説明

ブスバーのメッキ方法及びその装置

【課題】バスダクトに用いられる母線(アルミブスバー)に良好な導電性と防錆性を付与するためのメッキ方法及びその装置を提供する。
【解決手段】メッキ工程として、脱脂処理工程110、第1の洗浄工程120、エッチング工程130、第2の洗浄工程140、硝酸活性化工程150、第3の洗浄工程160、亜鉛メッキ工程170、第4の洗浄工程180、銅メッキ工程190、第5の洗浄工程200、錫メッキ工程210、および後処理工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、アルミニウムの長尺材からなる大容量配電線バスダクトに用いられるアルミニウム母材(ブスバー)に良好な通電性を付与すると共に防錆を施すブスバーのメッキ方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、アルミニウムが、導電性と、機械的強度と、質量とコストとのバランスが良好な金属であるが、アルミニウム自体が電気化学的に負の電位特性が非常に強いことから、アルミニウム表面上において金属に化学的置換が生じ易いこと、アルミニウム表面に酸化物の膜が自然形成され易いことが大きな問題となっていることが開示される。このため、コーティングされた電導体は、一般的に使用される錫/鉛はんだ合金に対するぬれ性が不十分であり、特に直径が非常に小さなアルミニウム基材(0.1mmのオーダ)の場合には、金属コーティングに対する付着状態がさらに悪く、この基材のぬれ性が特に低いレベルとなるという不具合があった。このため、この引用文献1で開示される電導体の製造方、表面前処理を施し、連続電気メッキによって少なくとも1つの金属層で被覆された少なくとも部分的にアルミニウムを基材とする中心コアからなる電導体を連続的に製造する方法であって、前記コアを、20℃〜60℃の温度において、KCN、CuCN、KCO及びKNaCを含む水性電解槽中にて電流の強さ1〜10A/dmで電気化学的に銅メッキする工程と、室温ですすぐ工程と、前記コアを、20℃〜60℃の温度において、実質的にメタンスルホン酸に溶解した錫と、任意添加物質とを含む水性電解槽中にて電流の強さ1〜100A/dmで電気化学的に錫メッキする工程と、60℃の水温ですすぐ工程とからなることを特徴とするものである。
【0003】
特許文献2は、エア撹拌を利用してシリンダをメッキ処理する電気メッキ装置を開示する。この特許文献2に開示される発明は、前記シリンダが、V型に配設した円筒形のシリンダ孔を設け、シリンダ孔の軸方向に対して平行に、一対の陽極棒を挿入しており、治具下台上には、断面が三角形の陽極支持台を凸設させ、陽極棒がシリンダ孔の中心軸に対して偏心して配置されることを特徴とするものであるが、メッキ槽内には、メッキ液にエアを供給するための配管が治具下台の下部まで延出され、配管にはエアを噴出する孔が複数個形成されていることが開示されている。
【0004】
特許文献3は、メッキ液の浄化処理と温度管理とが同一系統で行われ、便利で空間効率の良いメッキ液処理ユニットを提供するもので、このメッキ液処理ユニットが、メッキ槽のメッキ液を取り出し且つメッキ槽に戻すポンプと、メッキ槽から取り出されたメッキ液の温度を調節する温度調節手段と、前記メッキ液を浄化処理する浄化処理手段とを備えることを開示する。
【0005】
特許文献4は、ハンダ濡れ性及び電気伝導性が高く、酸化や変色、ウィスカの発生が抑制される表面処理アルミニウム板を開示する。この表面処理アルミニウム板は、アルミニウムからなる部材の少なくとも一方の面に、亜鉛、ニッケル、錫を順次メッキすることによってメッキ層を形成し、さらにメッキ層の表面を第三リン酸ソーダ溶液に浸漬又は散浴させることによって、メッキ層の表面全面に第三リン酸ソーダ溶液を付着させ、乾燥後にメッキ層の表面に、水系アクリル樹脂等からなる有機皮膜を形成させたものである。これによって、錫層の表面の不純物を除去し、ハンダ濡れ性や電気伝導率を向上させ、表面の酸化や変色を抑制すると共に、その表面にさらに有機皮膜を設けることによって、表面の酸化や変色を防止することができるものである。また、亜鉛層は、アルミニウム板に対して亜鉛置換メッキを行うことによって形成されることを開示する。
【0006】
特許文献5は、アルミニウムの電気メッキ方法を開示する。この方法は、特許文献5の図2に示されるように、取り付け、アルカリ性洗浄化溶液、濯ぎ、酸性洗浄化溶液、濯ぎ、非硝酸性ストリップ、濯ぎ、ジンケート処理、濯ぎ、アルカリ性Cuメッキ、濯ぎ、濯ぎ、ドライヤー、取り外しの各工程からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平8−511059号公報
【特許文献2】特開平9−87897号公報
【特許文献3】特開2005−126780号公報
【特許文献4】特開2006−291340号公報
【特許文献5】特表2007−523263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、テナントビルや工場などのように、場所による負荷の偏りがあったとしても余剰場所と不足場所のバランスを取ることができるという利点、さらに耐火性、耐震性に優れているという利点、電磁波の発生がほとんど無いという利点、リサイクルが容易であるという利点、電力の取り出し口を自由に選択できるという利点から、バスダクト電力幹線システムが導入される。このバスダクトには、内部にプレート若しくはブロック状のアルミニウム母材からなるブスバーが導電体として設けられ、このブスバーには導電性の向上及び防錆を保つためにメッキ処理を施す必要がある。
【0009】
このブスバーへのメッキ処理について、例えば上述した特許文献に開示される方法において実施することも可能であるが、作業性を向上させるために、メッキ作業を自動化することが要望される。しかしながら、ブスバーのような大型の被処理体をメッキする場合、従来の方法のままでシステムの大型化を図ったとしても、ブスバーのような大面積の材料に均一な密着性を付与することは不可能である。
【0010】
このため、この発明は、バスダクトに用いられる母線(ブスバー)に良好な導電性と防錆性を付与するためのブスバーの自動化されたメッキ方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、この発明に係るメッキ方法は、複数のアルミブスバーである被処理体の表面から油分を除去する脱脂処理工程と、脱脂処理後の前記被処理体から脱脂溶剤を除去するための第1の洗浄工程と、強アルカリ溶液によって被処理体表面の酸化物を除去するエッチング工程と、エッチング後の前記被処理体から強アルカリ溶液を除去するための第2の洗浄工程と、硝酸溶液によって前記被処理体の表面を活性化する硝酸活性化工程と、活性化後の前記被処理体から硝酸溶液を除去するための第3の洗浄工程と、前記被処理体の表面に亜鉛メッキを施す亜鉛メッキ工程と、亜鉛メッキされた表面を洗浄する第4の洗浄工程と、洗浄された被処理体の亜鉛メッキ表面に銅メッキを施す銅メッキ工程と、銅メッキされた表面を洗浄する第5の洗浄工程と、洗浄された被処理体の銅メッキ表面に錫メッキを施す錫メッキ工程と、錫メッキされた表面の後処理を行う後処理工程とを具備することにある。
【0012】
また、記第3,第4及び第5の洗浄工程は、洗浄水への浸漬工程と、洗浄水を噴霧するスプレー工程とによって構成されることものである。
【0013】
さらに、前記第3の洗浄工程において、洗浄液を撹拌することによって、前記亜鉛メッキ工程に移行する硝酸活性化後の被処理体の残留硝酸イオン濃度が所定値以下となるまで洗浄する。例えば、硝酸イオン濃度を80ppm以下となるまで洗浄するものである。さらに、前記第3の洗浄工程から、前記亜鉛メッキ工程までの被処理体の空気曝露時間を最小限に抑える。例えば、15秒以内にメッキ工程に移行する。さらにまた、前記亜鉛メッキ工程において、亜鉛置換液を均等に撹拌すると共に、アルミの溶解量が所定値以上とならないように制御する。亜鉛メッキ工程においては、メッキ反応においてアルミニウムの溶解量が増加していくことになるが、反応を常に良好な状態に維持するためには、アルミニウムの溶解量を、常に例えば5g/リットル以下に抑制するように、調整するものである。
【0014】
また、本願発明に係るメッキ装置は、複数のアルミブスバーである被処理体の表面から油分を除去するための脱脂用溶液が収容された脱脂処理槽と、脱脂処理後の前記被処理体から脱脂溶剤を除去するための第1の洗浄槽と、被処理体表面の酸化物を除去するための強アルカリ溶液が収容されるエッチング槽と、エッチング後の前記被処理体から強アルカリ溶液を除去するための第2の洗浄槽と、前記被処理体の表面を活性化するための硝酸溶液が収容される硝酸活性化槽と、活性化後の前記被処理体から硝酸溶液を除去するための第3の洗浄槽と、酸化物が除去されたアルミブスバーの表面に亜鉛の無電解メッキを施す亜鉛置換液が収容される亜鉛メッキ槽と、亜鉛メッキされた表面を洗浄する第4の洗浄槽と、亜鉛メッキが施された表面に、青化銅メッキを施すための銅メッキ溶液が収容された青化銅メッキ槽と、銅メッキされた表面を洗浄する第5の洗浄槽と、銅メッキが施された前記被処理体の表面に、錫メッキを施すための錫メッキ溶液が収容された錫メッキ槽と、錫メッキが施された前記被処理体の表面後処理を行う後処理槽群と、前記複数のアルミブスバーが設置されたメッキ治具を、それぞれの槽に順次浸漬させて移動させる移動手段とによって構成されることにある。
【0015】
また、前記硝酸活性化槽、前記第3の洗浄槽、及び前記亜鉛メッキ槽には、撹拌手段が設けられ、前記第3の洗浄槽、前記前記亜鉛メッキ槽、前記第4の洗浄槽、及び錫メッキ槽には、温度制御手段が設けられるものである。例えば液温が12℃〜17℃となるように制御されるものである。
【0016】
さらに、前記撹拌手段は、洗浄槽の下方に洗浄槽に沿って配置され、前記洗浄槽の鉛直方向に対して所定の角度で傾斜して下方に空気を噴出する空気噴出口が形成された少なくとも1本のパイプである。空気を所定の角度で下方に噴出することによって、槽内の液体にまんべんなく立ち上がる気泡を形成できるため、槽内の液体を均一に撹拌できるものである。
【0017】
また、前記撹拌手段は、槽内の溶液を槽の長手方向に向かって開口する複数の噴出口と、該複数の噴出口と対峙する位置に形成される複数の吸引口と、前記複数の噴出口と前記複数の吸引口とを接続するパイプ配管と、該配管上に設けられるポンプ手段とによって構成され、前記噴出口のそれぞれは、所定の角度で下方に延出するノズルを具備するものである。これによって、槽内に被処理体に沿った流れを形成できるので、槽内の液体を効率的に撹拌することができるものである。
【0018】
前記第2、第3及び第4の洗浄槽のそれぞれは、お互いに連通して洗浄水が移動する上流側槽と下流側槽とによって構成されると共に、前記複数の被処理体が設置されたメッキ治具が、最初に下流側槽に浸漬された後上流側槽に浸漬され、さらも上流側槽から引き上げられる時に、洗浄水が噴霧されるものである。
【発明の効果】
【0019】
本願発明のメッキ方法又はメッキ装置によれば、アルミニウムからなるバスダクトの母線(ブスバー)の表面に亜鉛メッキ、銅メッキ、錫メッキを施したことによって、亜鉛メッキを施すことによって銅メッキをアルミ表面に良好の付着させることができるため、銅メッキによる良好な通電性を確保でき、さらに錫メッキによる防錆効果及び良好な通電性を確保することができるものである。
【0020】
また、亜鉛メッキ、銅メッキ及び錫メッキの前に、洗浄水への二度の浸漬と洗浄水の噴霧による洗浄を行うことから、それぞれのメッキ槽への前溶液の持ち込みを防止することができるので、自動化によって、複数のブスバーに、順次亜鉛メッキ、銅メッキ及び錫メッキを施巣ことが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本願発明に係るメッキ装置の概略構成図である。
【図2】本願発明に係るメッキ方法のフローチャート図である。
【図3】水洗スプレー洗浄槽を示した説明図である。
【図4】二段式向流水洗槽を示した説明図である。
【図5】撹拌手段の一つであるエア撹拌機構を示した説明図である。
【図6】(a),(b)は撹拌手段の一つである液流撹拌機構を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本願発明は、アルミニウムの長尺材からなる大容量配電線バスダクトに用いられるアルミニウム母材(ブスバー)に良好な通電性を付与すると共に防錆を施すブスバーのメッキ方法及びその装置に関するものである。このため、アルミニウムの板材に強アルカリ(苛性ソーダ)と濃硝酸で表面の酸化物を取り除き活性化させる処理を行い、その表面に化学メッキである無電解亜鉛メッキを施す。さらに、亜鉛メッキした表面に電気メッキにより青化銅メッキを施す。この銅メッキを行う工程により、後工程の電気メッキの前処理としてだけでなく、良好な通電性を保つことができるものである。さらに、銅メッキの後、電気メッキにより酸性錫メッキを施す。これによって、防錆の効果だけでなく良好な通電特性を保持できるものである。
【0023】
上述したアルミブスバー(以下、被処理体)への亜鉛メッキ、銅メッキ及び錫メッキを自動化するにあたって、液温と濃度管理、さらに前処理を含む亜鉛メッキ工程の時間及び撹拌により均一化がポイントとなる。
【0024】
このため、本発明では、亜鉛メッキ工程の前後の液温と水洗を含む撹拌を行う。液温については、液温を12℃〜17℃の範囲内となるように、温度調整を行う。また、被処理体が板帯状であるため、各部位における洗浄やメッキ処理が均一となるように撹拌する。
【0025】
さらに、亜鉛置換液中へのアルミニウムの溶解量は経時的に増加していくが、基準値、例えば5g/リットル以下に抑制するように濃度コントロールを行う。これは、基準値を超えた場合若しくは近づいた場合に、槽内の亜鉛置換液を所定量排出し、新しい亜鉛置換液を所定量追加することによって達成できる。
【0026】
また、前処理工程中の活性化液に含まれる硝酸イオンを亜鉛置換液にいかに持ち込まないかが重要であり、このため亜鉛メッキ工程前において被処理体を十分に洗浄することが必要である。このため、本発明においては、水洗の撹拌と水洗液の管理において硝酸イオン濃度が80ppm以下に抑制することで達成している。
【0027】
さらに、被処理体を活性化した後は、被処理体の表面が酸化しやすい状態となっていることから、空中移動の時間を最小限(例えば15秒以下)に抑えるように被処理体の移動速度を制御し、被処理体の表面の酸化を抑制する。
【0028】
また、苛性ソーダと硝酸液は、定期的に更新される。更新の目安は、処理されたアルミニウムの量若しくは作業時間によって決定されることが望ましい。
【0029】
銅メッキに使用される銅ストライク液は、pH管理とフリーシアン濃度によって管理される。基本的に、pHは9.8〜10.5の範囲内、フリーシアン濃度は、1〜3g/リットルの範囲内となるように管理される。また、銅ストライク液において、先のメッキ工程から持ち込まれる亜鉛濃度が常に1g/リットル以下となるように管理される。尚、銅メッキに使用される電流密度も、所定範囲内(例えば0.5A/dm〜1.0A/dm)となるように管理される。
【0030】
以上の諸条件を管理することによって、自動的に被処理体に亜鉛メッキ、銅メッキ及び錫メッキを施し、良好にメッキされたブスバーを自動化により大量に得ることができるものである。
【実施例】
【0031】
本願発明に係るメッキ装置100は、例えば図1に示すもので、直線的に配置された複数の槽(2〜12,14〜22)と、この槽の両側に槽に沿って配置されるガイドレール41と、このガイドレール41に沿って移動するメッキ用治具40と、メッキ用治具40をガイドレール41に沿って移動させると共に、メッキ用治具40に装着された被処理体(図5に示されるA)を前記槽内の液体(洗浄水、メッキ溶液等)に浸漬するように上下に移動させる駆動機構33と、前記槽内に収容される液体の温度調節を行う温調機構31と、槽内に収容される液体の撹拌を行う撹拌手段32と、前記駆動機構33,温調機構31及び撹拌機構32、さらに電気メッキに使用される電力等の制御を行うコントロールユニット(C/U)30とによって構成される。
【0032】
図1に示される本願発明のメッキ装置100において、装着スペース1において複数のアルミブスバー長尺体(被処理体)Aを、メッキ用治具40に装着し、駆動機構33によって中間架台13を介して浸漬脱脂槽2に移動し、ここで図2のフローチャートで示す浸漬脱脂工程110が実行される。
【0033】
この浸漬脱脂槽2には、アルカリ系の溶液が収容されており、その中に前記被処理体Aを浸漬することによって被処理体Aの表面に付着した油汚れを除去する。そして、浸漬脱脂槽2から引き上げられた被処理体Aは、水洗スプレー槽3に移動する。
【0034】
この水洗スプレー槽3では第1の洗浄工程120が実行される。水洗スプレー槽3は、図3に示すように、槽70内に洗浄水80が収容されているもので、その長手方向の縁部76に沿って配置されたパイプ部77と、そのパイプ部77に沿って所定の間隔で設けられた噴射ノズル75とを具備する。これによって、第1の洗浄工程120では、被処理体Aを槽内の洗浄水80に浸漬して前記アルカリ系の溶液を排除すると共に、前記被処理体Aを引き上げる時に洗浄水を前記噴射ノズル75から噴射して前記被処理体Aを洗浄するものである。
【0035】
水洗スプレー槽3において洗浄された被処理体Aは、アルカリエッチング槽4に移動し、アルカリエッチング槽4に収容された強アルカリ溶液(例えば、苛性ソーダ溶液)に浸漬され、前記被処理体Aの表面のアルミニウム酸化物が除去される(アルカリエッチング工程130)。
【0036】
そして、表面処理された被処理体Aは、第2の洗浄工程140として、連続する水洗槽5及び水洗スプレー槽6に移動する。この水洗槽5及び水洗スプレー槽6は、2段式向流水洗方式である。この2段向流水洗方式は、例えば図4に示すように、槽70内に仕切壁73によって2つの槽、上流側槽82と下流側槽81とに区切られるが、上流側槽82と下流側槽81とは仕切壁73の下方の連通口84によってお互いに連通しており、上流側槽82の壁部71の上方に配される流入パイプ74から流入する洗浄水83は、上流側槽82から連通口84を介して下流側槽81に至り、下流側槽81の壁部72の上部からオーバーフローして汚水として処理される。また、仕切壁73の上部及び前記上流側槽82の壁部71の上部には、上述した水洗スプレー槽と同様に噴射ノズル75が設けられ、引き上げられる被処理体Aに洗浄水を噴射するようになっているものである。尚、50は、撹拌機構32の一部を構成するエア撹拌部である。
【0037】
以上の構成の水洗槽5及び水洗スプレー槽6に、表面が前記アルカリエッチング処理された被処理体Aは、水洗槽5に浸漬された後、水洗スプレー槽6に浸漬された後、スプレー洗浄される(第2の洗浄工程140)。これにより、次の硝酸浸漬槽7に持ち込まれる強アルカリ根を極限まで減少させることができるものである。
【0038】
第2の洗浄工程140において洗浄された被処理体Aは、硝酸浸漬槽7に浸漬され、表面が硝酸活性化される(硝酸浸漬工程150)。この硝酸活性化後、被処理体Aは、前述した2段式向流水洗方式である水洗槽8及び水洗スプレー槽9において同様の洗浄処理がなされる(第3の洗浄工程160)。この水洗槽8及び水洗スプレー槽9では、次の亜鉛置換(無電解亜鉛メッキ)槽への硝酸根の持ち込みを最小限にするために、温調機構31及び撹拌機構32によって洗浄水の水温を管理すると共に洗浄水の撹拌を行う。
【0039】
前記撹拌機構32は、例えば図5で示すエア撹拌機構及び図6(a),(b)でしめす液流撹拌機構からなる。エア撹拌機構50は、槽60の下方に、空気が供給される複数の空気パイプ51が槽60の長手方向に沿って平行に配されると共に、空気パイプ51の設けられた空気噴射口52から斜め下方且つ外方に向けて空気Bを噴射することによって、洗浄水又はメッキ溶液である液体61を撹拌すると共に例えばCで示す方向に流れを形成することによって、被処理体Aの表面に液体が均一に接触するようにするものである。
【0040】
また、図6(a),(b)で示す液体撹拌機構は、槽60内の液体61を複数の吸引口65から配管66を介して接続されたポンプ63の稼働によって吸引して複数の吹出口64から槽60内に吹き出すことによって液体を撹拌するものである。この撹拌装置32は、前記被処理体Aに沿って液体を流すように、吸引口65と吹出口64を長手方向に対向して設けるようにしたものであり、さらに吹出口64を所定の角度下方に傾斜したノズル67の先端に設けるようにしたことを特徴とするものである。槽9,10,11においては、前記エア撹拌機構50及び液流撹拌機構が実施される。
【0041】
これによって十分に洗浄された被処理体Aは、亜鉛置換槽10に収容された亜鉛置換液中に浸漬され、亜鉛メッキが施される(亜鉛置換工程170)。また、前記硝酸浸漬槽7から亜鉛置換槽10に至る間の空気曝露時間を、最小限にするように駆動機構33が制御される。その時間は15秒以下にすることで被処理体Aの酸化を抑制している。
【0042】
そして、亜鉛メッキが施された後の被処理体Aは、上述したのと同様に2段式向流水洗方式である水洗槽11及び水洗スプレー槽12において綿密に洗浄される。
【0043】
これら亜鉛置換工程170と、その前後の第3の洗浄工程160及び第4の洗浄工程180では液温管理と水洗を含む撹拌が実施される。このため、水洗槽8又は水洗スプレー槽9、亜鉛置換槽10、水洗槽11又は水洗スプレー槽12には温調機構31及び撹拌機構32が設けられるものである。
【0044】
前記第4の洗浄工程180の後、中間架台13を介して銅メッキ(青化銅メッキ)槽14に収容される銅ストライク液に浸漬され、所定量の電力が加えられて銅の電気メッキが施される(銅メッキ工程190)。この銅ストライク液については、pH管理とフリーシアン濃度管理、さらには亜鉛濃度管理、電流密度管理が実施される。pH管理では、銅ストライク液のpHが9.8〜10.5の範囲内、フリーシアン濃度管理では、フリーシアン濃度が1〜3g/リットルの範囲内、亜鉛濃度管理では亜鉛濃度が1g/リットル以下となるように、また電流密度管理では電流密度が0.5A/dm〜1.0A/dmの範囲内となるように管理される。
【0045】
銅メッキ工程190の後、被処理体Aは、上述した2段式向流水洗方式の水洗槽15及び水洗スプレー槽16に送られ洗浄される(第5の洗浄工程200)。そして十分に洗浄された後、錫メッキ槽17に送られ、錫メッキ槽17に収容された錫メッキ溶液に浸漬され、所定の電力が付与されて錫の電気メッキが施される(錫メッキ工程210)。この錫メッキ槽17には、温調機構31が設けられ、錫メッキ溶液の温度管理を行うものである。具体的には、アルカリ性錫メッキ溶液(例えば、錫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含む、又は錫酸カリウム、水酸化カリウム及び酢酸カリウムを含む)である場合には60℃〜80℃の高温となるように制御され、酸性錫メッキ溶液(例えば、硫酸第一錫及び硫酸を含む)である場合には、25℃前後となるように制御されるものである。
【0046】
そして、錫メッキされた被処理体Aは、回収槽18に送られ、回収槽18に収容された溶液(錫メッキ溶液の種類によって異なる)に浸漬されて付着した錫メッキ溶液を回収する(回収工程220)。その後、図3に示すような水洗スプレー槽19に移動し洗浄水に浸漬されると共に引き上げ時に洗浄水が噴霧されて十分に洗浄される(第6の洗浄工程230)。そして、中和槽20に送られ、中和槽20に収容される溶液で被処理体Aの表面を中和する(中和工程240)。この溶液は前記錫メッキ工程210において使用された溶液の種類に対応して決定される。そして、水洗スプレー槽21において最後の洗浄を行い(第7の洗浄工程250)、最後に湯洗槽22において被処理体Aを湯洗し、作業スペース1に戻って作業が完了するものである。
【0047】
以上の工程により、前記メッキ治具40に複数の被処理体Aを取り付けることができると共に、自動により順次それぞれの工程を行うことができるので、従来に比べて大量にメッキ処理が可能となるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 作業スペース
2 浸漬脱脂槽
3,6,9,12,16,19,21 水洗スプレー槽
4 アルカリエッチング槽
5,8,11,15 水洗槽
7 硝酸浸漬槽
10 亜鉛置換槽
13 中継架台
14 銅メッキ槽
17 錫メッキ槽
18 回収槽
20 中和槽
22 湯洗槽
30 コントロールユニット
31 温調機構
32 撹拌機構
33 駆動機構
40 メッキ用治具
50 エア撹拌機構
51 空気パイプ
52 空気噴射口
60 槽
61 液体
63 ポンプ
64 吹出口
65 吸引口
66 配管
67 ノズル
70 槽
71,72 壁部
73 仕切壁
74 流入パイプ
75 噴射ノズル
76 縁部
77 パイプ部
80 洗浄水
81 下流側槽
82 上流側槽
83 洗浄水
84 連通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミブスバーである被処理体の表面から油分を除去する脱脂処理工程と、
脱脂処理後の前記被処理体から脱脂溶剤を除去するための第1の洗浄工程と、
強アルカリ溶液によって被処理体表面の酸化物を除去するエッチング工程と、
エッチング後の前記被処理体から強アルカリ溶液を除去するための第2の洗浄工程と、
硝酸溶液によって前記被処理体の表面を活性化する硝酸活性化工程と、
活性化後の前記被処理体から硝酸溶液を除去するための第3の洗浄工程と、
前記被処理体の表面に亜鉛メッキを施す亜鉛メッキ工程と、
亜鉛メッキされた表面を洗浄する第4の洗浄工程と、
洗浄された被処理体の亜鉛メッキ表面に銅メッキを施す銅メッキ工程と、
銅メッキされた表面を洗浄する第5の洗浄工程と、
洗浄された被処理体の銅メッキ表面に錫メッキを施す錫メッキ工程と、
錫メッキされた表面の後処理を行う後処理工程とを具備することを特徴とするアルミブスバーのメッキ方法。
【請求項2】
前記第3,第4及び第5の洗浄工程は、洗浄水への浸漬工程と、洗浄水を噴霧するスプレー工程とによって構成されることを特徴とする請求項1記載のメッキ方法。
【請求項3】
前記第3の洗浄工程において、洗浄液を撹拌することによって、前記亜鉛メッキ工程に移行する硝酸活性化後の被処理体の残留硝酸イオン濃度が所定値以下となるまで洗浄することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミブスバーのメッキ方法。
【請求項4】
前記第3の洗浄工程から、前記亜鉛メッキ工程までの被処理体の空気曝露時間を最小限に抑えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアルミブスバーのメッキ方法。
【請求項5】
前記亜鉛メッキ工程において、亜鉛置換液を均等に撹拌すると共に、アルミの溶解量が所定値以上とならないように制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のアルミブスバーのメッキ方法。
【請求項6】
複数のアルミブスバーである被処理体の表面から油分を除去するための脱脂用溶液が収容された脱脂処理槽と、
脱脂処理後の前記被処理体から脱脂溶剤を除去するための第1の洗浄槽と、
被処理体表面の酸化物を除去するための強アルカリ溶液が収容されるエッチング槽と、
エッチング後の前記被処理体から強アルカリ溶液を除去するための第2の洗浄槽と、
前記被処理体の表面を活性化するための硝酸溶液が収容される硝酸活性化槽と、
活性化後の前記被処理体から硝酸溶液を除去するための第3の洗浄槽と、
酸化物が除去されたアルミブスバーの表面に亜鉛の無電解メッキを施す亜鉛置換液が収容される亜鉛メッキ槽と、
亜鉛メッキされた表面を洗浄する第4の洗浄槽と、
亜鉛メッキが施された表面に、青化銅メッキを施すための銅メッキ溶液が収容された青化銅メッキ槽と、
銅メッキされた表面を洗浄する第5の洗浄槽と、
銅メッキが施された前記被処理体の表面に、錫メッキを施すための錫メッキ溶液が収容された錫メッキ槽と、
錫メッキが施された前記被処理体の表面後処理を行う後処理槽群と、
前記複数のアルミブスバーが設置されたメッキ治具を、それぞれの槽に順次浸漬させて移動させる移動手段とによって構成されることを特徴とするメッキ装置。
【請求項7】
前記第3の洗浄槽、前記亜鉛メッキ槽及び第4の洗浄槽には、撹拌手段が設けられることを特徴とする請求項6記載のメッキ装置。
【請求項8】
前記第3の洗浄槽、前記前記亜鉛メッキ槽、前記第4の洗浄槽、及び錫メッキ槽には、温度制御手段が設けられることを特徴とする請求項6又は7記載のメッキ装置。
【請求項9】
前記撹拌手段は、洗浄槽の下方に洗浄槽に沿って配置され、前記洗浄槽の鉛直方向に対して所定の角度で傾斜して下方に空気を噴出する空気噴出口が形成された少なくとも1本のパイプからなる空気撹拌機構と、槽内の溶液を槽の長手方向に向かって開口する複数の噴出口と、該複数の噴出口と対峙する位置に形成される複数の吸引口と、前記複数の噴出口と前記複数の吸引口とを接続するパイプ配管と、該配管上に設けられるポンプ手段とによって構成され、前記噴出口のそれぞれは、所定の角度で下方に延出するノズルを具備する液流撹拌機構からなることを特徴とする請求項7又は8記載のメッキ装置。
【請求項10】
前記第2、第3及び第4の洗浄槽のそれぞれは、お互いに連通して洗浄水が移動する上流側槽と下流側槽とによって構成されると共に、前記複数の被処理体が設置されたメッキ治具が、最初に下流側槽に浸漬された後上流側槽に浸漬され、さらも上流側槽から引き上げられる時に、洗浄水が噴霧されることを特徴とすることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1つに記載のメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−285652(P2010−285652A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140066(P2009−140066)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509165633)横浜プレシジョン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】