説明

フードロックブレース

【課題】製造コストや重量を増加させずに、ボルト締結部付近の応力集中を緩和し、フード開閉や走行振動によるラッチ荷重を効率良く分散させることができ、かつ、ラジエータやエンジンルームへの通風を阻害しないフードロックブレースを提供する。
【解決手段】車体最前部に略上下方向に延在し、上端がアッパークロスメンバー(11)に結合され、下端がロアクロスメンバー(12)に結合されたフードロックブレース(4)であって、上端結合部(41)を除く主要部分が、車幅方向に平坦な前面(4a)とその一側から斜後方に延びる側面(4b)とを含む断面略L字状または略ハット状をなし、前記前面の上端結合部(42)下方にフロントフード(2)のラッチ固定部(43)を備えるものにおいて、前面(4a)と側面(4b)との会合部(4c)が、ラッチ固定部(43)に隣接した区間(43c)で、前面視においてラッチ固定部(43)を巻くように弓状に湾曲し、かつ、円弧状断面を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロントフードをロックするフードラッチの固定部を補強するフードロックブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンルームを備えた自動車において、エンジンルームの上部を覆う前方開閉式のフロントフードは、その前端部下面側に設けたストライカーを、車体前端上部のアッパークロスメンバー(フードロックメンバー、ラジエータコアサポート)に固定したフードラッチに係合することでロックされるが、フロントフードの閉鎖時に、フードラッチを介して入力される衝撃荷重を、水平に延在するアッパークロスメンバーのみで受けることは困難である。
【0003】
そこで、アッパークロスメンバーの下方に配設されたロアクロスメンバーとの間に、上下に延在するフードロックブレースを架設し、該フードロックブレースを介してフード閉鎖時のラッチ荷重をロアクロスメンバー側に分散させることで、アッパークロスメンバーへの負荷を軽減することが行われている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
このうち、上記特許文献1では、断面ハット状をなすフードロックブレース(フードロックステイ)を前方に向けて開いた状態で固定しているため、走行風をフードロックブレースに当たらないように案内するグリル形状等が不可欠である。これに対して、特許文献2では、フードロックブレースを車幅方向中央より右側にオフセットすることで、その左側に、小排気量エンジン用ラジエータを収容可能な空間を確保し、フードロックブレースがラジエータへの通風の障害となるのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−243800号公報
【特許文献2】特開2001−191952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フードラッチは、アッパークロスメンバーとフードロックブレース上端との結合部の前面側に、ラッチブラケットを介してやや前方にオーバーハングした状態でボルト止めされる。そこで、フードラッチ固定部でアッパークロスメンバーを後方に湾曲させ、前後方向のオフセットが小さくなるようにしているが、フードロックブレースのボルト締結部付近に応力集中を生じる傾向がある。特許文献2のようにフードロックブレースがオフセットされている場合には、ボルト締結部の側方に応力集中を生じ易い。
【0007】
しかも、フードロックブレースには、上述したフード閉鎖時の衝撃荷重以外に、車両走行時におけるフロントフードの振動も伝達されるので、フードロックブレース上端付近の強度および剛性向上は、走行性能にとっても重要である。しかし、特許文献1に見られるような溶接箇所の追加や補強材の追加、板厚変更といった改善策は、製造コストや重量の増加を招来するうえ、却ってフードロックブレース全体としての応力バランスを損なう虞もある。また、特許文献1に見られるようなブレース上端部の拡幅はラジエータやエンジンルームへの通風を阻害する問題もあり、特許文献2のようなラジエータレイアウトでは採用できない。
【0008】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造コストや重量を増加させずに、ボルト締結部付近の応力集中を緩和し、フード開閉や走行振動によるラッチ荷重を効率良く分散させることができ、かつ、ラジエータやエンジンルームへの通風を阻害しないフードロックブレースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、車体最前部に略上下方向に延在し、上端がアッパークロスメンバーに結合され、下端がロアクロスメンバーに結合されたフードロックブレースであって、前記上端の結合部を除く主要部分が、車幅方向に平坦な前面(4a)とその一側から斜後方に延びる側面(4b)とを含む断面略L字状または略ハット状をなし、前記前面の前記上端結合部下方にフロントフードのラッチ固定部(43)を備えるものにおいて、前記前面と前記側面との会合部(4c)が、前記フードラッチ固定部に隣接した区間(43c)で、前面視において前記ラッチ固定部を巻くように弓状に湾曲し、かつ、円弧状断面を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の好適な態様では、前記上端結合部(42)が前記前面に配設され、前記会合部が、前記上端結合部に隣接した区間(42c)で、前面視において前記上端結合部を巻くように弓状に湾曲し、かつ、前記ラッチ固定部に隣接した区間(43c)と連続した円弧状断面を有する。
【0011】
また、本発明の他の好適な態様では、前記前面の前記ラッチ固定部下方にコンデンサー固定部(44)をさらに備え、前記上端結合部(42)に対して前記ラッチ固定部(43)が車両前後方向の前側に位置し、前記ラッチ固定部(43)に対して前記コンデンサー固定部(44)が車両前後方向の前側に位置しており、前記上端結合部および前記各固定部が傾斜面(46,47)を介して滑らかに連続することで、前記前面が上下長手方向に波形断面を有する一方、前記側面の後縁(4e)は、側面視において上下長手方向に直線状に延在する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るフードロックブレースは、上述の通り構成されているので、フード開閉や走行振動によりフードラッチ固定部に入力されるラッチ荷重が、フードラッチ固定部を巻くように弓状に湾曲しかつ円弧状断面を有する会合部を通じて前面から側面側に分散され、フードラッチ固定部付近の応力集中を緩和し、フードロックブレース全体として良好な応力バランスを得ることができ、強度および剛性を向上するうえで有利である。
【0013】
しかも、上記のような効果を、溶接箇所の追加や補強材の追加、板厚変更といった改善策に依らず、形状変更のみによって達成できるので、製造コストや重量の増加を招来することもない。また、円弧状断面を有する会合部を介して滑らかに連続した側面によって、前面からの走行風がラジエータやエンジンルームに効率良く案内され、通風が阻害されることもない。
【0014】
また本発明において、前記上端結合部(42)が前記前面に配設され、前記会合部が、前記上端結合部に隣接した区間(42c)で、前面視において前記上端結合部を巻くように弓状に湾曲し、かつ、前記ラッチ固定部に隣接した区間(43c)と連続した円弧状断面を有する態様では、フードラッチ固定部に入力されるラッチ荷重に加えて、フードラッチの他の固定部やフードクッションを介してアッパークロスメンバーとの結合部に入力されるフード閉鎖時の衝撃荷重が、弓状に湾曲しかつ円弧状断面を有する会合部を通じて前面から側面側に分散され、上端結合部付近の応力集中を緩和できる。
【0015】
さらに本発明において、前記前面の前記ラッチ固定部下方にコンデンサー固定部(44)をさらに備え、前記上端結合部(42)に対して前記ラッチ固定部(43)が車両前後方向の前側に位置し、前記ラッチ固定部(43)に対して前記コンデンサー固定部(44)が車両前後方向の前側に位置しており、前記上端結合部および前記各固定部が傾斜面(46,47)を介して滑らかに連続することで、前記前面が上下長手方向に波形断面を有する一方、前記側面の後縁(4e)は、側面視において上下長手方向に直線状に延在する態様では、ラッチ固定部の下方におけるブレース前面の前方に向かう傾斜に伴い、ラッチ固定部の下側でブレース側面が拡大され、ラッチ固定部を巻くように弓状に湾曲した円弧状断面の会合部が、コンデンサー固定部に向かう前記傾斜に沿って側面視においても弓状に湾曲する構成となり、このような会合部を介して、ラッチ荷重が拡大側面部分に分散されることで、ラッチ固定部の強度および剛性を一層向上できるとともに、ラジエータの前方に配置されるコンデンサーの固定部に対する強度および剛性を確保するうえでも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施形態のフードロックブレースを備えた車体前部を示す斜視図である。
【図2】本発明実施形態のフードロックブレースを示す側面図(a)および正面図(b)である。
【図3】本発明実施形態のフードロックブレースを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1おいて、車両1は、車体前部にエンジンルーム10を備えたフロントエンジン自動車であり、エンジンルーム10の上部には、前方に向かって開閉するフロントフード2が配設されている。フロントフード2は、左右両側のヒンジ21,21を介してカウルサイドパネル15,15に開閉可能に連結されており、前端部の下面側に突設したストライカー23を、車体側のフードラッチ3に係合することにより、図2(a)に2点差線で示す閉鎖位置でロックされる。
【0018】
フードラッチ3は、車体前端上部に車幅方向に延在するアッパークロスメンバー11(フードロックメンバー)と、フードロックブレース4上端との結合部の前面側に固定されている。アッパークロスメンバー11は、フードラッチ3の固定部付近で後方に湾曲しており、それにより、アッパークロスメンバー11の他の部分に配置される図示しないフードクッションと、フードラッチ3との前後方向のオフセットを小さくしている。
【0019】
アッパークロスメンバー11の両端部は、エンジンルーム2の上部を取り囲むようにランプサポートメンバー14,14を介してカウルサイドパネル15,15に結合される一方、左右のランプサポートブレース13,13を介してフロントサイドメンバー17,17の先端部に結合されている。左右のフロントサイドメンバー17,17の先端部は、車幅方向に延在するロアクロスメンバー12で連結されており、フードロックブレース4の下端部(42)はロアクロスメンバー12に結合されている。
【0020】
フードロックブレース4は、車幅方向の中央より少し右側にオフセットされ、相対的に大きく離間された左側のランプサポートブレース13との間にラジエータ6が収容されている。ラジエータ6は、その上端部においてブラケット61,61でアッパークロスメンバー11に支持され、下端部は図示しないブラケットを介してロアクロスメンバー12に支持されており、ラジエータ6の前方には、車室内空調用のコンデンサー5が配設されている。コンデンサー5は、ロアクロスメンバー12の上部に固定され、その車幅方向の中央側は、上下2箇所においてブラケット51,52を介してフードロックブレース4に固定されている。
【0021】
次に、フードラッチ3が固定されるフードロックブレース4の上端付近の構造について、図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
フードロックブレース4は、図2(a)に示すように、上下方向に延在する主要部分に対して後方に屈曲された上面の結合部41と、該結合部41の下方の前面の結合部42の2箇所においてアッパークロスメンバー11に結合されている。各結合部41,42に穿設された孔の裏面には予めウエルドナットが溶接固定されており、アッパークロスメンバー11の対応箇所に穿設された孔に挿通したボルトを、前記各ウエルドナットに締結することで、アッパークロスメンバー11にフードロックブレース4が結合される。
【0023】
フードロックブレース4は、上後方の結合部41を除く主要部分が、車幅方向に対して平坦な前面4aとその左側から斜後方に延びる側面4bとを含み、基本的な断面形状が略L字状(またはハット状)をなしている。フードロックブレース前面4aの結合部42の下方には、結合部42に対して傾斜面46を介して前方に位置したラッチ固定部43が配設され、さらに、ラッチ固定部43の下方には、ラッチ固定部43に対し傾斜面47を介して前方に位置したコンデンサー固定部44が配設されている。
【0024】
上記結合部42、ラッチ固定部43、コンデンサー固定部44は、何れも対応する部品との位置合わせのために上下方向に配向されているが、各面が傾斜面46,47を介して滑らかに連続することで、フードロックブレース前面4aは上下長手方向に波形断面を有している。一方、この区間における側面4bの後縁4eは、側面視において上下長手方向に直線状に延在しており、これに伴い、側面4bは、幅の狭い上端側から、コンデンサー固定部44の側方の最大側面部44bに向けて漸次段階的に拡幅されている。
【0025】
上記ラッチ固定部43およびコンデンサー固定部44も、前記結合部41,42と同様にボルト挿通孔が穿設され、その裏面に予めウエルドナットが溶接固定されており、ラッチ固定部43にはフードラッチ3(ラッチブラケット)の下部が、コンデンサー固定部44にはコンデンサーブラケット51が、それぞれボルトで締結固定される。ラッチ固定部43の正面視における右下側には、ラッチ固定部43を中心とした円弧状のビード45が設けられ、ラッチ固定部43周辺の面剛性が補強されている。フードラッチ3(ラッチブラケット)は、上記ラッチ固定部43と、アッパークロスメンバー11に対してボルト止めされる左右両側の延出片部31,31との3点で固定される。
【0026】
フードロックブレース4の前面4aと側面4bとの会合部4c(角部)は、基本的にプレス成形時に折曲部として形成されるが、上述した結合部42に隣接した区間42c、および、フードラッチ固定部43に隣接した区間43cでは、それぞれ、前面視において結合部42、および、フードラッチ固定部43を巻くように弓状に湾曲するとともに、上下長手方向と交差する方向に円弧状断面をなしている。
【0027】
上記のように構成されたフードロックブレース4は、フロントフード2の開閉や走行振動によりフードラッチ3を介してラッチ固定部43に入力されるラッチ荷重が、弓状に湾曲しかつ円弧状断面を有する会合部(43c)を通じて、前面4aから側面4b側に分散されることで、ラッチ固定部43付近の応力集中が抑制される。また、上記ラッチ荷重に加えて、フードラッチ3の他の固定部(31,31)や、図示しないフードクッションを介してアッパークロスメンバー11との結合部42に入力されるフード閉鎖時の衝撃荷重も、同様に弓状に湾曲しかつ円弧状断面を有する会合部(42c)を通じて、前面4aから側面4b側に分散され、それにより、結合部42付近の応力集中を緩和でき、フードロックブレース4全体として良好な応力バランスを得ることができる。
【0028】
特に、ラッチ固定部43の下方における傾斜面47により、ラッチ固定部43の下側でフードロックブレース4の側面4bが拡幅され、上記弓状に湾曲した円弧状断面の会合部43cが、側面視においても弓状に湾曲する構成となり、このような会合部43cを介して、ラッチ荷重が最大側面部44bに分散されることで、ラッチ固定部43の強度および剛性を一層向上できる。
【0029】
また、上記のように構成されたフードロックブレース4は、図2(a)(b)に示されるように、前後方向の寸法のわりに大きな前方投影面積を有し、やや開き気味の形状をなしているが、傾斜した側面4bに対し、平坦な前面4aの幅は各固定部43,44を中心とした必要最小限に留められ、エンジンルーム10への通風が阻害されることもなく、円弧状断面を有する会合部43cを介して滑らかに連続した側面4bによって、前方からの走行風がラジエータ6に案内される利点もある。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0031】
1 車両
2 フロントフード
3 フードラッチ(ラッチブラケット)
4 フードロックブレース
4a 前面
4b 側面
4c 会合部
4d 側縁
4e 後縁
5 コンデンサー
6 ラジエータ
11 アッパークロスメンバー
12 ロアクロスメンバー
23 ストライカー
40 結合部(下端部)
41,42 結合部(上端部)
43 ラッチ固定部
44 コンデンサー固定部
45 ビード
46,47 傾斜面
51,52 コンデンサーブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体最前部に略上下方向に延在し、上端がアッパークロスメンバーに結合され、下端がロアクロスメンバーに結合されたフードロックブレースであって、
前記上端の結合部を除く主要部分が、車幅方向に平坦な前面とその一側から斜後方に延びる側面とを含む断面略L字状または略ハット状をなし、前記前面の前記上端結合部下方にフロントフードのラッチ固定部を備えるものにおいて、
前記前面と前記側面との会合部が、前記フードラッチ固定部に隣接した区間で、前面視において前記ラッチ固定部を巻くように弓状に湾曲し、かつ、円弧状断面を有することを特徴とするフードロックブレース。
【請求項2】
前記上端結合部が前記前面に配設され、前記会合部が、前記上端結合部に隣接した区間で、前面視において前記上端結合部を巻くように弓状に湾曲し、かつ、前記ラッチ固定部に隣接した区間と連続した円弧状断面を有することを特徴とする請求項1に記載のフードロックブレース。
【請求項3】
前記前面の前記ラッチ固定部下方にコンデンサー固定部をさらに備え、前記上端結合部に対して前記ラッチ固定部が車両前後方向の前側に位置し、前記ラッチ固定部に対して前記コンデンサー固定部が車両前後方向の前側に位置しており、前記上端結合部および前記各固定部が傾斜面を介して滑らかに連続することで、前記前面が上下長手方向に波形断面を有する一方、前記側面の後縁は、側面視において上下長手方向に直線状に延在することを特徴とする請求項2に記載のフードロックブレース。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228640(P2010−228640A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79498(P2009−79498)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】