昇させたマスクキャリアの一端側からその反対側の他端側へ向けて溶融はんだとの離脱界面が移動して溶融はんだのピールバックを生じ、ファインピッチのリード端子群すなわち被はんだ付け領域の被はんだ付け部間にはんだブリッジ不良を生じることなくはんだ付けを行い、そのフィレット形状も均一に整えることができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特にマスクに設けられた開口部分に供給される平面状溶融はんだ波の温度が低下しなくなり、溶融はんだ波の垂直動圧の増加も作用してめっきスルーホール内への溶融はんだの濡れ上がりが良好に行われるはんだ付けプロセスを実現することができるようになる。また、被はんだ付け部のはんだ量を増加させつつ隣り合う被はんだ付け部間にはんだブリッジ不良を生じることも無くなる。その結果、はんだ付け品質の良好なプリント配線板のはんだ付け実装が可能となり、信頼性の高いプリント配線板を生産することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明のフローディップはんだ付け装置の構成例を図1ないし図6を用いて説明する。図1は、フローディップはんだ付け装置をマスクキャリアひいてはプリント配線板の搬送方向に対する縦断面で見た図で、制御系はブロック図で描いてある。また、図2はフローディップはんだ槽の全容を説明する斜視図で、図3はフローディップはんだ槽の他の例を説明する斜視図である。
【0024】
さらに、図4の(a)〜(e)は、マスクキャリアひいてはプリント配線板が平面状溶融はんだ波に接触開始する態様と離脱する態様を時系列で説明する図である。そして、図5は図4(d)においてマスクキャリアひいてはプリント配線板が平面状溶融はんだ波から離脱する際に形成されるピールバックの挙動について説明する図である。
【0025】
一方で、図6は、マスクキャリアの例を説明する図で、(a)はマスクキャリアにプリント配線板が嵌め合わされた状態を説明する全容斜視図、(b)は(a)をI−I断面から見た図、(c)は(a)をII−II断面から見た図である。
【0026】
(1)マスクキャリアとプリント配線板
図6に例示するように、LSIやICまたチップ型電子部品等のリフローはんだ付けが完了したプリント配線板30をマスクキャリア20のプリント配線板嵌合部21に嵌め合わせ、マスクキャリア20に設けられた固定片26をR方向に回動させてプリント配線板30をマスクキャリア20に固定する。マスクキャリア20に螺合するねじ28を有するつまみ25は、固定片26が嵌め合わされている部分が四角形等の異形に形成され、固定片26はこの四角形の軸を持つつまみに遊嵌されているので、つまみ25をR方向に回すことで固定片26の向きを変えられる。また、つまみ25と固定片26との間には圧縮状態のばね27が挿入してあり、このばね圧により固定片26がプリント配線板30をマスクキャリア20に押圧してプリント配線板30がマスクキャリア20に固定される。
【0027】
一方で、プリント配線板30のめっきスルーホール31にはコネクタ等のリード型電子部品32が挿入され、そのリード端子35とプリント配線板30のランドおよびめっきスルーホール31との間に被はんだ付け部34が形成される。そして、このリード端子群とランドおよびめっきスルーホールとがプリント配線板30における被はんだ付け領域33を形成し、マスクキャリア20にはこの被はんだ付け領域33に対応した位置にマスク部23に囲われた開口22部を設けてある。
【0028】
また、マスクキャリア20の両側には搬送用保持部24を設けてあり、この搬送用保持部24を搬送コンベア14に保持させて搬送を行う仕組みである。このようにプリント配線板のマスクと搬送を行うためのキャリアとが一体に形成されているので、マスクキャリアと呼称している。
【0029】
(2)フローディップはんだ槽
図1および図2,図3に示すように、フローディップはんだ槽1は極めて大面積の平面状溶融はんだ波13を形成するように構成されていて、通常は少なくともプリント配線板30の外形寸法よりも大きい平面状溶融はんだ波13が形成されるように構成され、プリント配線板30が収容可能な大きさの溢流開口8を有している。好ましくはマスクキャリア20(搬送用保持部の部分を除く)の外形寸法よりも大きい平面状溶融はんだ波13が形成されるように構成し、マスクキャリア20の下方側の全面が平面状溶融はんだ波13に接触できるように構成する。
【0030】
はんだ槽1にはヒータ2および温度センサ3と温度制御装置4が設けられ、はんだ槽1内に収容されているはんだは溶融状態の予め決めた所定の温度に維持される。他方で、この溶融はんだ5はポンプ6により溢流吹き口体7に供給され、続いてポンプ6から供給されるこの溶融はんだは溢流吹き口体7を水平方向に仕切って設けられたブースト吹き口体9へ供給される。ブースト吹き口体9への流入部に設けられた整流板11は、溶融はんだが流れるベクトルを整えて均一で安定な流れを形成するために設けてあり、多孔板等で構成してある。なお、ポンプ6には回転翼によるポンプや電磁ポンプ等が使用され、VVVF型インバータ等によりモータや電磁ポンプへの供給電力を制御して単位時間当たりの溶融はんだ供給流量を制御するはんだ供給流量制御装置12によりその作動状態が制御される。
【0031】
ブースト吹き口体9の開口すなわちブースト開口10は溢流吹き口体7の溢流開口8よりも水平面積が小さく、その開口縁の垂直方向の高さも溢流吹き口体7の溢流開口8より低くなるように設けてある。この高さの差Δhは5〜20mm程度が良く、ブースト吹き口体9の開口面積が溢流吹き口体7の開口面積に占める比率が小さい程この高さの差Δhは大きくした方が良く、この比率が大きい程Δhは小さくした方が良い。これは、溢流吹き口体7の溢流開口8に形成される平面状溶融はんだ波13における各部の高さの偏差δhがプリント配線板30の板厚の1/2以上になると、プリント配線板30に存在する各被はんだ付け領域33間においてはんだ付け品質の偏差を生じるようになって、はんだ付け品質が安定しなくなるからである。
【0032】
そして、このブースト吹き口体9ひいてはそのブースト開口10の水平座標位置は、図1に示すようにマスクキャリア20を溢流吹き口体7の溢流開口8に形成される平面状溶融はんだ波13に接触させる際の位置において、このマスクキャリア20に設けられた開口22ひいてはプリント配線板30の被はんだ付け領域33の位置に対応する整合位置に設ける。なお、マスクキャリア20の開口22の位置とブースト吹き口体9のブースト開口10の位置とは相対的に決まる関係であるので、マスクキャリア20の搬送位置を制御することでそれらの位置を整合させても良い。
【0033】
そのため、図1に例示するように、ブースト吹き口体9を溢流吹き口体7内においてマスクキャリア20の進入側(図1の右側)寄りに設けて、マスクキャリア20が仰角方向に進出搬送されて平面状溶融はんだ波13から離脱する方向に相対的に平面状溶融はんだ波13が長く伸びた状態で形成されるように構成することが好ましい。これは、マスクキャリア20が仰角方向に進出搬送されて平面状溶融はんだ波13から離脱する方向(図1の左側方向)と同じ方向に向けて平面状溶融はんだ波13の流れmを形成するためである。
【0034】
また、ブースト吹き口体9のブースト開口10は、このマスクキャリア20が仰角方向に進出搬送される方向k側の開口縁の高さを他の開口縁の高さよりも低くすると一層好ましい。図1に示すDがこの高さの差を表しており、D=10mm程度であれば良い。これにより、m方向に流れる平面状溶融はんだ波13の指向性を整えて、流れの直進性を高めることができるようになる。
【0035】
なお、図2ではブースト吹き口体9を1箇所に設けた例を示し、図3ではブースト吹き口体9を2箇所に分けて設けた例を示した。これは図6において例示した2つの被はんだ付け領域33に対応してマスクキャリア20に設けられた2つの開口22を1つのブースト吹き口体9のブースト開口10で対応するように設けた例が図2の構成例であり、2つの開口をそれぞれ独立して対応するように設けた例が図3の構成例である。
【0036】
(3)搬送装置
図1に例示するように、マスクキャリア20の搬送用保持部を保持する(図示しない)保持爪を有する平行2条の搬送コンベア14によりマスクキャリア20ひいてはプリント配線板30が水平座標方向に搬送される。また、この平行2条の搬送コンベア14の進入側と進出側とを垂直方向に上下移動させる2つのエレベータ16によって、マスクキャリア20ひいてはプリント配線板30の垂直方向の位置およびその板面が水平搬送方向に対して向く俯角姿勢と仰角姿勢とが調節される。
【0037】
平行2条の搬送コンベア14は回転エンコーダ付きのモータ15によって駆動され、マスクキャリア20の水平搬送位置を特定するための位置検出センサ17の出力信号を参照することと併せてモータ15の回転角度を搬送制御装置18が制御することで、所望の水平座標位置にマスクキャリア20ひいてはマスクキャリアの開口22の位置であるプリント配線板30の被はんだ付け領域33を搬送する。
【0038】
また、2つのエレベータ16もエンコーダを有していて、搬送制御装置18はこのエンコーダの信号を参照しながら両エレベータ16を制御し、マスクキャリア20ひいてはプリント配線板30の垂直方向の位置およびその俯角の大きさや仰角の大きさを制御する。
【0039】
なお、搬送制御装置18はコンピュータシステムで構成され、その制御手順はソフトウェア上で実現されている。
【0040】
(4)フローディップはんだ付け装置の作動
図4を参照して、フローディップはんだ付け装置がどのように作動してはんだ付けが行われるかを説明する。なお、図4においては説明をわかりやすくするために搬送装置は描かずに、マスクキャリア20とこのマスクキャリアに嵌め合わされているプリント配線板30の搬送状態のみを描いている。
【0041】
先ず、図4(a)に示すようにマスクキャリア20は矢印a方向に水平搬送され、マスクキャリアの開口22の位置ひいてはプリント配線板の被はんだ付け領域33の水平座標位置とフローディップはんだ槽のブースト開口10の水平座標位置とが整合する位置に搬送される。
【0042】
続いて図4(b)に示すようにマスクキャリア20の後端部を矢印b方向に下降させ、このマスクキャリア20の後端部を平面状溶融はんだ波13に接触させる。その後、図4(c)に示すようにマスクキャリア20の前端部を矢印c方向に下降させ、このマスクキャリア20の下方側の全面を平面状溶融はんだ波13に接触させる。この場合にマスクキャリアの開口22に現れているプリント配線板の被はんだ付け領域33にも平面状溶融はんだ波13が接触し、この被はんだ付け領域33の被はんだ付け部に溶融はんだが供給されてはんだ付けが行われる。
【0043】
そしてこの場合に、プリント配線板の被はんだ付け領域33の直下に位置するブースト吹き口体9から所定の温度に維持された溶融はんだが次々に積極的に垂直供給されて来るので、プリント配線板の被はんだ付け領域33に接触する平面状溶融はんだ波13の表面温度は低下することがなく、溶融はんだ波の垂直動圧も相まって溶融はんだは容易にめっきスルーホールを濡れ上がることができるようになる。
【0044】
そして、予め決めた所定の時間が経過した後に図4(d)に示すようにマスクキャリア20の前端部を上昇させながら水平方向にも前進させて矢印d方向に仰角搬送し、マスクキャリア20の後端部も前端部よりも少し遅れて矢印e方向への仰角搬送を開始する。なお、この後端部の矢印e方向への仰角搬送を開始する遅れ時間は、後述するピールバックポイントがプリント配線板の被はんだ付け領域33を通過完了するまでに要する時間に設定する。
【0045】
図5は、図4(d)で説明するマスクキャリア20の矢印d方向への仰角搬送により、平面状溶融はんだ波13との離脱界面に生じるピールバックの挙動を説明する図で、マスクキャリアの搬送方向に対する縦断面で示した図である。なお、ピールバックを生じている部分をピールバックポイントと呼称する。
【0046】
すなわち、図4(d)に示すようにマスクキャリア20の前端部を上昇させながら水平方向にも前進させて矢印d方向に仰角搬送すると、図5に示すようにマスクキャリア20の下方側の面ひいてはプリント配線板の被はんだ付け領域33がマスクキャリアの前端側から平面状溶融はんだ波13より離脱し始めてその離脱界面にピールバック36を生じながら矢印p方向すなわちマスクキャリア20の後端部の方向へ移動する。
【0047】
ブースト吹き口体9のブースト開口10から溢流する溶融はんだは、溢流吹き口体7の溢流開口8から溢流するが、図4および図5では特にその溢流をプリント配線板30の搬送方向を基準した縦断面で示しており、ブースト吹き口体9のブースト開口10から溢流した溶融はんだは、マスクキャリア20の搬送方向と同じ方向の矢印m方向と逆方向の矢印n方向とに流れる。先にも説明したが、矢印m方向への溶融はんだの流れには指向性が与えられている。
【0048】
そして、マスクキャリア20ひいてはプリント配線板30の被はんだ付け領域33が平面状溶融はんだ波13から離脱する際にその離脱界面に形成されるピールバック36の移動方向すなわち矢印p方向と、平面状溶融はんだ波13の矢印m方向とが逆向きであるために、ピールバック36が矢印m方向に引かれながら生じて、プリント配線板の被はんだ付け部34に十分な量の溶融はんだを残すように形成され、他方で平面状溶融はんだ波13の流れ方向すなわち矢印m方向とピールバックの移動方向すなわち矢印p方向とが逆向きであるためにその相対離脱速度が速められ、これにより被はんだ付け部の間隔が狭いファインピッチの被はんだ付け部間に溜まる溶融はんだは剥ぎ取られ、このファインピッチの被はんだ付け部間はんだブリッジ不良を生じることがない。すなわち、被はんだ付け領域に存在する多数の被はんだ付け部群の各被はんだ付け部に十分な量のはんだを供給して、しかも各被はんだ付け部間にはんだブリッジ不良を生じることもない。
【0049】
最終的には、図4(e)に示すようにマスクキャリア20の後端を矢印f方向に仰角搬送しながらマスクキャリア20を矢印g方向に搬送し、一連のはんだ付け作業が完了する。
【0050】
以上に説明するように、フローディップ式のはんだ付け装置であっても、マスクキャリア全体を一斉に加熱しつつプリント配線板の被はんだ付け領域に温度低下のない溶融はんだを垂直方向へ積極的に供給することが可能になったので、めっきスルーホールへの溶融はんだの濡れ上がりが極めて良好となり、信頼性の高いプリント配線板のはんだ付け実装が可能になる。
【0051】
また、ピールバック36の移動方向と平面状溶融はんだ波13の流れ方向を逆方向にすることが可能となって、被はんだ付け部34に十分にはんだを供給しつつファインピッチの被はんだ付け部間にはんだブリッジを生じることもなく、そのフィレット37の形状も均一に整えることができる。
【0052】
なお、ブースト吹き口体9のブースト開口10の大きさをプリント配線板30の大きさに合わせることで、マスクキャリア20を介してのプリント配線板30の加熱性が向上し、マスクキャリア20の開口22ひいてはプリント配線板30の被はんだ付け領域33へ温度低下のない溶融はんだを供給することと相まって、プリント配線板全体で見た場合に部分的(被はんだ付け領域とその周辺部分)に生じるヒートショクが少ないはんだ付けを行うことができるようにもなる。
【0053】
また、図1に例示するフローディップはんだ付け装置では、ポンプ6から供給される溶融はんだ5が溢流吹き口体7を水平方向に仕切って設けられたブースト吹き口体9へのみ供給される構成となっているが、この溢流吹き口体7を水平方向に仕切っている板状の部分を例えば多孔板等により構成して透孔を設けるように構成しても良い。但し、この仕切りの部分に設ける多孔板の単位面積当たりの透孔面積は、ブースト吹き口体9への流入部に設けられた整流板11の単位面積当たりの透孔面積よりも小さくなるように構成する。
【0054】
これにより、溢流吹き口体7に設けた多孔板の単位面積当たりから供給される溶融はんだの単位時間当たりの流量よりも、ブースト吹き口体9の流入部に設けられた整流板11の単位面積当たりから供給される溶融はんだの単位時間当たりの流量の方が大きくなり、ブースト吹き口体9の前述の作用が維持できるからである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかるフローディップはんだ付け装置は、高密度実装プリント配線板にコネクタ等のインターフェイス用大型部品を後付けはんだ付け実装する際に特に有効であり、多品種少量生産でも高い生産性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本願発明のフローディップはんだ付け装置を説明する全体構成図
【図2】本願発明のフローディップはんだ槽の全容を説明する斜視図
【図3】本願発明のフローディップはんだ槽の他の例を説明する斜視図
【図4】本願発明のマスクキャリアの動作を説明する図
【図5】本願発明のプリント配線板が平面状溶融はんだ波から離脱する際の挙動について説明する図
【図6】本願発明のマスクキャリアの例を説明する図
【符号の説明】
【0057】
1 はんだ槽
2 ヒータ
3 温度センサ
4 温度制御装置
5 溶融はんだ
6 ポンプ
7 溢流吹き口体
8 溢流開口
9 ブースト吹き口体
10 ブースト開口
11 整流板
12 はんだ供給流量制御装置
13 平面状溶融はんだ波
14 搬送コンベア
15 モータ
16 エレベータ
17 位置検出センサ
18 搬送制御装置
20 マスクキャリア
21 プリント配線板嵌合部
22 開口
23 マスク部
24 搬送用保持部
25 つまみ
26 固定片
27 ばね
28 ねじ
30 プリント配線板
31 めっきスルーホール
32 リード型電子部品
33 被はんだ付け領域
34 被はんだ付け部
35 リード端子
36 ピールバック
37 フィレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線板が嵌め合わされこのプリント配線板の予め決めた所定の領域にのみ溶融はんだを供給してはんだ付けを行うために前記予め決めた所定の領域にのみ開口を設けたマスクキャリアと、
前記プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアを保持して搬送する搬送手段であってこのマスクキャリアを予め決めた所定の水平座標位置と垂直座標位置とに搬送する搬送手段と、
開口の大きさが前記プリント配線板を収容し得る大きさであり溶融はんだをその開口の周縁から溢流させることでこの開口上に平面状の溶融はんだ波を形成する溢流吹き口体の中に前記開口よりも低い位置に開口を有しポンプから供給される溶融はんだをその開口から前記溢流吹き口体内に溢流するブースト吹き口体が設けられると共にこのブースト吹き口体の開口の水平座標位置と前記予め決めた所定の水平座標位置に搬送されたマスクキャリアの開口の水平座標位置とが整合する位置に設けられたはんだ槽と、
前記プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアの搬送位置を制御して前記マスクキャリアを前記溢流吹き口体の開口上に形成された前記平面状の溶融はんだ波に接触させると共に前記マスクキャリアに設けられた開口の水平座標位置とブースト吹き口体の開口の水平座標位置とを整合させる搬送制御手段と、を備えて成ること、
を特徴とするフローディップはんだ付け装置。
【請求項2】
請求項1記載のフローディップはんだ付け装置において、
プリント配線板が嵌め合わされたマスクキャリアを保持して搬送する搬送手段が溢流吹き口体の開口上に形成された平面状の溶融はんだ波からマスクキャリアを離脱させる際にこのマスクキャリアの一端を上昇させてこのマスクキャリアに仰角姿勢を採らせることが可能な搬送手段であり、
ブースト吹き口体の開口のうち前記マスクキャリアの仰角方向の開口部分の垂直方向の高さが他の開口部分よりも低く設けられていること、
を特徴とするフローディップはんだ付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−171994(P2008−171994A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3351(P2007−3351)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000232450)日本電熱計器株式会社 (25)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】