説明

フードのヒンジ構造

【課題】歩行者保護構造を阻害することなしに、車両走行時のフードの浮き上がりを抑制することが可能なフードのヒンジ構造を提供する。
【解決手段】フード11の後部左右に車体側に対してフード11を開閉自在に支持するヒンジ12が設けられ、このヒンジ12が、車体側に取付けられるロアヒンジ31と、このロアヒンジ31に一端部が揺動自在に取付けられるとともに他端がフード11の後端部に取付けられるアッパヒンジ33とから構成されたフード11のヒンジ構造において、ロアヒンジ31には、上縁部に被係合部31gが形成され、アッパヒンジ33には、屈曲部33cと、この屈曲部33cより前方の上縁部に被係合部31gよりも後方に位置する係合部33eとが形成され、係合部33eが、フード11から作用する引張力により屈曲部33cが開くように変形したときに被係合部31gに係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードのヒンジ構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフードのヒンジ構造として、フードの回動を規制するために、車体側に設けられたロアヒンジと、フード側に設けられたアッパヒンジとに、フードを所定角度開けたときに係合する係合構造を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の図1を以下の図6で説明する。なお、符号は振り直した。
図6に示されるように、ヒンジ100は、車体側に取付けられたロアヒンジ101と、エンジンフード側に設けられたアッパヒンジ102と、ロアヒンジ101に対してアッパヒンジ102を回動自在に連結するヒンジピン103とからなる。
【0004】
ロアヒンジ101は、切りおこしフランジ部105と係止壁106とを備え、アッパヒンジ102は、エンジンフードを開いたときに、ロアヒンジ101の切りおこしフランジ部105に係合するノッチ部107と、ロアヒンジ101の係止壁106に係合する係合突部108とを備える。
【0005】
エンジンフードを開いた状態で、エンジンフードに更に開けようとする外力が作用したときに、まず、ノッチ部107が切りおこしフランジ部105に係合する。このときに、外力が大きい場合には、ノッチ部107が破損することで外力の一部を吸収し、更に、係合突部108が係止壁106に係合し、エンジンフードが更に開かないようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−76967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のロアヒンジ101とアッパヒンジ102との係合構造は、エンジンルームを点検する等のためにエンジンフードを開いているときに、風等でエンジンフードが更に開くのを規制するものであり、例えば、車両が高速走行中に、エンジンフードが揚力で浮き上がるのを防止するための構造としては効果を発揮しない。
近年、フードやヒンジには、歩行者保護のための構造を採用したものがあり、このような構造を阻害しないようにすることが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、歩行者保護構造を阻害することなしに、車両走行時のフードの浮き上がりを抑制することが可能なフードのヒンジ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、エンジンルームの上方を覆うフードの後部左右に車体側に対してフードを開閉自在に支持するヒンジが設けられ、このヒンジが、車体側に取付けられるロアヒンジと、このロアヒンジに一端部が揺動自在に取付けられるとともに他端がフードの後端部に取付けられるアッパヒンジとから構成されたフードのヒンジ構造において、ロアヒンジには、上縁部に被係合部が形成され、アッパヒンジには、屈曲部と、この屈曲部より前方の上縁部に被係合部よりも後方に位置する係合部とが形成され、係合部が、フードから作用する引張力により屈曲部が開くように変形したときに被係合部に係合することを特徴とする。
【0010】
車両が高速走行中に、走行風によりフードに揚力が作用すると、フードに取付けられたアッパヒンジには前向き又は前斜め上向きに引張力が作用する。この結果、アッパヒンジは、屈曲部の開き角度が大きくなるように変形し、係合部が前方又は前方斜め上方に移動してロアヒンジの被係合部に係合する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、ロアヒンジには、上縁部に被係合部が形成され、アッパヒンジには、屈曲部と、この屈曲部より前方の上縁部に被係合部よりも後方に位置する係合部とが形成され、フードから作用する引張力により屈曲部が開くようにアッパヒンジが変形して、係合部が被係合部に係合するので、車両が高速走行中に、フードに揚力が作用して浮いた状態になった場合に、係合部と被係合部との係合によってアッパヒンジ及びロアヒンジの両方でフードの浮き上がりを抑制することができる。
【0012】
このように、アッパヒンジの剛性とロアヒンジの剛性とによって、フードの変位を抑制できるので、アッパヒンジの剛性を落とすことができ、重量を低減することができる。
また、アッパヒンジの剛性が下げられることで、歩行者との衝突時に容易に変形し、保護効果を発揮することができる。
【0013】
更に、歩行者保護を行う機構としてのポップアップフードとの両立も可能である。
即ち、係合部と被係合部との係合は、「揚力によってフードが浮き上がる」、つまり「車両が高速走行中であること」が条件である。これに対して、歩行者保護を行う機構としてのポップアップフードは、「車両が比較的低速で走行中であること」が動作条件である。よって、両システムが同時に作動することがないため、両立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るフードのヒンジ構造を採用する車両の前部斜視図である。
【図2】本発明に係るフードのヒンジ構造を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るフードのヒンジ構造を示す側面図である。
【図4】本発明に係るフードのヒンジ構造の作用を示す第1作用図である。
【図5】本発明に係るフードのヒンジ構造の作用を示す第2作用図である。
【図6】従来のフードのヒンジ構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、説明中の左、右、前、後は車両に乗車した運転者を基準にした向きを示している。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例を説明する。図中の矢印(FRONT)は車両前方を表している。
図1に示すように、自動車10は、前部に、エンジンが収納されたエンジンルームの上方を覆うフード11が設けられ、フード11が、その後端部で車体側に左右一対のヒンジ12(手前側のヒンジ12のみ図示)を介して開閉自在に取付けられている。なお、符号14,15はフード11の両側方に配置されたフロントフェンダ、16,17はフード11とフロントフェンダ14,15との間に配置された左右一対のヘッドランプ、21,22はフロントピラー、23はフロントピラー21,22間に取付けられたウインドシールドガラスである。
【0017】
図2に示すように、ヒンジ12は、車体側に取付けられる下部フランジ31aが形成されたロアヒンジ31と、このロアヒンジ31に一端が連結ピン32を介してスイング自在に取付けられるとともに他端にフード11(図1参照)側に取付けられる上部フランジ33aが形成されたアッパヒンジ33とからなる。なお、符号31b,31bはロアヒンジ31を車体側に締結するボルトを通すボルト挿通穴、32b,32bはアッパヒンジ33をフード11側に締結するボルトを通すボルト挿通穴である。
【0018】
図3に示すように、ロアヒンジ31は、側面視三角形状の部材であり、三角形の後端部側の頂点31dに連結穴31eが開けられ、この連結穴31eに連結ピン32が通され、三角形の後上がりに傾斜した斜辺31fに被係合部31gが後向きに鈎状に形成され、下辺31jに下部フランジ31aが形成されている。
【0019】
アッパヒンジ33は、側面視逆J字状に屈曲した部材であり、屈曲部33cの上方側の端部に形成された連結穴(不図示)に連結ピン32が通され、屈曲部33cの前方斜め上方に上部フランジ33aが形成され、屈曲部33cと上部フランジ33aとの間の上縁33dに、上方に突出するとともに先端が外向き(図の手前側)に折れ曲がってロアヒンジ31の斜辺31fの上方まで延びることでロアヒンジ31の被係合部31gの後方に接近する係合部33eが形成されている。
【0020】
図の状態は、フード11が閉じられた状態であり、被係合部31gを構成する後方に延びる鈎部31kよりも係合部33eを構成する外向きの爪部33fは低く配置されている。
図中の符号35は、歩行者との衝突時に、歩行者保護のためにフード11を持ち上げることでフード11の下方に緩衝のための空間を形成するポップアップユニットである。
【0021】
以上に述べたフード11のヒンジ12の作用を次に説明する。
図4に示すように、自動車が高速走行中には、白抜き矢印Aで示すように、フード11に上向きの揚力が作用して、フード11が、想像線で示すように上方へ凸状に湾曲するように変形する。
この結果、フード11の後端部に取付けられたヒンジ12のアッパヒンジ33には、白抜き矢印Bで示すように、前方斜め上方への引張力が加えられる。
【0022】
図5(a)はアッパヒンジ12に引張力が加えられる前の状態を示している。
この状態では、アッパヒンジ33は、ロアヒンジ31に対して連結ピン32を中心にして上方へ回動可能な状態にある。
【0023】
図5(b)において、アッパヒンジ33に、白抜き矢印で示すように、前方斜め上方への引張力が加えられると、アッパヒンジ33は、矢印Cで示すように、屈曲部33cの開き角度が大きくなるように変形し、アッパヒンジ33の係合部33eが前方又は前方斜め上方へ移動してロアヒンジ31の被係合部31gに係合する。
この結果、アッパヒンジ33は、ロアヒンジ31に対して連結ピン32回りに回動することが規制され、フード11が揚力によって浮き上がるのを抑制することができる。
【0024】
例えば、フードの浮き上がりをアッパヒンジだけで抑制する構造では、アッパヒンジに作用する引張力を支えるためにアッパヒンジの強度・剛性を高める必要があるが、ヒンジの大型化や重量増を伴う。
【0025】
これに対して、本発明では、フード11が浮き上がろうとする力を、アッパヒンジ33と共にロアヒンジ31でも支持するため、アッパヒンジ33の強度・剛性をより小さくすることができ、アッパヒンジ33の板厚や幅を小さくすることができて、アッパヒンジ33の小型化・軽量化を図ることができる。
また、アッパヒンジ33の剛性を小さくすることで、歩行者が衝突した際にアッパヒンジ33を容易に変形させることができ、歩行者保護効果を高めることができる。
【0026】
図3に戻って、アッパヒンジ33の係合部33eは、車両が高速走行中にフード11に揚力が作用した際にロアヒンジ31の被係合部31gと係合するが、ポップアップユニット35は、車両が比較的低速で走行中に歩行者と衝突した際に作動して、フード11(図1参照)を上方に持ち上げる。つまり車両の低速走行中においては、フード11に上向きの揚力が作用せず、アッパヒンジ33の屈曲部33cは開き角度が大きくなるように変形しないため、ポップアップユニット35が作動しても、係合部33eは被係合部31gに係合しない。
従って、ヒンジ12の係合構造とポップアップユニット等の歩行者保護構造とは両立が可能である。
【0027】
上記の図1、図5に示したように、エンジンルームの上方を覆うフード11の後部左右に車体側に対してフード11を開閉自在に支持するヒンジ12が設けられ、このヒンジ12が、車体側に取付けられるロアヒンジ31と、このロアヒンジ31に一端部が揺動自在に取付けられるとともに他端がフード11の後端部に取付けられるアッパヒンジ33とから構成されたフード11のヒンジ構造において、ロアヒンジ31には、上縁部に被係合部31gが形成され、アッパヒンジ33には、屈曲部33cと、この屈曲部33cより前方の上縁部に被係合部31gよりも後方に位置する係合部33eとが形成され、係合部33eが、フード11から作用する引張力により屈曲部33cが開くように変形したときに被係合部31gに係合するので、車両が高速走行中に、フード11に揚力が作用して浮いた状態になった場合に、係合部33eと被係合部31gとの係合によってアッパヒンジ33及びロアヒンジ31の両方でフード11の浮き上がりを抑制することができる。
【0028】
このように、アッパヒンジ33の剛性とロアヒンジ31の剛性とによって、フード11の変位を抑制できるので、アッパヒンジ33の剛性を落とすことができ、重量を低減することができる。
また、アッパヒンジ33の剛性が下げられることで、歩行者との衝突時に容易に変形し、保護効果を発揮することができる。
【0029】
尚、本実施例では、図3に示したように、係合部33eをアッパヒンジ33の上縁33dに設けたが、これに限らず、係合部をアッパヒンジの下縁に設け、この係合部をロアヒンジ31の被係合部31gに係合させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のフードのヒンジ構造は、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0031】
11…フード、12…ヒンジ、31…ロアヒンジ、31g…被係合部、33…アッパヒンジ、33c…屈曲部、33e…係合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの上方を覆うフードの後部左右に車体側に対して前記フードを開閉自在に支持するヒンジが設けられ、このヒンジが、前記車体側に取付けられるロアヒンジと、このロアヒンジに一端部が揺動自在に取付けられるとともに他端が前記フードの後端部に取付けられるアッパヒンジとから構成されたフードのヒンジ構造において、
前記ロアヒンジは、上縁部に被係合部が形成され、
前記アッパヒンジは、屈曲部と、この屈曲部より前方の上縁部に前記被係合部よりも後方に位置する係合部とが形成され、
前記係合部は、前記フードから作用する引張力により前記屈曲部が開くように変形したときに前記被係合部に係合することを特徴とするフードのヒンジ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−264882(P2010−264882A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117992(P2009−117992)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】