説明

フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法についての方法及び装置

フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR−MS)についての今までにない方法及び装置である。FTICR−MS装置は、複数の質量対電荷(M/Z)の部分的な範囲を有するイオン化分子を受け取ることができるICR前の質量分離及びフィルタリング装置を有する。ICR前の質量分離及びフィルタリング装置は、イオン化分子を複数のより小さなパケットに分割し、より小さなパケットそれぞれが、M/Zの部分的な範囲のうちの1つの範囲内にある。FTICR−MS装置中の磁石は、制御された磁場を与える。複数のイオンサイクロトロン共鳴(ICR)セルは、制御された磁場中で直列に配置され、独立して動作する。イオントラッピング装置は、複数のICRセルのうちの1つのICRセルへ送る前に、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置を接続し、複数のより小さなパケットのうちの1つのパケットを格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法に関する。さらに詳細には、本発明は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の物質組成の分析を行うための能力は、健康管理、環境モニタリングなど日常生活の多くの場面に不可欠である。典型的には、複合混合物中の特定の物質の量は、様々な手段によって測定される。例えば、複合混合物中の検体を測定するために、関心のある検体は、混合物中の他の分子全てから分離され、次いで独立して測定及び同定されなければならない。
【0003】
検体それぞれの特有の化学的特性及び/又は物理的特性を使用して検体を互いから分解することができる。クロマトグラフィの用途では、例えば、異なる検体の極性の相違を利用して検体を互いから分離でき、保持時間は、特定の検体に対して特有である場合がある。質量分析法では、イオン化分子(検体)のM/Zの相違が利用される。異なる分子式を有する分子は、概して異なる質量を有する。質量の相違は、とても大きなもの(100又は1000を超える原子質量単位(amu,atomic mass unit))からとても小さなもの(1amu未満)まで様々である。質量差がより小さくなるほどイオンを分離するためにより高い質量分解能が必要とされる。高分解能質量分析法は一般に、1amu未満の差で質量の異なるイオンを分解する能力について言及するのに対して、低分解能質量分析法は一般に、1amuを超える差で質量の異なるイオンを分解する能力について言及する。課題は、妥当な時間で非常に幅広い質量対電荷(M/Z,mass to charge)の範囲にわたって高分解能質量分析を行うことができることである。現在、フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(FTMS,Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry)は、ことによるとあらゆる種類の質量分析計のうち最高の分解能を与えるものであり、それによりフーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(FTMS)を他の全てのシステムの中で非標的の複合試料の分析に最も適したものにさせる。
【0004】
フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法の化学的用途は、例えば、the Accounts of Chemical Research, Vol. 20, page 316, Oct. 1985の中に記載されており、全体としてこの文献を参照することにより本明細書にそのまま援用する。フーリエ変換質量分析法は、時間の関数としてデータ点の取得のステップと、続いて周波数領域スペクトルを得るための離散フーリエ変換のステップとを含む。
【0005】
イオンサイクロトロン共鳴を利用し、特定のイオンサイクロトロン共鳴周波数を有するイオンの個数を測定する装置は一般に、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計と呼ばれている。
【0006】
イオンサイクロトロン共鳴は、よく知られており、気体イオンを検出するための精度の高い及び用途の広い手段を与える。静磁場の存在下で運動中である気体イオンは、磁場の方向に垂直な平面において円軌道で運動するように制限され、磁場に対して平行な方向への気体イオンの運動には制限がない。この円運動の周波数は、磁場の強さ及びそのイオンのM/Zに直接依存する。イオンが、磁場に対して直角に流動する振動電場の周波数に等しいサイクロトロン軌道周波数を有するときに、イオンは、電場からエネルギーを吸収し、より大きな軌道半径及びより高い運動エネルギーレベルへ加速される。共鳴イオンだけが電場からエネルギーを吸収するので、共鳴イオンは、電場が実質的に影響を与えない非共鳴イオンと区別できる。吸収されたパワーの検出は結果として試料中に存在する特定のM/Zの共鳴気体イオンの個数を測定することになる。特定のイオン化した気体試料のイオンM/Zスペクトルは、スキャン及び検出することによって得られる。スキャンは、異なるM/Zのイオンを振動電場と共鳴状態にするように、振動電場の周波数、印加磁場の強さ、又はその両方を変更することによってなされてよい。
【0007】
FTMS機器は、イオントラッピング機器である。外部で発生した全てのイオンは、イオンサイクロトロン共鳴(ICR,Ion Cyclotron Resonance)セルの中に移送されなければならない。ICRセル中に入れば、次いで標準のFTMSの手順を利用してセル中に含まれるイオンを分解及び検出する。イオン源の中でイオン化されるときに、ヒト血漿などの複合混合物は、50以下の非常に小さなM/Zから1500以上の大きなM/Zまでのイオンのスペクトルを含む。
【0008】
異なるM/Zのイオンは、異なる運動エネルギー、及びしたがって異なる速度を有する。ポテンシャルエネルギーの勾配の存在下では、小さなM/Zのイオンは、高いM/Zのイオンよりも大きな速度を有し、したがってイオンがイオン通路に沿って進むのにかかる時間は、そのイオンの質量に反比例する。飛行時間(TOF,Time of Flight)又はセクター機器は、このM/Z特性を利用するように設計される。しかし、このM/Z従属性は、単一のFTICR−MSによって同時に分析され得る検体のM/Zの範囲(デューティサイクル)を大いに制限するものであり、ここでイオン源からのイオンは、イオンが検出プレートの近くを通過することによって分解及び検出される前にICRセルへ移送され、次いでICRセル中でトラップされなければならない。FTICR−MSでは、質量は、他の技術のように空間又は時間で分解されず、周波数でのみ分解され、異なるイオンは、セクター機器のように異なる場所で、又は飛行時間の機器のように異なる時間で検出されず、全てのイオンは所与の期間にわたって同時に検出される。
【0009】
図1(a)を参照すると、イオンは典型的には、高周波(RF,radio frequency)だけのトラップ100などの電圧ゲートポテンシャルエネルギートラップを用いてICRセルの外側にトラップされるものであり、RFだけのトラップ100は、RFだけの四重極102、入口ゲート電極104及び終端ゲート電極106より構成される。入口ゲート電極104に入るイオン108は、外部イオン源110によって供給することができる。典型的な外部イオン源には、エレクトロスプレーイオン化(ESI,Electrospray Ionization)、大気圧化学イオン化(APCI,Atmospheric Pressure Chemical Ionization)、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI,Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)、及び大気圧光イオン化(APPI,Atmospheric Pressure Photo Ionization)などが含まれてよいが、それに限定されない。
【0010】
図1(a)及び図1(b)を参照すると、イオン108が入口ゲート電圧114及び終端ゲート電圧116によってトラップされている一定のイオン蓄積時間の期間の経過後、終端ゲート106は開かれ、ポテンシャルエネルギーの井戸の中にトラップされたイオン108は、ポテンシャルエネルギー勾配118によってICRセル112に向けて推進される。
【0011】
図2(a)を参照すると、イオン206、208は、高電圧をセル202の入口プレート210及び終端プレート204に印加することにより、高電圧をこのセルの入口プレート210に印加する一定期間の経過後に、ICRセル202の中でトラップされる。RFだけのトラップ100が開かれた時間とICRセルが閉じられた時間の間にセルに入った全てのイオン206、208は、ICRセル中でトラップされ、次いで分析され得る。しかし、この過程は、いわゆる「飛行時間の影響」をもたらし得る。図2(c)を参照すると、ICRセル202が開いた状態で維持される時間が長過ぎる場合は、高速の小さなイオン206は、ICRセル202に入り、終端プレートから跳ね返され、入口プレートから逆に逃げてしまうことになろう。図2(b)を参照すると、この時間が短過ぎる場合は、低速の大きなイオン208は、ICRセル202まで到達しないであろう。一定のM/Zの範囲だけが一度にFTMSのICRセル中にトラップでき、幅広いM/Zの範囲にわたる非標的の複合試料を分析する上で現在のFTMS技術の機能を厳しく制限するのはこの理由による。非標的の複合試料の分析は、例えば、2001年8月9日に発行されたPCTの公報WO01/57518の中で説明されており、この文献を参照することにより本明細書にそのまま援用する
【0012】
FTMS機器は、全てイオントラッピング機器であるので、分解及び検出の前にICRセル中に格納できるイオンの個数には限界がある。ICRセル中にイオンが多過ぎると、機器の分解能に悪影響を及ぼし、ICRセル中にイオンが少な過ぎると、ICRセル中のイオンを検出する精度に悪影響を及ぼす。したがって、FTMS分析に対して最適な、しかし限定されたイオンの集団の範囲がある。ICRセル中で最適なイオンの集団を持続することは通常、イオンがICRセル中で又はいくつかのICR前のイオン収集装置(例えば、イオンガイド又はイオントラップ)の中で収集される時間を調節することによってなされ、或いは複数のイオンパケットがICRセル中で収集されている場合は、これらの収集の個数は、イオンを分解及び検出する前に調節される。大きなM/Zの範囲、例えば50〜2000での総合的な非標的の複合混合物の分析については、この制限されたイオンの集団の範囲は、非標的の複合混合物の分析において現在利用可能なFTMS機器の機能を厳しく制限する。
【0013】
複合混合物は通常、様々なイオンの集団の状態で大量のイオンを含む。これにより限定されたダイナミックレンジになり、大きなM/Zの範囲が同時に分析される際に非常に数が多いイオンが選択的に検出される。ダイナミックレンジは、トラップできるイオンの個数を増大させることにより又は分析されているM/Zの範囲を減少させることにより増大できる。両方の選択肢は、トレードオフの状態にある。イオンの集団を増大させることは、機器の分解能及び精度、つまりは、分子式を正確に識別する機器の能力を減少させる。分析されるM/Zの範囲を限定することは、全体の幅広いM/Zの範囲を調べるために必要とされる分析数を増大させる。
【0014】
典型的には、イオンの分解及び検出を最適化することは、各々の複合試料を小さなM/Zを有するものから高いM/Zを有するものまで及ぶ2つ以上の検体のパケットに分けることを必要とし、これらのパケットは、個々に分析装置の中に送られなければならない。パケットの連続した分析のこのステップは、複合試料の全面的なスペクトルを調べるために必要とされる時間を大いに増大する。結局のところ、この状況は、既存のFTMS技術の高スループット能力及びデューティサイクルを大いに減少させる。
【0015】
FTMS機器の分解能は、取得とされるデータ点の個数及び信号が減衰できる時間の長さの関数である。非標的の複合混合物の分析では、その目的は、成分全てを互いから分解することであり、次いでイオンの分子式を決定するのに十分なほど正確に質量を測定することである。しかし、この目的を達成するために必要とされる分解能及び質量の精度は、全てのM/Zの範囲に対して同じではない。800と801の間の質量となる可能性のある分子式よりも100と101の間の質量となる可能性のある分子式ははるかに少ないので、より低い質量のイオンは、より高い質量のイオンよりも分離及び識別するために分解能及び質量の精度を必要としない。M/Zの範囲を分割しないと、結果として低いM/Zの範囲でオーバー分解ピークになり、又は高いM/Zの範囲でアンダー分解ピークになる。
【0016】
そのようなパワー吸収検出技術を利用するイオンサイクロトロン共鳴質量分析計の一例は、「Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer Means for Detecting the Energy Absorbed by Resonance Ions」と題される米国特許第3390265号の中で見出されることができ、この文献を参照することにより本明細書にそのまま援用する。
【0017】
イオンサイクロトロン共鳴質量分析計の方法及び装置並びに改良を開示する他の米国特許には、「Ion Cyclotron Resonance Spectrometer Employing Means for Recording Ionization Potentials」と題される米国特許第3446957号、「Ion Cyclotron Double Resonance Spectrometer Employing a Series Connection of the Irradiating and Observing RF Sources to the Cell」と題される米国特許第3475605号、「Method and Apparatus for Measuring Ion Interrelationships by Double Resonance Mass Spectroscopy」と題される米国特許第3502867号、「Ion Cyclotron Resonance Spectrometer Employing an Optically Transparent Ion Collecting Electrode」と題される米国特許第3505516号、「Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer with Means for Irradiating the Sample with Optical Radiation」と題される米国特許第3505517号、「Ion Cyclotron Double Resonance Spectrometer Employing Resonance in the Ion Source and Analyzer」と題される米国特許第3511986号、「Double Resonance Ion Cyclotron Mass Spectrometer for Studying Ion-Molecule Reactions」と題される米国特許第3535512号、及び「Ion Cyclotron Resonance Stimulated Low-Discharge Method and Apparatus for Spectral Analysis」と題される米国特許第3677642号が含まれており、全てを参照することにより本明細書にそのまま援用する。
【0018】
「Method and Apparatus for Pulsed Ion Cyclotron Resonance Spectroscopy」と題される米国特許第3742212号は、それを参照することにより本明細書にそのまま援用されるものであり、単一セクションのイオンサイクロトロン共鳴セルを含むイオンサイクロトロン共鳴質量分析計を説明する。このセルでは、イオンは、既知の第1の期間内に形成され、第2の期間内に中性分子と反応することができ、第3の期間内に検出される。特定の質量対電荷比のイオンを検出することは、それらイオンの共鳴周波数をマージナル発振検出器の固定周波数に等しくするように所望の質量対電荷比のイオンの共鳴周波数を急に変化させることによってなされる。既定の質量対電荷比のイオンのサイクロトロン周波数の必要とされる急激な変化は、イオンサイクロトロン共鳴セル中でイオンを「トラップする」ために使用される印加磁場の値の急激な変化によって、又は静電場の大きさの急激な変化によってなされる。イオンサイクロトロン共鳴検出期間を開始する代替の手段は、マージナル発振器の高周波レベルの振幅をゼロボルトからより高いレベルまで急激に変化させることである。イオンサイクロトロン共鳴検出期間を完了した後に、「クエンチ(quench)」電場パルスが、全てのイオンをイオンサイクロトロン共鳴セルから除去するために印加される。
【0019】
四重極、六重極及び八重極などのRFだけの多重極ロッドのセットより構成されるイオンガイドは、当技術分野でやはり知られている。同じ大きさの電極の複数のリングより構成される代替のタイプのイオンガイド又は「ファネル」は、Batemanの米国特許第6891153号に記載されており、この文献を参照することにより本明細書にそのまま援用する。
【0020】
イオン閉じ込め装置として使用するための円筒形イオントラップ(CIT,cylindrical ion trap)は、米国特許第3065640号の中でLangmuirによって説明されたものであり、この文献を参照することにより本明細書にそのまま援用する。その後、CITの使用は、主にイオン貯蔵に重点を置いている。
【0021】
最近の実験(Badman, E. R.; Johnson, R. C.; Plass, W. R.; Cooks, R. G. Anal. Chem. 1998, 70, 4896-4901; Kornienko, O.; Reilly, P. T. A.; Whitten, W. B.; Ramsey, J. M. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1999, 13, 50-53 and Kornienko, O.; Reilly, P. T. A.; Whitten, W. B.; Ramsey, J. M. Rev. Sci. Instrum. 1999, 70, 3907-3909、全てを参照することにより本明細書にそのまま援用する)は、質量分析計/検出器として申し分なく機能するCITを示している。
【0022】
直列のイオントラップは、Bateman その他の米国特許第6794642号に記載されており、この文献を参照することにより本明細書にそのまま援用されるものであり、コレクタとして、並びに質量分析計のイオン体積及びダイナミックレンジを増大させる目的で検出されるM/Zの範囲を分割することとして記載されている。
【0023】
Batemanの特許文献では、一連のイオントラップは、前に生成されたイオンのパケットの検出器としてではなく、M/Zの範囲をパケットに分離するために使用される。一連のイオントラップは、1つのトラップにトラップされていないイオンは、四重極イオントラップに固有の低質量カットオフ(LMCO,Low Mass Cut Off)として知られるM/Zの範囲の限界を乗り越え、他のトラップの中に溢れ出るように機能的に連結される。一連のイオントラップは、制御された磁場の中には実装しない。Batemanの設計では、単一の飛行時間(TOF)検出システムを使用して一連のイオントラップによって分離されるイオンを検出する。したがって、M/Zの範囲は、各パケットに分割されるが、これらのパケットそれぞれは、同時に分析されるよりむしろ連続して検出されなければならない。加えて、使用される一連のイオントラップは、FTMS分析における飛行時間の影響の問題を最小化するように設計されていない。
【0024】
【特許文献1】PCTの公報WO01/57518
【特許文献2】米国特許第3390265号
【特許文献3】米国特許第3446957号
【特許文献4】米国特許第3475605号
【特許文献5】米国特許第3502867号
【特許文献6】米国特許第3505516号
【特許文献7】米国特許第3505517号
【特許文献8】米国特許第3511986号
【特許文献9】米国特許第3535512号
【特許文献10】米国特許第3677642号
【特許文献11】米国特許第3742212号
【特許文献12】米国特許第6891153号
【特許文献13】米国特許第3065640号
【特許文献14】米国特許第6794642号
【非特許文献1】the Accounts of Chemical Research, Vol. 20, page 316, Oct. 1985
【非特許文献2】Badman, E. R.; Johnson, R. C.; Plass, W. R.; Cooks, R. G. Anal. Chem. 1998, 70, 4896-4901
【非特許文献3】Kornienko, O.; Reilly, P. T. A.; Whitten, W. B.; Ramsey, J. M. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1999, 13, 50-53
【非特許文献4】Kornienko, O.; Reilly, P. T. A.; Whitten, W. B.; Ramsey, J. M. Rev. Sci. Instrum. 1999, 70, 3907-3909
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、複数のM/Zの範囲のセグメントが連続的にではなく同時に検出及び分析されることを可能にするために、イオントラップセルを独立して直列に構成し、それによって幅広いM/Zの範囲の適用のためにFT−ICRのデューティサイクルを増大させることによって、単一の分析サイクルにおけるイオンの幅広いM/Zの範囲の分析に必要な時間の長さを短縮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一実施形態によれば、質量対電荷比(M/Z)の範囲を有するイオン化分子を受け取ることができるICR前の質量分離及びフィルタリング装置を備えるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR−MS)システムが提供される。M/Zの範囲は、複数のM/Zの部分的な範囲に分割できる。ICR前の質量分離及びフィルタリング装置は、前記M/Zの範囲内のイオン化分子を複数のより小さなパケットに分割し、複数のより小さなパケットそれぞれが、M/Zの部分的な範囲を有する。FTICR−MSシステム内の磁石は、制御された磁場を与える。複数のイオンサイクロトロン共鳴(ICR)セルは、磁石の制御された磁場中で直列に配置される。複数のICRセルは、独立した質量分解及び検出装置として動作する。イオントラッピング装置は、より小さな質量パケットのうちの1つのパケットをICRセルのうちの1つのICRセルへ送る前に、より小さなパケットのうちの1つのパケットを格納するために、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置に動作可能なように接続する。
【0027】
本発明の別の態様によれば、複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(M/Z)の範囲を有する複数のイオンとなり、M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、複数のイオンから第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、第1のイオンのパケットを収集するステップと、第1のM/Zの部分的な範囲に応じた第1の飛行時間の遅延を用いて、第1のイオンのパケットを第1のICRセルへ移送するステップと、第1のイオンのパケットを移送するステップと同時に、複数のイオンから第2のM/Zの部分的な範囲を有する第2のイオンのパケットを前記ICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、第1のICRセルを用いて第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、第2のイオンのパケットを収集するステップと、第2のM/Zの部分的な範囲に応じた第2の飛行時間の遅延を用いて、第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、第2のICRセルを用いて第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップとを含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法が提供される。
【0028】
本発明の別の態様によれば、複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(M/Z)の範囲を有する複数のイオンとなり、M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、複数のイオンからの第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、第1のイオンのパケットを収集するステップと、第1のイオンのパケットを第1のICRセルまで移送するステップと、第1のイオンのパケットを移送するステップと同時に、前記ICR前の質量分離及びフィルタリングを使用して複数のイオンからのM/Zの部分的な範囲に関してMS/MSの動作を行うステップと、第1のICRセルを用いて第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、MS/MSの動作から生じる第2のイオンのパケットを収集するステップと、第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、第2のICRセルを用いて第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップとを含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法が提供される。
【0029】
添付図面を参照することにより、本発明及び例示した実施形態をより良く理解でき、本発明及び例示した実施形態の多数の目的、利点及び特徴は、当業者に明らかとなろう。図面において、同じ参照番号は、制限するものでなく、限定的なものである本発明の実施形態の様々な図の全てにわたって同じ部分に言及している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に本発明を実施するために発明者によって考えられる最良の形態を含む本発明のいくつかの具体的な実施形態に対して言及を詳細に行うことにする。これらの具体的な実施形態の例を添付図面に例示する。本発明をこれらの具体的な実施形態と共に説明するが、説明する実施形態に本発明を限定することを意図するものではないことは理解されよう。一方、添付の特許請求の範囲によって画定される本発明の精神及び範囲内に含まれ得る代替形態、修正形態及び均等形態を対象として含むことは意図される。以下の説明では、本発明の完全な理解を与えるために多数の具体的な詳細を説明する。本発明は、これらの具体的な詳細の一部又は全部なしで実施されてよい。他の例では、既知の作業工程は、本発明を不必要に曖昧にしないために詳細に説明されていない。
【0031】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他に示す場合を除き、複数形の言及を含む。別段の定めが無い限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する当技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
図3を参照すると、本発明の一実施形態によるFTMS機器300が概略的に示されている。イオン化源302、好ましくは外部イオン化源は、例えば複雑な生体試料などの試料をイオン化するために使用されるが、それに限定されない。様々なイオン源を用いるイオン化の方法は、質量分析法の文献の中で説明されたものであり、よく知られている。イオン化源の例には、化学イオン化(CI,chemical ionization)源、プラズマ及びグロー放電源、電子衝撃(EI,electron impact)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、高速原子衝撃(FAB,fast-atom bombardment)源、レーザイオン化(LIMS,laser ionization)源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI, matrix-assisted laser desorption ionization)源、プラズマ脱離イオン化(PD,plasma-desorption ionization)源、大気圧光イオン化源、共鳴イオン化(RIMS,resonance ionization)源、二次イオン(SIMS,secondary ionization)源、スパーク源、及び熱イオン化(TIMS,thermal ionization)源などが含まれるが、それに限定されない。全てのイオン源及び構成が、本発明のFTMS機器の中で使用できる。制限するものでない例として、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド又は八重極イオンガイドのイオンガイド304は、イオンをイオン源302からICR前の質量分離及びフィルタリング装置306へ移送するために使用される。加熱キャピラリ(図示せず)は、溶媒の脱溶媒和(solvent desolvation)を増大させるためにイオン源302とイオンガイド304の間に含まれてよい。ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、例えば線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極などの四重極装置であってよいが、それらに限定されない。イオントラッピング装置308は、あるM/Zの範囲中のイオンを収集するために制御装置322によってプログラムされてよい。イオントラッピング装置308は、例えば線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極などの四重極装置であってよいが、それらに限定されない。ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306及びイオントラッピング装置308は、同じタイプであってよい。イオンは、イオントラッピング装置308から第2のイオンガイド310を通って直列に配置される複数のICRセル312、314、316のうちの1つのICRセルに移送される。第2のイオンガイドは、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイド又は静電レンズシステムであってよい。ICRセルは、開放型円筒形タイプ、開放型立方体タイプ、ブルカー製インフィニティセル(Bruker Infinity cells)又はペニングトラップであってよい。ICRセルは、制御された磁場318の内側にあり、ICRセルそれぞれは、独立して分解動作及び検出動作できる。制御された磁場318は、FTMSの磁石320、好ましくは超伝導磁石によって与えられる。イオン源302、イオンガイド304及び310、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306、FTMSの磁石320及びICRセル312、314、316は、制御装置322によって制御されてよい。ICRセルによって生成されるデータは、分析装置324によって処理される。
【0033】
さらに図4を参照すると、動作中において、ステップ402で、複数の分子を含む複合試料は、FTICR分析計300のイオン源302の中に導入され、イオン源は分子をイオン化し、それにより幅広い範囲のM/Zの帯電、例えば50〜2000を有するイオンを生成する。ステップ404で、イオンは、RFだけのイオンガイド304を通ってICR前の質量分離及びフィルタリング装置306、例えば四重極装置へ移送される。ステップ406で、分離及びフィルタリング装置306は、好ましくは制御装置によって、典型的なM/Zの部分的な範囲が500〜2000であってよい、幅広い範囲の試料の第1のM/Zの部分的な範囲内に入らないイオン全てを取り除くように設定される。ステップ408で、イオントラッピング装置308は、第1の期間、例えば1.0秒の間イオンを収集するように設定される。ステップ410で、イオントラッピング装置308からのイオンは、第1のM/Zの部分的な範囲、上述の例では500〜2000に応じた飛行時間の遅延を用いてICRセルのうちの1つのICRセル、例えばICRセルC 316へ移送される。ステップ412で、分析装置324は、2048Kのデータ点の取得方法を用いて第1のM/Zの部分的な範囲、この例では500〜2000のイオンを分解及び検出するように設定される。500〜2000のM/Zの部分的な範囲の分析は、約3秒かかり得る。
【0034】
ステップ416で、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306の電子機器は、好ましくは制御装置322によって移送ステップ410と同時にステップ414として、第2のM/Zの部分的な範囲、例えば200〜500の内に入らないイオン全てを取り除くように設定される。ステップ418で、イオントラッピング装置308は、第2の期間の間にイオンを収集するように設定される。ステップ422で、イオントラッピング装置308からのイオンは次いで、第2のM/Zの部分的な範囲、例えば200〜500に応じた飛行時間の遅延を用いて第2のICRセル、例えばICRセルB 314へ移送される。ICRセルB 314は次いで、1024Kのデータ点の取得方法を用いて第2のM/Zの部分的な範囲、この例では200〜500のイオンを分解及び検出するように設定される。200〜500のM/Zの部分的な範囲の分析は、約2秒かかり得る。
【0035】
本発明の一実施形態では、セット426で、さらに移送ステップ422と同時にステップ420として、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、好ましくは制御装置322によって第3のM/Zの部分的な範囲、例えば50〜200の内に入らないイオン全てを取り除くように設定される。ステップ428で、イオントラッピング装置308は、第3の期間の間にイオンを収集するように設定される。ステップ430で、イオントラッピング装置308からのイオンは次いで、第3のM/Zの部分的な範囲、例えば50〜200に応じた飛行時間の遅延を用いて第3のICRセル、例えばICRセルA 312へ移送される。ICRセルA 312は次いで、512Kのデータ点の取得方法を用いて第3のM/Zの部分的な範囲、この例では50〜200のイオンを分解及び検出するように設定される。50〜200のM/Zの部分的な範囲及び分析は、約1秒かかり得る。
【0036】
図5は、500〜2000、200〜500及び50〜200の3つの部分的なM/Zの範囲をそれぞれ同時に分解及び検出するために、図3に例示される制御された磁場中において3つの独立したICRセルを用いるデューティサイクルの典型的な概略説明図である。
【0037】
開始後、502で、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、M/Zの部分的な範囲500〜2000に設定され、M/Zの部分的な範囲500〜2000中のイオンは、1000msの間にイオントラッピング装置308内で収集される。次いで504で、イオンパケットは、分解及び検出のためにICRセルC 316へ送られ、2メガワードのファイルが取得される。次いで506で、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、M/Zの部分的な範囲200〜500に設定され、M/Zの部分的な範囲200〜500内のイオンは、1000msの間にイオントラッピング装置308内で収集される。次いで508で、収集されたイオンパケットは、ICRセルB 314へ送られ、1メガワードのファイルが取得される。次いでICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、M/Zの部分的な範囲50〜200に設定され、次いでM/Zの部分的な範囲50〜200内のイオンは、1000msの間にイオントラッピング装置308内で収集される。次いで512で、収集されたイオンパケットは、ICRセルA 312へ送られ、512Kのファイルが取得される。514で、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置306は、M/Zの部分的な範囲500〜2000に、その部分的な範囲中のイオンを収集するために再び設定される。
【0038】
説明した本発明は、フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(FTMS)の高い分解能を使用して幅広いM/Zの範囲にわたって様々なM/Zを有する混合物内の全ての成分を分離する。磁石の磁場中に直列に配置された複数の独立したセルの使用は、異なるM/Zの範囲が異なるセルの中に連続的に送られることを可能にするものであり、それはイオン源から最も遠いセルから始まり、イオン源に最も近いセルで終わる。これにより、研究者がICRセル内の全部のM/Zの範囲をトラップしようと試みると生じる、飛行時間の影響を実質的になくす。FTMS内で異なるタスクを実行するために必要とされる、異なる量の時間を考慮すると、試験のデューティサイクルを、奥のセルの中で長い時間がかかるそれらのタスクを実行し、一方イオン源に最も近いセルの中で複数の短い持続期間の試験を行うことによって劇的に増大できる。各ICRセルは、独立して制御されるので、各ICRセルは全て、イオンの経路に接続されるが、互いからは分離されている。
【0039】
本発明は、磁石の制御された磁場中に直列に配置される複数のICRセルの組合せと、これらのイオンをICRセルへ送る前に関心のある質量範囲全体を特定の質量範囲をそれぞれ有するパケットの中に分割する能力とを利用する。次いで最長の時間がかかるFTMSの試験は、最も遠いICRセル中で実行され、最小の時間がかかるFTMSの試験は、最も近いICRセル中で実行される。そのような機器は、複合混合物の分析に対してFTMSの有用性を増大させる。
【0040】
一実施形態では、ICRセルは、最も遠いICRセルで始まり、最も近くで終わるこれらの質量パケットで満たされてよい。より低い質量は、より高い質量よりも分解能を必要としないということ、並びに分解能は、FTMSに関する時間及びファイル取得サイズの関数であることを利用し、まず奥のセルを高い質量で満たすことによって高い質量の高分解能分析が開始でき、一方、分析に時間のかからないより低い質量でより近いセルは満たされる。任意の質量範囲は、ICRセルのうちの任意の1つのICRセルへ移送できるが、したがって、最も高い質量を有する質量パケットは、最も遠いセルへ送られると共に、最も低い質量を有する質量パケットは、最も近くへ送られることが好ましい。この方式では、全ての試験は、最後は略同時に完了させることができ、それによりデューティサイクルの効率を増大させる。これにより、従来技術のFTMS機器構成で達成できない試料に関する高スループット能力を実現する。
【0041】
質量範囲全体にわたって高い質量分解能及び精度を有する、幅広い質量範囲を有するイオン化分子の複合混合物を分析するための今までにないFTMS−MSの方法及び装置を説明する。本発明の一実施形態によれば、今までにないFTICR−MSの方法及び装置は、直列に配置される複数のICRセルを利用し、これらのICRセルそれぞれは、異なる質量範囲を収集し、これにより所与の分析中に同時に収集及び検出できるイオンの全体の個数を増大させることになる。関心のある質量範囲全体をセグメントに分割することによって、各セグメントのダイナミックレンジは、全質量範囲が一括して測定された場合のダイナミックレンジより大きくなる。各質量セグメントは、パケット内の全てのM/ZがICRセル中に効率的にトラップできるように十分に小さい。したがって、飛行時間の影響は、かなり低減される。
【0042】
さらに、各セルは、独立して動作できるので、高分解能イオン分離及び多段階質量分析法(MSn,multiple mass spectrometry)の動作などのFTMSの動作において一般に実行されるセル動作の内の全てが可能である。例えば、時間のかかるMSn動作は、1つのICRセル中で、例えばICRセルC 316の中で実行される行われることができ、一方、比較的により速いフルスキャン動作は、異なるICRセル中で、例えばICRセルA 312の中で実行されることができる。
【0043】
本発明の別の実施形態では、様々なMS試験がICRセルの外側で実行されることができ、様々な試験から生じるイオンは、異なるICRセルへ送られる。例えば、質量パケット1は、例えばICR前の質量分離及びフィルタリング装置306の中で実行されるフルスキャン分析から生じる質量を含み得るのに対して、質量パケット2は、質量パケット1の中に含まれるイオンの全部又は分割部分のMSn分析から、又はさらに質量パケット1の部分でないイオンから生じる質量を含み得る。代替として、MSn分析は、様々な質量範囲に関して外部で実行されることができ、その結果は、分析のために異なるICRセルに送られる。これは、外部のMSn分析がFTMS分析よりも少ない時間で実行されることができるような特に時間節約の試験である。
【0044】
本発明の詳細な実施形態を示すと共に説明してきたが、変更及び修正が、本発明の本来の範囲から逸脱することなくそのような実施形態に対してなされてよい。
【0045】
排他的な権利又は特権が主張されている本発明の実施形態は、以下のように画定される。
(1)質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有するイオン化分子を受け取ることができるICR前の質量分離及びフィルタリング装置であって、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含み、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、前記M/Zの範囲を有する前記イオン化分子を複数のより小さなパケットに分割し、前記複数のより小さなパケットそれぞれが前記複数のM/Zの部分的な範囲の要素を有する、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置と、
制御された磁場を与える磁石と、
前記磁石の制御された磁場中で直列に配置される、独立して動作することができる複数のイオンサイクロトロン共鳴(以下、ICRという)セルと、
前記複数のより小さな質量パケットのうちの1つのパケットを前記複数のICRセルのうちの1つのICRセルへ送る前に、前記複数のより小さなパケットのうちの前記1つのパケットを格納するための、前記ICR前の質量分離及びフィルタリング装置に動作可能なように接続するイオントラッピング装置と
を備える、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法システム。
(2) イオン化源をさらに備える、上記(1)に記載のシステム。
(3) イオン化源からイオン化分子を受け取り、前記イオン化分子をICR前の質量分離及びフィルタリング装置へ引き渡すイオンガイドをさらに備える、上記(2)に記載のシステム。
(4) 複数のより小さなパケットのうちの1つのパケットをイオントラッピング装置から複数のICRセルのうちの1つのICRセルまで移送する第2のイオンガイドをさらに備える、上記(3)に記載のシステム。
(5) 外部イオン化源をさらに含んでおり、前記外部イオン化源が、化学イオン化(CI)源、プラズマ及びグロー放電源、電子衝撃(EI)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、高速原子衝撃(FAB)源、レーザイオン化(LIMS)源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源、プラズマ脱離イオン化(PD)源、大気圧光イオン化源、共鳴イオン化(RIMS)源、二次イオン(SIMS)源、スパーク源、及び熱イオン化(TIMS)源からなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(6) 磁石が超伝導磁石である、上記(1)に記載のシステム。
(7) ICRセルが、開放型円筒形タイプ、開放型立方体タイプ、ブルカー製インフィニティセル、ペニングトラップ、及びそれらの組合せからなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(8) ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極イオントラップからなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(9) イオントラッピング装置が、線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極イオントラップからなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(10) ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、飛行時間の原理に基づいている、上記(1)に記載のシステム。
(11) 第1のイオンガイドが、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイドからなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(12) 加熱キャピラリをイオン源と第1のイオンガイドとの間にさらに備える、上記(1)に記載のシステム。
(13) 第2のイオンガイドが、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイド及び静電レンズシステムからなる群から選択される、上記(1)に記載のシステム。
(14)
a)複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、
b)前記複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有する複数のイオンとなり、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、
c)前記複数のイオンからの第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
d)前記第1のイオンのパケットを収集するステップと、
e)前記第1のM/Zの部分的な範囲に応じた第1の飛行時間の遅延を用いて前記第1のイオンのパケットを第1のICRセルへ移送するステップと、
f)ステップ(e)の前記第1のイオンのパケットを前記移送するステップと同時に、前記複数のイオンから第2のM/Zの部分的な範囲を有する第2のイオンのパケットを前記ICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
g)前記第1のICRセルを用いて前記第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、
h)前記第2のイオンのパケットを収集するステップと、
i)前記第2のM/Zの部分的な範囲に応じた第2の飛行時間の遅延を用いて、前記第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、
j)前記第2のICRセルを用いて第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
を含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法。
(15)
k)ステップ(i)の第2のイオンのパケットを移送するステップと同時に、複数のイオンから第3のM/Zの部分的な範囲を有する第3のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
l)前記第3のイオンのパケットを収集するステップと、
m)前記第3のM/Zの部分的な範囲に応じた第3の飛行時間の遅延を用いて前記第3のイオンのパケットを第3のICRセルへ移送するステップと、
n)前記第3のICRセルを用いて前記第3のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
をさらに含む、上記(14)に記載の方法。
(16)
ICRセルが、直列に接続されると共に制御された磁場中にある、上記(14)に記載の方法。
(17)
第1のICRセルは、第2のICRセルよりもイオン化源から遠くに配置されており、第1のM/Zの部分的な範囲は、第2のM/Zの部分的な範囲より大きい、上記(14)に記載の方法。
(18)
イオン化源が、化学イオン化(CI)源、プラズマ及びグロー放電源、電子衝撃(EI)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、高速原子衝撃(FAB)源、レーザイオン化(LIMS)源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源、プラズマ脱離イオン化(PD)源、大気圧光イオン化源、共鳴イオン化(RIMS)源、二次イオン(SIMS)源、スパーク源、及び熱イオン化(TIMS)源からなる群から選択される、上記(14)に記載の方法。
(19)
ICRセルが、開放型円筒形タイプ、開放型立方体タイプ、ブルカー製インフィニティセル、ペニングトラップ及びそれらの組合せからなる群から選択される、上記(14)に記載の方法。
(20)
a)複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、
b)前記複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有する複数のイオンとなり、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、
c)前記複数のイオンからの第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
d)第1のイオンのパケットを収集するステップと、
e)前記第1のイオンのパケットを第1のICRセルまで移送するステップと、
f)ステップ(e)の前記第1のイオンのパケットを前記移送するステップと同時に、前記ICR前の質量分離及びフィルタリングを使用して前記複数のイオンからのM/Zの部分的な範囲に関してMS/MSの動作を実行するステップと、
g)前記第1のICRセルを用いて前記第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、
h)ステップ(f)の前記MS/MSの動作から生じる第2のイオンのパケットを収集するステップと、
i)前記第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、
j)前記第2のICRセルを用いて前記第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
を含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)イオントラップの概略説明図である。(b)入口及び終端ゲート電圧を用いたイオントラップの制御を例示する図である。
【図2】(a)(b)(c)イオントラップとICRセルの間の飛行時間の影響を例示する図である。
【図3】本発明の一実施形態によるFTICR−MS装置の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態によるFTICR−MSの方法のステップを表す図である。
【図5】本発明の一実施形態によるFTICR−MSの方法のステップの時間表を例示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有するイオン化分子を受け取ることができるICR前の質量分離及びフィルタリング装置であって、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含み、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、前記M/Zの範囲を有する前記イオン化分子を複数のより小さなパケットに分割し、前記複数のより小さなパケットそれぞれが前記複数のM/Zの部分的な範囲の要素を有する、ICR前の質量分離及びフィルタリング装置と、
制御された磁場を与える磁石と、
前記磁石の制御された磁場中で直列に配置される、独立して動作することができる複数のイオンサイクロトロン共鳴(以下、ICRという)セルと、
前記複数のより小さな質量パケットのうちの1つのパケットを前記複数のICRセルのうちの1つのICRセルへ送る前に、前記複数のより小さなパケットのうちの前記1つのパケットを格納するための、前記ICR前の質量分離及びフィルタリング装置に動作可能なように接続するイオントラッピング装置と
を備える、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法システム。
【請求項2】
イオン化源をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
イオン化源からイオン化分子を受け取り、前記イオン化分子をICR前の質量分離及びフィルタリング装置へ引き渡すイオンガイドをさらに備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
複数のより小さなパケットのうちの1つのパケットをイオントラッピング装置から複数のICRセルのうちの1つのICRセルまで移送する第2のイオンガイドをさらに備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
外部イオン化源をさらに含んでおり、前記外部イオン化源が、化学イオン化(CI)源、プラズマ及びグロー放電源、電子衝撃(EI)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、高速原子衝撃(FAB)源、レーザイオン化(LIMS)源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源、プラズマ脱離イオン化(PD)源、大気圧光イオン化源、共鳴イオン化(RIMS)源、二次イオン(SIMS)源、スパーク源、及び熱イオン化(TIMS)源からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
磁石が超伝導磁石である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
ICRセルが、開放型円筒形タイプ、開放型立方体タイプ、ブルカー製インフィニティセル、ペニングトラップ、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極イオントラップからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
イオントラッピング装置が、線形四重極、3−D四重極イオントラップ、2D四重極イオントラップからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ICR前の質量分離及びフィルタリング装置が、飛行時間の原理に基づいている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
第1のイオンガイドが、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイドからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
加熱キャピラリをイオン源と第1のイオンガイドとの間にさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
第2のイオンガイドが、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイド及び静電レンズシステムからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
a)複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、
b)前記複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有する複数のイオンとなり、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、
c)前記複数のイオンからの第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
d)前記第1のイオンのパケットを収集するステップと、
e)前記第1のM/Zの部分的な範囲に応じた第1の飛行時間の遅延を用いて前記第1のイオンのパケットを第1のICRセルへ移送するステップと、
f)ステップ(e)の前記第1のイオンのパケットを前記移送するステップと同時に、前記複数のイオンから第2のM/Zの部分的な範囲を有する第2のイオンのパケットを前記ICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
g)前記第1のICRセルを用いて前記第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、
h)前記第2のイオンのパケットを収集するステップと、
i)前記第2のM/Zの部分的な範囲に応じた第2の飛行時間の遅延を用いて、前記第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、
j)前記第2のICRセルを用いて第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
を含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法。
【請求項15】
k)ステップ(i)の第2のイオンのパケットを移送するステップと同時に、複数のイオンから第3のM/Zの部分的な範囲を有する第3のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
l)前記第3のイオンのパケットを収集するステップと、
m)前記第3のM/Zの部分的な範囲に応じた第3の飛行時間の遅延を用いて前記第3のイオンのパケットを第3のICRセルへ移送するステップと、
n)前記第3のICRセルを用いて前記第3のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ICRセルが、直列に接続されると共に制御された磁場中にある、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
第1のICRセルは、第2のICRセルよりもイオン化源から遠くに配置されており、第1のM/Zの部分的な範囲は、第2のM/Zの部分的な範囲より大きい、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
イオン化源が、化学イオン化(CI)源、プラズマ及びグロー放電源、電子衝撃(EI)源、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、高速原子衝撃(FAB)源、レーザイオン化(LIMS)源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源、プラズマ脱離イオン化(PD)源、大気圧光イオン化源、共鳴イオン化(RIMS)源、二次イオン(SIMS)源、スパーク源、及び熱イオン化(TIMS)源からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ICRセルが、開放型円筒形タイプ、開放型立方体タイプ、ブルカー製インフィニティセル、ペニングトラップ及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
a)複数の分子を有する試料を質量分析計のイオン化源の中に導入するステップと、
b)前記複数の分子をイオン化するステップであって、その結果、ある質量対電荷比(以下、M/Zという)の範囲を有する複数のイオンとなり、前記M/Zの範囲が複数のM/Zの部分的な範囲を含む、イオン化するステップと、
c)前記複数のイオンからの第1のM/Zの部分的な範囲を有する第1のイオンのパケットをICR前の質量分離及びフィルタリング装置を通って通過させるステップと、
d)第1のイオンのパケットを収集するステップと、
e)前記第1のイオンのパケットを第1のICRセルまで移送するステップと、
f)ステップ(e)の前記第1のイオンのパケットを前記移送するステップと同時に、前記ICR前の質量分離及びフィルタリングを使用して前記複数のイオンからのM/Zの部分的な範囲に関してMS/MSの動作を実行するステップと、
g)前記第1のICRセルを用いて前記第1のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと、
h)ステップ(f)の前記MS/MSの動作から生じる第2のイオンのパケットを収集するステップと、
i)前記第2のイオンのパケットを第2のICRセルへ移送するステップと、
j)前記第2のICRセルを用いて前記第2のイオンのパケット内に含まれるイオンを分解及び検出するステップと
を含む、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−508307(P2009−508307A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530289(P2008−530289)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001530
【国際公開番号】WO2007/030948
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】