説明

フード構造

【課題】 歩行者等の頭部傷害値を低減し、歩行者保護性能を向上することのできるフード構造を提供する。
【解決手段】 車両のエンジンルーム3を覆うフード本体10のエンジンルーム3側に、空気を導入しかつその空気を前記エンジンルーム3内の所定の空気導入部に導出する樹脂製のダクト20を設ける。ダクト20は、空気の流れ方向に延在しかつ少なくとも1つの縦壁部を含む中空の閉断面構造で形成される。ダクト20の縦壁部に、その縦壁部を縦方向の応力により折れやすくする応力集中部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルームを覆うフード構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフード構造には、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載されたフード構造は、図8に示すように、車両のエンジンルームRを覆うフード108に対して、空気を導入しかつその空気を前記エンジンルームR内の所定の空気導入部(バッテリ格納部に連通する連通管)105に導出するダクト130を形成している。詳しくは、フード108は、アウタパネル108aと、アウタパネル108aのエンジンルームR側に接合されたインナパネル112とからなる。インナパネル112の断面凹凸形状により形成されたダクト130の前端部には、車体側のグリル121の近傍に配置される空気導入口110が形成されている。また、ダクト130の後端部には、前記連通管105に空気を導出する空気導出口111が形成されている。したがって、ダクト130の空気導入口110に導入された空気は、ダクト130内の空気通路109を通って後端部の空気導出口111から連通管105に導出される。連通管105に導出された空気は、連通管105を通じてバッテリ格納部104へ導入される。
【0003】
【特許文献1】特開平10−945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来のフード構造によると、図9に示すように、インナパネル112が断面凹凸状に形成されており、アウタパネル108aとの間に空気通路109が形成されている。このため、アウタパネル108aに対するインナパネル112の断面凹凸形状(詳しくは、アウタパネル108aに対するインナパネル112の深さ形状)を一般的なインナパネル112(図9中、二点鎖線112参照。)よりも深く設定することによって、空気通路109の通路断面積を確保する必要があった。したがって、フード108の剛性が必要以上に高くなり過ぎてしまい、衝突体がフード108に衝突した際に高い反力を発生するおそれがあった。このため、人体頭部の障害値を計る頭部傷害値(以下、「HIC値」という。)が高くなり、歩行者保護性能の低下を招くという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、歩行者等の頭部傷害値を低減し、歩行者保護性能を向上することのできるフード構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題は、特許請求の範囲の欄に記載された構成を要旨とするフード構造により解決することができる。
すなわち、特許請求の範囲の請求項1にかかるフード構造によると、車両のエンジンルームを覆うフード本体のエンジンルーム側に、空気を導入しかつその空気を前記エンジンルーム内の所定の空気導入部に導出する樹脂製のダクトを設けたものである。したがって、フード本体のパネルにダクトの形成のために深い凹凸形状を形成する必要がなく、フード本体の剛性アップを抑制することができる。また、樹脂製のダクトをフード本体のエンジンルーム側に設けたことにより慣性質量が増し、頭部等の衝突物に発生する減速度と時間との関係において1次ピークを上げることができる。その結果、エンジンルーム内にある硬い物体等に当たって発生する2次ピークを低く抑えることができる。このため、歩行者等の頭部傷害値を低減し、歩行者保護性能を向上することができる。
【0007】
また、特許請求の範囲の請求項2にかかるフード構造によると、ダクトが、空気の流れ方向に延在しかつ少なくとも1つの縦壁部を含む中空の閉断面構造で形成されている。そして、ダクトの縦壁部に、その縦壁部を縦方向の応力により折れやすくする応力集中部を設けたものである。このため、ダクトに加わる縦方向の応力により、縦壁部の応力集中部が折れやすくなるため、人体頭部の衝突による縦壁部の座屈荷重を低減することができるとともに、人体頭部の衝撃吸収ストロークを増大することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフード構造によれば、フード本体のパネルにダクトの形成のために深い凹凸形状を形成する必要がなく、フード本体の剛性アップを抑制することができ、かつ慣性質量を増すことにより頭部に発生する減速度の1次ピークを上げられるため、歩行者等の頭部傷害値を低減し、歩行者保護性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態について実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0010】
本発明の一実施例を説明する。図1はフードを示す平面図、図2は図1のII−II線矢視断面図、図3は図1のIII−III線矢視断面図である。
図1に示すように、フード1は、フード本体10とダクト20とを備えている。
図2に示すように、フード本体10は、車両(図示しない。)のエンジンルーム3の上方開口部を覆うもので、鋼板製のアウタパネル12と、そのアウタパネル12のエンジンルーム3側に重合状に結合された鋼板製のインナパネル14とを備えている。
図3に示すように、インナパネル14は、車両幅方向(図3において左右方向)に凸板部15と凹板部16とを立上り壁部17を介して連続させた断面凹凸形状に形成されており、その凸板部15がアウタパネル12に接合されている。インナパネル14の凹凸形状(詳しくは、アウタパネル12に対するインナパネル14の凹板部16の深さ形状すなわち立上り壁部17の高さ形状が相当する。)は、一般的なインナパネル14と同程度で、かつ、従来のダクトの形成のための深さに比べて浅い形状となっている。このため、フード本体10の剛性が、一般的なものと同程度で、かつ、従来のダクトを形成したものに比べて低くなっている。
【0011】
また、前記エンジンルーム3(図2参照。)内には、図示しないエンジン及び補機等が搭載されている。また、エンジンルーム3の前面側には、ラジエータグリル5が配置されている、また、エンジンルーム3内における車両後部には、前記フード本体10に近接するインタークーラ7が配置されている。インタークーラ7は、エンジンの吸気ダクト(図示しない。)の途中に介装されており、図示しないターボチャージャによって圧縮された熱い空気を冷却する。
【0012】
図2に示すように、前記ダクト20は、前記ラジエータグリル5を通過してきた外気を前記インタークーラ7に導入するためのもので、前記フード本体10のエンジンルーム3側(図2において下側)に設けられている。ダクト20は、樹脂製で、例えばPP(ポリプロピレン)樹脂で成形されている。ダクト20は、前記インナパネル14に、図示しない所定数のクリップにより取り付けられている。ダクト20は、前部に形成された左右2本の分岐ダクト部21と、後部に形成された1本の合流ダクト部22とを備える平面Y字状に形成されている。また、ダクト20は、図1に示すように、空気の流れ方向(車両前後方向で、図1において左右方向)に延在する偏平をなす中空の閉断面構造で形成されており、その中空部に空気通路23を形成している(図2及び図3参照。)。なお、図4はダクトを一部破断して示す平面図である。
【0013】
図4に示すように、前記両分岐ダクト部21の前端には、前方に開口する空気導入口24が形成されている。空気導入口24は、前記ラジエータグリル5の後側面に向けて指向されている(図2参照。)。このため、ラジエータグリル5を通過した外気(空気)の一部が、空気導入口24から分岐ダクト部21内の空気通路23に導入される。
また、図4に示すように、両分岐ダクト部21の後端部は、前記合流ダクト部22の前端部に連通されている。このため、分岐ダクト部21内の空気通路23を流れてきた外気(空気)は、合流ダクト部22内の空気通路23に合流されて導入される。
また、合流ダクト部22の後部の下面には、空気導出口25が開口されている。空気導出口25は、前記インタークーラ7の上面の空気取入口(符号省略。)に対向されており、前記フード本体10を閉じたときにインタークーラ7上に弾性を有する筒状のシール部材8を介して気密状態に連通されている(図2参照。)。フード本体10を閉じた状態において、合流ダクト部22内の空気通路23を流れてきた外気(空気)は、空気導出口25からシール部材8内を通じてインタークーラ7内へ導入される。また、フード本体10を開いたとき(図2中、二点鎖線10参照。)は、ダクト20の空気導出口25がインタークーラ7上から離れる。なお、インタークーラ7は、本明細書でいう「空気導入部」に相当する。
【0014】
しかして、図4に示すように、前記ダクト20は、空気の流れ方向(図4において左右方向)に延在しかつ左右の両縦壁部26を有する中空の閉断面構造で形成されている。詳しくは、ダクト20は、上下に平行状をなす上壁部27及び下壁部28と、それらの側縁部を接続する縦壁部26とを有している。左側の分岐ダクト部21(符号、(L)を付す。)における左側の縦壁部26(符号、(1)を付す。)と、合流ダクト部22における左側の縦壁部26(符号、(2)を付す。)とは、前後に連続している。また、右側の分岐ダクト部21(符号、(R)を付す。)における右側の縦壁部26(符号、(3)を付す。)と、合流ダクト部22における右側の縦壁部26(符号、(4)を付す。)とは、前後に連続している。また、左側の分岐ダクト部21Lにおける右側の縦壁部26(符号、(5)を付す。)と、右側の分岐ダクト部21における左側の縦壁部26(符号、(6)を付す。)とは、その後端部において平面V字状に連続している。
【0015】
しかして、図3に示すように、前記ダクト20の各縦壁部26は、その上下方向の中央部を外側に張り出す断面ほぼ「く」の字状をなすように形成されている。詳しくは、図5に断面図で示すように、縦壁部26は上側板部26aと下壁板部26bとを有している。そして、両側板部26a,26bの接続部である屈曲部26cが、縦方向の応力が集中しやすくかつ両側板部26a,26bを折れ(二つ折り状の折れ、及び、破損を含む。)やすくする応力集中部26c(屈曲部と同一符号を付す。)として設定されている。
【0016】
上記したフード構造によると、フード1を閉じた状態での車両の走行時において、ラジエータグリル5を通過した外気の一部は、空気導入口24からダクト20内の空気通路23に導入され、その空気通路23を流れた後、空気導出口25から導出される(図2参照。)。その空気は、シール部材8内を通じてインタークーラ7内へ導入される。
ところで、車両のエンジンルーム3を覆うフード本体10のエンジンルーム3側に、空気を導入しかつその空気をエンジンルーム3内のインタークーラ7に導出する樹脂製のダクト20が設けられている(図2及び図3参照。)。したがって、フード本体10のインナパネル14にダクト20の形成のために深い凹凸形状を形成する必要がなく、一般的な浅い凹凸形状となっている(図3参照。)。このため、フード本体10の剛性が、一般的なものと同程度で、かつ、従来のダクト20を形成したものに比べて低くなっている。これにより、フード本体10の剛性アップを抑制することができる。また、樹脂製のダクト20をフード本体10のエンジンルーム側に設けたことにより慣性質量が増し、頭部等の衝突物に発生する減速度と時間との関係において1次ピークを上げることができる。その結果、エンジンルーム内にある硬い物体等に当たって発生する2次ピークを低く抑えることができる(図10参照。)。このため、歩行者等の頭部傷害値を低減し、歩行者保護性能を向上することができる。なお、図10は頭部等の衝突物に発生する減速度と時間との関係を示す特性線図である。図10において横軸は時間を示し、縦軸は減速度を示している。また、樹脂製のダクトをフード本体のエンジンルーム側に設けたフード構造の特性が特性線Aで示され、樹脂製のダクトをフード本体のエンジンルーム側に設けていないフード構造の特性が特性線Bで示されている。図10によると、特性線Bに比べ、特性線Aの1次ピークが上げられており、2次ピークが低く抑えられていることがわかる。
また、ダクト20が樹脂製であるため、ダクト20が金属製である場合に比べて、ダクト20の軽量化を図ることができる。
【0017】
また、ダクト20が、空気の流れ方向に延在しかつ左右の縦壁部26を含む中空の閉断面構造で形成されている(図3参照。)。そして、ダクト20の縦壁部26に応力集中部26cが設けられている(図5参照。)。このため、ダクト20に加わる縦方向の応力により、縦壁部26の応力集中部26cが折れ(破損を含む。)やすくなるため、人体頭部の衝突による縦壁部26の座屈荷重を低減することができるとともに、人体頭部の衝撃吸収ストロークを増大することができる。
【0018】
また、前記実施例では、ダクト20の縦壁部26を断面ほぼ「く」の字状をなすように形成することにより、応力集中部26cを設けたものであるが、縦壁部26の応力集中部26cは、次の変更例1、2に変更することができる。
[変更例1]
変更例1は、図6に示すように、垂直状をなす縦壁部26の上側板部26aと下側板部26bとの間に、その壁厚を薄くする薄肉部26dを設定したものである。この場合、薄肉部26dが、縦方向の応力が集中しやすくかつ縦壁部26を折れ(破損を含む。)やすくする応力集中部26d(薄肉部と同一符号を付す)として設定されている。
[変更例2]
変更例2は、図7に示すように、垂直状をなす縦壁部26の上側板部26aと下側板部26bとの間に、ビード部26eを設定したものである。この場合、ビード部26eが、縦方向の応力が集中しやすくかつ縦壁部26を折れ(破損を含む。)やすくする応力集中部26e(ビード部と同一符号を付す)として設定されている。
【0019】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、空気導入部は、インタークーラ7に限らず、エンジンルーム3内、バッテリ収納部内、バッテリの周辺部、排気管の周辺部、エンジンの高温部位の周辺部、エアクリーナ内、連通管等のように任意の部位に設定することができる。また、ダクト20に応力集中部26c,26d,26eを設ける場合は、ダクト20が少なくとも1つの縦壁部26を含む中空の閉断面構造で形成されておればよい。また、ダクト20に応力集中部26c,26d,26eを設けない場合は、ダクト20が少なくとも1つの縦壁部26を含む、もしくは、縦壁部26をもたない中空の閉断面構造で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例にかかるフードを示す平面図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【図4】ダクトを一部破断して示す平面図である。
【図5】ダクトの縦壁部を示す断面図である。
【図6】ダクトの縦壁部の変更例1を示す断面図である。
【図7】ダクトの縦壁部の変更例2を示す断面図である。
【図8】従来例を示す側断面図である。
【図9】図8のIX−IX線矢視断面図である。
【図10】頭部等の衝突物に発生する減速度と時間との関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0021】
1 フード
3 エンジンルーム
7 インタークーラ(空気導入部)
10 フード本体
20 ダクト
26 縦壁部
26c 屈曲部(応力集中部)
26d 薄肉部(応力集中部)
26e ビード部(応力集中部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームを覆うフード本体のエンジンルーム側に、空気を導入しかつその空気を前記エンジンルーム内の所定の空気導入部に導出する樹脂製のダクトを設けたことを特徴とするフード構造。
【請求項2】
請求項1に記載のフード構造であって、
前記ダクトは、空気の流れ方向に延在しかつ少なくとも1つの縦壁部を含む中空の閉断面構造で形成され、
前記ダクトの縦壁部に、その縦壁部を縦方向の応力により折れやすくする応力集中部を設けたことを特徴とするフード構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−99182(P2007−99182A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294671(P2005−294671)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】