説明

フードロック解除ケーブルの配索構造

【課題】車両衝突時における不用意なロック機構のロック解除を確実に防止することのできるフードロック解除ケーブルの配索構造を提供する。
【解決手段】一端がフード2のロック機構9に連結され、他端が車室内から引かれることによってロック機構9のロックを解除するインナワイヤと、このインナワイヤの周囲を相対変位可能に囲繞するアウタチューブとを備えたフードロック解除ケーブル10を設ける。フードロック解除ケーブル10の途中を周回させ、その周回部を撓み部16として車体に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のフードのロック機構を解除操作するフードロック解除ケーブルの配索構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンフード部分にはロック機構が設けられ、そのロック機構がフードロック解除ケーブルを介して車室内側から操作されるようになっている。フードロック解除ケーブルは、一端がロック機構に、他端が車室内の操作レバーに夫々連結されたインナワイヤと、このインナワイヤの外周側を相対変位可能に囲繞するアウタチューブとを備えた構造となっている。そして、このフードロック解除ケーブルは、エンジンルームを取り囲むフレーム材やパネル材に沿わせて配索され、全体として弛みがないようにこれらの部材に支持固定されている。
【0003】
ところで、ロック機構は、フードロック解除ケーブルのアウタチューブが車体側に確実に係止された状態でインナワイヤが引かれることによりロック解除が行われるが、車両衝突時にアウタチューブを支持するフレーム材やパネル材が変形すると、それに伴ってアウタチューブに外力が作用し、その外力によってアウタチューブのフードロック機構側の係止が外れる可能性が考えられる。
【0004】
このため、これに対処するフードロック解除ケーブルの配索構造として、ロック機構側にアウタチューブの抜け防止機構を設けたものが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−76574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来のフードロック解除ケーブルの配索構造は、車両衝突時におけるアウタチューブの抜けを抜け防止機構によって阻止するものであるため、アウタチューブに作用する荷重が比較的小さいときには有効であるものの、車体の変形時にアウタチューブが強力に引っ張られた場合に、その荷重をすべて抜け防止機構で受け止めることは難しい。即ち、車両の衝突時に、例えばフレーム材とバッテリ等のエンジンルーム内部品との間にアウタチューブが挟み込まれたときに、フレーム材の変形とともにアウタチューブが強力に引っ張られる可能性があり、このような状況においては抜け防止機構に変形や破損が生じる懼れがある。そして、こうして抜け防止機構に変形や破損が生じた場合には、インナワイヤがアウタチューブとともに引っ張られ、不用意にロック機構のロックが解除される可能性が考えられる。
【0006】
そこでこの発明は、車両衝突時における不用意なロック機構のロック解除を確実に防止することのできるフードロック解除ケーブルの配索構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、一端がフード(例えば、後述の実施形態におけるフード2)のロック機構(例えば、後述の実施形態におけるフードロック機構9)に連結され、他端が車室内から引かれることによって前記フードロック機構のロックを解除するインナワイヤ(例えば、後述の実施形態におけるインナワイヤ13)と、このインナワイヤの周囲を相対変位可能に囲繞するアウタチューブ(例えば、後述の実施形態におけるアウタチューブ14)と、を備えたフードロック解除ケーブル(例えば、後述の実施形態におけるフードロック解除ケーブル10)の配索構造において、前記フードロック解除ケーブルを、前記ロック機構と車室内の間に撓み部(例えば、後述の実施形態における撓み部16)が形成されるように車体に配索するようにした。
この構成により、車両衝突時にフードロック解除ケーブルが軸線方向に引っ張られると、撓み部が伸び、それによってロック機構への引っ張り加重の入力が阻止されるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記撓み部上の離間した複数個所を局部的に車体に係止させるようにした。
この場合、車両衝突のない通常時には、撓み部が設定形状に維持されて車体に保持される。一方、車両の衝突時には、撓み部が軸線方向の引っ張り荷重を受けて複数の係止部の間で伸び変形する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記フードロック解除ケーブルの一部を周回させ、その周回部分を前記撓み部とした。
この場合、撓み部の前後のフードロック解除ケーブルを直線的に維持することが可能になり、車両衝突時における撓み代も周回部分によって充分に確保される。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記撓み部のフードロック解除ケーブルが相互に交差する部分に緩衝部材(例えば、後述の実施形態における緩衝部材20)を介在させるようにした。
この場合、フードロック解除ケーブルの交差部分の擦れが緩衝部材によって防止される。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の発明において、前記フードロック解除ケーブルは、前記撓み部を挟んで前記ロック機構側の第1軸線領域及び前記ロック機構と逆側の第2軸線領域を有し、前記撓み部は、前記ロック機構の近傍に設けられるとともに、前記第1軸線領域側が前記車体との間で前記第2軸線領域側を押さえ込むように設けられるようにした。
この場合、第2軸線領域が第1軸線領域と車体の間に確実に押さえ込まれるようになる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、フードロック解除ケーブルのアウタチューブに作用する軸方向の引っ張り加重を撓み部の伸びによって吸収することができるため、車両衝突時にフードロック解除ケーブルが引っ張られた場合にあっても、ロック機構のロックが不用意に解除されるのを確実に防止することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、車両衝突のない通常時における撓み部の安定した形状保持と、車両衝突時における引っ張り加重の確実な吸収を両立させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、フードロック解除ケーブルの配索の容易化を図りつつ、車両衝突時における引っ張り荷重の吸収性能を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、フードロック解除ケーブルの交差部分の擦れを緩衝部材によって阻止することができるため、フードロック解除ケーブルの劣化を未然に防止し、部品の耐久性を確実に高めることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、第2軸線領域を第1軸線領域と車体の間で押さえ込むため、ロック機構に連結されない側の第2軸線領域の固定状態を安定化させることができるとともに、撓み部の形状をより確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明において、特別な断りのない限り、「前」とは、車両の前進方向に対しての前を意味し、同様に「右」、「左」は、車両の前進方向に対しての右と左を夫々意味するものとする。また、図中矢印Fは、前方を指し、矢印RとLは、夫々右方向と左方向を指す。
【0018】
図1は、この発明にかかるフードロック解除ケーブルの配索構造を採用した車両を示すものである。この実施形態の車両は、運転席が左側にある左ハンドル車である。図1において、1は、車体前部に設けられたエンジンルームであり、2は、このエンジンルーム1の開口1aを開閉自在に閉塞するフードである。このフード2は、開口1aの後端部を回動支点として車体にヒンジ結合されている。
【0019】
また、エンジンルーム1の上半部は、車両前部両側に配置されたサイドメンバ3と、両サイドメンバ3の前端部を相互に連結するバルクヘッドアッパフレーム4を主な骨格部材として構成されており、サイドメンバ3には、図示しないサポート部材を介してフロントフェンダ5やフロントバンパ6、ヘッドランプ7等が支持され、バルクヘッドアッパフレーム4には図示しないラジエータが支持されている。
【0020】
そして、フード2の前縁部と、バルクヘッドアッパフレーム4の間には、フード2を閉じ状態でロックするためのフードロック装置8が設けられている。このフードロック装置8は、フード2の前縁部裏面に設けられた図示しないストライカと、このストライカと係合することによってフード2を閉じ状態で拘束するロック機構9と、一端がこのロック機構9に連結され、他端が機構外部から引き込み操作されることによってロック機構9のロックを解除するフードロック解除ケーブル10と、を備えている。
ロック機構9は、その構造自体は周知のものであるため、ここでは詳細な説明を省略するが、一度ストライカと係合してロック状態になると、フードロック解除ケーブル10が引かれない限りそのロック状態が維持される。
【0021】
ロック機構9の収容ケース11には、フード2の前端部を上方にスプリング付勢する図示しない押し上げ機構が内蔵されるとともに、図2,図3に拡大して示すように、略L字状のフック部12aとレバー部12bを有する補助ラッチ12が回動自在に取り付けられている。押し上げ機構は、ロック機構9のロック解除時にフード2の前端部を僅かに押し上げて作業者によるフード2の開き操作を行えるようにするものであり、また、補助ラッチ12は、ロック機構9のロック解除時にフック部12aがフード2側の図示しない係止部に係合し、作業者によるレバー部12bの回動操作が行われるまでフード2の開きを規制するものである。
【0022】
また、フードロック解除ケーブル10は、図3に一部を破断して示すように、一端がロック機構9の操作部に連結された金属製のインナワイヤ13と、このインナワイヤ13の外周側を同ワイヤ13に対して相対変位可能に囲繞するアウタチューブ14とを備え、インナワイヤ13の他端部は車室内の図示しない操作レバーに連結されている。操作レバーは、そのレバー操作によってインナワイヤ13を引き込むことにより、ロック機構9の操作部をロック解除方向に操作する。
【0023】
ところで、フードロック解除ケーブル10は、ロック機構9からバルクヘッドアッパフレーム4の下面に沿わせて車体左方向に引き回され、さらに図1に示すように車体左側のサイドメンバ3の外側に沿わせた後に車室内に引き出されている。このフードロック解除ケーブル10は、図1に示すようにバルクヘッドアッパフレーム4とサイドメンバ3に対してクリップ止め等によって複数箇所で固定(図1中、固定部を符号15で示す。)されているが、フードロック解除ケーブル10のロック機構9に近接した位置には、バルクヘッドアッパフレーム4の下面側においてほぼ一周分周回する撓み部16が設けられている。
今、フードロック解除ケーブル10の撓み部16を挟んでロック機構9側の領域を第1軸線領域17、ロック機構9と逆側の領域を第2軸線領域18と呼ぶものとすると、撓み部16は、第1軸線領域17と第2軸線領域18の相互の軸線がほぼ直線を成すように形状保持され、その状態においてバルクヘッドアッパフレーム4の下面に取り付けられている。
【0024】
具体的には、撓み部16は、図3に示すように全体が略楕円形状を成し、かつ第1軸線領域17と第2軸線領域18がほぼ一直線上になるように変形させ、その状態において撓み部16の成す楕円形状の対称位置が一対のクリップ19によってバルクヘッドアッパフレーム4の下面に係止されている。そして、こうしてバルクヘッドアッパフレーム4の下面に取り付けられたフードロック解除ケーブル10は、第1軸線領域17から撓み部16にかけての変化領域が撓み部16から第2軸線領域18への変化領域の上(車体の下方側)に重ねられ、それによって第2軸線領域18側の変化領域の変位が押さえ込まれている。つまり、第1軸線領域17から撓み部16にかけての変化領域は、相互に近接したロック機構9の固定部とクリップ19による固定部によってバルクヘッドアッパフレーム4に固定されているため、この変化領域とバルクヘッドアッパフレーム4の間に、撓み部16から第2軸線領域18にかけての変化領域を潜り込ませることにより、第2軸線領域18側の変位を抑制することができる。
【0025】
また、フードロック解除ケーブル10のうちの、第1軸線領域17から撓み部16にかけての変化領域の外周面にはスポンジ材料等の緩衝部材20が外装され、撓み部16の交差部分の擦れをこの緩衝部材20によって阻止することができる。また、さらに、撓み部16の周回形状の前記交差部分と略対象な位置には、バルクヘッドアッパフレーム4側の段差部分21との擦れを防止するために同様の緩衝部材20が外装されている。
【0026】
この実施形態の車両は、以上のようにフードロック解除ケーブル10の撓み部16が軸線方向に離間した二ヶ所でバルクヘッドアッパフレーム4の下面にクリップ止めされているため、車両衝突のない通常時には、バルクヘッドアッパフレーム4上の設定位置において撓み部16の周回形状が確実に保持される。したがって、車室内の操作レバーによるロック解除操作を確実にロック機構9に伝達することができる。特に、この実施形態の場合、さらにロック機構9に近接した第1軸線領域17側がバルクヘッドアッパフレーム4との間で第2軸線領域18側を押さえ込むようになっているため、撓み部16の形状をより確実に保持することができる。
【0027】
一方、車両衝突に伴うバルクヘッドアッパフレーム4等の変形によってフードロック解除ケーブル10が周囲の部材に挟み込まれ、その状態のままアウタチューブ14とインナワイヤ13がほぼ一体になって引っ張られると、フードロック解除ケーブル10の撓み部16がこのときの引っ張り荷重を受けて伸ばされる。したがって、このときインナワイヤ13からロック機構9には操作力が伝達されなくなり、ロック機構9のロックが不用意に解除されるのを確実に防止することが可能になる。
【0028】
この実施形態のフードロック解除ケーブル10の配索構造においては、ケーブル10を周回させて撓み部16を設けるようにしているため、撓み部16の前後の第1軸線領域17と第2軸線領域18をほぼ一直線することができる。したがって、撓み部16のない場合と同様にバルクヘッドアッパフレーム4の下面にフードロック解除ケーブル10を容易に配索することができる。また、周回部分で撓み部16を構成することで充分な撓み代が確保されるため、衝突時におけるロック機構9の不用意な解除をより確実に防止することができる。
【0029】
また、この実施形態においては、フードロック解除ケーブル10の交差部分に緩衝部材20を設けるようにしているため、車両振動等によってケーブル10に磨耗が生じるのを防止し、ケーブル10の耐久性を向上させることができる。
【0030】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態の車両は運転席が左側にある左ハンドル車であるが、運転席が右側にある右ハンドル車にも同様に適用することができる。ただし、左ハンドル車と右ハンドル車で同じロック機構9を共用する場合には、例えば、図4に示すようにフードロック解除ケーブル10を円弧状の膨らみをもたせるようにして略U字状に折り返し、そこに形成された撓み部116をクリップ19等によってバルクヘッドアッパフレーム4の下面に固定するようにしても良い。なお、図4においては、図1〜図3に示した実施形態と同一部分に同一符号を付してある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態を示す車両の斜視図。
【図2】同実施形態を示す要部の拡大斜視図。
【図3】同実施形態を示す要部の拡大背面図。
【図4】この発明の他の実施形態を示す図3と同部位の背面図。
【符号の説明】
【0032】
2…フード
9…ロック機構
10…フードロック解除ケーブル
13…インナワイヤ
14…アウタチューブ
16,116…撓み部
20…緩衝部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端がフードのロック機構に連結され、他端が車室内から引かれることによって前記ロック機構のロックを解除するインナワイヤと、このインナワイヤの周囲を相対変位可能に囲繞するアウタチューブと、を備えたフードロック解除ケーブルの配索構造において、
前記フードロック解除ケーブルを、前記ロック機構と車室内の間に撓み部が形成されるように車体に配索したことを特徴とするフードロック解除ケーブルの配索構造。
【請求項2】
前記撓み部上の離間した複数個所を局部的に車体に係止させたことを特徴とする請求項1に記載のフードロック解除ケーブルの配索構造。
【請求項3】
前記フードロック解除ケーブルの一部を周回させ、その周回部分を前記撓み部としたことを特徴とする請求項1または2に記載のフードロック解除ケーブルの配索構造。
【請求項4】
前記撓み部のフードロック解除ケーブルが相互に交差する部分に緩衝部材を介在させたことを特徴とする請求項3に記載のフードロック解除ケーブルの配索構造。
【請求項5】
前記フードロック解除ケーブルは、前記撓み部を挟んで前記ロック機構側の第1軸線領域及び前記ロック機構と逆側の第2軸線領域を有し、
前記撓み部は、前記ロック機構の近傍に設けられるとともに、前記第1軸線領域側が前記車体との間で前記第2軸線領域側を押さえ込むように設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載のフードロック解除ケーブルの配索構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−118793(P2007−118793A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314197(P2005−314197)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】