説明

フードクッション支持構造

【課題】衝突事故時における被衝突体の保護、および車両の設計自由度の向上を図り得るフードクッション支持構造を提供する。
【解決手段】車体のエンジンルームを覆うフロントフードが閉止される際に、エンジンルームの周縁部にてフロントフードを受け止めるフードクッション126と、フードクッション126を支持し所定の降伏荷重以上の荷重を受けると塑性変形するクッションブラケット112とを備え、クッションブラケット112は、一端で車体100に固定され、自由端である他端の近傍でフードクッション126を支持する片持ち構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルーム内のフードクッション支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(自動車)のエンジンルーム内には、フロントフードのオーバーストロークを極力抑え、フロントフードと車体のクリアランス(隙間)を目立たなくするために、フードクッションが採用されている。かかるフードクッションは、クッションブラケットを介して、ランプサポートメンバやフードロックメンバ(車体)に取り付けられている。
【0003】
上記クッションブラケットは、フロントフード閉止時の荷重を受け止めるため、ある程度高い剛性、強度を備える必要がある。一方で、その剛性、強度が高すぎる場合には、衝突事故時において変形しにくくなり、被衝突体にかかる衝撃を緩和することができなくなるおそれがある。そこで、例えば特許文献1には、2本の脚部を車体後方側に傾斜させたクッションブラケットが開示されている。特許文献1によれば、フードクッションに斜め前方上側から荷重が入力された場合に、クッションブラケットの2本の脚部が車体後方側に傾倒し、被衝突体にかかる衝撃が緩和されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のような技術では、脚部の傾倒が荷重の入力角度に依存する。例えば衝突事故時にフードクッションに対しほぼ垂直上方から荷重が入力された場合には、脚部が傾倒せず殆ど衝撃を緩和することができないおそれがある。
【0006】
加えて、フードクッションには、フロントフード以外にも、跳ね上げ式後部ドア(ハッチ)など、跳ね上げ式に開閉される車両のあらゆる部分のオーバーストロークを抑制する用途が想定される。車体の様々な部分にフードクッションが取り付けられる可能性を考えれば、レイアウト上の制約が少なく、車両の設計自由度を高められるフードクッション支持構造が望まれる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、衝突事故時における被衝突体の保護、および車両の設計自由度の向上を図り得るフードクッション支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明にかかるフードクッション支持構造の代表的な構成は、車体のエンジンルームを覆うフロントフードが閉止される際にエンジンルームの周縁部にてこのフロントフードを受け止めるフードクッションと、フードクッションを支持しこのフードクッションを介して所定の降伏荷重以上の荷重を受けると塑性変形するクッションブラケットとを備え、クッションブラケットは、一端で車体に固定され、自由端である他端の近傍でフードクッションを支持する片持ち構造を有することを特徴とする。
【0009】
上記のようにクッションブラケットを片持ち構造としたため、両持ち構造と比較すると、塑性変形の契機となる降伏荷重は低下する。衝突が生じた場合、被衝突体から車体に作用する荷重が降伏荷重に達すると、降伏荷重が維持されたまま塑性変形が始まる。被衝突体(典型的には人間)に反作用する荷重も、塑性変形開始後は、降伏荷重のまま変化しない。本発明によれば、この降伏荷重が両持ち構造より低いため、被衝突体に反作用する荷重が低くなる。すなわち、衝突事故時において被衝突体にかかる衝撃を緩和することができる。
【0010】
また、クッションブラケットの一端のみを車体に固定すればよいので、狭小なスペースにクッションブラケットを設置可能であり、レイアウト上の制約も少ない。よって、車両の設計自由度を向上させることが可能である。
【0011】
上記クッションブラケットは、車体に固定される車体取付面と、この車体取付面から所定の角度で斜めに起立した起立面と、この起立面に連接して設けられフードクッションを支持するクッション支持面とを有し、降伏荷重は、起立面の角度により設定されているとよい。
【0012】
かかる構成では、車体取付面に対し起立面の角度を直角に近づけるほど、上記降伏荷重が高く設定される。これにより、衝突事故時に受ける高い荷重では降伏荷重に達する一方、フロントフードが閉止される程度の荷重でクッションブラケットが塑性変形することのないように、降伏荷重を調整可能である。
【0013】
上記クッションブラケットの車体側の両側部には、少なくとも起立面からクッション支持面にかけて、フランジが形成されているとよい。かかるフランジを設けることで、一般に、降伏荷重が高くなる。よって、上記起立面の角度とこのフランジに基づき、降伏荷重を所望の値に設定することが可能である。
【0014】
上記車体取付面はランプサポートメンバまたはフードロックメンバに固定されていて、このランプサポートメンバまたはフードロックメンバは、クッション支持面の下方の位置に、車体取付面が取り付けられる部位よりも凹んだ凹部を有するとよい。これにより、クッションブラケット塑性変形時の変形量(変位)を確保することができ、被衝突体の保護を図ることができる。
【0015】
上記起立面とクッション支持面との境界部からクッション支持面にかけて切欠が設けられ、フードクッションは、境界部からクッション支持面に沿って切欠に挿入されるとよい。これにより、フードクッションのクッションブラケットへの取付を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衝突事故時における被衝突体の保護、および車両の設計自由度の向上を図り得るフードクッション支持構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態にかかるフードクッション支持構造が適用される車体のフロント構造を示す図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図2のランプサポートメンバ上のフードクッション支持構造の分解斜視図である。
【図4】図2のクッションブラケットを側方から見た図である。
【図5】図2のクッションブラケットに降伏荷重以上の荷重がかかった場合の挙動を例示する図である。
【図6】クッションブラケットの取付孔の変位と荷重の関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかるフードクッション支持構造118が適用される車体100のフロント構造を示す図である。図2は、図1の部分拡大図である。図1に示すように、車体100には、エンジンルーム102を覆うフロントフード104が開閉可能に備えられている。エンジンルーム102の周縁部には、緩衝材として機能するフードクッション126、128が備えられる。
【0020】
フードクッション126、128は、フロントフード104閉止時に受ける荷重により弾性変形する。かかるフードクッション126、128の採用により、フロントフード104のオーバーストロークを極力抑え、フロントフード104と車体のクリアランス(隙間)を目立たなくすることが可能である。
【0021】
図2に示すように、フードクッション126は、エンジンルーム102の周縁部に骨格部材として設けられたランプサポートメンバ110に備えられる。また、フードクッション128は、エンジンルーム102の周縁部に骨格部材として設けられたフードロックメンバ108に備えられる。
【0022】
フードクッション126、128は同様の回転体形状を有するため、以下、代表としてフードクッション126を用いて説明する。フードクッション126は、螺子切り(溝切り)された小径の首部126aと、首部126aの先に形成されフロントフード104に当接する大径の頭部126bとを含む(図3参照)。
【0023】
ランプサポートメンバ110は、一端が締結ボルト114a、114bによりフードロックメンバ108に連結され、他端が締結ボルト114c、114dによりストラットタワー116に連結されている。フードクッション126は、ランプサポートメンバ110上のクッションブラケット112に支持される。
【0024】
図3は、図2のランプサポートメンバ110上のフードクッション支持構造118の分解斜視図である。図4は、図2のクッションブラケット112を側方から見た拡大図である。図3および図4に示すように、クッションブラケット112は、その車体取付面120がランプサポートメンバ110に溶接またはボルトで締結されて、ランプサポートメンバ110に連結される。車体取付面120から所定の角度で起立面122が起立し、起立面122に連接して、車体取付面120に略平行なクッション支持面124が形成される。クッション支持面124の取付孔130aにフードクッション126が取り付けられる。
【0025】
このようにクッションブラケット112は、車体取付面120においてのみランプサポートメンバ110に取り付けられる片持ち構造であることを特徴とする。クッション支持面124は支持や固定が何らされていない自由端となっている。
【0026】
図3に示すように、起立面122とクッション支持面124との境界部の起立面122側には、切欠130が形成される。かかる切欠130に沿って、上述したフードクッション126の小径の首部126aが略水平方向Aに、取付孔130aに挿入される。
【0027】
片持ち構造のクッションブラケット112は、自由端であるクッション支持面124がお辞儀をするように変形しやすい。しかし、本実施形態では略水平方向Aにフードクッション126を挿入するため、フードクッション126をクッションブラケット112に取り付ける際、土台となるクッション支持面124が変形してしまうことがない。
【0028】
また、フードクッション126を略水平方向Aに挿入する構成としたことで、製造現場において組み付けやすくなる。これより、製造現場における作業の迅速化を図ることが可能となる。
【0029】
クッションブラケット112は、所定の降伏荷重以上の荷重を受けると塑性変形する。降伏荷重は、起立面122の角度、およびクッションブラケット112の車体側の両側部に形成されたフランジ134に依存する。
【0030】
すなわち、車体取付面120に対する起立面122の角度を直角に近づけるほど、クッションブラケット112の降伏荷重は高くなる。また、少なくとも起立面122からクッション支持面124にかけてフランジ134を形成することで、降伏荷重を高くすることができる。かかるフランジ134の長さや厚みによっても、降伏荷重を調整可能である。
【0031】
本実施形態では、上述した起立面122の角度およびフランジ134に基づき、クッションブラケット112の降伏荷重を、フロントフード104を受け止める際の荷重では弾性変形し、衝突事故時(被衝突体と衝突した際)には塑性変形するように適宜設定する。これにより、車体の品質(耐久性)を害することなく、被衝突体の保護を図ることが可能となる。
【0032】
図5は、クッションブラケット112に降伏荷重以上の荷重Bがかかった場合の挙動を例示する図である。図5に例示するように、片持ち構造であるクッションブラケット112にフードクッション126を介して降伏荷重以上の荷重Bがかかると、自由端が弧状の軌跡Cを描いて回動し、クッションブラケット112は塑性変形する。
【0033】
ここで、本実施形態では、自由端であるクッション支持面124の下方の位置に、車体取付面120の溶接部位(他の部位)よりも凹んだ凹部136が形成される。そのため、通常よりもクッションブラケット112の変形量(取付孔130aの変位)が確保される。
【0034】
上記クッションブラケット112は、片持ち構造であることで、例えば両持ち構造のクッションブラケットと比較すると、降伏荷重が小さい。つまり、より小さな荷重で塑性変形に至る。未だ荷重が小さく弾性変形を生じている段階では、クッションブラケット112から被衝突体に及ぶ反力も増大する。しかし、荷重が増大してクッションブラケット112が降伏荷重に至ると、それ以上には荷重、つまり被衝突体にかかる反力は増大しない。このように降伏荷重はそのまま被衝突体にかかる反力となるため、塑性変形しにくい、例えば両持ち構造のクッションブラケットを用いた場合には、被衝突体にかかる衝撃が大きくなってしまう。しかし、本実施形態におけるクッションブラケット112は、降伏荷重が小さいため、被衝突体にかかる衝撃を緩和することが可能である。
【0035】
図6は、クッションブラケット112の変位と荷重の関係を模式的に示す図である。ここで「変位」とは、荷重を受けたクッションブラケット112のうち、取付孔130aが当初の位置から沈み込む深さを言う。なお図6では説明の簡略化のため、クッションブラケット112が完全弾塑性を有する材料であると仮定している。すなわち、ある1点までは弾性変形状態で、その点で降伏した後完全塑性状態になる材料と仮定して、直線的なグラフで変位と荷重の関係を示している。
【0036】
図6に示すように、本実施形態にかかるフードクッション支持構造118では、取付孔130aの変位a〜dの間は弾性変形であり、変位d以降は塑性変形である。一方、従来の両持ち構造では、変位a〜cの間は弾性変形であり、変位c以降は塑性変形である。
【0037】
フードクッション支持構造118において、フロントフード104を閉める際の取付孔130aの変位は弾性域内の変位bである。そのため、クッションブラケット112が吸収する衝撃エネルギーは、三角形abiの面積で表される。
【0038】
フードクッション支持構造118において、衝突事故時のクッションブラケット112の変位は塑性域内の変位fである。そのため、クッションブラケット112が吸収する衝撃エネルギーは、台形afkjの面積で表される。
【0039】
上記のように、本実施形態のフードクッション支持構造118では、フロントフード104を閉める際にクッションブラケット112が塑性変形することはない。すなわち、フロントフード104を繰り返し開閉することに何ら支障を生じない。一方、衝突事故時には、クッションブラケット112が変位dから塑性変形するので、それ以降被衝突体に反作用する荷重の増大が防止される。すなわち、被衝突体への衝撃を緩和することが可能である。
【0040】
一方、従来の両持ち構造では、片持ち構造のように撓みやすくはないため、より高い荷重を加えなければ塑性域には至らない。例えば本実施形態のフードクッション支持構造118が塑性域に達する荷重xがかかった場合、両持ち構造のクッションブラケットでは、図6に示すように、未だ弾性域にある。両持ち構造のクッションブラケットでは、塑性変形が起こるには、非常に高い降伏荷重yに至る必要がある。
【0041】
このように、従来の両持ち構造のクッションブラケットでは、片持ち構造に比して降伏荷重が高い。そのため、衝突事故時において、被衝突体に与える衝撃が大きくなるおそれがある。
【0042】
なお、塑性域においてその変形が阻害されると、荷重が急激に増大する。本実施形態のフードクッション支持構造118では凹部136を形成しているため、例えば変位hに到達するまでクッション支持面124がランプサポートメンバ110に当接せず、クッションブラケット112の変形が阻害されない。凹部136を形成しない場合には、例えば変位gの時点で、ランプサポートメンバ110に当接し、荷重が急激に増大する。従来の両持ち構造のクッションブラケットでは、変位を確保し得ないため、変位eの時点でそれ自体の地盤に当接し、荷重が急激に増大してしまう。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明した。上述したフードクッション支持構造118によれば、衝突事故時において被衝突体に反作用する荷重を低減することができ、被衝突体の保護を図ることができる。また、クッションブラケット112の車体取付面120のみを固定すればよいので、狭小なスペースに設置可能であり、レイアウト上の制約も少ない。よって、車両の設計自由度を向上させることが可能である。
【0044】
なお、上記では理解を容易にするために、ランプサポートメンバ110に備えられるフードクッション支持構造118を例示して説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えばクッションブラケット112をフードロックメンバ108に取り付けてもよいし、クッションブラケット112を直接車体100に取り付けてもよい。
【0045】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、エンジンルーム内のフードクッション支持構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100…車体、102…エンジンルーム、104…フロントフード、108…フードロックメンバ、110…ランプサポートメンバ、112…クッションブラケット、114a〜114d…締結ボルト、116…ストラットタワー、118…フードクッション支持構造、120…車体取付面、122…起立面、124…クッション支持面、126、128…フードクッション、126a…首部、126b…頭部、130…切欠、130a…取付孔、134…フランジ、136…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のエンジンルームを覆うフロントフードが閉止される際に、該エンジンルームの周縁部にて該フロントフードを受け止めるフードクッションと、
前記フードクッションを支持し、該フードクッションを介して所定の降伏荷重以上の荷重を受けると塑性変形するクッションブラケットと、
を備え、
前記クッションブラケットは、一端で車体に固定され、自由端である他端の近傍で前記フードクッションを支持する片持ち構造を有することを特徴とするフードクッション支持構造。
【請求項2】
前記クッションブラケットは、車体に固定される車体取付面と、該車体取付面から所定の角度で斜めに起立した起立面と、該起立面に連接して設けられ前記フードクッションを支持するクッション支持面と、を有し、
前記降伏荷重は、前記起立面の角度により設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフードクッション支持構造。
【請求項3】
前記クッションブラケットの車体側の両側部には、少なくとも前記起立面から前記クッション支持面にかけて、フランジが形成されていることを特徴とする請求項2に記載のフードクッション支持構造。
【請求項4】
前記車体取付面はランプサポートメンバまたはフードロックメンバに固定されていて、該ランプサポートメンバまたはフードロックメンバは、前記クッション支持面の下方の位置に、前記車体取付面が取り付けられる部位よりも凹んだ凹部を有することを特徴とする請求項2または3に記載のフードクッション支持構造。
【請求項5】
前記起立面と前記クッション支持面との境界部から前記クッション支持面にかけて切欠が設けられ、
前記フードクッションは、前記境界部から前記クッション支持面に沿って前記切欠に挿入されることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のフードクッション支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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