説明

ブイ型レーダ装置及びブイ型レーダシステム

【課題】 山などの障害物や民家や放送局のある方向など、電波輻射が制限される領域においては、他の艦船搭載のレーダ装置や陸上に設置されたレーダ装置が存在せず、艦船搭載のレーダ装置だけでは目標を直接探知できない。
【解決手段】 海上にブイとして浮遊可能なブイ型レーダ装置を探知したい海域に設置する。ブイ型レーダ装置には自らの位置及び姿勢を検出する位置姿勢測定装置、レーダ装置の観測情報により生成した目標情報を登録する目標情報データベース、目標情報を艦船や他のブイ型レーダ装置に送受信する通信装置を備える。これによりブイ型レーダ装置は、海上に浮遊しながら目標の捜索、探知、追尾を行い、目標情報を通信装置により艦船等に伝達し、艦載搭載のレーダ装置では直接探知できない領域の目標が探知可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ装置に関するものであり、特に、海上における目標(例えば、他船舶、航空機等)の捜索、探知、追尾を行うレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置は山などの遮蔽物の裏側等、輻射した電波の届かない領域の目標を探知することができない。また民家や放送局の周辺等、電波輻射が禁止あるいは制限されている領域方向に存在する目標を探知することができない。このようにレーダ装置の覆域が制限される問題に対処するために、従来は、複数のレーダ装置で収集した目標情報を共有することで、レーダの覆域を相互補完するという方法が取られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−27668号公報(第3頁、第11〜12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、海上において艦船搭載のレーダ装置が目標を探知する場合には、探知したい領域の近くに他の情報共有可能なレーダ装置、例えば、他の艦船搭載のレーダ装置または陸上に設置されたレーダ装置が存在しないため、艦船搭載のレーダ装置の覆域が上記理由により制限された場合、覆域外の目標が探知できないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、艦船搭載レーダ装置の覆域外の目標を、他の艦船や陸上のレーダ装置を用いずに探知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るブイ型レーダ装置は、
電波の輻射により目標の捜索、探知、追尾を行うブイ型レーダ装置であって、
前記ブイ型レーダ装置の位置及び姿勢を検出する位置姿勢測定装置と、
電波の輻射により目標の捜索、探知、追尾を行うとともに、前記位置姿勢測定装置より出力される前記ブイ型レーダ装置の位置及び姿勢と電波の輻射により観測した前記目標の観測情報をもとに目標情報を出力するレーダ装置と、
前記レーダ装置が出力した目標情報、および、艦船または他のブイ型レーダ装置が送信した目標情報を登録する目標情報データベースと、
前記目標情報を前記艦船または前記他のブイ型レーダ装置と送受信する通信装置と、
海上に前記ブイ型レーダ装置をブイとして浮遊させるための浮力体と、
前記ブイ型レーダ装置が潮流によって移動することを防ぐ錨と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、自艦とブイ型レーダ装置間、またブイ型レーダ装置どうしの間で目標情報を共有することができる。従って、自艦は、自艦の覆域の外側、特に山の裏側や電波輻射が禁止されている民家や放送局の方向及びその周辺など、電波輻射が制限される領域に存在する目標情報の取得、及び目標の捜索、探知、追尾を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明による実施の形態1に係わるブイ型レーダ装置の運用概念図である。図1において、101は自艦、102は自艦の覆域、103は山、104は民家、105は放送局、106はブイ型レーダ装置、107はブイ型レーダ装置の覆域、108は自艦とブイ型レーダ装置の間の無線通信回線、109は他のブイ型レーダ装置、110はブイ型レーダ装置間の無線通信回線、111は陸地、である。
【0009】
ブイ型レーダ装置を用いた運用について、図1を参照しながら説明する。自艦101のレーダ装置において、自艦の覆域102は、例えば山103、民家104、放送局105に対して電波輻射を行わないように制限されている。ブイ型レーダ装置106は、自艦101に積載され設置ポイント近くまで搬送される。なお設置ポイントは、例えば、上記のような山103、民家104、放送局105に対して電波輻射を行わないように制限されている領域である。
【0010】
自艦101からの投下もしくは自艦101に搭載されたヘリコプター等による移送及び投下により、ブイ型レーダ装置106は所望の設置ポイントに設置され、設置ポイントに浮遊する。この場合、図2で後述するように、ブイ型レーダ装置106に錨を装備して、ブイ型レーダ装置106が潮流に流されるのを防ぐ。
【0011】
ブイ型レーダ装置106は、目標の観測等により生成した情報、例えば図3で後述するような目標情報リストを、自艦とブイ型レーダ装置の間の無線通信回線108を用いて自艦101に伝送する。電波が届かない等の理由により自艦101と直接無線通信できない他のブイ型レーダ装置109は、ブイ型レーダ装置間の無線通信回線110を用いて、ブイ型レーダ装置106を中継して目標情報リストの伝送を行う。
【0012】
なおブイ型レーダ装置106に搭載されたレーダ装置の出力は、通常、自艦101に搭載されたレーダ装置と比べて出力は小さい。よって、図1に示すようにブイ型レーダ装置の覆域107は自艦の覆域102に比べて小さい。
【0013】
図2は、この発明による実施の形態1に係わるブイ型レーダ装置の機能ブロック図である。図2において、図1と同じ構成については、同一の符号を用いている。またブイ型レーダ装置106は、浮力体201、錨202、位置姿勢測定装置203、レーダ装置204、目標情報データベース205、通信装置206により構成されている。
【0014】
また図3は、目標情報データベース205に登録される目標情報リストの一例である。この目標情報リストは、レーダ装置204が追尾している目標の位置情報、速度情報及び観測時刻情報で構成される。
【0015】
次に、実施の形態1の動作について、図2を参照しながら説明する。ブイ型レーダ装置106の浮力体201は、ブイ型レーダ装置106を海上に浮遊させるものである。またブイ型レーダ装置106の錨202は、ブイ型レーダ装置106を海上に浮遊させた場合、潮流により移動することを防ぐためのものである。浮力体201と錨202により、ブイ型レーダ装置106を海上に浮遊させつつ潮流により移動することなく、目標の捜索、探知、追尾を行う。
【0016】
まず位置姿勢測定装置203は、得られたブイ型レーダ装置106の位置姿勢情報をレーダ装置204に出力する。
【0017】
レーダ装置204は、目標を観測することにより得られる観測情報と位置姿勢測定装置203から出力された位置姿勢情報から図3に示す目標情報を生成し、目標情報データベース205に出力する。なお上記観測情報の例としては、レーダ装置204から見た目標の相対位置や相対速度や観測時刻である。上記観測情報と位置姿勢測定装置203より得られたブイ型レーダ装置106の位置姿勢情報より目標の位置や速度を求めて目標情報を生成する。
【0018】
目標情報データベース205は、レーダ装置204より出力された目標情報を、例えば図3に示す目標情報リストとして登録する。
【0019】
通信装置206は、目標情報データベース205に登録されている目標情報リストを、例えば、自艦101または他のブイ型レーダ装置109に送信する。また通信装置206は、自艦101や他のブイ型レーダ装置109より目標情報リストが送られてきた場合、目標情報データベース205に格納する。このようにして、自艦101とブイ型レーダ装置106と他のブイ型レーダ装置109とにおいて、目標情報を共有する。
【0020】
この実施の形態1によれば、自艦とブイ型レーダ装置間、またブイ型レーダ装置どうしの間で目標情報を共有することができる。従って、自艦101は、自艦の覆域102の外側、特に山103の裏側や電波輻射が禁止されている民家104や放送局105の方向及びその周辺など、電波輻射が制限される領域に存在する目標情報の取得、及び目標の捜索、探知、追尾を行うことができる。
【0021】
また、小型のレーダ装置を搭載したブイ型レーダ装置を複数個展開することにより、運用海域に適合した柔軟な領域を覆域とすることができる。
【0022】
さらに、1つのブイ型レーダ装置が故障しても他のブイ型レーダ装置を用いることで、継続して目標に対する捜索、探知、追尾を行うことが可能である。
【0023】
加えてレーダ装置を小型で低出力なものにすることで、ブイ型レーダ装置を小型、軽量化し、可搬性を向上させることができる。
【0024】
実施の形態2.
図4は、この発明による実施の形態2に係わるブイ型レーダ装置の機能ブロック図である。図4において、自艦101、ブイ型レーダ装置106、他のブイ型レーダ装置109、及び浮力体201から通信装置206までは図2と同じである。また図4において、401は電波輻射禁止範囲データベース、402は電波輻射禁止範囲計算部、403は目標存在判定装置、404はパッシブセンサ、である。
【0025】
図4において、通信装置206は電波輻射禁止範囲データベース401と接続され、電波輻射禁止範囲計算部402はレーダ装置204、電波輻射禁止範囲データベース401と接続され、目標存在判定装置403はレーダ装置204、パッシブセンサ404と接続する。またパッシブセンサ404は、光波、音響、電波等を検知するセンサである。
【0026】
また図5は、電波輻射禁止範囲データベース401に登録される電波輻射禁止範囲リストの一例である。この電波輻射禁止範囲リストは、電波輻射禁止範囲の中心位置、海面高度、半径からなる円筒形の領域のリストである。
【0027】
次に、実施の形態2の動作について、図4を参照しながら説明する。なお実施の形態1と同様の動作については、説明を省略する。通信装置206は自艦101から図5に示す電波輻射禁止範囲リストを受け取り、電波輻射禁止範囲データベース401に登録する。
【0028】
電波輻射禁止範囲計算部402は、電波輻射禁止範囲データベース401から電波輻射禁止範囲リストを取得し、ブイ型レーダ装置106の電波輻射方向を計算する。
【0029】
レーダ装置204は、電波輻射禁止範囲計算部402からブイ型レーダ装置106の電波輻射方向を取得し、その範囲内にのみ電波輻射を行う。
【0030】
また通信装置206は、自艦101と直接無線通信しない他のブイ型レーダ装置109に対して、電波輻射禁止範囲データベース401に格納されている電波輻射禁止範囲リストを送信する。通信装置206は、他のブイ型レーダ装置109から電波輻射禁止範囲リストを受信した時も、自艦101から受信した時と同様に処理を行い、計算された範囲内にのみ電波輻射を行う。
【0031】
また目標存在判定装置403は、パッシブセンサ404の入力を監視し、前回入力値との差分を取るなどの方法により、目標がブイ型レーダ装置の覆域107内に存在する可能性があるかを判定する。
【0032】
レーダ装置204は、目標存在判定装置403の判定結果が可能性ありとなった時から起動状態となり、一定時間電波輻射を行う。それ以外の時間において、追尾中の目標がない場合には、レーダ装置204は待機状態となり、電波輻射は行わない。
【0033】
この実施の形態2によれば、例えば、電波輻射禁止範囲の近くにブイ型レーダ装置106を配置して、電波輻射禁止範囲リストに従い電波輻射禁止範囲計算部402で計算した範囲内で電波輻射を行うため、電波輻射禁止範囲を正確に除外しつつ電波を輻射することができ、それにより艦船搭載レーダ装置では探知できない電波輻射禁止範囲の近くに存在する目標の探知を行うことができる。
【0034】
また、自艦101と直接無線通信しない他のブイ型レーダ装置109が、ブイ型レーダ装置106より電波輻射禁止範囲リストを受信することで、電波輻射禁止範囲に従い電波輻射禁止範囲計算部402で計算した範囲内で電波輻射を行うため、自艦101と直接通信できなくても電波輻射禁止範囲を正確に除外しつつ電波を輻射することができ、それにより艦船搭載レーダ装置では探知できない電波輻射禁止範囲近くに存在する目標の探知を行うことができる。
【0035】
また、パッシブセンサ404と目標存在判定装置403によって、目標が存在しないことが明らかな時にはレーダ装置204を待機状態にすることで、ブイ型レーダ装置106の消費電力を低減し、長時間運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明による実施の形態1に係わるブイ型レーダ装置の運用概念図である。
【図2】この発明による実施の形態1に係わるブイ型レーダ装置の機能ブロック図である。
【図3】この発明による実施の形態1に係わるブイ型レーダ装置の目標情報データベースに登録される目標情報リストの一例である。
【図4】この発明による実施の形態2に係わるブイ型レーダ装置の機能ブロック図である。
【図5】この発明による実施の形態2に係わるブイ型レーダ装置の電波輻射禁止範囲データベースに登録される電波輻射禁止範囲リストの一例である。
【符号の説明】
【0037】
101.自艦
102.自艦の覆域
103.山
104.民家
105.放送局
106.ブイ型レーダ装置
107.ブイ型レーダ装置の覆域
108.自艦とブイ型レーダ装置の間の無線通信回線
109.他のブイ型レーダ装置
110.ブイ型レーダ装置間の無線通信回線
111.陸地
201.浮力体
202.錨
203.位置姿勢測定装置
204.レーダ装置
205.目標情報データベース
206.通信装置
401.電波輻射禁止範囲データベース
402.電波輻射禁止範囲計算部
403.目標存在判定装置
404.パッシブセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の輻射により目標の捜索、探知、追尾を行うブイ型レーダ装置であって、
前記ブイ型レーダ装置の位置及び姿勢を検出する位置姿勢測定装置と、
電波の輻射により目標の捜索、探知、追尾を行うとともに、前記位置姿勢測定装置より出力される前記ブイ型レーダ装置の位置及び姿勢と電波の輻射により観測した前記目標の観測情報をもとに目標情報を出力するレーダ装置と、
前記レーダ装置が出力した目標情報、および、艦船または他のブイ型レーダ装置が送信した目標情報を登録する目標情報データベースと、
前記目標情報を前記艦船または前記他のブイ型レーダ装置と送受信する通信装置と、
海上に前記ブイ型レーダ装置をブイとして浮遊させるための浮力体と、
前記ブイ型レーダ装置が潮流によって移動することを防ぐ錨と、
を備えることを特徴とするブイ型レーダ装置。
【請求項2】
前記通信装置は、前記艦船または前記他のブイ型レーダ装置と電波輻射禁止範囲を送受信し、
前記通信装置より出力される前記電波輻射禁止範囲を登録するとともに、登録された電波輻射禁止範囲を出力する電波輻射禁止範囲データベースと、
前記電波輻射禁止範囲データベースから出力される電波輻射禁止範囲をもとに電波輻射方向を計算する電波輻射禁止範囲計算部と、
前記電波輻射禁止範囲計算部より出力された電波輻射方向に電波を輻射するレーダ装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のブイ型レーダ装置。
【請求項3】
パッシブセンサから出力される情報から目標の存在可能性を検出する目標存在判定装置と、
前記目標存在判定装置が前記目標の存在可能性を検出した場合には前記レーダ装置より一定期間電波を輻射して前記目標の捜索、探知、追尾を行い、前記目標の存在可能性を検出しない場合には前記レーダ装置は電波を輻射せず待機状態となるようにしたことを特徴とする請求項1記載のブイ型レーダ装置。
【請求項4】
前記艦船と複数の前記ブイ型レーダ装置を用いることで目標の捜索、探知、追尾を行うことを特徴とするブイ型レーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−224355(P2008−224355A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61618(P2007−61618)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】