説明

ブチルグラフト共重合体の新規な製造方法

【課題】相移送触媒をブチルエラストマーの変性に利用して、ハロブチルエラストマーからブチルゴムベースのグラフト共重合体を製造すること。
【解決手段】重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩溶液の存在下、相移送触媒を用いて、ハロブチルエラストマーからブチルゴムベースのグラフト共重合体を製造する。グラフト共重合体は、ブチル重合体(イソブテン−イソプレン共重合体)、及びポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリシラン、ポリシロキサン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリホスファゼン、ポリフェロセン又はそれらの混成物のような重合体基質で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、変性ハロゲン化ブチルエラストマーに関する。また本発明は、グラフト化したハロゲン化ブチルエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イソブチレンとイソプレンとのランダム共重合体であるブチルゴム(IIR)は、優れた熱安定性、耐オゾン性及び所望の緩衝特性を持つことで周知である。IIRは、工業的にはビヒクルとして塩化メチレン、重合開始剤としてフリーデル−クラフト触媒を用いるスラリー法で製造される。塩化メチレンは、比較的高価なフリーデル−クラフト触媒であるAlClが、イソブチレンとイソプレンとの共重合体と同様、塩化メチレンに可溶であるという利点がある。更に、ブチルゴム重合体は、塩化メチレンに不要で、溶液から微粒子として沈澱する。重合は、一般に約−90〜−100℃の温度で行われる。USP 2,356,128及びUllmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry,A23巻,1993年,288〜295頁参照。このように低い重合温度は、ゴムを利用する際、十分な高分子量を得るために必要である。
【0003】
通常、工業用グレードのIIRは、約2モル%の不飽和水準を有する。この不飽和度は、材料の安定性と同等であるが、これら重合体の硬化反応性も制限する。IIRにあるイソプレン単位を元素状塩素又は臭素のいずれかで後重合ハロゲン化すると、クロロブチルゴム(CIIR)又はブロモブチルゴム(BIIR)が単離される。これらの材料は、硬化速度を著しく高める非常に反応性のあるハロゲン化アリル(allylic halide)部位を持っている。
【0004】
同時係属カナダ特許出願CA 2,386,098、CA 2,383,474、CA 2,368,363、CA 2,418,822、CA 2,465,301及びCA 2,471,006は、アミン−及びホスフィン−ベースの求核性置換反応によりハロブチルゴムに存在するハロゲン化アリル官能価を利用する能力を開示している。得られた置換ハロブチルゴムは、シリカ系充填剤との相互作用水準を高めると共に、シリカ強化配合物中にうまく取込むことができる。
【0005】
求核性置換は、中性のアミン及びホスフィンにより、極めて容易に起こるが、酸素又は硫黄系求核試薬による同様な反応は、遥かに困難である。酸素又は硫黄系求核試薬を使用すると、相当するアニオン性求核試薬を生成するには、アルカリ金属水酸化物のような強酸の存在を必要とすることが多い。たとえ脱プロトン化酸素(又は硫黄)求核試薬が所要の求核性水準を持っていても、そのイオン性能がBIIRのような非極性重合体母材への溶解性を制限する。したがって、このような反応を容易にするため、中間極性の溶剤(例えばTHF、ジクロロメタン)を使用することが多い。
【0006】
通常、相移送触媒(PTC)に対しては、求核試薬のアルカリ金属塩及び反応性基質を含む溶液にテトラ−ブチルアンモニウムブロミド又はトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat(登録商標)336)のような相移送触媒の触媒量を導入する。テトラブチルアンモニウム又はトリオクチルメチルアンモニウムの何れかの対イオンに対しアルカリ金属カチオンを交換すると、求核試薬の溶解したゴム相への溶解性が増大し、最終的に求核性置換反応の効率が向上する。例えばDehmlow,E.V.;Dehmlow,S.S. Monographs in Modern Chemistry No 11:Phase Transfer Catalysts,2nd ed.;Verlag Chimie:Germany,1983. Frechet,J.M.J.;de Smet,M.D.;Farrall,M.J.,J.Org.Chem.1979,44,1774−1779;b)Frechet,J.M.J.,J.Macromol.Sci−Chem.1981,A15,877−890. Nishikubo,T.;Izawa,T.;Kovayashi,K.;Masuda,Y.;Okawara,M.,Macromolecules 1983,16,722−727参照。
【特許文献1】USP 2,356,128
【特許文献2】CA 2,386,098
【特許文献3】CA 2,383,474
【特許文献4】CA 2,368,363
【特許文献5】CA 2,418,822
【特許文献6】CA 2,465,301
【特許文献7】CA 2,471,006
【非特許文献1】Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry,A23巻,1993年,288〜295頁
【非特許文献2】Dehmlow,E.V.;Dehmlow,S.S.,Monographs in Modern Chemistry No 11:Phase Transfer Catalysts,2nd ed.;Verlag Chimie:Germany,1983
【非特許文献3】Frechet,J.M.J.;de Smet,M.D.;Farrall,M.J.,J.Org.Chem.1979,44,1774−1779
【非特許文献4】Frechet,J.M.J.J.,Macromol.Sci−Chem.1981,A15,877−890
【非特許文献5】Nishikubo,T.;Izawa,T.;Kovayashi,K.;Masuda,Y.;Okawara,M.,Macromolecules 1983,16,722−727
【非特許文献6】Parent,J.S.,Thom,D.J.,White,G.,Whitney,R.A.及びHopkins,W.,J.,Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,29,2019−2026,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
相移送触媒がブチルエラストマーの変性に使用できることが今回、意外にも発見された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ハロブチルエラストマーの溶液を、重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩溶液の存在下に相移送触媒と混合する工程を含むハロブチルエラストマーの変性方法も提供する。
【0009】
本発明の他の一態様は、ブチルエラストマーのハロゲン化アリル部位の求核性交換により製造したブチルエラストマーグラフト共重合体を提供する。
【0010】
図面の簡単な説明
図1は、ハロブチルゴムに存在するハロゲン化アリル官能価の酸素ベース求核試薬のNa又はK塩による求核性置換を示す。
【0011】
発明の詳細な説明
ここで使用した語句“ハロブチルエラストマー”とは、塩素化及び/又は臭素化ブチルエラストマーを言う。臭素化ブチルエラストマーが好ましく、本発明では、このようなブロモブチルエラストマーを一例として説明する。
【0012】
したがって、本発明を実施するのに好適に使用されるハロブチルエラストマーとしては、限定されるものではないが、臭素化ブチルエラストマーがある。この種のエラストマーは、ブチルゴム(イソブチレンのような少なくとも1種のイソオレフィン及び通常、C〜C共役ジオレフィンである少なくとも1種のコモノマー、好ましくはイソプレンから誘導された繰返し単位を有する共重合体)の臭素化により得られる。しかし、共役ジオレフィン以外のコモノマーも使用でき、C−〜C−アルキル置換スチレンのようなアルキル置換ビニル芳香族コモノマーが挙げられる。市販品として入手できるこの種のエラストマーの一例は、コモノマーがp−メチルスチレンである臭素化イソブチレンメチルスチレン強集合体(BIMS)である。
【0013】
臭素化ブチルエラストマーは、通常、ジオレフィン、好ましくはイソプレンから誘導された繰返し単位を約1〜約3重量%の範囲、及びイソオレフィン、好ましくはイソブチレンから誘導された繰返し単位を約97〜約99重量%の範囲(以上は、重合体の炭化水素含有量に対し)、及び臭素を約1〜約4重量%の範囲(ブロモブチル重合体に対し)含有する。通常のブロモブチル重合体の分子量は、ムーニー粘度(ML 1+8(125℃で))で表現して、約28〜約55の範囲である。
【0014】
本発明で使用される臭素化ブチルエラストマーは、イソプレンのようなジオレフィンから誘導された繰返し単位を約1〜約5重量%の範囲、イソブチレンのようなイソオレフィンから誘導された繰返し単位を約95〜約99重量%の範囲(以上は、重合体の炭化水素含有量に対し)、及び臭素を約0.5〜約10重量%、好ましくは約0.75〜約2.3重量%の範囲(臭素化ブチル重合体に対し)含有する。
【0015】
臭素化ブチルエラストマーには、安定剤を添加してよい。好適な安定剤としては、ステアリン酸カルシウム及びエポキシ化大豆油があり、好ましくは、臭素化ブチルゴム100重量部当り約0.5〜約5部使用される。好適な臭素化ブチルエラストマーの例としては、LANXESS Inc.(Sarnia,Ontario,カナダ)から市販されているLANXESS(登録商標)Bromobutyl 2030(商標)、LANXESS(登録商標)Bromobutyl 2040(BB2040)(商標)及びLANXESS(登録商標)Bromobutyl X2(商標)がある。LANXESS(登録商標)BB2040は、ムーニー粘度(ASTM法D52−89によるRPML 1+8@125℃)39±4、臭素含有量2.0±0.3重量%、概略重量分子量約500,000g/モルのものである。
【0016】
本発明方法で使用される臭素化ブチルエラストマーは、臭素化ブチルゴムと共役ジオレフィンベースのポリマーとのグラフト共重合体であってもよい。同時係属カナダ特許出願2,279,085(2001年1月29公開)は、固体臭素化ブチルゴムを、若干のC−S−(S)−C(但し、nは1〜7の整数である)結合も有する共役ジオレフィンモノマーをベースとする固体ポリマーと混合することによるグラフト共重合体の製造方法に向けたものである。混合は、50℃を超える温度でグラフト化を生じるのに十分な時間行う。グラフト共重合体のブロモブチルエラストマーは、前述のエラストマーのいずれでもよい。グラフト共重合体に取り込める共役ジオレフィンは、一般に構造式:
【化1】

を有する。
【0017】
式中、Rは、水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R及びR11は、同一でも異なっていてもよく、水素原子及び炭素原子数1〜4のアルキル基から選ばれる。好適な共役ジオレフィンの非限定的な幾つかの例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。炭素原子数4〜8の共役ジオレフィンモノマーが好ましく、1,3−ブタジエン及びイソプレンが更に好ましい。
【0018】
共役ジエンモノマーベースのポリマーは、ホモポリマーでも、2種以上の共役ジエンモノマーの共重合体でも、或いはビニル芳香族モノマーとの共重合体でもよい。
任意に使用できるビニル芳香族モノマーは、使用される共役ジオレフィンモノマーと共重合可能であるように選択される。一般に、有機アルカリ金属開始剤で重合することが知られている、いずれのビニル芳香族モノマーも使用できる。このようなビニル芳香族モノマーは、通常、炭素原子数8〜20、好ましくは8〜14の範囲のものである。共重合可能なビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンを含む各種アルキルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−ビニルトルエン等が挙げられる。スチレンは、1,3−ブタジエン単独との共重合用又は1,3−ブタジエン及びイソプレンの両方との三元共重合用に好ましい。当業者ならば、イソオレフィン及びジオレフィンに対する所定範囲は、合計100%に調節する必要があることは明らかである。
【0019】
本発明では、ハロブチルエラストマーの溶液は、相移送触媒を供給し、重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩の溶液と合体される。好適なアルカリ金属塩としては、重合体基質に結合した、例えばヒドロキシル、カルボン酸又はチオール官能価のNa又はK塩が挙げられる。
【0020】
好適な重合体基質としては、線状又は分岐状の有機、無機又は有機金属の重合体種又はそれらの混成物が挙げられる。これら重合体基質のヒドロキシル、カルボン酸又はチオール官能価による機能化は、普通の有機及び無機合成方法学を用いて達成できる。重合体種としては、限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリシラン、ポリシロキサン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリホスファゼン、ポリフェロセン又はそれらの混成物が挙げられる。
【0021】
好適な相移送触媒としては、テトラ−ブチルアンモニウムブロミド又はトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat(登録商標)336)がある。
得られた溶液は、約0.1〜12時間、更に好ましくは約0.5〜8時間、なお更に好ましくは約2〜4時間混合する。混合は、約0℃〜約150℃、好ましくは約25℃〜約125℃、更に好ましくは約50℃〜約100℃の範囲の温度で行われる。混合は、約0.1〜5気圧、更に好ましくは約0.5〜3気圧、なお更に好ましくは約1〜2気圧の範囲の圧力で行われる。混合は、好適には連続式又はバッチ式混合器で行われ、混合器への成分の添加順序は、重要ではない。
【0022】
重合体結合酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩は、各重合体鎖中をランダムに分布できる。好ましくは重合体結合酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩は、重合体基質の鎖端部に位置する。更に好ましくは重合体結合酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩は、1つの鎖端部に位置する。重合体結合酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩の量は、このシステムに存在するハロゲン化アリル(ハロブチルエラストマーに結合)の合計モル量に対し、0.1〜10モル当量、更に好ましくは0.5〜5モル当量、なお更に好ましくは1〜3モル当量の範囲の量で存在する。
本発明を以下の実施例で更に説明する。
【実施例】
【0023】
材料
臭素化2,2,4,8,8−ペンタメチル−4−ノネン(BPMN)を前述のようにして製造した(Parent,J.S.,Thom,D.J.,White,G.,Whitney,R.A.及びHopkins,W.,J.,Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,29,2019−2026,2001参照)。Sigma−Aldrich(Oakville,Ontario)から以下の試薬:ポリカプロラクトン(Mn〜10,000)、モノアルコール末端ポリエチレン(Mn=700)、無水マレイン酸(99%)、テトラブチルアンモニウムブロミド(98%)及び水酸化カリウム(99%)を受領した。Alfa Aesarからポリエチレンオキシドモノメチルエーテル(Mn=5000)を得た。LANXESS Inc.(Sarnia,Ontario,カナダ)により供給されたBIIR(BB2030)を使用した。以下の方法でモノカルボキシ末端ポリブタジエン(シス型、Mw〜8000)を製造した。1Lガラス瓶に、乾燥し脱ガスしたヘキサン170gを窒素環境下で入れた。これに1,3−ブタジエン30gを瓶内に加圧して入れた。ヘキサン中sec−BuLiの1.4モル溶液4.3ml及びテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)10mlを添加して、重合を開始させた。重合を30℃で5.5時間続け、この時点で瓶をCOガスで20psiに加圧した。更に20分後、この重合瓶にメタノール性HCl(MeOH中、HCl 10重量%)20mlを添加した。溶液を10分間撹拌した後、重合体溶液を脱イオン水 3×500mlアリコートで洗浄した。有機相をNaHCOで乾燥した。蒸発により、カルボン酸末端BRが単離された。収量(14.63g、48.8%)。FT−IR分析:1639cm−1(C=O)。
【0024】
準備
テトラメチルシランに対してppmで示される化学シフト(δ)付きBruker AM400計を用いてCDCl又はd−トルエン中でNMRスペクトルを記録した。Nicolet Avatar ESP 360計を用い解像度4cm−1でフーリエ変換赤外スペクトルを溶剤注型フィルムとして得た。示差走査熱量測定(DSC)を用いて、このグラフト重合体の熱転移を検討した。サンプル(5〜10mg)を含むアルミニウム製るつぼに対し、液体窒素冷却システム付きのDSCQ100(TA計器)又はDSC 220U(セイコー計器)で加熱−冷却サイクル(10℃/分で)を行った。熱の流れを時間の関数として記録し、得られたサーモグラムをTA Universal Analysisソフトウエアで分析した。Styragel HR5、HR4、 HR3、HR1及びHR0.5カラムを備え、媒体溶剤としてトルエンを蒸留するWaters 2960分離モジュール中、又は515HPLCポンプ、410示差屈折計、Waters 464示差吸光度検出器及び6個のStyragelカラムを備えたWaters Associates GPCシステム中、35℃で流速0.5ml/分のTHFを用いて、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)分析を行った。
【0025】
実施例1:BPMN−BRカップリング
カルボキシル化ポリブタジエン(1.5g、〜0.18ミリモル)、KOH(0.02g、0.35ミリモル)及びn−BuNBR(0.1g、0.31ミリモル)をキシレン(5ml)中で配合した。BPMN(50mg、0.18ミリモル)の添加前に、混合物を1〜2分間室温で撹拌した。フラスコを密封し、窒素を裏詰めし、100℃で1.5時間加熱した。反応生成物を濾過し、揮発成分をKugelrhor蒸留(圧力=0.6mmHg、温度=60℃、時間=30分)で除去して、黄色残査を得た。FT−IR分析:1736cm−1(C=O)。H NMR(CDCl)分析;内部(endo)異性体1に対する測定値:H NMR(CDCl):δ4.59(s,−CHOC(O)−)。内部異性体2に対する測定値:H NMR(CDCl):δ4.51(s,−CHOC(O)−)。
【0026】
実施例2:BPMN−PCLカップリング
ポリカプロラクトン(1g、〜0.025ミリモル)、KOH(4mg、0.07ミリモル)及びn−BuNBR(8mg、0.025ミリモル)をトルエン(5ml)中で配合した。BPMN(100mg、0.36ミリモル)の添加前に、混合物を2分間室温で撹拌し、次いで85℃で3時間加熱した。反応生成物を濾過し、揮発成分をKugelrhor蒸留(圧力=0.6mmHg、温度=100℃、時間=45分)で除去して、黄色残査を得た。H NMR(CDCl)分析; 内部異性体1に対する測定値:δ4.44(s,−CHOC(O)−)、5.47(t,H−C=)。内部異性体2に対する測定値:δ4.52(s,−CHOC(O)−)、5.34(t,H−C=)。
【0027】
実施例3:BIIR−BRカップリング
全ての試薬の取扱い及び反応は窒素雰囲気下で行った。精製BIIR(6g)を室温でトルエン(100ml)に溶解した。モノカルボキシル化ポリブタジエン(10g)をトルエン(25ml)に溶解し、KOH(0.07g、1.25ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.38g、1.18ミリモル)で処理した後、BIIR溶液に添加した。混合物を暗所中、95℃で4時間撹拌した。反応の進行を検討するため、注射器でアリコート(2ml)を異なる時間間隔で収集した。重合体をアセトン(10ml)による沈澱で単離し、真空乾燥した。この精製中、BRグラフトの酸化分解を防止するため、BHT(0.01g)を添加した。未精製サンプルのH NMRスペクトルを統合すると、以下の生成物について相対濃度が得られた。δ=4.32ppm(外部(exo)BPMNに類似、1H,t)、δ=4.10〜4.00ppm(内部BPMNに類似、2H,s)、δ=4.65〜4.43ppm(内部異性体BPMN−BRに類似、2H,s)。
【0028】
実施例4:BIIR−PCLカップリング
BIIR(120ml中5.2g)及びポリカプロラクトン(25ml中10g)のトルエン溶液をKOH(0.06g、1ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.33g、1ミリモル)の添加前に、室温で配合した。混合物を95℃で6時間撹拌した。注射器でアリコート(3ml)を異なる時間間隔で収集した。重合体を単離するため、溶剤を回転蒸発により除去し、残査を室温下、アセトン(2×,15ml)で洗浄した。アセトン可溶相中の未反応PCLだけの存在をH NMR分光分析により確認した。H NMRスペクトルを統合すると、以下の生成物について相対濃度が得られた。δ=5.02ppm(外部BPMNに類似、1H,s)、δ=4.10〜4.00ppm(内部BPMNに類似、2H,s)、δ=4.60〜4.44ppm(内部異性体PCL−BPMNに類似、2H,s)及びδ=5.96〜5.90ppm(2に類似、2H,d)。
【0029】
実施例5:BIIR−マレイン酸モノヘキシル
精製BIIR(10ml中、0.5g)のトルエン溶液に、過剰のマレイン酸モノヘキシル(0.04g、0.2ミリモル;Appendix B1)を添加した。次いで混合物をKOH(0.01g、0.2ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.06g、0.2ミリモル)で処理し、100℃に加熱し、次いで60分間撹拌した。反応生成物を、トルエンからアセトン(2×)への連続沈澱により単離、精製し、真空乾燥した。FT−IR分析:1732cm−1(C=O)。H NMR(CDCl)分析:δ=4.68(s,−CHOC(O)−,異性体1)、5.39(t,H−C=,異性体1)、4.60(s,−CHOC(O)−,異性体2)、5.53(t,H−C=,異性体2)、4.15(t,−(O)CO−CHR−,両異性体)、6.20(s,−CH=CH−,両異性体)、H NMR(d−トルエン)分析:δ=4.92(s,−CHOC(O)−,異性体1)、5.55(t,H−C=,異性体1)、4.86(s,−CHOC(O)−,異性体2)、5.69(t,H−C=,異性体2)、4.12(t,−(O)CO−CHR−,両異性体)、6.84(m,−CH=CH−,両異性体)。
【0030】
実施例6:BIIR−PCLカップリング(無水マレイン酸法)
BIIR(10ml中、0.5g)及びMAn−ポリカプロラクトン(10ml中、0.5g)を、KOH(0.01g、0.18ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.03g、0.1ミリモル)の添加前に、室温で配合した。混合物を80℃で2時間撹拌した。アリコート(0.5ml)を異なる時間間隔で収集した。重合体を単離するため、溶剤を蒸発させ、残査を室温下、アセトン(2×,15ml)で洗浄した。アセトン可溶相中の未反応MAn−ポリカプロラクトンだけの存在をH NMR分光分析により確認した。H NMRスペクトル(CDCl)を統合すると、以下の生成物について相対濃度が得られた。δ=5.02ppm(外部BPMNに類似、1H,s)、δ=4.10〜4.00ppm(内部BPMNに類似、2H,s)、δ=4.68ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルの内部異性体1に類似、2H,s)、δ=6.84ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルのオレフィン性プロトンに類似、2H,s)、及びδ=5.96〜5.90ppm(2に類似、2H,d)。
【0031】
実施例7:マレイン酸末端PE
MAnとヒドロキシ末端PE(又はPEO)とのキシレン混合物を115〜120℃で少なくとも4時間激しく混合した。次いで溶剤を蒸発させ、重合体をKugelrhor蒸留(圧力=0.6mmHg、温度=80℃、時間=60分)で精製した。末端マレイン酸官能価が20〜60%形成されたことがFTIR及びH NMRにより確認された。
【0032】
実施例8:BIIR−PEカップリング(無水マレイン酸法)
BIIR(0.5g、臭素化アリル部位0.1ミリモル)を室温でトルエン(10ml)に溶解した。この溶液に、モノマレイン酸末端ポリエチレン(0.08g,臭素化アリル部位に対し1当量)、KOH(0.005g、0.09ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.03g、0.09ミリモル)を添加した。混合物を一夜90℃で撹拌した。スペクトル分析及び熱特性測定を行う前に、重合体含有混合物のアリコートをアセトン(10ml)に溶解し、真空乾燥した。FT−IR分析:1732cm−1(C=O、エステル)。未精製サンプルのH NMR(d−トルエン)スペクトルを統合すると、以下の生成物について相対濃度が得られた。δ=5.07ppm(外部BPMNに類似、1H,s)、δ=4.08〜4.00ppm(内部BPMNに類似、2H,s)、δ=4.93ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルの内部異性体1に類似、2H,s)、δ=5.93〜5.80ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルの内部異性体1に類似、2H,m)。
【0033】
実施例9:マレイン酸末端PEO
MAnとPEOとのトルエン混合物を80℃で少なくとも4時間激しく混合した。次いで溶剤を蒸発させ、重合体をKugelrhor蒸留(圧力=0.6mmHg、温度=80℃、時間=60分)で精製した。末端マレイン酸官能価が20〜60%形成されたことがFTIR及びH NMRにより確認された。
【0034】
実施例10:BIIR−PEOカップリング(無水マレイン酸法)
モノマレイン酸末端PEO(0.2g)をトルエン(10ml)に溶解し、KOH(0.003g、0.05ミリモル)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(0.012g、0.04ミリモル)で処理し、次いでBIIR(10ml中0.5g)のトルエン溶液に添加した。混合物を90℃で2時間撹拌した後、溶剤を蒸発させた。未反応PEOは、アセトンで抽出し、共重合体を特性測定する前に、真空乾燥した。アセトン可溶相中のPEOだけの存在をH NMR分光分析により確認した。FT−IR分析:1732cm−1(C=O、エステル)、1110cm−1(C−O−C)。H NMR(CDCl)スペクトルを統合すると、以下の生成物について相対濃度が得られた。δ=5.02ppm(外部BPMNに類似、1H,s)、δ=4.10〜4.00ppm(内部BPMNに類似、2H,s)、δ=4.68ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルの内部異性体1に類似、2H,s)、δ=6.84ppm(BIIR−マレイン酸モノヘキシルのオレフィン性プロトンに類似、2H,s)及びδ=5.96〜5.90ppm(2に類似、2H,d)。
【0035】
ここで提供した実施例は、ハロブチルゴムの溶液を、重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩溶液の存在下に前述の条件下で相移送触媒で処理して、各種ブチルゴムベースのグラフト共重合体を製造することを示す。
以上に本発明を詳細に説明したが、これらの詳細は、単に説明の目的のためであり、当業者ならば、特許請求の範囲で限定される可能性を除いて、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、各種の変化が行なえることは理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ハロブチルゴムに存在するハロゲン化アリル官能価の酸素ベース求核試薬のNa又はK塩による求核性置換を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)相移送触媒と、少なくとも1種のC〜Cイソオレフィンモノマー及び少なくとも1種のC〜C14マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を有するハロゲン化アリル部位含有ハロゲン化ブチル重合体とを含む第一溶液を供給する工程、
b)重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩を含む第二溶液を供給する工程、
c)第一溶液と第二溶液とを混合する工程、及び
d)重合体基質を、ハロゲン化アリル部位の求核性置換によりハロゲン化ブチル重合体にグラフトさせる工程、
を含むブチルグラフト共重合体の製造方法。
【請求項2】
イソオレフィンがイソブチレンを含み、マルチオレフィンがイソプレンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イソオレフィンがイソブチレンを含み、マルチオレフィンがp−メチルスチレンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化又は塩素化ブチル重合体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
相移送触媒が、テトラブチルアンモニウムブロミド又はトリオクチルメチルアンモニウムクロリドを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルカリ金属塩が、ヒドロキシル部分、カルボン酸部分又はチオール部分のNa又はK塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
重合体基質が、線状又は分岐状の有機、無機又は有機金属の重合体種を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
重合体基質が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリシラン、ポリシロキサン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリホスファゼン、ポリフェロセン又はそれらの混成物である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化ブチルゴムと共役ジオレフィンモノマーとのグラフト共重合体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化ブチルゴムとビニル芳香族モノマーとのグラフト共重合体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
a)相移送触媒と、少なくとも1種のC〜Cイソオレフィンモノマー及び少なくとも1種のC〜C14マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を有するハロゲン化アリル部位含有ハロゲン化ブチル重合体とを含む第一溶液を供給する工程、
b)重合体基質に結合した酸素又は硫黄求核試薬のアルカリ金属塩を含む第二溶液を供給する工程、
c)第一溶液と第二溶液とを混合する工程、及び
d)重合体基質を、ハロゲン化アリル部位の求核性置換によりハロゲン化ブチル重合体にグラフトさせる工程、
により製造されたブチルグラフト共重合体。
【請求項12】
イソオレフィンがイソブチレンを含み、マルチオレフィンがイソプレンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
イソオレフィンがイソブチレンを含み、マルチオレフィンがp−メチルスチレンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化又は塩素化ブチル重合体を含む請求項11に記載の方法。
【請求項15】
相移送触媒が、テトラブチルアンモニウムブロミド又はトリオクチルメチルアンモニウムクロリドを含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
アルカリ金属塩が、ヒドロキシル部分、カルボン酸部分又はチオール部分のNa又はK塩を含む請求項11に記載の方法。
【請求項17】
重合体基質が、線状又は分岐状の有機、無機又は有機金属の重合体種を含む請求項11に記載の方法。
【請求項18】
モノマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリシラン、ポリシロキサン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリホスファゼン、ポリフェロセン又はそれらの混成物である請求項11に記載の方法。
【請求項19】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化ブチルゴムと共役ジオレフィンモノマーとのグラフト共重合体を含む請求項11に記載の方法。
【請求項20】
ハロゲン化ブチル重合体が、臭素化ブチルゴムとビニル芳香族モノマーとのグラフト共重合体を含む請求項11に記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−63556(P2007−63556A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−230950(P2006−230950)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(506183100)ランクセス・インク. (13)
【出願人】(506291830)クイーンズ・ユニヴァーシティ・アット・キングストン (1)
【氏名又は名称原語表記】Queens University at Kingston
【Fターム(参考)】