説明

ブラシ及びその製造方法

【課題】高強度で、保持具への高い取付強度が得られると共に、整流子片間を跨ぐ際に生ずる波形変動(リップル)を防止できるブラシを提供する。
【解決手段】加圧成形された導電性粉末で構成され、保持具6に取り付けられる係合部3や中間部22の厚さが、整流子と摺動接触する突条5や突条5が形成される前部21の厚さより厚く形成されると共に、係合部3や中間部22の前部21より厚さ方向上側へ突出する上突出部分と前部21より厚さ方向下側へ突出する下突出部分とにそれぞれ前後方向へ延びるV溝10が形成されるブラシであり、V溝10の形成で係合部3や中間部22の強度が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子面と摺動接触するブラシ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
整流子面と摺動接触するブラシとして、例えば図5、図6に示すブラシ1がある。ブラシ1は、略直方体形である基体2の背面中央に、基体2と同一厚さで基体2より幅狭である略直方体形の係合部3が上下方向へ一体的に延設されている。基体2の摺動面に相当する前面には、上下方向へ延びる断面視弧状の凹溝4が2箇所に形成されていると共に、各凹溝4の両側、即ち、左右と中央の3箇所に、略同一間隔を開けて上下方向へ延びる突条5が形成されている。前記突条5の内、中央の突条5は断面視山形であり、左右両側の突条5は断面視で前記中央の突条5の山形の半分の形状になっている。
【0003】
また、ブラシ1の保持具6の先端箇所には係合孔7が形成され、係合孔7の左右両側には保持片8がそれぞれ起立して形成されており、ブラシ1は、その係合部3を保持片8の起立側と反対側から係合孔7に係入され、係合孔7から突出した係合部3が左右両側からバネ状に当接する保持片8・8で保持されることにより、保持具6に取り付けられる。
【0004】
そして、保持具6で保持されたブラシ1は、摺動接触部である各突条5を整流子面9と摺動接触する。前記構成では、ブラシ1の整流子面9との摺動接触部を幅が細い突条5とすることにより、摺動接触部の接触面積を小さくして接触圧を高め、整流不良の発生を防止している。
【0005】
尚、特許文献1には、ブラシ摺動面の左右両側に摺動接触部として突条を形成し、前記突条の接触により、摺動接触部の接触面積を小さくして接触圧を高め、整流不良の発生を回避するブラシが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−100411号公報(2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ブラシが整流子片間を跨ぐ際に波形変動(リップル)を生ずることが知られており、波形変動は、ブラシ1の摺動接触部の厚さ(図5(d)の上下方向に相当)を薄くすることで低減することが可能である。しかし、ブラシ1全体の厚さを薄くすると、ブラシ1自体の強度が低下する、係合部3の厚さが薄くなって保持片8で保持される面積が減少し、ブラシ1の保持具6への取付強度が低下する等の不具合が生ずる。そのため、高強度で、保持具への高い取付強度が得られ、且つ波形変動を防止できるブラシが求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、高強度で、保持具への高い取付強度が得られると共に、整流子片間を跨ぐ際に生ずる波形変動(リップル)を防止することができるブラシ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のブラシは、保持具に取り付けられる後部の厚さが、整流子と摺動接触する摺動接触部及びその近傍の前部の厚さより厚く形成されることを特徴とし、摺動接触部及びその近傍の前部の厚さを薄く、後部の厚さを厚くするものである。前記ブラシは、例えば厚さが異なる前部から後部へ厚さが急激に増加する構成等とするが、好ましくは、前部と後部との間に前部から後部へ厚さが漸次増加する中間部を設ける構成とすると、応力集中を抑制して一層強度を高められるので好適である。
【0010】
更に、本発明のブラシは、加圧成形された導電性粉末で構成され、後部の前部より厚さ方向へ突出する突出部に前後方向へ延びる溝が形成されることを特徴とし、より好ましくは、後部の前部より厚さ方向上側へ突出する上突出部と厚さ方向下側へ突出する下突出部とにそれぞれ前後方向へ延びる溝が形成される。尚、突出部は上側若しくは下側の一方だけに設ける構成とすることも可能である。
【0011】
前記突出部の溝は、例えば断面視略V字形或いは略U字形等で、ある程度の幅を有するものとし、又、前記溝の深さは、突出部の突出長さと略同一の深さか、或いは前記突出部の突出長さより若干浅い程度の深さとすると好適である。更に、前記溝は、例えば上突出部に一条など突出部に一条設ける構成以外に、例えば上突出部と下突出部にそれぞれ平行な二条、三条など複数条の溝を設ける等、突出部に複数条の溝を設ける構成としてもよい。更に、突出部の突出長さは、例えば上突出部と下突出部のそれぞれの突出長さを0.5mm以上とする等、0.5mm以上とすると良好である。
【0012】
また、本発明のブラシの製造方法は、保持具に取り付けられる後部の厚さが、整流子と摺動接触する摺動接触部及びその近傍の前部の厚さより厚く形成され、後部の前部より厚さ方向へ突出する部分に前後方向へ延びる溝が形成されるブラシの製造方法であって、ダイ孔に導電性粉末を充填し、該後部の溝に対応する位置に形成された突条を有する上パンチ若しくは下パンチ若しくは上下パンチを用いて、該ダイ孔内の導電性粉末を上パンチ及び下パンチで加圧成形する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ブラシの摺動接触部及びその近傍の前部の厚さを薄くすることにより、ブラシが整流子片間を跨ぐ際に生ずる波形変動(リップル)を防止することができ、他方に於いて、後部の厚さを厚くすることにより、ブラシ自体の高強度を確保し、且つ保持具への高い取付強度を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、ブラシ後部の厚さが厚いままで摺動接触部や前部の厚さを薄くするものであるから、前部と後部の厚さが厚い従来のブラシに用いていた保持具をそのまま本発明の保持具として使用することができる。従って、本発明のブラシ用に新たな保持具やそれを製造するための金型等の製造設備を設ける必要がなく、小型モータ等の低コスト化に資する。
【0015】
また、本発明は、前部と後部とで厚さが異なる所要強度のブラシを、後部の突出部に前後方向へ延びる溝を形成することにより、切削加工等を要さずに、導電性粉末の加圧成形で得ることができる。即ち、ダイ孔の導電性粉末を上下パンチで加圧する際に、前記溝を設けない場合には、厚さが異なる前部と後部の圧力差により、クラックが発生する、薄い前部の密度が高くなる一方で厚い後部の密度が低くなって強度が低くなるという問題を生ずるが、前記パンチの突条で溝を形成しながら前記圧力差を抑制することにより、クラックの発生などブラシの損傷を防止できると共に、厚い後部の密度を増加して強度を高めることができる。更に、切削加工等の別途の整形加工を行わずに、加圧成形で前部と後部の厚さが異なるブラシを得られることから、効率的な製造工程で且つ低コストでの製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のブラシ及びその製造方法の実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態のブラシ1は、図1、図2に示すように、厚さが薄い略直方体形の前部21と、前部21と同幅で、前部21の後端から後方へ向かってテーパ状に漸次厚さを増加する側面視略台形の中間部22とで構成される基体2を有する。中間部22の背面中央には、中間部22の背面と同一厚さで基体2より幅狭である略直方体形の係合部3が上下方向へ一体的に延設され、係合部3は後部に相当する。
【0018】
前部21の摺動面に相当する前面には、上下方向へ延びる断面視弧状の凹溝4が2箇所に形成されていると共に、各凹溝4の両側、即ち、左右と中央の3箇所に、略同一間隔を開けて上下方向へ延びる突条5が形成されている。摺動接触部に相当する前記突条5の内、中央の突条5は断面視山形であり、左右両側の突条5は断面視で前記中央の突条5の山形の半分の形状になっている。
【0019】
係合部3と中間部22は、前部21より厚さ方向の上側に突出する上突出部分と、前部21より厚さ方向の下側へ突出する下突出部分とを有し、前記上突出部分と下突出部分には、それぞれ前後方向へ延びる正面視V字形のV溝10が前記突出部分を貫いて形成されている。V溝10の深さは、係合部3や中間部22の前記上突出部分や下突出部分の突出量に対応する深さになっており、V溝20の底部は前部21の上面や下面と略同一平面内に位置するようになっている。尚、V溝10の開口端の幅は例えば係合部3の幅の略半分程度とし、V字の切込角度は例えば30度〜80度程度とする。
【0020】
また、図2に示すように、ブラシ1の保持具6の先端箇所には係合孔7が形成され、係合孔7の左右両側には保持片8がそれぞれ起立して形成されており、ブラシ1は、その係合部3を保持片8の起立側と反対側から係合孔7に係入され、係合孔7から突出した係合部3が左右両側からバネ状に当接する保持片8・8で保持されることにより、保持具6に取り付けられる。
【0021】
そして、保持具6で保持されたブラシ1は、摺動接触部である各突条5を図に省略した回転する整流子の整流子面9と摺動接触する。
【0022】
上記ブラシ1は、ブラシ1の突条5や突条5が形成された前部21の厚さを薄くすることにより、ブラシ1が整流子片間を跨ぐ際に生ずる波形変動(リップル)を防止することができる。更に、係合部3や中間部22の厚さを前部21より厚くすることにより、ブラシ1の高強度を確保し、且つ保持片8による保持面積の確保等で保持具6への高い取付強度を得ることができる。更に、既存の保持具6に取付可能であるから、低コスト化に資する。
【0023】
次に、上記ブラシ1の製造方法について説明する。
【0024】
ブラシ1を製造する際には、例えば図3に示すダイス101と上パンチ103、下パンチ104を用いる。ダイス101の中央に設けられたダイ孔102、及び上パンチ103、下パンチ104の平面視の外形形状は、ブラシ1の平面視の外形と同一形状であり、また、上パンチ103と下パンチ104の押圧面には、ブラシ1の中間部22に対応する傾斜面や、V溝10を形成するための山形の突条105が形成されている。
【0025】
そして、ダイス101のダイ孔102に下方から下パンチ104を挿入して所定位置で固定し、下パンチ104の押圧面を下面とするダイ孔102内に上側から導電性粉末を充填する。前記導電性粉末には、適宜のものを用いることが可能であり、例えば銅、アルミニウム、錫、銀、鉄、ニッケル等の金属粉末と、カーボンブラック、天然黒鉛、コークス類等の黒鉛粉末とに、合成樹脂類などのバインダーを加え、更に必要に応じて二硫化モリブデン、窒化硼素などの潤滑剤を加えて混連し造粒したものを用いる。
【0026】
その後、上方から上パンチ103をダイ孔102に挿入し、図4に示すように、ダイ孔102内に於いて、上パンチ103の押圧面と下パンチ104の押圧面で導電性粉末を加圧成形する。前記導電性粉末の加圧成形では、加圧成形体1aの前部21の厚さが、後部に相当する係合部3や中間部22の厚さよりも薄くなっているため、通常は、加圧によって、薄い前部21の導電性粉末の密度が高く、厚い係合部3や中間部22の導電性粉末の密度が低くなり、密度差に起因するクラック等の損傷が生じたり、強度が低下する。しかし、本製造方法では、上パンチ103、下パンチ104の押圧面の突条105で加圧成形時に加圧成形体1aにV溝10を形成することにより、V溝10の両側に位置する厚い係合部3や中間部22に導電性粉末を寄せて密度を高めることが可能であり、前部21の導電性粉末の密度と係合部3や中間部22の導電性粉末の密度を平準化する、換言すれば加圧成形体1aの各部により平準化した圧力を加えて成形することができる。従って、密度差に起因する損傷の発生や強度低下を防止することができる。
【0027】
その後、前記加圧成形体1aをダイ孔102内から取り出して焼成し、ブラシ1を完成する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えばOA機器等で用いる小型モータのブラシ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は本発明の実施形態のブラシの正面図、(b)は同図(a)のブラシの平面図、(c)は同図(a)のブラシの側面図、(d)は同図(a)のブラシの背面図。
【図2】(a)は本発明の実施形態のブラシを保持具に取り付けた状態を示す側面図、(b)は同図(a)のブラシ及びその周辺領域の平面図。
【図3】本実施形態のブラシを成形するダイス及び上下パンチの斜視説明図。
【図4】(a)は図3のA方向から視たブラシの成形状態を示す断面図、(b)は図3のB方向から視たブラシの成形状態を示す断面図、(c)は図3のC方向から視たブラシの成形状態を示す断面図。
【図5】(a)は従来例のブラシの正面図、(b)は同図(a)のブラシの平面図、(c)は同図(a)のブラシの側面図、(d)は同図(a)のブラシの背面図。
【図6】(a)は従来例のブラシを保持具に取り付けた状態を示す側面図、(b)は同図(a)のブラシ及びその周辺領域の平面図。
【符号の説明】
【0030】
1 ブラシ
1a 加圧成形体
2 基体
21 前部
22 中間部
3 係合部
4 凹溝
5 突条
6 保持具
7 係合孔
8 保持片
9 整流子面
10 V溝
101 ダイス
102 ダイ孔
103 上パンチ
104 下パンチ
105 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持具に取り付けられる後部の厚さが、整流子と摺動接触する摺動接触部及びその近傍の前部の厚さより厚く形成されることを特徴とするブラシ。
【請求項2】
加圧成形された導電性粉末で構成され、後部の前部より厚さ方向へ突出する突出部に前後方向へ延びる溝が形成されることを特徴とする請求項1記載のブラシ。
【請求項3】
後部の前部より厚さ方向上側へ突出する上突出部と厚さ方向下側へ突出する下突出部とにそれぞれ前後方向へ延びる溝が形成されることを特徴とする請求項2記載のブラシ。
【請求項4】
保持具に取り付けられる後部の厚さが、整流子と摺動接触する摺動接触部及びその近傍の前部の厚さより厚く形成され、後部の前部より厚さ方向へ突出する部分に前後方向へ延びる溝が形成されるブラシの製造方法であって、ダイ孔に導電性粉末を充填し、該後部の溝に対応する位置に形成された突条を有する上パンチ若しくは下パンチ若しくは上下パンチを用いて、該ダイ孔内の導電性粉末を上パンチ及び下パンチで加圧成形する工程を備えることを特徴とするブラシの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−204018(P2006−204018A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12874(P2005−12874)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000103585)オーパック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】