説明

ブドウ球菌感染症用ワクチン

本発明は、組換えDNA技術を用いた、ヒト、ウシ及びその他の哺乳動物におけるブドウ球菌媒介性感染症の予防及び抑制のためのポリペプチドワクチン製剤の調製方法及び使用について記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物におけるブドウ球菌感染症の予防及び抑制用のワクチンとして用いるポリペプチド製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚及び粘膜に常在するグラム陽性菌であるブドウ球菌は、負傷中/手術中に内部組織へ侵入し、感染症を引き起こす。かかる細菌には、血管内カテーテル、脳脊髄液シャント、血液透析シャント、血管移植片及び長時間装着用コンタクトレンズをはじめとする医療用人工装具の設置位置の皮膚及びその近傍の組織を侵襲するという特徴的な傾向がある(Lowy 1998、Foster 2004)。重要な病原菌としては、コアグラーゼ陽性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及びコアグラーゼ陰性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)がある。これらはヒト及び動物において、皮膚病、局所感染、乳腺炎から、生命にかかわる心内膜炎、骨髄炎、慢性肺感染症まで、多様な疾患を引き起こす。細菌性髄膜炎の症例の1〜9%及び脳膿瘍の症例の10〜15%に、これらが関与している(Foster 2004)。ブドウ球菌菌血症による死亡率は、メチシリン及びバンコマイシンなどへの耐性を含む薬剤への耐性が現れたため、約20〜50%となっている(Enright 2002、Mongodin 2003)。ブドウ球菌は、市中感染型及び長期間の入院に付随する院内(病院感染型)感染症の主要な原因となっている(Franklin 2003)。
【0003】
ブドウ球菌の毒性は、アルファ、ベータ、ガンマ及びデルタ毒素、毒素性ショック症候群毒素(TSST)、エンテロトキシン、ロイコシジン、プロテアーゼ、スタフィロキナーゼ、コアグラーゼ並びにクランピング因子などの多数の毒性因子により媒介される、多因子性のものである(Jin 2004、Martin 2003)。侵襲性感染を起こすために、ブドウ球菌は、多様な表面タンパク質(「付着因子」)によって、細胞外マトリックス基質及び真核細胞に付着する(Peacock 2002)。ブドウ球菌が産生するこうした表面タンパク質は、MSCRAMM(接着性マトリックス分子を識別する微生物表面成分)と称される。これらは、血清タンパク質、IgG、フィブロネクチン(Fn)、フィブリノゲン(Fg)、ビトロネクチン、トロンボスポンジンなどの生体基質に特異的に結合し、それによってかかる細菌を宿主の免疫系から遮蔽する(Hartford 1999、Harris 2002)。これらの表面タンパク質は、負傷した組織又は損傷した脈管壁の、細胞外マトリックス由来のコラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン及びエラスチン(Snodgrass、1999)にも結合することができ、骨シアロタンパク質は、血小板(Siboo 2001)及び医療器具(カテーテル、シャント、ペースメーカー)などの非生体基質に結合する。こうした相互作用はすべて宿主組織の定着(colonization)に寄与するものであるが、さまざまな感染症におけるこうした結合機能それぞれの重要性は、いまだに不明である(Theresa 1999)。
【0004】
抗生物質への耐性が相次いで現れたことで、ブドウ球菌による疾患を予防及び治療するための代替戦略の必要性が高まった。ほぼ一世紀にわたる実験にもかかわらず、一般的な哺乳動物共生細菌であるブドウ球菌に対しては、ワクチン接種は比較的成功率が低いことが判明した(Michie 2002)。これまでに数人の研究者が、死滅、弱毒化、固定又は溶解した黄色ブドウ球菌のワクチンの製造、及び/又は黄色ブドウ球菌への免疫を誘導する莢膜多糖類若しくは細胞壁成分の単離を試みている。しかし、こうした試みは何一つ成功していない。トキソイドは、いくつかの研究において高い抗体価を誘発したが、副作用を誘発したことから、ワクチン候補としては不合格であることが判明した。市中には無数の菌株が広まっているため、ブドウ球菌莢膜の多糖類抗原性成分の開発は、困難なものとなっている。Ali Fattom et al (1996)(Nabi Pharmaceuticals)は、黄色ブドウ球菌から精製した5型及び8型の多糖類を、キャリアタンパク質(無毒型の緑膿菌外毒素)に結合させることで、ワクチン(StaphVAX)を開発し、血液透析を受けている患者において、黄色ブドウ球菌に対して56%という予防率を示した(Shinefield H. 2002)。薬効が高く、副作用が少ないにもかかわらず、このワクチンも従来のワクチンと同様に、侵襲性ブドウ球菌を長期にわたって予防することは不可能だった。Ing-Marie Nilsson et al(1998)は、コラーゲン付着因子の組換え型を用いたワクチン接種が、黄色ブドウ球菌の異種攻撃からマウスを守ったことを示した。Dr Gerald Pier et al(1999)は、黄色ブドウ球菌上の表面多糖類PNSG(ポリ−N−スクシニルベータ−1−6グルコサミン)の精製物を用いたワクチン接種が、黄色ブドウ球菌の攻撃からマウスを守ったことを示した。
【0005】
しかし、現時点では、ブドウ球菌感染症を完全に予防するワクチンは市場に存在しない(Michie 2002)。接着性マトリックス分子を識別する微生物表面成分(MSCRAMM)を標的としたワクチン戦略は、細菌の付着を妨げ、定着を予防し、血行性播種を最小限にして、感染症の発生及び進行を停止させるための実行可能なアプローチである。そのため、新規ワクチン候補の調査において、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の表面タンパク質をコンピュータで分析した。発症機序において付着は重要なステップであるため、これまでに知られていない/特徴付けがされていないブドウ球菌付着因子について、黄色ブドウ球菌株及び表皮ブドウ球菌株の公共データベースにて入手可能な完全ゲノム配列をコンピュータで分析した。本発明者らはここに、付着及び自己融解性に関与し、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の異種攻撃に対する防御となる、黄色ブドウ球菌由来の組換えタンパク質を用いたマウスへの免疫付与について、報告するものである。
【0006】
黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌のワクチン接種で恩恵を受けると思われるのは、以下の患者である:長時間の心臓手術及び整形外科手術を受ける外科患者、外傷及び火傷患者、医療器具又は人工装具の移植を受けた患者、免疫系が未発達の新生児、長期療養中の人々、腎臓透析患者。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要:
本発明は、ブドウ球菌感染症のワクチンに関する。本発明は、哺乳動物全般、特にヒト及び又はウシにおけるブドウ球菌感染症のワクチンを提供する。本発明はまた、ワクチン組成物の抗原性分子として使用可能な、組換え型で免疫原性が高いタンパク質を、より具体的には、黄色ブドウ球菌由来の表面抗原を提供する。また、前記タンパク質は、ブドウ球菌溶菌活性を有している。本明細書で論じる本発明の組換えタンパク質は、ペプチドグリカン結合性を示すLysMドメインの反復部分、及びペプチドグリカン切断性を示すCHAP(システイン、ヒスチジン依存性アミドヒドロラーゼ/ペプチダーゼ)ドメインを含んでいる。また、本発明は、前記組換えタンパク質の単離及び精製の方法を提供する。薬理学的及び薬学的に許容可能な担体/アジュバント/安定剤における前記タンパク質の組成物も提供する。前記タンパク質の医薬組成物は免疫原性であり、モデル動物においてブドウ球菌感染症のワクチンとして有効である。ブドウ球菌感染症の診断用に、免疫診断法も開発された。前記タンパク質は、予防及び診断を目的とする有望な候補である。
【0008】
要約:
本発明は、哺乳動物におけるブドウ球菌感染症の予防及び抑制用ワクチンとして使用する組換えポリペプチド製剤に関する。本発明はまた、ブドウ球菌由来タンパク質抗原のクローニング及び発現方法についても記載している。前記タンパク質の医薬組成物は免疫原性であり、ブドウ球菌感染症のワクチンとして有効である。ブドウ球菌感染症の診断用に、免疫診断法も開発された。前記タンパク質は、予防及び診断を目的とする有望な候補である。
【0009】
発明の陳述:
したがって、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列を含む、又はその突然変異体(mutants)及び変異体(variants)のいずれかを含むタンパク質の抗原性組成物であって、前記突然変異体及び変異体が、タンパク質−タンパク質相互作用に関与するアミノ酸の欠失及び/又はドメイン置換、及び/又は細胞壁の標的化(cell wall targeting)の少なくとも1つを含み、前記組成物が、ブドウ球菌感染症の予防及び抑制用ワクチンとして使用される組成物を提供する。
【0010】
アミノ酸配列が配列番号3からなることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【0011】
アミノ酸配列が配列番号4からなることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【0012】
アミノ酸配列が配列番号5からなることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【0013】
アミノ酸配列が3個のLysMドメイン及び1個のCHAPドメインからなることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【0014】
(i)ベクター及び(ii)請求項1記載のアミノ酸配列をコードする少なくとも1個の核酸断片又はその突然変異体及び/又はその変異体を含む、組換えDNAコンストラクト。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ブドウ球菌感染症の予防及び治療のための免疫の誘導に有用な、黄色ブドウ球菌由来の組換えタンパク質ワクチンの開発に関する。本発明はさらに、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌関連感染症への免疫を付与するための、前記タンパク質の単離及び前記タンパク質の精製にも関する。本発明は、治療及び診断を目的とした抗体の製造にもタンパク質が有用であることを明らかにしている。本発明は、黄色ブドウ球菌株中で同定され発現されたタンパク質が付着に関与しており、免疫原性が高いとの知見に基づくものである。本発明は、精製タンパク質を適切なワクチン候補として使用する方法も提供する。本発明で発現され精製されたタンパク質は、NCBIデータベースにおいて黄色ブドウ球菌由来のDNA配列アクセッション番号GI22217974/EMBAJ250906(配列番号1を参照のこと)に相当するアクセッション番号GI22217975/EMBCAC80837(配列番号2及び配列番号3を参照のこと)として同定可能である。上記遺伝子及びタンパク質配列は、配列番号4及び配列番号5に記載の配列などの細胞及び細胞外タンパク質を用いて、起こりうるタンパク質−タンパク質相互作用を低下させる又は皆無にするために構築されたものである。本発明はまた、ワクチンとして使用可能なタンパク質の医薬組成物をも提供する。本発明はまた、免疫付与により抗原特異的免疫応答を引き出す方法についても記載している。
【0016】
本発明は、付着因子/自己融解酵素をコードする遺伝子Aaa(配列番号1)のクローニング及び発現に基づくものである。かかる遺伝子は、334個のアミノ酸からなるタンパク質をコードし、かかるタンパク質は、ペプチドグリカン結合性を示す3個のLysMドメインの反復部分、ペプチドグリカン切断性を示す1個のCHAPドメイン、及びかかるタンパク質が細胞壁タンパク質であることを示唆する典型的なグラム陽性シグナルペプチドを備えている。細菌の付着は、多くの感染症の発生において重要な第一歩であるため、新規ワクチンの開発における魅力的な標的である。付着に基づくワクチンがブドウ球菌感染症を予防できるかどうかを確認するため、組換えタンパク質を用いてマウスに能動免疫を付与し、黄色ブドウ球菌で静脈内及び腹腔内への攻撃を行った。腎臓を処理した際、免疫を付与したマウスでは、コロニー形成単位が少なかった又は皆無であった。
【0017】
タンパク質のアッセイ用にELISA法が開発されており、感染試料における抗原又はこのタンパク質に対する抗体を検出する診断法として、使用可能である。
【0018】
以下の図面及び実施例は、図示を目的として記載するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
コンピュータによる分析:Aaa(黄色ブドウ球菌の自己融解酵素/付着因子――配列番号2)及びAae(表皮ブドウ球菌の自己融解酵素/付着因子)の両方について、Biology Workbench 3.2(http://workbench.sdsc.edu/)のCLUSTALW及びTEXSHADEによりヌクレオチド配列及びアミノ酸配列のアラインメント並びに比較を行い、図1に示すように、それらが酷似していることがわかった。Pfam version 17.0(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)を利用して、Aaaアミノ酸配列のドメイン分析を行った。Pfamドメイン分析によって、図2に示すように、Aaaタンパク質には3個のLysMドメインの反復部分及び1個のCHAPドメインが含まれることがわかった。LysM(リジンモチーフ)ドメインは、長さが約40残基であり、残基4〜47、68〜111及び135〜178の間に存在するものであって、細菌細胞壁分解に関与する各種酵素中で見つかっており、一般的なペプチドグリカン結合機能を有している。CHAPドメイン(システイン、ヒスチジン依存性アミドヒドロラーゼ/ペプチダーゼ)は、長さが約120残基であり、残基191〜310の間に存在する。CHAPドメインはアミダーゼ機能に関与しており、CHAPドメインを有するタンパク質の多くは、細菌の細胞壁代謝に関与している。Signal P 3.0サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)、Target P 1.1サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)及びPSORT version 6.4(http://www.psort.org/)により、Aaaタンパク質が25個の残基からなるシグナルペプチドを有すること、及び細胞壁に局在することが予測されている。
【実施例2】
【0020】
細菌株、成長条件及びベクター:DNA操作用に大腸菌株DH5αを使用し、自己融解酵素付着因子遺伝子のクローニング及び発現用に大腸菌ベクターpET11bを使用した。組換えタンパク質を大腸菌BL21 DE3 RILで発現させた。動物実験で用いたブドウ球菌株は、黄色ブドウ球菌(MSSA)ATCC25923株、黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC33591株、入院患者の大腿由来黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性――MRSA)の臨床単離株、表皮ブドウ球菌ATCC12228株であった。これらの黄色ブドウ球菌株及び表皮ブドウ球菌株を、血液寒天上で24時間培養し、その後5%の濾過血清を含むトリプシン大豆培養液(tryptic soy broth)で後期対数期まで増殖させ、回収し、洗浄し、PBSで適切な濃度まで希釈し、マウスへの接種のために、混釈平板法で生菌数を測定した。50μg/mlのアンピシリンを含むLuria-Bertani(LB)培養液/寒天上で、pET15b又はpET11bベクターを含む大腸菌株を選択した。0.1%の亜テルル酸カリウムを含むVogel Johnson寒天にて黄色ブドウ球菌株及び表皮ブドウ球菌株を増殖させた。
【実施例3】
【0021】
タンパク質抗原をコードする遺伝子のクローニング及び配列決定:標準的な方法を用いて、すべてのDNA操作を行った。Lindberg et al(1972)にしたがい、ゲノムDNAを黄色ブドウ球菌(ATCC25923)から単離した。黄色ブドウ球菌自己融解酵素付着因子(Aaa)遺伝子(アクセッション番号AJ250906.1gi|22217974;配列番号1内に含まれる;成熟タンパク質配列は配列番号3)の成熟タンパク質に相当する遺伝子断片を増幅させるために、オリゴヌクレオチドを設計した。PCRによる増幅に用いるフォワードプライマーの配列は、5'CGAGCTCCATATGGCTACAACTCACACAGTAAAAC3'であり、リバースプライマーの配列は、5'CGCTCGAGGGATCCTTATTAGTGATGGTGATGGTGATGGTGAATATATCTATAATTATTTAC3'である。6ヒスチジンタグに相当するヌクレオチド配列は、リバースプライマーに含まれている。増幅させた遺伝子産物をアガロースゲルから精製し、制限酵素Nde1及びBamH1で分解し、同じ制限酵素で切断したpET11bベクターに、T4DNAリガーゼでライゲーションした。ライゲーションしたベクターを、CaCl法により、大腸菌DH5α株に形質転換した。ABI PRISM 310DNA配列決定装置を用いたジデオキシ鎖ターミネーション法によるDNA配列決定により、クローンを確認した。配列の取扱には、PC遺伝子プログラム(Intelligenetics社製)を用いた。標的タンパク質の発現のため、Aaa遺伝子を含むプラスミドを単離して、大腸菌BL21(λDE3)RIL株に形質転換した。
【0022】
配列番号3のタンパク質をコードするAaa遺伝子の潜在的タンパク質−タンパク質相互作用部位を欠失させた後、配列番号4及び配列番号5に記載のタンパク質配列をコードする遺伝子を設計した。配列番号4及び配列番号5のタンパク質配列をコードする遺伝子を、米国のGenScript Corporation社で合成した。構築したタンパク質をコードするORFを、温熱誘導型プロモーターの制御下で、pGS100ベクターのEcoR1及びBamH1部位にクローニングし、大腸菌BL21(λDE3)RIL中に形質転換した。
【実施例4】
【0023】
タンパク質の発現及び精製:組換えプラスミドpET11bを含む大腸菌BL21 DE3 RIL細胞を一晩培養したものを、50μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLuria培養液で1:50に希釈した。A600が0.6になるまで大腸菌細胞を振盪しながら37℃で増殖させ、そこでイソプロピル−1−チオ−b−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度が1mMになるまで添加することで、T7ポリメラーゼによる標的タンパク質の発現を誘導した。4時間後、8,000rpmで10分間の遠心分離により、細胞を回収した。細菌ペレットを緩衝液A(50mMのリン酸緩衝液、0.5MのNaCl、pH8.0、4Mの尿素、1%のTriton X 100、1mMのPMSF)に再懸濁した。振幅が15ミクロン、持続時間が60秒間、氷上にて60秒間のインターバルという超音波処理を30サイクル行って細胞を溶解させ、細菌の残骸を除去するため、細胞溶解液を12,000gで30分間の遠心分離にかけた。標的タンパク質が封入体を形成していたことから、それらを除去するために、上記緩衝液からPMSFを除いたもので2回、及び上記緩衝液から尿素及びTriton X 100を除いたもので2回、細胞溶解ペレットを洗浄した。
【0024】
標的タンパク質を含むペレットを、その10倍量の50mMのリン酸緩衝液、0.5MのNaCl、6Mの尿素、pH8.0に懸濁して、攪拌機上に載置することにより可溶化した。4時間の可溶化の後に、12,000rpmで30分間の遠心分離を行った。可溶性タンパク質を含む上清を0.4μmの膜で濾過し、さらに精製するために保管した。Ni−NTA金属アフィニティークロマトグラフィーにて固定化することで、組換えタンパク質を精製した。FPLCシステムに接続された、Ni−NTAマトリックスを含むカラムを、50mMのリン酸緩衝液、0.5MのNaCl、6Mの尿素、pH8.0を含む緩衝液Aで平衡化した。平衡化後、上清をカラムに入れ、カラムを10ベッド容量の緩衝液で洗浄した。その後、50mMのリン酸緩衝液、0.5MのNaCl、6Mの尿素、pH8.0、20〜200mMのイミダゾールを含む緩衝液Bで、カラムの溶出を行った。280nmでの吸光度を確認することにより、タンパク質について溶出をモニターし、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、ピーク断片を分析した(図3)。
【実施例5】
【0025】
黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌における自己融解酵素付着因子の出現:黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の各種臨床株における自己融解酵素付着因子遺伝子の存在を、PCRで確認した。敗血症、器具関連感染症、皮膚感染症、腎臓透析感染症などの患者から臨床株を単離した。黄色ブドウ球菌完全ゲノム配列の6株全部及び表皮ブドウ球菌完全ゲノム配列の2株に、タンパク質自己融解酵素(Aaa)付着因子が存在していることがわかった。図4に示すように、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の臨床単離株に自己融解酵素付着因子遺伝子が存在することが、PCRにより確認された。これは、黄色ブドウ球菌株及び表皮ブドウ球菌株の多くで自己融解酵素付着因子(Aaa)タンパク質が発現していることを示すものである。
【実施例6】
【0026】
ペプチドグリカン加水分解活性のアッセイ――ザイモグラフアッセイ:先に記載した方法に少々の変更を加えた方法にしたがい、10%のSDS−PAGEゲル上でザイモグラムを行って、Aaaタンパク質のブドウ球菌溶菌活性を確認した。すなわち、0.2%(w/v)の加熱殺菌黄色ブドウ球菌細胞を基質として含む12%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを調製した。組換え精製タンパク質をロードし、4℃にて、縦型スラブゲル電気泳動アセンブリ(Hoefer miniVE)を用いて、20mA定電流で電気泳動を行った。電気泳動に続いて、0.1%のTriton X 100を含む冷蒸留水でゲルを徹底的に洗浄し、0.1MのTris−HCl(pH8.0)緩衝液中で37℃にてゲルを一晩インキュベートした。表皮ブドウ球菌を基質として用いて、同様のアッセイを行った。図5に示すように、半透明ゲル中の溶解バンド(lytic bands)を、間接光中で青を背景とした明瞭なバンドとして視覚化した。
【実施例7】
【0027】
ブドウ球菌感染症を検出するための免疫診断法:
ELISA:Aaa自己融解酵素付着因子組換えタンパク質に対する抗体について、マウス及びヒトの血清を酵素免疫測定法(ELISA)で調べた。精製タンパク質(1mg/ml)を含む、1ウェル当たり100μlのコーティング緩衝液(100mMの炭酸ナトリウム、pH9.2)でマイクロタイターウェルをコーティングし、4℃にて一晩インキュベートした。2%(wt/vol)のウシ血清アルブミン(BSA)を含む200μl/ウェルのリン酸緩衝生理食塩水(PBS――10mMのリン酸ナトリウム、pH7.4、0.13MのNaClを含む)で、付加的なタンパク質結合部位を室温にて1時間ブロックし、PBST(0.1%のTween 20を含むPBS)で5回洗浄した。PBSTで希釈した100μlのマウス及びヒト血清標本を、別のウェルに添加し、37℃にて1時間インキュベートした。PBSTでウェルを5回洗浄して、非結合抗体を除去した。結合抗体の検出のため、PBSTで1:8,000に希釈した100μlの西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG抗体、及びPBSTで1:8,000に希釈した100μlの西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体を、それぞれのウェルに添加して、37℃にて1時間インキュベートした。ウェルの洗浄後、基質であるo−フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)及びHの、複合酵素による有色生成物への変換を、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad社製)にてOD492nmで測定することにより、抗原抗体複合体を定量した。感染マウス群及びヒト群の両方が、ELISAで陽性の結果を示した。これは、黄色ブドウ球菌のタンパク質自己融解酵素/付着因子に対する抗体が、インビボで産生され、かつ免疫原性を有することを示している。
【実施例8】
【0028】
ウェスタンブロット:組換えタンパク質を、還元性条件下で12%のSDS−PAGE上に流し、転写用緩衝液、CAPS緩衝液、pH8.3を用いて、200mAにて2時間、ニトロセルロース膜にエレクトロブロットした。その後、5%(wt/vol)の乾燥スキムミルクを含むPBSの溶液で膜を1時間処理し、続いて、PBSで3回洗浄した後、マウスのタンパク質に対して作製された高力価血清を0.05%のTween 20を含むPBSで200倍に希釈したもの(ポジティブコントロール)、黄色ブドウ球菌に感染したマウスのプール血清、黄色ブドウ球菌に感染したヒトのプール血清、並びにコントロールマウス及びヒト血清で、37℃にて1時間のインキュベーションを行った。その後、PBSTで膜を3回洗浄し、続いて、2,000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG抗体を含むPBST、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体を含むPBSTにて、それぞれ37℃にて1時間インキュベートした。洗浄後、発色性基質ジアミノベンゼデン(Diamino Benzedene)(DAB)及びHで膜を処理した。コントロールマウス及びコントロールヒト血清については、まったくバンドが現れなかったのに対し、ポジティブコントロール並びに黄色ブドウ球菌に感染したマウス及びヒトについては、図6に示すように、標的タンパク質に相当する陽性のバンドが現れた。これは、黄色ブドウ球菌に感染した際に、マウス及びヒトにおいてかかるタンパク質に対する抗体が産生されたことを示すものである。
【実施例9】
【0029】
オプソニン化による食作用のアッセイ:タンパク質Aaaに対して産生された抗体に、黄色ブドウ球菌の死滅をもたらす効果があるかどうかを確認するため、インビトロでのオプソニン化アッセイを行った。McKenney D 2000の修正プロトコルにより、アッセイを行った。精製タンパク質Aaaをウサギに注入し、かかるタンパク質に対する抗体の豊富な源である過免疫血清を得た。健常な成体ウサギから採取した新鮮血から、多形核好中球を調製した。合計25mlのウサギの血液を、等量のデキストラン−ヘパリン−硫酸緩衝液(20g/リットルのDextran 500、65.6g/リットルの硫酸化ヘパリン、9g/リットルの塩化ナトリウム)と混合し、37℃にて1時間インキュベートした。白血球を含む上部層を回収し、1%のNHClに再懸濁することで、残った赤血球の低張溶解を行った。15%のウシ胎仔血清を含むRPMIを用いて、その後の洗浄ステップを行った。多形核好中球数を1ml当たり4×10個に調整した。黄色ブドウ球菌で補体源(モルモット補体)を吸着させて、標的株と反応する可能性のある抗体を除去した。トリプシン大豆培養液で一晩増殖させた後、黄色ブドウ球菌細胞を遠心分離にかけ、ペレットを1mlのPBSに再懸濁した。100μlの白血球、100μlの細菌(PBS1ml当たり2×10個に調整)、100μlの高力価血清希釈物、及び100μlの補体源を用いて、オプソニン化による食作用のアッセイを行った。反応混合物を、ローターラック上で37℃にて90分間インキュベートした;試料の回収は、時間ゼロ及び90分後に行った。各チューブに4Wで5秒間の超音波処理を行った後、0.5%のTweenを含むトリプシン大豆培養液で希釈し、Vogel Johnson寒天プレートに塗布(plate)した。血清が全く入っていないチューブ、及び正常ウサギ血清が入っているチューブをコントロールとして使用した。コントロールアッセイと比較してコロニー数が少ない被検血清により、アッセイを行った。これらにより、タンパク質Aaaに対する抗体には、食細胞による黄色ブドウ球菌の死滅をもたらす効果があることが示された。
【実施例10】
【0030】
ワクチン製剤の開発及び有効性の研究:
組換え精製タンパク質及び上記PBS、アジュバントを、濃度範囲0.05%〜5%で用いられる以下の安定剤、ポリオール類(マンニトール、ソルビトール、グリセロール)、糖類(ラクトース、トレハロース、スクロース)、ヒト血清アルブミン、アミノ酸類(グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン)などの少なくとも1つと混合する。
【0031】
マウスへの免疫付与及び攻撃:精製し、濾過滅菌した組換え自己融解酵素付着因子タンパク質(最終濃度0.2mg/ml)及び同濃度のBSAを、0.5mg/mlの水酸化アルミニウム(アジュバント)を含む滅菌PBS(リン酸緩衝生理食塩水――0.13Mの塩化ナトリウムを含む10mMのリン酸緩衝液、pH7.4)に懸濁した。精製タンパク質(1〜1000マイクログラム)を抗原として含有する500μlの乳剤を含むワクチン製剤を、0日目にマウス(A、B、C、Dの各群18匹からなる4群のマウス)の腹腔内(i.p.)に注入し、500μlのBSA懸濁液を、コントロールA、コントロールB、コントロールC、コントロールDの各群15匹からなる4群のマウスに注入した。14日目に、追加抗原投与量のタンパク質をA、B、C及びD群に注入し、BSAをコントロール群に注入した。4つの異なるブドウ球菌株を致死未満量で用いて攻撃を行い、細菌の増殖(vegetation)を定量した。A群及びコントロールA群の10匹のマウスに対し、マウス1匹当たり3.4×10個のATCCMSSAを静脈に注入して、攻撃を行った。B群及びコントロールB群の10匹のマウスに対し、マウス1匹当たり3.8×10個のATCCMRSAを静脈に注入して、攻撃を行った。C群及びコントロールC群の10匹のマウスに対し、マウス1匹当たり3.2×10個の臨床MRSAを静脈に注入して、攻撃を行った。D群及びコントロールD群の10匹のマウスに対し、マウス1匹当たり4×10個のATCC表皮ブドウ球菌を静脈に注入して、攻撃を行った。攻撃時には、全部の群において5匹のマウスを取り出して、別のケージに入れておき、最後の免疫を付与してから1、3、5、7及び9週間後に、これらのマウスから血清を採取し、自己融解酵素付着因子に対する特異的IgG抗体のアッセイを行った。黄色ブドウ球菌の腹腔内接種についても、これらの実験を繰り返した。
【実施例11】
【0032】
細菌研究:72時間の攻撃後、全マウスを殺処分して解剖し、細菌研究のために腎臓を無菌的に除去した。エチルアルコール及び滅菌PBSで腎臓を洗浄し、表面に付着した細菌を除去して、滅菌した乳棒、乳鉢で別個に均質化した。細菌を定量するため、希釈が10−5になるまで、滅菌PBSで10倍の連続希釈を行った。10−3〜10−5の希釈物1mlを、1%の亜テルル酸カリウムを含むVogel Johnson寒天(VJ寒天)を用いた混釈平板法で塗布し、37℃でインキュベートした。36時間及び48時間にわたるインキュベーションの後に、コロニー形成単位(cfu)を計数した。腹腔での増殖を識別するため、2mlの滅菌PBSを各マウスの腹腔に注入し、各マウスの腹部を2分間マッサージし、洗浄液の試料をシリンジで吸引し、クックドミート培地で培養した。全身感染症の同定のため、血液の培養も行った。カタラーゼ及びコアグラーゼ活性についても、細菌のテストを行った。
【0033】
本研究に使用した動物は、そのすべてが黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の攻撃を受けても生残した。ワクチンを接種したマウス及びワクチンを接種しなかったコントロールの腎臓における細菌数は、以下の通りである:ポジティブコントロールは、マウス1匹の腎臓一対当たり1.0〜8.1×10cfuを示し;3.4×10個のMSSAATCC25923で攻撃されたマウス(A群)は、腎臓一対当たり0〜7×10cfuを示し、マウス10匹のうちの2匹が軽い感染症を示すにとどまり;3.8×10個のMRSAATCC33591で攻撃されたマウス(B群)は、腎臓一対当たり0〜5.1×10cfuを示し、マウス10匹のうちの3匹が軽い感染症を示すにとどまり;3.2×10個の臨床MRSA(入院患者の大腿骨から単離した多剤耐性株)で攻撃されたマウス(C群)は、腎臓一対当たり0〜9×10cfuを示し、マウス10匹のうちの3匹が軽い感染症を示すにとどまり、及び4×10個の表皮ブドウ球菌ATCC12228で攻撃されたマウス(D群)は、腎臓一対当たり0〜1×10cfuを示し、マウス10匹のうちの2匹が軽い感染症を示すにとどまった。分析した各動物における腎臓一対当たりの細菌数(cfu)を、表1に示す。図8に示すように、最後の免疫を付与してから1、3、5、7及び9週間後に血清試料の抗体価を調べ、免疫付与の9週間後でさえも、非常に高い力価が認められた。
【0034】
【表1】

【0035】
ワクチン接種群とコントロール群との相違の有意性を確認するため、フィッシャー検定を応用した。免疫を付与したマウスの腎臓における細菌数の減少は、有意であった。表2に示すように、A群の免疫付与マウスでは80%、B群及びC群では70%の腎臓について、黄色ブドウ球菌の攻撃後に細菌の存在が認められず、及びD群の免疫付与マウスでは80%について、表皮ブドウ球菌の攻撃後に細菌の存在が認められなかった。表3に示すように、各群の対数平均CFUは、コントロール群の平均CFUとは有意に異なっていた。図7に示すように、そうした平均値から、ワクチン接種群に比べてコントロール群のマウスの感染がかなり高かったことがわかる。表4に示すように、コントロール群(コントロールA〜D)とワクチン接種群(A〜D群)との相違は、統計学的に有意であった。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【実施例12】
【0039】
免疫治療法の開発及びアッセイ:
腹腔内経路での免疫付与により、組換え精製Aaaタンパク質でBalb/cマウスに過免疫を付与した。特異的な過免疫血清を用いて、タンパク質GカラムによるIgG断片の精製を行った。精製したIgGを用いてBalb/cマウス(試験群n=8)に受動免疫を付与し、その後マウスを10cfuの黄色ブドウ球菌ATCCMSSA株で攻撃した。コントロール群(コントロール群n=8)には、IgG断片の代わりに等量のビヒクルを注入した。
【0040】
両方の群について、死亡率を48時間観察した。試験群(n=8)は、黄色ブドウ球菌の攻撃を受けても生残した。しかし、コントロール群(n=8)の動物については、100%の死亡率が観察された。
【0041】
均等物
上に記した明細書は、当業者が本発明を実施することができる程度に十分なものであると考えられる。本発明のある態様を一つの形で図示することが実施例の目的であるため、本発明は、提供された実施例によってその範囲を限定されるものではなく、他の機能的に同等の実施形態も本発明の範囲内にある。本明細書に示し、記載したものに加えて、本発明の各種修正も、当業者であれば上の記載から明白であり、添付の特許請求の範囲に該当する。本発明の利点及び課題は、必ずしも本発明の各実施形態に包含されるとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】黄色ブドウ球菌のAaaタンパク質(配列番号2)及び表皮ブドウ球菌遺伝子の相同遺伝子Aaeの保存アミノ酸に対して、TEXSHADE(Biology WorkBench社製)で同一性の閾値を50%として影を付けたものを示す。
【図2】Pfam(http://www.sanger.ac.uk/ Software/Pfam/)によるAaa遺伝子のドメイン分析。このタンパク質は、残基4〜47、68〜111及び135〜178の間に3個のLysMドメインを有し、残基191〜311の間に1個のCHAPドメインを有している。
【図3】SDS−PAGE(15%)における精製タンパク質の分析を表す。1レーンはタンパク質分子量マーカーの遊走パターンを示し、2レーンは精製タンパク質を示す。
【図4】黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌における自己融解酵素付着因子遺伝子の存在を示すアガロースゲル。(A)黄色ブドウ球菌臨床単離株及びATCC株は、自己融解酵素付着因子合成に必要なAaa遺伝子を含んでいる。黄色ブドウ球菌の臨床単離株4株及びATCC株3株由来の染色体DNAに対し、PCRを行った。1〜4レーン、菌血症、血管内カテーテル、腎臓透析患者、大腿からそれぞれ単離され、メチシリンに耐性を有する、入院患者由来の臨床単離株;5レーン、ATCC25923;6レーン、ATCC33591;7レーン、ATCC29737。(B)表皮ブドウ球菌臨床単離株及びATCC株は、自己融解酵素付着因子合成に必要なAae遺伝子を含んでいる。表皮ブドウ球菌の臨床単離株3株及びATCC株2株由来の染色体DNAに対し、PCRを行った。1〜3レーン、菌血症、術後創感染、心内膜炎からそれぞれ単離された、入院患者由来の臨床単離株;5レーン、ATCC12228;6レーン、ATCC33547;7レーン、分子量マーカー;成熟タンパク質に相当する930塩基対断片を増幅するように、プライマーを設計した。
【図5】Aaaの溶菌活性を示すザイモグラム。大腸菌から精製したHis6タグAaaのSDS−PAGE(2及び3レーン)。2レーンでは熱不活化黄色ブドウ球菌細胞(0.2%)が、及び3レーンでは熱不活化表皮ブドウ球菌細胞(0.2%)が、自己融解酵素の基質として分離ゲル(10%)に含まれている。リン酸緩衝液中での37℃でのインキュベーション後は、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の両方において、溶菌活性を透明な領域として目視できる。矢印はAaa関連溶菌活性を示す。分子量マーカーは1レーンに示されている。
【図6】黄色ブドウ球菌に感染したマウスのプール血清及び黄色ブドウ球菌に感染したヒトのプール血清を用いた、黄色ブドウ球菌の精製自己融解酵素付着因子のウェスタンブロットを示す。1レーン、分子量マーカーの位置(kD);2レーン、患者のプール血清;3レーン、健常成人のプール血清;4レーン、ネガティブコントロール――小児(6〜18カ月)のプール血清、バンドが現れていない;5レーン、黄色ブドウ球菌に感染したマウスのプール血清;6レーン、健常マウスのプール血清、バンドが現れていない。バンドは、ヒト又はマウスが黄色ブドウ球菌に暴露された際に、黄色ブドウ球菌の自己融解酵素付着因子に対する抗体が産生されたことを示す。矢印は、自己融解酵素付着因子に相当する34kDのバンドを示す。
【図7】組換えタンパク質の予防効果を表す。組換えタンパク質でマウスに能動免疫を付与することで、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌による攻撃に対する防御となる。バーは、タンパク質Aaa(黒バー)又は無関係なタンパク質BSA(点描バー)で免疫付与したマウスにおける腎臓一対当たりの対数平均CFUを示す。マウス1匹当たりの攻撃に用いた菌種及び投与量のCFU値を、各群の下に示す;1群当たり、N=10マウスである。攻撃に用いた株は、A群では黄色ブドウ球菌ATCC25293株;B群では黄色ブドウ球菌ATCC33591株;C群ではMRSA(大腿骨)の臨床単離株;D群では表皮ブドウ球菌ATCC12228株である。
【図8】Aaaタンパク質を用いて腹腔内免疫付与を行ったマウス(8)のプール血清で得られたIgG抗体価を示す。100μgのタンパク質を用いて、動物に2回の免疫付与を行った。最後の免疫付与後1〜9週の間に、2週間の間隔を空けて、血液試料を入手した。
【0043】

【0044】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列のタンパク質又は修飾された配列番号2のアミノ酸配列のタンパク質を含む組成物であって、前記アミノ酸修飾が、タンパク質−タンパク質相互作用、及び/又は細胞壁の標的化を低下させるために、以下の
i)アミノ酸の欠失
ii)アミノ酸のドメイン置換
iii)変異
の少なくとも1つを含み、
前記組成物が、ブドウ球菌感染症の予防及び抑制のために使用されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
アミノ酸配列が、配列番号3を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アミノ酸配列が、配列番号4を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
アミノ酸配列が、配列番号5を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
アミノ酸配列が、3個のLysMドメイン及び1個のCHAPドメインを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
配列番号1のヌクレオチド断片、好ましくは、請求項1記載の抗原タンパク質をコードするヌクレオチド配列105〜1034からなるヌクレオチド断片。
【請求項7】
(i)ベクター及び(ii)請求項1〜6のいずれか記載のアミノ酸配列をコードする少なくとも1個の核酸断片を含む、組換えDNAコンストラクト。
【請求項8】
ベクターが、原核宿主生物、好ましくは大腸菌中でクローニングされた、原核生物のプラスミド発現ベクターであることを特徴とする請求項7記載の組換えDNAコンストラクト。
【請求項9】
ベクターが、真核宿主生物中でクローニングされた、真核生物のプラスミド発現ベクターであることを特徴とする請求項7記載の組換えDNAコンストラクト。
【請求項10】
以下のステップを含む、請求項1記載のタンパク質の製造方法:
(a)請求項8記載の組換えDNAコンストラクトをクローニングした宿主細胞を培養するステップ、
(b)前記細胞を回収し、そこから組換えタンパク質を単離するステップ、及び
(c)前記タンパク質を精製するステップ。
【請求項11】
尿素及び塩酸グアニジンから選択される少なくとも1つの変性剤を0.1M〜12Mの範囲で使用し、さらに前記タンパク質をアジュバント上で捕獲して、タンパク質の可溶化を実施することを特徴とする請求項10記載の精製タンパク質を変性条件下で製造する方法。
【請求項12】
以下のアジュバント:水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、鉱物油、又はアジュバントとして使用可能な他の適切な化合物の少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする請求項1〜5及び11記載のタンパク質組成物。
【請求項13】
有効量の、例えば1〜1000μg、好ましくは5〜500μg、より好ましくは10〜100μgの範囲の請求項1〜5及び12記載の精製タンパク質をさらに含み、薬学的及び生理学的に許容可能な担体においてワクチンとして使用されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
薬学的及び生理学的に許容可能な担体であって、ペプチド、多糖類、又はその他の有機、無機分子である担体に、リンカーを介して又はリンカーなしで結合した精製タンパク質を、さらに含むことを特徴とする請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
以下の担体緩衝液:リン酸緩衝液、リン酸クエン酸緩衝液又はその他の薬学的及び生理学的に許容可能な緩衝液の少なくとも1つをさらに含み、請求項12記載の添加されたアジュバントをさらに含むことを特徴とする請求項13記載の医薬組成物。
【請求項16】
以下の薬学的及び生理学的に許容される安定剤:ポリオール、グリセロール、ヒト血清アルブミン、糖類及びアミノ酸類の少なくとも1つを、0.05%〜5%の範囲でさらに含むことを特徴とする請求項13記載の医薬組成物。
【請求項17】
組換えプラスミド及び薬学的に許容可能な担体を含む製剤であって、前記プラスミドが、請求項1〜5記載の黄色ブドウ球菌タンパク質抗原の少なくとも1つのヌクレオチドコーディング配列からなり、ポリペプチドを哺乳動物中で発現させるために前記ヌクレオチド配列に作用可能に結合している転写及び翻訳制御配列を含むことを特徴とする製剤。
【請求項18】
ブドウ球菌感染症の、何らかの形での免疫診断の準備をするための、請求項1〜16記載の組成物の使用方法。
【請求項19】
ブドウ球菌感染症に対する、何らかの形での免疫治療の準備をするための、請求項1〜16記載の組成物の使用方法。
【請求項20】
請求項1〜16記載の医薬組成物を、以下の筋肉内、皮内、皮下、静脈内、経口、鼻腔内などの経路の少なくとも1つを介して投与する方法。
【請求項21】
腎臓透析患者、手術を受ける患者、医療器具を留置している患者、外傷を負っている対象、症状のある保菌者及び無症候性保菌者を含むがこれに限定されるものではない、ヒト、ウシ及びその他の哺乳動物において、前記対象に請求項1〜20記載の組成物を有効量投与することにより、ブドウ球菌関連感染症を予防及び抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−501213(P2009−501213A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521037(P2008−521037)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/IN2006/000246
【国際公開番号】WO2007/007352
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(506226131)バハラ バイオテック インターナショナル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】