説明

フロー制御アクチュエータ

【課題】比較的深さが狭いエアフォイル部に収納可能で、且つ加圧流体源から連続的に流れを取り出す、フロー制御アクチュエータを提供する。
【解決手段】流体のフローに晒される物体向けのフロー制御アクチュエータ10は、相互に離されて間に長手の隙間20を定義する第1、第2フロー面14、16を具備する。長手の制御素子は、隙間内または隙間の隣に配置され、外向きの弓状表面を有し、制御素子と第1フロー面との間に第1スロット24を定義し、制御素子と第2フロー面との間に第2スロット26を定義する。制御素子22は、第1、第2スロットの幅が概して比例的に調整されるように移動可能とされている。加圧されたフロー制御流体のフローは、プレナム・チャンバ30からスロット24、26の一方または両方を介して流出し、弓状表面の周囲でコアンダ効果によって偏向させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー制御アクチュエータに関し、特に、しかし非排他的に、流体のフローに晒される物体向けのそのようなアクチュエータに関する。よって、本発明は、固定翼機および移動翼機(moving wing aircraft)用のアクチュエータおよびそれらを混合した配置に関し、また船を含む潜水艇、水中作業船、被牽引車に関する。本発明は、加圧液体の方向制御用の装置にも及んでいる。
【背景技術】
【0002】
長い間、フラップの表面を用いた従来の空気力学的制御の代わりとして、循環制御アクチュエータが用いられて航空機の翼の周囲のフローを調節して飛行中の航空機の空気力学的制御を行なえることが知られている。循環制御アクチュエータにおいて、狭いスロットから生じたフローが、コアンダ効果によって曲面の周囲で曲げられる。そして、これによって、エアフォイルの周囲の循環を調整して、フラップに関連する抗力の不利益を伴うことなく、フラップのそれによって生じるのと同様の空気力学的な力およびモーメントの変化が生じる。この応答の程度は、スロットおよびエアフォイルの動作状況を介して空気流量のレートによって規定される。
【0003】
曲線状のコアンダ表面を向いたアフトの一方の側に間隔を有する平行な2つのスロットが設けられる後縁循環制御アクチュエータを設け、フローが制御配置によって一方のスロットに供給され、フローが一方のスロットを介して生じるときは一方の方向において、また他方のスロットを介して生じるときは反対の方向においてフローがその角度を偏向させられる。この配置の問題は、各スロット用の計2つのプレナム・チャンバが必要であることであり、これによって翼部分およびツイン・バルブ配置の深みが増す。このことによって、プレナム・チャンバに対する制御の観点で複雑になる。プレナム・チャンバが原因で翼の深みが増すことによって、いずれのスロットにもフローが存在しないときにベース・ドラッグの量が非常に大きくなる。スロットを通る流体フローの必要量がばらつくということは、加圧空気を供給する装置の動作が悪化する。というのも、一般に、このような装置は空気が一定量で流れ出ていると、より効率的に動作するからである。
【0004】
US4682746では、エアフォイル部分に、第1、第2コアンダ効果循環制御ポートが設けられ、プレナム・チャンバから一方のポートに対して排他的な他方のポートへフローを向けるように設計された制御ポート選択手段が伴うことが説明されている。一配置において、楔形状の封止手段があり、この封止手段は、一方のスロットを介するフローが遮断される位置と他方のスロットを介するフローが遮断される位置との間で回転可能となっている。両方のコアンダ循環ポートの幅は、動作の間、一定である。これらのおよび他のバンバン制御装置が前提とされている。
【0005】
このバンバン制御の提案の問題は、この提案では比例制御が全くなされず、また、このことは航空機の安定的な制御のためにフローを比例的に調整する能力を必要とする航空機制御システムによってアクチュエータが制御されるべきという好ましい状態からかけ離れている。
【0006】
よって、発明者らは、比較的深さが狭いエアフォイル部に収納可能で、且つ例えばバイパス動力装置からのバイパス・フローのような加圧流体源から好ましくは連続的に流れを取り出す、フロー制御アクチュエータに対する要望を発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,682,746号明細書
【発明の概要】
【0008】
便宜上、「エアフォイル」という文言は、空気に晒される表面および水の流れに晒される表面を広く網羅するために用いられる。
【0009】
こうして、一側面では、本発明は、
流体のフローに晒される物体向けのフロー制御アクチュエータであって、
前記流体のフローに晒され、相互に離されて間に長手の隙間を定義する、第1、第2フロー面と、
前記隙間内または前記隙間の隣に配置され、外向きの弓状表面を有した長手の制御素子であって、前記制御素子と前記第1フロー面との間に第1スロットを定義し、前記制御素子と前記第2フロー面との間に第2スロットを定義し、前記第1、第2スロットの幅が概して比例的に調整されるように移動可能に取り付けられた制御素子と、
加圧されたフロー制御流体を流して前記第1および前記第2フロー・スロットの少なくとも一方を介して排出させるとともに前記弓状の表面の上方を経由して前記流体のフローへと到達させる送り手段と、
を具備する、フロー制御アクチュエータを提供する。
【0010】
この配置によって、スロットの各々の幅は、各スロットを通過するフローが滑らかに且つ制御素子の動きとほぼ線形に変化する概して線形の制御ができるように実質的に連続的且つ逆方向に調整され得る。
【0011】
楕円形状のような他の形状の表面が用いられてもよいが、外向きの弓状の表面は一部円筒形であることが好ましい。長手状の制御素子が概して円筒形であることが便利である。好ましい配置においては、長手の円筒形の制御素子は、第1、第2フロー面に対して旋回するように偏心して取り付けられている。こうして、各スロットの幅は、偏心した軸に関して円筒が回転するに連れて、滑らかに且つ実質的に線形に変化する。また、制御素子の内向きの部分は、フロー制御流体のフロー全体に晒され、制御素子は実質的に力を必要とすることなく従来のアクチュエータによって動かされることが可能である。
【0012】
送り手段は、典型的には、隙間の後ろに配置されるプレナム・チャンバを具備し、プレナム・チャンバに加圧されたフロー制御流体を供給するための手段を伴っている。
【0013】
一配置では、第1、第2フロー表面は、エアフォイル部の、相互に離された表面またはその一部を具備する。よって、第1、第2フロー面は、上側および下側面、またはエアフォイルのポートまたはスターボード面を具備する。この構成では、スロットは、エアフォイルの後縁領域に定義されてよい。あるいは、エアフォイルの前縁に定義されてよい。
【0014】
別の配置では、第1、第2フロー面は、第1、第2スロットが流体フローに対して直角に開口するように、それぞれ、前方および後方フロー面を定義する。この配置では、長手の制御素子の位置に応じて、加圧フロー制御流体は、既出の流体フローを加速させてスロットを通過させるか、このフローを遅らせる。
【0015】
好ましくは、アクチュエータは、制御素子を動かすための駆動手段を含んでいる。駆動手段は、比例的な入力要求信号に応答して制御素子を比例的に制御する。
【0016】
本発明は、フロー制御アクチュエータ・モジュールにも及ぶ。このフロー制御アクチュエータ・モジュールは、翼パネルに取り付けるための手段を含む上記のフロー制御アクチュエータを具備する。
【0017】
本発明は、上記のフロー制御アクチュエータを取り付けられた翼に及ぶ。
【0018】
本発明は、さらに、上記のフロー制御アクチュエータを取り付けられた航空機に及ぶ。
【0019】
加圧流体のフローの方向を比例的且つ選択的に調整する本原理は、物体が必ずしも流体フローに晒されない他の用途、例として流体制御または流体ロジック用途において用いられ得る。
【0020】
よって、別の側面では、本発明は、加圧された流体のフローの方向を制御するための装置であって、
距離を有して間に長手の隙間を定義する第1、第2面と、
前記隙間内または前記隙間の隣に配置され、外向きの弓状表面を有した長手の制御素子であって、前記制御素子と前記第1面との間に第1スロットを定義し、前記制御素子と前記第2面との間に第2スロットを定義し、前記第1、第2スロットの幅が概して比例的に調整されるように移動可能に取り付けられた制御素子と、
加圧されたフロー制御流体を動かして前記第1および前記第2フロー・スロットの少なくとも一方を介して排出させるとともに前記弓状表面の上方を経由してそれぞれの方向に偏向させる送り手段と、
を具備する装置を手供する。
【0021】
本発明が上に説明されたが、本発明は、上記したまたは本明細書のどこかに記載の特徴の発明的な組合せまたは副結合にまで及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に従った、フロー制御アクチュエータを取り付けられた翼パネルの概略的な分解図である。
【図2】配置図1のフロー制御アクチュエータの後部の詳細な断面図である。
【図3】本発明に従ったフロー制御アクチュエータの別の形状の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、様々な方法で実行され得、本発明の実施形態が、添付の図面を参照しながらあくまで例として次に説明される。
【0024】
まず図1および図2の配置を参照すると、フラップレス無人航空機での使用向けの完全自動操縦系統に組み込まれる連続的に調整される2双方向装置を提供するためのフロー制御アクチュエータ10が描かれている。この具体的な実施形態では、フロー制御アクチュエータ10は、翼12後縁内で従来の上面フラップと直接置換するための、楔形状の自己完結式のモジュールとして設計されている。
【0025】
次に、特に図2を参照すると、この実施形態のフロー・アクチュエータ10は、上側および下側エアフォイル面14、16を具備する。エアフォイル面14、16は、後方に向って延びて一定の間隔の隙間20を作り出している。偏心して取り付けられて軸Pに関してこの隙間内で旋回を行なうのは、円筒形状の制御素子22である。制御素子22は、上側および下側エアフォイル表面14、16の間に配置されて、その平衡した状態おいて、円筒形状の制御素子22によって離された上側および下側スロット24、26を定義する。制御素子22は円筒形状のコアンダ表面28を提供する。制御素子22は、その長手(拡がっている方向)の軸Pに関して偏心的に自由に回転する。軸Pは、上側および下側スロット24、26が非対称的に完全に開いた状態から完全に閉じた状態へと調整されることが可能になるように、制御素子22の左右対称の軸から外れている。図2は、制御素子22が最も低い位置にその旋回軸が置かれていることを示している。この状態では、下側スロット26は閉じており、上側スロット24は完全に開いている。こうして、制御素子22を回転させることによって、上側および下側スロットのコアンダ効果の程度が非対称に累積して、制御力およびモーメントが比例的な2方向な変化になる。制御素子22が平衡な位置にあると、上側および下側スロット24、26は共に開いており、両スロットを通るフローは偏向されて合流且つ分離して非常に狭い後流領域が生成される。この結果、小さなベース・ドラッグができる。図から分かるように制御素子22を時計回りに回転させると、上側スロット24の幅が広がり、他方下側スロット26の幅が狭まって上側スロットを通る質量の流れが増加して概して下向きの偏りが生じる。制御素子22を反時計回りに回転すると、反対の効果が生じる。
【0026】
制御素子22は、サーボ・アクチュエータ38のようなあらゆる適切な機構によってその角度を調整されてよい。偏心して取り付けるための手段は、スロットの幅を調整するのに必要な制御力が適度な大きさであるようにされている。
【0027】
バンバン配置と比べて、システムを通じた空気流量のレートは、若干の変動はあるものの概して一定である。両スロット24、26は、同じプレナム・チャンバ30から供給を受けるので、プレナム・チャンバ1つのみが必要である。これにより、翼の形状がより薄くなる。全ての制御用空気は同じプレナム・チャンバから供給されるので、制御の遅れは減少し、高い制御帯域を達成できる。スロットの幅を比例的に制御し、ひいては両スロットからのコアンダ効果によって等しい制御角度が誘起されることによって、高い制御分解能による完全な比例的2方向動作が可能になり、例えば操縦系統32からの単純な電気的命令信号を介した制御が可能になる。
【0028】
また、図1に示されるように、本装置は、翼12上のフラップ制御向けの簡便な取替え可能な交換品として設計されている。
【0029】
説明された実施形態によって、内部気流スロットリングを必要とすることなく本装置によって生成されるモーメントおよび合成制御力を調整するための配置が提供される。特に、2つのフローが別々に制御される提案と比べて、本配置によって、機能強化された2方向制御、機能強化された制御帯域、制御線形性を得るための機械的な複雑性が減少した。さらに、背圧の変動は最小である。説明された実施形態によって、作動させられる後縁を有する完全な比例的な2方向制御が可能な装置が提供される。
【0030】
上記の実施形態において、制御素子は外部サーボ・アクチュエータ38の手段によって動作させられるが、別の配置も可能である。詳しくは、円筒形状の制御素子作動システムを、プレナム・チャンバ30内部に入れて、本装置を内蔵型で、頑丈で、取り付け易くすることができる。
【0031】
様々な要素の大きさおよび寸法は、具体的な用途および乗り物が航空機または船舶であるかを考慮して選択されるものである。航空機での典型的な用途向けの適切な寸法は、長さが約150mmで弦が約60mmである。十分な制御分解能をもたらすために、制御素22の角度の上での偏向は、約±20°であって、上側および下側後縁スロット24、26の最大の開口幅が1mm未満で且つ典型的な円筒の直径が約6mmである。
【0032】
より一般的には、上記の装置は、0.0025乃至0.01の範囲のH/R(=コアンダ表面の半径に対するスロットの高さの比)を有する配置のとき良好に動作することが試験および発見された。弦の長さに対するコアンダ表面の比は、典型的には、0.2%乃至5%に収まり、より具体的には0.8%の領域内のいずれかである。
【0033】
連続的に調整されるこの2重のスロットの設計は、翼の後縁またはエアフォイル部で用いられて良いことが当然ながら理解される。
【0034】
次に、図3の配置を参照すると、ここで、フロー制御アクチュエータによって、2つの平行で相互に離された連続的且つ概して反対に変化し得るスロット42、44が提供される。可変スロット42、44は、第1面45および第2面47によって定義される面から概して垂直に面している。回転可能な制御シリンダ46は、Pにおいて偏心して取り付けられており、また2つのスロット42、44の幅を変化させるように移動可能である。プレナム・チャンバ40からの空気は、スロットを介して排出され、また、制御シリンダ46の設定に応じて(左手のスロットが閉じられているとき)左に向かい、あるいは(右手のスロットが閉じられているとき)右へ向うコアンダ制御噴流を生成することができる。制御シリンダ46が平衡な位置にあるときは、フローは、両方のスロットから生じてシリンダ内へと到達する。シリンダはアクチュエータ48によって制御される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体のフローに晒される物体向けのフロー制御アクチュエータであって、
前記流体のフローに晒され、相互に離されて間に長手の隙間を定義する、第1、第2フロー面と、
前記隙間内または前記隙間の隣に配置され、外向きの弓状表面を有した長手の制御素子であって、前記制御素子と前記第1フロー面との間に第1スロットを定義し、前記制御素子と前記第2フロー面との間に第2スロットを定義し、前記第1、第2スロットの幅が概して比例的に調整されるように移動可能に取り付けられた制御素子と、
加圧されたフロー制御流体を流して前記第1および前記第2フロー・スロットの少なくとも一方を介して排出させるとともに前記弓状表面の上方を経由して前記流体のフローへと到達させる送り手段と、
を具備する、フロー制御アクチュエータ。
【請求項2】
前記弓状表面は一部円筒形である、請求項1のフロー制御アクチュエータ。
【請求項3】
前記長手の制御素子は概して円筒形である、請求項1または請求項2のフロー制御アクチュエータ。
【請求項4】
前記長手の制御素子は前記第1、第2フロー面に対して旋回するように取り付けられる、先行する請求項のいずれか1項のフロー制御アクチュエータ。
【請求項5】
前記長手の制御素子は偏心して取り付けられる、請求項4のフロー制御アクチュエータ。
【請求項6】
前記送り手段は、
前記隙間の後に配置されたプレナム・チャンバと、
前記プレナム・チャンバに加圧されたフロー制御流体を供給するための手段と、
を具備する、先行する請求項のいずれか1項のフロー制御アクチュエータ。
【請求項7】
前記第1、第2フロー面はエアフォイル部の表面またはその一部を具備する、先行する請求項のいずれか1項のフロー制御アクチュエータ。
【請求項8】
前記スロットは前記エアフォイルの後縁において定義される、請求項7のフロー制御アクチュエータ。
【請求項9】
前記スロットは前記エアフォイルの前縁において定義される、請求項7のフロー制御アクチュエータ。
【請求項10】
前記第1、第2フロー面は、それぞれ、前方および後方フロー面を定義し、前記第1、第2スロットはそれらに対し直角に開口する、先行する請求項のいずれか1項のフロー制御アクチュエータ。
【請求項11】
加圧された流体のフローの方向を制御するための装置であって、
相互に離されて間に長手の隙間を定義する第1、第2面と、
前記隙間内または前記隙間の隣に配置され、外向きの弓状表面を有した長手の制御素子であって、前記制御素子と前記第1面との間に第1スロットを定義し、前記制御素子と前記第2面との間に第2スロットを定義し、前記第1、第2スロットの幅が概して比例的に調整されるように移動可能に取り付けられた制御素子と、
加圧されたフロー制御流体を流して前記第1および前記第2フロー・スロットの少なくとも一方を介して排出させるとともに前記弓状表面の上方を経由してそれぞれの方向に偏向させる送り手段と、
を具備する、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71826(P2012−71826A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−237435(P2011−237435)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2008−532884(P2008−532884)の分割
【原出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(390038014)ビ−エイイ− システムズ パブリック リミテッド カンパニ− (74)
【氏名又は名称原語表記】BAE SYSTEMS plc
【Fターム(参考)】