説明

フードヒンジとフードユニット、およびフードユニットの組立方法

【課題】フードヒンジとフードとの間においてサビの発生を防ぐことのできるフードヒンジと、これらフードとフードヒンジとを含んだフードユニット、およびフードユニットの組立方法を提供することを目的とする。
【解決手段】車両102のエンジンルーム106のフード108を開閉可能に支えるフードヒンジ100であって、エンジンルーム106に固定されるブラケット部114と、長尺な平板領域122を有してブラケット部114に回転可能に支持されるアーム部116であり平板領域122でフード108の下面128に締結されるアーム部116とを備え、平板領域122は、アーム部116をフード108に締結するボルト112a・112bを通す孔部124a・124bと、孔部124a・124bの周囲においてフード108へ向かって突出してフード108に面接触する座面部126a・126bとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームのフードを開閉可能に支えるフードヒンジと、これらフードとフードヒンジとを含んだフードユニット、およびフードユニットの組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部材が多く用いられている車両にとって、サビは大敵である。サビは金属部材が空気中の酸素や雨水等に触れることによって発生する。通常であれば、アウタパネルに代表されるように車両の金属部材は塗装されていて、塗膜によってサビの発生は防がれている。しかし、車両は部位によっては多数の金属部材が重ねられていて、これら各部材には互いに連結させた後に塗装が施されている場合がある。そのため、各部材同士が対向している面などには塗膜の存在しない領域が生じることがあり、車両の運用に伴ってそこからサビが発生するという事例が報告されている。
【0003】
車両の各部位のなかでもエンジンルーム周辺は多数の金属部材が密に配置されていて、車両の前部に位置しているために走行中などに雨風にさらされやすい。特に、エンジンフード(以下、単にフードと記載する)を開閉可能に支えているフードヒンジ(例えば特許文献1)は、設置位置がフードとアウタパネルおよびフロントウィンドウ等との隙間から近く、雨水等の付着するおそれが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−89636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両の各部材における特に下塗り塗装では、電着塗装が行われることが多い。電着塗装は、塗料の入ったタンク内に各部材を浸し、各部材とタンク側との間で通電することによって塗装を行う方法である。
【0006】
特許文献1に記載のフードヒンジは、長尺で平坦に伸びているアーム部でフードの下面に接触し、ボルトによって締結されている。車両の製造工程において、フードヒンジとフードとはすでに連結された状態で上述の電着塗装が行われる場合がある。その際、特許文献1の平坦なアーム部では、アーム部とフードとが接触している領域には塗料が行きわたらない可能性があり、車両を運用する際になってその領域からサビが発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、フードヒンジとフードとの間においてサビの発生を防ぐことのできるフードヒンジと、これらフードとフードヒンジとを含んだフードユニット、およびフードユニットの組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフードヒンジの代表的な構成は、車両のエンジンルームのフードを開閉可能に支えるフードヒンジであって、エンジンルームに固定されるブラケット部と、長尺な平板領域を有してブラケット部に回転可能に支持されるアーム部であり平板領域でフードの下面に締結されるアーム部とを備え、平板領域は、アーム部をフードに締結する締結具を通す孔部と、孔部の周囲においてフードへ向かって突出してフードに面接触する座面部とを有することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、フードヒンジとフードとは、アーム部上の限られた領域である座面部のみで接触する。そのため、座面部以外のアーム部には、電着塗装を行うにあたって塗料が効率よく行きわたる。したがって、上記構成であれば塗装効率がよく、フードヒンジとフードとの間におけるサビの発生を好適に防ぐことができる。なお、座面部には防錆剤を塗布してもよい。その場合においても、上記構成であれば限られた領域である座面部のみに塗布すればよいため、従来のフードヒンジの平坦なアーム部の全体に防錆剤を塗布する場合と比べて有益である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフードユニットの代表的な構成は、車両のエンジンルームのフードと、フードを開閉可能に支えるフードヒンジとを含むフードユニットであって、フードヒンジは、エンジンルームに固定されるブラケット部と、長尺な平板領域を有してブラケット部に回転可能に支持されるアーム部であり平板領域でフードの下面に締結されるアーム部とを備え、平板領域は、アーム部をフードに締結する締結具を通す孔部と、孔部の周囲においてフードへ向かって突出してフードに面接触する防錆剤が塗布された座面部とを有し、当該フードユニットの外表面には塗膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記フードユニットは、フードとフードヒンジとの接触領域である座面部には防錆剤が塗布され、座面部以外の外表面には塗膜が形成されている。特に、この構成では、防錆剤を塗布する領域が座面部のみに限定されている。すなわち、限られた領域のみに防錆剤を塗布すればよい構成となっている。一方、座面部以外の外表面には、例えば電着塗装などによって一括した塗装を行ってもよい。これらのように、上記構成によれば、簡易かつ短時間の作業で防錆処理を施すことのできるフードユニットを提供することが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフードユニットの組立方法の代表的な構成は、上記のフードヒンジの座面部に防錆剤を塗布し、座面部をフードに下方から締結具によって締結してフードユニットとし、フードユニットに電着塗装を行うことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、限られた領域である座面部のみに個別に防錆剤を塗布し、座面部以外の広い領域には電着塗装を行うことによって、効率よく防錆処理を施すことができる。したがって、作業効率が向上し、車両の運用後におけるサビの発生も好適に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、フードヒンジとフードとの間においてサビの発生を防ぐことのできるフードヒンジと、これらフードとフードヒンジとを含んだフードユニット、およびフードユニットの組立方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態にかかるフードヒンジの概要を示す図である。
【図2】図1(b)のフードヒンジを単独で示す図である。
【図3】フードと接続した状態のフードヒンジを示す図である。
【図4】図3のフードヒンジと従来のフードヒンジとを比較する図である。
【図5】図4(a)のフードユニットの組立方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(フードヒンジ)
図1は、本発明の実施形態にかかるフードヒンジの概要を示す図である。図1(a)は当該フードヒンジ(図1(b)のフードヒンジ100参照)が適用される車両102を示している。なお、図1を含む各図では、車両左右方向をX軸、車両前後方向をY軸、上下方向をZ軸で示している。
【0018】
図1(a)において領域E1・E2として示すように、当該フードヒンジ(図1(b)のフードヒンジ100参照)はフロントウィンドウ104の両側部下方付近のエンジンルーム106の内部にそれぞれ設けられ、フード108を開閉可能に支えている。
【0019】
図1(b)は、図1(a)の領域E1におけるエンジンルーム106の内部を示した図である。なお、以下では領域E1に設けられているフードヒンジ100を例示してその説明を行う。図1(b)に示すように、フードヒンジ100はエンジンルーム106の壁部110の上面に設置されている。図1(b)ではフード108(図1(a)参照)を省略しているが、本来はフードヒンジ100はボルト112a・112bを利用してフード108に締結されている。
【0020】
図2は、図1(b)のフードヒンジ100を単独で示す図である。図2(a)は図1(b)と同じく、フードヒンジ100をエンジンルーム106(図1(b)参照)の中央側から見た図である。図2(a)に示すように、フードヒンジ100は、大きく分けて、ブラケット部114とアーム部116とで構成されている。ブラケット部114は、図1(b)に示したように、エンジンルーム106の壁部110に固定される部位である。
【0021】
アーム部116は、フード108(図1(a)参照)に締結される部位であって、軸部材118によってブラケット部114に回転可能に支持されている。アーム部116の根元部120は剛性を高めるよう湾曲した形状になっていて、その先端側には平坦に伸びる長尺な平板領域122が設けられている。この平板領域122には、フード108に締結するボルト112a・112bを通す孔部124a・124bが設けられていて、これら孔部124a・124bの周囲にはフード108へ向かって突出した座面部126a・126bが形成されている。図2(b)にも示すように、平板領域122上において、座面部126a・126bは孔部124a・124bの周囲の限られた範囲のみに形成されている。
【0022】
図3は、フード108と接続した状態のフードヒンジ100を示す図である。図3では、フードヒンジ100を車外側から見て示している。図3に示すように、アーム部116は、平板領域122(図2(b)等参照)を利用してフード108の下面128に接し、ボルト112a・112bによってフード108に締結される。
【0023】
図4は、図3のフードヒンジ100と従来のフードヒンジ10とを比較する図である。図4(a)は当該フードヒンジ100を示していて、図4(b)は従来のフードヒンジ10を示している。これらの図では、各フードヒンジはフード108と接続しフードユニット130・20にそれぞれなっている。そして、各フードユニットをエンジンルーム106(図1(b)参照)の中央側から見た状態で示している。
【0024】
図4(b)に示すように、従来のフードヒンジ10は、フード108の下面128に平板領域30で接しているため、下面128と平板領域30との間に隙間がほぼ存在しない状態となっている。一方、図4(a)に示す当該フードヒンジ100では、平板領域122に座面部126a・126bが形成されていて、この座面部126a・126bでのみフード108の下面128に面接触する構成となっている。そのため、座面部126a・126b以外の平板領域122と下面128との間には隙間S1が形成されている。
【0025】
上記のように、当該フードヒンジ100の特徴は、従来のフードヒンジ10と比べて、フード108の下面128とアーム部116との間に隙間S1が広く形成できる点にある。これは、以下に説明するフードユニット130を組み立てる過程において、フードユニット130に対して塗膜をより広く設けることができるという作用を有している。
【0026】
(フードユニットの組立方法)
図5は、図4(a)のフードユニット130の組立方法を示したフローチャートである。図5に示すように、当該組立方法では、まずステップ200において、座面部126a・126bに防錆剤を塗布する。
【0027】
防錆剤の塗布は、座面部126a・126bとこれに接するフード108の領域に対する防錆処理である。後のステップ204において電着塗装を行うにあたり、これら座面部126a・126bとフード108とが接触している領域には塗料が行きわたらず、塗膜が形成されないおそれがあるからである。
【0028】
ここで、当該フードヒンジ100の構成では、図4(a)に示したように、フード108の下面128に接する範囲が座面部126a・126bのみに限定されている。しかし、図4(b)に示した従来のフードヒンジ10では、フード108の下面128に平板領域30の広い範囲で接していて、これに伴って防錆剤も広い範囲に塗布する必要があった。このように、図5のステップ200における座面部126a・126bへの防錆剤の塗布は、従来のフードヒンジ10に防錆剤を塗布する場合と比べて、塗布する範囲が限られているため非常に簡易かつ短時間の作業となっている。
【0029】
次に、ステップ202において、孔部124a・124bにボルト112a・112bを使用して座面部126a・126bをフード108に下方から締結する。これにより、フードヒンジ100とフード108とはフードユニット130を構成する。なお、座面部126a・126bを締結する際、防錆剤は座面部126a・126bとフード108とに圧迫されるため、防錆剤は作業員の手によって塗り拡げなくとも座面部126a・126bのみ程度の範囲であれば十分に拡がることができる。この点を踏まえると、ステップ200における防錆剤を塗布する処理が、従来のフードヒンジ10に対する処理と比べていかに簡易であるか理解できる。
【0030】
そして、ステップ204において、フードユニット130に電着塗装を行う。この処理では、水溶性等の塗料を入れたタンクにフードユニット130を浸し、タンクとフードユニット130との間に通電する。これにより、塗料の粒子がフードユニット130の外表面に着き、塗膜が形成される。ここで、図4(a)に示したように、当該フードヒンジ100には、フード108の下面128と平板領域122との間に広く隙間S1が設けられている。そのため当該フードヒンジ100であれば、図4(b)の従来のフードヒンジ10と比べて、電着塗装において塗膜をより広く一括して形成することができる。
【0031】
以上説明したように、当該フードヒンジ100であれば、図4(a)に示したようにフードヒンジ100とフード108とは限られた領域である座面部126a・126bのみで接触し、広く隙間S1が設けられている。そのため、まず、図5のステップ200における防錆剤の塗布は、限られた領域である座面部126a・126bのみに行えばよく、簡易かつ短時間の作業となる。そして、ステップ204にて電着塗装を行うにあたって、座面部126a・126b以外のアーム部116へは塗料を効率よく行きわたらせることが可能になっている。これらのように、当該フードヒンジ100およびこのフードヒンジ100を含んだフードユニット130の組立方法は、塗装作業を簡易かつ短時間で行うことができ、かつ車両102の運用後におけるフードヒンジ100とフード108との間へのサビの発生を効率よく防ぐことができる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、エンジンルームのフードを開閉可能に支えるフードヒンジと、これらフードとフードヒンジとを含んだフードユニット、およびフードユニットの組立方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
S1 …隙間、100・10 …フードヒンジ、102 …車両、104 …フロントウィンドウ、106 …エンジンルーム、108 …フード、110 …壁部、112a・112b …ボルト、114 …ブラケット部、116 …アーム部、118 …軸部材、120 …根元部、122・30 …平板領域、124a・124b …孔部、126a・126b …座面部、128 …下面、130・20 …フードユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームのフードを開閉可能に支えるフードヒンジであって、
エンジンルームに固定されるブラケット部と、
長尺な平板領域を有して前記ブラケット部に回転可能に支持されるアーム部であり該平板領域で前記フードの下面に締結されるアーム部とを備え、
前記平板領域は、前記アーム部を前記フードに締結する締結具を通す孔部と、該孔部の周囲において前記フードへ向かって突出して該フードに面接触する座面部とを有することを特徴とするフードヒンジ。
【請求項2】
車両のエンジンルームのフードと、前記フードを開閉可能に支えるフードヒンジとを含むフードユニットであって、
前記フードヒンジは、
エンジンルームに固定されるブラケット部と、
長尺な平板領域を有して前記ブラケット部に回転可能に支持されるアーム部であり該平板領域で前記フードの下面に締結されるアーム部とを備え、
前記平板領域は、前記アーム部を前記フードに締結する締結具を通す孔部と、該孔部の周囲において前記フードへ向かって突出して該フードに面接触する防錆剤が塗布された座面部とを有し、
当該フードユニットの外表面には塗膜が形成されていることを特徴とするフードユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のフードヒンジの前記座面部に防錆剤を塗布し、
前記座面部を前記フードに下方から前記締結具によって締結してフードユニットとし、
前記フードユニットに電着塗装を行うことを特徴とするフードユニットの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96079(P2013−96079A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237238(P2011−237238)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】